インドネシアビジネス経済環境情報2015〜16年


「プレミウムガソリンは廃止」(2015年1月8日)
石油補助金削減を目的にして、これまでプルタミナが行なってきた石油燃料の市場供給に至るまでの流れを見直して合理化をはかるためにジョコウィ内閣が指名した石油ガスセクタープロセス整備チームは、さまざまな不合理がこれまで行なわれていることを発見した。チームが最重点解決案として政府に提言したのは、これまでプレミウムガソリンと呼ばれて国内市場供給の柱になっていたオクタン価RON88ガソリンを全廃し、世界的なスタンダードになっているRON90台のものに変更することだった。現在プルタマックスと呼ばれているガソリン種はRON92であり、プレミウムを全廃してプルタマックスに変更すれば、整備チームの提言はスムースに実行されることになる。
インドネシアは産油国であるものの、産出した原油の多くはそれを汲み上げた国際石油企業に売り渡す形で輸出し、国内消費用はシンガポール石油市場で調達するという政策を採ってきた。そうすることで、原油生産と精製加工への投資がミニマイズされ、国内消費が小さい間はきわめて効率の良い利益が得られていたわけだが、国内の産業振興や自動車の増加に伴ってその原則の見直しが行なわれなければならなかったはずだ。これまでの政権がそこに踏み込まなかったのは、スハルト期に作られたプルタミナが初代総裁のパワー下に「国家の中の国家」と呼ばれる独占体制を築き上げ、その中で営まれてきた清濁併せ呑む特殊権益に対して干渉することを避ける心理が働いたためではないだろうか。その結果、プルタミナに対するコントロールはソフトで及び腰ながら、時間をかけて序々に進められてきた。突然大鉈を振るえば、従来から石油マフィアと呼ばれているプルタミナに何らかの形でからんでいた階層への宣戦布告と受け取られ、石油政策に大トラブルが発生したかもしれない。そうやって時間をかけながら序々にコントロールを強めて来た結果が現内閣の動きに映し出されているのではないかというようにわたしには見える。
RON88ガソリンはインドネシアが世界最大消費国のひとつになっており、世界の趨勢は環境汚染と車両エンジンへの影響がより軽いRON95が主流になっている。東南アジアでRON88を使っている国は他になく、いまだに何十年も昔のものを引きずっているインドネシアが骨董品になってしまったということだ。年間3千万klものRON88ガソリンを消費しているインドネシアは、その生産者にとって上顧客であり、インドネシアが買付けを行なうと即座に値上がりする状況が市場で起こっていた。総枠が小さい需要の中で大消費者が大量に買い付ければ、需給関係に何が起こるかは言うまでもあるまい。市場での力関係は、インドネシアつまりプルタミナが風下に立っていたということだ。おまけに、RON88ガソリン調達が必要量を満たせなかったとき、プルタミナが何をしていたかと言うと、RON92を調達してナフタを混入させ、わざわざコストをかけてRON88にしていた事実を整備チームはつかんでいる。
整備チームはそういう需要者側に不利な状況を改善しようと考えた。同時に、国内産原材料を輸出して製品を輸入し、国内加工を発展させようとしなかった国内産業の体質改善が進められている現在、その原則を石油に適用しないはずがない。現在ある精油所の能力向上をはかり、国内産原油をRON92の石油燃料に加工させて経済合理性を高めることも提言の中に含まれている。プルタミナ側はその提言に呼応して、5年後に全精油所合算で日産160万バレルのプルタマックス生産を行うべく、計画を組んだ。
政府は整備チームの提言を了承しており、整備チームが計画した二年後にプレミウムからプルタマックスへ全面移行するという日程に沿って今後の方針を固めていくかまえ。ファイサル・バスリ整備チームリーダーは、より高オクタンのプルタマックスに補助金がつけられて国民購買力に応じた安定価格で市場供給されるようになれば、そのほうが現状よりはるかによい、とコメントしている。


「大量の輸入ライセンス取消し」(2014年1月9日)
インドネシア政府が輸入の動きを特にモニターする必要が出た場合、その物品は特定品目に指定され、輸入者はそれ独自のライセンスが必要になる。ライセンスのない特定品目の輸入通関申告を税関は認めない。そのライセンスの一般名称がIT(Importir Terdaftar)ライセンスと呼ばれるものだ。商業省はそのライセンスを与えるに際して、いくつかの条件を課す。6ヶ月間連続して輸入活動がゼロであるなら、IT資格は取消される。また三ヶ月ごとに輸入活動報告書を政府に提出しなければならず、そしていつでも監査に応じなければならない。先進国のビジネスマンには信じられない話だろうが、インドネシアの事業者の中にはまったく会計帳簿や在庫台帳など経営の基礎をなす管理活動を一切しない者がいる。経営はかれの頭の中にある在庫品の出入り状況と取引および入金の明細だけで動いており、数字を裏付ける帳簿や書付はいっさいない。もちろんかれらも納税はするが、かれに雇われた大学を出たかどうかというような会計学士の卵が納税申告書を一から創作する。監査が行なわれたら、監査官に金を握らせてネゴるだけのことだ。
IT輸入者を監督している商業省が、大量のITライセンスを取消した。家電品836社、衣料品321社、玩具179社、履物151社、飲食品290社、伝統医薬品とサプリ食品133社、化粧品と家庭用保健品目256社の合計2,166社で、輸入実績は8.5億ドル。これまでITライセンスは5,017社に与えられ、輸入総額は48.5億ドルに達していたが、今回の措置で発行ライセンス数は2,851社となった。
IT品目に指定されている物品の多くはSNI規格が義務付けられている。規格が義務付けられてから長い期間が経過しているというのに、IT輸入者自身が規格表示のない品物をいまだに輸入しているのも事実だ。商業省規格化消費者保護総局長は、輸入玩具の中にまだSNI合格証のないものがあるので、その手続きを早急に行なうよう期限付きで輸入者に指示した、と述べた。他にも、合格証のないガスコンロ用ホース1万本、工学ディスク2万9千枚なども市場で見つかっている。商業大臣は輸入者業界にショック療法を与えて規則を忠実に実践するよう、今後も監督を強化していく、と語っている。


「焦点が合わないLPG補助金」(2015年1月16・17日)
2015年1月2日に12kg詰めボンベ入りLPGの販売価格をプルタミナが引き上げた。LPGのプルタミナ価格というのは、プルタミナと契約を結んだ流通エージェントがプルタミナのガス充填プラントで受け渡しを行なうときの価格であり、充填作業を含めてプラントを出たあとのPPNを含む一切の費用はすべてエージェント負担になっているため、エージェントの販売価格、つまり末端小売業者への販売価格にせよ小売業者が消費者に販売する価格にせよ、国が消費者価格を統制しているというタテマエと実情は裏腹になっている。
プルタミナ販売価格の地区別詳細は、
http://www.pertamina.com/news-room/info-pertamina/pengumuman/harga-lpg-12kg-ditingkat-agen-tmt-2-januari-2015/
で見ることができる。
全国各地の消費者はそれぞれ異なる価格で12kg詰めボンベを一本14万〜15万ルピアというレベルで購入しなければならなくなり、補助金付き3kg詰めボンベが一個2〜3万ルピアで購入できるとなれば市場で何が起こるかは想像がつくにちがいない。
12kg詰めの価格引上げの際、プルタミナ高官がそんなことは起こらないというコメントを出したが、そういう空々しいスタンドプレーはこの地の高官の十八番だ。なにしろ、「12kg詰めはミドルクラスを主な消費者としており、かれらがもし3kg詰めを使うように変えたら毎週LPGを買いに行かなければならなくなる。かれらはそんな面倒なことを好まない。」というセリフに呆気に取られたひとはきっと多かったにちがいない。
メロンと呼ばれる3kg詰めボンベ入りLPGの販売量は、2007年に灯油からLPGへの転換政策が開始されて以来、次のように増加している。
2007年   2,150万kg
2008年 5億4,590万kg
2009年 17億7,470万kg
2010年 27億260万kg
2011年 32億5,780万kg
2012年 36億9,000万kg
2013年 38億5,900万kg
プルタミナによれば、今回の値上げでLPG単価がほぼ採算点に達したということらしいから、3kg詰めボンベに入ったガスにどのくらいの補助金がついているかというのは容易に想像できる。12kg詰めの単価を採算点まで引き上げて消費者の3kg詰めへの移行をあおれば、補助金がさらに膨張するのは明らかだ。
プルタミナはこの補助金付きLPGの総需要を年間530万トンと想定しているが、12kg詰め利用者が3kg詰めに移行する現象が顕著になればメロンの増量をはからなければならず、政府の補助金支出計画にもろに影響を与えるため、今回の12kg詰めの値上げと予測される問題への対応に関するプルタミナの考えを問題視する声も少なくない。2015年度政府予算内では、3kg詰めLPGへの補助金総額が55.12兆ルピアとされている。
12kg詰めボンベ入りLPG価格の値上がりから10日ほど経過した時点で、各地の状況は次のようになっている。南カリマンタン州バンジャルマシンのあるエージェントによれば、12kg入りボンベの売行きが激減しているとのこと。平均一日4百本を販売してきたそのエージェントは一日3百本ほどになり25%程度の低下が起こっているとのこと。別のエージェントは3kg詰めボンベの売行きが急上昇していると語る。これまで毎日トラック2〜3台分の入荷があったが、普通は多少在庫が残っていた。ところが、今やその日の入荷分は確実にその日に売り切れているとの談。トラック一台に3kg入りメロンは560個積載される。町中では、LPGを売っている雑貨店で在庫切れが激しくなっており、エージェントにまで商品を探しに来る消費者が顕著に増加しているとのこと。このエージェントは、家庭用に購入する場合は一回一個に制限しているそうだ。消費者の話では、町中で商品が品薄になったためにこの補助金付き3kg詰めLPGの市場価格は大幅にアップしており、プルタミナのエージェント出し価格はまったく変化していないというのにバンジャルマシン市内では一個18,000ルピア程度だったものが高い場合で25,000ルピアにまで値上がりしている。
2007年に始まった政府の灯油からLPGへの家庭燃料転換政策は、さまざまな問題を克服しながら現在の状況に達した。補助金付き灯油から補助金付き3kgボンベ入りLPGへの転換は成功したと言えるが、その延長線上で補助金付きガソリン・軽油の消費量を減らすために輸送エネルギーをLPG燃料に転換させる政策も開始されている。鉱エネ省は今年、零細漁民に対する援助として漁船エンジン用にLPGコンバーター5万個の無償提供を決めた。それとは別にスマトラ島内の貧困家庭向けに3kg詰めLPG100万個の無償提供も行なわれる。
全国漁民の会は政府のその計画を拍手で迎えた。全国漁民の会会長は、国内3百万人の零細漁民は平均10GTの漁船30万隻を擁して漁業活動を行なっているが、漁船には船外機エンジンが取り付けられているのが標準だ、と語る。「船外機用燃料は軽油が使われるが、補助金付きLPGを使えば経済性が大幅に向上される。それがわかっていても、零細漁民にとって一個400万から800万ルピアもするコンバーターは容易に入手できるものではない。二日間出漁すれば軽油20リッターが消費される。その費用は14〜15万ルピアになる。LPGでも3kgあれば二日間の漁ができる。補助金付き3kg詰めボンベは一個2万ルピア程度で購入できる。この経済性の向上はたいへん有益なものだ。」
国民の燃料消費の合理化をはかることは有益であるにちがいないが、そこに補助金がからむことで政治問題が染みこんでくる。漁民の会会長は、コンバーターを援助する以上は3kg詰めLPGの市場供給を確実なものにしてくれなければ困る、と念を押した。陸上で折に触れて品薄が起こっているのは、国民周知のことだ。厖大な需要を抱える陸上で品薄になれば、海辺に商品が回ってくる見込みはない。せっかくコンバーターを配っても、それが活用されなければ画餅に終わる。それは零細漁民の死命を制することになりかねない、と会長は訴えている。


「インドネシア製軍艦が国際舞台に」(2015年1月20日)
国有造船会社PT PAL Indonesia がフィリピン政府国防省から軍用艦船SSV2隻を受注した。PAL社はオランダ時代にスラバヤに設けられた造船所で、オランダ海軍次いで日本海軍の需要を満たし、独立後インドネシアの軍事用民事用の船舶を建造するようになった。海軍で使われている艦船にPALで建造されたものが増加しており、外国の中古艦船を輸入する従来のやり方には批判が強まっているため、国軍所有の軍用機材は可能な限り国産にせよとの指示を政府は出している。次は潜水艦の建造を、というのがPALにかけられている期待だ。PAL社は軍艦・商業用船舶・オフショー作業用の海洋構造物などの建造、および艦船の修理とメンテナンスを行なう能力を持っており、政府はそれらの分野でPALの活動を更に向上させたい意向。
インドネシアは軍用機材の生産国であり、銃火器や爆弾、装甲車なども別の国有事業体が生産している。政府はそれら軍需工場の生産品を質量共に向上させるべく増資を行なう考えで、そうなると国軍の需要を満たすレベルを超えたとき、販売先の問題が出てくる。だから軍需工場にマーケティングを行なわせることへのアイデアに向かうのは当然の帰結であり、そのうちに紛争地域でインドネシア産の武器兵器が仲間に加わるようになるかもしれない。
インドネシア海軍は国産SSV艦船を保有しており、船長125メートルのバンダアチェ号は兵員や軍事物資の輸送、パトロール艇・戦車・ヘリコプターの輸送などに使われている。つまりはPAL社にその建造実績があるということで、フィリピン政府がその出来を見て入札の結果を出したことは言うまでもあるまい。
フィリピンからのオーダーはバンダアチェ号より大型のもので、建造工事開始は2015年1月22日が予定されており、最初の一隻は28ヶ月後の納入、二隻目は36ヵ月後の納入で、成約金額は9千万米ドルになっている。この契約が完了すれば、インドネシアの軍用艦船輸出の皮切りとなり、より多くの国々からの受注が更に期待できるとインドネシア政府海事統括相はコメントしている。


「イーウー社が夜逃げ」(2015年1月22日)
バタムでまた会社経営陣の夜逃げが起こった。バタム島内トゥナス工業団地に入居している衣料品製造会社PT Yee Woo 従業員が2015年1月12日(月)朝出勤したところ、工場が閉まっているのに驚き、なんとか工場建屋内に入ったが、主要な製造機械が一部なくなっており、また製品のデザインを機械に指示するコンピュータも姿が消えているのを発見した。従業員は事態を会社経営陣に報告するため、会社のメスを訪れた。すると全員が外国人である会社経営陣はだれひとりそこにいないことが明らかになった。
この会社は2014年10月に一度操業縮小を行なったことがある。そのとき、ふたつあった建屋のひとつを閉鎖し、多数の機械を外に出した。一部はカンボジアに向けて船積されている。そのとき、従業員の訴えでバタム市議会議員が会社を訪れ、事業閉鎖の意向を質問した際、会社側はそれを明白に否定したとのこと。夜逃げが明らかになったいま、バタム運営庁統合サービス局長はその会社の経営陣を探してコンタクトするよう努めている、と述べている。
従業員数百人に対する給料や退職金支払い、あるいは地元行政に対する管理上の報告や納税処理など、さまざまな義務を投げ捨てて逃亡した今回の会社経営陣夜逃げ事件は過去にも前例がある。直近では2013年7月の、731人の従業員が路頭に迷うことになったPT Sun Creation 事件、そしてその前にも何回か類似の夜逃げ事件は起こっている。
バタム市議会議員のひとりは、繰り返されるこのような外資系企業夜逃げ事件からインドネシア人勤労者を保護するために、会社に保険をかけさせるなど何らかの強制措置を行政は行なわなければならない、とコメントしている。


「太陽光発電利用者が増加」(2015年1月23日)
国有電力会社PLNは僻地の無電化地区に電気を供給するにあたって、太陽光発電をメインに使うという方針を立てている。需要の増え続ける既存電化地区への供給量を減らさず、また送電線や配電施設の建設というインフラコストを節減するのにもってこいの方針であるのは疑いもない。
陽光のありあまっているインドネシアで太陽光発電は、都市部在住の一般市民であってももっと盛んに利用してよいものだ。一時、僻地の村落でコミュニティ向けの小型水力発電が活発化したことがある。どうやらそれは太陽光発電の技術進歩に伴って立場が移り変わりつつあるように見える。太陽光発電のほうが設備機材と設置工事が簡単で、発電機を動かすためのパワーを用意する必要がなく、また発電状態を人間がケアする必要もなく、高い耐久性を持ち、汚染を発生させることもないといったさまざまなメリットが、太陽光発電の人気を高める要因になっているようだ。現実にインドネシアでも、太陽光発電を自宅の電力消費に利用するひとは増加している。西ジャワ州デポッ市サワガンに住むバンバン氏54歳はそれに取り組んだ。1984年にバンドン工科大学を卒業したかれにとって、家庭内の電気システムに太陽光発電を応用するのは、困難なことではなかったようだ。
かれは屋根に軽量鋼でそーらーパネルを載せる枠を作り、一枚230ワットの発電能力を持つパネルを30枚取り付けた。かれの住んでいる家屋はPLNから4,400vAの供給を受けており、かれの家庭には有り余る電力量となる。ならば無駄になるだけではないかと思うところだが、実はそうでないのだ。過剰電力量はPLNに売ることができる。売ると言っても、PLN電力消費量と相殺していくだけなのだが。そのためにPLNに電力メーターをインアウト併用の特殊なものにとりかえてもらわなければならない。
「この方式が行なえるのは電力供給が安定している地域に限られる。まだ電気が入っていない僻地では、一軒一軒が行なうのでなく、グループでシステムを作り、それをメンバーの家に引いていく方式のほうがベターだ。」とバンバン氏は説明する。普通は昼間作られた電力をストレッジに蓄えておき、夜になると使うという方法が採られる。ストレッジは蓄電池が使われることが多いが、購入に金がかかり、またメンテナンスも定期的に行なわなければならない。バンバン氏の方式では、ストレッジを用いないで余剰電力はPLNに流すスタイルだから、それだけコストも小さくなる。それでも、必要な機材購入と家屋内の配電系統を新しい方式に適合させるためにいろいろいじくったから、バンバン氏の支出総額は1億ルピアに達した。かれは2010年からこの計画を温めはじめ、諸機器の価格が低下するのを待った上で実現に取り掛かったのである。
PLN企業広報シニアマネージャーは、PLNは一般家庭が太陽光発電を行なうことに協力している、と語る。「しかし現実には、パネルがまだ高価であるためなかなか一般家庭に普及するには時間がかかる。経済力のあることが前提条件になるため、そういうところから始まっているのが実態だ。ジャカルタのメンテン地区のような高級住宅エリアでは、それを行なっている家屋は数多い。家庭用の太陽光パネルにもいくつかのタイプがあり、日中に生産されたパワーを蓄えておいて夜にそれを電気に変えて流す仕組みを持っているものもあれば、日中に生産された電気がそのまま使われるタイプでは、夜間消費量に見合う蓄えができないかぎり、夜はPLNの電力を使うことになる。マンディに使う温水を作るために使っているだけという家庭も少なくない。」
一般家庭が太陽光発電で作った電気をPLNは受け入れている。ただし、買い上げるのでなく、その月にその家庭が使ったPLNの電力量の翌月の請求分からPLNに流した電力量が差し引かれるというやり方だ。そのためにはその家庭がPLNの電力を消費することが前提条件になっている。電力量の出入りを測定するために、特別な電力メーターを使わなければならない。デポッ市のバンバン氏が行なっているのがそれだ。


「マグロ生産が大幅減」(2015年1月26〜28日)
政府は外国密漁船に対する厳格な姿勢を打ち出し、海軍をはじめとする関係諸機関が熱心に密漁船を拿捕するようになった。ならば、密漁船をインドネシア領海に入れて捕獲漁労するのをやめ、漁獲運搬船をインドネシア領海内に入れ、インドネシア漁船からインドネシア人が捕獲した魚を買い取ればどうなるか?言うまでもなく、それは密輸出という犯罪行為に該当する。そして、そのような手口の密輸出は昔から行なわれている。
インドネシア漁船の操業にしても、違法漁法を用い、保護動物指定の魚種を捕獲し、その種の貴重魚類を含めて国内水産業の生産として管理されるべき漁獲が海上で大型運搬船に積み換えられ、インドネシア船であれ外国船であれその運搬船がそのまま他国の港に荷を運び去って行くなら、単なる海上犯罪にとどまらず、漁業産業の実態がわからなくなる政府が妥当な産業政策を打ち出すことすら困難になってしまう。
国内で行なわれている違法行為を徹底的に粛清し、順法精神に満ちた整然たる秩序を国民生活の中に打ち立てることを宣言したジョコウィ政権は、海上での水産貨物の移し変えを全面的に禁止した。インドネシア共和国漁業認可海域での捕獲漁業に関する2014年海洋漁業大臣規則第57/Permen-KP/2014号は2014年規則第30/Men/2012号を改定するもので、移し変え禁止条項は2014年11月12日に発効した。
折りしも、2015年1月19日にメラウケで250GT前後の大型漁船6隻が海洋漁業省と海軍の合同チームに捕らえられた。これらの船は水産物捕獲認可を得ておらず、漁業操業適性証明もなく、許可なしに外国人船員を乗務させ、しかも禁止されている底引き網を備えていた。そして違法操業したか、海上でインドネシア漁船から購入したかは不明だが、船倉に貯えられた海産物を中国に向けて運搬しようとしていた。しかし輸出を承認する書類なども一切なく、密輸出が行なわれようとしていたことは明白だ。
それらの船はPTシノインドネシアシュンリダフィッシングの持ち船18隻の一部で、2008年にインドネシアで設立されたシノ社は中国からそれらの大型漁船を受入れて中国籍からインドネシア船籍に転換しており、この会社が何を目的にして設立されたかということが、おぼろげにせよ、浮かび上がってくる。同社責任者は、「常に政府の許認可をクリヤーして操業している」と語り、今回の政府の措置は中国人船員2百人インドネシア人船員70人という弊社の雇用比率のせいではないか、との意見を述べている。
それどころか、当局者の目からもっと奇妙に見えることも別に起こっている。政府は外国で建造された漁船に対する操業許可を一定期間出さない方針を決めた。インドネシア共和国漁業認可海域での捕獲漁業認可モラトリアム(暫定中止)に関する2014年海洋漁業大臣規則第56/Permen-KP/2014号は2014年11月3日に施行されている。その日をもって、たとえインドネシア船籍であろうとも外国製漁船は操業ができなくなったわけだ。ところがそんな規則などどこ吹く風とばかり、アラフラ海では数十隻の外国で作られた漁船がいまだに操業を続けている。
海洋漁業省と海軍の合同チームがパプアとマルクの複数の漁場で観察調査を行なった結果、大臣規則第56号に違反して操業している漁船が多数あることが発見された。PTプサカベンジナリソーシズに所属する外国製漁船は96隻あるが、そのうちの34隻が操業認可が無効になっているのをよそに、いまだに帰還してこない。同社の現地サイトマネージャーによれば、規則の施行と認可の無効化は承知しており、違法操業になるため基地に帰還するようにと指示を出しているにもかかわらず、それらの船は依然として操業を続けているとのこと。マネージャー氏によれば、認可が無効になったそれらの船は船倉に漁獲を貯えているため、港に戻ると処罰される懸念が高く、それを怖れて戻るに戻れないでいるにちがいないと説明し、こちらからそう指示しているにも関わらずかれらが言うことを聞かないのだから、もうどうしようもない、と語っている。しかし当局側にはその話から、その会社内のまともでないあり方が透けて見えてくるようだ。「会社が戻れと命じているのに船が戻ってこない。船の本当のオーナーがその会社でない場合に、そういうことは起こりうる。」
プサカ社は大量の外国製漁船を擁し、乗組員にタイ人1千人、インドネシア人1百人を雇用している。モラトリアムが始まってから、タイ人船員は全員が船内に寝泊りするようになった。折りしも、プサカ社所有の港に同社の漁獲運搬船ゴールデンシー号が碇泊している。排水量2千GTのこの船は船倉に1千6百トンの漁獲を貯え、それをタイ向けに輸出する準備まで整えたにもかかわらず、海上での水産物移し変え禁止令によって計画されていた輸出ができなくなったもの。
この会社も、誰が何を目的にしてインドネシアに設立したのか、おぼろげながら想像がつくに違いない。外国製漁船操業モラトリアムを無視して漁労に励んでいる34隻が、船倉を満杯にしてインドネシア領海から姿を消すような結末にならない保証はどこにもないのである。
それらの漁業犯罪撲滅を狙う政府の諸政策は、水産業界に大きな危機をもたらした。理論上は、すべての漁船が漁獲を一旦漁港に持ち帰り、水揚げしてせりにかけ、そこから加工工場の原料にまわすなり、鮮魚輸出をするなり、という諸外国で行なわれている方法を採ればよいではないか、ということになるのだが、インドネシアは諸外国と違う。
インドネシアマグロはえなわ漁協会事務局長は、捕獲船50隻と運搬船73隻が仕事できなくなり、岸壁に係留されたままになっている、と語った。「その結果、マグロ輸出は7割減になり、従来の一日1.5〜2トンという輸出量は0.6トンにダウンしている。一ヶ月で28トンも輸出が減った。」
インドネシアマグロ協会ジャカルタ支部長は、2014年12月以来、稼動できなくなった捕獲船や運搬船は百隻を超えている、と言う。北ジャカルタ市ムアラバル漁港では60〜150GTの船が漁業操業適性証明書をもらえず、出漁ができない。通常、出漁はチームで三ヶ月ほど漁場に出、捕獲船が得た漁獲を運搬船に貯える方式が採られている。それを逐一漁港まで運んでこいというのは、経済合理性を無視したものだ。
しかし海洋漁業省水産物加工販売総局長は、輸出が減っているのは世界的に需要がダウンしているためだ、と反論する。「日本をはじめとするマグロ輸入国の多くは、経済状況が悪くなっているため輸入が減っており、おかげで国際相場は大幅な安値になっている。たとえばカツオはトン当たり2,400米ドルだったものが、昨今は1,100〜1,200ドルで取引されているありさまだ。今回の海上での貨物移し変え禁止方針が水産業界に短期的な生産障害をもたらすことは起こりうる。中でもマグロ輸出に影響が出るのは必至だろう。しかしこの方針はインドネシアの海産物の中長期にわたる持続的な資源利用を確保するのに不可欠なものであり、これまで行なわれていた産業形態のあり方はその長期的視野に適合させてもらわなければならない。」
政府のビジョンが間違っているわけではないものの、産業界を危機にさらしてまでそれを強要することの是非はどうなのだろうか?他にもっとよい不法漁業撲滅の方法はないのか?漁業専門家は、海上での貨物移し変えをあっさりと禁止するやり方は国際的なものではない、と言う。「地域漁業管理機構は移し変えを禁止していない。そうしないで、漁業監視官の監督下に行なうことが必須条件にされている。インドネシアがそうできないのは、船の数と監視官の数がまったくバランス外れになっているからだ。」
海洋漁業省が2013年に採用した漁業監視官は39人、2014年は360人。一方、2014年11月3日現在の30GTを超える漁船は4,964隻、そのうち12〜200海里を航行できる100GT超の船は3百隻と見られている。およそ5千隻ある登録漁船の中で外国籍から転換したのは1,130隻ある。
漁業監視官の人数から明らかなように、政府の違法漁労抑制と防止の能力は低い。それがさまざまな違法行為を繁茂させていたわけで、貨物移し変え禁止もパトロール艇に見つからなければ沖合いに出ている船の多数が「やらねば損」だと思うだろう。法に対する服従意識はその社会によって違っているのだから。
法規への不服従は、役人の腐敗行為がひと役買っている。陸上海上で行なわれるあらゆる動きの各ステップに、プンリ(不法徴収金)がつきまとっている。すべての漁獲を港に揚げてせりにかけよという考え方は、かれらビジネス界の生き血を吸う人間の姿をした狼たちの思う壺だ。出漁のために不可欠な水産物捕獲認可や漁業操業適性証明書を交付してもらうためにさえ、プンリなしには済まないと全国漁民の会役員は語っている。海上でパトロール艇が検問に回ってくるのは、陸上で警察や行政が検問を行なうことと同じであり、不良の徒がそこに混じっていない保証などどこにもないのである。
犯罪撲滅を名目にする政策のために、正当な事業を行なっている者がそのあおりをくらって生産量の落ち込みやコストアップを抱えなければならないことは、この国開闢以来数限りなく起こっていた。今回の政策でも、マグロの生産量を増やそうとするなら、コストアップは避けられない。清く正しい国家行政と国民生活を目指すことが産業経済進展と同期しないというアイロニーからわれわれは何を感じ取ることができるだろうか?


