インドネシア税労働情報2011〜13年


「アピンドがアウトソーシング撤廃に向かう」(2011年1月6日)
人材派遣会社から契約社員を受け入れることを認める2003年法律第13号が施行されて以来、フォーマルセクターでは雇用期限を持たないいわゆる正社員の数が激減した。レクソン・シラバン、インドネシア福祉労組同盟委員長によれば、フォーマルセクター勤労者3千3百万人中の正社員はわずか35%になっている由。
ソフィヤン・ワナンディ、アピンド会長はその話にショックを受け、そのような状況は早急に改善しなければならない、と力説している。「2003年法律第13号施行前は67%だったが、それがほとんど半減している。わたしは事業者たちに、なんでみんなアウトソーシングに走るのかと尋ねたことがある。法律で許されているのだというのがその返事だった。この状況は危険であり、将来に不安を招くものである。それを改善するためには法律第13号を改定しなければならない。実業界は労働者がアウトソーシングシステムで働くようなことをせず、明るい未来を持つことを希望している。それが企業の業績を左右するものだからだ。アピンドは事業者層に対して、事業の中核領域に契約社員を使うのはやめるよう忠告し警告している。政府は、労働大臣だけでなくSBY大統領を含めて、この現状が早急に改善されるよう手を打ってほしい。」
アピンドは三大労組同盟と力を合わせてこのアウトソーシング問題の是正を進める考え。三大労組同盟とは、およそ4百万メンバーを擁するKSPSI(インドネシア全国労組同盟)、メンバー2百万人のKSPI(インドネシア労組同盟)、50万人を抱えるKSBSI(インドネシア福祉労組同盟)の三つ。レクソン・シラバン、インドネシア福祉労組同盟委員長は、アウトソーシングに依存する現在の労働体制が長引けば、国全体の生産性はどんどん低迷するばかりだ、と述べている。
中央統計庁の失業者2010年8月データによれば、全国の労働力人口は1億1,650万人で就業者総数は1億820万人、失業者数832万人となっているが、アウトソーシング労働者は契約期限がくれば失業者となる可能性を秘めた潜在失業者である。ちなみに勤労者の週当たり労働時間を見ると、次のようになっている。
労働時間週当たり1〜7時間 120万人
8〜14時間 459万人
15〜24時間 1,248万人
25〜34時間 1,500万人
35時間超 7,497万人


「2010年税収不足は還付金のせい」(2011年1月11日)
2010年度改定政府予算内の収入実績は税収と寄付を合わせて1,014兆ルピアにのぼり、予算目標を2.2%オーバーした。ところが税金還付分が40兆にのぼって税収結果を引き下げたために税収でショートフォールが起こった、と大蔵省収税政策庁国家予算政策センター長が表明した。
予算をショートしたのはPPN(付加価値税)・PPnBM(奢侈品税)・非石油ガス所得税の三つで、その他の税種はすべて収入予算をクリヤーしている。特に非石油ガス所得税の還付13.4兆ルピアとPPN還付26.6兆ルピアは2009年還付実績総額の31.3兆ルピアを大きく超えるものになった。これは税務調査の結果出された納税命令に対する不服や上訴の条件が前年までは納税履行であったものが、2010年からその条件が解除されたことによって還付金額増を招いたとセンター長は説明している。
2010年税種別年間収入は、PPNとPPnBMが251.9兆ルピアで対予算消化率95.8%、非石油ガス所得税は297.7兆ルピアで消化率97%、チュカイ66.2兆ルピアで消化率111.6%、国際通商税28.9兆ルピアで127.9%、PBB(土地建物税)28.6兆ルピア消化率112.9%、BPHTB(土地建物権利取得税)8兆ルピア112%、その他国税収入4兆ルピア消化率103.3%、PNBP(非税国庫収入)267.5兆ルピア108.2%というのが2010年の税収明細だった。また政府が受けた寄付贈与は2.4兆ルピアで、改定予算目標を27.4%オーバーした。


「労災補償上限が引き上げられる」(2011年1月10日)
2010年12月20日付け政令第84/2010号でジャムソステックの7回目の規定変更がなされた。今回の規定変更は労災補償上限金額に関するもので、次のような変更内容になっている。
項目: 変更前 / 変更後
医療費: 1千2百万ルピア / 2千万ルピア
搬送費: a 陸上・河川・湖沼 45万ルピア / 75万ルピア
b 海上 50万ルピア / 100万ルピア
c 航空 100万ルピア / 200万ルピア
義歯: 15万ルピア / 200万ルピア
医療費・治療費は医師への支払・医薬品購入・手術代・ラボ検査費用・病院保健所での諸費用、そして監督行政機関から認可を得ているイスラム・中国・トラディショナル医療者による治療を含んでいる。搬送費は労災事故現場から病院まで被害者を搬送した際の交通費。
ジャムソステックのこの補償金額引上げは、加入勤労者に対するサービス向上のみならず会社にとっても従業員に対する労災補償を軽減することにつながるものであるため、より多くの会社がジャムソステックに加入する糸口になるよう期待されている。


「国庫収入を揺さぶる大問題のタネ」(2011年1月14日)
国税総局が納税者に対して行なった税務調査と脱税捜査で多数の違反行為が行なわれていたことを会計監査庁が摘発した。それが判明したのは国税総局に対する業績監査の中で、会計監査庁が企業6社で税務調査を監査した結果法規に対する違反行為が明らかになった。
会計監査庁に国税総局の業績監査を依頼したのは国会第11委員会国税作業コミティで、会計監査庁の報告によれば、監査を行なった6社のすべてで違反があったとのこと。国会は会計監査庁に対して更に取調べ監査を行うよう求めている。その6社とはPT Permata Hijau Sawitの2007〜2008税務年度、PT Asian Agriの2002〜2009税務年度、PT Wilmar Nabati Indonesiaの2009年9月〜2010年4月税務報告、PT Alfa Kurniaの2009年3月〜5月税務報告、PT ING Internationalの2005〜2007税務年度、RS Emma Mojokertoの2006〜2008税務年度。
国税作業コミティ委員長は会計監査庁からの報告書に接して、国税総局の税務調査は大蔵大臣決定書や国税総局長規則などの実施細則を順守しない形で行なわれており、実施規定違反は明らかだ、と語っている。「当意即妙、その機至れば知恵が湧く、というのがその手口だ。あの手この手で納税者を押さえ込み、脱税犯罪者の立場に追い込んで行く。正当な税務調査というポイントから見たプロフェッショナリズムや妥当性はそこに見当たらない。」
会計監査庁の報告には、実施された税務調査が法規違反であったことについて納税者が逆告訴を行なえば、1,3兆ルピアの税収をそれら6社に返還しなければならなくなる、との見積もりが記されている。国会第11委員会国税作業コミティはその報告書に鑑みて、より大規模で深い監査を国税総局の業績に対して行なう必要性を予見しており、特別委員会を設けてこれまでアンタッチャブルだった収税活動に幅広くメスを入れる可能性が生じている。しかしその結論に至る前に、今回会計監査庁が行なった監査に関して国税総局に対する喚問をまず実施するのが先決であり、特別委員会設置はその後での判断になりそう。


「職場であなたは部下の昼寝を容認しますか?」(2011年1月18日)
午睡というものを怠惰・非生産性のシンボルとして排斥する文化もあれば、人間の心身消耗に回復を与える万能薬として推奨している文化もある。いずれも文化の中に咲いている花だから、それだけ取り上げて議論しても話にならない。長く伸びている枝葉をたどって全体像の中に位置付けなければことの是非を判断することは不可能で、異なる文化を認識するということの難しさはおのずからそこに現れてくる。
インドネシア文化は午睡にポジティブな価値を置いていた。スペイン人は有名なシエスタの習慣を持ち、アラブでは酷暑の午後に店を閉めて夕方まで休息する。70年代のジャカルタでも商店街で多くの店が午後閉店していたようだ。最近ヨーロッパで行なわれた調査結果として、昼寝をする人はしない人より34%も心臓病に罹りにくい、という結果が公表されている。昼寝はひとをリラックスさせ、ストレスを軽減させるので、それをしない人よりは心臓発作が起こりにくいということらしい。特に若い男性にはその効果が顕著であるとのこと。
しかし午前8時から夕方5時までの勤務時間、残業、そして通勤ラッシュといった心身を消耗させる毎日のサラリーマンたちに、果たして昼寝の時間はあるのだろうか?コンパス紙R&Dが2010年12月8〜10日に809人を対象に行った調査によれば、なんとインドネシア人のふたりにひとりは場所がどこであれ、時間の長短は関係なく午睡を取っていることが明らかになった。自宅で・職場で・公共スペースで、休日でもない勤労日に。
質問1) あなたは勤労日に午睡を取ることができますか?
回答) 「ヤー」と答えたひとの職種とパーセンテージは次の通り。
学生・生徒/48.1、 主婦/62.3、 無職/62.2、 老齢退職者/75.0、 文民公務員・国有事業体社員/46.4、 軍人・警察/62.5、 民間会社員/34.9、 自営業・事業主/44.1、 教員/56.7
質問2) 午睡を取るのに最適な時間帯は?
12時〜13時 10.8%
13時〜14時 44.1%
14時〜15時 26.2%
15時以降 18.9%


「海外出稼ぎ事業の希望と実態」(2011年1月27日)
ドイツから看護師7千人、アメリカからトラック運転手8千人と看護婦3万人、クエートから看護師1万2千人、合計5万7千人。これは海外からフォーマルセクター求人としてインドネシア政府に入ってきた2011年度労働力派遣の勧誘だ。2010年には33,727人を超える勧誘があった。労働力配備保護国家庁はインドネシアトレードエキスポ2010に2万2千人、上海万博建設作業者に1万人、カタルのディヤファエキスポに727人、オーストラリアでインドネシア語教師に1千人、その他各国での看護師や接待業に数千人といった労働力派遣の勧誘を得たものの、政府が派遣できたのはわずか306人で、それもティモールに助産婦6人とマレーシアのペナンでの家電セクター労働者として300人が供給できたに過ぎない。
そして2011年は派遣要請が更に増加しているのだが、その5万7千人に応じて派遣できる者はひとりもいない、という最悪の結果になろうとしている。なぜなら、海外からの派遣要請は当然のことながら特定レベルの技能を持っていることが条件になっており、インドネシア政府労働省が持っている人材リストの中にそれらの条件がクリヤーできる者がひとりも見つからないという状況にあるためだ。
その5万7千人以外にも、今年はアブダビから看護師2千人と介護士2千人、クルディスタンから5千人などの労働力派遣要請があり、労働力配備保護国家庁はこちらの需要を満たすべく努力を払っている。
政府は問題の多いインフォーマルセクター海外出稼ぎを減らしてフォーマルセクター海外出稼ぎを増やしたい意向であり、労働力配備保護国家庁はその先鋒として政府方針の普及推進に当たっているものの、上で述べられているような状況が実態のようだ。


「2010年の労災発生は6万5千件」(2011年2月1日)
日常業務の中で労働安全衛生基準を取り入れていない工場がまだたくさんあり、更に労働監督行政がその問題にまだ厳しい対応を取っていないため、労災発生は依然として頻繁に起こっている。労働省が2010年に受けた届出は6万5千件に達し、死者1,965人、永久後遺障害者5,975人が生まれた。
ムハイミン・イスカンダル労相は、中小規模の工場で労働安全衛生基準を取り入れているところはあまりなく労災発生は頻繁だ、と述べている。「地方首長とくに地方労働局は地元企業に労働安全衛生運動を実践させるよう指導し、従わない会社には厳しい罰則を与えなければならない。」
2009年の労災件数は96,314件と報告されており、2010年はそれから大幅に減少したとはいえ、依然として高いレベルにある。労相が目標に掲げているゼロアクシデントに比べれば、6万5千件という数字は気の遠くなりそうなレベルだ。
アピンド全国役員会メンバーのひとりは実業界側の労働安全衛生基準の対応について、大企業は既に日常業務の中にそれを取り込んでいるが、建設産業とインフォーマルセクターでの推進が捗っていない、と表明している。


