「ジャワ島の料理(50)」(2022年01月17日) バンドン県の茶農園へ行くと、かつて若かった茶摘み娘たちが昼食時に家から持参した弁 当を広げ、周囲にある茶の葉を摘んでララップにしている。茶の木に生えている葉を摘ん で農園から持ち出すのは禁じられているから、このララップはここでしか食べられないの だとかの女たちは言う。 種々の揚げ物・卵焼き・ジャガイモのバラド・茹でトウモロコシ・クルプッ・サンバル、 そして飯。そこに茶葉のララップが加わる。茶の若葉は柔らかく、サンバルを付けて食べ ると辣味と苦みがほどよく混じり合う。 1990年代後半から2000年代にかけて、スンダレストランの全国進出が活発化した ことで、ララップ食がインドネシアの民衆の間に一般化した。自然への回帰意識が影響し たのかもしれない。メニューはたいてい淡水魚ikan masやguramiなどのペペスやゴレンや バカル、ikan asin jambal, ayam, oncom, sayur asamなどが主流を占め、付け合わせと して必ずララップが卓上に置かれた。おまけにララップは無料サービス品であるのが普通 だった。 スンダの外の諸都市にオープンしたレストランの間に、スンダ地方農村部の雰囲気を漂わ せることに努めた店も少なからずあった。中には、その都市の郊外部で広い敷地を使い、 池を掘って淡水魚を放し、周囲に素朴なsaungを並べて客を食事させるところもあった。 サウンとは水田地帯の中に建てられる壁のない小屋で、屋根とそれを支える柱と高い床だ けがある。屋根はわらや枝葉で葺かれ、本物のサウンは床上無一物だが、レストランでは 低い机が置かれて客はレセハン式で食事した。 2013年7月22〜23日にコンパス紙R&Dが全国12大都市住民569人に対する 電話インタビューで集めた、お好きなスンダ料理の統計がある。その首位を占めたのはサ ユルアスムだった。 sayur asem 21.6% pepes ikan mas 14.8% siomay/siomai 9.1% karedok 6.9% batagor/tahu goreng 6.7% その他 23.7% スンダ料理は嫌い 17.2% その他で括られてしまったスンダ料理は25種類もあった。 ジャワ島の諸都市住民は一様に、自分の町でスンダ料理のワルン・食堂・レストランは容 易に見つけることができる、と述べている。 サユルアスム/サユルアサムはスンダ料理だと言われているのだが、今では全国どの地方 へ行こうが地元風にアレンジされたサユルアサムがワルンのメニューに入っていて、スン ダ料理と言われると戸惑うようなありさまになっている。 しばらく前にバニュワギのnasi tempongがソスメドの話題になっていた時期、バリ島で人 気のナシテンポンを看板にしているワルンに誘われ、わたしはサユルアサムを一緒に注文 して食べた。そのときわたしの脳内にはスンダのスの字も浮かんでこなかった。 サユルアサムのアサムはタマリンドのことだ。サユルを野菜の意味でしか理解していない ひとが時おり見受けられるが、料理名としてのサユルは肉ブイヨンに水とブンブと何かの 野菜(そして肉も)を加えて煮込んだスープや汁料理を指している。 食堂でナシゴレンを注文すると、ときどき「サユルはどう?」と勧められることがある。 店員はサラダやララップを勧めているのでなく、汁料理やスープを勧めているのだ。「サ ユルはいらない。」と言いながらグライやトンセンを頼むと足元を見られかねないから気 を付けたほうがよい。[ 続く ]