「政府は製造産業の投資を歓迎」(2015年2月3日)
ジャカルタで2015年1月28日に開催されたニッケイフォーラムでユスフ・カラ副大統領は、石油燃料向け支出を減らした補助金の用途は今後インフラ・農業・教育・保健などに振り向けられる方針であることを強調した。国民人口の4割ほどを占める農業セクターの生産性向上が国家にとって急務であるとの認識がその根拠になっている。
The Nikkei Newspaper International Edition のジャカルタ現地発行を期して開催されたこのフォーラムで副大統領は日本の産業界に対し、インドネシアへの投資をもっと拡大するよう要請した。新規投資も既存企業の規模拡張も、どうぞどんどん増やしていただきたい、とかれは言う。法確定が弱いといった投資を不安にさせる条件がこれまでなかったわけではないが、現政権は必ずその状況を改善させる、というのが副大統領の公約だ。
インドネシアは従来から工業分野の経済貢献度があまり優勢でない状況にあり、製造産業をもっと盛んにすることで国民所得を押し上げて消費経済を高めるのがインドネシア経済の発展パターンに最適なものであるとの判断に則して、現政権は日本からの進出を大いに期待している。その投資受入れに関してもインドネシア側に心積もりがある。インドネシアの経済は既にジャワ島集中状態にあり、既に過密状態になっているジャワ島を避けて、スマトラやインドネシア東部地方での投資をもっと増やすようにしたいというのが政府の意向であり、その誘致のための恩典はもちろん用意されている。
ただし、インフラレベル・労働力のクオリティ・補助的サービス産業の成育など事業運営の便利さという面から見るならジャワ島内と外島部では顕著な差が見られることから、それらの底上げに対する政府の統合的な施策が強く望まれている部分でもある。
BKPM(投資調整庁)が報告したところでは、2014年の投資実現総額は463.1兆ルピアで、2013年実績から16%上昇した。中でも製造産業セクターでの投資が増加傾向にあり、2011年以来の実績推移は次のようになっている。
年度 内国投資(単位は兆ルピア) / 外国投資 (単位は億米ドル)
2011年 24.4 /  68
2012年 38.5 / 118
2013年 49.9 / 158
2014年 59.0 / 130
インドネシア全国商工会議所飲食品加工産業常設委員会会長は、国内の飲食品加工産業の前途は洋々たるものがあり、この分野への投資がもっと拡大することが期待されている、と述べている。その弁によれば、パーム原油・コーヒー・カカオ・茶・ミルク・魚類や海草など水産物の加工に将来性があるとのこと。
2015年1月時点でBKPMへの製造産業セクター投資の引き合いが85件あり、そのうち46件総額740億米ドルはBKPMに対して投資実現をコミットしていると長官は述べている。


「日本からの中小企業進出が増加」(2015年2月4日)
過去二年間に、日本から中小企業180社がインドネシアに進出してきた。ジェトロの解説によれば、部品製造とレストランを主体にして1千5百の中小企業が外国への進出を望んでいるとのこと。BKPM(投資調整庁)データでは、2014年1〜9月日本からの直接投資は716プロジェクト、20.4億米ドル相当で、6万2千人近い求人計画が示されている。
同じ期間のホテルレストランセクターへの日本からの投資は27プロジェクト総額768.5万ドル相当で、求人計画は426人。インドネシアのホテルレストランセクターへ参入する日系企業が増加すれば、資材供給ビジネスも付いて行くほうが効率がよいのは明らかだ。そこに利害の衝突が起こる。
2015年末に行なわれるアセアン域内市場統合をモメンタムにして、インドネシア政府は従来からの原材料輸出国製品輸入国という体質を変化させようと考えている。原材料の国内加工を増やして付加価値をつけ、製品を輸出して輸出入の金額バランスをもっと有利なものに変えていきたい。日本の製造産業をそこに加味することで、全体の収支はどうなっていくのか?その結果いかんで、日本の製造産業誘致に対するインドネシア側の待遇に柔軟さが加わる可能性が期待できるのかもしれない。


「国民経済の体質改善にも鉄腕を」(2015年2月6日)
正規の事業許認可を得るために長い時間と大金をかけ、その間事業運営はおあずけという手続きを真面目に踏む人間は、事業経営能力の面から「?」の影を周囲の人間に感じさせることを否定できないにちがいない。非能率な行政手続き、役人のプリヤイ意識、弱肉強食社会の慣習、汚職とプンリ、などという諸要因が法に服従する人間を愚物視させている現実が、インドネシアの国民生活を法治から遠ざけているのは言うまでもあるまい。
資本があり、才覚があり、ビジネスを営む筋をわきまえている人間は、即座に小規模あるいは零細規模の事業を開始することができる。事業許認可に時間と金をかけ、いざ公式事業者となったら監督役所からのゆすり・たかりを受け、真面目に納税をし年次申告を出せば今度は税務職員が難癖をつけてゆすり・たかりの標的にしてくれるのであるなら、いったい何のために公式許認可の手続きをする必要があるのだろうか?実情を知る者にとっては、法規に従わないことのほうがはるかに合理的であるにちがいない。
しかしそれでは法治国家が確立されない。随所に鉄の腕をふるいはじめたジョコ・ウィドド内閣が、中小零細事業の順法化に向けて受け皿を用意した。2014年に出された小規模零細規模事業許認可に関する2014年政令第98号の実施のために内務省・商業省・コペラシ中小事業省が現場での実施推進覚書を交わしたのである。
年間売上3億ルピア以下が零細事業、3億を超えて5億ルピアまでが小規模事業というのが事業規模に関する定義だ。国内産業と労働者雇用のメインを支えているのがこのセクターであるのだが、厖大な数の事業者がいるのに経済貢献度は小さく、そして事業が発展しても資本金を増やすことに困難があるために頭打ちになってしまう。その解決策として現政権が打ち出してきたのが、2014年政令第98号というわけだ。
ちなみに、全国の事業体数はこのセクターが99.99%を占め、労働力吸収は97%に上る。ところがGDPの中のポーションは54%しかなく、輸出に至っては20%しかない。
伸びる力を持っている小零細事業に資本金借入の道を開くためには、正規の許認可を受けた事業であること、財務報告書を作成して経営内容を客観的に示すこと、正しく納税を行なっていること、など現在の小零細事業者ができていないことをさせなければならない。銀行界がかれらに貸付を与えるには、それらの条件が不可欠なのである。そこで政府は、事業許認可手続きの便宜をはかるよう、全国の行政に指示を出した。
郡長・町長・村長は地元の小零細事業者の事業許認可申請に対して、無料で、しかも一日でその処理を終えなければならない。小零細事業者は与えられた事業許認可にもとづいて、BRI銀行のビジネスカードを与えられて口座開設から借入などの公的金融サービスを受けることができるようになる。次に求められているのは、行政末端で行なわれているゆすり・たかりへの対策だろう。


「輸入貨物検疫プロセスに変更」(2015年3月9日)
輸入貨物に対する動植物検疫検査手続きが、これまでの通関後から通関前の実施に変更された。この変更は2015年3月2日から開始されている。検疫検査は低リスク貨物で1日、中リスク貨物の場合は3日かかる。この変更は外国からの病原体等の国内侵入防止の精度を高めること及び輸入者に対するロス発生の低下を目的にしたものであるとのこと。
輸入手続きの中では、輸入者は通関申告の前に輸入税等を納付していなければならず、納税して通関が通ったあとに行なわれる検疫検査で輸入が拒否されると大きいロスが発生する。もちろん既に納めてある輸入税等の還付は可能なのだが、その手続きに長い時間がかかるため、輸入者の資金繰りに悪影響が出る。その問題を改善することがひとつの目的であり、もうひとつは通関を通った検疫義務を負う輸入貨物が検疫手続きをすっぽかして国内に運び出される機会を狭めるための対応でもある。
輸入貨物入りコンテナが陸揚げされてから港のゲートを通過して国内に運び出されるまでの港での滞留日数がインドネシアではたいへん長いことが産業界の苦情のタネになっており、ドゥエリングタイムと呼ばれるその滞留日数を短縮させるために政府は目標値を定めて全関係機関に目標達成を呼びかけてきた。2014年9月のドゥエリングタイムは5.47日だったが、2015年1月には6.33日に長期化したことが明らかになり、政府は関係諸機関を叱咤激励しているところだ。
タンジュンプリウッ港税関A級総合サービス事務所第2通関チュカイサービス課長は、ドゥエリングタイムは通関前〜通関中〜通関後の三つに区分され、検疫検査手続きが通関前に移されることで日数短縮に困難が生じるだろう、とコメントした。現在政府が目標に置いている日数は4.7日で、通関前が2.7日、通関中0.5日、通関後1.5日という内訳に向かって努力している状況だ。
ジャカルタでは、この1〜2月の雨季で随所に出水があることに加えて、タンジュンプリウッ港周辺の主要道路も道路破損と浸水のためにコンテナ車が通りづらい状況になっている。結果的に通関プロセスを終えた輸入貨物が順調に国内に流れなくなっており、港内滞留日数は増加傾向にある。


「働くなら、こんな職場で」(2015年4月7日)
毎日の仕事は同僚や上司たちとアットホームで和気藹々とした雰囲気の中で勤め、仕事は楽しく愉快に笑って行い、しかも仕事の内容は飽きの来ないものであることが重要だ。そんなインドネシア人の若い世代が持っている勤労観、あるいは労働に対するイメージは、読者がお持ちのものと合致しているだろうか?
数十年前までは、定期的に決まった収入が与えられ、その待遇を得るために仕事の内容や上司あるいは同僚との人間関係にまで贅沢を言ってはいられない、という感覚が強かったインドネシア人だが、その姿はかなり変化してきたようだ。数十年前の一般的な感覚では、寄らば大樹の国家公務員が人気抜群で、固定的な収入が確保され、長年勤め上げれば年金がもらえるという、生活基盤安定を指向するひとびとがそこに集中し、結果的に大量の人間を雇用する巨大な行政府ができ、おのずと国民サービスや国民行政能率向上は二の次にされるという結果を生んでいた。それがここにきて、様変わりに近い変化をもたらしている。
コンパス紙R&Dが2015年2月24〜25日にインドネシア大学・シャリフヒダヤトゥラ国立イスラム大学・パンチャシラ大学・タルマヌガラ大学の学生432人から集めた統計が公表された。
「大学は出たけれど」現象は過去数十年にわたって継続しており、教育界が育て上げた人材が実業界の需要とミスマッチングを起し、産業界はむしろ職業高校修業生のほうに食指を動かしている状況は、大学生の間で知らない者はいないだろう。昔は大臣や政府要人が大学で講師を勤め、発掘した優秀な学生を政府機関の要職に抜擢することは普通に行なわれていたが、そういう網にかかる学生の数は圧倒的に少ない。そして今や、就職選考も職場での抜擢も、公平感が重要視されるように変わってきたから、シンデレラボーイの出現も困難になっている。
政府はここ十年ほど、大学生に自営業を勧める方針を打ち出し、サラリーマンになるよりは、事業を興して他の失業者たちに職を与えることが大きな社会的善行であるという観念を普及させている。そういった世の中の流れに従って、大学生たちもそれを信念として抱くように変わってきた。
質問1)希望する職業は何か?
回答1)自営業45.6%、文民公務員27.1%、私企業従業員22.2%、フリーランサー4.2%、働きたくない0.9%
質問2)どんな就労環境を望むか?
回答2) イエス/ノー (数字は%)
*暖かい笑いに満ちたアットホームな環境 94.7/5.3
*スポーツ・娯楽・社交等のファシリティがある 93.8/6.2
*自由に創造ができ、アイデアを表明できる 93.3/6.7
*規則でがんじがらめにしない・硬直的でない 88.4/11.6
*大勢の人と接触できること 83.3/16.7
*就業時間に拘束され、終日オフィス内で働く 29.9/70.1
質問3)キャリアーを積上げていくのに優先する選択要因は?
回答3)給料55.6%、職場風土・雰囲気28.9%、オフィスの構造やデザイン3.7%、就業時間3.5%、施設・設備3.2%、その他5.1%
質問4)希望する初任給はいくら?
回答4)5百万〜1千万ルピア46.1%、1千万超〜1千5百万ルピア29.2%、1千5百万ルピア超24.7%
「遊びの雰囲気が職場にあることは、ストレスをやわらげて業務に対するオプティミズムとモチベーションを高める役割を果たす。そこにいると楽しいというオフィスの雰囲気は、集中力や意欲を高める機能を果たす。」というのがNational Institute for Play設立者の見解だが、インドネシアの若者たちは見事にそれを自分のものにしているようだ。


「バタムでまた夜逃げ倒産」(2015年4月7日)
バタム島プングル地区で操業していた金属パイプ螺子加工工場PTディヴァサラナメタル経営者が大量の借金を打ち捨てて姿をくらました。会社オーナーはリチャード・スティアワンなる人物で、かれはグループ会社PTディヴァインテルサラナの株主で経営者でもあり、それらふたつの会社が突然打ち捨てられた形になった。
どうやら急所になったのはディヴァインテルサラナの方らしく、BII〜メイバンクからの借入金6,490億ルピアが返済不能に陥り、銀行側からの会社清算訴訟が法廷に持ち込まれている。それ以外にも巨額の債務が諸方面にあるとのことで、債務総額は会社に残された資産とは桁違いのものになっているそうだ。
ディヴァサラナメタル労組委員長は、「会社経営者が国外に逃げたため操業はストップしている。従業員2百人は2015年1月以来、会社からの賃金支払いはゼロで、このままでは退職金も手に入らない懸念が高いため、会社内に残っている資産を誰にも持ち去れらないように、従業員が交代で見張りに立っている。」と状況を語った。工場に残されている資産はパイプ加工機器、数千本のパイプ、社用車など。この工場では、石油ガス輸送用パイプの螺子加工を行なっていたとのこと。パイプはほとんどが中国から輸入されている。誰かがそれらの資産を取りに現われたら、従業員たちは勤労報酬の権利を満たす要求の交渉にそれら資産を使うつもりであるとのこと。
バタムでは過去三年間に経営者夜逃げ倒産事件が少なくとも三件起こっている。前回起こったPTイーウーの事件では、外国人経営者数名が夜逃げの前に生産調整を行い、建屋のひとつに入っていた生産機器をあらかた運び出し、しばらくしたある晩、外国人全員が宿舎から逃亡したという、きわめて計画的な夜逃げ劇だった。残された従業員たちの給与や退職金に当てるには資産があまりにも少ないという状態にしてからの倒産で、今回のディヴァサラナメタルのケースはそこまで悪辣なものでなかったということが言えるかもしれない。
バタム市会議員はまた起こった不祥事に関して、このようなことが起こっても労働者に対する賃金支払い等の権利充足はかならず行なえるような仕組みを早く実行するよう市管理当局に呼びかけた。「経営者の身元がはっきりしている云々は何の保証にもならない。国外に逃亡されたらそれまでだ。操業する会社に対して倒産時の従業員給与保証を保険などを使って確保させるような義務付けを早く実践してほしい。」
不心得な経営者への対策でまた事業経営コストが増加する。正直者にあまり果報がないのがインドネシアなのかもしれない。


「民に知らさぬ法で法治する国?」(2015年4月16日)
2014年12月12日付けコンパス紙への投書"Keluhan Sopir Kendaraan Niaga"から
拝啓、編集部殿。商用車(ピックアップトラック)に対する貨物搭載許可規則の内容が本当はどうなっているのか、それを知りたいと望んでいます。わたしはバンテン州から頻繁に州外のブカシ、ルウィリヤン、プマランなどに向かいますが、その途上で各地の交通局職員に停止を命じられ、運送許可証を提示するよう求められるのです。わたしはもちろん商用車に義務付けられている有効な車検証を持っており、また車体にも車検合格有効期限の表示がなされているのですが、かれらが提示を要求するものは、それではないのです。
わたしはタングラン交通局事務所職員から、もう貨物搭載許可というような制度はなくなっているという話を聞きました。わたしはほっとして、その規定内容を記したもののフォトコピーをもらえないかと尋ねましたが、それはできないと言われました。だったら、インターネットでその規則を探すから、規則管理番号だけでも教えてほしいと頼みましたが、それも応じてもらえませんでした。
その規則をわざと国民の目から隠して、路上で役人が車を停めても反論できないようにし、運転者から金を搾取することが続けられるように全員で策謀しているのでしょうか?もしそうでないのなら、各州政府は道路を通過する貨物運送車両が他州のものであろうとも、そういう許可が強制できるように独自の規則を制定できるようになっているのでしょうか?
わたしが苦情しているわけは、わたしの商用車は自分のビジネスのための貨物を運送しているのであって、運送事業を行なっているのではないため、このような不条理が特に異様に感じられるからです。わたしはスカブミに農園を持っており、南タングランに住んでいて、自分の品物を特定の送り先に運ぶためにピックアップトラックを買ったのです。[ 南タングラン市在住、フレディ・イスカンダル ]


「プレミウムガソリンからプルタライトに」(2015年4月21日)
石油ガス事業プロセス改善チームが答申したプレミウムガソリン廃止案に対して、プルタミナが新しいガソリン種の発売を政府に提案し、政府は問題ないとして承認を与えた。この新しいガソリンは現在のプレミウム(RON88)とプルタマックス(RON92)の混合油で、仮称プルタライト(Pertalite)と命名されている。必然的に、この新種ガソリンはクオリティ(RON価)も価格もその中間に位置することになる。改善チームが提案した、プレミウム全廃によるプルタマックスへの移行と、プルタマックスの一部を補助金付き販売するという一物二価方式を採るよりは現場での混乱や悪用が少ないだろうという折衷案を実行者が出してきたものとこの提案を見ることができる。
プルタミナの計画によれば、プルタライトの発売は2015年5月で、そのための生産は中部ジャワ州ボヨラリのプルタミナ石油燃料ターミナルで行なうことにしており、既に5千キロリッターの生産能力が準備されている。もちろん最初は市場の反応を見定めることが優先され、需要が大きいことが判明すれば生産量は1.3万キロリッターまで増やす体制が既に構想されているとのこと。
都内29ヶ所のガソリンスタンドでの取扱開始が市場販売の皮切りで、ガソリンスタンドオーナーとの打ち合わせは2ヶ月前から進められてきている。さらにジャワ島内の主要都市部でも販売が5月中に開始され、市場動向いかんで次のステップの内容が決まっていくことになりそう。プルタライトの取扱を始めたガソリンスタンドは、これまでプレミウムを流していた給油ポンプをプルタライトに変更するため、プレミウムの給油ノズルが自動的に減っていくことになる。もしその流れがうまく形成されたなら、プレミウム廃止に対する世の中の抵抗は軽微なものとなり、公共運送機関専用の給油ポンプと給油ノズルが限られたガソリンスタンドに集約されていくことになるわけだが、ことがそううまく運ぶかどうか?
改善チームが答申したRON88ガソリン廃止は、入手コスト削減のからみが交じってのものだ。RON88ガソリンを使っている国はインドネシア周辺諸国にはもうなくなっており、インドネシアつまりプルタミナがシンガポール石油市場でRON88を買い付けようとすると市場価格が急騰するという現象が昔から繰り返されてきた。RON88ガソリンの輸入を全廃することで、インドネシアのガソリンコストは国際スタンダードにより近い位置で同期し、健全化されることになるというのがその改善チーム見解だ。しかし今回のプルタミナの提案に従えば、RON88の全廃は更に緩慢なものになる。
有鉛ガソリン廃止コミティ委員長は今回のプルタミナの提案に対して、根本解決にはまだ遠い、と次のようにコメントした。「現在生産されているユーロ4スタンダードの自動車にその新ガソリンは適合していない。今の車両エンジンに適したRON価は最低でもRON91であり、プルタミナが計画しているものはRON90になるだろうから、まだ不足している。マレーシア・タイ・ベトナムなど近隣諸国は既にRON91に満たないものは使わなくなっている。」
プレミウムを一般国民が使わなくなり、それがプルタライトに切り替わっても、インドネシアは依然として世界の流れから一歩遅れたところを歩き続けることになりそうだ。


「賃貸不動産の市況が悪化」(2015年4月22日)
都内で賃貸オフィススペースと賃貸アパートメントの稼動が激減している。特に高級クラスでそれが顕著になっている、とコリエールズインターナショナルインドネシアが発表した。リサーチ担当参事によれば、2015年第1四半期のCBD地区賃貸オフィススペース稼働率は92%で、前年同期の96.5%と比較すればその落ち込みは明白であるとのこと。非CBD地区でも94.6%から90.9%にダウンしている。これは政治経済状況が不安定であり、中でもオフィススペースやアパートメントの需要に大きく貢献していた石油ガスセクターが弱体化していることが大きい原因になっている由。もうひとつの要因は、賃貸料金やサービス料金が米ドル建てで行なわれてきたために、ルピア安が続いている昨今、テナントは実質的なコスト負担増加のやりくりに大わらわになっていること。
空きスペースを稼動させるために、オーナーはテナントの要求に歩み寄らざるを得ないため、賃貸料金は修正が進んでおり、今は月額平米あたり2〜10米ドルのレンジの中に納まりつつあるとのことだ。CBD地区のオフィススペース需要は4千4百平米減少し、オフィススペース賃貸料金平米当たり月額平均値は298,164ルピア、サービス料金は84,136ルピアになっているとジョーンズラングラサールは報告している。
2015〜2019年には都内にオフィスビルがどんどん完成して460万平米が新規に供給される見込みであり、2014年の稼働率96%は2019年に80%まで低下するものと見られている。アパートメントも類似の状況にあり、2万9千ユニットが新規供給される見込みになっている。
自動車販売に続いて小売業界も販売の伸びが鈍化しており、賃貸不動産にも同じお鉢が回ってきたようだ。


「メダンに大型オフィスビル」(2015年6月11日)
首都圏で有数の不動産デベロッパーであるアグンポドモログループが北スマトラ州メダン市内で大型オフィスビルの建設に取り組んでいる。クアラナム空港の開港以来、メダンへの商用客観光客の来訪は大いに活発化しており、メダンの経済再開発は新たな扉を開きつつある、と不動産関係者は事態を観察している。
ポドモロシティデリメダン支社GMも、メダン経済はこれからの全国経済成長センターのひとつになるだろうとの確信を語っている。アグンポドモロランドの子会社PTシナールムナラデリはメダン市中心部にプレミアムオフィスタワーと名付けたオフィスビルを建設中だ。このオフィスビルはスーパーブロックのポドモロシティデリメダンの中に設けられる27階建ての大型ビルで。オフィススペースは111.28平米から2,104.8平米まで多様にあり、平米当たり3千万ルピアで売却される。
メダン市内でこれまでオフィススペース需要はルコと呼ばれる店舗住宅が一般的に満たしてきたが、ルコは概して駐車スペースが限られており、また時おり発生する停電への対策が欠けているのが普通だった。プレミアムオフィスタワーはビル内での電力需要を百パーセントまかなえる自家発電設備を備えるため、入居者は停電の心配から解放される、とポドモロシティデリメダン支社GMは語っている。銀行・保険・農園・コンサルタントなどの業界が潜在顧客になるとのこと。
ポドモロシティデリメダンはメダン市内に5.2Haの広さを持つスーパーブロックで、ビジネス地区・モール・観光行楽エリア・アパートメントやコンドミニアム・5星級ホテルなどが林立するエリアだ。


「輸入貨物滞留に厳しい措置」(2015年6月25日)
国際航路貨物船が港で接岸して積荷を陸揚げした日から、その積荷が輸入手続きを終わらせて港を出て行くまでの日数を、輸入貨物ドゥエリングタイムと言う。同様に、輸出貨物にもドゥエリングタイムがあり、また船から船に乗り継ぐためにある港で乗り継ぎ待ちをするトランシップドゥエリングタイムもある。
そのいずれにせよ、ドゥエリングタイムが短ければ短いほど、生産効率のアップとコスト低減につながるのは言うまでもないことだ。ところが、輸入貨物に限ってドゥエリングタイムを故意に長くさせようとする輸入者がいる。輸出の場合、生産者は出来上がった輸出品を早急に船積することで売上代金が得られるため、港に輸出貨物を長期間置くようなことを普通はしない。トランシップも同様で、これは貨物輸送を委託された船会社が配船の都合上行なうことだから、輸出者や輸入者がそれを恣意的にどうこうするようなものでもない。つまり輸入貨物にのみ、輸入者が貨物を故意に港に置いておこうとする余地が残されているということなのである。
どうしてそのようなことを輸入者がするのかと言うと、港の輸入貨物の保安は国や自治体が関与しているために、港の外にある倉庫よりはるかに安全であるのが第一の理由。もうひとつ、港での貨物保管料金は公共事業という性格のために港外の倉庫会社に比べて料金が低く設定されており、長期保管をする場合の保管コストはその両者間でかなり違いが出る。つまり、輸入者にとってみれば、国内市場の商品在庫状況次第でいつでも放出できるストックを港に置いておくほうがビジネス効率を優れたものにできる、というのがメインの理由なのである。
ところが、大勢の輸入者がそのようなことをしはじめると、港の輸入貨物保管スペースが不足するようになる。どんどんやって来る船から下ろされるコンテナで港の保管スペースが満杯になれば、標準外の処置をしてでもどこかに暫定保管しなければ、船はスケジュールに従った運航ができなくなり、その船の航路にある各国の港でトラブルが発生することになる。国の威信を賭けて、そのような事態は避けようとどの国も考えるに決まっている。国内輸入者のわがままを、あの国の政府は統御もできないのかと言われて赤面しない国家リーダーがいるわけがない。
ジョコウィ大統領は、インドネシアの全開港でのドゥエリングタイム平均値を現在の5.5日から4.7日に短縮せよ、との指令を発した。つまり5.5日というのはアセアン域内で長過ぎる数値になっており、少なくとも世間並みの4.7日にもっていけ、ということらしい。
インドネシアの輸出入貨物の半分以上が通過するタンジュンプリウッ港に置かれている貨物の中で30日を超えて保管されている輸入コンテナはざらにあり、2月はもっともドゥエリングタイムが短いもので8〜9日の日数がかかっていた。輸入通関に関連して貨物の種類ごとに輸入許可を与える省庁が18あり、それらの省庁が輸入を承認した上で税関が輸入税の納税から物品虚偽申告等のスクリーニングを終えてやっと輸入貨物に国内搬入の許可が出る。そういう構造上の問題を抱えている上に、さらに輸入者のわがままが乗っかっているため、輸入貨物のドゥエリング日数は自ずと長くなる傾向を持っているのである。
大統領の指令に応じて商業大臣は、港に長期滞留しているコンテナの輸入者を洗い出し、その原因が恣意的なものであった場合はその輸入者をブラックリストに載せ、そのような輸入者が輸入したコンテナは運んできた船に乗せ返すか、あるいは船から下ろさせないような措置を採るつもりだ、との意向を表明した。また船が到着して貨物積降荷役を行なう前に輸入者に通関申告をさせる、事前申告の励行をもっと幅広く勧めていくことを考慮しているとも表明している。


「インドネシアの労働生産性」(2015年7月23日)
ILOインドネシアオフィスが報告したところによれば、2014年8月時点でのインドネシアの正社員が得ているひとりあたりの給与所得平均値は月額1,952,589ルピアで、平均値を下回っている人数は66.4%おり、その66.4%のひとびとが得ている所得の平均値は1,425,000ルピアでしかない。
インドネシアの給与所得者のうちで三人にひとりは低給与であり、低給与というのは総平均に満たない所得者の平均値から更に三分の二未満の階層を指している。その低給与で働いているインドネシア人勤労者の大半が女性で占められているのは、想像に余りあることだ。
言うまでもなく、インドネシアの各地方は経済力のバラつきが激しく、2015年度州別最低賃金を比較してみても、最高と最低の間には2.16倍の差がついている。それはつまり、低クオリティではあっても人間ひとりが生きていくための生活コスト自体にそれだけの地域的なバラつきがあるということを意味している。そういうバラつきの中に単一数値を持ち込むことは、往々にして人間をスポイルすることにつながっていく懸念が小さくないのだが・・・。
ともあれ、インドネシアの事業主の間で常識と化していることがらのひとつに、従業員の賃上げは最低賃金の上昇にスライドするというものがあり、雇用時に給与・賃金の金額がそのときの最低賃金額で合意されたなら、その従業員の所得は毎年最低賃金の上昇分しかアップしないということになる。つまり政府は国民労働者の所得上昇を図るために毎年最低賃金を上昇させているという現象となってそのセオリーが実践されていると見ることもできるのである。
ILOの2015年2月データでは、インドネシアの正社員従業員の51.7%が企業所在地の最低賃金額しか得ていないことが示されている。最低賃金というのは法的に定められている義務であって、違反すれば処罰が加えられるために事業主が好き勝手に対応できるものではない。反対に事業主の間からは、従業員が高い生産性を実現させて企業の収益を目覚しいものにできるのなら、最低賃金に拘泥することなく高い所得を与えるのにやぶさかではないと言明する声が数年前から増加し始めた。それを裏返しするなら、総労働人口中のふたりにひとりが小学校しか出ておらず、中卒以下が6割を超えている学歴の低さが貧しい勤労エトスと言われたことしかしない体質の源泉となっており、政治的配慮で操作されるこれまでの最低賃金システムのあり方は、経済性というもっと本質的な要素を重視する形に変えてほしいという実業界からの要請の声でもあるようだ。
その労働生産性だが、2013年に公表されたインドネシアの労働者一人当たり年間生産性は9千5百米ドルで、アセアン平均の1万7百米ドルを下回っており、マレーシアの5分の1でしかないというものだった。それがなんと2014年の公表数値では、一挙に2万米ドルにアップした。アジア生産性データベースの数値では、アジア諸国の労働者一人当たり年間生産性は次のようになっている。
シンガポール 11.44万米ドル
マレーシア 4.66万米ドル
タイ 2.29万米ドル
インドネシア 2.00万米ドル
中国 1.69万米ドル
フィリピン 1.47万米ドル
インド 1.19万米ドル
ベトナム 0.79万米ドル
ミャンマー 0.67万米ドル
カンボジャ 0.46万米ドル
このマクロの数字と自社というミクロの実相を見比べて、マクロの数字に傾くようなインドネシアの経営者は数少ないのではあるまいか?


