「グラメラ(2)」(2022年11月22日)

そこまでは、まあそれでもよいだろう。いったいいつからどこで始まったのか皆目見当も
つかないのだが、サトウキビ汁をニラと呼ぶことが始まった。そしてヤシ類の花から採れ
るニラと区別するためだろうか、素材の植物名をニラに付けて弁別するようになった。
nira enau, nira siwalan, nira kelapa, nira tebu .....というように。ニラトゥブは
明白なる語義の矛盾だ。

更に本来のニラから伝統製法で作られるグラメラと同じように、ニラトゥブから伝統製法
で作られた製品がグラメラやグラジャワと現に呼ばれているのだ。コンパス紙がその語法
でたくさんの記事を出しているのだから、半可通なネットライターの勇み足では決してな
いように思われる。


こうなると、インドネシアにおける砂糖の区分というのは製造プロセスと最終製品によっ
て仕分けされる二分類と考える方が妥当なのかもしれない。モダン製法によって大規模工
場で作られたグラトゥブとグラビッ、伝統製法による民衆産業として作られるグラニラと
グラトゥブの二区分であり、前者が大資本大量消費型の砂糖、後者は民衆産業弱小経済型
の砂糖というのがその特徴になるだろう。

グラメラはヌサンタラ各地にある在来パサルで円筒形や茶碗の底形に成形されて売られて
いる茶色い粉末砂糖のことだ。ただ、わたしが半世紀ほど前に仕入れた素材に関する知識
が今や崩壊してしまったから、わたしと同類の方は信じている知識を修正したほうがよい
と思う。元々グラメラとはヤシ類の花から採られたニラが素材であったのだが、今やサト
ウキビ汁もその素材に使われているのだ。わたしが抱いた印象では、ヤシ類のニラの大量
入手は困難でも、サトウキビ汁を使えば圧倒的な大量生産が可能になる。商業用に作られ
るグラメラにその原理が適用されないとは思えないから、パサルに並んでいるグラメラは
ヤシ類のニラで作られたものよりもニラトゥブで作られたもののほうが多いのではあるま
いか。素材のエキゾチックさをありがたがっていると足元をすくわれかねない不安がある。

粉末状の茶色い砂糖をヤシ類から作られたと思っているひとは、目から鱗を落としておく
必要があるのではないか?


ニラアレンなどのヤシ類の花から採った汁からグラメラを作る伝統的な製糖方法は、家内
工業でできる素朴なものだ。液体状のものが製糖作業場に持ち込まれるのだから、加熱作
業だけで済む。採られた汁は混じりこんだ不純物を除去してからすぐに加工される。時間
が経過すると発酵が始まり、品質が劣化するのだから。

炉の上に置かれた大鍋に液体を入れ、下から一定の温度で加熱する。温度が高すぎたり高
低したりすると良い結果にならない。液体が均一に煮詰まるよう常に監視し、適宜混ぜて
やる。この作業にたいてい4〜5時間かかるという記事もあれば、1〜2時間その作業が
行なわれると書いている記事もある。商業目的の作業場なら巨大な鍋が使われ、作業員が
スコップのような道具でかき混ぜることになる。煮詰まって濃度が増すと、かき混ぜ作業
にも力が入るようになる。煮詰まってくると表面に泡が出てくるので、泡を掬い取って捨
てる作業が加わる。

煮詰まったかどうかの確認は、まず桶に水を汲んでおき、そこに煮えた汁を垂らしてやる。
水に入っても溶けない状態になればできあがりだ。水に入ったら溶ける状態はまだ水分が
過剰なのである。

加熱工程が終わると、つぎに型に入れて冷ます。型は一般によく見られる円筒形あるいは
茶碗の底の形だ。覚めて固まればそれで完成。[ 続く ]