「イ_ア東部地方料理(10)」(2021年10月12日)

あるいはエビのブイヨンにニンニクを混ぜて爪肉にかけ、ココナツミルクを加えたトマト
ソースのかかったニョッキに組合せる。メインディッシュには、爪肉を詰めてレモンソー
スをかけたドーバーソールはいかが?

爪の肉だけを使ったのは、その部分だけが極上の美味であり、他の部分は美味でないから
というのが料理人の理由だった。ヤシガニは太平洋の島々から輸入されなければ手に入ら
ない食材であり、イタリアではたいへん高価のものだとシェフは語っている。


パプアのラジャアンパッRaja Ampat地区にあるカスアリ島でヤシガニの保護を自主的に行
っている住民に関するルポが2017年11月のコンパス紙に掲載された。動物保護民間
団体のバックアップを得てフランシス・ディマラさんが行っている個人活動だ。

かれは夜、大カスアリ島に出かけてヤシガニを捕まえ、小カスアリ島に運んで放す。小カ
スアリ島をヤシガニの放牧地にして繁殖させようという考えだ。無人の小さい場所のほう
が、不法採集者を監視するにははるかに容易であるにちがいない。

ある夜、フランシスさんがヤシガニ捕獲に出るときに、記者も同行した。懐中電灯だけを
頼りに、ヤシの木の周囲を調べる。大人の両の手のひらからはみ出るくらい大きなヤシガ
ニが光の輪の中に浮かび上がる。「こいつらのハサミはすごく強い。挟まれたら、指がち
ぎれますよ。」

フランシスさんはそう言いながら無造作にヤシガニをつかむ。「ああ、心配いりません。
わたしゃ、コツを知ってるから。」
捕まえたヤシガニをもてあそびながら、持って来た大きな袋に入れる。

確かに、ヤシの実を食べるヤシガニはそのハサミで樹にぶら下がっているヤシの実の茎を
切るばかりか、ヤシの実の殻を割るのである。大きいものは足の端から端まで1メートル
あり、体重3キロに達する。そんな身体でヤシの木に登って行くのだから、足の強さも相
当なものだろう。ヤシの木の高さが何十メートルになろうが、めまいを起こして落ちるこ
とはないようだ。


袋がいっぱいになったので、小舟で小カスアリ島に向かった。ほんの10分で到着する。
陸に上がると、かれは袋を開いてヤシガニをすべて開放し、ヤシの実を数個置いて帰途に
就いた。

「初めてこれを行ったのは2016年11月22日で、40匹を移しました。今夜の分を
入れて、275匹移したことになります。」フランシスさんは自宅に置いてある段ボール
の切れ端に行動記録を書き残している。

かれが初めてそれを行う前、かれもヤシガニを捕まえて売る住民たちのひとりだった。値
段が高い。大きさによるが、一匹で10万から30万ルピアが手に入った。ヤシガニの大
きいものは体長40センチ、体重4キロに達する。

フランシスさんが考えを変えたのは、親戚のダウド・ディマラさんに注意された結果だっ
た。ダウドさんはフランシスさんにこう語った。「われわれがヤシガニを捕まえて売るこ
とを続けていれば、われわれの子供や孫はヤシガニを食べるどころか、見ることすらでき
なくなってしまう。」

1999年政令第7号でヤシガニはF2ステータスの保護動物に指定された。飼育して2
世代目の個体に限って売買が認められるのである。フランシスさんの活動を支援している
コンサベーションインターナショナルは、小カスアリ島がヤシガニ保存飼育地区に指定さ
れるよう行政に働きかけている。西パプア州天然資源保存館もその計画に賛同しており、
法制化への努力が続けられている。[ 続く ]