「ナシチャンプル(5)」(2022年04月05日)

[Nasi Kuning]
白米にウコンやスパイス類を混ぜてココナツミルクで炊いた脂飯が使われる。昔から祝祭
料理として供されてきた。大型の祝宴では、ナシクニン(黄色飯)が大きい円錐形に盛ら
れ、その周囲にさまざまなおかずが並べられる、ナシトゥンプンのスタイルになることも
ある。
宴の参加者は円錐形の山から黄色飯を削り取って自分の皿に置き、周囲のおかずの中から
食べたいものを同じ皿に載せてナシチャンプル状態にし、自分の席に戻って食べる。

[Nasi Lemak]
ナシルマッとはココナツミルクで炊いた脂飯のことである。普通はスパイス類を加えて味
が付けられる。白飯の代わりにこのナシルマッを皿の中央に盛り、その周囲に種々のおか
ずを配したナシチャンプル様式のメニューもナシルマッと呼ばれる。つまり飯の名称がメ
ニューの名称になっているのだ。メニューがナシチャンプルという言葉にされないで飯の
名称が使われた事実を見るかぎり、ナシチャンプルという言葉が盛り付け様式を意味して
いるにすぎないという本質をわれわれは思い出すことになるだろう。

ココナツミルクで飯を炊く調理法は東南アジアの至るところにある。ムラユ人はそれをナ
シルマッと呼ぶために、ナシルマッと呼ばれる飯も料理もスマトラのリアウ一帯からマレ
ーシア、シンガポールやブルネイにかけて存在している。マレーシア人はナシルマッを国
民料理としているそうだ。この脂飯とおかずをかれらは朝食に食べている。一般的なおか
ずは卵・小魚・キュウリ・サンバルだが、タフ・テンペ・鶏肉・イカ・エビなど食べたい
ものは何でも添えてかまわない。
ムラユ人がこの脂飯を朝食に摂るのは、昔早朝から水田へ出る農民や農園で作業する労働
者たちのための朝食として用意された習慣に発しているという説明になっている。そこに
体力を使うひとびとのための朝食という合理性が存在していたようだ。現代の頭脳労働者
が毎朝脂飯を食べることに関する健康上の批判も多々見受けられる。

[Nasi Guri]
[Nasi Gemuk]
同じようにココナツミルクで炊いた脂飯がアチェではnasi guri、ジャンビや南スマトラ
ではnasi gemukと呼ばれている。ナシグリもナシグムッもナシチャンプル様式で供される。
ところが、ジャンピやパレンバンにはまた別にnasi minyakと呼ばれる料理がある。ナシ
ミニャッはその名の通りminyak saminで炊いた混ぜご飯であるためにナシクブリとたいへ
んよく似ている。
ナシクブリやナシビルヤニは混ぜ飯として作られるのが普通である印象をわたしは抱いて
いるのだ。もちろんナシクブリの中には、脂飯だけを作ってナシチャンプル様式で供する
ことも行われていて、多分そのせいだろうか、それらをナシチャンプルと呼ぶひともいる
にはいるのである。しかしここでは独断と偏見をもって、それらをこのナシチャンプルの
項目に含めないことにした。脂飯の中に細切れのおかずが混じっているナシゴレン風のも
のをナシチャンプル様式のリストに加えれば、ダブルスタンダードになってしまうことが
危惧される。

ジャワ島では、脂飯の名称がまた異なるものになっている。ジャカルタではnasi udukと
呼ばれ、ジャワ島一般ではsega liwetあるいはnasi liwetと呼ばれている。ジャワ語のウ
ドゥッはムラユ語のルマッの意味だから翻訳語という理解ができるが、ブタウィ人はふだ
んジャワ語を使っているわけではないのだ。更に、ジャワ人が使うリウッは本来、米を茹
でて飯にする調理法を意味していて、ナシリウッを翻訳しても脂飯にならない。
ブタウィ人がジャワ語のウドゥッを使い、ジャワ人は脂の意味を示さないリウッを使って
いるという奇妙な関係をわれわれはそこに見出すことになる。[ 続く ]