「ニニ・トウォッとジェランクン(2)」(2023年03月21日)

単なる霊界との交信ゲームとしてジェランクンが行われるのが一般的だが、将来起こるこ
とを教えてもらおうという目論見でこれを行う人間もいる。スハルト時代に盛んに行われ
た政府主催の宝くじの当たり数字を知りたいひとびとのために、かつては全国的にジェラ
ンクンが幅広く行われていた。

あるいは病気の人間の治療方法を尋ねるようなことにも使われるし、疫病が村を襲うのを
防いでもらいたい場合や、その他の災厄が村に降りかからないように願う場合もある。村
の運命にかかわる内容であれば、子供の遊びとは様相ががらりと異なって当然だ。


祈祷師の話によれば、人形に入った霊が異文化人であったり文盲であったりすると、期待
する反応が得られないことが起こるそうだ。確かに霊の姿は見えないし言葉も発しないの
だから、霊の本性を人間の五感で探知するのはたいへん困難だろう。ジャワ語での問答が
成り立たなければ、みんなの期待していた反応が得られないことは起こりうるにちがいあ
るまい。

あるとき大学生たちがジェランクン遊びを行ったとき、祈祷師の問いに対して英語の答え
が紙に書かれた。この霊はかつてX通り〇番地の家に住んでいた者で、交通事故で亡くな
ったという答えが得られた。

大学生たちは翌日X通り〇番地の家を訪れてその情報の真実性を確認しようとした。その
家に住んでいる年寄りは、確かに数十年昔にその家に外国人が住んでいて、その外国人は
交通事故で死亡した事実があったことを明らかにしたそうだ。

このジェランクンというのはつまり、特定の死者の霊魂を呼び出してその人物の生前の体
験話を聞く種類の降霊術とは違っていて、その遊戯が行われる場所にたまたま居合わせた
り、人間の遊びに付き合ってやろうとして招きに応じて寄って来る霊が対象であり、昔か
ら今日にいたるまで、現実にそれは霊体と戯れるゲームとして行われていた趣がたいへん
に強いように見える。果たして、人類の長い歴史の中でこのようなゲームは世界中に存在
していたのだろうか。


インドネシア語ウィキぺディアのJailangkungの項の説明の中に、ジャイランクン(ジェ
ランクン)の語源は中国の故事に由来していると思われるという記述があって、菜籃公と
呼ばれた人物の話がそこに結び付けられている。菜籃公の発音は次のようになるだろう。
北京語 cai lan gong
晋語 cai lan gung
ミントン語 chai lang gung
ミンナン語  cai lam kong
客家語 chhoi lam gung

中国語発音は大昔から現代中国語(北京語=マンダリン)だったと誤解しているひとが多
いように見えるのだが、西暦14世紀ごろまで中国文化の中心は中原にあり、北京の位置
する中国北部に国の中心が移ったのはそれ以後だったのである。おまけに北部で使われて
いた言葉が中国文化を代表する言語になるまでには、更に長い歳月を必要とした。

日本に伝わって漢字音読みになった発音はその古い時代に中原で栄えていたものだったの
だから、日本語の漢字音読み発音と現代中国語発音が違っているのは当然のことと理解し
なければなるまい。

北京語発音よりもっとインドネシア語のジャイランクンに似ている発音が上の5種の中に
ありそうな感じだ。菜籃公は福建省の人だったので、ヌサンタラに来た華人渡来者の大多
数を占める福建人の発音にもっとよく似たインドネシア語になるのが自然なようにわたし
には感じられるのだが、ミンナン語の音は果たして、ジャイランクンに一番よく似ている
だろうか?[ 続く ]