「ジャワ島の料理(53)」(2022年01月20日)

タフゴレンは言わずと知れた揚げ豆腐であり、バタゴルは本名をbakso tahu gorengと言
う。サワラの身とキャッサバ粉を練ったバソを豆腐の中に包んで揚げたものがバタゴルだ。
これもバンドンが原産地とされている。


スンダにもnasi liwetがある。スンダのナシリウッも基本的には味の付いた油飯だ。だが
スンダ人の創造性が実用性を付加し、実用主義をシンボライズするものになった逸品もあ
る。たとえばタシッマラヤ県シガパルナ郡にあるプサントレン「チパスン」ではナシDS
と名付けられたナシリウッがユニークなメニューとして作られている。

プサントレンとはイスラムの教義に従って生活する塾であり、少年青年たちが塾で起居し
ながらイスラムの教えにしたがった生活の実践と生きることに必要な知識と技術を師から
学ぶのである。男子塾は男ばかりの生活共同体になるため、食の問題もおのずと実用主義
的になり、そんな中に生まれたナシDSは男の料理と呼ばれるにふさわしいものになって
いる。DSはdeungeun santriの頭字語で、スンダ語ドゥグンはおかずを意味している。

サントリはプサントレンで学ぶ塾生を指し、広い意味でイスラム学習者を指すこともある。
プサントレンチパスンの昼食時、5人の少年たちとアチェップ・ノール師は大きな平籠の
上にバナナ葉を敷いた器に盛られた大量の飯を囲んでレセハン式に座った。テーブルはな
い。飯の上には人数分の塩漬けサバ。サンバルは別の小皿にあり、また茹で野菜がもうひ
とつの皿に盛られている。

みんなは自分の座の前のバナナ葉にサンバルと野菜と魚を置き、飯の山から手づかみでナ
シDSを取って口に運ぶ。オンチョムの混じった飯から旨味と爽やかさが漂ってくる。

サントリのひとりがDSの作り方を説明した。kastrol鍋に水と米とブンブを入れて火に
かけ、炊きあがる前にオンチョムを加えて混ぜる。そして炊き上がりを待てばできあがる。
鍋で一回炊けばそれだけですべてが終わるのだから、これほど実用的な食事の用意は他に
あるまい。

カストロル鍋は持ち手とふたのあるつぼ型の鍋で、飯炊き釜として使われることもしばし
ばだ。インドネシアのカストロル鍋はたいていアルミ製であり、ナシリウッ用として売ら
れているものが多い。


カストロルでナシリウッを作ることは、プサントレンばかりか男所帯ならどこでも行われ
ている。たとえばスンダ地方の郊外部にある田畑で収穫が行われたとき、雇われた農業労
働者たちが夕方のんびりと集まって休憩している場面で、かれらの周囲に鍬や金てこと一
緒にカストロル鍋が置かれているのを目にする機会は少なくない。

かれら季節労働者たちはその日泊る場所でナシリウッを夕食に作るのだ。カストロル鍋が
いかに役立つ器具であるかということを、かれらは知り尽くしている。建築労働者たちだ
って同じだ。一般的な作り方はこんなものだ。

鍋に洗った米と塩とココナツ油を入れ、サラム葉一枚とスレー一本を入れて火にかけるだ
け。あとは焦げ付かないようにときどき様子を見るだけでよい。炊きあがったら食べるだ
けだ。それに塩魚とトウガラシを添えれば、十分な食事になる。

ナシリウッはスンダ人の性格にぴったりの料理だとアチェップ師は言う。実質的現実的で、
飾らないありのままの自分に忠実で、起こって来る状況に自然体で取り組み、他人との対
等姿勢を維持しようとするスンダ人の性格にナシリウッの実用性はぴったり合っている。

ララップもそうだ。ララップを食べるスンダ人の習慣は、われわれを取り巻いている自然
に自らを対応させ、自然をそのまま利用することから生まれた。ああだこうだとややこし
いことなど何もしない。食べ方だって、実用性そのものじゃないか。

スンダ料理研究者は、太古のスンダ人が行っていた移動式焼畑農耕からナシリウッが生ま
れたと物語る。移動型農耕者は往々にして、家から遠い場所を切り開いて畑を作った。男
だけがそこへ行って何日も滞在しながら作業するのだ。男も自分で食事の用意をしなけれ
ばならなかった。簡潔で実質的な飯を作ろうとすれば、ナシリウッのようなのがもってこ
いだ。[ 続く ]