「田舎に金が流れるルバラン」(2015年7月27日)
首都ジャカルタにインドネシア全国にある金の7割以上が集中していることから、全国から大勢の人間が首都圏に集まってくる。アーバナイゼーションが起こり、首都圏は人口過剰となり、生活環境の劣化は避けられず、スラム地区が膨張し、犯罪が多発する。ひとびとは人間的な生活クオリティを犠牲にして金銭の入手を優先させ、得た金銭で人工的な生活クオリティの豊かさを買おうとし、悪辣な物品マフィアの暗躍による価格操作で実質的な豊かさはいつまでも実現されないまま、故郷への憧れを募らせる。潤いを失っていく渇いた心に対する処方箋がイドゥルフィトリのためのムディッだ。
故郷にいる一家一族親類縁者への土産は首都で得た金銭。一年が354日のイスラムカレンダーで年に一度のイドゥルフィトリ大祭の機会に、首都圏に集中している金が大量に地方部に分散される。ルバラン帰省というのは、都市部に集中している金を地方部に分散させる経済平準化機能を果たしているのである。
その同じ機会に、海外出稼ぎ者も故郷のファミリーへの仕送りを盛大に行なうから、インドネシアの田舎では年に一度、常軌を逸する好景気が訪れる。年々都市部から地方部へルバラン帰省者によって運ばれる金の総額をインドネシア銀行は次のように見積もっている。
2011年 80.3兆ルピア
2012年 85.7兆ルピア
2013年 103.2兆ルピア
2014年 124.8兆ルピア
2015年 125.2兆ルピア
中央統計庁データでは、ルバラン月のマネーサプライ総額が次のように記録されている。(但し15年は5月が最新データになっている。)
経済平準化の効果がたいへん大きいことがこのデータ比較からわかると思われる。
2011年8月 324.7兆ルピア
2012年8月 327.1兆ルピア
2013年8月 359.4兆ルピア
2014年7月 452.8兆ルピア
2015年5月 406.5兆ルピア (7月には数割アップするにちがいない)
海外出稼ぎ者からの仕送りの多くはルバラン前に送られてくる。実家のルバラン祝祭のための費用に充当するためであり、その大半は衣料品と飲食料理等の出費になる。帰省者が同じように故郷へ仕送りするケースがないわけではないが、帰省者が持ち帰る金がやはり圧倒的に大きいようだ。中には現金でなく、故郷の人間が欲しがっていたオートバイ、スマートフォン、テレビなどの現物にして土産とするケースも少なくない。中部ジャワ州ウォノギリに向かう帰省者のひとりは、故郷の一家一族にバギバギするために現金を3百万ルピアほど持ってきた、と語っている。ひとりひとりの金額は慎ましいものであっても、厖大な数の人間が持ち帰る金額の合計はたいへんなものになるのである。
地方部に経済平準化をもたらす帰省者の現金土産の用途が変化してきている、と経済専門家が指摘した。つまり、昔は土地/農地あるいは牛などの資本財や投資に使われる部分があったのだが、その傾向はどんどん低下しており、都市部から地方部へもたらされる現金は飲食・衣料・行楽などの消費用途がもっぱらになってきているそうだ。もちろん購買という消費行動は商品生産者やサービス提供者にとって生産活動を活発化させる契機になるものであり、間接的な生産プッシュという生産性を持っているのは間違いないのだが、地方部住民の個人的な生産活動に直接的な関わりを持つものへの出費があまり見られなくなっていると言うのである。
それは現代文明がもたらしている現代化という様相に合致するものではあるものの、都市部に出て行った人間ですら個人的なサイドジョブで金儲けをはかることに意欲満々のひとびととは対照的な地方人のライフスタイルの変化は、興味深いものがあると言えよう。


「プルタライトは好調な売行き」(2015年8月17日)
2015年7月24日にジャカルタ・バンドン・スラバヤでテスト販売が開始されたプルタミナの石油燃料新製品プルタライト(Pertalite)の販売状況は、プルタミナによれば、きわめて好調とのこと。補助金付のRON88ガソリンである「プレミウム」と補助金なしのRON92ガソリン「プルタマックス」の中間を行くRON90のプルタライトは、「プレミウム」と「プルタマックス」の価格差が極端であるためにその中間レンジを開いて消費者の抵抗感をやわらげることを目的に政府とプルタミナが新たに設けたガソリン種であり、プレミウムの市場供給パイプを狭めて補助金なしガソリンへ誘導するためのステップではないかという消費者からの不審の声をプルタミナ側は強く否定している。とはいえ、政府の石油燃料補助金廃止は既定の方針であって、方針遂行のためにはプレミウムが廃止されなければならず、プレミウムガソリンが市場から姿を消す日は必ずやってくる。
プルタライトのテスト販売はジャカルタとバンドンを中心に68のガソリンスタンド、ジャワ島東部はスラバヤを中心に33のガソリンスタンドが参加する計画だが、テスト販売初日にスラバヤ・シドアルジョ・モジョクルトなどのジャワ島東部地区では一日に5万リッター近いプルタライトがガソリンスタンド30店で販売され、二日目にはそれが7割増しに急騰した。ジャワ島西部でも飛ぶような売行きとなり、66ヶ所のガソリンスタンドが初日は9.9万リッター、二日目は一気に18.7万リッターを販売した。
テスト販売がほぼ3週間を経過した現在、プルタミナによれば、プレミウムガソリンの販売量は平常時から13%減少し、プルタライトの販売量はプレミウムの減少分と一致しているとのこと。プルタマックスの販売量は安定しており、プルタマックスからプルタライトへの移行は起こっていない由。プルタミナはその分析に従い、各ガソリンスタンドへのプルタライト供給量を一日平均4千5百リッターと決めている。プレミウムの販売量がそれだけ減ったということのようだ。プルタライト発売前の石油燃料国内市場販売量はプレミウムが79%を占めていたが、今やそれが68%にダウンしている。
PTプルタミナの企業広報担当副社長は、「プルタライトの販売が好調だからと言って、無理やりプレミウムを廃止してプルタライトに絞り込むようなことはしない。プルタライトの発売は消費者の選択肢を豊富にすることが目的なのであり、プレミウムはクオータに従って必ず市場への供給が継続される。プレミウムに取って替わってプルタライトをその後釜に座らせるというようなことではなく、市場動向に即して取扱って行く。」と強調している。
プルタライトのテスト販売はジャワ島ばかりでなく、バリ島および西ヌサトゥンガラ州にまで拡大され、既に164ヶ所のガソリンスタンドで購入できるようになっている。テスト販売は2ヶ月間続けられ、その間はリッター8千4百ルピアの価格で固定されるが、テスト期間が終われば石油国際相場と対米ドルルピアレートという変動要因から算出されるフローティング価格方式に移行する。その方式はプルタマックスで使われているものだ。


「監督機能を見下している!?」(2015年8月28日)
2015年4月30日付けコンパス紙への投書"Remehkan Fungsi Pengawasan"から
拝啓、編集部殿。スカルディ・リナキッ氏がBTN銀行代表監査役の座に就くことを辞退されたニュースを聞いて、実に胸のすく思いをしています。
「空っぽの頭で仕事を受けることは、わたしにはできません。」銀行セクターの業務に疎いと思ったスカルディ氏の言葉がそれでした。最近、種々の国有事業体で監査役に就任しているひとたちがすべて「空っぽの頭」だなどとひとからげにするつもりは、わたしにはありません。経済・金融・銀行などの分野で経験を持つひとも一部にはいらっしゃるのですから。しかしそうでないひとびとは明らかに報償として監査役に任命されたように見えます。それが世間から批判を浴びているのです。
このような任命が法規で定められた監査役制度への侮蔑であるのは疑いありません。国有株式会社は国有事業体の一部として2003年国有事業体法に服従しなければならないことをわれわれは知っているのです。そして更にまた、国有事業体法によれば、国有株式会社は2007年株式会社法にも統制されています。株式会社法は株式会社の諸機関、つまり定期株主総会、監査役会、取締役会などを規定しています。監査役会は監視機能を担っているため、企業の発展にとって、その役割はとても重要です。監査役は大きい責任を負っています。国有株式会社の汚職事件で、監査役が取り調べられることも起こっています。[ インドネシア大学法学部修士課程教官、Aゼン・ウマル・プルバ ]


「輸入貨物の動きをもっとスピーディに」(2015年9月17日)
輸入されたコンテナ貨物がタンジュンプリオッ港に陸揚げされてから引き出されるまで、5〜6日かかっている。そのドゥエリングタイムを短縮せよという命題が内閣関連省庁に与えられており、次のような対策を講じて日数を2〜2.5日削減する方針が打ち出された。
1)違反歴がなく事業内容が条件を満たしている輸入者は、グリーンレーン輸入通関資格を申請することができる。グリーンレーン通関では、原則的に貨物の現品検査が行なわれず、定期的な監査が行なわれるだけであるため、ドゥエリングタイムは短い。このグリーンレーン通関輸入者をもっと増やすことで、全体のドゥエリングタイムが圧縮できる。
2)グリーンレーン通関輸入者の船舶入港前通関における書類検査対象が多すぎるため、ランダム抽出方式に変えて書類検査実数を減らし、スピードアップをはかる。
3)市場に輸入商品を流すタイミングをはかりながら港内コンテナヤードで故意に貨物蔵置を行なう輸入者がおり、それがドゥエリングタイムを長いものにしている。コンテナヤードでの保管料金が巷の倉庫より高いレベルになれば故意の貨物蔵置は無くなるだろうから、コンテナヤードの保管料金を値上げする。現在、規定日数を超えたコンテナヤードでの貨物保管にはペナルティがかけられているが、ペナルティはそのまま継続する。
4)現在、鉄道を使ったコンテナ貨物輸送は、港内パソソ貨物駅をターミナルとしており、舷側とパソソ駅間のコンテナ移動はトラックを使わなければならず、ダブルハンドリングになるため利用者が少ない。パソソから埠頭舷側まで鉄道線路を延長させる話が何年も前から行なわれているが、いまだに実現しておらず、これを大統領の鶴の一声で実現させる。
5)総合情報システム(ICT)の改革を行い、タリフを値上げする。値上げ分は従業員福祉向上を使途とする。
6)危険物や問題のある貨物の入ったコンテナを収容する特別ゾーンを設ける。輸入手続きで時間のかかりそうなコンテナを別の場所に集め、コンテナヤードは流れの速いものを置くようにし、動きの効率アップをはかる。
7)20省庁が124種の輸入許認可を設けている。各省庁はそれを一本化し、20省庁20許認可に圧縮する。
上の諸方針の中で、すぐに行なえるものもあるが、長い時間を必要とするものもある。政府はまずできるものから開始してドゥエリングタイムを徐々に引き下げていこうとの考えでおり、その成果が短期間に目標値をクリヤーするかどうかはまだわからない。税関総局は、グリーンレーンと対極にあるレッドレーン通関件数を今は6%としており、現品検査を行なうために時間のかかるレッドレーン通関をそれ以上減らすことは困難である模様。


「プルタライトは販売好調」(2015年9月21日)
RON90のガソリンであるプルタライトが15年7月24日に発売されてから二ヶ月近くが経過した。その間にプルタミナは全国の125県市にある874ヶ所のガソリンスタンドでプルタライトの販売を進めさせ、各スタンドでは一日平均2.5キロリッターのプルタライトが販売されている。
政府補助金のつけられていないプルタライトは8千ルピア/リッターで販売されており、補助金付きプレミウムとあまり差がない。
プルタライトの売行きは好調で、石油燃料消費量の13.5%を占めており、プレミウムはプルタライト発売前の79%から67.5%にシェアが低下している。
プルタミナは2015年中に全国で1千5百ヶ所のガソリンスタンドにプルタライトを販売させる目標を立てており、燃料消費量シェアを17%まで伸ばしたい意向。


「カーブするトラック」(2015年9月23・24日)
インドネシアでは物資輸送のメインがトラックによる陸上運送でなされている。目的地がどんなに遠かろうと、トラックで荷物を送ることは普通に行なわれている。もちろんトラックがフェリーに乗るという手段をまじえて。
ドアツードアの利便性と積み換えなしの経済合理性、そして法規不服従社会のゆえに法定重量制限が運転手の一存でどうにでもなる面を重視する荷主たちにとって、道路を破壊しないように定められた法定重量制限の二倍でも三倍でも積ませて運送させることがかれらの経済合理性に叶う行動になっているというわけだ。
この体質は石油燃料消費を高め、大気汚染を激しくし、交通渋滞を生み、道路破損の修理工事を年中行なうことを余儀なくし、国民生活に種々の悪影響を及ぼすことから、政府は物資の鉄道輸送・海上輸送を増やすことに腐心しているが、物資流通配送分野ではトラック運送のコストメリットが大きいだけに、なかなか大量輸送へ移ろうとする荷主が増加せず、難しい問題になっている。トラック運送のコストを高める政策を採れば移行が起こるのは間違いないものの、それが物品の市場価格に転嫁されるのは言うまでも無く、インフレ昂進が天秤の他端にぶら下がっているため、思うに任せないのが現実のようだ。
だがもちろんリスクもある。中でも最大のリスクは、積荷とトラックが姿を消し、数十億ルピアの損失と荷受人からの苦情が浴びせかけられること。特に、工事プロジェクトのための資材でそれが起こると、荷受人の工事期限がからんでくるだけに、リカバリー仕事はたいへんなことになる。そういう曲者トラック運転手はカーブ運転手(sopir belokan)と呼ばれている。コンテナがそういう消え方をするとbelokan kontainer と呼ばれる。まっすぐ目的地に着かないで、途中でカーブするということらしい。定評ある運送会社が手配してきたトラックですら、そのようなことが起こる。どうやらインドネシアでそれを防ぐのは、ほとんど不可能に近いようだ。
この犯罪はトラック運転手自身が行なうものもあれば、数人の窃盗団で行なわれるものもある。盗んだ品物とトラックを隠すには倉庫が必要であり、盗品をスピーディに故買屋に売り渡すための手配も必要だ。運転手自身が行なう場合は先に故買屋と話がついているケースが普通であり、窃盗団が行なう場合は故買屋が先にからんでいるものもあれば、盗んでから売り先を探すようなケースもある。窃盗団が行なう場合、トラック運転手が仲間になっているものもあるし、あるいは何も知らない善人で、窃盗グループに利用されているだけというケースもある。次の事件はそういうケースの一例だが、それでもトラック運転手はカーブ運転手と呼ばれるのが普通だ。
2015年5月はじめのある日、テルコム社が北スマトラ州で行なっている光ファイバー工事のためのファイバー線をタングラン県バララジャにある製造工場が工事現場向けに送り出した。そして63億ルピア相当の積荷がトラックごと、姿を消してしまったのである。
最初、光ファイバー製造工場の社員が自営運送業者Zに運送の注文を出してきた。Zは自分でトラックを持っていないため、工場に近いバララジャでフリーのトラックを調達した。Zはそのトラック運転手に東ジャカルタ市プロガドンのとある倉庫へ行くよう命じた。プロガドンの倉庫では、Zがチャーターしたトラック2台が待っていた。バララジャのトラックは荷を降ろすと帰るよう命じられた。荷は二分され、2台のトラックはバンテン州チレゴンへ向かうよう命じられた。Zはチレゴンに着いたトラック2台を先導してチルンシへ向かい、そこで故買屋に積荷を売り渡した。Zがその取引で手に入れた金額はわずか3千2百万ルピアだった。
5月15日、今度はバララジャの光ファイバー工場の別の社員がZに運送注文を出してきた。チルンシの分工場で製品を受取り、西スマトラ州パダンへ運送せよという。Zは北ジャカルタ市マルンダでトラックを調達し、トラック運転手に積荷の光ファイバー6ロールを受け取りに行かせた。ところが、チルンシから自動車専用道を通って南タングラン市スルポンまで来る間に、トラック運転手は一台のミニバスに尾行されているのに気付いた。そのミニバスには大勢の男たちが乗っている。トラック運転手は積荷が強奪されるのではないかと心配し、急遽レストエリアに入って様子を見ようとした。運転手はレストエリア警備員に状況を訴えた。
そうこうしているうちに、Zとその一味が別の大型トラックに乗ってレストエリアに現われたのだ。トラック運転手はZにチャーターされたのだから、一安心する。Zはレストエリア警備員に対して自分が荷物のオーナーだと説明し、トラックに載っていた積荷を自分の乗ってきた大型トラックに移させ、大型トラックにはマルンダへ行くよう命じた。そしてKBN保税工業団地内でロールを一個下ろして故買屋に売り、4千2百万ルピアを手に入れた。残りは倉庫に運ばせて少しずつ売り払っていたが、7月になって盗品をまだ全部売り切らないうちに警察に逮捕された。Zの手下たちは三人逮捕され、他の5人は警察が追跡している。手下たちはすべてデポッ市あるいは東ジャカルタ市の住民だった。
15年6月には、別のトラックカーブ事件が起こった。チレゴンの製糖工場からカラワンの別会社に送られる砂糖60トンを2台のトラックが共謀してカーブし、そのまま故買屋の倉庫に走って積荷の一部を売り渡した。かれらは積荷を積んだまま姿を消すような危ない橋を渡らず、積荷のサックに入っている砂糖を各サックから1キロずつくすねたのである。被害者からの訴えで、運転手二人は警察に逮捕されている。
積荷の一部をくすねて別の者に売り渡す手法は、プルタミナの石油燃料配送でもよく使われている。特に補助金のつけられたプレミウムやソラルでそれが行なわれ、買い取った者はそれを補助金なし価格で販売して大儲けするという手法だ。外国船に洋上で売り渡す石油燃料闇販売でもその盗品が頻繁に使われている。石油燃料は液体であり、タンク車からチョロリと排出するため、その世界では「ションベン」と呼ばれている。砂糖の場合は、果たしてどういう隠語が使われるのだろうか?


「節約を嫌うインドネシア人」(2015年10月29日)
インドネシアの産業界が本気で節電を行なうなら年間数千億ルピアのコスト削減が可能になるため、この目標に注力していくことはたいへん大きい効果を収めることができる、と鉱エネ省が表明した。
再生可能・新エネルギー・エネルギー保存総局は2011年から2014年まで517工場とモールやオフィスなど305ビルに対するエネルギー利用監査を行なってきた。その822利用者はすべて、年間に石油6千トン相当のエネルギー消費を行なっている法人で、これまでのところ、ジャボデタベッ地区だけが監査対象となっている。
2014年の監査では180工場と120ビルが対象となり、監査員はその実態に対して515ギガワット時の電力消費節減が可能であるとの結論をくだした。現行電力タリフに照らせば、3千9百億ルピア相当になる。
180工場は主に繊維セクターや鉄鋼加工セクター、ビルはモール・公共オフィスビル・民間オフィスビルなどが対象に選ばれている。監査は、エネルギー使用が浪費的になっているポイントを検出し、そのポイントに対して節減のための提案を行なうという内容で、監査実施者はすべて、職業能力認定機関のサーティフィケートを持っている者ばかりだ。認定機関はこれまでにエネルギー保存専門家のサーティフィケートを115人に与えている。
エネルギー保存に関する2009年政令第70号で、年間に石油6千トン相当のエネルギー消費を行なう法人に対してエネルギー担当マネージャーを置くことが義務付けられており、エネルギー消費に関する管理と省エネルギーに関する発案がその主管業務になる。これまでのところ、その法規を守って専任マネージャーを置いている工場は182、ビルは10のみであり、なかなか規則が実行されないのが実態だ。ジャボデタベッ地区に大型モールだけでも170ヶ所あるのだから、実態はまるでお寒い限りということが言えよう。
たとえ専任マネージャーがいなくとも、経営者の意識次第で省エネルギーを組織的に行なうことは可能だし、どこをどうすれば省エネルギーが実現するかということも監査を受けた法人にはもうわかっていることではあるものの、監査員の提案に従ってエネルギー節減に精を出すエネルギー利用者が続出している気配はない、と鉱エネ省側は印象を述べている。
エネルギー保存に関する政令第70/2009号は法的強制力を強く押し出しておらず、産業界の事業経営センスに委ねる立場を採っているのだが、どうやらインドネシアの事業経営センスというのは、そういう傾向にあるらしい。「1メガワットの電力を作り出すためのコストよりも、1メガワットの消費を減らすためにかけるコストの方が桁違いに小さいというのに・・・。」とエネルギー保存局長は嘆いている。
鉱エネ省は、すべての政府機関に太陽電池を設置させて、昼間の電力消費は太陽光でまかなうよう提案する意向だが、ソーラーパネルのストックが国内にあまりにも少ないことがネックになる可能性が高い。もちろん国内の一部では太陽電池の利用を進めている部分があるものの、この代替エネルギー利用は大勢を形成するに至っておらず、そういう努力をしないまま「電力不足だ。発電所を建設して発電量を増やせ。」と叫んでいるひとびとがメインを占めているということのようだ。インドネシアに既に設置されている太陽光発電能力は、国家エネルギー評議会によれば、22.45メガワットであるとのこと。


「電力料金補助金の抜け穴」(2015年10月30日)
政府は電力料金にも補助金をつけている。PLNの電力利用契約区分に従って、対象区分の料金タリフが割安になっているものがある。一般家庭の小容量消費者、つまり450wと900wの契約家庭は4千5百万軒あってもっとも数が多く、このセグメントに向けられる補助金が最大ポーションを占めている。
セグメント別の補助金支給金額は次のようになる。
R一般家庭、I工場、Bオフィス等、S福祉施設で数字はカテゴリー区分
w数値は契約消費電力量
R−1/450w 27.6兆ルピア
R−1/900w 27.7兆ルピア
I−2/14k〜200kw 2.5兆ルピア
B−1/2,200〜5,500w 1.6兆ルピア
S−2/3,500〜200Kw 1.4兆ルピア
R−1/1,300w 0.8兆ルピア
B−1/900w 0.7兆ルピア
B−1/1,300w 0.67兆ルピア
S−2/900w 0.5兆ルピア
S−2/450w 0.48兆ルピア
ところが、補助金を享受している4千5百万家庭の中に、実際には裕福な家庭が多数混じりこんでおり、補助金の対象にするには妥当でない。そういう家庭が2千万軒ある、と鉱エネ省電力局料金補助金次局長は述べている。
「一軒の家に900wのメーターを二個つけているところや、コスビジネスを営んでいる家がある。貧困家庭が想定されている小容量消費者カテゴリーに入っているものの、実態は決して貧困ではない。そのような消費者は実態に合わせて整理していかなければならない。補助金を交付するのはまちがいだ。今年一杯はそのような家庭も現状のまま継続するが、2016年には対象から除外し、補助金適用先は2,470万家庭に減らす。そうすることによって、現在電力分野に使われている66兆ルピアの補助金が、来年には36兆ルピアに削減される。そもそも補助金を受けるのが妥当な貧困家庭というのは、貧困対策促進国家チームのデータによれば貧困ライン下と近似貧困階層で1,550万家庭しかないことになっている。」
補助金交付対象から除外される一般家庭は、補助金なしカテゴリーである1,300wもしくは2,200wの区分に移される。その変更は費用がかからない、とPLNは表明している。


「政府が不法輸入に宣戦布告」(2015年11月12日)
インドネシアの輸入法規は、すべての輸入品を新品でなければならない、と定めている。中古品を輸入する場合、その品目を監督する省庁から許可を得て税関にリコメンデーションを提出しなければ貨物の輸入通関が通らないというのが原則だ。
しかし商品のクオリティよりも価格を購買行動の優先ファクターにするインドネシアの消費者は、中古品に旺盛な購買意欲を示す。だから中古品を国内市場に入れて新品の数割という値付けをするだけで、それが日常生活用品であるなら、右から左へ飛ぶように流れていくのである。ましてや、先進諸国でゴミ扱いされて捨てられている古着なら、巨大な利益が約束されることだろう。
北ジャカルタ市警はチャクンの貸し倉庫内に大量の古着が保管されているのを発見して押収した。16万5千着分の古着は、観光スポットとして日の出の勢いの東南スラウェシ州ワカトビに韓国・日本・中国などから入ってきたそうだ。そこからクンダリに移され、マカッサルまでコンテナで陸路と海路を経て運ばれる。マカッサルからはスラバヤに積み出され、スラバヤからジャカルタに送られて来て、その倉庫に置かれた。その古着を販売員がジャカルタ首都圏やバンドンのパサルに売り込みに行く。古着一着は1万から1.5万ルピアというのが相場だが、およそ150着が詰め込まれた袋単位で販売されることが多い。
もちろん、不法輸入品は中古品だけと限らない。新品の不法輸入もさまざまな手口が使われている。関税輸入税等を納めず、正規輸入代理店の費用やマージンより小さいコストで限られた数量を市場に流せるなら、市場価格は正規品の5〜6割にできることもある。携帯電話の新品がそんなメカニズムで国内市場に流れ込み、ブラックマーケット商品として消費者の手に渡っている。
上の古着のケースのような、闇の中を通って陸揚げされる密輸入だけでなく、正式輸入通関手続きをごまかして国内市場に品物を入れようとする動きもある。大蔵省税関総局は、全国の開港における輸入通関手続きに目を光らせ、また抜け荷を積んでインドネシアの陸地を目指し、海上を走る小型船にも目を光らせているが、海上で税関高速パトロール艇の臨検から免れた密輸船の貨物はほぼ確実に国内市場に流通することになる。
2014年に税関が行なった家電品不法輸入摘発は96件416億ルピア相当だったが、2015年は10月までで129件747億ルピア相当が摘発されており、政府が健全な産業界の成育を目標にして不法輸入品撲滅の旗を掲げる下地は十分にあったと言える。
飲食品・医薬品・化粧品の安全性に関する市場での統制は食品薬品監督庁が行なっている。2015年8〜9月に行なわれた第6回ストルム作戦では、不法医薬品・伝統薬品・化粧品3,671点が押収された。2014年の第5回作戦でも3,657点が押収されており、相変わらず当局の監督外で製造販売されている物品が多数、市場に流れている。
第6回作戦で押収されたものの内訳は、違法医薬品827点、違法伝統薬品(化学物質混入を含む)1,447点、違法化粧品1,397点。それらの物品が見つかったのは、製造場所・流通機構・小売業者・保税地区など123ヶ所。地域別にはバンテン州が190点で最多、続いてジャカルタ120点、中部ジャワ州65点、リアウ島嶼州17点などとなっている。中でも国内製造されているものは手口がますます悪質になっていて、ある場所で数日間夜中に製造してからまた別の場所へ移動して同じように製造するやり方で隣近所や官憲の目をくらましたり、あるいは製品ストックを「売り家」表示されている空き家の中に隠すというような手が使われている由。
しかし、外国から不法輸入された品物が増加傾向にあり、第6回作戦で押収された品物の42%が外国産であったとのこと。食品薬品監督庁はインドネシアインターポールの協力を得て発見された外国産商品の本国政府にその事実を報告し、相手国に協力を要請する動きを開始している。


