「ムアロジャンビ遺跡(終)」(2024年08月26日)

2014年2月のコンパス紙に、ムアロジャンビ遺跡探訪記事が掲載された。記者はまず
チャンディグンプンを訪れて、2年前にそこを取材に訪れた時との隔世の違いに驚いた。
ほとんど人影もない静かな場所だったと言うのに、今はまるで俄か市場を思わせるありさ
まだ。平日でもかなりの人出があり、週末や休暇シーズンともなればまるで繁華街。週末
にはチャンディグンプンに1日1千人の観光客がやってくるそうだ。

チャンディ周辺の道路沿いには売場が並び、いろんな品物が販売されている。売り場は4
0〜50軒あって、飲食物の販売が多いのだが、貸し自転車もあるしゴザやプラシートの
貸し出し屋もある。それを借りて草の上や木の下に広げ、座ったりごろ寝もできる。その
前の道路を観光客の波が通過する。道路幅は1.5メートルで、グループがどこかの店に
立ち寄ったりすると、人波の流れも渋滞する。

貸し自転車屋の若者が通りかかった女性観光客に自転車を勧め、その女性はそこに置かれ
ているさまざまな自転車を調べる。1万ルピアで乗り放題だそうだ。その女性は隣の貸し
自転車屋に目を移す。そっちの方がたくさんの種類を取り揃えている。貸し出し用の自転
車は全地区で850台くらい用意されていると遺跡管理事務所の職員は語った。

その若者は地元民で、最初自転車5台で商売を始めた。最初の投資分は一年で回収できた
そうだ。今、かれが所有する自転車は13台に増えている。

自分で自転車に乗る気はないが、長距離を歩くのもたいへん、というひとのために、道路
脇にはベチャも待機している。

遺跡の観光振興と地元民への福祉が衝突し始めた状況がその記事に描かれた内容だった。
急激に増加した観光客数とそれを相手に商売して所得を増やしたい地元民の出店行動が観
光客に悪印象を及ぼすことが懸念された。それは管理事務所側も住民自身も同じように感
じている。両者間での対話がこの問題を解決していくにちがいあるまい。


ムアロジャンビ遺跡の復元作業が進み、7〜8百年前にはこうだっただろうという姿が考
古学者たちの努力で現代によみがえってきた。広大な遺跡は地元住民の意識のおかげで、
人間による破壊が最小限度にとどめられていた。7〜8百年もの昔にムラユ人の王国が大
自然の中に設けたこの学林はその当時のオーラを現代に再現させることに成功したのであ
る。そこは単なる古代遺跡を超えて、現代人に遺跡観光以上のものを提供できる可能性を
秘めている。

仏教徒の大祭儀式が既にそこで行われた。信仰を深めてより高い境地に至るために仏教徒
が個人やグループでそこを訪れている。仏教徒であろうとなかろうと、空気の澄んだ静か
な木陰で瞑想し、ヨガを行い、大自然と合一する体験も可能だ。そこでは実践型のスピリ
チュアル観光が勧められることだろう。

人間の精神を鍛え、高め、向上させることの重要さは人間が人間であるかぎり、昔も現代
も違いがないはずだ。むしろ、現代人のほうがそれをより大量に必要としているのではあ
るまいか。[ 完 ]