「2011年労働デモグラフィー予測」(2011年2月5日)
労働省データによれば、2011年の求職戦線は277万人が増加するとのこと。これは労働省の新規就職見込246万人よりすこしだけ少ない。労働省の2011年労働デモグラフィー予測によれば労働力人口は1億1,827万人で、2010年の1億1,600万人からそれだけの増加があることになっている。2010年を振り返って見ると、労働力人口は前年から270万人増加した。
ムハイミン・イスカンダル労相は労働力増加について、低クオリテイ・低競争力・労使紛争が依然として頻繁であるといったことがらを踏まえてその問題への対応をはからなければならない、と注意を喚起した。中央政府から地方政府に至る諸行政機関に対して、どのような方針を定めて対策プログラムを実施するのか、その計画を策定して提出するようにと労相は求めている。その労働力吸収計画は現行法規に即したものでなければならない。
2011年、政府の失業者対策プログラムは、独立アントレプルヌール養成84.6万人、フォーマルセクター労働者養成25.3万人が計画されている。ちなみに2011年の新規就職見込内訳は次のようになっている。
アントレプルヌール 68.5万人
支援された自営業 47.7万人
正社員に支援された自営業 17.3万人
勤労者 71.6万人
農業セクターの自由勤労者 6.1万人
非農業セクターの自由勤労者 4.8万人
家族の手伝い勤労者(無報酬) 30.5万人
合計 246.5万人


「事業主は従業員に特別褒章を与えよ」(2011年2月15日)
労災発生件数が依然として高い実態に、労働安全衛生を実施している従業員に対してインセンティブを与えるよう、労働省は事業家層に呼びかけた。労相はまた事業家層に対し、従業員が勤務中に事故に遭わないように、また勤務条件が不衛生なために病気に罹らないよう,雇い主として安全衛生に十分な対応を取って欲しいとも求めている。
労働安全衛生基準は勤労者に保護を与えるという基本的人権に即すものであり、企業が従業員に安全衛生基準の実践を促すのは従業員を保護し、会社の生産性を維持するための対策でもあると労相は語っている。
2010年9月までの労災発生件数は70,853件であり、2009年は年間で96,314件、2008年も9万台だが、2011年のターゲットは70,227件とされている。


「依然として世界のクーリー?!」(2011年2月19日)
ワールドエコノミックフォーラムが発表した2010年グローバル競争力指標でインドネシアは35位に置かれた.アジア諸国と比較すると、シンガポールは第1位、マレーシア10位、中国18位、韓国23位、タイ26位、インド31位といった順位。インドネシアは2007年54位、2008年51位、2009年42位、2010年35位と年々上昇を続けているものの、近隣諸国になかなか追いつけないでいる。
インドネシア人労働力の海外での評価は、依然として作業者の域を出ないものだ。「技術者あるいは専門家といったレベルの能力を持つインドネシア人はまだあまりにも少ない。ところが大勢の外国人はインドネシア国内にそのような資格で職を得ている。能力保持というポイントを見るなら、インドネシア人勤労者で十分な教育と職業訓練を持ち、職業能力認定書を持っている者はきわめて少ない。インドネシアはもっと競争に強い勤労者を育てなければ、国内海外の労働市場で外国の人材に太刀打ちできない。」ムハイミン・イスカンダル労相は国民の勤労技能涵養の重要性をそう強調している。


「これまでの最低賃金システムは廃止せよと労働界」(2011年2月26日)
来年から政府は公定最低賃金に従った昇給制度をとりやめて、適正生活需要に基づく昇給制度を開始せよ、と労働界が要求した。
「最低賃金制度の規定を事業者側は不当に扱い、本来の主旨から外れた形で運用されているため、長期勤続労働者は昇給という面で不利益を蒙っている。最低賃金というのは新規採用者に適用されるべきものであって、長期勤続者に適用されるべきものではない。これは長期勤続者に対する評価が既に消滅していることを意味するものだ。ましてや昨今の生活基幹物資価格の異常な値上がりはかれらの人間的な暮らしを困難にしている。この要請は国民労組が全国大会で決議したいくつかの内容のひとつである。」バンバン・ウィラヨソ国民労組委員長はそう語っている。
世銀の2010年6月度報告書によれば、インドネシアの最低賃金上昇スピードは2003年法律第13号労働法制定後、緩慢になっており、2005年以降の上昇率は労働者の平均賃金の伸びよりも小さくなっているとのこと。労働省が集めた全国最低賃金データでは、全国33州で州最低賃金が適正生活需要以上になっているのは8州しかなく、25州はそれを下回っている。
ムハイミン・イスカンダル労相は従来からの最低賃金決定パターンが全関係者の賛同からほど遠い現状に関連して労使双方に対し、全関係者が了承しやすいパターンを探るためのサーベイを行なうよう提案した。しかしアピンド全国役員会議長は最低賃金決定方式に関して、労使間のあらゆる問題を討議し解決を探るために全国労使間フォーラムを活用し、最低賃金事項もそのひとつとしてその機関で協議し決定するようにしてはどうか、と提案している。この機関であらゆる問題の解決がはかられるなら、労働法廷に持ち込まれる労使間係争は陰をひそめるだろうとのこと。現在最低賃金は州知事の決定事項になっており、事業者の中でその法規に違反する者に対してはアピンドも法規の順守を警告しているので、いまでは大企業中企業のほとんどでその違反は見られなくなっている、とジマント全国役員会議長は語っている。


「不合格通知は出ないのがインドネシアの常識では・・・?」(2011年2月26日)
2010年12月25日付けコンパス紙への投書"Lowongan untuk Sekretaris Direksi"から
拝啓、編集部殿。2010年10月14日にわたしは東ジャカルタ市ティパルチャクンラヤ通り53番地にあるPTジャヤアバディムリアキミアに取締役秘書採用試験と面接のため呼ばれました。口頭の試験問題を終えてから、わたしはリサさんからインタビューを受けました。警備員の話では、かの女がその会社の取締役なのだそうです。
インタビューの終わりにリサさんはダイレクトに給与の交渉に入りました。わたしは4百万ルピアを提示し、かの女は最初三ヶ月間3百5十万ルピアでどうか、と提案してきましたので、わたしはそれに同意しました。一週間後、わたしはその後の経過を尋ねるためにその会社に電話しましたが人事担当者とは話ができず、受付係りは会議中だからと言い訳しました。一週間後にわたしはもう一度フォローのために電話しましたが、人事担当者はわたしと話をしたがらないようで、同じ結果が繰り返されました。
結局、2010年11月13日土曜日のコンパス紙求人広告の中に、わたしは同じ会社が取締役秘書という同じ職種の求人広告を出しているのを見つけました。そのことひとつから、わたしはこの会社の求人応募者に対する倣岸で好き勝手な態度を窺い知ることができたのです。
会社の求人ステップの最後に給与交渉が置かれている就職試験と面接のプロセスを体験したのは決してそれがはじめてではありません。PTジャヤアバディムリアキミアの経営スタイルが将来改善されますように。[ ジャカルタ在住、ユリタ・ヘリヤニ ]


「インドネシア人出稼ぎ者受入をストップ?」(2011年3月1・2日)
サウジアラビア商工会議所雇用国家委員会がインドネシアからの出稼ぎ者受入をストップすると表明し、雇用事務所に対してインドネシア人の労働ビザは受け付けないように、とのサジェスチョンを与えたことを日刊紙アラブニュースが明らかにした。この措置はインドネシア人出稼ぎ家庭プンバントゥがアラブ人の雇い主に虐待された事件をインドネシアのマスコミが過剰報道していることに関連しており、インドネシア人雇用は費用がかかりすぎること、インドネシア人の勤労クオリティは差がありすぎることをその雇用中断の理由にあげている。
サウジアラビア政府とインドネシア政府の間でもリクルート費用や出稼ぎ者への標準賃金についての見解が異なっており、またサウジアラビアに出稼ぎに来るインドネシア人は97%が家政婦と運転手で占められているとサウジ側は表明していることなどから、サウジアラビア側は現状にフラストレーションを抱いている感が強い。
インドネシア政府労働省データによると、2010年のサウジアラビア向け海外出稼ぎ労働者派遣内容は次のようになっている。
男性: フォーマルセクター23,464人、インフォーマルセクター6,691人
女性: フォーマルセクター85,595人、インフォーマルセクター251,969人
合計: フォーマル109,059人、 インフォーマル259,660人
しかしサウジアラビアに海外出稼ぎ者を派遣している出稼ぎ者送り出し業界指導者は、そのようなニュースは昔から折に触れて出現するイシューに過ぎず、法規に則して送り出し手続を行なっている業者は何も心配することはない、と業界内に呼びかけた。そのニュースは雇用国家委員会が出した単なる意思表示であり、政府の政策として実施される段階に入ったものではない、とのこと。
ところで、サウジアラビアに出稼ぎに出て、契約年数を消化したにも関わらず帰国しないオーバースティ不法居住者も少なからずおり、警察の手入れで逮捕される者もかなりいる。また犯罪を犯したり、種々の違反行為のために強制帰国させられる者の措置について、インドネシア政府はサウジ政府との間で罰金徴収は免除するという取り決めを結ぶのに成功した。出稼ぎ者の本質から言って、かれらは経済的余裕ができればすぐにそれを本国送金するはずで、金銭的に余裕のない者に罰金を課してもかえってトラブルがこじれるばかりだということを嫌った上での両国の合意であるようだ。
ちなみに2010年9月までの海外出稼ぎ者本国送金額は対前年同期比でほとんどが増加傾向にある。国別送金額は次の通り。
国名:  2010年/2009年 (数字は億米ドル)
マレーシア: 27.5/17.3
サウジアラビア: 17.0/16.4
台湾: 3.39/3.1
香港: 3.37/3.29
シンガポール: 1.65/1.46
UAE: 1.46/1.32
日本: 1.13/1.05
シリア・ヨルダン: 0.78/0.78
クエート: 0.61/0.82


「あまり日系企業で働かない日本実習経験者」(2011年3月18日)
1993年に開始されて以来、既に30,856人の青年たちが日本で研修を受けており、そのうち5,272人は今現在研修生活を日本で送っている。この制度は知識技能を身につけるのにきわめて有効で、人材クオリティ向上に大いに役立っている。
日本政府が提供している外国人研修制度の効用についてイスカンダル・ムハイミン労相は、帰国した25,584人の日本技能実習経験者のうち17.909人はアントレプルヌールとなって活躍しており、国内企業や外資系企業、特に日系会社、に勤務する者はマイノリティだ、とコメントした。
「日本研修から帰国した青年たちには自動車・繊維・電気・製造・機械・建設など多岐に渡るセクターの日系企業から就職の声がかかるが、青年たちの多くは自分の能力・才能・日本で得た知識などに応じて、独立して自営業を営もうとする傾向が高い。かれらは自ら自営の道を切り開き、おまけに周辺にいる無職の者に就職の機会を作り出すという形で政府の就労者増加政策に間接的に協力している。」
労働省は現在、コペラシ中小事業省およびコペラシ経営学院と協力して、日本研修経験者に対する継続自営業プログラムを推進している。


