「イ_ア東部地方料理(15)」(2021年10月20日)

沿岸部にもサツマイモ・キャッサバ・ウウィ・タロイモの混植畑はある。ただ、沿岸部は
サゴが豊富に生えていて、しかもブッシュミートもあれば魚もたくさん獲れる。食糧とい
う面から見たとき、沿岸部ははるかに豊かな食材が手に入る地の利を抱えている。高地部
とは芋類への依存度が大幅に異なっているのである。サツマイモ栽培に技術革新が生まれ
る必然性がどちらにあったのかは一目瞭然だろう。大まかに区分するなら、沿岸部の食は
サゴと魚、高地部の食はサツマイモと豚と言うことができるかもしれない。


ジャヤウィジャヤ県バリエムBaliem渓谷は平均気温が15.2℃、平均湿度が78パーセ
ントで、沿岸部に比べてたいへんにしのぎよい。アソロコバル地区のヘプバ部落を201
3年12月にコンパス紙取材班が訪れた。ヘプバ部落はフブラ族の集落だ。パプア高地人
が昔から伝統的に行っている石焼調理法を取材したのである。

集落の中のイリアナ・ウェティポさんの家の脇の土地に深さ70センチほどの穴が掘られ
ている。穴のそばで薪を使って石が焼かれた。イリアナさんの姑にあたるマリア・ロコバ
ルさんが先の割れた木の棒を使って焼けた石を穴の壁に添って積み重ねていく。マリアさ
んの妹のマグダさんは山のように抱えたロコップ、シシカ、ジェレカなどの葉を、熱い石
に寄り添わせて葉の層を作り、食材が直接石に触れないようにする。それらの準備が完了
すると、多種多彩なサツマイモを中に入れ始めた。それが終わると、こんどは皮がついた
ままのトウモロコシを隙間にどんどん詰め込んでいく。

食材を全部入れ終えたら、上からロコップの葉をまた山のように置いて穴にふたをした。
更にバナナの葉を置き、塩と植物油をたっぷりと注ぐ。ところが、それはまだ終わりでな
かったのである。更に大きなバナナの葉を置いたあと、プラスチックや布のボロ切れなど
で穴の開口部を完全に密封してしまったのだ。中の熱が外に放出されないための対策だ。
食材と石の間に木の葉の層を作ったのは、食材が焦げないようにするためだけでなく、食
材に味を付けるためでもある。あとは一時間ただじっと待つだけで、その間にすることは
何もない。三人の女性石焼料理人はさっさと家の中に入ってしまった。


取材班に付き添っていたマリアさんの夫のフェリー・アッソさんが怪訝さと期待のあい半
ばした記者たちの顔を見て、笑いながら言った。「とても美味しいフプルを食べましょう。
バカルバトゥbakar batu(石焼)はいつもコメの飯より美味しい食べ物をもたらしてくれ
る。石焼をするときは、必ずサツマイモが豚あるいは他のものと一緒に焼かれるのです。」
家の横の土地で行う石焼は日常の食事のためのものだ。その日はイリアナさんが食事当番
を担当した。別の日には部落の別の家が食事当番になる。そんな日常生活の中で行われて
いる石焼と、儀式のための石焼は内容が異なっている。

成人や結婚の祝い、あるいは新しく畑を開く時などに部落で石焼の儀式が行われるのだ。
穴を掘るのは必ず部落内の定められた場所になる。豚を2頭丸焼きにするため、直径2メ
ートルほどの大きさの穴が掘られる。その時に木の葉の層に使われるのはロコップとルカ
タだけで、他の葉を使ってはならない。そしてその饗宴には部落の全家族が集まることに
なっている。

できた食べ物を穴から取り出す時に、慣習に従った祈りが捧げられ、祖霊との交信がなさ
れる。すべての食べ物に熱が通って全員が美味しく食べられるときは万事が良好なのであ
り、参加者の全員が幸福に酔いしれる。ところが、中の一部が生や半生の状態であれば、
それは部落の共同生活の中で何かが間違っていることを祖霊が教えているのだ。そのとき
部落の全員が、どんな間違ったことがあったのかを真剣に考え、思い出そうと努めるので
ある。間違ったことは必ず見つかるとアッソさんは言う。


一時間経って、三人の女性が家から出て来た。穴の様子を見てから、穴の掘り起こしにか
かる。穴を覆っていたものをすべて外すと、熱と共に食材の焼けたおいしい香りが立ち昇
ってきた。すると、部落のひとたちが続々とそこに集まって来た。[ 続く ]