「ジャワ島の料理(22)」(2021年12月03日)

「舌を欺くことはできない」ということわざがある。アヤムカンプンとパパヤの葉にサン
バルトラシをつけて温かい飯と一緒に食べたいと望んでいる舌をあやしながら、「I am 
what I eat」とふんぞりかえっている自尊心ばかり優遇して来た人格が、とうとう崩れ始
めたのかもしれない。

それをつなぎとめようとしてフライドチキンが白飯を付けてアヤムゴレンもどきになって
も、それ以上の決定的な対策はファーストフード界になかったようだ。

だからと言って、インドネシア人はKFCやマックに飽きてしまったという結論をこの文
から引き出さないで頂きたい。それらの店は相変わらずたくさんの客で混雑しており、商
売が陰っているわけでは決してないのだから。多様性は社会を豊かにする。社会が貧しい
のは単なる経済問題でなく、社会が人間の生き方の多様性を尊重し切っていないというイ
デオロギー問題でもあるのだ。


ソロ・ヨグヤの王宮料理があまり出て来ないうちにルンピアの方に話が飛んでしまったよ
うなので、また王宮に戻ることにしよう。と言っても、これは王宮料理を供するレストラ
ンの話だ。

王宮の厨房で行われていることはそう簡単に一般公開されるものでないし、また公開した
としてもあまりにも複雑な調理法が行われていてだれもが容易にまねできるものでもなく、
おまけに食材の中に稀で高価なものが含まれているから、もどきが作れたとしてもススフ
ナンやスルタンの口に入っているものと同じかどうかは確信が持てない。

王の妃たちが王の寵愛を得ようとして競って美味な料理を作った話に至っては、競争相手
である他の妃にまねされてはまったく意味がないために、かの女たちの厨房はもっと厳し
く秘密が守られていたそうで、だからそんな料理の名前を付けたもどきを王宮近辺で売り
出せば、どこかに火の粉が降りかかるようなことになるやもしれない。

だったら王宮料理を供するレストランも所詮もどきではないのかと言われそうだが、王宮
料理と銘打ったレストランは必ず王宮の人間が関わっていて、本物に触れる機会を十分に
持っている立場のひとびとが関与しているだけに、もどきのレベルは常人に及びもつかな
いものになっている。


ヨグヤカルタにあるBale RaosとGadri Resto、ソロにあるOmah Sintenが王宮料理を供す
る三つのレストランであり、王の食事メニューにあるアピタイザー・メインコース・デザ
ート・飲み物・菓子など百種類超を客に供することができる。

ヨグヤカルタ王宮内マガガン区域にあるバレラオスを訪れたコンパス紙取材班は、歴代の
王のお好み料理をトライした。ハムンクブウォノ7世が好んだsanggar、8世のlombok 
kethok、9世のgecok ganem、そしてタフテンペバチュム、パパヤ葉のオセンとナシメラ。
飲み物にはgajah ndekemとbir jawa、デザートの甘味には7世が好きだったperawan kenes。
いやプラワンクネスはあくまでも食べ物の名称だ。


もともと、王宮の厨房には書かれたレシピがなく、すべてが口承で伝えられてきた。バレ
ラオスのジェネラルマネージャー、スマルトヨ氏は自分のレストランのメニューを学ぶた
めに、王宮で開かれる儀式に頻繁に出席して饗宴に親しみ、また料理の好きな王族貴族や
王宮料理人と親しくなって交友の中でさまざまなレシピを習得してきた。

たとえばロティジョッのトップ料理人はスルタンハムンクブウォノ8世の弟の令息であり、
1970年代にはかれの作るロティジョッがヨグヤカルタ王宮界隈で絶賛を博していたそ
うだ。[ 続く ]