「ジャワ島の料理(13)」(2021年11月22日) おまけに白飯にかけられる味の付いたアレッすら、甘味が加えられているのだ。アレッは 白飯にコクと旨味を与えるものであり、グドゥッ愛好者はアレッの美味しさをグドゥッ選 択の指標のひとつにしているため、アレッの美味しい店にはリピート客が訪れることにな る。ヨグヤカルタのグドゥッ食堂はまず例外なしに、アレッに砂糖を使う。砂糖が入って いなければ、ヨグヤ人は美味しいと思わないのだから。 ところがソロ人が作るグドゥッは、ヨグヤのものほど濃い茶色をしていない。ソロのグド ゥッは甘さでなく旨さを追及しているのだとかれらは言う。ソロ人がヨグヤカルタ料理は 甘いと言うのだから、本場のグドゥッの甘さときたら実にたいへんなものなのかもしれな い。非ジャワ人であるわれわれは、そのソロとヨグヤの論争を五十歩百歩という皮肉な目 で見ていればよいのかもしれないが・・・。 ヨグヤで作られるソトブニンにはヤシ砂糖が加えられて、茶色がかったブニンになってい る。ソロで作られるブニン汁は滅多に砂糖が使われず、塩味と肉のコクを味わうものにな っている。 いずれにせよ、中部ジャワで料理に不可欠な素材となったヤシ砂糖は、サトウキビ由来の 砂糖に置き換えることができない、とジャワの料理人は口をそろえて言う。ジャワ料理が 伝統の中で確立されてきた歴史において、常に調理場にあったのはヤシ砂糖なのであり、 サトウキビから作られる白砂糖やグラニュー糖はずっと後の時代にジャワ人の調理場にも たらされたものなのである。だからヤシ砂糖の代わりに白砂糖を使うと、伝統的ジャワ料 理の風味が崩れてしまう結果になる。 そうは言っても、白砂糖を使う便利さには勝てず、ジャワの多くの家庭ではヤシ砂糖より も白砂糖が使われる方が増加している。伝統的ジャワ風味を味わいたいジャワ人は自ら、 定評ある料理人がいるレストランや食堂へ行かなければならない時代に差し掛かっている ようだ。 ヨグヤカルタとソロの風物詩のひとつに、アンクリガンというものがある。angkringとは 昔、物売が商品を天秤棒の前後に吊るし、その荷を担いで売り歩くスタイルを指す言葉だ った。それに接尾辞の-anが付いたangkringanは、そのスタイルやそれを行う物売り、あ るいはそのスタイルで売られる商品を意味した。アンクリンは本来ジャワ語だが、今では インドネシア語の標準語彙になっている。 言うまでもなく、アンクリン行為は重労働であり、現代人はもっと楽な方法を使うように なった。つまりgerobakと呼ばれる屋台に変化したのだ。グロバッの本来の語義は荷車や 台車などの、重量物を運ぶための車を意味している。それと区別するために昔はカキリマ 屋台をgerobak kaki limaと表現することが多かったが、今ではその必要もなくなったよ うに見える。いやそれどころか、既にカキリマ屋台という言葉すら風前の灯火になってい て、アンクリガンという言葉に置き換えられそうな勢いが感じられる。 夜間に食べ物を作り売りする屋台はヌサンタラのあらゆる町に存在する。決してジャカル タやヨグヤ・ソロだけにあるものではない。そのあらゆる町に存在する屋台は、グロバッ カキリマが標準インドネシア語彙であり、ヨグヤ・ソロとその周辺の諸都市に限って地場 表現のアンクリガンの語が好んで使われていた。ヨグヤ・ソロのひとびとがカキリマ屋台 を天秤棒物売という言葉で呼んだ裏側には、天秤棒物売がいつの間にか同じ場所に屋台を 置いて陣取るという変化が印象深かったためではないだろうか。 結局、グロバッカキリマという言葉は今や古語の世界に向けて急速に遠ざかっているよう に見える。それに代わってアンクリガンという言葉がイ_ア語インターネットの中では全 国的に、すい星のごとくきらめいているようだ。[ 続く ]