「国民の納税参加はいまだお粗末」(2011年3月21・22日)
2010年の国税総局税収額は590.47兆ルピアで、2億3千7百万国民人口で割ればひとりあたり年間納税額が2,485,614ルピアと算出される。「ミスキン(1)」(2011年3月9日)の中で触れられているように、2010年ひとりあたり国民所得はおよそ2千7百万ルピアで、納税額はそのおよそ10%を占めており、発展途上国としては結構なレベルだと言える、と国税総局納税者順法観測次局長が表明した。次局長はさらに、2011年は人口2%増を織り込んでひとり当たり納税額は2,925,756ルピアに上昇するだろう、と予測を語っている。
しかしそのように大雑把にならした数字の見方は実態把握に歪んだ虚像を投影することになる、とインドネシア大学社会政治学部国税オブザーバーが批判の声をあげた。
ルストン・タンブナン教官はインドネシア国民の納税貢献度はいまだきわめて低く、納税金額のほとんどは国民のごく一部に当たる富裕層が負担しているものだ、と実態を指摘した。「グローバルな計算をすればそうなる。しかしその計算結果としてのひとりあたり納税金額の上昇が国民の納税順守を意味しているわけではない。国税総局は国民の納税参加が向上しているような言い方をしているが、それは事実ではない。ひとり当たり納税額は非課税限度額を超える所得のあるNPWP(納税者番号)保有者の数をとらえて計算されるべきものだ。国民すべてが納税者になっているのではないのだから。ましてや個人納税者からの収税は少数の富裕層が金額のほとんどを負担しているのが実情だ。つまり、そのような数値で国民の納税参加が進んでいるという見方をするべきではない。」
実は、タンブナン教官の発言を裏書する内容の話を国税総局納税者順法観測次局長自身が物語っている。2010年に年次納税申告書(SPT Tahunan)提出を義務付けられたNPWP保有者の中で589万人がその提出を怠っているのだ。
2010年データによれば、国税総局に登録されているNPWP保有者は15,911,576件の個人法人があり、そのうち年次SPT提出を義務付けられているのは14,101,933件ある。その中で2010年に年次SPTを提出したのは8,202,309件で、提出率は58.2%に達した。しかし逆に言うなら、まだ二件に一件はNPWPを交付され納税者として国税総局に管理されていながら、納税申告を行っていないとも言える。ともあれ、年次SPT提出率は2008年33.1%、2009年54.2%と年々増加の歩みを示している。
しかし法人の年次SPT提出状況を見ると、2010年総登録数1,608,337件の中でSPT提出の義務付けられているのは1,534,933件あるとはいえ、提出された年次SPTは501,348件しかなかった。提出率はわずか32.7%であり、2009年の40.8%からも低下している。ということは個人納税者の年次SPT提出率はきわめて優秀だったはずで、提出の義務付けられた12,567,000件のうち7,700,961件が2010年には提出を実行した。その提出率は61.3%であり、2008年の32.9%、2009年の56.3%から大きく改善されている。地方別に年次SPT提出率を見ると、最高はジョクジャで最低は北スマトラであるとのこと。
ここ数年、個人納税者拡大をはかってきた国税総局は年次納税申告書の簡素化に思い切った取り組みを示しており、申告書フォームは記入項目が減らされ、また初心者にもわかりやすいものに改善されている。しかし大蔵省は富裕者層にまだかなりNPWP未保有者がいること、そして個人納税者全般の年次SPT提出率を更に引き上げたい意向があることから、国税側の納税管理効果の更なるグレードアップと申告書フォームの更なる簡素化の検討に入っている。


「ブルネイの労働力需要はインドネシア人が埋める」(2011年4月20日)
国民人口がおよそ50万人というブルネイに滞在しているインドネシア人は2011年2月現在51,391人もいる。ところがそのうちの49,802人がインドネシア人海外出稼ぎ者なのだ。そしてブルネイは更に8,368人の外国人労働力を必要としていることを明らかにしている。インドネシア政府労働省は、その需要もインドネシア人海外出稼ぎ者で刈り取ってしまおう、と意欲的な姿勢を見せている。
在ブルネイインドネシア大使館のデータによると、49,802人の内訳は次のようになっている。
家庭プンバントゥ 16,525人
お抱え運転手 3,562人
ホテルセクター就業者 3,037人
石油セクター就業者 1,041人
専門職 924人
会社運転手 366人
農園セクター就業者 231人
工場就業者 118人
船員 79人
保健医療セクター/看護師 11人
その他 23,908人


「10年以上足踏み状態の労働事情」(2011年4月28日)
1998年の通貨危機以来、インドネシアの失業率は下降しているものの就労状況の改善は見られない、とILOインドネシア事務所が報告した。
労働集約型製造産業界の雇用能力は弱体化する一方であり、サービスセクターがそれに代わるポジションに上がってきているものの就労クオリティは低い。インドネシアの公式統計は失業率低下を報告しているとはいえ、種々の労働市場インディケータは国内労働市場が既存職種の成長の陰に就労状況のクオリティ立ち遅れを内包していることを示している、と2010年度ILO報告は述べている。
新卒労働力への需要は継続的に伸びているが、給与・社会保障・労働保護・妥当な労働環境といった労働対価はそれに連動していない。その有様は国内諸都市でのショッピングセンターや諸プロパティ建設による労働力需要の伸びの中に映し出されている。
本当は、国内労働市場は1998年のアジア通貨危機からいまだ回復してはいないし、15〜24歳労働力に対する就労機会はいまだに発展していない。2005〜2009年ピリオドに農業セクターは労働人口が5.6%減少し、加工産業セクターは0.8%低下した。ところがサービスセクターは労働人口を2%増やし、その勢いはいまだに継続している。このように雇用能力において製造産業界はサービスセクターに取って代わられつつあるのだが、労働力に対する教育と技能の開発が需要のベーシックな変化に対応していないことから、サービスセクターの人的需要を完全に満たすことに困難が生じている。そしてそれは大卒者とより低い学歴者間の賃金格差をますます拡大させる方向性をもたらしている。その対策として政府は生産性の高い就業分野を積極的に創出していかなければならない、とILOは建白している。


「国民の納税コンプライアンスが向上」(2011年5月2日)
2010年度年次納税申告書(SPT Tahunan)の個人納税者締め切りは2011年3月末日で、778万個人納税者がSPTを提出した。法人納税者のSPT提出は2011年4月末に締め切られた。締め切られたばかりの法人納税者SPT提出はいったい182万法人納税者の何%が実行したのだろうか?
国税総局納税者コンプライアンス監督局長は、3月末時点で161,565法人納税者がSPTを提出しており、国民への啓蒙告知が徹底の度を深めているので、今年は前年より30%増加するだろう、と予測を物語った。
個人納税者の提出状況はジャカルタがもっとも盛んで、次いで西ジャワ・東ジャワという順番になっている。全国の個人納税者SPT提出総数の中でジャカルタは18.7%のシェアを占め、西ジャワ14.4%、東ジャワ13.3%、中部ジャワ10.8%、バンテン5.2%、リアウとリアウ島嶼4.8%北スマトラ4.7%という割合だった。
NPWPが発行されている個人納税者数は2011年2月時点で1,711万人にのぼっている。昨年の個人納税者SPT提出率は57.4%だったが、ことしは62.5%に上昇した。


「有能な中級労働力危機に直面するインドネシア」(2011年5月7日)
コンシューマープロダクツ、自動車、エネルギー、金融、ハイテク産業の5産業分野は目覚しい経済発展と広大なインドネシア国内市場をバックに大きな就労チャンスの扉を国民の前に開いた。それらのキー産業は毎年10〜12%の労働力増加を必要としているものの、各界のリーダー経営者たちは、必要とされる有能な労働力を得ることが実に困難だ、と慨嘆している。アメリカの人材コンサルタント会社ケリー・サービシズはインドネシアの労働市場についてそう報告した。
「中でもコンシューマープロダクツと自動車産業は、若年層がメインを占める2億3千7百万からの人口が作り出す中産階級に支えられて最高の潜在性を持つ産業であり、それだけ労働力需要も伸びていく。しかし労働力に対する教育と市場の格差は大企業にとって中級レベルの有能な労働力の入手を困難にしている。それは有能なミドル層労働力が何年も前に妥当な職場を求めて国外に出てしまっているからで、そんな状況はインドネシアに限ったことでなく、シンガポール・インド・中国など目覚しい経済成長を遂げた国では一般的に起こっていることだ。政府はそんな状況に押されて、国内労働力需要をまかなうために外国人ミドル層労働力の国内就労条件を緩和する方向に動くことになる。特に外国に就職した有能な自国民の帰国を促すために、かれらにとって魅力的な政策を政府は用意しなければならない。
有能な労働力の需要は、多国籍企業が事業ユニットを競争力のある国に移す傾向を示し始めてから、一層上昇するようになった。アメリカが本拠のシティバンクはカスタマー電話サービスユニットをインドからフィリピンに移した。英語が話せて事業コストが廉価だというメリットのためだ。
インドネシアで初等教育から外国語を教える傾向が強まっている現況は、10年もすれば国内ばかりか国外のミドル層労働力需要を満たすだけの競争力ある人材を抱える国になっていることだろう。」ケリー・サービシズアジア太平洋地区担当シニア副社長はそう述べている。
ケリー・サービシズの調査したインドネシアの給与レベルによれば、初任給は月額300〜800万ルピアで、ベトナムの260〜430万ルピアより高い。銀行の社内監査部門長は大卒で経験10年超だと月額4,500〜7,500万ルピア、経験5〜7年のセールスマネージャーは月額1,750〜2,500万ルピア、経歴4〜5年の宣伝マネージャーだと月額800〜1,500万ルピアとなっている。


「韓国出稼ぎ経験者に朗報」(2011年6月15日)
労働省海外出稼ぎ者配備保護国家庁は韓国から2011年の研修生派遣要請として1千8百人の枠を得ている。韓国は2011年の外国人勤労者招聘計画を4万人としており、そのうちの4.5%をインドネシアに提供したかっこう。
インドネシアからの海外出稼ぎ者を雇用するのは製造産業が一番多く、2007年以降に契約を終えて帰国した製造セクター勤労経験者は1万3千人にのぼっている。韓国政府は2010年に契約内容の変更を行った。これまでは契約期間3年間で期限がくれば帰国するしかなかった出稼ぎ者も2010年以降の新しい契約内容によって希望者には延長が認められるようになり、最長で5年間韓国で働くことができる。韓国への政府派遣海外出稼ぎ希望者は多く、2011年4月の募集では19,920人が応募した。10倍を超える競争率の選考審査は6月に予定されている。
韓国政府はさらに韓国勤労経験者へのフォローとして、既に契約を終えて帰国している経験者に対する韓国企業のリクルート支援を企画しており、韓国政府人材開発庁がオンラインデータベース開発を進めている。この人材データベースは既にトライアルの段階に入っており、将来的には韓国勤労経験インドネシア人を求めているインドネシアの韓国系企業や、これからインドネシアに進出を計画している韓国の企業が人材を探すために利用することができるようになる。進出予定企業の中には、優秀な韓国勤労経験者をインドネシアでの会社立ち上げ時にマネージャーとして即雇用する予定にしているところもあるとのこと。
このシステムが稼動するようになれば、労働省海外出稼ぎ者配備保護国家庁は派遣名簿にしたがって韓国勤労経験者にデータベースへの登録を呼びかけることになる。2005年から2009年までのジャカルタへの外国直接投資は韓国が第二位を占めており、202社が26万7千人のインドネシア人を雇用している。


「インドネシア人看護婦に熱い期待」(2011年7月11日)
日本に派遣されて看護士・介護福祉士の資格を得るために実習しながら勉学に励んでいるインドネシア人候補者の資格取得成功者数が上昇してきたことから、政府労働省は成功率を50%に高めようと意欲を燃やしている。2008年に訪日した第一期生は最初の試験でふたりの合格者を出し、更に今年の試験では13人が合格した。2009年に出発した第二期生は今年の試験でふたり合格している。
2011年に政府が送り出す予定にしている第四期生は104人で、看護士候補者47人、介護福祉士候補者57人という内訳。既に日本へ派遣されて、仕事にいそしんでいる者は686人に上っている。労働力保護配備国家庁配備担当デピュティは、第四期生の中で少なくとも50人は合格して欲しい、と檄を飛ばした。日本の資格取得のための国家試験で最大の関門になるのは日本語の習得レベルであり、候補者はインドネシアで3ヶ月、日本へ着いてから6ヶ月という長い期間を日本語の習熟のために与えられるので、ぜひとも日本語をマスターして難関を突破して欲しい、とデピュティは語っている。「インドネシアから派遣されている候補者はみんな優秀だ。2010年の試験ではインドネシアからふたり合格者を出したが、たとえばフィリピンはひとりだけだった。ことしの試験ではフィリピンはまた合格者がひとりだけだったが、インドネシアは15人もの合格者を出している。」デピュティはそう語って、ふたりにひとりの合格率が実現することを強く呼びかけた。


