「ヌサンタラのドゥリアン(14)」(2023年03月20日)

虹色ドリアンの果肉は美味しく、しかもドリアンの臭みがなくてカラメルのようなソフト
な匂いになっている。果肉は果実の37%に達し、その比率は他のドリアン種を圧倒して
いる。タイのモントン種は30〜32%、ヌサンタラのローカル種ともなるとたいてい2
0〜25%程度であるそうだ。ドリアンが果実の王者だとするなら、このドリアンプラ~
ギは王様の頭を飾る王冠だ、とカリムは形容した。

果実は小さめで、果肉は1.5キロ程度であるため、ふたりで一度に食べきれる量だと言
える。モントン種だと3〜5キロになるから、大家族でない場合、果実を丸ごと買うと無
駄が出る可能性がある。


ドリアン財団はドリアンプラ~ギの開発に着手した。樹を繁殖させて実験栽培が行われ、
農業省に登録して国家認定を取得し、DNAを調査し、その特徴を徹底的に調べ上げた。
この樹は年二回結実し、別の樹からの受粉を必要とせず、一回の結実シーズンに百個を超
える実を作り、果樹は5〜6日間鮮度を保つことができる。

苗は各州にある園芸農園に配られて、全国各地で栽培が進められている。メダン・ヌヌカ
ン・バンカ・ボゴール・マグランではその土地によく適応しており、将来が楽しみである
とのことだ。


durian gajahと呼ばれるドリアンがある。これはドリアンの樹種に付けられた名称でなく
て、kopi luwakと同じカテゴリーに属すものだ。コピルワッがアラビカ種の豆であろうが
ロブスタ豆であろうがほとんど問題にされないように、象の排泄したドリアンが何の種類
であろうと、それによって価格交渉の行方が左右される雰囲気はまるで感じられない。

ドリアンガジャはマレーシアのジョホール州スガマッがメッカとされていて、インドネシ
アでの供給についてはまったく語られていない。スマトラのブンクルやカリマンタンにあ
るというネット内の情報はあるのだが、売っている場所の情報が得られないので、探しよ
うのない幻の商品ということになるだろう。

インドネシアでは、それらの可能性を持つ土地の住民が偶然の賜物として入手しているよ
うに思われる。都市の住民がたまたまその土地に行ったところで、果たして偶然の女神が
そう簡単に微笑んでくれるだろうか?象が出没する土地で、そこのドリアンシーズンに長
期滞在し、運がよければ口にできるかもしれない、というギャンブル的な要素に頼らざる
を得ないのではあるまいか。


ドリアンガジャは象が丸呑みしたドリアンが消化されずにそのまま排泄されたものに限ら
れ、ドリアンの殻が割れていたりすれば人間は食べることができない。殻が完璧なまま象
の消化器官を通過してくるなら、頑丈な殻のおかげで腸内細菌に汚染されることがなく、
一方その短期間にドリアンの内部に発酵作用が起こって、普通のドリアンでは得られない
薬用効果が加わるとされている。特に媚薬としての効用がもてはやされているのだが、科
学的な解明はまだなされていない。

ドリアンガジャの果肉にはドリアン臭と異なる強い匂いがあるそうだ。通常のドリアンよ
りもはるかに柔らかく、また色は象牙色になっている。肛門からドリアンガジャが出てく
るとき、それは草や葉にくるまれた大きなボールのように見える。つまりトゲは象の腹の
中でなくなってしまうということらしい。なんという気の毒な象さんたちだろうか。せっ
かくのドリアン果実を何個も腹に入れながら、摂取するのは外皮のトゲだけだなんて。

スガマッにはドリアンを食べた象を追いかけまわす人間がいるそうだ。かれはドリアンガ
ジャを回収するのが仕事であり、ドリアンを食べた象を見つけると、象の行くがままにそ
の後を追って排便するのを待ち受ける。象も食べるときは一個だけでないから、排泄する
ときは何個もボロボロと出てくるそうだ。それが世界最高の価値を持つドリアンガジャで
あり、一個当たり数万円の価格が付けられている。[ 続く ]