「印尼華人の実像(15)」(2024年08月06日) 華人農民がいるのはタングランだけでない。北スマトラ州メダンのメダンデリ郡コタバグ ン町には百戸を超える華人農民がいる。かれらは畑で野菜を栽培しており、野菜園華人と 呼ばれている。 そのひとり、アメンさん45歳は芥蘭を畑から収穫して隣人トニーさん38歳の軽トラッ クに積んだ。トニーはそこから15キロほど離れたメダン市内の5軒のレストランに野菜 を納入している。そのふたりは隣人であり、生産と販売を分担する商売仲間になっている。 その地区の住民は95パーセントが華人系で占められ、非華人系は5パーセントしかいな い。そして華人系の中では福建系がマジョリティを占めており、アメンとトニーのふたり も福建系プラナカンだ。 アメンは小学校中退者だが、6人の子供たちには絶対に教育が必要だと確信しているから、 一介の野菜園華人であるとはいえ、かれはすでにふたりの子供に高卒の学歴を持たせた。 残る4人も今いる小学校と中学校から必ず高校まで上げるつもりで頑張っている。高校を 卒業した長女のエルフィラはメダン市内の自動車ディ―ラーで働いている。 この町中の野菜園では、耕作地の総面積が広がることはありえない。住宅地が周囲を埋め 尽くしているのだ。その反対で、ある区画の持ち主が野菜作りをやめて食事ワルンや雑貨 店あるいは廃品回収業に転業すれば野菜園用地の総面積は縮小する運命にある。アメンの 野菜畑は区画が細かく仕切られて、種々雑多な野菜が植えられている。だれかが野菜を買 いにくればかれはその場で畑から野菜をもいで売る。こんなにフレッシュな野菜売り場は 他にあるまい。 アメンは野菜畑を広げる計画をしており、隣人のキムシアンの土地を借りる話がついてい る。そのためにせっせと貯金しているのだ。借りる土地の広さは6ランテ(4百平米)で あり、借地料50万ルピアが貯まればその夢がかなう。 北スマトラ州住民中の華人系人口は1,240万人だ。総人口の2.2%を占めていて、 その1,240万人は20種族100姓から成っていると言われている。かれらのほとん どは宗教を儒教にしているものの、儒教はかつて公認宗教に入っていなかったことからK TP(住民証明書)の宗教欄には仏教と書かれていた。 その地区の中の8部落を統括するRW職を務めているのはマンダイリン人女性のイタ・ナ スティオンさんだ。ほとんどが華人プラナカンである住民を束ねる立場にあり、華人たち と闊達な交際をしている。ときどき福建語を話すかの女は、地元にとっての善き事を自分 の使命として追求している。それが結局は華人住民を利することになるわけで、華人差別 意識を持つ者にはできないことにちがいあるまい。 あるとき大雨のためにデリ川の水位が高まり、東にある水門が水圧で破れそうになったこ とがあった。そんな異変が起こると町の自治役員は自分たちの地域を災害から守るために 総出で現場の状況を調べ、町役場に報告を上げる。そのときはイタも同じことをしていた。 「水門が破れそうだから補修班をよこしてください。」だが補修班はいつまでたってもや ってこない。 怒りを爆発させたかの女は町役場に怒鳴りこんだ。「あなたがたはこんなときに差別なん かしちゃいけませんよ。わたしのところの住民が華人だから支援しないってことはないで しょうね?」 [ 続く ]