「ジャワ島の料理(46)」(2022年01月11日) この「チャンポライの実印のシロップ」はタン氏が夢の中で味わったおいしい飲み物を再 現して1936年7月11日から生産を始めたものだ。かれは夢の中で体験したその味の 再現に努め、最終的に西ジャワの山中に生えているチャンポライの実でその味の実現が可 能であることを発見し、生産を開始したのである。このチャンポライの実はチルボンのひ とびとにsawo walandaつまりオランダサウォと呼ばれていたものだ。 シロップは純粋の氷砂糖が使われ、サッカリンはまったく混入されなかったから、ビンを 開けて使い始めると、ひと月ほどで砂糖の結晶がついたそうだ。味のバリエーションは最 初ローズ・オレンジ・パイナップルの三種類だけだったが、孫の代になってバリエーショ ンが9種類に増やされた。 このシロップは全国的に高い人気を集めていて、特に断食月にムスリムが断食明け飲み物 として好んで飲んでいる。一日の生産量は1千2百本で、生産品は全国諸都市の取扱い点 に送られている。カルフルやアルファマートに行けばあるという話だ。 変わった土産物としては、teh pociがある。テポチというのは、ちょっと大きめの茶色い 焼き物の急須(ポチ)に、ちょっと濃いめに香茶を作り、やはり同質の湯呑に氷砂糖を入 れ、その上から急須の茶を注いで砂糖を溶かしながら飲むものだ。テポチについての詳細 は拙作「トゥガルのモチ」三分載 http://indojoho.ciao.jp/2020/0722_2.htm http://indojoho.ciao.jp/2020/0723_2.htm http://indojoho.ciao.jp/2020/0724_2.htm をご参照ください。 おつまみに最適なemping、粒トウモロコシを潰して揚げたklitik、辣味のキャッサバせん べいencrod、魚の皮を揚げたkripik kulit ikan jambal roti等々、チルボンの土産物も この町の規模にしてはたいへんに豊富なのである。 ジャワ島西部地方はSundaと呼ばれ、ジャワ島の他の地方と異なった種族文化を持ってい る。東部から中部にかけての種族がジャワ人と自称するのに対して、スンダ人はジャワと いう概念を自分たちの所属しない異世界と見なしていて、ジャワ島に住んでいながら自分 たちはあたかもジャワの外にいるような感覚を示す。 わたしがジャカルタに住み始めたころ、周囲のプリブミが「ジャワへ行く」「ジャワから 来た」といった表現をすることに驚かされた。ここはジャワ島なんだから、みんなジャワ にいるではないか。それをあたかも別の島にいるような表現をするのはどうしたことか? スンダはジャワでないというコンセプトがそこに流れていることを、しばらくしてから理 解した。スンダ人に言わせればきっと、この島はスンダ島だと言うだろう。確かに大スン ダ列島のひとつの島なのである。 典型的なスンダ人と典型的なジャワ人は見た目が違っており、文化の違いが性質や振舞い にも反映されていて、別種族という印象が濃厚だ。ヌサンタラの諸種族はオーストロアジ ア系とオーストロネシア系のどちらかが優勢なケースが多いそうだが、ジャワ人もスンダ 人も、そしてバリ人もその混じり具合はほぼ同等であるという話だ。だからジャワ人とス ンダ人の違いは住んだ場所で発展した歴史が作り出したものではないだろうか。でなけれ ば、移住して来たルートや時期が異なり、その移住過程中に取り込んださまざまな要素が 違いを作り出したのかもしれない。[ 続く ]