「クレテッ煙草(6)」(2026年04月26日)

オランダ人が植民地時代にVorstenlandenと呼んでいたスラカルタとヨグヤカルタの二王
国領で栽培されていたのがフォルステンランデン種のタバコだ。スラカルタ領クラテンや
ヨグヤカルタ領スレマンでは1820年ごろからタバコ葉栽培が盛んに行われていた。

クラテンでタバコ栽培の盛んな農村部では今でも、長さ100メートル幅18メートル高
さ12メートルのlosと呼ばれる巨大な小屋が南北方向に長い形で建てられている。南北
に吹く風の勢いが強いことからそれを避けるための方策としてそんな現象が起きた。7〜
9月と12〜3月の収穫期になるとロスは大勢の人間が行うタバコ葉乾燥プロセス作業で
賑わう。

クラテン地方を鉄道で通過するとき、昔は水田を越えて向こうの方に建てられている巨大
な建物をいくつも目にすることができた。今ではほんのいくつかが残されているだけ。し
かし鉄道線路から目の届かない奥地には、まだまだたくさん残されている。それらの巨大
なロスは建築技師が建てたものでなく、職人たちが作ったものだ。

柱と枠は付近で採れる竹が使われ、太い竹が礎石の上に置かれて構造を支える。張り巡ら
された竹はタバコ葉を吊るす用途に使われる。壁と屋根はサトウキビの葉で葺かれている。
近隣にサトウキビ農園があるので、サトウキビの葉は大量に穫れる。乾燥したサトウキビ
の葉を束ねたものは軽く、そして煙を通す性質を持っている。

乾燥プロセス中のタバコ葉に風が当たると仕上がりが悪くなるため、風を防ぐ仕組みは重
要な意義を持っている。収穫されたタバコ葉が水に濡れるとカビが生えて売り物にならな
くなる。しかし乾燥させ過ぎると破砕が起こって刻みプロセスにかけられなくなってしま
うから、ときどきロスの中の地面に水を撒くことも行われる。またロスの中央部に水を流
して埃が立たない工夫もなされている。ロスはタバコ葉の乾燥小屋なのだ。小屋の中の湿
度を低くコントロールしてじっくりと乾燥させるのがタバコ葉乾燥プロセスの奥義なので
ある。


ジャワ語のlosは「広い・ゆったりした」といった意味を持っている。収穫された大量の
タバコ葉がロスに運ばれてくると、小屋の中で十数人の作業者がおのおのタバコ葉を50
枚まとめて縛り、差し渡されている竹の棒に吊るす。その一括りがドロッと呼ばれ、ひと
つのロスには20,520セットのドロッが吊るされる。その作業が終わって夜になれば、ロス
の中で火が焚かれ、煙がその乾燥小屋の中に流れる。その燻しプロセスは28日間継続さ
れる。その間、番人がロスの中に寝泊まりして製品の安全を監視するのである。

最初その作業プロセスはオランダ時代にNV Klatensche Cultuur Maatschappijの指導に従
って開始された。このクラテン栽培会社はアムステルダムで設立された会社で、クラテン
でサトウキビやタバコの農園を所有した。しかし砂糖事業については1860年にクラテ
ンのゴンダンウィナグン製糖工場を設けてスマランのミランドレファウト&Co.に運営を
委託したという話が語られていて、どうして自ら事業を行わなかったのかその理由は説明
されていない。

1957年にそのクラテン栽培会社がタバコ農園事業をインドネシア共和国政府に移管し
たあとも、ロスでの処理プロセスは今日まで営々と続けられてきた。現在、クラテンのタ
バコ葉生産は第10ヌサンタラ農園会社の事業の一部になっている。
乾燥して茶黒くなったタバコ葉は葉巻生産者に送られて高価な葉巻の中に丸められ、欧米
の高層ビルのオフィスの中でエグゼクティブのデスクの上に置かれることになるだろう。

第10ヌサンタラ農園会社が所有するタバコ農園のひとつ、ガヤンプリッ農園では63Ha
の地所の中に373ものロスが建てられている。ただしその中の228は成育中のタバコ
葉を暑い直射日光から防ぐためのものであり、収獲葉乾燥用は145だけ。収穫されたタ
バコ葉をロスで乾燥させる手法は1850年前後から行われていたそうだ。この農園にあ
るロスは3年ごとに補修が行われている。[ 続く ]