「国章の私用は犯罪」(2011年7月13日)
国章ガルーダを私製印章に使って逮捕された労組役員ふたりの裁判が開始された。逮捕の根拠とされたのは国旗・国語・国章・国歌に関する2009年法律第24号第69条で、インドネシア金属労連のPTスミインドワイヤリングシステム社内ユニットの委員長選挙が行われた2010年末に、ふたりは選挙管理役員としてさまざまな文書を作り、それに国章を模したロゴの印章を捺した上に署名して関係者に配布していた。その印鑑は2010年11月にプルワカルタ(Purwakarta)市内のハンコ屋で作られている。
西ジャワ州プルワカルタ地裁で2011年6月27日に開かれた第一回公判で弁護士は一言も弁護陳述を行わず、証人を用意するので一週間待って欲しいとの要請を判事団に提出した。その日西ジャワ州プルワカルタのコタブキッティンダ(Kota Bukit Indah)工業団地をメインに諸工場の金属労連職場ユニットから集まった数百人のデモ隊は裁判所前で陳情行動を展開し、法執行者は説諭で済む問題を故意に大きくしていると非難の声を上げた。デモ隊は2011年5月にもプルワカルタ地方検察局に向かい、国は国章の法律に関する広報告知を国民に対して十分行っておらず、巨悪のコルプトル(koruptor)を野放しにして惨めな労働者を虐げている、と非難している。


「脱税目的の納税証憑偽造は年間5千枚」(2011年7月15日)
脱税の手口はほとんどが納税インボイスの偽造と虚偽申告で占められている、と国税総局捜査次局長が公表した。次局長によれば、2011年に取り扱われている脱税事件は57件あり、初期兆候から調べを開始してP19段階に入っている案件は7件、P−21段階に入ったものは4件、裁判所で判決が出されたものは7件にのぼっている。P−19というのは証拠固めが不十分で捜査官に戻されている案件、P−21というのは捜査が完了しており裁判所に上げられる段階のものを指している。P−19段階の7件は被害総額が650億ルピア、P−21段階のものは65億ルピア、判決の下りた事件の被害総額は344億ルピアとのこと。
それらの大半は偽造あるいは架空の納税インボイスで、年間に5千枚前後が作られているとのことだが、もちろん年によって増減している。架空納税インボイスは架空の会社を自分で用意しておき、取引などまったくないのに取引を行いPPNを納めた形にして納税インボイスを作っておく。PPNは毎月買い手から受け取った税金と自分が売り手に渡した税金の差額を納税するシステムなので、売り手に渡した税金額を膨らませてやれば、納税金額は減るという計算になる。他の脱税手口としては、経費を捏造して利益を減らし納税額を小さくするという万国共通のものも多い。
ちなみに2010年の取扱い案件は53件で、判決が下されたのは16件で被害総額4,240億ルピア、P−19段階が17件でP−21段階は20件となっている。この架空納税インボイス問題への対策は検証を励行する以外に手はないのだが、国税総局が進めているITを使った納税管理システムであるPINTARシステムがスタートすれば大幅に検証のスピードアップが可能になると次局長は述べている。


「全国国税センサス」(2011年7月22日)
国内に存在しているアングラ経済にメスを入れようと、中央統計庁が国税総局と協力して全国国税サーベイを実施すると発表した。この国税サーベイでは、徴税の網から洩れている経済活動の実体を明らかにし、徴税実績を高めて国庫収入を増やすことが目的にされている。アングラ状態になっている経済活動がはっきりしてくれば潜在的納税高が測定できるため、国税総局はその実現のための具体的な目標と手段の企画が可能になる、というのが中央統計庁のロジック。
アングラ経済の中には、政府当局に報告されていない非合法と合法の経済活動が含まれている。非合法は当局に報告などされないのが当たり前だが、賭博・売春・麻薬覚せい剤・密輸品などブラックマーケットと通称されているのがこれに当たる。一方合法的ではあるがアングラ経済に属すものは、活動実施の中に非合法的要素を含んでいるもので、たとえば建設産業セクターで無資格者を雇用するといったものだ。この分野はイレギュラー経済とも呼ばれている。
韓国租税研究院の報告によれば、アングラ経済は国によって千差万別だが、年々その貢献度は上昇しているそうだ。1992〜2000年の統計では、タイのGDPの中でアングラ経済は52.6%を占めていたが、2000〜2001年は53.4%、2002〜2003年は54.1%と上昇している。カンボジャも比率が高く、1992〜2000年のGDPのうち50.1%はアングラ経済とのこと。その同じ報告書によれば、インドネシアは1992〜2000年が19.4%、2000〜2001年21.8%、2002〜2003年は22.9%だそうだ。
アセアンだけでなく、ヨーロッパでも状況は似たようなものだ。イタリアは年々5,747億ドルの徴税を失しており、それはGDP総額2兆1,128億ドルの27%に相当する。世銀報告によれば、2兆1,741億ドルのGDPを持つイギリスも2,805億ドルの税金取りこぼしがあり、GDPが14兆1,190億ドルのアメリカもその8.8%相当の徴税漏れがある。
この全国国税サーベイは2011年第3四半期に実施される予定で、法人個人納税者を対象にしている。訪問調査は、工場地区・商業地区・住宅地区などが主体で、さらにアパートメント・ショッピングセンター・オフィスビルなどの高層ビルも対象になる予定。


「資格の取れなかった看護士らを帰国させないでもよいのでは?」(2001年8月2日)
インドネシア労働力保護配備国家庁が日本政府に対し、看護師・介護福祉士候補者の日本への派遣拡大を提案した。2008年以来、インドネシアから日本の病院や老齢者介護のための要員派遣が続けられているが、その需要を満たすにはまだまだ程遠いありさまだ。日本の老齢者人口の増加にともなって、その分野のインドネシア人労働力への依存は高まる一方であり、現在の政府間協力方式に民間を巻き込むことで派遣スキームの拡大をはかることを国家庁は検討している。
国家庁長官は日本政府に対し、今年契約期限の来る在日労働力を帰国させないで、そのまま使ってはどうかと提案した。そのほうがかれらを帰国させてまた新人を送り込むよりもよいのではないかという考えを根拠にしている。また長官は日本・インドネシア経済協力事業協会(JIAEC)が直接インドネシア労働力保護配備国家庁に派遣要請を行っても、インドネシア側は同じように対応するとの意向を表明している。
JIAECインドネシア駐在員事務所の黒木義高所長は長官に対し、派遣者数を増やすよう要請した。「日本ではインドネシア人看護師介護士の患者への対応に非常に満足している。インドネシア人海外勤労者は規律高く、勤勉で、滞在国の文化にすぐなじみ、日本語の習得も早い」。国家庁長官の提案に対し所長は、日本政府ならびに病院や老人ホームの経営者たちを交えて検討することを約束した。
2008年から2010年までの間、インドネシア労働力保護配備国家庁は686人の看護師・介護福祉士候補者を日本に派遣している。今年は105人の派遣が予定されており、この分野での日本勤務経験者は通算で791人にのぼる予定。


「労働者だけが動かしている工場」(2011年8月4日)
オルバ期に一代で巨万の富を築いたメダンのタミール系インドネシアコングロマリット、マリムトゥ・シニヴァサンの企業グループのひとつカニンドテックスが東ジャワ州マラン県バトゥで操業させていた紡糸工場PTワストラインダは2004年に倒産した。倒産が確定する前から、操業停止にその将来を予期した従業員たちは頻繁にジャカルタへ上京してオーナー一族・大蔵大臣・内務大臣・労働大臣・国会に陳情を繰り返し、労働法に合致した従業員への義務を経営者に果たさせるよう求めた。そしてオーナー一族は従業員への退職金分割支払いを約束した。ところが、その分割支払いはルバラン・学校新学期前・年末といった物入りの時期にだけ支払われたためそれをあてにして生活することは容易でなく、従業員たちは生計のためにそれぞれ別の方面に収入を求めざるを得ない状況に追いやられている。
PTワストラインダは2011年6月時点で従業員2千5百人に対する未払い退職金総額を13億ルピア抱えており、それを含めた総負債額は57億ルピアにのぼっている。
工場は閉鎖されて闇の中に眠っているだけで、建屋内には紡糸機械が埃をかぶって置かれている。そこに目をつけた元従業員たちは、自分たちだけでその機械を動かし、製品を生産して販売することを考えた。いつになったら完済されるかわからない未払い退職金をあてにするよりも、自分たちにも権利の一端がある工場機械を使って自分たちのために退職金を回収していこうというアイデアが彼らの中から生まれたのだ。その堅実な考えは関係者たちを動かし、原料前貸しや送電再開といった援助が諸方面から集まってきた。こうしてもう三ヶ月以上、ワストラインダは生産活動を続けている。生産再開のために集まってきた元従業員は30名ほどで、昔から世話し動かしてきた機械を操るのはお手のもの。かれらの活動で工場は月に1千万ルピアの純利をあげている。


「小零細事業セクターへの徴税を検討」(2011年8月10日)
インドネシアの産業は農業と中小零細事業に支えられている。他の諸国は製造産業が国家経済の柱になっているが、インドネシアの農業と中小零細事業はGDPの62%を占めている。それに応じて国庫への納税も大きいシェアを占めていなければおかしいのだが、現実は税収総額のわずか0.5%でしかない。そのアンバランスを是正するために、政府は中小零細事業に対する徴税に力を入れる方針であり、まず小規模事業者を対象に税務署へのSPT(年次納税申告書)提出を習慣化させることに努める一方、税率は小さいものにして納税活動になじませるよう方向付ける、とフアッ・ラフマニ国税総局長が国会第11委員会諮問会議で表明した。
その方針の手がかりとして2011年第3四半期に国税センサスが実施され、これまであまり焦点が当てられていなかった小・零細規模自営業者へのNPWP交付を活発化させる計画。
2010年度納税申告は、国民人口2.4億人中の生産年齢人口1.1億人に対して7.7%しかなく、また企業・事業体2,260万社のうちでアクティブなのは1,290万社しかない。法人所得税のSPT提出率はアクティブ会社数に対して3.6%であり、法人納税者の納税総額219.1兆ルピアに対して個人納税者は58.1兆ルピアしかない。
タックスレーシオの向上をはかるためにはこれまであまり力の入っていなかった農業と中小零細事業に徴税の網をかけることがもっとも効果的であるとの判断から国税総局長は上の方針を組んだわけだが、さっそくそれに冷水を浴びせかける発言が政府部内から出た。
中小零細事業を監督するコペラシ中小零細事業省が国税総局に対して行った提案によれば、零細事業は政府から資本金の支援を受けているため、その分野に徴税の網を張るのは不適切であるというのがその主旨。そのため国税総局はあるスキームを設けて零細事業セクターの課税限度を定めるべきであり、そのための最低売り上げを年間10億ルピアとするのが妥当である、と提案した。そのセクターで年間10億ルピアの売り上げがあれば、純利益は6〜10%のレベルになるとのこと。
しかし徴税方式は売上高に税率をかけて算出する最終課税方式になるのは確実と見られている。それは中小零細事業者が会計帳簿を作らずに事業を行っているのが一般的であり、SPT(年次納税申告書)作成のための根拠がなければ税務調査が行えないという国税側の理由に妥当性があるためだ。その際の税率は最高でも3%にしてほしいとコペラシ中小零細事業相は語っているが、閣議では3〜5%というレベルを適正とする声が強い。


「労働法改定」(2011年8月10日)
インドネシア経済開発計画拡張マスタープランの実施と投資拡大をサポートするために、政府は2003年法律第13号労働法の改定を年内に行おうと計画している。労働トランスミグラシ大臣によれば、LIPI(インドネシア科学院)による検討は終了しており、いまは事業者や労組を含む関係諸方面への告知を行っている段階であるとのこと。「投資阻害法令リストの6番目に置かれている労働法の改定と修正は必要不可欠のものだ。年内に到達しなければならない目標は、議論を呼ぶ重要問題が三つあるため、労働法改定における共通理解に達する一致ポイントを見つけ出すことにある。労使間で特に関心の集まっている問題は、退職金・アウトソーシング・契約社員システムの三つだ。」
現行労働法が国内外からの投資を阻害する内容になっているという見解は既に周知のことであり、それ以上に内容修正の検討がいつまでも終わらないことがインドネシア経済開発計画拡張マスタープラン(MP3EI)の推進を阻んでいる要素であるとの意見も出されている。
インドネシア全労働者機構事務局長は、LIPIの検討内容はまだすべての労働団体に紹介されていない、と語る。「それどころか、政府はLIPIに内容の見直しを求めたそうだ。検討結果の一部が満足できないものであるらしい。中でも退職金・アウトソーシング・契約社員システムの三基本問題が特にそうらしい。」
悪名高いインドネシアの現行労働法はどのように改定されるのだろうか?


