「ジャワ島の料理(49)」(2022年01月14日)

スンダ人の家庭では、小さいころから子供に野菜を食べることを教える。その中に、生野
菜を生で食べることも含まれている。バンドン在住のある主婦の回顧談によれば、最初は
カンクン葉・キャッサバ葉・ゲンジェル葉を湯がいたものやキュウリから始まった。gen-
jerは日本でキバナオモダカと呼ばれている。

そして子供が野菜に慣れてくると、生野菜の生食がスタートする。子供に食べやすいもの
から始められるようだ。その子がおとなになって生野菜の生食にもっと興味を深めると、
非スンダ社会の一般常識として食べ物と見られていないものまで、野菜食の実践は進んで
いく。

その主婦は既にアドバンスコースに達しており、コスモスの葉やカシューナッツの木の葉、
ウコンの葉なども生食しているそうだ。


生野菜の生食をインドネシア語でlalapと言う。スンダ語の綴りはlalabだ。調理されたお
かずと飯の付け合わせとして食卓に出て来るケースが多いのだが、散歩しているときに木
や草の葉をちょっとつまんで食べても、それはやはりララップと呼ばれる。

食卓で生野菜と言われると、ついついサラダを連想してしまいそうになるが、ドレッシン
グなどは一切使われず、本当に生の野菜だけになっていて、せいぜいサンバルを付けて食
べるくらいだ。ブンブをたっぷり使ったおかずと飯だけではスンダ人の口と腹が満足でき
ないことをこのララップが明白に示している。


オランダ人オシェ博士Dr JJ Oscheとバックハウゼン・ファン・デル・ブリンク博士Dr RC 
Backhuizen van der Brinkが1931年に出したIndische Groentenと題する書物に、ス
ンダ人がララップにして食べる植物の詳細が記された。この書物はバイテンゾルフで出版
されたが、後にアムステルダムでVegetable of Dutch East Indiesというタイトルの英語
版が出されている。

オランダ領東インドの有用植物紹介は盛んに行われ、1927年にはハイネ博士Dr Heyne
がDe Nuttige Planten van N.I.を、1933年にはクロッペンバーグ=フェルステーフ
夫人J Kloppenburg-VersteeghがAtlas van Indische Geneeskrachtige Plantenを世に送
っている。それらの中に、スンダ人がララップにしていた植物もいろいろと記されている
のである。

スンダ人は庭・畑・田のあぜ道・森林などに生えている植物の葉や実をララップにしてき
た。つまり天然自然に生えている野生の植物を食べて来たということだ。そんな植物を家
の垣根や庭に植えておけば、いつでもララップの素材が手に入る。mangkokan, kastuba, 
petai cina, katuk, puring, bluntas, kedondong cinaなどがしばしばその目的のために
使われている。

バンドン工大のウヌス・スリアウィリア生物学教授は1986年に、ララップ素材が70
種類あることを発表した。しかし更なる調査が継続されて94種類に増やされた。ところ
が調査領域をどんどん広げていった結果、2000年にはスンダ人のララップ素材が20
0種にも上っていることが明らかにされたのである。地方によって植生が異なれば、バン
ドン周辺にない植物が数百キロ離れた土地で食べられていることはありうるにちがいない。
200種の中には、新芽や若葉が食されているものが60種を超えていた。


スンダの地をスンダ人はTatar Sundaと呼ぶ。意味はスンダランドだ。高原と山地の多い
スンダの地の民をオランダ人は最初山地ジャワ人Berg Javanenと呼んだ。そこからスンダ
の地をJawa gunungと呼ぶ表現が生まれている。いずれにせよ、雨が多く豊穣で肥沃な土
地は植物にとって絶好の環境を形成して来た。杖を土に突き立てておけばそれが樹になる、
とまでスンダ人は言う。西ジャワにある植物種は3,882種であり、中部ジャワ2,5
81、東ジャワ2,717と比べて段違いの豊富さを誇っているのだ。[ 続く ]