「ジャワ人の起源(終)」(2023年05月22日)

リジャラルガイブはもうひとつ人型を作ることにしたが、粘土は既にあらかた使い尽くさ
れている。だが創造主にはいくらでもやり方があるのだ。材料が足りない部分は他の物を
なぞって移すことにした。月の円形をなぞって丸い部分を作り、波打つ蛇の動きや巻きつ
く蔓植物、風に揺れる草の動き、ほっそりした竹の姿、花の香、葉の優しい動き、鹿のま
なざし、朝陽のぬくもりと喜び、風の素早さ、雨雲からあふれる涙、綿の柔らかさ、ひと
を驚かす鳥の羽ばたき、蜜の甘さ、孔雀の見映え良さ、燕の持続力、ダイヤモンドの美し
さ、クックッと鳴く鳩の声などをなぞって女の人型に取り付けた。そして仕上げに生命と
霊魂、そして精神・人情・嫌悪も吹き込んだ。

動き出した女を見て創造主は瞠目した。これまで自分が作ったものとは比べようもないほ
どすばらしい作品が出来上がったではないか。美しく、しかもバランスよく整った魅力の
強力さときたら・・・。創造主は地上で何かごそごそやっている男にこの女を与えて合体
させ、子孫繁栄に励めと命じた。


それから何日か経過したある日、男がリジャラルガイブに苦情しに来た。「神よ、あなた
がくれた女という生き物はわたしの暮らしにとって害毒です。のべつまくなしにしゃべり
続けてわたしの時間を全部取り上げるし、はっきりした理由もなしに嘆いたり不平を言う
のです。おまけにいつもどこかが痛いと言っています。」

じゃあ、しょうがないな、と思ったリジャラルガイブは女を自分の傍に移して監視した。
一週間ほど経ったころ、男がまたやってきた。男が言う。「神よ、わたしの暮らしは寂し
いものになってしまいました。あの女はわたしの前でよく歌をうたい、よく踊っていまし
た。あの女がわたしを見る目、そしてわたしを撫でる手の感触を忘れることができません。
そればかりか、合体したときのようす、わたしの身体にもたれて優しく身体を動かすあの
動き。」
「そう言って来るだろうと思っていたよ。さあ、連れて帰れ。」


ところが三四日したら男がまたやってきて不平を鳴らした。「神よ、わたしにはわけがわ
かりません。あの女はわたしに歓びよりも悩みをたくさんもたらすのです。神よ、わたし
をこの状態から救ってください。」
リジャラルガイブは男に諭した。「あの女はお前の妻だ。お前は妻と最善の調和を保って
共に生きて行かなければならない。妻と相和して生きていくために、上手に導くのだ。よ
く考えてうまく導くようにせよ。」

しかし男は絶望の叫び声をあげた。
「あの女と一緒に生きていくことは私にできません。」
「ならば、あの女なしで生きていくか?」
それを聞いて男は顔を伏せた。

「ああ、わたしは何という不幸な身の上なんだ。わたしはあの女と一緒に生きていくこと
ができないにもかかわらず、あの女なしで生きていくこともできないんだから。」
哀愁に満ちた声で男はそう独り言をつぶやいた。[ 完 ]