「国税センサス」(2011年10月26〜11月29日)
2011年9月30日から国税センサスが開始された。国税総局広報によれば、この国税センサスは国内全土の個人法人納税者を戸別訪問して収税基盤の拡張をはかるために国税に関するデータ収集を行うというもので、個別ターゲットとして掲げられているのは、i.収税基盤の拡張、ii.税収増、iii.所得税年次納税申告書提出の増加、iv.納税者データの更新、v.滞納税金の納税促進という5項目である。
センサスで戸別訪問にやってきた国税職員が何をするかと言うと、センサスデータ用紙を相手に渡して内容を記入してもらい、更にi.納税者番号(NPWP)保有資格に該当する者がそれを実際に保有しているかどうかの確認、ii.税務相談、iii.納税者の権利と義務の解説、iv.納税者が義務を遵守しているかどうかのチェック、を行う。センサスデータ用紙に虚偽内容を記載することは禁止されている。
ちなみに国税総局は、国税センサスを行うとこんな効用があるのだと喧伝しているので、紹介しておこう。
i.国家建設の経済的支援に一般国民の積極的な参加を促進させる
ii.国家建設の経済的支援に納税者の正しい役割を実現させる
iii.国家建設の経済基盤を外国借款への依存から軽減させる
iv.よりよい国家建設を実現させる
v.全インドネシア国民の繁栄
この国税センサスがターゲットにしている国民は、i.NPWP保有資格を満たしている未保有者、ii.税金未納者、iii.年次納税申告書未提出者、iv.税金滞納者、v.納税不足のある者となっており、特にビジネスセンター地区・高層ビル・住宅地区にいる個人と法人とのこと。
センサス実施メカニズムとして国税総局は次のような仕組みを構築した。国税センサス戸別訪問調査員は、地元関係者の立会いを求めることになる。
i.調査員は国税センサス実施通知書に基づいて、地元行政職員・字長・隣組長・オフィスビルやショッピングセンター運営者・住宅地やアパートメント管理者・業界組織・地元有力者などの第三者に立会いを求る。
ii.立会い者を同行して、調査員は目標エリアの戸別訪問を行う。
iii.調査員はまず、自分の身分証明書と業務命令書を提示する。
iv.調査員は国税センサスについて説明をする。
v.センサスデータ用紙に記入する前に、調査員は用紙に記入されるデータの提供を相手にお願いする。そして納税義務遂行の一般的注意事項が記された要請状を相手に渡す。要請状は封がなされている。
vi.調査員が相手の提供するデータを用紙に記入したあと、調査員はその内容を再チェックし、相手に署名を求める。
vii.すべて完了してから、調査員は調査済みをあらわすステッカーを見やすい場所に貼付する。
こうして、その家のセンサス調査は終了するのである。
センサスデータ用紙は個人納税者用と法人納税者用の二種類があり、調査される相手のアイデンティティに関するデータと状況、調査の場所などが記入される。個人納税者にはi.ステータス、ii.扶養内容、iii.所得源泉と金額、iv.就労、v.課税対象内容が、法人納税者にはi.法人アイデンティティ、ii.責任者、iii.オーナーシップ、iv.職種、v.雇用状況、vi.設備資産、vii.会計帳簿、viii.法人ステータス、ix.課税対象内容が質問される。
しかしそのようなコンフィデンシャルなデータを調査員だと名乗る人間にあからさまに知らせて本当に大丈夫なのか、という疑問を抱くひとが必ず出るにちがいない。国税職員が過去にどんなことを行ってきたのかということを見聞しているひとなら、そうなって当然だと誰しも思うに違いない。
だから、国民のその不安を鎮めるために、国税総局はこのように説明している。
国税センサスで国税調査員に提示されたデータは秘密データであり、すべての国税職員にとって業務秘密である。すべての国税職員は特定納税者のデータを公開してはならないことが、2009年法律第16号で改定された税務プロセス一般規定に関する1983年法律第6号第34条に明記されている。国税センサスで得られたすべてのデータは国税総局データバンクに収納され、加工処理される原データとなる。データバンクはファイアウオールやその他のセキュリティで保護されている。データバンクへのすべてのアクセスは熟練職員の監督下にモニターされている。国税職員とはいえ、だれもがデータバンクにアクセスできるわけでなく、その権限を持つ職務に就いた職員だけが、SOPに従ってアクセス権を与えられている。
そう言われても、はなから信用できるのなら、過去に見聞している数限りないあの事例はいったい何なのか、という思いの抜けないひともいるに違いない。
ところで、センサスを受ける側が調査員来訪時に用意しておく書類は次のようなものが求められている。個人納税者の場合は、i.NPWP、ii.納税事業者(PKP)の場合はPKP確認書、iii.KTP・パスポート・KITAS、iv.PLN顧客番号、v.土地建物税税額通知書、法人納税者の場合は、i.NPWP、ii.納税事業者(PKP)の場合はPKP確認書、iii.会社設立証書、iv.PLN顧客番号、v.土地建物税税額通知書。
これで調査員がいつ来ても、準備万端怠りなし!
ハッタ・ラジャサ経済統括大臣は、この国税センサスによって新たにNPWPを交付される者が見つかることが期待されている、と語る。「この先数年間でインドネシアは中産階級が8〜9百万人増加する。センサス調査員はかれらをひとりひとり、クリエーティブに見つけ出さなければならない。その中産階級の増加と連動してタックスレーシオは上昇しなければならない。」
たしかに2012年度予算審議の中で、国会と政府はタックスレーシオを12.66%とすることで合意した。2011年の12.2%から、それは確かに上昇している。2012年の国税総局分税収予算は1,019.3兆ルピアで、2011年度改定予算の878.7兆ルピアから16%のアップになっている。
しかしこれまでの税収は2億3千7百万国民中のわずか1千万法人個人が支えてきたものだ。だからこそ収税基盤の強化は、どれだけ大勢の国民に自分には納税義務があるのだという意識を持たせることができるかに密接に関わっているのである。そのために行うことは、NPWP保有資格を満たしている者にNPWPを交付するというのが手始めになる。NPWPを介してその納税義務者は所轄の国税総局税務サービス事務所の管理下に置かれる。
法人について言えば、所在地の確定している国内法人は全国に1,290万あるものの、納税を行っているのは45万6千法人で、全体の5%にも満たない。だからこの国税センサスでは2011年から2014年までの間に5百万法人への調査を行うことを目標にしている。2011年の訪問目標は150万法人で、特にショッピングセンターに店を持って営業している小売店がメインターゲットとなっている。それは都市部のショッピングセンターが大きい経済の渦巻いている場所であり、そこで営業している店舗が潜在性の高い徴税対象になるのが明らかだからだ。
9月30日には都内マンガドゥアのショッピング街で国税センサスのキックオフ大会が開かれ、大蔵大臣から産業界の重鎮までが出席して国税センサスの開始を宣言した。ソフィヤン・ワナンディ事業者協会会長は、この国税センサスを機会に事業者と政府が信頼で結ばれた新たな関係を築きはじめるのだ、とスピーチしたのである。
APINDO会長はこう語った。「これまで政府と事業者はあまり好い関係になかった。それは法人の納税比率が低いことが証明している。協会も事業者に納税を勧めるよう更に協力していく。政府が税率を引き上げることも反対しない。しかしその場合は小さく段階的に行って欲しい。いまわれわれの関心は小規模零細規模事業者を収税システムがカバーするという問題に向いている。かれらの売上げの1%の納税というレベルから始めるよう協会は希望している。」
アグス・マルトワルドヨ蔵相はそれに対し、この国税センサスを通して政府が収税基盤を拡大しようとしていることを強調した。「国内労働人口1億1千万人中でNPWPを持っている国民は850万人しかいない。法人は国内に1千2百万社あるが納税しているところは46.6万社で3.6%しかない。国税オーソリティは国民からの信頼を更に高めて、国民に国家建設参加のための納税意識を強めることを行って欲しい。」
フアッ・ラフマニ国税総局長は、納税者拡大目標を次のように表明した。法人納税者数を現状から10倍に引き上げて460万社にすること、個人納税者は毎年100万人増やして三年間で300万人の追加を行うこと。
バンドンでは、モールファンジャファで営業している商店でまずセンサスが開始され、センサスがなされたことを示すステッカーが店頭に貼られた。西ジャワ州のNPWP保有者は340万で、4千3百万人口に比してまだまだ少ない。西ジャワ国税第1地方事務所は2ヶ月間にセンサスデータ用紙5千枚を集める目標を掲げている。中部ジャワ州スマランでも国税センサスが開始され、州北海岸地区のNPWP保有者増を重点目標に掲げている。同地区は人口1千7百5十万人でNPWP保有率は5%にのぼり、全国平均の3%より高い。しかし中部ジャワ国税第1地方事務所は、このセンサスをNPWP保有者増の機会ととらえて、納税者の増加に邁進するかまえであり、この先3ヶ月間で5千人のNPWP保有者増を目標にしている。もちろんNPWP保有者増は年次納税申告書(SPT)提出の増加および納税金額の上昇が次の目標になるわけで、155万個人納税者のSPT提出は56.1%、101,965法人納税者のSPT提出は41.7%しかないという現状の打開策も必要とされている。
ところで、国税センサス実施に際して調査員の採らなければならない詳細なステップを先に紹介してあるが、それは単なる形式以上の意味を持っていることが既に明らかになっている。
国税センサス開始から三週間目に国税総局東ジャワ州第3地方事務所は管区住民に対して広報を出した。国税総局の名前を騙る詐欺と国税センサスに関する広報第PENG-03/WPJ.12/2011号には、国税総局の名前を騙るさまざまな詐欺の手口に関する大衆からの届出や情報が多くなっていることに関連して、と前置きして、従来から行われていた国税関連詐欺の諸手口に対する国税総局からの解説が述べられている。
1.国税総局が行う税務関連社会告知や国民への指導はすべて無料である。
2.国税総局が税関連の書籍やCD・VCD・DVDその他メディアに収録された規則や情報を販売することはない。国民の税務手続きに必要な諸法規や情報は国税総局ウエッブサイトwww.pajak.go.idで無料でダウンロードできる。
3.国税総局が自身であるいは他者と提携して景品付き懸賞を実施することはない。もし国税総局のだれかが裏書しているような懸賞クーポンを大衆が入手した場合、そのような虚偽を信用せず、無視するようお奨めする。
4.国税関連のセミナー等にスピーカーとして出席する要請があった場合、国税総局は必ず公務として業務命令をその出席者に与える。大衆が国税関連の有料セミナーへの勧誘を受けた場合、国税総局からの出席者に関する確認を最寄の国税事務所あるいは総局本庁に対して行うようお奨めする。
5.国税総局は2011年9月30日から翌年にかけて国税センサスを行っており、調査員が事務所や家庭を戸別訪問することになっている。調査員はすべて国税総局職員であり、業務命令書・身分証明書・国税センサス徽章などを持っている。不審を抱かれた場合は、国税総局東ジャワ州第3地方事務所まで照会ください。
6.税務一般規定に関する2009年法律第16号で改定された1983年法律第6号の第10条(1)項には、納税は必ず納税書を用いて指定された国税納付機関経由で国庫に納められなければならないと定められている。
といった諸項目が記されており、国税不良職員あるいはニセモノ国税職員がどのような詐欺を行っているのかを想像させてくれる。
政府と国会が行った2012年度予算審議で、税収目標は次のように合意された。ちなみに2011年度改定予算と比較してみると、下のようになる。
税収項目: 2011年最終予算⇒2012年目標(数字は兆ルピア)
非石油ガス産品PPh: 698.4⇒845.8
PPN・PPnBM: 298.4⇒350.3
PBB: 29.1⇒35.6
その他税: 4.2⇒5.6
国税総局担当分: 698.4⇒845.8
石油ガスPPh:65.2⇒58.7
チュカイ: 68.1⇒72.4
輸入関税: 21.5⇒23.5
輸出関税: 25.4⇒18.9
税関総局担当分: 115.0⇒114.9
石油天然ガス上流事業活動実施庁と大蔵省予算総局が管掌している石油ガスPPhも税関総局担当分も減少している一方で、税収総額は引き上げられているのだから、国税総局の肩にのしかかる重圧は従来以上のものがある。
しかし国会側からすれば、毎年行われている予算審議の中で政府が言ってくるタックスレーシオの根拠が曖昧模糊としており、経済成長との関連性がまったく欠けているため、それとは無関係に政府国税機関に対して更なる収税努力を続けてもらうための税収目標であるという、合理性のあまりない議論にならざるを得ない。国税機関がもっとパフォーマンスを向上させる必要があるのは、たとえば税金の未納滞納として納税命令が出されているものは70兆ルピアにものぼっており、そのような明確な対象を確実に税収に結びつけること、そして国税センサスで納税者の状況を明確に把握し、税収ポテンシャリティが今より明確に算定できるようにすることが期待されている。
国会第11委員会副委員長は、税収に結びつけることのできるセクターはまだまだたくさんある、とコメントする。「石油ガスセクターや大規模商店に対する収税をもっときめ細かく行えば、税収は必ず増える。個人納税者もそうだ。これまであまり収税対象として重視されていなかった中産階層のリーガルコンプライアンスを高めることも必要だ。2千万NPWP保有者のうちで50万人前後しか年次納税申告書を提出していない。それを100万あるいは200万にするだけでも、大きなポテンシャリティが期待できる。」副委員長はそう述べている。
2012年度予算審議の中で、国会と政府はタックスレーシオを12.66%とすることで合意した。2011年の12.2%から、それは確かに上昇している。その結果2012年の国税総局分税収予算は845.78兆ルピアとなり、フアッ・ラフマニ国税総局長に言わせれば、その13.2兆ルピアの追加アップを確保するために国税センサスでの目標値を更に引き上げなければならなくなったそうだ。
「税収目標の上昇は収税職員の一層のハードワークを要求するものであり、緊急の税収基盤拡大は必須条項となる。今、センサスに回っている職員は3千人だが、来年は6千人に倍増させてNPWP保有者を大幅に増やさなければならない。今年は3千人で150万人のNPWP保有者追加を目指しているが、来年はその二倍が必要だ。」国税総局長はそう語る。
センサス開始から三週間を経過したところで、総局長は実施状況を明らかにした。概してセンサス対象者は協力的だが、調査員がデータ収集を行うのに抵抗を受けるケースも少なからずあると言う。調査員はまずSOPに則したアプローチをセンサス対象者に行うものの、応じようとしない対象者が中にはいる。そのような対象者には後ほど法的措置が採られることになると総局長は述べている。
センサス実施に当たって国税総局はセンサス対象者を三つのカテゴリーに分けた。カテゴリー1はセンサスデータ用紙に進んでサインする対象者、カテゴリー2はセンサスを拒む対象者、カテゴリー3は自分のデータを第三者に委託した対象者でカテゴリー4は事業所が開いていなかったところとなっており、既に全国で回収された6万通のデータ用紙は、カテゴリー1と3の対象者がそれだけあったことを意味している。カテゴリー1は60%、カテゴリー2は8%、カテゴリー3は12%、カテゴリー4は残りとのこと。これまでのところでは、事業所が閉まっていることが最大の障害になっている。10月末までの一ヶ月間の目標はデータ用紙60万通の回収となっている。


