「ムアロジャンビ遺跡(8)」(2024年08月23日)

2017年に、当時39歳だったムアラセボ郡ダナウラモ村住民のソリミンさんは遺跡の
敷地内にドリアン林を持っていた。古くなったドリアンの巨木を何本か伐り倒して材木に
したいという話を持ってきた7人に、かれはOKを出した。そのとき、遺跡の敷地内が聖
なる場所であることを知っているソリミンはかれらに、林では不躾な振舞いをしてはなら
ず、注意深く身を慎んで行動するように言い聞かせた。

翌朝、隣人からその7人の全員が高熱を出して伏せっている話を聞かされたソリミンは、
やっぱり起こってしまったかと慨嘆した。かれはその7人の人柄を見て、この連中は危な
そうだという不安を抱いていたのだ。
「あのドリアン林に入った者は、いい加減な振舞いをしてはなりません。悪い言葉を言っ
たり、悪い考えを起こしたり、所かまわず唾を吐いたり排泄したりするような良くないと
されている振舞いをしたりすると、その人間に良くないことが起こるのです。あの地域内
で生きている動植物もあの土地に守られています。古くなった樹は特に、大昔の聖地と何
らかのつながりを持っています。」

住民の多くがそれを神秘主義とは思っていない。太古の聖地を人間は尊重しなければなら
ない。その神聖さへの尊敬を形に表すとき、人間の振舞いはおのずと慎ましやかになって
いく。個々人が信仰している宗教とは無関係に、人間が自分の現在のあり様を聖なるもの
に向けて問うとき、心の深奥に善と美を目指す振動が湧き起こるのだ。

現場を調べに行ったソリミンは、伐り倒された巨木からあまり離れていない場所に土が広
く盛り上がっている場所があるのを見た。樹を伐る作業を行うとき、その場所が何人もの
人間に踏み荒らされたことは容易に想像された。「ああ、かれらはこのムナポを踏み荒ら
したにちがいない。」

地元民が呼んでいるmenapoとはmandapaが訛った言葉だろうと歴史学者は推測している。
マンダパは建物や寺院を意味する言葉であり、大衆の間で音変化が起こった可能性が感じ
られる。しかし遺跡の敷地内にあるチャンディの基礎部分をいつだれがそう呼び始めたの
かはまったく謎に包まれている。

遺跡の敷地内で畑を作るために鍬を振るうことは許されている。しかしそうでない目的の
ために鍬を振るってはならない。もしも畑を作ろうと思っている場所で鍬が土中のレンガ
に当たったらそこはムナポなのだから、そこに畑を作るのをやめて他の場所に移れ。地元
の長老たちは民衆にそう諭している。

しかし最初に入植した者たちがドリアンやドゥクの苗を植えるに当たって、鍬は使われな
かった。土の一カ所に穴を作り、そこに苗を置いて土をかぶせただけだ。そのためにドリ
アン林やドゥク林はムナポの上にも作られた。根がムナポの中に侵入して樹の生育を支え
た。


遺跡の調査活動が始まったころ、考古学を専攻する学生たちが調査作業を手伝うためにや
ってくるようになった。野菜畑やドリアン林に入って土をほじる作業をするために、学生
たちは畑や林のオーナーに許可を求めた。地元のオーナーたちはみんな快くその求めに応
じた。学者の卵たちが語るその土地についての解説にオーナーたちはまじめに耳を傾けた。
学術的な情報がそんな人と人との接触の中で広まり、深められていった。

すると都会から骨董品コレクターがやってきて、地元の畑や林のオーナーに良い物が出土
したら買うから連絡してくれという依頼を置いて帰るようになった。しかしソリミンはそ
んな依頼をすべて断った。「この土地で見つかった物はすべてこの地で安全に保管され保
存されなければならない。この地に暮らす人間にとっては、それがトータル的に一番安全
なあり方なのだ。」ソリミンはそう語っている。[ 続く ]