「ヌサンタラの麺(16)」(2022年08月01日)

オタッコタッ、またはオタオタ、はサワラの魚肉とタピオカ粉あるいはサゴ粉とココナツ
ミルクを混ぜて練り、そこに赤白バワンとネギ葉をブンブとして混ぜ、それをバナナ葉に
包んで焼いたり蒸したりしたものだ。軽食として食べられることが多く、食堂では食卓に
常備されていて、注文した料理ができあがるまでの間の腹の足しにたいていの客が食べて
いる。

サワラの豊富なマラッカ海峡から南シナ海沿岸部にかけての一円でこのオタオタは、たい
ていどこにでも見られる郷土料理になっている。スマトラ島南部だけでなく、マレー半島
からシンガポール、カリマンタン島西岸一帯までその産地が広がっているのだ。今ではジ
ャワ島やバリ島でも普通に見られる軽食のひとつだ。


ムラユ人の中に、独自の素材で麺を作って来たひとたちがいる。リアウ州ベンカリス県ム
ランティ群島の中のトゥビンティンギ島を中心にする一帯に住むひとびとがそれだ。その
地域にはサゴの樹がたくさん自生しており、また栽培もされている。そこはスマトラ島の
サゴの豊かな地域のひとつになっているため、かれらは昔からサゴ粉を練って麺を作って
きた。サゴで作られた麺はmi saguと呼ばれる。

サゴの樹は東部インドネシアのスラウェシ・マルク・パプアにかけての一帯が主領域にな
っているとはいえ、ヌサンタラのあちこちに生えているものもあるので、それらの地域に
しかないと言うことはできない。ところが、サゴで麺を作るということをしたのは、どう
やらトゥビンティンギ島のムラユ人だけだったようだ。島の住民は昔からサゴ麺を主食の
ひとつとして食べていた。


トゥビンティンギ島ではたくさんの家庭がサゴ麺を手作りしている。サゴ麺はスマトラ島
のムラユ地域ばかりか、ムラユ半島部からシンガポールにかけて、またスマトラ島のムラ
ユ文化でない地方やジャワ島でもポピュラーな食材になっていて、リアウ州で人気のある
郷土産品のひとつに数えられている。そのおかげでトゥビンティンギ島にある村々の住民
はサゴ麺作りにいそしみ、それがかれらの経済活動における太い大黒柱にもなっているの
だ。

サゴ麺作りで有名なトゥビンティンギ郡バンラス村では、昔からサゴ粉と水で麺のドウを
作って来た。この村で作られるサゴ麺は防腐剤を使わず、また食用色素で白く染めたりも
しないから、見た目も濁った色をしていてあまり魅力的でなく、また日持ちしない。賞味
期限は製造後15日だそうだ。

乾季になるとサゴ粉自体の色が黒っぽくなってきて、製品もおのずとそれに応じた色にな
る。だがそのために味が落ちるということにはならない。ミーサグは小麦粉麺にくらべて
はるかに噛み応えがあり、滑らかなシコシコした食感が楽しめる。その特徴は外見と無関
係だとかれらは語る。

ある生産者は毎日30キロのサゴ粉を元にして50キロ分の製品を作る。人間が手作りし
ているのだから生産量は既に精いっぱいになっていて、容易に増やすことができない。麺
条を作るのに、1970年代までは包丁が使われていた。その後、手動の製麺機が使われ
るようになって、50キロのドウをすべて麺条にするのは3時間で終わる。

手動製麺機の刃は2カ月でダメになるとかれらは語る。ところが替え刃を売っている店は
この地域にひとつもない。だから生産者は二カ月ごとに新しい製麺機に買い替えているの
だそうだ。[ 続く ]