「2011年度税収はショートする?」(2011年12月7日)
2011年度国税総局担当税収予算の708.9兆ルピアは達成が困難だとフアッ・ラフマニ国税総局長が表明した。10月25日現在の収税高は、非石油ガス産品所得税が年間予算の364.94兆ルピアに対して283.5兆の実績、PPNとPPnBMは312.1兆に対して196.4兆、土地建物税27.7兆に対して18.3兆、その他諸税4.2兆に対して3.2兆という内訳になっており、トータル税収実績は501.3兆ルピアでしかない。
2011年度予算は前年実績から25%ジャンプしてはじめて到達できるわけだが、これまでのところは19%しか伸びておらず、年間予算の消化率は74%にとどまっている。これまでの記録でも、2001年以来の国税収入は毎年予算を下回っており、2004年の予算と実績が並んだ年以外は予算を達成したことがない。
国税総局は徴税活動の効率を高めるためにシステム改善を鋭意進めており、特に納税忌避傾向の強いPPNと鉱業石油ガスセクターへのアプローチを積極化している、と総局長は述べている。鉱業石油ガスセクターは専門の国税事務所を設けることにしており、官僚効用改善担当国務大臣の承認を待っているところ。2012年度の税収にはこの新事務所が貢献するだろうと総局長はコメントしている。ちなみに2012年度国税収入予算は989.63兆ルピア、税関総局収税予算は42.93兆ルピアとなっている。


「実業界を弄ぶ為政者と踊らされる勤労者」(2011年12月10日)
2011年9月25日付けコンパス紙への投書"SKB tentang Cuti Bersama"から
拝啓、編集部殿。わたしはPT GMCという国民系コンサルタント会社の期間契約社員で、この会社はPT MIMIというイギリス系会社を統率会社にしています。わたしはただ、2011年国民の休日と一斉休暇に関する宗教大臣令第2 Tahun2010号、トランスミグラシ労働大臣令第KEP. 110/MEN/VI/2010号、行政機構効用改善行政改革担当国務大臣令第SKB/07/M.PAN-RB/06/2010号という共同大臣令のステータスについて質問をしたいのです。
共同大臣令には2011年8月29日と9月1〜2日が一斉休暇と定められていますが、会社はそれに反して9月2日金曜日を労働日としています。従業員が9月2日に出勤しなければ、会社は金土日の三日分の給料を差し引くことにしているのです。
だからこそ、その共同大臣令のステータスが疑問になるのです。共同大臣令は全国すべてにわたって効力を持つのでしょうか?インドネシアの全勤労者に対して効力を持つのでしょうか?それとも、どうなのでしょうか?[ 西ジャワ州バンドン市在住、アフマッ・バサリ ]


「国税センサスは失敗」(2012年1月4日)
国税総局が、2011年の国税センサスは目標を達成できなかった、と表明した。2011年9月30日に2ヶ月間で150万軒訪問という目標でキックオフが宣せられたものの、結局目標数は90万に軽減され、期間も3ヶ月に延ばされたというのに、全国229の国税総局地方事務所はその改定軒数目標達成にさえ失敗したようだ。
その原因はどうやら人間的なポイントに集中している。国税総局指導サービス広報局長によれば、訪問先の納税者に対するアプローチのしかた、その際に立ち会ってもらう地元地区管理者との調整、そしてセンサス訪問者の能力などがうまく進行していない原因だと分析されている由。
しかし戸別訪問がうまくいった場合は、納税者の69.9%が情報を提供して質問状に記入しており、抵抗が大きいというわけではない。納税者に面会するところまで到達したものの、相手がセンサスインタビューを拒否した例は1.75%しかない。あとは訪問した相手が不在だったのが16.4%、その住所から引っ越していたケースが12%となっている。
この国税センサスは2014年まで継続される予定で、納税者の実態を把握することで潜在的収税能力を高めるのが目的のトップ。NPWP(納税者番号)を与えられているアクティブな納税者は1.1億人に達しているものの、年次納税申告書を提出したのは全国に850万人しかいない。また法人は1千2百万団体がアクティブだが、年次納税申告書提出者はわずか44万6千法人で、9割以上が税務申告を行っていない。国税総局は4年間のセンサスで5百万軒の法人を訪問するのを目標にしている。


「MM2100が最低賃金闘争被害者に」(2012年1月19・20日)
インドネシアの最低賃金は労使行政の三者間で決められ、賃金評議会が県令・市長にリコメンドし、県令・市長が州知事に提案して知事決定書の形で法制化される。賃金評議会は労働者代表・事業者代表(アピンドが専任)・労働局・統計庁地元事務所・学術関係者などで構成され、最新の適正生活需要を参照し、事業者側の支払い能力などを勘案して合意点をさぐり、合意された数字を地元首長に提出する。地元首長がそれに斟酌を加えることもあるが、どちらかと言えば評議会の提案をそのまま知事に提出するほうが一般的だろう。
ところが2012年最低賃金決定の場で数人の地元首長が評議会の提案よりも高い金額を知事にリコメンドするということが起こった。タングラン県では評議会提案をリコメンドした県令に労働者がデモをしかけ、最初の提案に合わせて州知事決定が既になされているにも関わらず、リコメンデーションの上方修正を県令に迫ったことから、首長はそれに応じて先に知事に出したリコメンデーションの改定をふたたび知事に要請し、バンテン州知事もその要請に応じて最低賃金決定書を修正した。事業者団体は知事のその行為を不当として行政法廷に告訴する意向。
ブカシ県では、県令を通して賃金評議会からの提案を知事に提出する際にプロセス上の誤りがあり、本来よりも高い金額で知事にリコメンドされたためアピンドが行政法廷に州知事を訴えて決定書の金額をもっと小さいものに変更させようとする動きが起こった。労働界はそれに激怒し、2012年1月11日午前6時からアピンドの動きに反対するデモを行い、ブカシ県チビトゥンにあるMM2100工業団地内の幹線道路を通れなくした。
この陳情行動を組織したのはインドネシア全国勤労者労組・インドネシア金属労連・国民労組・インドネシア独立製造労組連盟で、朝の通勤バスが続々と団地内にやってくると、バスから降りた団地内工場勤労者たちはデモに加わり、人の海は膨れ上がっていった。
幹線道路がひとで埋め尽くされると、団地内から自動車道へ向かう車と、その反対に自動車道から団地内に入ってくる車が動けなくなって長蛇の列を作り、チカンペッ自動車道はもとよりMM2100工業団地を目指す一般道にも長い車列が作られ、工業団地を中心にして渋滞の波が周辺に拡大していった。
ブカシ県警はブカシ市警と協力して現場の秩序維持と道路交通整理のために1千1百人を超える警察官を動員して対応に当たり、当日の午後に入ってやっと状況は復旧した。
この陳情行動は既に州知事決定書で決まった最低賃金をアピンドが引き下げようとしていることに対抗して行われたもので、労働界はアピンドが告訴計画を取りやめないかぎり何度でも行うと表明しており、結局警察と地元行政が調停してアピンドは告訴を取りやめることを約束した。アピンドにしてみれば、告訴計画の発端が県下事業者たちの不服にあったわけだが、MM2100での陳情行動のあと事業者たちの強硬な声は相当にトーンダウンしたらしく、この争いは労働界の作戦勝ちに終わったようだ。
賃金闘争に関してはそのように強硬な戦闘姿勢を示す労働者の姿を見るにつけ、生産性が上がれば賃金はおのずと上昇するのだと言う実業界の言葉が掛け値なしに労働界に受け取られているようには見えない。一工業団地を丸ごと半日以上操業ストップさせては、生産性もなにもあったものではないだろう。MM2100工業団地が昔から何度も同じような目にあわされているのは、何らかの誘因が作用しているのではあるまいか。
かつてインドネシア福祉労組同盟委員長で、今はその顧問役員会議長の座に退いたレクソン・シラバン氏は、いまだに同じスタイルを採って毎年連綿と続けられている最低賃金制度は刷新されなければならない、と主張する。「地方別最低賃金制度はもはや時代遅れであり、刷新されなければならない。今の賃金システムは労使双方の生産性や効用を引き上げることがなく、経済を相互崩壊の淵に導くだけのものだ。毎年の賃金上昇に伴って必ず物価上昇が起こり、労働者の生活レベルは改善されることがない。ジャボタベッの工業団地労働者が住んでいる居住区を見てみればいい。賃金が物価に追いつかないために、かれらは狭い部屋に4〜5人が折り重なるようにして住んでいる。収入は日々の生活費に消えて行く。労使関係が常に対立的で、労働者の生活が適正生活需要より低レベルにある状態がいつまでも続くのは、賃金制度が間違っているからだ。」
限られた糧を労使が闘争を通じて争奪しあうという賃金制度コンセプトは当面まだまだ続きそうだ。