「ビジネスしやすさに改善」(2015年11月16日)
世銀が毎年公表しているドゥーイングビジネス国別世界ランキングの2016年版で、インドネシアは189カ国中の109位となっている。このレポートは2014年6月2日から15年6月1日までの間に行われたサーベイ結果を示しており、前回のランキングが120位だったのを見るなら、その一年間でインドネシアの状況は顕著に改善されたということができるだろう。実際、ビジネス許認可改革についてインドネシアは世界第三位と評価されているのだから。
ところが、個別インジケータの評価となると、10インジケータの半分でランキングは悪化した。中でも、ビジネス開始のためのプロセスは163位から173位に暴落した。ほかのインジケータについては、次のような状況だ。
建築許可 110位から107位へ
電力アクセス 45位から46位へ
不動産登記 131位から131へ
借入金入手 71位から70位へ
投資家保護 87位から88位へ
納税 160位から148位へ
国際通商 104位から105位へ
契約履行 170位から170位へ
事業清算プロセス 73位から77位へ
インドネシア大学経済ビジネス学部教官は今回のレポートについて、相変わらず存在しているいくつかのベーシックな問題がその評価結果を生んでいる、とコメントした。まずもっとも基本的なポジションにあるコルプシ問題がハイコスト経済を招いていること。事業許認可に対するビューロクラシーも効率改善にまだ至っておらず、そこには劣悪な中央と地方のコーディネーションが影を落としている。BKPMが開始した統合サービス窓口がその非効率にメスを入れる突破口となることが期待されている。


「燃料価格値下がり」(2016年1月11日)
石油燃料消費者価格が2016年1月5日0時から一斉に引き下げられた。石油の国際相場が下がっているのを踏まえての値下げであり、この値下げによってロジスティック業界がコストダウンを料金に反映させれば消費者物価が低下するため、政府はロジスティック業界に料金引き下げを呼びかけている。同じことは運輸業界や製造業界にも要請されているが、いまだポジティブな反応は見られない。
また、政府が計画しているエネルギー保存基金の徴収は延期された。この基金はプレミウムガソリン購入者からリッター当たり2百ルピア、ソラル購入者からリッター当たり3百ルピアを徴収する計画だが、補助金付き石油燃料がオープン販売されている今の状況下にこの基金を課すことは、タテマエを実態からますます遊離させて社会生活に混乱の度を高める副作用をもたらす可能性が高く、政府がもっとすっきりさせた形で開始することを望む意図は十分に理解できる。石油燃料の最新価格は次の通り。
(数字はリッター当たりのルピア価格)
Pertamax Plus 9,650 ⇒ 9,400
Pertamax DKI Jabar 8,650 ⇒ 8,500
Pertamax Jateng DIY 8,750 ⇒ 8,600
Pertamax Jatim 8,750 ⇒ 8,600
Pertalite (RON90) 8,250 ⇒ 7,900
Premium JAMALI 7,400 ⇒ 7,050
Premium Non JAMALI 7,300 ⇒ 6,950
Pertamina Dex 9,850 ⇒ 9,600
Solar subsidi 6,700 ⇒ 5,650
Solar non subsidi 8,300 ⇒ 8,050
Minyak tanah 2,500 ⇒ 2,500
JAMALI = JAwa, MAdura, baLI
またLPG価格も引き下げられた。こちらはボンベ一個あたりの値下がり幅。
LPG 12kg DKI 5,600
LPG 12kg rata-rata 5,800
LPG 6kg 2,000
Bright Gas 5.5kg 5,000
Ease Gas 12kg 6,000
Ease Gas 14kg 8,000


「妥当な人間を用意しろ!」(2016年1月21日)
現政権の国内インフラ建設は目を見張る勢いで進展している。首都ジャカルタだけをとらえても、地下鉄MRTに続いてモノレールに代わるLRTプロジェクト、スカルノハッタ空港鉄道、高架自動車専用道や高架一般道新規建設など、盛りたくさんの勢いだ。地方部でも、カリマンタン島とスラウェシ島で長距離鉄道建設が開始され、現在の鉄道線路総延長キロ数5,434キロは数年後に8,692キロに激増する。
運輸部門に関する政府の中期計画によれば、現在外国に開かれている海港数278は2019年に450港に増加し、同様に237空港は252に増える。国道も自動車専用道も増加の一途をたどるのは明白だ。
インフラの充実は運輸業界に良い結果をもたらす。質量共に不足していたインフラのために、ロジスティックコストはGNPの26%というアセアン加盟国中でもっとも高いものになっていた。
国内物資大量輸送構想のひとつとして、政府は海上ハイウエープロジェクトをスタートさせた。国内に分散する島々を結ぶ大動脈を海上に構築するのがその主旨であり、53隻の貨客船を運航させて人と貨物の太い流れを作り出そうという計画だ。2017年までには投入船舶が188隻になる。
ジャワ高外低という経済構造のために、これまで国内海運業界は外島部特にインドネシア東部地域向け海上運賃を高いものにしなければならなかった。ジャカルタやスラバヤからコンテナを100本運んでも、その船がジャワ島に戻るとき中身の入ったコンテナはたとえば10本程度しかなく、90本の空コンテナを海運会社は自費で運ばなければならないのだ。
その異様な輸送コスト高が遅れている東部地域の経済発展の足を引っ張るという事態を招いていた。その実態は、たとえばパプア島の最低賃金を見ればわかるだろう。パプア島原住民の大半は採集による自給自足生活をしており、最低賃金、あるいは貨幣経済そのものにも、まだかかとくらいまでしか浸かっていない状況なのだから。
ジャワ島に比べてインフラ建設が遅れ、大きい経済格差を抱える外島部にいくら工場を誘致させようと税制上の恩典を用意しても、まだまだジャワ島で操業することのメリットを超えるほどのものにならないのは、工場経営者たちが一番良く知っている。ジャワ島への事業投資が相変わらず優勢な事実がそのことを証明している。
政府の開発・建設・投資計画が華々しく進められているのは素晴らしいことではあるが、運輸システムというのは人間が動かさなければならない。人間が動かし、それを別の人間が監視し、動かした設備機材をまた別の人間がメンテナンスするのだ。インドネシアにそれが文化として根付いているのだろうか?
巨大な橋が倒壊し、トランスジャカルタバスが炎上し、オンボロでガタガタの都バス運転手が乗客のことなど考えずに手に入る金の勘定に精出しているありさまや、バスオーナーがいつまでもバスの修理を行わないため路上走行適性不可で都庁に続々と差し押さえられている実態を見るにつけ、ここにあるのはまったく異なった文化なのだということにうなずかないひとは多分いないだろう。
最先端技術に支えられた効用度の高い機器はいくらでもウエルカムだが、巨額の投資が必要だ。政府がそれを受けて立つのはよいが、文化を、その機器の高い効用度を最低限の再投資で実現させるための人間を仕立てるのは、容易なことではない。
インドネシアの製造現場でQCグループコンセプトは既に根付いている。国内のすべての産業界の風土を浸している文化に多少なりともそのようなコンセプトを滲ませていく努力はなされているのだろうか?
政府はインフラ建設から運輸システム構築といった計画を意欲的に進めているが、そこに適切な人間を用意することをおざなりにしてはならない、とピーテル・ゲロ氏は上記のように警告している。


「事業手続きに3時間許認可制度導入」(2016年1月25日)
許認可手続きを3時間で仕上げるというスピードビューロクラシーが開始された。その対象になっているものは、次の8種類との由。
* 投資基本承認 Izin Prinsip
* 外国人雇用許可 IMTA
* 納税者番号 NPWP
* 会社設立承認 SK Pengesahan と会社設立証書 Akta Pendirian
* 会社登録証 TDP
* 外国人雇用計画書 RPTKA
* 製造者-輸入者認識番号 API-P
* 通関基本番号 NIK
ユスフ・カラ副大統領はこのサービス開始にあたり、行政手続き効率化は政府の四大ターゲットのひとつであり、これまで遅いと言われていた手続きの迅速化は今後の経済成長を促すものになる、と述べている。
他の三つのターゲットは金融セクターに10%を切る事業貸付金金利率を実現させること、インフラ建設分野では2016年の計画着手を5ヶ月早めること、エネルギー分野では電力確保を推進することとなっている。許認可手続きのスピードアップは各省庁がBKPMに対して手続きの委託を進めることがテーマになっている。
BKPMのワンストップ統合サービスセンターは設立されてから一年間に17,238件の許認可を与え、各省庁からの手続き委託も162種類がゆだねられた。3時間手続きは投資金額1千億ルピア(8百万米ドル)超もしくは雇用者数1千人超の案件を投資者が直接手続きする場合に適用される、とBKPM長官は説明している。また、3時間手続きを受ける投資案件の利用銀行としてBNI銀行が指定されている。BNI銀行は法務人権省の企業設立承認プロセスとオンライン接続している唯一の銀行であり、また外国人雇用に際して労働省に納める基金もBNI銀行と労働省間でオンライン化される予定。
2016年1月11日時点でその3時間手続きが7社に対して既に行われた。その大型投資者は製造業、発電、港湾、畜産などのセクターに総額17.85兆ルピアの投資を計画している。


「マックスリーンとマスクスリン」(2016年2月12日)
マックスリーン(MAXREEN)というローカルブランドのTV受像機がある。今はもう大手メーカーが生産をやめてしまったブラウン管型TVで14インチと17インチの二種類が販売されており、ともかく廉い。生産者出荷価格は一台36.5万と38.5万ルピアだ。中部ジャワ州カランアニャル県ゴンダンレジョ郡ジャティクウン村の組立工場から出荷されるマックスリーンTV受像機は地元のソロやカランアニャルばかりか、ヨグヤカルタ、スマラン、スラバヤまで販売網が広がっている。組立工場は床面積415平米の建屋で、作業員30人が一日に百台の製品を作り出している。「しっかり作ってあるから、うちの製品はなかなか壊れないよ。保証は一年間。壊れたら修理する。」事業主のマス・クスリン36歳は胸を張る。そう、ブランド名のマックスリーンはかれの名前をもじったものだ。
ブラウン管がもう作られていないのだから、かれが使っているブラウン管は中古品だ。中古のコンピュータモニターを一個5万ルピアで仕入れ、洗浄し、再生する。再生パーツはそれだけで、ケーブルやスピーカーその他の電子部品はすべて新品。包装ダンボールももちろん新品。SNI承認を正当に取得し、品質はお墨付きを得ている。SNIについて、かれは痛い思いをした。事業を進めながらSNIを取ればよいと思っていたのが間違いだった。
かれの学歴は小学校卒。巷では、学歴と思考能力を結びつけて考えるおかしな誤解が一般的だが、学歴中卒の女性大臣スシ・プジアストゥティ海洋漁業相が語るように、たとえ小学校で学歴が止まったとしても、頭の中身がそこで発展を停止することなどありえないのは本当だ。重要なのは本人の知識欲と思考訓練なのであり、いくら大学修士課程まで進んでも、その要素が不足している人間は、その要素に満ち満ちた中卒の女性大臣にやりこめられてしまうのである。本当は、かの女は高校まで進学したが、活動家もどきになって退学処分を受けたのだった。
マス・クスリンの場合はどうだろう?かれは生まれ育った中部ジャワ州ボヨラリの小学校を終えると、農民である親の経済力の限界がそこまでだったために、ジャカルタに上京した。1998年から建築労働者として働きながら、かれは幼いころからの趣味だった電気製品の中をいじくりまわすことを続けた。
家にあるラジオを分解しては組み立てなおすという遊びに、かれは小学生のころからのめりこんだ。あるとき組み立てなおすことができなくなって、父親にこっぴどく叱られたことを懐かしい思い出にしている。
ジャカルタ暮らしはかれの趣味への欲求を存分に満たしてくれた。東ジャカルタ市ジャティヌガラ市場で壊れた電気製品を廉く買ってきて、それを修理するのを楽しむのだ。四年近くジャカルタで働いてから、かれは帰郷した。貯えた資金の一部で壊れたテープデッキとスピーカーを8万ルピアで買い、故郷で修理して売った。20万ルピアが手に入った。その金でFM通信機を買い、ラジオ通信愛好者のネットワークに加わった。その世界には電子工学のつわものがたいてい混じっている。そんなつわものと親しくなり、二年間、電子機器に関する手ほどきを受けた。
かれは中部ジャワ州スコハルジョにあるTV組み立て工場で7年間働いた後、2011年に自分の工場を興したのだ。ところが、順風満帆とはなかなかいかないものだ。最初かれは生産現場に没頭し、製品販売は雇った人間に行わせていたが、翌年にはさっそく百台を超える売上金をその男に着服された。自分の方針が間違っていたことを悟ったかれは、自ら販売を手がけるようになる。自分で商品を持って電気店を回るようになった。
販売が伸び始めたころの2015年5月、警察がかれの工場を検問した。SNIを取らなきゃいけないと思いながら、準備がなかなか捗らないタイミングでの、警察に先手を打たれた事件だった。「手続きに関する情報を探していたんだが、なかなか詳しいひとに巡りあわなかった。痛い目に遭わしてくれた警察が、やり方を全部教えてくれたよ。」
警察はかれの事業を非合法品の生産販売であるとして送検し、カランアニャル地裁は入獄6ヶ月執行猶予一年、罰金250万ルピアの判決を下した。116台の製品在庫は廃却され、SNIを取得するまで生産はストップし、従業員は13人だけがアフターサービスのために仕事する形になった。
去る16年1月19日、マス・クスリンの待ちに待った日がやってきた。かれの製品にSNI承認が下りたのだ。生産再開の準備は多忙をきわめた。今、組立工場の中は活況を呈している。
コンピュータモニターのブラウン管はそのうちになくなる。「なくなったらLED型TVを作るよ。そのときは、SNIを取得してから生産を開始するつもりだ。」経験から学ぶことのできる成熟した精神をかれは持っているのだ。


「村落部の市場化」(2016年2月23・24日)
2015年は村落部のインフレ率が都市部を凌駕した。ここ一年間の貧困者人口激増の大きい部分を村落部が担ったのである。村落部の貧困者人口は都市部の二倍に達した。
村落部や国境地域の生活基幹物資価格は今や都市部よりも高くなっている。たとえばマルク州の遠隔地域で米の価格はキロ当たり1万2千ルピアする。州都アンボンでの8千ルピアよりはるかに高い。その価格差は輸送費に大きく影響されている。その遠隔地の米商人は東ヌサトゥンガラ州クパンから米を仕入れているが、輸送はパイオニア航路の船が使われ、往復で一週間かかる。海が荒れる次期になると、船の運航が頻繁に止まるため、往復に一ヶ月かかることも起こる。商品価格はあっという間に5割り増しだ。北西マルク県は州内一番の貧困県で、貧困者人口は27%を占める。
中央統計庁データによれば、2015年1〜12月の年間インフレ率は都市部が3.35%、村落部は4.28%だった。その一年間の9ヶ月は村落部が都市部より高いインフレ率を記録した。インフレの最大原因は食材と食品の値上がりで、それが貧困層と近貧困層の購買力を蝕んだ。貧困者人口の増加は村落部で顕著に起こった。2015年の貧困者人口増は、中央統計庁データによれば、都市部の二倍だった。
2014年9月の村落部住民貧困者人口1,737万人は、2015年9月に52万人追加された。ほぼ3%の増加だ。都市部では、1,036万人から1,062万人に2.5%増えた。
都市部より村落部のほうが激しいこの現象は、2011年ごろから始まっている。2014年には、村落部のインフレ率が都市部より大きかった月は7回あった。
エコソックライツ研究所調査員はその現象について、村落部住民の生活必需品を都市からの配送に依存するようになったのが原因だと語った。食材中の最重要品である米ですら、村落部は自給できなくなっている。村落部のインフラが劣っていれば、コストは上昇する。都市部より高くなるのは当然だ。
「村落部が自立能力を失ったのは、開発デザインのせいだ。農業人口は低下の一途であり、農民の土地利用も減少している。インフラ建設も、村落部住民のためのものはまだ最低限でしかない。」
パジャジャラン大学経済ビジネス学部教授も、村落部内・村落間・地方の経済センターと村落間を結ぶインフラはきわめて劣悪であり、それが村落部のインフレ率を高いものにしている、と述べている。
生産センターであったはずの村落部が、今や消費センターと化している。企業の諸製品が村落部の需要を満たす形に変化した。食品・食材そして農業生産用器具類にいたるまで、村落部で消費されるたいていのものは都市部から配送されてくるようになっている。村落部経済は企業と都市への依存を深めるばかりだ。
その結果、村落部経済はマージナル化の道をたどり、生産センターであったはずの機能が消費サイトに変貌している。ガジャマダ大学地域村落部研究センター長は「村落部の農業生産インプットは都市や企業から購入される。苗・肥料・農薬までもが。」と語る。
「つまり農民は今や独立した生産者でなくなり、単なる組み立て職人に変貌したと言える。農民層も農業セクターから商業などの非農業セクターに職業換えする者が増加している。その代表的なスタイルは、村落部で雑貨ワルンを開業するようなものだ。かれらは都市部から流れてくる商品を販売している。その結果村落部に流入する金は、政府予算の村落割当金や村落資金注入に追加されて増加するものの、経済構造は村落部の企業と都市に対する依存が深まるために、流れ込んだ金はまたすぐに還流していく。最終的にその構造は企業と都市を富ませることになるだけだ。一方、村落部はピラミッド構造の最下層にあって、貧困が改善されることは期待できない。村落住民は収入を得るために重い労働を強いられているが、生産インプットはすべて都市から流れてくる。村落部経済が成長しているのは事実だが、経済較差は広がる一方であり、貧困化を緩和させることはきわめて困難だ。国が経済成長できているのは、村落部の廉い労働力のおかげだ。村落住民は恒久的な貧困下にある。過剰な搾取が起こっている。」
それを救済するためには、村落部経済の主権を強化回復させることだ。企業と都市への依存を断ち切って、生産センターに復帰させなければならない。
ボゴール農大農学部教授は、村落部社会が既に食糧消費者に変化したと指摘する。耕地面積の縮小に伴って生産能力が低下しているのが原因だそうだ。
「農民層は予備の食糧備蓄を持っていない。米やトウモロコシの収穫は、消費物資の購入と借金を返済して次の作付け期の資金を確保するために、すぐに売り渡されてしまう。その結果、村落部は都市と企業から流入してくる商品に依存することになる。この問題の根は、政府が村落部と農民を保護しようとしない姿勢から生じている。インジケータのひとつは、2015年の稲モミのネット販売価格が2012年から10〜12%しかアップしなかったことだ。その期間のインフレ率は21.3%に上っているというのに。」
都市と企業への依存度を深めている村落部は、インフレ高騰のリスクにさらされている。2015年には9回も、村落部で都市部より高率のインフレが発生したことがそれを証明している。


「農村の土地が資本家の手に」(2016年2月25・26日)
何千ヘクタールにもおよぶ村落部の土地が、資本家の手中に落ちている。貧困生活への絶望と現金の魅力に心を奪われた農民たちが、土地の権利を手放すのだ。国民福祉と国土管理のオーソリティであるはずの政府の関与は、その状況から少しモ感じられない。国はいったいどこにいるのだろう?
そこに地元住民の経済発展に向かう兆しは見当たらず、村落部住民はますますマージナルな存在と化していく。セランラヤ大学社会学政治学部長は、投資目的で村落部の土地を権利下に置くケースの多くは、住民活性化よりも住民疎外に向かう傾向がたいへん強いと語る。「地元政府が投資を支持するのは、地元収入増を期待するからだ。ところが村落部の土地権利譲渡は住民の構造的文化的貧困を強める結果をもたらす。貧困者には生活レベルを引き上げる能力がない。貧困はその一家に末代に至る悪循環をもたらす。インドネシアのたいていの地方はそんな状況だ。地方政府は投資を押し上げようと努めるが、それが地元民にポジティブな結果をもたらすかどうかはわからない。」
エコソックライツ研究所研究員は、インドネシアには独占的土地保有を防ぎ、土地保有をコントロールする法規が存在しない、と指摘する。加えて、土地を商品とし、また投機対象として使うことを阻む法規も存在していない。それがもたらす結果は土地分配の極端な歪だ。弱者は貧困化し、さらに富裕層と貧困層の較差もはなはだしいものになっていく。国土庁データによれば、不動産・土地・農園形態資産のうちの56%が、国民人口のわずか0.2%の者たちに掌握されている。
2013年農業センサスでは、平均0.89Haの土地を掌握している農家は2,614万世帯しかなく、他の1,425万世帯はもっと狭い0.5Haしかわがものにできていない。経済スケールでは最低2Haなければ妥当な生活ができないはずなのに。
「憲法を実践するつもりなら、政府は経済資産分配の公平さに努めるべきだ。これまで行われてきたような経済資産の自由化ではなくて・・・・」
資本家が村落部の土地を掌握する形態の例をバンテン州で探すなら、パンデグラン県・セラン県・ルバッ県でサンプルが容易に見つかる。各県内で資本家が掌握した土地は数千ヘクタールに及ぶ。
パンデグラン県タンジュンルスンは2015年2月に経済特別区に指定された。さらにセランからパニンバンまで自動車専用道が作られる計画で、2018年の開通予定になっている。それが開通すれば、ジャカルタ西部からタングランを抜けてセランに至る既存自動車道でそのままタンジュンルスンまで到達できることになる。その周辺の土地に需要が高まることは、誰にも想像が付く。
経済特別区に隣接するチグリス郡バニュアシ村では、地元外から資本家が土地を求めてやってくるようになったのは1990年代ごろからで、経済特別区指定がなされたあとは、土地の需要が急上昇した。バニュアシ村の土地は既に百人くらいの資本家がそれぞれ数十から数百ヘクタールの土地の権利を握っており、総面積は数千ヘクタールに達している。ところが土地の利用を開始したのはやっとふたりの資本家だけで、ゴルフ場・工場・パーム椰子農園が設けられた。ところが地元労働力の雇用はせいぜい20人が最大だ。残りの土地は手付かずで放置されている。
この村の海岸線は平らな灰色の砂浜で、行楽地として開発されれば豊かな経済発展の可能性を秘めている。しかしそこは放置されたままになっており、個人名や企業名の書かれた、権利者が誰であるかを示す看板が黙って潮騒を聞いているばかりだ。
村落自治会役員のひとりは、1992年に平米あたり5百から1千ルピアだった地価は、今や10万ルピア前後に上がっている、と語る。
セラン県グヌンサリ郡グヌンサリ村も同じだ。村の土地の6割が村外の人間に掌握されている。ルバッ県にも、同じような村はいろいろある。バヤ郡サワルナ村もそのひとつ。サワルナ村は観光村としての要素を存分に持っている。海岸・洞窟・連なる巨石群など風光を存分に愉しめる村だ。この村の一角で今セメント工場の建設工事が進められている。
全国の地方政府は地元の地域開発計画を作っている。RTRW(地域レイアウト計画)と呼ばれるその開発計画では、どのブロックの土地でいつごろ何がどうなるというロードマップがそこに盛り込まれており、それを知ることによって土地の価値が将来どうなっていくかという予測を立てることができる。バンテン州辺地の農民たちは、その計画をまったく知らない。土地に投資を使用とする資本家たちはそれを知っており、土地権利の売買に買い手が圧倒的な優位に立つのは目に見えている。
そうやって有利な価格で土地を手に入れ、機が熟すまで遊ばせておき、いざ資産活用が開始されても地元民への経済的メリットはあまりない。
2015年にバンテン州への投資は脚光を浴び、全国33州の5番目の投資高を獲得した。しかし失業率は改善されず、9.9%は33州中の第32位だ。貧困者人口は2014年9月の649,190人から15年9月には690,670人にアップした。村落部では268,010人から271,710人に増えている。
ガジャマダ大学地域村落部研究センター長は、全国的に農業セクターの将来性が悲観視されており、農民の間に農業離れ心理が広まっていることが、かれらの土地権利譲渡をプッシュしている、とコメントしている。村落部の土地が非農業分野の資産に転換される傾向が全国的に懸念されており、国家経済のゆがみと食糧確保の国家方針に対する修正が余儀なくされることになるだろう。「村落部の土地は農業生産のために確保されなければならない。そのために政府は農業セクターの収入が妥当なものになるよう、保証を与えなければならない。ところが現実問題、その保証は何も用意されていないのだ。」
村落部への投資は、地元民の収入向上がもたらされる限りにおいて許可されるということも、その保証のひとつになりうる。国はそろそろ、村落部にその姿を現さなければならないだろう。


「流通業界主導の物価構造」(2016年2月29日)
インドネシアの5大基幹食糧とは、米・粒トウモロコシ・エシャロット(バワンメラ)・赤トウガラシ・鶏肉(非アヤムカンプン)を指している。基幹食糧というカテゴリーに区分されるとおり、それらの食糧は膨大な国内生産量消費量を有し、国民のほとんどが必ず購入するものになっている。それらの物資のコストが上下することで、国内消費経済には大きな影響がもたらされ、国民生活が豊かなものになるか、あるいは貧困の淵に沈むかの分かれ目になるのである。
従来から、基幹食糧、特に米、の価格は国民貧困者人口増減の鍵を握るものという理解がなされていた。貧困層の支出金額中で食糧は65%を占めているが、米は29%に達している。米価が10%上昇すると33万人が貧困ライン下に落ち、40%上がれば132人万人が貧困層の仲間入りをするという計算になっている。
生産者である農民の手から最終消費者の手に渡るまでの流通経路が短ければ、中間マージンは小さくなり、消費者購入価格は廉くなるのが普通だ。それが長ければ長いほど最終価格は高くなり、消費者は食糧に総支出の中で大きいシェアを割かなければならない。州別の5大基幹食糧流通ステップは最短が2回、最長は9回も売買が繰り返され、それからやっとパサルに並べられている。国内最大の農業生産センターのひとつである中部ジャワ州では、赤トウガラシ・バワンメラ・粒トウモロコシの流通ステップが全国でもっとも長かった。一方、米と鶏肉の流通ステップが全国最長だったのが首都ジャカルタだ。反対に、流通経路がシンプルで短いのが北スラウェシ州で、米・赤トウガラシ・粒トウモロコシが国内最短。バワンメラは北マルク州、鶏肉は西カリマンタン州が最短だった。
中央統計庁レポートによれば、米の流通マージンは全国平均で10.4%、粒トウモロコシは31.9%、赤トウガラシ25.3%、バワンメラ22.6%、鶏肉11.6%となっている。上のマージンは生産者である農民が集荷仲買人に売り渡す価格からのものだが米だけは例外で、米は脱穀業者からの売渡し価格がベースに置かれている。つまり、他のものと同じ条件にしたなら、マージンは10%で終わらないということだ。
ボゴール農大教授は、流通経路を短くすれば消費者価格が下がるという単純なものではない、と語る。「大規模流通業者が集荷人や小規模商人からの調達マージンを引き上げる可能性が高いため、そのままパサルに向かう商品のコストが下がるかどうかは疑問だ。流通経路短縮というのは、競争原理の中で既に自動的に行われ、その結果が現在見られる状態になっている。たとえば、脱穀業界で業者が急増したときモミの争奪競争が起こり、弱小業者はモミが集まらずに自然淘汰されて、結局は大手業者の傘下に組み込まれた。ところがそれでパサルでの米価が下がったかというと、そんなことは起こっていない。一番基本的な問題は、食糧品が市場メカニズムにそっくりゆだねられていることだ。その行政パターンが続けられているかぎり、市場は大手資本の言うがままになる。割を食うのは生産者と消費者だ。流通マージンが11〜32パーセントになっているが、そのマジョリティを享受しているのは大手流通業者であり、農民へのマージン還元は微々たるものでしかない。」
パスキ・チャハヤ・プルナマ都知事は、首都の食糧価格高が都民の生活福祉向上を難しくしている現状を改善するために、流通機構簡素化方針を打ち出した。たとえば、牛肉を廉価に都民に供給するために、都庁が肉牛生産地から直接買付けて都内まで輸送し、パサルに卸していく事業を行うようにする。「米や他の基幹食糧も、同じようにするつもりだ。流通者協会やコペラシなどを間に介在させることはしない。それを小売業界に流すだけでなく、直接消費者に販売できるよう、小売事業の展開も考えている。市場価格急騰対策として廉価品の市場放出を行うこともする。小売業界をそこに参加させることも可能だ。ただし、最高価格条件をつけて政府の望む価格で販売させる。」都知事は現行流通機構の簡素化についても、中銀に提案してもらうよう打診している。


