「ジャワ島の料理(51)」(2022年01月18日)

スンダやブタウィのサユルアサムは汁の透明感が高いが、スマトラのサユルアサムは脂気
たっぷりで濁っている。南カリマンタンではタマリンドでなくテルンアサムterung asam
というローカルの酸味野菜が使われる。スンダでないジャワ人のサユルアサムはたいてい
辣味が強く、しかもスンダ人のように飯とサユルを別の器に盛って交互に食べず、ひとつ
の皿に飯とサユルと他のおかずをチャンプルして食べるひとが多い。

サユルアサムの具は長豆・トウモロコシ・ハヤトウリ・ピーナツ・ムリンジョ・ナス・ナ
ンカ・ブリンビンウルなどたいへん多種のものが入っていて、はじめて食べるひとはきっ
と驚くだろう。ムリンジョの実はあのンピンemping melinjoを作る原材料だ。その実の種
が潰されてンピンになっているのである。サユルアサムに入っている実も種を取り出して
殻を外せば食べることができる。 


ペペスイカンマスは鯉のペペスだ。ペペスとはスンダ地方特有の淡水魚調理法で、ブンブ
といくつかのスパイスを魚に塗り、バナナ葉に包んで蒸してから火であぶり、水気がなく
なるまで加熱する方法で作られる。今では淡水魚ばかりか、海産魚・エビ・豆腐・オンチ
ョム・キノコなどさまざまな食材がペペス方式で調理されている。

ペペス料理は葉にくるまれていて中身が見えないから、他人を騙すのに格好の小道具にな
る。そこから転じて、中身があるように他人を目くらましさせ、いざ包装を開いてみたら
中には何もなかったということの表現にpepesan kosongという言葉がしばしば使われる。
「○○大統領の公約はペペサンコソンだ。」といった表現だ。「あなたの約束はいつもペ
ペサンコソンだからねえ。」などと言われるようなら、約束という言葉は避けるに越した
ことはない。なにしろjanjiというインドネシア語自体が嘘という暗意を含んでいるのだ
から、始末に負えない。

タシッマラヤの東側に隣接しているチアミスに、ペペス料理で定評のある食堂ワルンジュ
ルッがある。現在の店主のお婆さんが1958年にオープンしたこのワルンはさまざまな
食材をペペスで料理するから、世間に稀な食材のペペスもあって客の舌と口を大いに楽し
ませてくれる。

グラミやニラム、レレやイカンマスなどの淡水魚からアヤムカンプン・タフ・キノコ、ヤ
シ油の搾りカスであるガレンドgalendoを使ったダゲdageに至るまで、実に多様なペペス
が注文できる。ペペスはこの店の創始者にとって家庭料理であり、家族の毎日の食事の中
で重要な食べ物だった。ペペス料理を自家薬籠中のものにして極め尽くした人物の手が生
み出した調理技法とレシピが世間に認められたことを、このワルンの繁盛が示しているよ
うだ。

おいしいペペスの秘訣は、バナナ葉に包まれた食材とブンブを炉の下のまだ熱い木灰の中
に入れてじっくりと熱を加えていく点にある。おいしい焼き芋の調理法と同じなのである。
この調理法では出来上がりまでに7〜8時間もかかるが、水気の無くなった食材は軟らか
く、そしてブンブの味覚がたっぷりと浸透し、焼けたバナナ葉の香りがしみついて、最高
の風味と味覚が愉しめるのである。

しかし客が続々とやって来るワルンでそんな作り方をしてはいられない。ワルンジュルッ
ではスンダでhawuと呼ばれている薪の炉を使って加熱する。その方が石油コンロやガスコ
ンロよりも低温加熱ができるからだ。高温加熱で蒸されたペペスは、ハウで蒸されたもの
と明らかに風味が異なっている、とワルンジュルッ店主は述べている。

ワルンジュルッの厨房を覗くと、グラミの切り身とブンブをバナナ葉にくるむ作業が行わ
れていた。客が詰めかけて来てテーブルに陣取る食堂の下にある厨房で、実に手早くその
作業が行われている。バナナ葉を二枚、少しずらせて左手に持ち、そこにグラミの切り身、
ネギ葉・トマト・スレーが置かれる。包まれたペペスは同僚に渡される。同僚はリディで
バナナ葉の包みの端を突き刺して留める。その留め方が、バナナ葉の中身が何であるかを
示す暗号になっているのだ。グラミの場合は両端にそれぞれリディが二本使われる。子持
ちのニラムは、包の中央部もリディを二本使って留める。ナマズなら中央部のリディは一
本だ。イカンマスの場合は両端が二度折りされている。

客が自分の好みに合わせて注文したさまざまな食材がそれぞれバナナ葉に包まれ、四つあ
るハウの上で二時間加熱される。どの包の中身が何であるのかがウエイターに分からなけ
れば、それを運んだ先の客のテーブルで大騒ぎが始まることだろう。[ 続く ]