「戦闘的な最低賃金闘争」(2012年1月25〜28日)
2012年の労働界最低賃金闘争はここ数年見られなかった戦闘的な行動が目を引いている。公式に定められた最低賃金決定ルールを地方首長が順守せず、選挙がらみの利害計算にもとづいて労働界に利を与えるためにいくつかの首長が違反行為を行った印象があり、それを不服としてアピンドが行政法廷に首長の行為を告訴したため、労働界はその告訴を取り下げさせようとして実力行使に出た。
タングラン県ではアピンドが2012年1月18日にバンドン行政法廷に県令を告訴した。すると労働界はその告訴撤回を求めてアピンドに威圧をかけ、同じ日にタングラン県チクパにあるアピンド県事務所を襲撃して占拠し、封印してしまった。アピンドの告訴に対する行政法廷の裁定はまだ出されていないが、ブカシ県アピンドからの告訴に対する裁定が1月19日に下され、アピンド側の言い分を認めて西ジャワ州知事決定書で定められたブカシ県2012年最低賃金の実施を差し止める判決が出されている。
ソフィヤン・ワナンディ、アピンド会長はそれに関して、ブカシ県の事業者は2011年の最低賃金を使っておくように、と実業界に告知した。ブカシ県における2012年最低賃金の確執は次のような事情になっている。
賃金評議会での2012年最低賃金決定は、まず適正生活需要の金額決定を1,356,242.36ルピアとする点での合意から出発した。続いてブカシ県最低賃金が1,286,421ルピア、セクター別第?群が1,376,470ルピア、第?群1,41,163ルピアで合意され、それを県令に提出した。ところが2011年11月21日付け西ジャワ州知事決定書を見たところ、ブカシ県最低賃金は県最低賃金が1,491,866ルピア、セクター別第?群1,715,645.9ルピア、第?群1,849,913.84ルピアとなっていたために行政法廷への告訴に至ったというもの。
労働大臣の提案でブカシ県最低賃金見直し計算をアピンドは進めており、現在案では県最低賃金が1,415,063.10ルピア、セクター別第?群1,582,940.5ルピア、第?群1,696,995.6ルピアが最終のものとして固まりつつある。労働界との交渉はこれからだ。
ブカシ県ではそんな状況を背景にして、MM2100での陳情行動のあと、2012年1月20日にチカランで労働者の闘争行動が組織された。チカランの工業団地で操業している工場にオルグが訪れ、経営者には操業をやめて労働者を陳情行動のために開放せよと要求し、工場従業員には職場放棄をして賃金闘争に加わるようにとの誘いかけが行われた。かれらは工場側に正門を開くよう要求し、それを拒んだ工場には実力行使をしかける動きが取られた。
2006年5月に現行労働法改定の動きに反対する政治行動として労働界が全国で大規模陳情行動を展開した。今回のそのような戦術はそのときタングラン県などで行われた労働界のデモ隊動員方法の繰り返しで、その当時も労働界の戦闘的なやり口に賛同しない工場労働者がかれらの呼びかけに呼応しない姿勢を示していたが、回を重ねるにつれて跳ねっ返り闘争者に対する一般労働者の反発も深まっているようだ。
ジャバベカ?とジャバベカ?の各工業団地では、オルグの来訪を予期して門を固く閉ざし、労働者の陳情行動を支援するという垂れ幕を出して破壊行動を防ごうとする工場側の対応も見られた。
全国パサル商人協会役員は今年の労働界の激しい動きについて、政府が市場で輸入品を野放しにさせている現状がかれらの不安と焦燥をいや増しに高めている結果だ、と論評した。「タナアバンやマンガドゥアあるいはジャティヌガラの市場へ行ってみるがいい。売られているのは輸入品のほうが多い。こんなありさまでは、国内産業はそのうちに死滅してしまう。国内産業が成長しなければ労働賃金引き上げはおぼつかない。かといって、人減らしも容易ではない。解雇するなら巨額の退職金を用意しなければならないのだから。」
結果的に労働効率を悪くするほど大勢の従業員が働き、限られた人件費をシェアする。だからひとりあたり賃金の将来には閉塞感が漂っている。
しかし久方ぶりに見せつけられた労働者のアナーキーな行動は、これまで盛り上がっていたインドネシアへの直接外国投資意欲に水をかけることになった。労働者デモはユニリーバ工場の生産活動を停止させ、エプソンやサムスンの工場にも損壊を与えた。インドネシアへの進出計画を進めていた台湾資本10社は、そのブカシの労働者騒擾事件を目にして、投資プロセスを一旦全面停止した。ショックを受けたヨーロッパ系・韓国系・日系の事業者の中からは、もっと安全な土地に工場を移したいという声も少なからず出た。ジェトロを含めた日系企業はジャパンクラブに集まって、このままインドネシアへの投資を続けて行くのは得策なのかという議論もなされたようだ。
ブカシ県の工業団地に投資して製造関係の事業活動を行っている自国民の保護に携わっている各国大使は情報収集のかたわら、ソフィヤン・ワナンディ、アピンド会長にコンタクトして意見を尋ねた。会長はこうアドバイスしたと言う。
「工場を外国に移転するには及ばない。スマランとかスカブミとか、地方の工業団地へブカシから移るほうがベターだ。それらの地元首長はアピンドにこう約束している。工場のリロケに当方を選んでくれたなら、エネルギーとインフラの確保、そして法執行の確定を約束する、と。」
今や全国ナンバーワンの工業県になっているブカシ県の首長が、更なる工業振興を目指して風土環境を整えて行こうとする姿勢があれば、今回のようなことはたとえ起こったとしてももっと小さいもので終わった可能性が高い。地元の工業化促進を狙っている他の中規模地方都市がもっと身を入れて事業環境を整えてくれる可能性は今のブカシ県より高いのかもしれない。
全国商工会議所財政税務公共政策担当副会頭は、地方首長による選挙狙いの人気取り政策を中央政府が放置していてはならない、とコメントした。「『高い最低賃金を望むなら、わたしを選べ!』というような骨子の選挙宣伝などあってはならない。労使紛争を煽って漁夫の利を得ようとするようなことが行われては、国内の事業環境が打ち壊されてしまう。中央政府は状況を十分にモニターして、即座に対応を講じるべきだ。」
労働界の動きが戦闘的破壊的になるのは、かれらが自己文化の中にある価値観によって動かされているからだが、次の総選挙に向けて現行政権に揺さぶりをかけようとする政治工作がそこにからんでいないとは言い切れない。もしそれが当たっているなら、来年の労働者闘争はさらに激しさを増すことも十分に懸念される。


「地方税収は予算をオーバー」(2012年1月30日)
都庁税務サービス局が発表した2011年地方税収入は次のような内容になっている。
税種: 実績/目標 (数字は兆ルピア)
自動車名義変更税: 4.4/4.2
自動車税: 3.6/3.5
土地建物権利取得税: 2.7/2.2
レストラン税: 1/0.97
ホテル税: 0.85/0.81
土地建物税: 0.84/0.82
街燈税: 0.51/0.46
駐車税: 0.15/0.18
娯楽施設税: 0.29/0.35
看板税: 0.25/0.33
地下水税: 0.11/0.17
実績総額は14.8兆ルピアで、目標の13.96兆ルピアはクリヤーした。11税種のうち7種は上のように目標をオーバーしたが、4種は目標達成がならなかった。
娯楽施設税が目標達成に失敗したことは明らかに娯楽施設業界の売り上げダウンを意味するものであり、首都レクレーション娯楽会社会会長はその原因について、従来の顧客の多くがシンガポールやマレーシアに娯楽を求めて出先を変えたこと、残った中流層は生活費や子供の学費のために娯楽施設に来る経済的余裕がなくなっていることによると分析している。


「タックスアローアンス対象分野が増加」(2012年2月1日)
2011年12月22日付けで政府は政令第52号を出し、特定事業分野と/あるいは特定地域での投資に対する法人所得税恩典に関する2008年政令第62号を改定した。政府がタックスアローアンスと呼んでいるこの恩典制度の内容は、「タックスホリデーは2008年から行なわれている」(2011年01月21日)の記事を参照ください。
政府は結局当初認めた38セクターを今回の改定で大幅に増やし、129セクターにその恩典を与えることにした。インドネシアへの新規投資をお考えの向きには、この恩典の内容も一度覗かれておくことをお勧めします。