「都市貧困層が急増」(2016年3月1・2日)
中央統計庁が公表した2015年9月のジニ係数全国平均は0.41で、都市部が0.47、村落部が0.27という大差がついた。都市部は2014年9月の0.43から上昇し、村落部は0.34から低下している。つまり都市部居住者の間で貧富の差が増大し、都市貧困者が増加している一方、村落部では居住者間の貧富の差が縮まってきていることを、それは意味している。
2015年3月の全国34州州別ジニ係数トップ10とボトム10を下記しよう。
  州   全体  (都市部・村落部)
1.西パプア 0.44 (0.34・0.48)
2.ヨグヤカルタ 0.43 (0.44・0.33)
2.ジャカルタ 0.43 (0.43・−)
4.東ジャワ 0.42 (0.44・0.34)
4.南スラウェシ 0.42 (0.42・0.38)
4.ゴロンタロ 0.42 (0.42・0.37)
4.パプア 0.42 (0.34・0.38)
8.西ジャワ 0.41 (0.43・0.32)
9.バンテン 0.40 (0.41・0.27)
9.東南スラウェシ 0.40 (0.41・0.37)
ボトム10傑はこちら。
1.バンカブリトン 0.28 (0.29・0.26)
1.北マルク 0.28 (0.28・0.26)
3.北カリマンタン 0.29 (0.30・0.27)
4.東カリマンタン 0.32 (0.31・0.29)
5.アチェ 0.33 (0.37・0.29)
5.西カリマンタン 0.33 (0.35・0.30)
5.中部カリマンタン 0.33 (0.37・0.29)
8.北スマトラ 0.34 (0.36・0.30)
8.西スマトラ 0.34 (0.36・0.30)
8.東ヌサトゥンガラ 0.34 (0.33・0.29)
8.マルク 0.34 (0.31・0.32)
インドネシア大学デモグラフィ研究院長はその数値に関して、村落部の貧困層が地元で収入を得ることがきわめて困難になってきた結果、かれらは生計を求めて都市部に移住し、アーバナイゼーションを進展させているのだ、と分析している。村落部が既に貧困層を養う能力を喪失してしまい、貧困層は都市部に移ってインフォーマルセクター就労人口を増大させている。都市部の低所得層が膨張する一方で、都市の生活コストも上昇を続けている。
エコソックライツ研究所研究員は別の場で、都市部のジニ係数増大は中央政府と地方政府の方針が生み出したものだ、と述べている。「コモディティ商品・鉱業・消費・投資に国家経済建設を背負わせている現行政策は経済のオリエンテーションを都市中心に向けさせる。その一方で、貧困層の収入基盤となるインフォーマルセクターに対する都市行政は、スペース分配の面からそのセクターの増大を敵視するものになっている。」
村落部のジニ係数低下は、いくつかの要因が考えられる、と同研究員は続ける。そのひとつは、政府交付金と出稼ぎ者の送金が村落部経済を好転させている可能性。第二は、村落部への資金流入に偏向があって、最貧層をアーバナイゼーションの流れに乗ることを強いている可能性。都市貧困層の膨張と農民人口の減少、そして海外出稼ぎ者送り出し地区も全国的に増加している事実がそれを示している。
その状況を改善するために、世銀インドネシア事務所の筆頭エコノミストは政府に対し、次のポイントに焦点を当てて行くよう提言した。
1.保健、教育、基本的国民サービスの三要素
2.雇用創出。学校に行っておらず、職業訓練を受けておらず、就労しておらず、就職を求めていない1千万人の青年層をターゲットにして、かれらを就労させること。
3.今現在50%しかいない女性就労者をもっと増加させること。ベトナムですら女性の73%、韓国は71%の女性が就労している。
4.全国総事業所数の99%を占める5千7百万事業所は中小零細規模であり、それが事業を発展させて従業員をひとり増やすだけで、57万人の雇用が発生する。
政府がそれらのポイントで成果をあげれば、ジニ係数は必ず低下していくと筆頭エコノミストは述べている。
首都圏の貧困地帯を見てみよう。南ジャカルタ市カンプンカンダンでは若者住民の大半が学校をドロップアウトしている。理由は親が学費を用意できないか、もしくは子供に学費を与えるよりは子供が働いて金を持ち帰ることを強く希望しているためだ。その結果若者たちは、屑拾いを職業とする者、工場に勤める者、そして仕事のない者で構成されるようになる。
西ジャカルタ市トマン地区では、住民のほとんどが村落部から上京してきた者たちで占められている。1990年代から、住民たちはその地区に住み着きはじめた。首都ジャカルタの中心部に近く、そして地代家賃が比較的廉価だったことが、その地区に住むことをかれらが選んだ理由だ。
1980年にソロからトマンに移り住んだ52歳男性はさまざまな勤めを経験した後、今はバソ売り屋台を引いて町中を回る物売りをしている。ひと月の収入はおよそ200万ルピア。住居の密集した貧困地区での暮らしは、衛生状態の劣悪な状況に甘んじなければならない。マンディ・洗濯・排泄の需要を満たす衛星条件を満たした水をそこで手に入れるのは不可能に近い。
教育レベルの低さ、不健康な生活、生産性の低い体力能力は貧困を再循環させるばかりだ。


「伸び上がり始めた航空機整備産業」(2016年3月1日)
ガルーダ航空の子会社でインドネシアにおける航空機整備業界の筆頭に置かれているPTガルーダメンテナンスファシリティ(GMF)エアロアシア社のサービス契約獲得競争が活発化している。各国空運業界の景気はいまひとつという状況にも関わらず、航空機整備業界は華々しい勢いだ。
2016年2月16日から21日まで開催されたシンガポールエアショーでGMFエアロアシア社は12件の契約を獲得した。その中には、国内外の航空会社とのサービス契約のほかに、航空機メーカー・機体整備会社などとの協力契約も含まれており、成契金額は1.3億米ドルに達した。その前の2015年11月にドゥバイで開かれたエアショーで同社は中東アフリカの7航空会社とサービス契約を結ぶのに成功している。
航空機整備会社は航空機のメンテナンス・リペアー・オーバーホール(MRO)がすべてこなせなければ利用価値が低下する。そのサービスレベルの良否と料金が業界者間の熾烈な競争を生んでいるのだ。
同社は技術者のパワーアップに努めてきた結果、今やFAAとEASAからサーティフィケートを獲得し、その実力は十分に評価されている。そこに料金面の強みがプラスされて、外国航空会社からの信頼が徐々に高まっているところだ。
たとえば一日一人当たりサービス料金は40〜50米ドルで、シンガポールはそれが70米ドル、ヨーロッパでは100〜120米ドルというのが相場になっている。
航空機整備費用は購入価格の10倍にのぼると言われており、MROビジネスがどれほど巨大なビジネスであるかが想像できる。最近の傾向として、空運会社が航空機を購入する際に、スペアパーツ納入を除外することが増えており、スペアパーツを整備会社に求めるスタイルが一般化している。これもMROビジネスを大きくする方向に作用している。
ガルーダ航空代表取締役によれば、MRO市場は現在754億米ドルという規模になっており、インドネシアはやっとその0.97%のシェアを手に入れたところだそうだ。インドネシアのシェア拡大が今後大きく期待されている。


「食糧産業の悪弊」(2016年3月7日)
インドネシアの食糧産業分野は、独占やカルテル行為などの独占禁止法違反が密かに繁茂している場所だ。ここ二年間に事業競争監視コミッションは、鶏肉・牛肉・米のカルテル行為容疑三件の調査を行った。摘発された会社は44社にのぼる。
そのような違法行為が繁茂するのは、政府の商業統制が十分に機能していないせいであり、食糧の産業構造が脆弱であるために自営農民がマージナルな立場に追いやられ、また消費者も不当に高い支出を強いられている。
世界一高いと言われている牛肉については、養牛業界32社がカルテル行為で摘発された。政府が決めて監督するはずの輸入クオータの内容と屠殺場への分配をかれらがコントロールしていたのだ。
鶏肉については、孵化させる卵と生まれたばかりの雛鳥の市場供給量を12社が談合して決めていた。そのため、中部ジャワと西ジャワでは、鶏肉価格が暴落した。自営農民の仲買価格はキロ当たり8.5〜9.5千ルピアにしかならす、かれらは大打撃を蒙った。養鶏業者の生産コストはキロ当たり1万8千ルピアなのだから。
自営農民からの仲買価格は、ジャワでは8.5〜9.5千ルピア、スマトラではキロ当たり11.5〜18千ルピア、カリマンタンでは22千ルピアになっている。一方、商業省の市場価格データはキロ当たり31,750ルピアと報告されている。
大規模会社と市場シェアを争奪している自営農民は大赤字になる。しかし大規模会社の傘下に入った養鶏業者は、大規模会社から価格保証を得ているため、何の問題もない。インドネシアの鳥肉市場は年間450兆ルピアにのぼる。かつてその8割は自営農民のシェアだった。ところがこの四年間で供給分野は大規模会社とその息のかかった養鶏業者に握られつつある。
それらに続いて、米の流通カルテル疑惑が浮上している。巨大な量のストックを持って消費市場価格を高値誘導している心証をコミッションはすでにつかんでいるのだ。ジャカルタのチピナン中央米卸売市場に入ってくる米の量が、2016年2月は前年同月から2割増しになっている。カルテルと不法貯蔵が立証されれば、コミッションは担当省にその事実を報告し、関わった業者の事業ライセンス取消しを要請するというのが、コミッションに与えられた使命。
しかし、この食糧流通分野の違反行為は、流通者が生産者と消費者に損失を与えて自分だけが大もうけするという面を超えて、産業構造を揺さぶる悪事でもあることを政府はもっと認識せよ、と飲食品製造産業に従事している業界者は語る。
市場で鶏肉価格に異状が起こると、加工食品産業界も大打撃を蒙る。価格問題のみならず、市場流通量にも大混乱が生じるのだ。鶏肉の例で言えば、これまで得ていた加工素材としての鶏肉量が確保できなくなったために、生産縮小や操業停止を余儀なくされた加工業界者が出ている。製造産業の一部セクターに向けて浮沈に関わる悪影響を及ぼしていると言えるだろう。
「基幹物資・緊要物資の内容と貯蔵」に関する2015年大統領規則第71号を踏まえて、政府は基幹食糧の消費者価格を固定することができる。流通業界のカルテル行為から生産者と消費者を保護するために、担当省はその権限を使って市場の統制を厳格に行うべきだ、と事業競争監視コミッション長官は述べている。


「公務員を食わせるための政府?」(2016年3月4日)
行政機構の合理化を計画している政府は、公務員活性化行政改革省が一般機能職文民公務員評価フォーマットの作成を開始した。一般機能職というのは事務作業者・コンピュータ作業者・文書配送作業者などの業務を担当する公務員だ。能力が劣っており、現職務に適していない、という評価結果になった公務員が合理化の対象となり、早期退職が勧められることになる。
公務員能力評価は、コンピュータでのデータ加工や書類作成、言語能力、サービス姿勢、現担当職務分野のテクニカル能力テストなど、いくつかのテストを通して行われることになる。公務員活性化行政改革省が評価フォーマットを今月中に完成させ、そのフォーマットを全省庁および全国地方政府に配布して公務員の能力評価が行われる。評価実施は2016年5月までに完了させる予定。その評価にもとづいて、公務員は四つのカテゴリーのいずれかに区分されることになる。(1)有能で現職務に適している者、(2)有能だが現職務に適していない者、(3)現職務に適しているが、能力が不足している者、(4)能力が不足しており、現職務にも適していない者。その各区分に対して、個々に異なる人材開発面での対応が取られることになる。(1)は現職務を維持させ、更なる能力向上に邁進させる、(2)は教育訓練を与えて現職務に応じた能力を付けさせるか、あるいはその能力が活かせる別の職務に就かせる、(3)は教育訓練を与えて現職務に応じた能力を付加させる、(4)の者は合理化対象となり、早期退職を申請させるよう働きかける。早期退職申請に対しては、退職金だけでなく補償金が添えられるが、補償金の基本タリフや算出方法はこれから検討されることになる。
文民国家公務員は現在4,517,136人おり、一般機能職はそのうちの1,391,233人。中央政府勤務者は554,319人で、地方政府勤務は920,308人という数字になっている。
すべての公務員が行政機構合理化プロジェクトの対象にされなければならないのは明らかだが、手始めとして一般機能職から着手することになった、と公務員活性化行政改革省はその間の事情を語っている。というのも、この一般機能職分野こそが、能力不足や職務不適合がもっとも目に付く分野になっており、学歴も小学校卒から高校卒までの低中学歴者であふれている。全文民国家公務員中で学歴が高卒以下の者は全体の3割を占めている。
行政機構合理化プロジェクトは2017年3月から実施したい、と公務員活性化行政改革省は表明している。それまでに全公務員の能力と職務適合性の評価がなされていなければならない。
インドネシアはグローバル競争力評価で他のアセアン諸国に遅れをとっている。その中に行政機構の非効率・低効用・低競争力が鎮座している。行政改革を進めていかなければ、その差は拡大する一方だ。おまけに、公務員人件費も国家予算に負担を強いている。中央政府の予算支出中で公務員人件費は33%を占めているが、地方政府は公務員を食わせるために収支予算を組んでいる印象を与えているところが少なくない。全国542地方政府の中で244ヶ所は公務員人件費が支出予算の5割以上を占めている。もっとも極端なところは、なんと8割が公務員人件費になっていて、封建時代の王国と大差ないありさまが共和国になっても継続しているところさえある。行政改革が急務であるゆえんだろう。


「政策決定者の虚言」(2016年3月14・15日)
ライター: コンパス紙経済記者、ヘルマス E プラボウォ
ソース: 2013年6月28日付けコンパス紙 "Omong Kosong Pengelola Republik"

「食糧」に関する2012年法律第18号は食糧自給を謳っている。食糧自給というのは、国民ひとりひとりの需要を十分に満たすことを保証する、さまざまな種類の国内食糧生産における国家国民の能力という定義になっている。天然資源・人間・社会・経済そして生産現場の英知を活用するものであるのは言うまでもない。その法律は食糧の定義を、人間が消費する加工未加工を問わない農業・農園・森林・漁業・畜産・水産・水の産物としている。その中には、飲食品を準備し・加工し・生産するための食糧添加物・食糧素材・その他が含まれている。
その食糧の定義に従うなら、特に農産品の種類については、米・トウモロコシ・大豆・牛肉・砂糖・野菜・果実・赤バワン(エシャロット)・ニンニクがあげられる。食糧自給というコンテキストにおいて、それらの商品は国内で生産されなければならない。それどころか、国家国民は単に十分な食糧生産を実現させるだけでなく、国民ひとりひとりの需要を満たすことを保証しなければならないのである。
今現在はどうなっているのだろうか?国は国民の食糧需要を国内生産で満たせないでいる。インドネシアの食糧輸入は量も金額も増加を続けているのだ。2008/2009年にインドネシアは米の輸入をまったく必要としなかった。その三余年後にインドネシアはベトナムとタイから百万トンの米を輸入している。
1992年の大豆生産量は190万トンあったというのに、2013年は80万トンに落ち込んでいる。豆腐テンペや大豆を素材に使う産業のために、インドネシアの大豆輸入は毎年2百万トンに達している。
2012年のトウモロコシ輸入量は3百万トンだった。ニンニクは41万トン、金額で2.4億米ドル。赤バワンは毎年10万トンが輸入されている。ミルクは国内需要の75%が輸入され、その量は年々増大している。精肉量換算で8万トンの牛が輸入され、それに2万トンが追加された。果実の輸入量も小さくなく、トウガラシを含む野菜もそうだし、小麦に至っては、百パーセントが輸入にたよっている。2012年インドネシアの食糧輸入総額は81.5兆ルピアで、人口の増加と所得の上昇に伴って今後も増加を続けることだろう。
鶏肉鶏卵用鶏を作るための繁殖用親鶏をインドネシアは輸入しているが、国民の鶏肉鶏卵需要は国内生産で満たされているようだ。時に供給過剰が起こる場合があるとしても、そこに付加価値が発生している。インドネシアの人口増、そしてミドルクラス膨張のポジティブな影響として食糧消費が増加していくのにともない、インドネシアの食糧輸入の必要性はますます高まっていくにちがいない。
< 自給ユートピア >
当事者やわれわれには、十分な食糧生産の実現を志向する強い希望があって、食糧自給を呼びかける声はなくならない。農業大臣は食糧自給とその延長プログラムを推進している。まず米の自給を達成し、さらに牛肉・大豆・砂糖・鶏肉の自給を目指そうというものだ。
SBY大統領も米の余剰生産1千万トンの必要性を指示し、その実現目標を2014年としたが、2015年に延期された。ところが今現在に至るも、実現できたものはひとつもない。
何百兆ルピアもの国費が使われ、食糧増産のための国家予算が増やされ、農業生産部門は倍増している。しかしながら、それで今はどうなっているのだろうか?予算の割り当てが増大し、そして食糧輸入も増大した。ブディオノ副大統領は農業省の予算執行の効果が薄いことに疑問を投げかけている。
農業セクターの予算についてだけでそれだ。他セクターに関わる農業関連予算全体については、それどころではない。効果もろくになければ、あちこちに水漏れを起こしている。
食糧自給が達成されるどころか、食糧価格は高騰しているのだ。牛肉価格はキロ当たり10万ルピア台から8万8千ルピア前後までおさまったが、トウモロコシはキロ当たり3,200ルピア、砂糖はキロ1万3千ルピア台に突入した。政府は小さくない資金を投入して市場介入せざるをえない。トウガラシ・赤バワン・ニンニクも価格が暴騰してインフレをあおっている。
< ベーシックな問題 >
食糧問題はベーシックな問題である。基本的であるがゆえに、食糧価格が変動すればインフレに強い影響を与える。それがベーシックな問題であるからこそ、対策もベーシックなものにならなければならないのだ。国民食糧問題について、政府は知らないわけでもなければ、理解できないわけでもない。政府はそれを熟知している。そうではあっても、農業用地の転換は一年中起こっている。政府がその問題への真剣な対応をとったことはない。だから現実に、農業用地、特に水田面積は縮小の一途をたどっている。政府にとって水田の別用途転換をストップさせるのは容易なことだというのに、それが真剣に行われたことはない。土地の用途転換法規違反は放置されていて、持続的農地保護法は執行できないでいる。
生産向上を通して食糧需要を満たすためには、農地面積の新たな増加が必要だ。政府はそれを知っている。SBY大統領は農地改革の重要性を唱えたが、それも実行されていない。政府はそれを行えるというのに、遊休地の活用はなされないままだ。製糖産業再活性化は空中分解したままで、屋上屋を重ねる法規を作って自ら実行の手足を縛り、再活性化が行き詰まるにまかせている。
牛肉生産増は東西ヌサトゥンガラで大規模牧畜産業開発を行う構想が立てられているというのに、それすら本気で実行されていない。その結果牛肉輸入は上昇の一途で、肉牛の頭数は激減するものと予測されている。政府は畜産を国民の有力産業に育成しようとせず、単なる予備資源としてしか見ていない。
東ヌサトゥンガラ州ではこう配種トウモロコシ生産のために百万ヘクタールの土地が利用できる。東ヌサトゥンガラ州民はこう配種トウモロコシの生産を望んでいるというのに、政府はその開発を行おうとしない。百万ヘクタールの土地でこう配種トウモロコシが生産されたら、トウモロコシ国内生産量は8百万トン追加される。飼料産業は原料輸入の必要がなくなり、東ヌサトゥンガラ州民の所得は激増する。ところが政府はそれにも、推進意欲を示さない。
大豆の増産も、用地面積問題が足を引っ張っている。それに関しても政府は、手を打とうとしない。食糧生産向上の可能性は存在し、さまざまなチャンスが転がっているにもかかわらず、政府はそれらを拾い上げて真剣に対策を講じようと動いたことはない。
食糧自給というのは、ただの虚言妄言でしかないのだ。食糧は私利私欲プロジェクトのためのツールにされているだけだ。インドネシアの食糧自給実現をはかる政策決定者たちにとって、終わりのない食糧自給プロジェクトに乗って輸入食糧を国内に導入していくことのほうが、はるかに大きな利益をもたらすものなのだから。


「コウロギ需要が急増」(2016年3月23日)
コウロギ養殖は数十年前に大きなブームを巻き起こした。小さい資本で開業でき、需要は安定して確実だから、狭い家の中に養殖のための容器を並べて家中コウロギだらけにするひとが急増した。コウロギ養殖の手ほどきセミナーも盛んに行われていたが、儲かるビジネスとして喧伝された時期を通り過ぎたいま、このビジネスに参入するアントレプルヌールはあまり増加していないようだ。需要はうなぎ登りだというのに、供給は慢性的な不足状態らしい。
西ジャワ州チレボン県ジャンブラン郡バクンキドゥル村がコウロギ養殖センターになっているが、どんどん増える注文に追われて、なかなか追い着けない状況を気に病んでいる養殖業者が増えている。
「三日おきに1クインタルを出荷しているが、これがもう限界だ。こなせない注文でいっぱいになっている。」とコウロギ養殖業者のひとりは語っている。クインタルとは100キログラムのこと。かつては50キロを出荷していたが、出荷量を倍増させても注文の増え方のほうが早かった。出荷先はチレボン、バンドン、スラバヤなど、ジャワ島内の都市部。
需要の方が供給より大きいのだから、価格は上昇する。かつてキロ当たり3万ルピアだった生産者の出荷価格は、今や3万2千ルピアにアップしている。
コウロギはさえずり声を鑑賞する小鳥の餌としての需要が高く、コウロギを食べさせれば鳴き声が美しくなると言われている。鳥を飼うのはジャワ人にとって、自分が成熟したことを示すシンボルであり、さえずり声を愉しめる小鳥の人気は小さくない。どうやら、小鳥を飼う者が急激に増加しているようだ。


「食糧管理危機」(2016年3月28・29日)
ライター: 国会議員、シスウォノ・ユド・フソド
ソース: 2013年7月18日付けコンパス紙 "Krisis Manajemen Pangan"

悲劇的だ。広大な陸地と大洋、肥沃な土地、十分な降雨量、一年中豊かな陽光に恵まれた国が、国民の食糧需要を満たせないのだ。ここ数週間、食糧価格は暴騰し、過去十年間、食糧輸入は増加の一途をたどっている。
チャベラウィッはキロ当たり27,700ルピアから120,000ルピアに、赤バワンはキロ当たり32,300ルピアから64,000ルピアに、ニンニクはキロ当たり14,000ルピアから30,000ルピアに、鶏はキロ当たり25,000ルピアから35,000ルピアに、牛肉は三年前のキロ当たり45,000ルピアから110,000ルピアに、鶏卵はキロ当たり22,000ルピアに、IR64種中級米はキロ当たり8,200ルピアに。2013年の輸入量は6月までで、トウガラシ22,737トン、赤バワン60,000トン、そしてさらに輸入クオータをチャベは9,715トン、赤バワンは16,781トン追加しようとしている。
< 輸入が常に選択肢 >
食糧価格コントロールに誤りがある。食糧価格上昇サイクルは、プアサ月・イドゥルフィトリ・イドゥルアドハ・クリスマス・新年の前なのであり、前もって予想できることだ。政府の業務パターンに不完全な部分がある。価格暴騰が起こると、すべての関係政府機関がそれを分析する。そして、その対策は輸入という結論を共同で出す。輸入が行われて価格が妥当な線に下がると、政府は価格暴騰の原因を洗い出してその対策を講じようとせず、一件落着にしてしまう。
2億4千万国民の食糧市場運営には適切な戦略が必要なのだ。輸入を行ったにもかかわらず牛肉価格の暴騰を鎮静させるのに失敗した大臣たちにSBY大統領から「コーディネーションが悪い」と叱責が飛んだが、問題の根はそんなところにあるのではない。われわれは食糧問題を根底から改善しなければならないのである。政府が行わなければならない使命は、農民や畜産者に利益をもたらす価格を維持し、また消費者に負担を与えないことだ。価格が低すぎれば農民や畜産者は利益が得られず、結果的に生産増へのインセンティブが消滅し、輸入ばかり増やすことになる。
インドネシア国民の食糧消費増加は年間1.3%という人口増に負うところが大きい。インドネシアは世界的に人口増加率の高い国に入っているのだ。ミドルクラス人口の増加も、より高品質な食糧の需要を生み出している。そういった食糧需要の増加は、国内の食糧生産量と品質でまだカバーできないままだ。
食糧生産の不足は、農業用地の不足が主要原因だ。インドネシアの食糧栽培用地は780万ヘクタールで、820万ヘクタールのパームヤシ農園に負けており、おまけにその820万ヘクタール中の250万ヘクタールは外資系企業の所有になっている。いま、インドネシア国民ひとりあたりの食糧栽培用地面積は359平米でしかない。人口の大きい諸国のそれと比較するなら、インドは1,590.6平米、中国は1,120.2平米、米国6,100平米、ベトナム959.9平米、タイ5,225,9平米。農業産品にとっての問題はきわめて明白だ。広大な土地を開墾して食糧作物用地を新たに増やすことに尽きる。この活動はかつてトランスミグラシプログラムの中に含まれていた。その最盛期だった1995年には、年間に20万ヘクタールという食糧栽培用地が新規に増やされ、10万家族の農業労働者や零細農民に分け与えられた。トランスミグラシプログラムは1984年に米・トウモロコシ・大豆の自給を実現させる柱のひとつになった。
< 食糧作物ごとの差異 >
赤バワンやトウガラシなどの園芸作物用地になりうる地域はたいへん広い。そして亜熱帯植物であるニンニクや大豆の生産にまだ十分注力していない地方も少なくない。たとえば水があって乾燥した気候の中部スラウェシ州ナプ高原や東西ヌサトゥンガラの高原地帯はニンニクや大豆の生産に適している。牛肉については、その根本問題は肉牛の頭数が不足していることだ。2013年農業センサスの暫定データによれば、インドネシアの肉牛頭数は1,200〜1,250万頭であり、2011年センサス時の1,480万頭よりはるかに少ない。たいへん高価になった牛肉のためにいくつかの地方では、まだ生産的な雌牛が屠殺されている。雌牛は雄牛よりも価格が廉いが、食用肉にしてしまえば雄牛と同じ価格で売れるためだ。
法規違反である生産的な雌牛(妊娠中のものも少なくない)の屠殺を放置した結果、インドネシアの牛の頭数は縮小し、牛肉輸入量を増加させることになった。政府の統制と肉牛の市場構造は消費者レベルでの妥当な牛肉価格実現をサポートするものになっていない。市場への牛肉供給は三つのソースからなされている。たいてい零細規模で旧式な640万ローカル畜産者、96養牛輸入者、67牛肉輸入者の三つだ。
国民の牛肉需要の7割はローカル畜産者、3割が養牛と牛肉の輸入者によってまかなわれている。2013年の牛肉消費量は55万トンと目されている。加工製品製造業界14.7%、ホテル・レストラン・ケータリング8.5%、国民の家庭消費76.8%がその内訳で、それらのデータを見るなら、牛肉価格決定要因はローカル産牛肉であることがわかる。だから政府がコントロールしなければならないのは、ローカル畜産者が十分な利益を得ることができ、且つ消費者に負担を与えない牛肉価格を実現させることなのである。ローカル牛肉価格は国内の生牛価格で決まる。現在ジャワ島の生牛価格はキロ当たり38,000ルピアであり、解体後の残余物が50%なのでそれを調整して76,000ルピア、屠殺解体費用を加えて81,000ルピアとなる。そこに輸送費と流通マージン(一般に小売りに至るまでに2ステップある)が載せられて、牛肉の生産コストはキロ当たり9万ルピアとなる。ジャカルタ到着時のコストがキロ当たり45,000ルピアである輸入牛肉の場合、牛肉輸入者のマージンは莫大なものだ。
インドネシアの生牛価格が高いものになるのは、養牛輸入者に与えられた義務のためだ。輸入者は輸入牛収容能力の10%分のローカル屠殺牛を国内で買い上げなければならないのである。また、東カリマンタン・リアウ・ジャンビなどいくつかの州政府が東ジャワや東西ヌサトゥンガラなどの生産センターから牛を購入して州民に分け与えていること、パームヤシ農園で牛を飼育して国内の総頭数を増やすよう国有事業体のいくつかに指示が出されっていること、なども生牛価格を引き上げる働きをしている。全国的に見れば、それらの活動は牛の総頭数を増やしておらず、単に場所を移し替えているだけに過ぎないのだが、生産センターでの生牛価格を押し上げるはたらきは現実のものになっている。
養牛輸入者も利益は大きい。オーストラリアで生牛価格はキロ当たり24,000ルピアであり、ジャカルタ到着時コストはおよそ28,000ルピアになる。国内で生牛がキロ当たり38,000ルピアで、牛肉小売価格は消費者が悲鳴をあげる10万ルピアという現在構築されている価格体系の中で、養牛者は牛の体重が増える分だけ少しの利益を獲得する。生牛売買者・屠殺者・牛肉小売者も大きな利益は得ていない。莫大な利益をあげているのは、養牛と牛肉の輸入者なのである。わたしの個人的な見解では、生牛のもっとも妥当な価格はキロ当たり28,000〜30,000ルピアで、それに従えば牛肉小売価格はキロ当たり65,000〜70,000ルピアに落ち着く。そうなれば、牛肉は消費者の手が届き、またすべての関連事業セクターにも利益が落ちるはずだ。
その方法は、体重250キロまでの養牛輸入を増やすことだ。今は限度が350キロとされているが、国内の牧畜業者に付加価値を付けさせなければならない。同時に健康で生産的な雌牛の輸入を行う。長期的な頭数確保と現在の不足状態を早急に改善させるためだ。一方、牛肉輸入は抑制し、できるならゼロにもっていく。オルバ期には、輸入養牛の体重制限は200キロまでであり、牛肉輸入は徹底的に阻止された。インドネシアのような人口の大きい国は、段階的にでも、国民の食糧需要を自力でまかなえるようにしていかなければならない。食糧を自給して自立するのである。そしてさらに、熱帯産食糧産品の輸出国になるのだ。オランダ植民地時代にわれわれはそれを行っていた。コーヒー・茶・カカオ・コショウ・ナツメッグ・ヤシ油・バニラ・キャッサバ・シナモン・砂糖・牛・水牛を世界に輸出していた。世界のゴム需要もこのヌサンタラに負っていた。
インドはいくつかの作物に関して、その方向性を歩み始めている。砂糖と米の大輸入国だったインドは2012年に世界第三位の砂糖輸出国、そしてタイを追い越して1,040万トンという世界一の米輸出国になった。農民に対する価格インセンティブによる生産増強のための練り上げられた計画と一貫性のある遂行がそれを可能にしたのだ。食糧自給と自立を目指す長期的で適切な計画と一貫的な遂行によって、インドネシアはふたたび世界が求めている熱帯農産物の輸出国に返り咲くことができる。願わくば・・・・


