「ジャワ島の料理(23)」(2021年12月06日)

19時半にレストラン内で鐘の音がひとつ響き、たくさんの料理が続々と運ばれてきて食
卓に並べられた。これがサンガルです、とウエイターのひとりがそのひとつを指して言う。
その皿には、5片の牛肉の切り身が2枚の竹片にはさまれ、サヤインゲンで縛られたもの
が載っている。とろける濃いココナツミルクに覆われた焙り肉の香りは垂涎ものだ。

牛の腿の後ろ側から取られたその脂肪のない肉は、噛むと口の中でくずれた。肉を焙ると
き、ブンブを加えたココナツミルク(つまりアレッ)が塗られる。乾くと、その上にまた
アレッを塗る。肉が十分に焙られるまで何度も上塗りされるから、アレッはたっぷりと肉
の中にしみこむ。

ロンボッケトッは茹でて柔らかくした牛肉をトウガラシの細切れと一緒に炒めたものであ
り、ナンキョウの香りが豊かだ。ヤシ砂糖とケチャップマニスで甘味が加えられている。
ゲチョッガヌムはブンブを加えた牛のひき肉をうずら卵の大きさに丸めて蒸した料理で、
ソースにアレッがかけられている。このソースは甘味と辣味がほどよく混じり合い、しか
もブリンビンウルと青トマトの酸味がさわやかさをかきたてる。口の中で噛むと崩れてコ
リアンダーとクミンの風味が広がった。

それらの特選メニューが民衆食であるパパヤ葉のオセンとグヌンキドゥル産の赤米を炊い
たナシメラで供される。どうして民衆食がここに?「それはハムンクブウォノ10世の王
妃グスティ・カンジュン・ラトゥ・ヘマスGKR Hemasのお好みだから、王宮のメニューに
入っているのです。」とバレラオスのジェネラルマネージャー氏が解説した。

いよいよ待望のプラワンクネスの登場だ。半割で蒸されたサババナナpisang kepokを竹片
ではさみ、アレッがかけられてから火であぶられたものがその乙女だった。まるでサンガ
ルのような作り方をされたおやつがこのプラワンクネスだったのである。料理が得意だっ
たハムンクブウォノ8世のこの創作メニューのいったいどこが、その名をスルタンの脳裏
に浮かべさせたのだろうか?


ヨグヤカルタ王宮の西側ロトウィジャヤンにあるガドリレストのオーナーは、スルタンハ
ムンクブウォノ9世の子息であるグスティ・ブンドロ・パゲラン・ハルヨ・ジョヨクスモ
GBPH Joyokusumo氏の妻ブンドロ・ラデン・アユ・ヌライダBRAy Nuraidaさんだ。ヌライ
ダさんは東カリマンタン州バリッパパンで生まれ育った一般庶民のお嬢さんで、王宮の王
子様であるジョヨクスモ氏に見初められ、妻になって王宮に入った。かの女は子供のころ
から自分は王子様のお嫁さんになるんだと思っていたそうで、夢をわが身に引き寄せた数
少ない強運の主だったようだ。

ガドリレストは1984年に現スルタン、ハムンクブウォノ10世の実弟ジョヨクスモ氏
がオープンした。父君ハムンクブウォノ9世がまだ存命中のことだ。1916年にジャワ
様式で建てられたこの建物はレストランになる前、スルタンの副官官舎として使われてい
た。

この建物内は王宮の由緒ある家具調度や相伝品が置かれた博物館にもなっていて、王宮内
の雰囲気を濃く漂わせている。ハムンクブウォノ10世が生まれたベッドもこの博物館の
中に置かれている。

ガドリという名称は、ジャワ様式住居の中の客を迎える表に対して家族が集う裏を意味し
ている。ガドリには台所・食堂・居住者の部屋・居住者が集う空間・ペットや愛好する趣
味を楽しむ場所などがあり、居住者のひとりひとりが生きることを愉しむスペースである
とも言える。

きわめて特徴的なガドリレストは諸外国の著名人にも評判を取っていて、これまでにキャ
リントン卿、スティ−ブン・セガ―ル、デイヴィッド・ボウィなどがヨグヤの王宮料理を
味わいにやってきたそうだ。[ 続く ]