「餅(13)」(2023年01月26日)

蒸した肉まんじゅうはインドネシアでbakpaoあるいはbakpauという名前だ。肉包を福建語
式に発音したものだが、ただし喉を一度閉じる/k/の音を省略してbapao, bapauと発音す
るひとも多い。

販売者はたいていみんな、肉を使った塩味のものと緑豆粉の甘い餡の二種類を一緒に売っ
ていて、どちらもバパオと呼んでいる。種類を区別するためには餡の素材や味を言い添え
なければならない。言うまでもなく肉は鶏肉が使われているので、豚肉を使ったものが食
べたければプチナンへ行って探すことになる。


さて、「もち」のもうひとつ別のカテゴリーに当たるとされている「だんご」はどうだろ
うか?インドネシアの団子風食べ物にはどんなものがあるだろうか?

「だんご」という名前を付けられた日本の食べ物は最初、日本古来の神事でお供えに用い
られていたものであり、穀物を水に浸して柔らかくしてから搗いてジェル状にし、それを
熱を加えずに成形しただけのものだったそうだ。現代の団子は穀物の粉に水や湯を加えて
練ったものを丸め、蒸したり茹でたりして作る。素材の穀物の中にモチ米が包含されてい
るだけなのだから、「もち」の下位カテゴリーとして「だんご」を位置付けるのは、どう
も現物を見ないで「練り餅」という言葉だけを取り扱っているような印象が感じられてし
かたない。観念主義文化の面目躍如というところだろうか?

中国の唐から伝来した菓子の名前「団喜」がそれを呼ぶ際に使われるようになり、後に室
町時代になってから「団子」と書かれて発音も「だんご」として定着したというのが言葉
の由来に関する説明になっている。

粒米の入手が難しい地方では、古来からくず米を集めて団子形にしたものを主食にしてい
たケースもあるそうで、「だんご」がすべからく甘いおやつであるということでもなかっ
たらしい。


しかし中国語にも同じ字でトアンツーと発音する単語があり、米粉や小麦粉で作られた球
形の食べ物という定義が添えられている。語源が日本由来であると書かれている中国語ペ
ージが少なくないので、多分上で見てきた種々の食べ物とは事情が異なっているように思
われる。それはともあれ、この語源の解釈にわたしは疑問を抱いた。

これはトアンツーという語彙が球形の食べ物の名前として日本から輸入された言葉である
と解釈されるわけだが、もう一歩踏み込んで妄想するなら、そのふたつの漢字の組合せを
華人は発想したことがなく、日本人が食べ物の名称として作った漢字の組合せを見てはじ
めてそれがひとつの語彙になることを知ったという解釈も可能になるのではないか?


何を言っているのかというと、日本のだんごという食べ物の名称表記である漢字熟語が中
国に入ったとき、その言葉は何らかの意味を表す中国語のひとつとして以前から存在して
おり、そこにだんごという物品の意味が追加され、今ではその意味が優勢になっていると
いう可能性はないのかということだ。

つまり「だんご」という球形の食べ物が日本に由来しているのは疑いないのだが、現代中
国語の文字表記では「☆(☆=□の中にオ)子」と書かれる団子という漢字熟語それ自体
が本当に日本に由来したのかということである。華人のだれひとりとして「☆子」という
語彙を発想したことがなかったというのは、容易に信じられない話のようにわたしには感
じられるのだ。子という一種の接尾辞をあれほどたくさん使いながら「団」という文字に
ついてだけはだれひとりとして思いつかなかったとは・・・・


唐の長安で名物になった「煎堆jian dui」、別名を「◎(◎=録の金が石に替わったもの)
lu堆dui」と言う食べ物は、もち米粉や白玉粉をこねて団子にしてから中に餡を入れ、外
皮をゴマでびっしりと多い、それを少量の油で熱してゴマ団子にするもので、それが中国
南部地方に広まってから東南アジアに伝わったと解説されている。

一方、ゴマ団子でない日本風の普通のだんごもあって、こちらの方は「湯tang圓yuan」と
いう名称だ。タンユエンももち米粉や白玉粉をこねて団子にしてから中に餡を入れて茹で
る。油で加熱するバリエーションももちろんあり、タンユエンの方は肉を使う塩味の餡と
甘い餡の二種類があるようだ。チエントゥイに塩味肉餡のものがあるのだろうか?世間知
らずのわたしにはよく分からない。[ 続く ]