「ジャワ島の料理(18)」(2021年11月29日)

その砂糖ラッシュ時代にスラカルタとヨグヤカルタは都会になった。ヨグヤカルタではマ
リオボロ通りにホテル・レストラン・パン屋が店開きして都会の態をなした。たくさんの
人々がそのふたつの都会を訪れ、働き、住んだ。そしてサービス産業がどんどん膨らんで
行った。特に鉄道がスラカルタとスマランを結んだことで、スラカルタはヨグヤをしのぐ
大都会になった。

そのようにして進展した西洋化の波の中で、ジャワ人が知った西洋料理は段々とジャワ風
の色に塗り替えられて行った。ジャワ人の文化融合精神は、感嘆に値するものかもしれな
い。

外からやって来る世界中のありとあらゆる文化産物に興味を持ち、それを受け入れて模倣
し、しかし中身は自分たちの文化に即すように手を加え、それをユニバーサルなものに磨
き上げていくジャワ人の性質が存分に発揮されて来たのが、食の世界ではあるまいか。


ヨグヤカルタというジャワ語オリジナルの地名を、英語読みのジョグジャカルタという発
音に合わせて自分たちも外国人と一緒になって使っているジャワ人の行動もその本性に根
ざしているようにわたしには思われる。

このような書き方をすると、現代インドネシア語正書法でYogyakartaと書かれる綴りの発
音法にヨグヤカルタとジョグジャカルタの二つがあると考える人間が出現するらしく、空
恐ろしい結果がわたしの脳裏をよぎるのだが、インドネシア語のyoもyaも読み方はヨとヤ
しかない。ジョとジャの音を表記する現在のインドネシア語正書法はjoとjaである。

オランダ植民地時代にヨグヤカルタをオランダ人はJogjakartaと綴ってヨグヤカルタと発
音していた。オランダ語の発音表記法がそうなっているのだ。イギリス人がその綴りを英
語式にジョグジャカルタと発音したから、インドネシアの地名としてアルファベット綴り
のJogjakarta(ジャワ語発音はヨグヤカルタ)がひとつあるだけなのに、オランダ語式と
英語式のふたつの発音が世界中に流通するという結果がもたらされたのである。

律儀な国民性であれば、外国人の間違った発音を自分たちも一緒になって使うことは多分
しないだろう。真面目一徹な民族性を持つ外国人は、ジャワ人も自分たちと同じ性癖であ
るにちがいないと想像して、ジャワ人がジョグジャカルタと言っているのだからそれが正
しい地名であると信じ込むにちがいあるまい。しかしそのジャワ人は、ジョグジャカルタ
が正しい発音であると信じている外国人に気まずい思いをさせないように、同調している
だけかもしれないではないか。


ジャーナリストのアンドレアス・マルヨト氏は、ジャワの食には世界諸文化の虹がきらめ
いている、と述べている。近年、折に触れてインドネシア各地に出現する民族の多様性に
対する不寛容の傾向は、ジャワの食卓に見られない、とかれは言う。

世界の諸文化が交錯する十字路だったヌサンタラだから、やって来た世界中の諸文化がさ
まざまな食べ物や料理や調理法を地元民に紹介した。ジャワ人には、それに目を閉じ口を
ふさぎ、拒否し排斥する理由はなにもなかった。それが他者を受け入れる寛容さと和合を
結果としてもたらしたのだ。

4世紀ごろ、南インドからたくさんのインド人が移住して来た。インドと中国を結ぶ海上
交通路が開かれると、中国の商船も頻繁にやって来た。インドネシアに産するスパイス類
の需要がヨーロッパで高まると、アラブ人が訪れた。更にはヨーロッパ人自身がやってく
るようになり、さまざまな文化がヌサンタラに足跡を印したのである。[ 続く ]