「ジャワ島の料理(45)」(2022年01月10日)

軽食なら、tahu gejrotがある。タフグジュロッはチルボンの原産なのだが、今ではジャ
カルタやバンドン、スラバヤをはじめジャワ島全域に広まっていて、各地で風味に多少の
バリエーションが加えられているようだ。この軽食にはスムダン産の豆腐を使うのがホン
モノなのだそうだ。

まず豆腐は20分間、小さじ1杯の塩を溶かした湯冷ましに浸ける。それを揚げてタフゴ
レンにする。冷めた揚げ豆腐は細かく切って皿に盛る。ニンニク・赤バワン・トウガラシ
・チャベラウィッ・ヤシ砂糖・塩・タマリンドの汁・ケチャップマニス・水をよく混ぜて
一煮立てしてから冷ましたソースを豆腐にかけ、バワンゴレンを振りかけるとできあがり。
甘辛く酸っぱいソースの魅力がファンの舌を踊らせる。

素焼きの皿に盛り、客はヤシの葉脈を乾燥させたlidiで豆腐を刺して口に運ぶのがタフグ
ジュロッの妙味だと言われている。


チルボンの異名はエビの町の他にワリの町kota waliというものがある。ここで使われて
いるワリはwali sangaワリソ~ゴのワリと同義であり、イスラム布教に尽くした聖人を意
味している。チルボンがジャワ島におけるイスラム布教の震源地であった事実がその異名
をもたらしたのだろう。スナングヌンジャティの墓所はジャワのイスラム教徒にとって名
高い参詣地になっている。

チルボンのイスラム布教者たちの食事として作られた料理にdocangというものがある。布
教者たちが好んで食べた料理なのだそうだ。流布している話として、こんなものがある。

ワリソ~ゴがチルボンにいるのを嫌った王子のひとりがワリたちの毒殺を謀ってこの料理
を饗した。チプタラサ大モスクに集まったワリたちに毒入りのドチャンが出されたのだが、
ワリたちは「これは旨い」と言って全員がそれをたいらげてしまった。毒に苦しむ者など
ひとりも出なかった。それ以来、チルボンにいるワリたちの間でドチャンを好んで食べる
習慣が作られた。

このドチャンはロントン・ヤシの果肉フレーク・シンコン葉・ニラ葉・モヤシ・クルプッ
を深めの皿に置いて、その上からダゲ汁kuah dageと呼ばれるoncomスープをかけたものだ。
オンチョムとは豆腐の作りカスであるオカラ、ヤシ油を搾ったあとの果肉カス、ピーナツ
から油を搾ったカスなどの廃棄物を加工して作った食品だ。

たとえばチアウィのあるオンチョム生産者はこのような作り方をしているとのことだ。ピ
ーナツのカスを12時間水に浸け、オカラを加えて蒸してから冷ます。それにテンペを作
るときの酵母菌を加えて発酵させる。

ダゲ汁とはそのオンチョム・ニンニク・赤バワン・トウガラシ・チャベラウィッ・バンウ
コン・バジル・ネギ葉・塩砂糖・コショウ・サラム葉・スレーで作ったスープである。今
では、チルボン市内のたいていのワルンにこのドチャンのメニューがあり、イスラム布教
をしなくとも、だれでも気軽に食べることができる。この肉気のない料理を朝食に食べる
ひとが多い。


チルボンを訪れたら、土産物はバティックもよいが、さまざまな食品が土産物として売ら
れているので、いろいろ試してみるのも一興だろう。トラシはきっとトップ人気にちがい
あるまい。クルプッウダンも当たりはずれのない選択だ。だがエビだけでなく塩魚の干物
もいろいろある。ikan asin jambal roti, ikan bilis kering, ikan kakap kering, ikan 
bulu ayam, ikan remang。

クルプッもエビだけでなく魚もあれば、キャッサバ粉で甘しょっぱく作った黄・赤・緑の
色付きクルプッになっているkerupuk melaratという代物もある。これは砂の上で加熱さ
れるからムララッと呼ばれるのだそうだ。あるいはモチ米を素材にしたrengginang。ルン
ギナンは英語でthick rice crackerと呼ばれている。

中華文化の影響を受けたものとしては、マンゴとナツメグのmanisan。マニサンとは砂糖
漬けにした果実で、防腐剤はまったく使われていないのに9カ月くらい持つ。またチルボ
ンの中華系住民タン・チェッ・チューが生み出した歴史的なシロップSiroop Tjap Buah 
Tjampolayがある。[ 続く ]