「ジャワ島の料理(48)」(2022年01月13日)

西ジャワ州と中部ジャワ州の境界線がスンダとジャワを隔てる文化境界線だ。とはいえ、
中部ジャワ南部のバニュマス地方はスンダ人が多いし、西ジャワ北岸のチルボンからイン
ドラマユにかけてはジャワ文化の浸透が強くてハイブリッド文化地帯になっている。

スンダ語を母語にしている地域は西ジャワ地方からバンテン・ジャカルタ・インドラマユ
〜チルボンを除いた部分になっている。ジャカルタはジャヤカルタ誕生からバタヴィアと
なってブタウィ文化地域になり、独立インドネシア共和国の首都ジャカルタになってから
もコスモポリスとしてスンダ文化が単なるワンノブゼムになった形が続いている。現在の
ジャカルタ人はヌサンタラにまれなインドネシア語を母語とするひとびとなのだ。

チルボンとインドラマユはチルボンの歴史が示す通りで、チルボンがチャンプラン文化の
都市となり、スンダの王権から独立した地域になって言語がジャワ化したことがその現象
を生んだと思われる。またバンテンはチルボンの飛び地になったのだから、チルボン文化
がバンテンを覆ったにちがいあるまい。


食の関連でスンダとジャワの違いを見るなら、スンダ人は砂糖を入れないで紅茶を飲むヌ
サンタラに稀有な種族なのである。ジャワ人が甘い料理や飲み物を好むのは、既に見てき
たとおりだ。甘くない茶やコーヒーを飲んでいるひとがいると、昔ならジャワ人はそこに
貧困や吝嗇の臭いを嗅いでいたのではないかとわたしは思う。

スンダ人はまた、ありとあらゆる植物を生野菜として食べる、これまたヌサンタラに珍し
い種族なのだ。概してヌサンタラでは肉食崇拝心理が一般的であり、貧しい時には臓物を
食い、功成り名遂げたら肉を食らう、という文化が普通になっているように見える。かれ
らの中には、食物連鎖の最高位にいるのは人間であり、肉を食らうのは最高位者としての
尊厳を示すものという思想を漂わせている種族もある。その論理に従えば、植物は家畜に
食われるものであり、人間がせっせと植物を食っていては最高位者の地位が空席になるで
はないかということになるのだろう。そんな観念の下では、植物を食うのは最低限にとど
め、肉をたくさん食うことがヒューマニズムになってしまう。

いや、スンダ人がベジタリアンだと言っているわけでは決してない。スンダ人もたくさん
肉料理のメニューを持っているし、おまけに種々の淡水魚もかれらの食のバラエティの中
にたっぷりと含まれていて、食材の種類の豊富さではヌサンタラでトップグループにいる
のはまちがいあるまい。実はこの謹厳質朴なるスンダ人こそがヌサンタラでトップクラス
の食のエピキュリアンではないかという声もあるのだ。

植物に関連する食についてのスンダ人とジャワ人の違いを、ジャワ人は薬用植物をジャム
ゥにするが、スンダ人は飯のおかずにして食べていると論評するひともいる。エピキュリ
アンの面目躍如が大いに感じられる話ではないだろうか。


生野菜にかぎらず、スンダ人は野菜を貪欲に食べるのである。スンダ人が食べる野菜は、
キャッサバ・パパヤなどの葉やサラダ菜等の葉菜類のように葉を食べるもの、ウコンやバ
ンウコンのように塊根や塊茎を食べるもの、パパヤ・キュウリ・イヌホウズキなどのよう
に未熟な若い実を食べるもの、コスモスやトーチジンジャーのように花を食べるもの、ナ
ンカやプテのように種を食べるものに区分される。

それらを生食あるいは熱を加えて食べる。熱を加える場合、ただ茹でたり蒸したりする方
法と、ブンブを加えた料理として食べる方法に別れる。カンクン・キャベツ・ハヤトウリ
・ニガウリ・ナンカなどを湯がいたものをそれぞれそのまま食べることもすれば、それら
を合わせてピーナツ・トラシ・ヤシ砂糖・ニンニク・チャベラウィッで作ったピーナツソ
ースをかけてロテッlotekという料理にして食べることもする。

長豆とイヌホウズキを主役にする種々の生野菜にニンニク・バンウコン・バジル・トラシ
・トウガラシ・塩・砂糖のブンブをかければカレドッkaredokになるし、バジルを抜いた
同じブンブをキュウリの細切れにかければルチュreuceuhになる。[ 続く ]