「消費者のビヘイビアを変える」(2016年3月30・31日)
ライター: ボゴール農大ヒューマンエコロジー学部長、アリフ・サトリア
ソース: 2013年7月26日付けコンパス紙 "Mendidik Konsumen"

ルバランが近づくたびにほとんど毎回、基幹食糧の価格が暴騰し、政府がパニックを示す。食糧危機への対応は、実際には供給と需要の両サイドからアプローチが可能だ。
2013年7月18日付コンパス紙に掲載されたシスウォノ・ユド・フソド氏の論説は供給サイドの対策を論じていてたいへん興味深い。では、需要サイドの対策として何があるだろうか?政府がまとめた中央統計庁データでは、牛肉のキロ当たり価格は2011年7月が66,163ルピア、2012年7月76,764ルピア、2013年7月94,795ルピアと推移している。園芸作物も同様で、2013年7月の赤バワン価格は前年同月から269%上昇し、チャベラウィッは137.99%アップした。
一方食用魚の価格上昇は、サバが10.32%上がってキロ当たり28,198ルピア、ミルクフィッシュは7.24%アップしてキロ当たり26,704ルピアであり、価格コントロールは十分なされていて一般国民には牛肉よりはるかに手が届く状況だ。
上述の危機は供給サイドの向上による価格安定化を要求しているが、生産増による解決はむつかしい。それゆえ、結局輸入が増やされることになる。長期的に見るなら、それはリスクが高い。輸入が増えていけば、農民漁民の生産意欲が低下していくからだ。
< 消費者のビヘイビア >
供給サイドの対策と並んで、消費者教育を通しての需要サイドの対策も検討する必要がある。消費者の嗜好を変えさせることなど、できるのだろうか?
昔、バティックはお呼ばれの場に着ていくものというのが常識だったが、一大国民キャンペーンのおかげで、今バティックは日常の衣服になっている。20年前ベトナムでは、エビは人気のある食べ物でなく、ひとびとはエビを食べようとしなかった。エビの価格があまりにも低かったため、エビは貧乏人の食べ物という認識が一般化していたからだ。しかし今やエビは威厳が備わり、だれもが食べたいと思うようになっている。インドネシアでかつては、ナマズを食べるひとはあまりいなかったが、今では大勢が好んでナマズを食べている。
つまり、消費者のビヘイビアは変化するのだ。ボゴール農大FEMA消費者専門家ウジャン・スマルワンは2011年に、消費者がビヘイビアを変える際に検討対象となる効用が二種類ある、と表明した。それは機能面の効用と社会心理面の効用だ。エビを食することによって得られる機能面の効用は、美味・満腹・栄養などだ。同時に、エビを食べることによってミドルクラス以上の階層に属していると見られる社会心理面での効用も得られるのである。ある物品の効用に関する知識の変化は消費者のビヘイビアを変化させるのだ。
現在の牛肉供給クライシスは消費者ビヘイビアを変化させるモメンタムとなってしかるべきものだ。すなわち、いまだに国民一人当たりの年間消費量が33キロでしいかない魚肉消費のレベルアップに向けさせるのである。牛肉も魚肉も動物性たんぱく質源なのだから、相互補完が可能なはずだ。また漁獲量はいまや1,523万トンもあり、価格も消費者に十分手が届くレベルにある。ならば、消費者にもっとたくさん魚を食べるようにさせるには、どうすればよいのだろうか?
消費者の個人ファクター(能力・知識・ライフスタイル)と環境ファクター(社会階層・文化・家族)がそのビヘイビアを変えさせる要因であることを、エンゲルと友人たちが1994年に見出した。そのエンゲルコンセプトから、われわれはいくつかの方策を引き出すことができる。
まず、ロワーミドルクラスに対して、魚肉の機能面の効用(魚肉に含まれているプロテインは潤沢である)並びに社会心理面での効用(魚は上流階層の食べ物になっている)を重点的に啓蒙しなければならない。沿岸部住民の一部が社会ステータスを慮って魚を食べることを避ける傾向にある事実を見るなら、その啓蒙はたいへん重要であることがわかる。沿岸部の村々では、魚は低所得層の食べ物であるという認識が作られているのだ。それゆえに、魚を食べることへの社会心理面での抵抗がある。ところが、沿岸部から離れて内陸部に入ると、そういうシンボリックな見解は消え失せて、消費者の財布の問題に変化する。内陸部ではおのずと魚の価格が高くなるからだ。しかし牛肉価格と比較するなら、魚に対する購買力は比べものにならない。
次に、一般大衆に対して既述のふたつの効用を定常的に宣伝していく啓蒙グループを強化すること。それはシステマチックなキャンペーン方式でも、個人コミュニケーションの形でも行うことができる。日本では、幼稚園児に必ず「さかな」の歌が教えられる。それは子供たちに対する効果的なキャンペーン方法だ。日本でさえ、伝統的な魚食の慣習を脅かすマクドナルドゼーションに不安を抱いた。そして、医師・教師・学校・家庭が啓蒙グループとなり、魚食を勧めることを社会的に行っている。
三つめ、供給サイドにも魚加工製品の多様化を勧め、消費者の商品選択を幅広くするとともに、実用性も高めていく。たとえば、バソイカン(bakso ikan =フィッシュボール)はバソサピ(bakso sapi =ビーフボール)への代替性を持たせられるはずだ。ロワーミドル層の牛肉消費はバソの形態がメインを占めているかもしれない。
四つめ、上の三つめの項目は、魚のストックが一年中安定していることを条件にしている。それゆえ、魚の流通配送システムが早急に整備されなければならない。
消費者教育というのは、もちろん牛肉と魚肉の相互補完というコンテキストの中でのみ行われるものではなく、米と他の主食品および園芸作物についても同様だ。代替品を発見するために消費者を教育するのは食糧危機対策のひとつであり、供給面での対策も忘れずに行っていかなければならない。


「食糧、ビッグイシュー」(2016年4月1〜5日)
ライター: ボゴール農大教授、、インドネシア農業技術種苗バンク協会会長、ドウィ・アンドレアス・サントサ
ソース: 2014年8月11日付けコンパス紙 "Isu Besar Pangan"

「世界を救うためにわたしに与えられた時間が1時間だけであるなら、わたしは55分を問題の明確化に使い、5分間で対応策を見つけ出す。」アルバート・アインシュタイン
デモクラシーの祭り、キャンペーン、大統領候補者ディベート、そして大統領選挙といった喧騒が終わりを迎えた。その一部が国民や農民の記憶に焼き付けられた、候補者たちが約束したビジョンとミッションのすべてが既存の食糧問題マップを踏まえており、また次期政権がその任期内に実現させることができるのかどうかについて、われわれの思いをはせるときが来ている。
将来の食糧供給はスピーディに増加する人口との競争になる。人口が10億人に達するまで、世界は25万年を必要とした。その後、人口20億人に到達するのに百年で事足り、30億人は三分の一世紀で実現した。次いで17年、さらには12年で世界の人口は10億人ずつ増えていく。(モンペリエ、2012年)
インドネシアでも同じことが起こった。人口が1億人になるために数千年を必要としたが、およそ35年で2億人になり(1998年)、次の35年(2033年)で3億人になるだろう。
40年前から現在まで、石油資源の争奪が世界のジオポリティクスのダイナミズムを彩ったが、今後は食糧がエネルギー問題に取って代わるにちがいない。だから、わが国の指導者がだれであろうと、食糧問題を忘却したなら、それはいつでも爆発して社会騒擾を引き起こす時限爆弾となり、それどころか、われわれの望んでいないメカニズムで政権交代が起こることすら予想される。
< 食糧問題マップ >
グローバルレベルでも国家レベルでも、自給のための食糧生産は大きな障害に直面し始めている。その障害の中には、地下水面の低下、生産量の上昇スピードが行き詰まりはじめている、従来の栽培パターンを狂わせる気象変化、植生を襲う有害生物の増加、硫化肥料の原料である硫黄の消耗、土地の風化浸食、などの現象が列をなし、世界中のほとんどの国で同じように起こっている。
その結果、世界の穀物ストックは十年前の107日消費量からここ数年は74日消費量に低下した(Full Planet, Empty Plates、LRブラウン 2012年)。世界の食糧価格は200〜300パーセント値上がりし、所得の50〜70パーセントを食費に費やしている世界の貧困層に深刻な影響を及ぼしている。
インドネシアの食糧問題も深刻さではひけを取らない。レフォルマシレジーム以来、食糧と農業セクターの建設が後回しされてきたことで、われわれはますます深い食糧輸入の谷底に転落しつつある。食糧分野における自立は遠ざかり、零細農民の生きる道は狭まる一方だ。
過去十年間の食糧輸入の増加は事実なのである。2004年の実績数値と先の政権期の食糧輸入を比較してみるなら、米は482.6パーセント、牛肉340.6パーセント、トウガラシ141.0パーセント、砂糖114.6パーセント、赤バワン99.8パーセント、トウモロコシ89.0パーセント、大豆56.8パーセント、小麦45.2パーセントの増加率となっている(2014年国家経済企画庁と2014年USDAデータに基づく2014年3月26日付けコンパス紙、DAサントソ)。皮肉なことに、食糧と農業セクターの政府予算は過去9年間で611パーセントも上昇しているのだ。
加えて、これまで零細農民は政策に弄ばれる対象物でしかなく、自己救済の道を求めなければならなかった。投機と輸入産品の大攻勢は園芸作物生産農民数万人を叩きのめした。収穫のたびに価格が大暴落するからだ。ここ二か月間のトウガラシ価格は、輸入加工品が流れ込んで生産コストを下回り、農民にヘクタール当たり数千万ルピアの損失を強いている。
サトウキビ農民も同じ状況に直面した。輸入精糖がオープン市場に流入し、商業省がクリスタル白糖の輸入を承認した結果、その時期が大収穫期に入る直前だったことも関係して、農民の売り渡し価格は大崩壊を起こした。
そのサイクルはぼ毎年、ほとんどあらゆる作物で繰り返されている。赤バワン・ニンニク・大豆・トウモロコシ・米・魚・塩に至るまで、みんなそうだ。食糧価格がインフレ率への最大貢献要因であるがために、政府にとっての緊要政策は消費者レベルでの価格保障に向かうのである。食糧保障機構ですら、外国投資家・食糧マフィア・大規模事業者・食糧産業・食糧流通者・生産インプット従事者などをインドネシアの食糧構造ピラミッドの頂点に据えている。今日に至るも、その構造を打破しようとする政府の意欲は見られない。
国民の消費パターンも変化する。米消費は年々1.62パーセント低下している(中央統計庁2014年)。米の消費量低下は国内産炭水化物源の増加に向わず、小麦粉ベース加工食品の消費量急増を招いた。小麦輸入は年率8.6%の勢いで上昇している。(WOAR、USDA、2014年)。国民の飲食品に対する支出は年率14.7%で増えている(中央統計庁2014年)。
< 輸入ベースの消費パターン >
国民の栄養摂取の変化は実際に起こっていない。動物性たんぱく質の消費増が年率0.28%という微細な量で起こっているだけであり、人口増に比較するならものの数に入らない。皮肉なことに、動物性たんぱく質源の飼料や幼生ビジネスのほぼ100パーセントを支配している多国籍企業は、鶏肉年率4.6パーセント、鶏卵1.61パーセントといった高率の成長を稼ぎ出している。国民や零細農民が生産するアヤムカンプン鶏肉やアヤムカンプン鶏卵、あひる卵などの動物性たんぱく質源は、それぞれ年率1.67パーセント、7.3パーセント、9.78パーセントといった激しい低下を示している(中央統計庁2014年)。
原材料の大部分が輸入されているとはいえ、重要な植物性たんぱく質源である豆腐やテンペの消費も年率0.16%のアップでしかなく、人口増に比べればきわめて低い伸び率だ。もっと懸念されるべきは過去5年間の魚消費の低下であり、年率2.19パーセント(中央統計庁2014年)という減少はそれ以前の5年間が増加していただけに、たいへん残念だ。
前政権期の5%を超える経済成長率が国民の消費パターンを国の食糧保障の方向に変化させるよう影響をふるったことは何ひとつ見当たらず、国民の栄養強化に対しても何の影響も及ぼさなかった。食糧多様化プログラムは失敗し、国民の消費パターンは零細農民や漁夫が生産する国内産食糧消費から少しずつ輸入食糧と工場製食品の消費へと変化している。
零細農民がかれらにとってのアンフェアなマーケットで競争できるよう、かれらの能力を向上させる代わりに、過去5年間の政府の政策は市場のリベラル化と外国企業への傾倒を強める結果をもたらしている。政府が許可した農業セクターへの外国直接投資は異常な増加を見せている。2009年の1,221件は2011年に4,342件という、二年間で255パーセントもの伸び率を示した(投資調整庁2012年)。2010年から2013年までの間に食糧と農園分野への外国投資金額は113%アップしている(投資調整庁2014年)。
この傾向は実に不安をもたらすものだ。ましてや、2015年にインドネシアはアセアン経済ソサエティに参加するのである。タリフ・ノンタリフの障壁は廃止され、検疫プロセスはアセアンシングルウインドウに組み込まれる。食糧原料にせよ加工食糧にせよ、ある国が輸入したものはインドネシアを含むアセアン全域に何の障害もなく自由に流通することになる。零細農民や漁夫は、かれらにとってアンフェアな食糧と農産品通商システムとの衝突にさらされることになる。だからこそ、中身のない口約束に終わらせることなく、食糧保障という重要なプログラムを本当に実現させるためには、並大抵のハードワークではおぼつかないのである。
次期政権は、農民の状態をどん底にしたことが明らかな域内あるいは国際的契約のすべてを交渉しなおす必要がある。食糧と農業および下流産品に関するすべての法令を見なおして、行き過ぎた自由化パターンにブレーキをかけなければならない。すでに書き出されているすべてのビジョン・ミッション・プログラムを解剖し、パッケージしなおして本当に農民漁夫の福祉のために遂行可能なものに作り上げ、またインドネシアを食糧分野で自立した国にしていかなければならないのである。


「経済センサス近づく」(2016年4月5日)
中央統計庁は2016年5月1日から31日まで、全国で経済センサスを実施する。10年に一度行われるこの経済センサスは、全国あるいは地域別の開発計画や政策策定のベースとして国内経済の完全な姿を描き出すのがその目的であり、全国すべての場所で行われているすべての経済活動(農業セクターは除外)を対象とし、民衆ビジネスはサンプリング、中規模以上の事業はすべての事業所を対象として行われる。一定の住所で行われている事業、カキリマやビックリパサルのような住所の不特定な事業、地域内を巡回して行う事業、ワルンやキオスのような一般民家の一部で行われている事業などのすべてがセンサス対象となり、事業者は学校・病院などの公共事業、宗教礼拝所や社会組織などの非営利事業、企業、ネット販売を行っている一般家庭などが対象とされている。事業所ごとに集められるデータは、事業所名・事業所住所・業種・法人非法人の事業形態・生産金額あるいは売上金額・雇用者数など。
このセンサスは昔から、さまざまな問題を含んできた。税務署に対してすら真の姿をあからさまに見せようとしない事業者たちが、どれほどの正直さと正確さでセンサス調査員にデータを開示するだろうか?中央統計庁には集められたデータの守秘義務が法規で定められているとは言うものの、ありとあらゆる個人データが容易に盗まれるインドネシアで、赤の他人のデータを統計庁が身を張って守ってくれるとは考えにくい。
つまりこの経済センサスデータというのは、そういう事情の上に乗っかって作られているものだということを、センサスデータ利用者たちは理解しなければならないにちがいない。
だから、センサス調査に協力的な事業所もあるだろうが、調査員が来ないように仕向けて行く事業所も少なくない。というのも、やってきた調査員にデータを知らせることを拒否すれば、1年半の入獄と2千5百万ルピアの罰金が待ち構えているからだ。統計に関する1997年法律第16号で、国民は国が行う統計調査に協力することが義務付けられており、従わない者への罰則はそこで定められている。中央統計庁が取得したデータの守秘義務もその法律で規定されており、漏えいが起これば調査催行者は最大5年の入獄と1億ルピアの罰金が科されることになっている。
中央統計庁長官は全国の実業界に対し、「調査員が事業者と面会することがますます難しくなっているので、事業者はできるかぎり協力的に、そして正確なデータを開示してくれるようお願いする。徴収金などは一切なく、また税務署ともまったく関係がない。データの守秘は保証する。」と述べている。


「インドネシアは世界第十位の工業国」(2016年5月9日)
インドネシアの製造産業はGDPの四分の一をカバーし、世界的な不況下に先進工業国の経済が停滞している中で、インドネシアの経済成長を推進する立役者になっている。国連工業開発機関はインドネシアが世界十大製造産業国のひとつに入っていると報告した。その報告によれば、世界トップ10は中国・米国・日本・ドイツ・韓国・インド・イタリー・フランス・ブラジル・インドネシアとのこと。
インドネシアは中国やインドのように高率の経済成長を示すことはないものの、国内消費を中心にして堅実な経済成長が維持されている。インドネシアの製造産業の中で主役を演じているのは飲食品産業で、厖大な国民人口が生み出す内需を満たすための旺盛な生産がこのセクターをおのずと製造産業界のリーディングセクターに導いた。今では、飲食品製造セクターが生産高と雇用面で製造産業界のけん引力になっている。
続いて顕著な伸びを見せているのがケミカルと自動車産業であり、国民労働力の22%がそれらの主力セクターに就労している。一方、繊維・衣料品・皮革製品セクターは付加価値の向上よりも労働力吸収への貢献が大きく、往年の輝きはあまり感じられない。女性労働力の雇用については、繊維・衣料品・皮革製品セクターが最大シェアを占めており、反対に金属・機械・石油セクターでは女性労働者があまりいない。
アセアン域内でのインドネシア製造産業のポジションは、生産キャパシティと製品輸出面から見るなら、シンガポール・マレーシア・タイの後塵を拝している。というのが、国連工業開発機関によるインドネシアの状況分析だ。
インドネシア政府中央統計庁データによれば、2015年インドネシアの非石油ガス製造産業は5.04%の成長を記録し、全国経済成長率4.79%を上回った。これまで掛け声ばかりが先行して足元の頼りなかったインドネシアの製造産業も、これでいよいよ・・・となるだろうか?


「インドネシア製搭乗ブリッジ」(2016年5月10日)
飛行機に乗るとき、ターミナルビル内から機内に移動する際にほとんど必ずと言っていいほど通るボーディングブリッジの世界的な生産国のひとつがインドネシアだ。日本にある各地の飛行場に設置されているボーディングブリッジのうちでインドネシア製のものは98基になる。
インドネシアでボーディングブリッジを生産しているのはPTブカカテクニックウタマ(BTU)社だけで、この会社は1991年から製品の輸出を開始し、これまでの生産総数7百基のうちの474基が世界市場の11か国に輸出された。その第474号基は日本の山口空港に向けて、最近送り出されている。
輸出実績は既出の日本のほか、シンガポール52基、香港97基、タイ20基、インド120基、マレーシア62基、フィリピン10基、ミャンマー9基、ブルネイ2基、バングラデシュ2基、チリ2基。上の輸出先国別数量を見るとわかるように、インド・日本・香港がトップスリーを占めており、それらメインマーケットからはほとんど毎年オーダーが入ってくるとのこと。
インドネシア政府は現在、これまで国内の僻地だった東部インドネシア地方の開発と観光ビジネス基本インフラ向上のために各地の飛行場のグレードアップに力を入れており、ボーディングブリッジの国内需要も今後大幅な伸びが期待されている。スカルノハッタ空港第3ターミナルには既に45基が設置された。BTU社のこのビジネスはこの先黄金時代が約束されていると見てよいだろう。
BTU社は新マーケット開発を目指して、オーストラリアのゴールドコーストの空港、さらにシドニー空港の入札に参加するための準備を進めているところだそうだ。
BTU社業務担当取締役によれば、同社はアジア市場で4割シェアを握っており、競合相手は日本・ドイツ・中国である由。既にオーストラリア市場への参入に着手した同社は、次のターゲットであるヨーロッパ市場に向けての斬り込み戦略を練っている。


「オフィススペース賃貸料金は下降傾向」(2016年5月11日)
経済成長とルピアの対米ドルレート改善によって、2016年Q1の不動産事業セクターは伸長の兆候が見られるとはいえ、オフィススペース賃貸はまだまだ冬の時代が続きそうだ。
これまで、首都ジャカルタのオフィススペース供給量は年間40万平米の増加というペースだったが、この2016年は年間103万平米という大量の増加が起こる。2016年Q1はCBDのオフィススペース稼働率が87%という状況で、プレミアム物件では賃貸料金が1.9%低下した。今年の大量供給のために、この先二三年の賃貸料金は下降を続けるものと観測筋は見ている。
その状況はCBDだけではない。これまで年間供給量の増加が平均15〜25万平米だった非CBDエリアの有力地域T.B.シマトゥパン通り地区では今年65万平米の供給量増が起こり、賃貸料金ダウンはもっと深刻になる可能性がある。CBDでの入居者誘致競争が非CBDエリアにより深い影響をもたらし、値下げ率を膨らませることになるかもしれないためだ。CBDの平米あたり平均賃貸料金は304,989ルピアで、非CBDエリアのそれは182,641ルピアになっている。
市場で大量供給が起こって平均稼働率がダウンすれば、稼働率が元のレベルに戻るまで賃貸料金は回復しないだろうし、元のレベルに戻るまでの期間の長短も経済状況の如何に従うことになる。
そんなオフィススペースの状況とはまるで異なっているのが、商業スペース賃貸だ。ジャカルタの商業スペース賃貸は不況の時期にも高い稼働率を維持してきており、最新稼働率は92%になっている。都庁が採って来たショッピングセンター建設モラトリアムのために新規供給は低レベルに抑えられ、リテールセクターは事業拡張のために行える方策の選択の余地がきわめて狭いものになっている。そんな状況のために、リテール企業は都内での拡張をあきらめて、地方部へ発展の矛先を向ける傾向を強めている。リテールセクターでもっとも活発に拡張を行っているのは飲食品事業で、ファッションセクターがその後を追っている。


