「ヌサンタラの麺(19)」(2022年08月04日)

最初は名前がなかったから、ひとびとはミーアンコ・チャウと呼んでいたそうだ。ところ
がだんだんとミークリンという名前がミーアンコ・チャウを指して使われるようになり、
他の町では一般名詞として使われるミークリンという言葉がマカッサルでは固有名詞に変
質してしまった。

1960年代にアンコ・チャウ氏の次男がミークリン一本槍のワルンを開いてMi Titiと
呼ばれるようになった。アンコ・チャウ氏が1988年に没すると、その娘のひとりが自
分のワルンをオープンして兄の後追いをした。このワルンはMi Antoという名前で呼ばれ、
そのふたつのワルンがマカッサルのミークリン専門ワルンとして有名になった。ミークリ
ンの発祥の地となったアンコ・チャウ氏のバリ通りにある食堂よりも子供たちの専門ワル
ンの方がはるかに有名になり、ミークリンを食べたいひとびとはたいてい専門ワルンを目
指すのが常だそうだ。

そのふたつの専門ワルンはそれぞれが特徴を出していて、麺の太さが違い、ブンブが違い、
シーフードの具の有無が違っている。炭火で作る点はまったく同じだ。

マカッサルのミークリンが人気を集めたことから、ミークリンをメニューに加える食堂や
ミークリン専門の作り売りワルンもたくさん出現している。今やミークリンはマカッサル
の食の世界で一角の地位を占めるものになっているのである。


世界中でもっとも頻繁に消費されている麺は多分、即席麺だろう。世界ラーメン協会WINA
は2018年の世界消費量を1,036億食と発表している。その年の世界人口が76億
人だったから、この地上にいるありとあらゆる新生児から瀕死の人間に至るまでの人間が
毎月1食強の即席麺を食べたことになる。これほどまで人類の食という分野に大きく貢献
したのだから、この日本で開発された食品が日本民族の発明史上における金字塔になった
ことは疑いあるまい。

国別に見るなら、世界最大の消費国は中国(香港を含む)になっている。それを追ってイ
ンドネシア、インドと続き、日本は残念ながら金銀銅を逸して錫になっているようだ。と
ころが2020年の国別データを見ると、ベトナムが一気に前年の3割増を記録してイン
ドを抜き、世界第三位に躍り出た。データ数値はこうなっている。
中国463.5億食、インドネシア126.4億食、ベトナム70.3億食、インド67.
3億食、日本59.7億食、米国50.5億食、・・・

そのそれぞれを2020年の国民人口で割ってみると、中国33.1、インドネシア46.
8、ベトナム72.5、インド4.9、日本47.4、米国15,3・・・という数値が
得られた。ベトナム国民は新生児から瀕死の人間に至るまで全員が毎週1.5食の即席麺
を食べていることになる。

ベトナムの2019年データも56.6という数値になっていて、どうやらこのトップグ
ループの中で年間一人当たりの即席麺消費量ナンバーワンの黄金冠はベトナム人の頭上に
輝いているようだ。

2021年の世界消費量は1,181.8億食で、中国は439.9億食、インドネシア
は132.7億食だったと別記事に記されていて、世界消費量のほぼ半分がその二国で占
められている。[ 続く ]