「ヌサンタラのお粥(12)」(2022年06月17日)

上で述べたように、カンジルンビはムスリムのその日の断食行を終えるブカプアサのため
の食べ物になっている。イスラムがインドや東南アジアに伝えらえて来たとき、断食とい
うきわめて重要な宗教の行が広まったのはもちろんだったが、断食行を終えるときの食べ
物の中に米粥が混じり込んだ。イスラム行の中に入り込んだ米粥という慣習の史的推移を
調べてみるなら、ひょっとして「粥はすべからく中国発」という思い込みに対する反証が
出て来ないとも限らない気がする。

ヌサンタラで、米でない素材のブブルはたいていが甘粥になっているが、塩気のものがな
いわけでもない。そのいくつかとして、次のようなものが挙げられる。

[Bubur Barobbo]
南スラウェシに住むブギス人のブブルがトウモロコシを使うこのブブルバロッボだ。トウ
モロコシの収穫期になると、ブブルバロッボが各家庭で食された。おかずにはトウモロコ
シのプルクデルが添えられるのが普通で、つまりはトウモロコシづくめになる。

粥に使われるトウモロコシの粒は粘り気のあるものが選ばれる。粘り気の少ないサラサラ
したものでは粥らしい粥にならないのだから、理の当然だろう。粥はまず鍋で水を沸騰さ
せ、そこにトウモロコシ粒とシナモンを入れて煮る。トウモロコシが軟らかくなったら、
炒めたブンブと鶏肉やエビの細切れを入れ、最後に野菜を入れて煮詰める。

ブンブに使われるのはコショウ・赤白バワン・ナツメグ・トマト・塩など。野菜はそれぞ
れの土地で容易に手に入るものが何でも使われる。白菜・ほうれん草・空心菜など、好き
好きにすればよい。

[Bubur Sagu]
サゴの樹のでんぷん質を取り出し、それを水に溶いて加熱した粥状の食べ物がこれであり、
現地語でpapedaと呼ばれている。パペダという名称が粥状のものを指しているのだから、
それをブブルパぺダと呼ぶ必要はないように思えるのだが、わざわざそう呼んでいるイン
ドネシア人も決して少なくない。

マルクからパプア一帯にかけてのインドネシア東部地方のサゴ文化圏では、伝統的にパペ
ダが主食の位置を占めていた。だから粥という語感が飯の変種という趣を持つインドネシ
ア西部地方のひとびとに向けて、パペダは粥ではないのだ、と語る論調が飛び出すことも
ある。論者の意図が、「粥」という言葉が持つ形態としての意味にあるのではないという
ことが理解できなければ、かれの論は馬耳念仏になってしまうだろう。

このパペダはサゴを直接ゼリー状の粥にしたものであり、地元民には炭水化物摂取の源泉
になっていた。サゴの樹からでんぷん質を取り出すための伝統的工法はたいへんに人間の
体力を消耗する作業であり、モダンな工法で作られるサゴ粉とは異なるものになる。伝統
的方法で作られたサゴは粥状にして食べるのがシンプルであるため、パペダというものが
自然とできあがったように思われる。

サゴ粥を食べるときは、マグロの切り身をライムの搾り汁とウコンその他の調味料で味付
けして作った黄色いスープを入れた皿に、まるで糊のようなパペダを入れ、その皿を口元
に持って来てすする。

黄色いスープはスレー・トマト・サラム葉・ショウガ・ウコン・ナンキョウ・ライム果汁
・コショウ・ニンニク・コブミカン葉・赤バワン・バジル・塩砂糖などのスパイスで作ら
れ、マグロやタイなどの魚が主菜になる。パパヤの花を炒めたり煮たりしてそれに添える
と、苦みが加わって食欲をそそる。[ 続く ]