「ヌサンタラのインド人(12)」(2022年05月12日)

その荒ぶる鬼神を滅ぼして地上に光を取り戻すよう、地上の秩序を司る諸神はブラッマ神
に要請した。しかしアスラはあまりにも強く、なみたいていの者が挑戦しても勝てる見込
みがない。ブラッマ神は言った。アスラに勝てる者はシワ神の息子だけだ。

ところがシワ神には妻がいない。ブラッマ神は性愛の神カマ神に依頼した。シワ神がだれ
かに恋するようにしてくれ。シワ神はパルワティ女神に恋し、しばらくして息子が産まれ
た。息子はシュリスブラマニアムと名付けられ、成人してアスラ退治に向かった。そのと
き、母のパルワティ女神は宝物である霊験あらたかな槍を息子に持たせた。アスラの討伐
を成し遂げたシュリスブラマニアムは全宇宙に光明と正義と繁栄を復活させたのである。
こうしてかれは後にムルガ神として民衆に崇められる神のひとりになった。


ヒンドゥの祭りはたいていが満月の日に営まれる。タイプサムも例外ではない。北スマト
ラ州に住んでいるタミル人が3千人くらい集まって来るこの祭りでは、グンダンとトゥロ
ンペッが賑やかな音楽を奏で、ひとびとは踊り、全身を串刺しにした男たちが苦痛に耐え
ながら大通りを歩く。苦行者はほとんどがタミル人だが、その中に華人にしか見えない者
が混じることもある。かれのプラナカン家系図のどこかに華人女性が混じったにちがいあ
るまい。

そんな昼の部に続いて、このタミル文化の祭りでは満月の下で夜のパレードが行われる。
シュリマリアマン寺院に鎮座しているムルガ神の像を、4人の男衆が担ぐ二本の角材の上
に載せて、神輿よろしく街中をねり歩くのである。

この祭りに参加するタミル人は、当日の15日前から断食を行わなければならない。タミ
ル式の断食は、太陽が沈んだときに一度、夜明け前に一度、一日にその二回だけ食事をす
る。夜中であっても、他の時間に食べてはいけない。ムスリムがラマダン月に行う断食と
似て非なるものだ。祭りに参加するというのは苦行のように祭りの中で何らかの役割を担
うことを意味している。見物だけする人に断食の義務はない。

夜中のパレードにジャワ人はクダケパンやレオッポノロゴを参加させ、華人はバロンサイ
をパレードに加えてお祭り気分を更に高揚させている。祭りを楽しむために集まってくる
市民や観光客は1万人を超え、夜の祭りは午前2時ごろにやっとお開きになる。タミル人
の祭りだからと非タミル人が無関心を決め込む様子はかけらもそこに見当たらない。イン
ドネシアの国是が実践されている姿が歴然とわれわれの目に映る。


メダン市からおよそ20キロ南にあるLubuk Pakamの町では、タミル人コミュニティがタ
イプサムとは異なるヒンドゥの祝祭Pangguni Uttiramを行っている。この綴りはインドネ
シア語でパングニウティラムと読まれる。英語の綴りはPanguni Uthiramと書かれるが読
み方は同じだ。音の表記法が言語ごとに異なっていることがそこに示されている。

インドネシア語記事によれば、それはムルガン神の誕生日を祝う日と説明されているのだ
が、タミル語情報を翻訳したと思われる英語ウィキの説明では、シワ神とパルワティ女神、
ムルガン神とディヴァナイ女神の結婚を祝う祭りと書かれている。更にまた、その日はタ
ミル暦の年末月の満月の日であり、翌月がタミル暦の新年正月になるのだそうだ。

この祭事は罪の赦しを求める者や誓いを神に認めてもらいたい者が、ルブッパカムのタミ
ル寺院シュリテンダユダバニから1キロほど離れたブシ川でみそぎをし、戻り道を苦行を
しながらパレードするのがハイライトになっている。[ 続く ]