「やくざの稼ぎ方」(2016年5月12・13日)
何の関係もないあんちゃんが、いかつい表情で領収書を突き付けてきたら、あなたは金を払うだろうか?
地場で商売をしている物売りは、ミカジメ料なるものを毎月徴収される。徴収するのはその土地を縄張りにしているやくざ集団だ。インドネシアでは通常、プレマンと呼ばれている者たちが縄張りで商売やビジネスを行っている事業者たちから毎月、保安金を取り立てる。日本でミカジメ料と呼ばれるものだ。そこまでは日本と同じ(と言うか、ユニバーサルな)原理で動いているとしよう。インドネシアでは、官公庁の現場回り役人がそれを行っているケースもあるが、今回はそれに触れない。
さて、縄張りで商売やビジネスを行っている事業所に品物が運ばれてくる。たいていは、その事業所の仕入れ品だ。仕入れ品納入業者のトラックが事業所に来ると、何の関係もないあんちゃんが、いかつい表情で領収書を突き付けてくるのである。納入業者のトラックにいるのは運転手とせいぜい助手だ。かれらが領収書に書かれた金額をあんちゃんに渡さないと、「荷物を下ろすな」と命令される。無視すると暴力沙汰になり、あんちゃんの仲間がばらばらと集まってきてリンチされるから、身の安全とトラックや商品の安全をはかるには、言いなりになるしかない。これもやくざ者に対するユニバーサルな対応だろう。スーパーマーケットに納入を開始した家内工業事業者がオートバイで商品を届けに行ったところ、納入口でいかつい表情のあんちゃんにオートバイから商品を降ろすのを阻まれたそうだ。
こうして納入業者の経理には、3千ルピア・5千ルピア・1万ルピア・2万5千ルピア・5万ルピアなどの訳のわからない領収書が集まってくることになる。納入先の数だけ領収書が集まるということだ。1台のトラックは一日に4か所から6か所の得意先に商品を納めて帰ってくる。そして合計12万から15万ルピアの請求を、平常の経費とは別に経理にあげてくる。ある業者は12台のトラックを稼働させてあちこちに大量の納入を行っているが、一週間に数百枚の領収書がたまる。この経費は2千万ルピアに達することがある。
領収書の発行者は地元の青年オルマス(ORMAS =organisasi massa 大衆組織)だ。オルマスは一般大衆の生活向上意欲発露の場として設けられるもので、生活環境・法支援・宗教・文化・保健など何らかの分野における生活レベルの向上に奉仕するものと定義付けられているのだが、リーダーが統率組織内で参加メンバーをどのような方面に引っ張っていくかは、決して固定的硬直的に見ることができないものだ。参加する人間の資質と組織力のメリットが合体するとき、合法的な看板を掲げて非合法行為を行う可能性は無視できないものがある。世界中の犯罪組織は多かれ少なかれ、似たようなメカニズムで回転しているのではなかったろうか?
オルマスと呼ばれる法的ステータスを持つ組織は、一応は地元政府の管理下に置かれている合法的組織だが、どのような人間がそこに所属しているのかについては、決して楽観視できない。首都圏で名高いイスラム守護戦線(FPI)やブタウィ協議フォーラム(FBR)なども同じ合法的なオルマスだ。もちろん、オルマスのすべてが同類であると言っているわけでは決してない。
北スマトラ州では、地元オルマスが組織公印を捺した領収書を発行して販売している。プレマン組織はそれを買って好きなように金額を書き込むということのようだが、オルマスがプレマン組織にそういう手法をやらせていると見ることもできる。
上述の納入業者はメダンやいくつかの町で商売をしており、各町で相場が異なっていると語る。メダンやブラワンではトラック1トリップで12〜15万ルピアだが、デリスルダンでは7〜10万ルピア、パンカランバンダンでは17万ルピアに達する。
この慣習は昔からあったが、先代国警長官の時代は下火になっていた。それが二年程前からまた活発化している、とその業者は語っている。州警はプレマン狩りタスクフォースを新規編成して、中小零細事業への事業妨害と搾取を行っているプレマンを叩く動きを開始したが、先の時代のような下火にはまだなっていないそうだ。
中小零細事業者に向けられたオルマスがらみの不法徴収金あるいは搾取はそれだけにとどまっていない、と州中小事業フォーラム事務局長は言う。何が行われているかというと、業者の納入トラックにオルマスのロゴを貼らせるのである。車体後部にロゴと名称を描かせたトラックからは、毎月20万ルピアの金がオルマスに入ってくる。納金を怠ると、そのオルマスの縄張り地区を通過するとき投石される。
トラックが無難に配達業務を行いたいと思えば、四つから七つのロゴを車体に描かなければならない。年間にどれほどの金がオルマスに搾り取られていくか、きっと想像がつくにちがいない。
北スマトラ州で起こっているその状況が最近話題になっているが、北スマトラ州だけの特殊事情と思ってはならないだろう。なぜなら、それはインドネシアの風土に根差したものであるからだ。


「恩は仇で返される」(2016年5月26日)
2015年12月7日付けコンパス紙への投書"Kawat Tiang Listrik"から
拝啓、編集部殿。ヨグヤカルタ特別州バントゥル県バントゥルワルン郡ムリカンキドゥルにあるわたしどもの家の庭に、PLNの電柱があります。庭に新しい建物を建てる予定があり、わたしどもはPLNバントゥル支店に2015年10月6日付けの手紙で、その電柱を移動させるよう要請しました。
するとPLNから電話があり、その移動費用である56万1千ルピアをわたしどもが負担しなければならないという連絡がきました。それは4メートルだけ移動させる場合で、塀のそばまで移すなら140万ルピアだそうです。
その費用についてわたしどもがPLNバントゥル支店まで出向いて質問したときも、同じ答えでした。PLNバントゥル支店が言うには、そのような仕事に関する予算がないそうです。
これはわたしどもにとって不公平な扱いだと思います。PLNの電柱が建てられたのはわたしどもが要請したためではないのですから。しかもPLNがわたしどもの地所を使うことに対して、わたしどもは何の補償ももらっていません。もちろん、わたしどもはそのことを問題にしているのではありません。
だというのに、わたしどもが移動させることを要請したら、わたしどもにその費用を負担させてくるのは、どういうことですか?[ ヨグヤ州バントゥル県在住、ヘルマワン・スティアジ ]


「ラマダン〜イドゥルフィトリ期の熱波経済」(2016年6月23・24日)
インドネシアでは、ラマダン〜イドゥルフィトリの時期に国内経済がピークを迎える。それは流通通貨量がその時期、他の月々より大幅に上昇する事実から見ることができる。政府は国民経済の効率向上を目指してキャッシュレス化を推進してはいるが、国内経済ピークシーズンはまだまだキャッシュが大手を振っている。
キャッシュレス生活は、自分の資金を銀行に置いてカード類や電子機器で支払いを行うという構造に利用者が従わなければならない。日銭で毎日を生きている経済弱者たちの生活環境がそのようなインフラをそう簡単にわがものにできるかどうかは、おのずと明らかだろう。ましてや、キャッシュレスというのはその利用にコストがかかるものであり、元手の有無に加えて、手に入れた金を最大効率で物品・サービスに交換するのを念願にしているかれらが銀行界にアクセスするのは差し控えて当然だろうと思われる。だから?資金不足に対応しようとする場合でも、銀行界よりも質屋や巷の金貸しのほうがよりかれらの身近なものになっているのが現実であり、まるで昔の日本の講談に出てきそうな話がインドネシアではいまだに日常の風景になっている。なにしろ、世銀によれば、インドネシア国民はわずか36%しか銀行界にアクセスしていないそうだから。
ラマダン〜イドゥルフィトリ期に普段よりたくさんの現金を手にいれた経済弱者たちは、過分の現金を惜しげもなく使いちらすという、平常抱いている憧れの姿をわが身に引き寄せるわけだ。
ちなみに、2014年のラマダン〜イドゥルフィトリ期通貨量は453兆ルピア、それ以前の数か月平均値は380兆ルピア、2015年は420兆ルピア、それ以前の数か月平均値は387兆ルピアといったところを見ても、国内経済が過熱するありさまがわかる。
この2016年は、昨年ダウンした経済が底を打って徐々に回復基調にあると言われているものの、まだまだ往年の好況には至っていない。それが例年のラマダン〜イドゥルフィトリ期の熱波によって内需に勢いがつくのは大いに期待されているところであり、中銀はその時期の通貨供給を絶対に需要に対してショートさせてはならないという厳しい使命を負っている。
インドネシア銀行は2016年ラマダン〜イドゥルフィトリ期の国内現金需要を2015年実績から14.5%上昇すると予測して、現金供給の手筈を組んだ。地方別現金需要内訳については、ジャワ島33%、スマトラ島20%、バリ+ヌサトゥンガラ11%、カリマンタン島7%といった読みになっている。
キャッシュレス経済のシェアが高まれば、中銀の現金供給に対する苦労とコストは低下するわけだが、まだまだ楽はさせてもらえないにちがいない。16年ラマダン〜イドゥルフィトリ期キャッシュレス取引の伸びは対前年比で7〜10%だろうと中銀は予想している。
ラマダン〜イドゥルフィトリ期の過熱経済は歓迎されないいくつかの副作用を伴っている。物価上昇や贋札を含む詐欺犯罪、そして旺盛な資金需要を満たせない男たちが行う窃盗・強盗・恐喝などの犯罪行為の多発だ。
銀行にアクセスしないひとびとが資金繰りに困ったときに頼みにするのは巷の金貸しであり、あるいは質屋だ。インドネシアでは国有「質」公社が全国津々浦々までネットワークを広げており、地方の町へ行っても質公社の看板を見ることができる。質公社によれば、ラマダン〜イドゥルフィトリ期の貸出金額は平常月よりも15〜20%上昇するとのこと。インドネシアの一般庶民、特に女性は小さいころから貴金属製装身具を身に着けるのが普通で、それは一種の携帯資産になっている。インフレに対しても目減りしないというメリットがあり、そしてとっさの資金需要のために質入れできるからだ。貴金属店に持ち込むひともいるが、質入れのほうが人気が高いように見える。もちろん、民間の質屋も存在しているが、やはり国営事業のほうがサービスクオリティも安心感も高いようで、民間の有力な質屋というのはあまり耳にしない。
ラマダン〜イドゥルフィトリ期に経済が過熱するのだから、業種にもよるが、その時期に取引高が激増する事業者も少なくない。巨額の取引では口座間決済が使われるのが普通であり、必然的に銀行間決済高も大きくなる。
たとえば塩卵(telur asin)というアヒルの卵の塩漬けが中部ジャワ州ブルブスでは特産品になっている。ルバラン帰省者の故郷がブルブスの向こうにあるなら、帰省者の中には名物ブルブスの塩卵を土産に買うひとが必ず出てくる。同じことは、ルバラン逆流の時にも起こる。この大特需を前にしてブルブスの塩卵販売者たちは、ラマダン月が始まるや否や、増産を開始して商品在庫量を平常時の5倍にまで膨れ上がらせるのである。塩漬けの仕込みに2週間かかるそうだから、早めに手を打たなければならない。ともかくこの時期、庶民経済が大活況を呈することは間違いないということだ。
インドネシア銀行が行っているクリアリングシステムは完全オンライン化されており、即時決済がなされるReal Time Gross Settlement (RTGS)ともうひとつのSistem Kliring Nasiona Bank Indonesia (SKNBI)のいずれもがラマダン〜イドゥルフィトリ期には金額増が起こる。RTGSは平常月より10%、SKNBIは7%ほど増加する由。RTGSは決済一件あたりの最低金額が5億ルピアと定められているが、この時期はより多くの決済をスピードアップさせるべく、1億ルピアに引き下げられている。
話変わって、インドネシアでも、イドゥルフィトリの日には子供たちにお年玉がばらまかれる。お年玉に使われる紙幣は新札が常識になっており、全国的に膨大な新札需要が巻き起こるのである。ルバランには新しい衣服を着るのが常識になっているように、お年玉も新しい紙幣で、というのは何らかの共通原理が働いているのかもしれない。
その需要に応じるために、銀行もこの時期には新札両替サービスを行っている。よれよれで変色し、悪臭を放っている汚い紙幣が、この時期になるとどんどん中央銀行に還流していく。
「厖大な新札需要」に「銀行へ行かない需要者」をかけ合わせると、何が起こるだろうか?巷で新札を売る人間が出現するのである。
たいていは胴元がいてどこからか大量の新札を手に入れ、それを巷の人間を使ってバスターミナルやパサルで販売させる。たとえば5万ルピアの新札9枚を、5万ルピア紙幣10枚と交換するというやり方だ。もちろん雑多な金種であっても構わない。中には自分で中央銀行へ行って新札の両替をしてもらい、それを同じように売って儲けている人間もいる。
これは言うまでもなく違法行為に該当するのだが、巷の新札売りが逮捕されて罪を問われたという話はまったくない。巷での紙幣の売買は合意による共同行為という性質しか存在せず、よって被害を訴え出てくる市民がひとりもいないのだから、当局は多発する別の犯罪を優先するに決まっている。なまじパサルで新札売りを逮捕などすれば、新札需要に追われてやってきた消費者からブーイングを食らうのは明らかで、そんな愚かな真似をするほど当局者の頭は硬直化していないということが言えるにちがいない。犯罪が国民の日常生活に密着した部分でしか憎まれないという国民性が、国政上部構造で行われる汚職を繁茂させている一要因なのではあるまいか?


「サラリーマン志向の大学生」(2016年6月24日)
実業家の数を国民人口の2%まで増やすという目標を実現させるためには、インドネシアは青年自営業者をもうあと170万人必要としている。ところが青年商工会議所が行った調査によれば、自営業を目指す大学生はわずか4%しかいない。サラリーマンになるのを希望している大学生は83%にのぼるというのに。
コペラシ中小事業省データによれば、インドネシアの自営業者人口は国民人口の1.65%しかいない。シンガポールですら7%おり、中国や日本は10%に達している。もし人口の4%まで増やすのであれば、6百万人の青年自営業者を生み出さなければならないのだ。
政界・経済界が懸念しているのは、国内で必要とされている自営業者の数を国民が満たせないとき、その座を求めてやってくる外国人にそのビジネスを解放しなければならなくなるという問題だ。だれがその職に就くにせよ、それだけの自営業を稼働させていかなければ、諸外国との経済競争にインドネシアは遅れをとってしまうことになる。もしそのような事態に至れば、サラリーマンになりたい大学生たちの希望はかなえられやすくなるかもしれないが、国家国民が得るべき経済成果の一部が外国へ流出することになる。
政府は大学生への雇用募集の需給関係と人材クオリティのミスマッチングが厖大な大卒失業者を生んでいる現状への解決を模索して、何年も前から対策を講じてきた。そのひとつが、自営業に向かわせるためのモチベーションだ。労働省やコペラシ中小事業省の進めているさまざまなプロジェクトは、それなりの効果をあげているように見える。
コペラシ中小事業省が毎年行っている自営業訓練プログラムに、2015年に参加した人数は8万5千人に上った。そのうちの6割が大学生だったそうだ。
大学生の多くはきっと、狭い枠になっているにせよ、楽で生活の安定度が高い大企業への就職の輪の中に自分も入れるという楽観論の中にいるにちがいない。それが上述の83%という数字を生んでいるのだろう。ところが、大学卒業が近付き、いざ就職戦線の中に身を置いたとき、現実の厳しさを身をもって体験し、就職の輪の中に入れなかったり、その闘いをあきらめた学生たちが、急遽政府の進める自営業者育成のルートに乗って来る、というパターンになっているのではないだろうか?


「ビジネス界の目くらまし」(2016年8月10日)
インドネシアの企業の大半は経営体制の内容を明快に示そうとしていない。最終決定を下す実質的なオーナーがだれなのか、いわゆる実質的受益者(BO)がだれなのかということが世の中に隠されている。そのあり方は不正行為を隠蔽し、腐敗行為を容易にする。
インドネシアにある数十万の株式会社のうちで、インドネシア証取に上場している532社だけがBOのアイデンティティを明確に示しているだけであり、そうでない会社はBOがだれであるのかがはっきりしない。ある会社を調べると、その会社のマジョリティ株式は別の会社が所有しており、その別の会社を調べると、やはりまた異なる第三者企業がマジョリティ株式を握っているという事例は枚挙にいとまがない。
このような形式上の決定権者が階層をなしてつながっている状態は、ビジネス界の順法姿勢がきわめて心もとないものであることを示している、とインドネシアコラプションウオッチコーディネーターは語る。
実質的受益者というのは、エージェントとして行為する者でなく、法的書類に名前を貸している者でなく、仲介者でなく、本当の利益を享受する個人であるというのがOECDの定義だ。
たとえば、地方自治体が公共事業の入札を行うとき、それを落札した会社の決定権者が他におり、その階層構造を何層もたどっていくと、地方首長の出資会社に行き着くという可能性がないとは言えない。またそのような階層構造の中で各社の利益操作が行われたなら、徴税金額が変わって来ることも起こりうる。
インドネシアのビジネス界はもっとクリアーな体質に変わって行かなければならないわけだが、現体質の受益者の中に政財界の著名人たちが紛れ込んでいるなら、これは容易な宿題でないにちがいない。


「村のカラオケラジオ繁盛記」(2016年8月22〜24日)
ヘッドフォンをかぶり、マイクを手にして、リサングニさん37歳は心を込めて歌う。プロの歌手とまではいかないが、歌声はなかなかのものだ。
Wis tau isun riko sayangi
Wis tau isun riko welasi
Yo wis gedigu...Yo wis gedigu
Yo gedigu baen....
歌っているのは地元バニュワギで流行っているジャワ語のポップソングRiko Sing Kanggo Maneh。
かれがいるところはカラオケショップではない。バニュワギ県ロゴジャンピ郡にあるラジオ局アリフカフィラFMのスタジオだ。
ラジオ放送をカラオケに使うというアイデアは、世界広しといえども珍奇なもののようだ。のど自慢素人のためにカラオケBGをオンディマンド方式でオンライン送信するサービスは世の中にいろいろあるが、その歌声をラジオ電波に乗せて世間一般に流そうというのだから、はたしてどれほどのひとが聴いてくれるかということになる。プロ歌手が街中を車で巡りながら、出会ったひとと一緒にカラオケを歌うという番組は行われているが、まったくズブの素人ばかりが出てくるカラオケ放送というものは、なかなか成立しにくいのではあるまいか。そこはやはり村ラジオという性格のたまものであり、同じことをジャカルタやスラバヤなどの都市部で行っても、うまく行くかどうかはわからない。

歌が終わると、かれはマイクに語り掛ける。
「さあ、一緒に歌おうよ。どの歌がいいかね?金はわしが払うから。」
その夕方、リサングニさんは子供を塾に送ってきてから、塾の場所のすぐ近くにあるアリフカフィラFMにやってきた。もう二年前からかれはこのカラオケラジオの定連さんだ。
この日かれは1パケット3曲5千ルピアを3パケット買った。9曲歌えるわけだ。本当はもっともっと、気が済むまで歌いたい。しかしマイクを手にしたいひとが並んでいる。仕方なく、かれは9曲にとどめたということなのだ。
かれの歌声がラジオ放送の電波に乗って、村中に流れる。かれが好んで歌うのはバニュワギアン、つまりバニュワギのご当地ポップス。すると、ラジオを聞いているひとからSMSがラジオ局に入って来る。曲のリクエストもあれば、歌手の品評、そしてCDを出すからレコーディングしようという冗談まで、さまざま。アナウンサーはそんなSMSを紹介し、ラジオを通しての地元民のつながりを深めようと努める。最近バニュワギ県内に増えている村のカラオケラジオのひとつが、このアリフカフィラFMだ。
地元ラジオ業界によれば、県内にある村のカラオケラジオはラウン山の麓から県南部海岸地域まで、およそ2百軒あるとのこと。ラジオ放送局だと聞いて、防音完備でガラス張りのスタジオとか、最新放送設備がそろった屋内の様子などを想像してはいけない。これは村ラジオ局なのだ。普通の家屋の一部屋二部屋を使い、カラオケスタジオだって有名カラオケショップの足元にも及ばない。
アリフカフィラFMでは、TV受像機、サウンドミキサー、アナウンサー用モニターTV、マイクロフォンが二台と歌い手用のヘッドフォンがひとつ、といったところが、設備のほぼすべて。
この放送局はオーナーであるイスマンさんの自宅の一角を使っている。娘さんが昔やっていた美容室と寝室が改装されて、今やラジオスタジオと待合室になっている。イスマンさんはその近くに売場を設けて、やってくる客にコーヒーやつまみ物を販売している。
バニュワギ県のカラオケラジオは商売繁盛だ。プガンティガン郡のラジオシナルFMは、歌いたいひとが続々とやってきて、人が絶えたことがない。自分の順番を待つ人はそこで数時間を忍耐強く費やす。ロゴジャンピ郡アリヤン村のラジオキラナFMは24時間営業に切り替えた。夜が更けるにつれて、歌い手もにぎわい、入って来るSMSも増加する。どうやら、村にはたくさんの深夜族がいるらしい。
バニュワギ県民は、カラオケを日々のストレス発散処方薬にしているようだ。1曲を1〜2千ルピアで歌えるという手軽さと、自分の歌声がラジオの電波に乗って村中に届くという興奮を楽しんでいる。歌がへただの、声がかすれるだのといった引っ込み思案は無用だ。エゴイスチックなくらい楽しみ、ヘピヘピ主義を実践するのである。
小麦粉と揚げ物油を販売しているフサイニさん51歳は、ほとんど毎日カラオケラジオを利用している。商店やワルンに商品を届けて疲れたら、その足でカラオケラジオに行く。かれには定連のスタジオはない。東の方で仕事を終えたら、その近く、翌日は南のほうで仕事を終えたら、その近くで、というスタイルがかれのもの。
歌の合間に自己紹介を入れる。自分は誰で、どんな商売をしているのか、それが宣伝になったところで、誰も苦情しないのがインドネシアだ。ラジオの聴衆は単に歌がうまいかどうかといったことだけを聴いているのではない。そこから伝わる人柄にまで思いを寄せる。こうして、仕事の誘いやら、商売の注文まで、時に入って来ることもある。フサイニさんはストレス発散のためにカラオケを歌い、思いがけなく「商品をどこそこへいくつ届けてくれや。」という注文を得たことが何度かあるそうだ。
貯金とローンを扱う金融コペラシで働くファフロジさん49歳は、県内三郡の6つのカラオケラジオの定連になっている。そこでかれは頻繁に新規利用客を得ているそうだ
ジャワ島でイスラム化が進んだとき、バニュワギ県にあった当時のブランバガン王国がそれに抵抗して最後まで残ったという史実がある。それ以前には同じヒンドゥ系王国であるバリ島の支配下に落ちたこともある。そういう歴史の流れの中にオシン族がいる。オシン族は人類学的には東ジャワに住むジャワ人と同系であるが、文化がまるで異なっていると言われている。西ジャワのバドゥイ族や東ジャワのブロモ山に住むテンゲル族などと類似の道をオシン族も歩んできたのかもしれない。オシン族の祭礼にバリ島では普通のバロンの姿が見られるといったことも、オシン族の特異性を示しているようだ。
モッ・シャイフル著の「オシンの世界:オシン社会の芸術・伝統・知恵」という書物には、民衆の社会生活における芸術への志向がオシン族は平均以上の高さを持っていたと説かれている。音楽と歌唱はオシン族の精神の一部をなし、スブランの伝統儀式では神秘性の強い儀式に打楽器類と歌声が常に付随しているし、労働にも歌がつきもので、田植えのときには竹組やぐらの上から打楽器類の奏でる音楽があたり一面に鳴り響いていた。そのような生活は時代を超えて受け継がれてきており、バニュワギ県住民の歌唱好きを下支えする重要な下地になっているように、県内の文化人たちは見ているようだ。
ガンドリンというオシン族の舞踊は今でもバニュワギ県の代表芸能とされており、県で開かれるフェステイバルには千人規模の集団舞踊が一大ページェントとして催されることが多い。オランダ植民地時代にオシン族はそのガンドリンの伴奏用としてバイオリンを取り入れることさえしている。
バニュワギアンと呼ばれる地元ポップスの新作には、レゲエ、ロック、ダンドゥッコプロなどのリズムを地元現代ポップス作曲者が旺盛に用い、それらの曲が入ったカラオケVCDは一枚1万ルピアで販売されている。
バニュワギ県民のカラオケ好きは、どうやらそういう歴史の上に花開いたものであるようだ。


「レジ袋有料化とインドネシア人の金銭感覚」(2016年9月1・2日)
ライター: 環境オブザーバー、短編作家、レイニ・フタバラッ
ソース: 2016年7月15日付けコンパス紙 "Koin Terkecil dan Kantong Plastik"
ブカシ・ジャカルタ・ボゴールとその周辺地域では、毎日かなりの数の小銭ルピアコイン(100〜500ルピア)が路上に捨てられている。それらのコインは休みなく行き交う自動車のタイヤに踏みしだかれて、摩耗してしまったように見える。
表面の凹凸がなくなってしまったものや、擦り傷だらけのものもある。わたしはいつもそれを拾って歩く。あるときは合計が3千ルピアになったこともある。額面は小さくても、それらはインドネシア共和国の通貨なのだ。道端に転がっているただの金属片ではないのである。
路上でそれらの小銭がタバコの吸い殻と同じように扱われたとき、わたしの心は刃物でえぐられたように痛んだ。胸を強くどやされたように感じた体験を思い出した。わたしが乗ったミクロレッの運転手に料金を払ったとき、その中に混じっていた2百ルピアコイン5個をかれは路上に投げ捨てた。即座にわたしは痛みと怒りを感じた。そのまだ輝いているコインは有名なスーパーマーケットで買物の釣銭としてもらったばかりのものだった。
同時にわたしは、1千ルピアを路上に投げ捨てる貧困者の姿にイロニーを感じた。たとえそれが小銭の形であっても、1千ルピアの価値に変わりはない。結局最後はタバコの吸い殻のように路上に投げ捨てられるだけのものであるなら、それらの小銭は何のために作られているのだろうか?それとも、われわれの社会が小銭の価値を見る能力を持っていないということなのか?
それはわたしに、モダンマーケットでのプラスチック買物袋有料化の運動を思い出させた。マスメディアは、ナンバーワンの中国に次いでインドネシアがプラスチックゴミを海に捨てている世界第二位の国だと報道している。ジャンベックの2015年データでは、インドネシアが海に捨てているプラスチック買物袋は1億8,720万トンだとされている。プラスチックゴミを減らすため、2016年2月21日の「ゴミへの関心」国民の日に政府は国内22県で買物袋有料化を開始した。モダンマーケットでプラスチック買物袋は一枚2百ルピアの値がつけられた。この方針は、消費者がモダンマーケットで買物する際に、自分の買物袋を持って来させる動機になると考えられた。だがその価格は、路上に投げ捨てられる小銭と同じ価値だ。
消費者が有料プラスチック買物袋に負担を感じて、自分で買い物袋を持って来たり、あるいはプラスチック買物袋をリサイクルするようになるというのは、本当なのだろうか?
< 目標未達 >
プラスチック買物袋有料化によって小売業者が得る金の利用法を問題にする気はない。且つまた、伝統パサルは対象外にしてモダンマーケット業態の小売業界だけにその有料化を行わせていることの有効性を問う気もない。わたしが問いたいのは、プラスチック買物袋有料化という形態の抑制型アプローチの有効性なのだ。
有料化方針が開始されてから、多くのモダンマーケットは安価軽量な買物袋をオファーするようになった。見栄えもよくできているので、さまざまなシチュエーションに利用することができる。抑制型方針が別種の買物袋という新ビジネスのチャンスを開いたのである。
インドネシア人消費者のビヘイビアを鋭く嗅ぎ取る生産者は、消費者が家から買物袋を持参したり、自らリサイクル素材で買物袋を作るようなことを好まず、新しいマシな買物袋を買う方を選択するということを想定していた。その結果、プラスチック買物袋有料化方針は生産者を利する結果をもたらした。しかしちょっとお待ち願おう。消費者は本当にプラスチック買物袋有料化を負担に感じているのだろうか?
これまでのところ、プラスチック買物袋に金を払うことを、モダンマーケット顧客は苦にしていない。自分で買物袋を持ってくるひとの数は、金を払おうとするひとたちに比べてあまりにも少ない。プラスチック買物袋5枚で1千ルピアというのは決して高くないと見られている。その金額は路上に捨てられている小銭を集めてくることで容易に得られるのだ。
もちろん、すべてのモダンマーケットがプラスチックゴミのリスクに関する説明を、少なくとも垂れ幕やポスターで、行っているわけでもなく、それでもそのことを理解している消費者ですら、プラスチック買物袋有料化方針に動かされたわけでもない。名の知られたモダンマーケットのいくつかは長期にわたって大型垂れ幕でプラスチックゴミが地球の生命維持に危険をもたらすことを叫んでいたが、消費者は知らぬ顔を決め込んでいた。プラスチックゴミを減らすという目的は達成されなかったということだ。
ルバラン帰省者が故郷への途上にあるとき、ゴミの脅威は持続する。中部ジャワ州知事のガンジャル・プラノウォがソーシャルメディアを通して「清潔な帰省・整然たる帰省・秩序ある帰省」キャンペーンを張った。道路脇に帰省者たちが残したゴミのニュースを種々のオンラインメディアが報じた。モスクの構内や空き地などでイードの礼拝が終わったあとの定例ゴミとはまた別の物だ。人間が集まると、ましてやそこに食べ物を売る商人がやってくると、そのエリア一帯はゴミ、特にプラスチックゴミで埋められる。
< 抑制、大衆参加 >
共同の利益に関わる問題の取り扱いにおいて、抑制型アプローチつまり有料化は、その金額が自分の財布にとって負担であると感じる場合にのみ有効だ。小銭がたくさん道路に捨てられているということは、貧困者ですらその金額に価値を感じていないことを示している。大都市にはもはや200ルピアで買える品物も食べ物もない。交換価値はもう歯抜けになっているのだ。
モダンマーケットで有料プラスチック買物袋は、路上に捨てられる200ルピアコインと同価なのである。それゆえ、1千ルピア相当のプラスチック買物袋5枚に金を払わなければならなくなっても、ひとは負担を感じない。有料化はプラスチック生産者にかえって利益をもたらし、本質的にプラスチック買物袋の消費を減少させない。プラスチック買物袋のすべてをもっと容易に分解する紙製のものに変更させるなら、また話はちがう。
コールバーグのモラル理論に従えば、「奨励ー抑制」政策というのは初歩的モラル段階のもので、権威主義的である。プラスチックゴミを減らすことを理解させようとせず、その目的を認識させないまま、政府は全消費者に金を払うように義務付けた。
ゴミは共同の問題であり、政府だけにとっての問題ではない。だから、もっとも効果的な政策は大衆の自覚と、紙袋のような環境に優しい代わりのものを使用させることにある。消費者に高額な支払いを強いることはもちろん可能だが、自覚した大衆は、環境に優しい消費パターンという連鎖的な影響を生み出すことになる。
そのアプローチも長期のプロセスを必要とするが、結果ははるかに永続的だ。都庁がどれほどたくさんオレンジ部隊に給料を払おうが、何百万もの人間が散らかしまわるゴミを清掃しつくすためには十分でない。オレンジ部隊に追加費用を支出するのは別にしても、その政策アプローチは効果的でない。ましてや、デモクラシーというのは共同の福利を実現させるための大衆参加なのだから。


「プレミウムガソリンは先細り」(2016年9月26・27日)
補助金付きプレミウムガソリンの販売量が低下しており、政府の燃料補助金支出が減少している。何年にも渡ってあれほど大騒ぎした補助金削減のためのプレミウムガソリン販売制限方針を結局何も実行することなしに、プルタライトガソリンという補助金なしガソリンを小さい価格差で世に送り出しただけでこれほどソフトに補助金削減が進展するのだから、政府とプルタミナにとってはまるで夢を見ているようなものかもしれない。だが、本当にそうなのだろうか?
プルタミナ社企業広報担当副社長は、RON88のプレミウムよりオクタン価の高いRON90のプルタライトは2015年7月の発売以来、国内消費量が何倍にも増えた、と語る。東ジャワのスラバヤとマランでプレミウムの市場供給が不足しており、プルタミナが故意に制御しているのではないかという声が聞こえていることについて、そんなことはしていない、とかれは反論した。それは市場における需給原理がもたらしているものだそうだ。
「たとえばスマラン地区の16年8月販売は、プルタライトが一日当たり消費量が850kl増加して2,500klに上り、反対にプレミウムは600kl減少して一日7,800klになった。」
スマラン市内のガソリンスタンドはプレミウムの販売量が大幅に減っており、従来週に2万kl売っていたスタンドは今や週1万klを割っている由。
スラバヤでも同じ現象が見られ、プレミウムの売れ行きがダウンしてしまっているため、プレミウムのディスペンサーをプルタライトに切り替えたガソリンスタンドが目に付くようになった。スラバヤ市内を回ると5か所以上のガソリンスタンドがプレミウムの販売をやめている。それらのガソリンスタンドはおのずとプレミウムの注文をプルタミナに出さなくなるためプルタミナの供給量も減少していき、外見的にはプレミウムの販売削減を行っているようにも見えるのだが、それは市場メカニズムが動かしているものだ、というのがプルタミナの説明だ。
プルタミナ第5地区販売オペレーション広報課長は、東ジャワ州内の838軒のガソリンスタンドの一割がプレミウムの販売をやめてプルタライトに絞るようになっている、と言う。
そこにはもちろん、ガソリンスタンドにとって売上高の大小も関わっている。プレミウムの小売価格はリッターあたり6,450ルピア、プルタライトは6,800ルピア。数百ルピアでも高いものを売る方が、マージンも大きくなる。プレミウムはリッター当たり200ルピアのマージンだが、プルタライトはそれより320ルピアも大きい。ガソリンスタンドがプレミウム離れを決断するだけの市場動向をかれらは充分に感じ取ってのことだろう。
北スマトラ州メダンでも同じ現象が起こっている。市内のガソリンスタンドのひとつはプレミウム給油ディスペンサーを6本使っていたが、今や2本まで減らされて4本は補助金なしガソリン給油用にあてられている。そのガソリンスタンドでは、プレミウムとプルタライトの販売量が二日で1万6千klと拮抗しているそうだ。
南スラウェシ州マカッサルでも、プレミウムを販売しているガソリンスタンドはあまり見かけない。たまに見かけると、決まって購入者が長蛇の列をなしている。プルタミナ社第7地区販売オペレーション広報課長は、2016年のプレミウム販売クオータは前年から増やしてあり、供給不足が起こるような状況になっていない、と述べている。
西ジャワ州でもバンドン〜スムダン地区の45軒のガソリンスタンドがプレミウムの取り扱いをやめることを合議した。プレミウムをやめてすべてのディスペンサーで補助金なしのガソリンと軽油を販売することを合意したそうだ。
しかし市場現場では、おかしな話が飛び交っている。スマラン市内のガソリンスタンドでプレミウムを買おうとした消費者のひとりは、プレミウムは売り切れたので「プルタライトを買え」だの「プルタマックスを買え」だのとスタンド従業員に強制され、従業員はプレミウムの枠が減らされたからだと説明したそうだ。
そのような巷からの苦情に埋もれたスマラン消費者保護育成機関がプルタミナに対して、プレミウムの供給量を確保せよとクレームしたのも当然だ。それに対する反論が冒頭のものであり、プルタミナはガソリンスタンドに対して何の強制をも行っていないという説明だった。普段はハードな手段を辞さないインドネシアの実業界だから、このスマートな方法を見る限り、プルタミナは国際レベルの知的販売戦略を行える企業になっているということだろう。
ところで、巷を騒がせたプレミウム出荷量の操作という濡れ衣は、ガソリンスタンド従業員の消費者を誘導するための出まかせ口実であったことが明らかだ。類似の嘘は、いたるところにいるセールスマンやセールスガールが自分の売りたい物を買わせようとして口から出まかせのことを言う例が枚挙にいとまないので、このインドネシア文化にもわれわれは心するべきだろう。


「BKPMは事業投資者の相談相手」(2016年10月25・26日)
地方分権体制が国家方針としてスタートしてから、各地方政府は旺盛な勢いで地方条例作りを開始した。ところが、制定された地方条例や知事規則の内容を見てみると、課金・税・許認可などを新規設定するものが大きいウエイトを占めている。地元民の経済活動を活発にさせて地元経済を高揚していこうというオリエンテーションとは反対の、地元経済活動者への負担を増やしてビジネス意欲を減退させる方向性をより強く感じさせるものという印象が強い。元来レントシーキングに支えられた封建制経済のメンタリティは依然として行政者の内面に強く固着しており、行政とは民衆に対するサービスであるというコンセプトを口の端に載せても、頭の中はプリヤイ思想にどっぷり浸かっているかれらの精神構造がそこから見えて来るようだ。
やはりプリヤイ思想の一部であるプンリ(不法徴収金)の慣習が加わって、地方部で事業を行うのは首都圏で同じことをするよりはるかに精神を疲弊させ、事業を困難にするものだという定説ができている。最低賃金が低く、また年々のアップ率も低い、というメリットを追って地方部に拠点を置いた外国人事業者が、初期の決断に迷いを示す言葉を述べている実例もある。
ジャカルタから日帰りできる地方で、年間7億2千万ルピアの道路照明税が民間企業に請求された話も、そのリスクのひとつだろう。道路照明税とは国が認めた地方税のひとつであり、地方議会が道路照明税の施行を決めたなら、その地方のPLN電力利用者はPLNの月次請求金額内に含められた道路照明税を納めなければならない。そうやってPLNがいったん集めた道路照明税はそのまま地方政府に納められる。
道路照明というのは道路インフラに不可欠な設備であり、国道以外の道路インフラを整えるのは公共施設管理者としての地方政府であるため、地方政府のインフラ建設と維持の財源の一部として道路照明税を住民から徴収するのを、国が地方政府に認めているということであるにちがいない。
ところが奇妙なことに、地方政府が照明設備を設けず、またPLNも電力供給を行っておらず、一民間企業がすべて自前で照明器具を設置し、自家発電して必要な電力を自力供給していても、その企業に道路照明税が請求されることになっている。公平・平等よりも「取れるところから取る」というマキアベリズムの臭いをそこに感じるのは、わたしだけだろうか?
本来、電力供給は政府が行わなければならない基礎インフラのひとつだ。ところが、オルバ時代以来、国内外からの大型投資が起これば、ほしいだけの土地を政府は用意してくれるが、電力・電話・アクセス路などのインフラは状況に応じて民間企業の自己負担となった。国有事業体であるPLNやテルコムから「あなたの工場がある地域への電線敷設計画はまだない」と言われ、地元政府も手を挙げたなら、そのインフラを自前で調える決意をしない経営者はいないだろう。
インドネシアに招致された外国資本は、そんなこととは露知らず、工場を建てたあとで愕然としたかもしれない。内国資本も同じ扱いをされるわけだが、自分の国の国情を知らないで事業オーナーや経営者にはなれないだろうから、愕然とする者はいなかったのではあるまいか。
今でも、新開地に電線を引いたり電話線を引いたりという話になると、幹線から分岐させた枝線すらまだ設置されていない場合、往々にして枝線の敷設までもが最初の契約者の資金負担にさせられることが起こる。
政府機関である地方自治実行監視委員会は2010〜2015年に制定された15,146件の全国地方条例のうちの5,560件に焦点を当てて内容を検査しており、そのうち1,300件の内容が既に洗い出された。委員会が焦点を当てているのは、地方経済の進展を誘うものか、あるいは反対に地方経済を委縮させてでも行政収入を増やすことが主眼に置かれているものなのかというポイント。それらの条例は税・課金・許認可・労働監督に関するものを内容としている。
委員会専務理事が語った途中経過によれば、1,300件中の586件、つまり45%が問題のある条例である由。主には、手続内容・標準日数・標準金額がはっきりしないものが最多で、次に費用徴収者の権利と義務が明記されていないもの、またその上位の法規が何であるのかが明記されていないもの、となっている。それらのファクターは事業主にとって、事業遂行の中に不確定性をもたらすものだ。行政管理者や行政監督者から何らかの請求があったとき、それがプンリなのか合法なものなのかという法的根拠の有無や請求金額の妥当性について、明白な説明が得られない場合、事業主は協会や同業者たちから情報収集しなければならなくなる。ビジネスマンにとってそのようなものごとは雑音以外の何物でもないはずだ。
多くの事業主は、地方条例やプンリが要求する出費が度を超えているのに煩わされている。もちろん出費の問題だけでなく、手続きが不明瞭な許認可の場でも、手続きがずるずると延ばされて、早く決着したければプンリという道に誘導されることもある。
東ジャワの既存企業が、既存の工場の隣に新しい工場を増設したいと申請した。土地のステータスをはじめ、すべてのデータははっきりしている。すると行政監督者は申請手続き費用として9億ルピアを要求した。双方間で意欲的なネゴが続けられ、最終的に4億ルピアを払うことで申請が許可された。
中部ジャワでは、新規投資手続き費用として10億ルピアが要求されたために、事業投資者はその新規投資を取りやめた。この企業の従業員雇用計画は2百人となっており、地元地域での失業者が2百人以上減少するのが目に見えているというのに、地方政府(の担当官と担当部門)は優先順位の決め方が明らかにプリヤイ型になっている。
地方自治実行監視委員会専務理事は、問題のある地方条例が制定されてしまうのは、内務省が制定前の審査をやりおおせていないからだ、と国家の統制から外れてしまっている現状を批判した。県市条例は州政府と中央政府内務省が、州条例は内務省が、というように制定の前に上位機関による審査を受けて承認されてからなされなければならない。
この地方部におけるビジネス環境への障害がインドネシアの事業投資を妨げるもとになることを懸念するBKPM(投資調整庁)は、現状の改善を現場で支援する方針を明らかにした。ビジネスに優しくない地方条例の帰結として起こる事業環境問題の仲介調整役に就くことをBKPM投資統制デピュティは表明している。
「投資振興の推進にあたって、BKPMは投資者を支援し便宜を図っている。事業投資者が地方行政関連で困った問題に直面しているのであれば、当方は投資者・地方政府・内務省・経済統括省の間をコーディネートして解決のための協議の場を用意することができる。その協議の場で建設的な議論が交わされ、地方条例がもたらした問題が解決されることを、当方は期待している。だから、この方針実施の中では投資者がBKPMに問題の届けを出すことからすべてが始まるのであり、それがなければ当方には問題があることすらわからない。個別の投資者からの相談を受けて問題解決の道を探ることが、BKPMが現場で行う投資者への支援となる。」
地方条例がもたらしている事業環境の悪化の改善にBKPMが関与するということでなく、あくまでも個別の事業投資者が困っている問題の解決に手を貸すという立場からのBKPMの方針が、どうやらその表明であるようだ。


「行き詰まる森林不法伐採対策」(2016年10月31日)
森林不法伐採は一時下火になったというのに、しばらく前からまた活発化している。2015年の一年間と2016年9月までの間に生活環境森林省は14州で24件の不法伐採木材を摘発し、6,641立米の木材と7,983立米相当の丸太等を押収している。不法伐採の根絶が困難なのは、遠い過去から連綿として築き上げられた構造の変革になかなか手がつけられないからだ、とNGO役員が表明した。
国内の木材加工産業は依然としてジャワ島内に強く根を張っている。ジャワの木材加工産業は高い需要を維持しており、合法違法のあらゆる素材を貪欲に呑み込んでいる。違法のものは合法のものよりコストが小さいため、業界にとってはそれだけ競争力が増す。ビジネス界で製品競争力の高まる廉価素材への志向が強いのは当たり前のことだ。
もうひとつの要素は、大型輸出港がジャワ島に集中していることで、地方部の産品が国内航路を経てジャワの大型輸出港に集り、単独あるいはコンソリが組まれて輸出されていく。不法伐採の丸太は、国内加工のために、あるいは丸太のまま輸出されるために、ジャワ島に入ってくるのが常識と化している。そんな体質の中で行政は不法伐採の取締りを行わなければならない。
16年8月5日、生活環境森林省はバンテン州セランで、南スマトラ州ムシバニュアシンからムランティ、トゥルンタン、バラム、ムダンなどの不法伐採丸太289本を運送していたトラックを捕らえて丸太を押収した。同省法執行総局長によれば、不法伐採木材はきわめて広範囲な組織的動きを示しており、実に多数の人間が細かいネットワークの中に関わっている、とコメントした。これは、善悪でなく利益の多寡によってそれまで赤の他人だった人間同士がきわめて協力的互恵的な動きを展開するというインドネシアの民族性を指しているように思われる。わたしはそれを「容易に作られる悪の同盟」と称している。
インドネシアの腐敗行為の特徴の一つに、行政サービスの享受者と提供者の間で容易に発生するプンリ(不法徴収金)と贈収賄現象がある。これは人間同士の接触のある場で起こりやすいものであることから、それが起こりにくい環境設営のために許認可手続きのオンライン化が国内行政全般にわたって積極的に進められてきた。その流れの中で、生活環境森林省は16年1月1日から担当官による伐採木材の現場における合法性確認を廃止し、申請者の自己申告に一任する形に変えた。それが不法伐採を隆盛化させる結果をもたらしていると見られており、それを従来の形に戻すよう求める声も強い。
NGO役員は不法伐採木材のジャワ島侵入を水際で阻止するべく、ジャワ島の主要港や闇ルートの上陸ポイントにおける監視を強化するよう、政府に求めた。もちろんそれは不法伐採現場における監視と並行して行われなければならないことがらだ。
しかし視点を変えるなら、低コストの不法伐採木材が完全にシャットアウトされたら、インドネシアの木材産業はコストアップを余儀なくされる。同じことは脱税問題にも当てはまる。更には盗電から補助金付き燃料使用など、法規に従わずに低コストを実現させている要素は両手の指では足りないくらいだ。
この低コンプライアンス文化によって、現在のインドネシア産品の市場競争力が実現している。それをコンプライアンス化させていけば、経済力は激しい影響を受けるにちがいない。このインドネシアパラドックスをインドネシア経済は克服できるだろうか?


「契約を盾に裁判で決着させよう、は愚行」(2016年11月1日)
事業のしやすさを国別に比較してランク付けを行っている世銀グループのドゥーイングビジネス最新版で、インドネシアは昨年の189ヵ国中の109位から今年は190ヵ国中の91位に大躍進した。
アセアン域内で見ると、例年1位だったシンガポールはニュージーランドに首位を譲って2位に転落したが、依然としてアセアントップは変わらない。次はマレーシアで、昨年の18位から23位に悪化。タイは46位に上昇。ブルネイ72位、ベトナム82位はいずれも昨年よりアップ。そしてインドネシアがアセアンの第6位で、昨年103位のフィリピンが今年は99位に上がったが、インドネシアはそれを追い抜いた。
この報告の中でランク付けを決める際に10項目が評価対象になっている。それを見るなら、インドネシアでビジネスを行う場合の難点と便利な部分がよりはっきりするにちがいない。その10インデックスを見てみよう。
1)電力取得 世界第49位
ビジネス開始に当たっての電力利用申込手続き全体の簡易さ円滑さと、引込線設置作業や恒久的電力供給
2)ローン取得 世界第62位
安全な取引を保証する貸付者と借入者それぞれの法的権利の評価と両者間の情報開示の存在
3)マイナー投資者の保護 世界第70位
マイナー株主を利益コンフリクトから保護するレベル
4)倒産の処理 世界第76位
破算の枠組みと事業再開を含む倒産処理プロセスの期間・出費・結果
5)納税 世界第104位
税課金支払い状況と社内納税業務経費コストの軽重
6)貿易 世界第108位
輸出入プロセスにかかる日数と費用
7)建築許可プロセス 世界116位
建物の建築が完了するまでに必要な全プロセス
8)不動産登記 世界第118位
事業者が他の事業者から不動産を購入し、購入者に名義を変更するのに必要なすべてのプロセス
9)事業開始手続き 世界第151位
事業を開始するために必要なすべての手続
10)契約のパワー 世界第166位
法廷でのビジネス係争決着にかかる期間および費用と法的処理クオリティ
BKPM(投資調整庁)データによれば、2016年1〜9月の投資総額は453.4兆ルピアで、対前年同期比で13.4%アップしている。内国投資は158.2兆ルピアで18.8%成長だが、外国投資は295.2兆ルピアで対前年同期比10.6%の上昇だ。
BKPM長官は今年の状況について、製造やサービスなど付加価値ビジネスへ投資が向かっている、と述べている。その裏側にはコモディティセクターへの投資が減少傾向にある状況が付随している。投資総額の56%が二次産業、30%が三次産業で一次産業向け投資は13.3%となっている。


「罰金は5万ルピア」(2016年11月7日)
2016年7月12日付けコンパス紙への投書"Denda Kartu Tamu"から
拝啓、編集部殿。去る6月7日10時半、わたしは会議に出席するため、マヤパダビル第2タワーを訪れました。中に入るために、KTPやSIMなどのアイデンティティカードを預けてゲストカードを身に着けなければなりません。
会議が終わったあと、わたしと同僚はタクシーを捕まえるのに躍起になっていたため、ゲストカードを返して自分のIDを取り戻すことを忘れてしまいました。仕事が忙しかったのと、都内の交通渋滞が激しかったために、マヤパダビルのゲストカードを戻しに行くのが6月9日11時になってしまいました。
そのときわたしは初めて知りました。ゲストカードを返すのを怠ると、一日当たり5万ルピアの罰金がかかるという規則になっていることを。この罰金規則はあまりにも重すぎます。ましてや、係員からの警告も事前になかったのですから。
わたしの苦情をジュニアントさんは聞き入れてくださって、わたしが作った表明書にサインすることでこの問題は解決され、またあまり一方的でない規則に変えることを検討するという約束をいただきました。[ タングラン市在住、イカ・マルリナ ]


「ジャカルタのオフィス賃貸料金が下降」(2016年11月9日)
オフィススペースの過剰供給は2019年まで続きそうで、経済が落ち込んでいるいま、新しいオフィスビルではスペース賃貸料金を30〜40%引き下げてテナントの誘い込みにかかっているようだ。
ジャカルタの2016年Q4新規オフィススペース増加は55.5万平米で、そのうちの35.1万平米はCBDの7つのビルが供給する、と不動産コンサルタントのコリエールズインターナショナルインドネシアが報告した。2016年末時点の総供給量は900万平米となり、昨年末から13%のアップになる。従来の増加率は平均年9%だから、今年の沈滞した経済状況の中での大幅供給増は、必然的に買手市場を生み出すことになる。
2016年Q3の平均賃貸料金は4.8%ダウンして平米当たり月間329,448ルピアとなった。Q4はそこから更に低下していくものと見られている。
CBDのプレミアム物件は通常平米当たり月額50万ルピア台だが、空きスペースを埋めるために引き下げざるを得ない状況だ、とコリエールズの上級参事は述べている。新規に完成したオフィスビルの中には入居率が10%しかないところもあるし、そんな状況を避けようとして完成を遅らせているビルもある。
需要のほうは相変わらず石油ガスセクターが筆頭利用者だが、パイオニア企業や建設サービス事業も伸びが見られるとのこと。


「自営業が人気上昇」(2016年11月16日)
2016年2月の全国完全失業者数は702万人で、前年同月の745万人から低下した。失業率は5.8%から5.5%にダウンしたことになる。ところが大卒失業者の状況は反対に、5.3%から6.2%に増大している。
インドネシアの自営業者人口比が諸外国に比べてあまりにも小さいことが、政府をしてかれらの自営業へのモチベーション付けと資金援助の政策を進める方向性を生んでおり、既に数年間に渡って実施されている。インドネシアの自営業者人口比は1.65%で、シンガポール7.2%、マレーシア5%、タイ4.1%とは比べものにならない。
大卒失業者の自営活動は小規模資本で日常生活必需品の小売販売や飲食サービス業を行う傾向が高く、そのメインはコペラシ中小事業省の所轄に入る。
コンパス紙R&Dが2016年9月21〜23日に全国14都市の642家庭に対して17歳以上の回答者から集めたデータが報道されている。
質問1.自営業に入る大卒者は今後ますます増えると思いますか?
回答1.増加する66.0%、変わらない3.6%、減少する28.2%、不明・無回答2.2%
質問2.もしあなたが自営業に入る状態にある場合、どの事業セクターを選択しますか?
回答2.飲食業23.4%、日常生活必需品21.2%、小資本事業18.8%、デジタル・アプリ9.0%、海洋・水産・農業・牧畜5.0%、コンサルタントサービス4.0%、衣料品・縫製3.6%、自動車・メンテ修理2.8%、不動産1.6%、求人サービス1.2%、その他4.4%、不明・無回答5.0%


「密輸入に利用される会社」(2016年11月21日)
インドネシアの法人で輸入ライセンスを持っている企業の中に、輸入活動を輸入通関ブローカー(乙仲)に任せきっているところがある。銀行経由であるいは船積者から直接的に船積書類が届くと経理もしくは総務部門がそれをブローカーに渡して通関申告から港でのハンドリング一切を自動的に行わせ、工場あるいは倉庫に貨物を受け取らせてブローカーからの請求を処理するだけということが行われている。輸入管理から書類保管の一切はブローカーが自社内で代行しているという構図だ。そのような構図が不心得者に密輸犯罪の機会を開く。
荷主であるA社の輸入貨物が港に到着する。A社の輸入通関代行者である乙仲のB社がいつもと同じようなシッパーの船積書類を持って輸入通関プロセスを行う。ところが、いつもは日本から積出されているのに、この船積書類はシンガポールからの船積みを示している。もちろん、そんなことは輸入通関で問題にされることがらではない。
貨物はA社のものだという表明がA社の社印といつも通りのサインから明白に見て取れる。ところが、不審を抱いた税関担当官が現品検査を行ったところ、通関書類に記載されている、A社がその工場で使用する原材料や仕掛品でなく、中古オートバイのフルKD、洋酒、衣料品などでコンテナ内が埋まっているのが発見された。A社がそのような密輸入を行おうとしたのだろうか?それともB社が・・・?
バンテン州チレゴンの港で輸入通関にかけられたDIM社の輸入コンテナ3本の中に、通関申告された物品とはまるで異なる洋酒6千本、ノートパソコン580台、中古大型バイクをフル分解した部品セット8台分、衣料品433枚が発見された。虚偽申告による密輸入と判定した税関は、そのコンテナ3本を差し押さえた。税関の査定によれば、密輸品総額は2百億ルピアと見積もられており、正規通関を行えば関税は85億ルピアにのぼるそうだ。
1995年法律第10号「通関法」第103条によれば、犯人への刑罰は2〜8年の入獄および/あるいは1〜50億ルピアの罰金となっている。
税関がこの密輸入の企てを摘発できたのは、担当官の第六感でなく、市民からのタレこみのおかげだったとのこと。その詳細が公表されることはないため、われわれは実態を知ることができないが、普通は犯罪者の身近にいて犯罪計画を漏れ聞いた者が官憲に届け出るようだ。犯罪者も普通の社会生活をしている人間であり、犯罪者仲間との閉鎖的な日常活動以外の時間は、ひとりの社会人として普通の市民と混じり合って生活しているのだから。
さて、上のA社B社の例に戻って、犯人はだれだったのかということは、税関文民捜査官と警察の捜査結果いかんとなるわけだが、可能性としてはかなり広い範囲に広がる。A社がB社に命じて行うケース、B社が独自に行うケース、B社従業員が自主的に行うケース、外部犯罪者がB社経営者もしくは従業員を巻き込んで行うものまで広がって行く。
だれがどのような悪事を行うかわからないインドネシアの特徴に思いを致すなら、輸入通関申告提出のポイントで自社内の責任ある人間が決定権を持つこと、申告提出ゴーの根拠を発注管理者に確認させるシステムを設けることで、会社が密輸入者に利用される機会をミニマイズできるにちがいないとわたしは思うのだが。


「牛4百万頭に人工授精」(2016年11月24日)
政府は牛肉の国内自給を目指して肉牛頭数を240万頭増やす方針を開始した。中でも、この方針の骨子は4百万頭のメス牛に人工授精を施す点にあり、4百万頭に人工授精を施せば少なくとも3百万頭が受精に成功し、妊娠中のトラブルを差し引いて240万頭の赤ちゃん牛が誕生するという計算。
政府が牛養殖農民に対してそこまで行おうとするのは、この問題に関する農民の意識が低いためだ。メス牛に優れた種牛を掛け合わせてクオリティの高い子牛を作ろうとせず、メス牛を放置してどの雄牛と交合しようが関知せず、この問題を意識的にコントロールしようとしないのが一般の農民の姿だ。またメス牛の妊娠サイクルにしても7〜8カ月も間をあけるケースが多く、出産後2ヵ月過ぎればまた妊娠させるという効率的増殖方法を行わない。
政府のこの方針で牛養殖農民への意識付けが進展すれば、政府の国内牛肉市場管理も将来的に効果が高まり、養殖農民の経済向上も実現するという寸法だ。子牛一頭の市場相場を3百万ルピアとすれば、このセクターに7.2兆ルピアという収入増が起こる。政府はこの方針を成功させるために1.1兆ルピアの予算をかけて冷凍精子・受精用機材・受精実施者・飼料等をそろえることにしている。
ランプン州副知事は政府のこの方針について、ランプン州だけで2百万頭のメス牛を用意できるので、政府の計画の半分を引き受けたい、と表明した。ランプン州は牛の飼料になるトウモロコシ滓・パイナップル滓・シンコン滓が豊富であり、またジャカルタやバンドンなどの大消費地に近い地の利もあるため、政府のこの計画を実施するのに適している、との弁。
州内4県が既に牛養殖センターとして認められており、他県へもこの産業の拡大を進めているところであるとのこと。