「続・戦闘的な最低賃金闘争」(2012年2月6〜11日)
ブカシ県令が賃金評議会の提案をねじ曲げ、賃金評議会を無視して州知事に2012年の県最低賃金を提案したことを規定違反として、2011年12月20日アピンドがバンドンの行政裁判所に告訴を行った。告訴内容は、2012年西ジャワ州最低賃金に関する州知事決定書第561/Kep.1540-Bangsos/2011号の中のブカシ県最低賃金の執行を差し止めることと、アピンドが提案する最低賃金の数値を承認することの二つだったが、行政裁判所判事団はアピンドの告訴を取り上げてブカシ県最低賃金を調整しなおすことを命じ、それまでは2011年の最低賃金を用いるようにとの判決を示した。アピンドが提案した2012年の最低賃金については、権限外であるとして何らの判断をも示さなかった。裁判所判事団は2012年1月19日に一度審理過程での予備判決を示し、1月26日に判決公判で最終決定を読み上げた。
ブカシ県労働界はその成り行きに猛然と反発し、それまで県内各地の工業団地に入居している企業でアピンドに行政裁判所告訴の委任を行ったところをひとつひとつ訪問して委任を取り下げされる戦術を計画していたものの、それを実行に移す前に大々的な陳情行動の動きが盛り上がってしまった。インドネシア全労働者機構事務局長は、「労働者の実質賃金が低いのは腐敗行政システムと甘やかされている事業主がもたらしているものであり、バンドン行政裁判所判事はそのことを理解した上で公正な判決を下すべきであるというのに、それが理解されていないためにこの公正さを欠く判決が出されてしまった。最低賃金に関する裁判は労使関係裁判所に持ち込まれるべきだ。」と語って不満を表明している。
そして1月27日、ブカシ県の大動脈であるチカンペッ自動車道を2千6百人という人間の海が埋め尽くしたのである。午前9時半ごろから夕方17時半ごろまで大動脈の動きを完全に遮断してしまったブカシ県労働者の陳情行動は、KM17地点のタンブン料金所からKM38のチカランティムル料金所の間を埋め、その間にあるチビトンやチカランの工業団地を麻痺させてしまった。
労相から首都警察長官までが現場に出向いてデモを組織した労働団体の説得にあたったものの、人の海は近づいてくる夜が人間を帰宅させるまで引くことがなかった。労働者のデモ行為はもちろん権利が保証されているとはいえ、公共施設がもたらす公益を損なわせる権利があるはずもなく、その点から自動車道封鎖デモを起案した者に責任を取らせて現場に法が執行されることを示す意向だと首都警察長官は述べている。
自動車道が通行できなくなったために道路管理者は料金所を閉鎖し、ジャカルタからブカシに向かう車は一般道に殺到してそこでも大渋滞が発生した。大勢の人間が無為の時間を費やし、加えて大量の自動車がたいした生産性をあげることもなく大量のガソリンを消費するという一日になってしまった。ジャランラヤインスペクシカリマラン、ジャランラヤブカシ、ジャランラヤパンカランジャティ、ジャランバスキラフマッ、ジャランMTハルヨノ、ジャランラヤカリマランはいずれものろのろ運転する車両で満ち溢れた。
MM2100やジャバベカ工業団地では、入居工場は静まり返っており、敷地フェンスに張られた「労働者を支持し、州知事決定書を順守する」ことを表明する垂れ幕がむなしく風に揺れているばかりだった。
労働者デモが経済動脈路を遮断しているとき、政府は労働者とアピンドの調停をはかって三者協議を行った。その結果合意されたのは、行政裁判所が差し止め判決を出した西ジャワ州知事決定書第561/Kep.1540-Bangsos/2011号のブカシ県最低賃金を生き返らせるということで、世界中の耳目をそばだたせたブカシ県労働者陳情行動は労働者側の完勝に終わった。
結局2012年ブカシ県最低賃金は、県最低賃金が1,491,000ルピア、セクター別第?群1,715,000ルピア、第?群1,849,000ルピアという線に戻ってしまったということになる。
産業界には、その最低賃金だと支払い能力がないという会社は最低賃金適用留保の申請を県労働局に出す際のハードルを高くしないという約束が与えられ、一方の労働界は産業界と政府に対して大規模デモはもう行わないという約束を与えた。アピンド副会長はその合意に関連して、労働者は生産性向上の義務を負ったわけだから、労組は会社と一体になって生産性を高める努力をしてほしい、と労働界に訴えている。しかしアピンド会長は、「ここ数年間労使関係は双方相和す親密な関係にあり、おかげで誘導的な投資環境が育っていたというのに、ここにきて労働界はどうしてそのように戦闘的で公共秩序を損なうような戦術に走るようになったのか?」と別の疑問を呈している。
飲食品事業者連盟副会長は今回の労働争議の進展について、政府は労使紛争を調停する意思をまるで持っていないようだ、と不満を語った。「あれやこれやとさまざまな要求を抱えている労働者に事業者はひとりで対応せよと放り出されているような印象だ。中央政府も地方政府も、自分は関係ありませんとばかり口を拭っている。」
自分たちの損になることを裁判所が決めると、大勢が徒党を組んで公共秩序を打ち壊し、政府に恫喝をかけて自分たちの相手に言うことを聞かせるよう働きかける。ひと口で言うなら、そのようなことが2012年1月に西ジャワ州ブカシ県で起こったことだ。法確定だの法秩序の執行だのと言っている政府はいったい何をしているのか、という声が労働者の相手側から起こるのはあまりにも当然の話だ。西ジャワ州で操業している韓国系工場2百社が「移転したい」と抗議の声をあげた。西ジャワ州には韓国系企業が1千5百社あり、そのうちの6百社がブカシ県で事業を行っている。ブカシ県の韓国系企業は2012年最低賃金決定プロセスの最初から県令がルール違反を行ったことを問題視し、韓国大使を動かして西ジャワ州知事に問題の黒白の決着をつけるよう動いていた。
世界中が元気を失っている経済状況下で、未曾有の活況を呈しているインドネシアに諸外国から工場移転の波が押し寄せているさなかに起こった今回の労働争議は、インドネシアが昔からもっていた体質をあますところなく暴露してくれたようだ。アピンド幹部役員は、地場資本にせよ外資系にせよ、特に労働集約産業セクターを中心にしてインドネシアでの事業継続に暗雲の漂いはじめた企業は少なくない、と述べている。労働者が数をたのんで恫喝すれば弱い政府行政はその言いなりになる、というインドネシアの体質を知った諸国からの事業者にとって、魅力あるインドネシア市場で刈り取りを成功させるための手法は他の国々で学びとってきたものとはまったく異なる要素をそこにつけ加えなければうまくいかないことが見えてきたにちがいない。
オルラ期のころから、インドネシアでは下層階級庶民の暴動が頻繁に発生していた。何らかのいざこざに端を発した暴行事件が起こると、直接関係のない一般庶民が横暴な上位者権力者に怒りの感情を燃え上がらせて集団アモックが発生する。アモックに陥ったひとびとは、手当たりしだいに身近なものを破壊して暴れまわる。アモックという言葉は半ば狂ったようにして行われるその種の行為を指している。破壊される対象は公共物であろうと私有物であろうと斟酌しない。自分のものも他人のものも区別しない。施設や建造物から生身の人間まで、おかまいなしだ。体内から湧き上がる凄まじい破壊衝動に酔いしれて、破壊を実践する快感をかれらは感じているにちがいない。ふだんは優しく穏やかなかれらが一転してアモックに陥ったときの姿は、その両面の姿を見知っている人間でなければ、信じられないことがらにちがいないだろう。
そのような一種の蛮行は、文明のまだ未成熟な時代にはどこの民族も行っていたようにわたしには思われる。破壊衝動は人類が原初的に持っている暴力指向の根源をなすものだからだ。暴力指向は文明によって矯正されてきたから、百年二百年前の文明の発展レベルからすれば、暴力は現在よりもはるかに強く人間生活の中に根を張っていたわけで、嬉々として破壊行動に走る人間も今よりずっと多かったにちがいない。日本でも江戸時代に行われた打ちこわしという社会行動は、その字面から破壊衝動の存在をひしひしと感じさせるものになっている。
オルラ期オルバ期そして今日現在に至る永い時の流れを通して、大勢の人間が集団で暴力をふるっている姿はインドネシアで止んだことがない。それが暴動と呼ばれたかどうかというのは副次的な問題でしかない。、集団の中の個々の人間が、別に申し合わせをするわけでもなく、眼前に展開されている暴力と破壊を前にして激情と興奮が体内に渦を巻き、知らぬ間に暴力行動破壊行動に加担するというありさまがインドネシアで多発している暴動や集団暴力事件の根底に横たわっているのである。あたかも破壊の神がそこに群れている人間の意識を奪い、かれらを破壊の海の中に引きずりこむという表現がふさわしいような姿をわれわれはそこに見出すのである。
昔からよく言われているのは、インドネシアの下層庶民は人間性可燃物だという言葉で、集団となったとき容易に燃え上がるというその性向を言い当てている。オルバ期には、5年ごとの総選挙にほとんど必ず暴動が発生し、その暴動をガス抜きと称していた。発火圧が高まったものは燃えるにまかせればいい。燃えたあとは、次の発火圧が高まるまで平穏な日々にひたることができる。オルバ期のほとんどすべての暴動はそのロジックに沿って対処された。国内の治安と秩序維持を預かる国軍と警察は、暴動が燃え上がったときに決して力の対決をしようとしなかった。ニ三日燃え盛ったあとは火力が弱まるという自然の摂理に則した動きをする。だから都市の治安が乱され、秩序が粉砕され、施設が破壊されて火がかけられても、遠巻きにしてその嵐が広範に拡散するのを防ごうとするだけだった。そして可燃物の発火圧が下がってきた数日後に一斉逮捕に動き出す、というのが何十年もの昔から連綿と続けられてきた過去のパターンだったのである。オルバ期の強権弾圧が国家犯罪と定義付けられたいま、SBY政府が取れる対応がどのようなものであるのかは、容易に想像がつくにちがいない。
それはそれとして、オルバ期以来続けられてきた低賃金政策は、今では単に昔からの流れに乗って習慣的に行われているものでしかない。将来の発展を読み込んだ別の賃金政策がそれに取って代わられなければならないことを今回の出来事はわれわれに教えているようだ。国家経済の指導者と労働行政の推進者がその骨格を早急に組み立てなければ、類似のできごとが繰り返されないことを願う期待は砂上の楼閣でしかないのではあるまいか。


「国税センサス調査員に警官の護衛つき」(2012年3月12日)
2011年の国税センサスは新規NPWP(納税者番号)交付150万件を目標に戸別訪問が実施されたが、順調に運ばないことが判明したため国税総局は目標を90万件に引き下げた。ところが年末にその成果を見たところ、実績は62万6千件しかなかったという結末に終わっている。もちろんセンサス活動以外でもNPWP交付活動は行われており、2011年の国税総局NPWP総交付数は320万件で、年末時点での登録者数は個人納税者1,980万件、法人納税者200万件、合計2千2百万件という結果になっている。
国税総局は2012年も国税センサスを継続する予定で、日程は4月から実働180日間となっており、その間に200万件のNPWP交付上乗せが目標に置かれている。フアッ・ラフマニ国税総局長は昨年のセンサス活動の中で見つかったさまざまな問題点の中で、特にセンサス調査員に対する一部国民の非協力姿勢を重視し、活動に法的強制力を持たせるために警察に協力を求める意向を明らかにした。どうやら調査員の戸別訪問の際に警官が付き添い、末端地元行政の立会参加を促すことと国民が調査員を受け入れて正しい情報を調査員に与えるようにさせることの双方を警官のひと睨みで実現させようとの考えであるようだ。
しかしインドネシア大学タックスセンターの国税オブザーバーは国税総局のその計画について、そんなことをすれば国民の税務状況調査という名目の国税センサスは徴税側の収税情報収集という印象を強く与えることになる、と警告した。「このセンサスは納税者の納税義務遂行状況を調べるのが主目的であり、国税総局は納税者のデータベースを設けて当該納税者の取引先間データ照合を可能にすることが優先されるべきであり、また納税者からの国税側に対する批判や要望を集めて改善を行うことも目標のひとつだ。警察に協力を仰ぐのは、調査員がその日訪れる地区で何か問題が生じたときにすぐ出動してもらえる態勢を準備するよう要請するだけでいいではないか。」オブザーバーはそう語っている。


「実習制度国民運動」(2012年3月15・16日)
2012年に労働省は国民1万2千人に国内での労働実習、2千5百人に外国での労働実習の機会を与えることにしている。国内の労働実習は27州と5県市にある32の実習ネットワーク連絡フォーラムの協力を得て、国内企業で実習生受け入れに協力する会社とのコネクション作りが進められている。
一方、外国での実習先は日本で、日本企業50社が60種ほどの職種に実習生を受け入れることになっている。従来から日本での実習は自動車・繊維・電気・機械・建築・諸製造など工場での実習がメインを占めており、言うまでもなくインドネシアの工業化に必要とされる人材を育成するという方針に合致したものだ。
政府は昨年から実習制度国民運動を開始し、既存企業での実習を通して即戦力となる労働力の量的質的向上をはかることを目的に、国内企業への呼びかけを開始している。実習生は失業者をメインに募集をかけて失業減らしをはかるという一石二鳥の戦略になっている。2011年には1万人の実習生が生まれた国内企業の中にもこの運動に熱心に協力している会社がたくさんあり、BCA銀行、クラカタウスチール、ヘクシンドアディプルカサ、ダナモン銀行、カルフルなどが有力な協力企業になっている。
一方日本での2011年の実習には2,160人が送り出された。日本での実習参加者はひと月8万円から10万円の手当てが支給され、実習を終えて帰国すれば、自動車会社、製造会社、建設会社などから雇用の声がかかる。
ところでインドネシアからの海外出稼ぎ先のひとつである韓国は、外国人労働力の受入れに韓国語の語学能力を条件の中に加えることを決めた。Employment Permit System Test of Proficiency in Korean略称EPS-Topikと称するこのシステムは韓国語が使える者に優先権を与えようとするものであり、韓国在留経験を持つ出稼ぎ経験者にとっては有利なものとなる。
この制度が開始されたことによって、インドネシア政府が韓国に送り込む出稼ぎ者は韓国政府が行う韓国語のテストを受けてその能力があることを証明しなければならない。そのため、韓国への出稼ぎを希望する者はその受験料金24米ドルを負担することが義務付けられる。
ともあれ、韓国政府は自国での在留のための基礎能力を持っている人間を優先的に出稼ぎ者として雇用する方針を開始した。外国人労働力の利用における付帯コストの軽減というポイントから見れば、見習うべき点があるように思われる。


「税務調査の徴税目標は13兆ルピア」(2012年4月2日)
国税総局が2012年度税務調査の徴税目標を13.3兆ルピアと決めて全国の国税下部機関に指示した。2012年3月初旬に国税総局長が出した回状番号第SE-07/PJ/2012号によれば、11主要事業セクター法人納税者をメインターゲットとし、さらに個人納税者については、税務コンサルタント・弁護士・公証人ならびに税務調査を行ったかあるいは実施中の法人に関わっている個人を主要ターゲットにするようにとの戦略が指令されている。ちなみにその11セクターとは、次の通り。
1.パームオイル
2.鉱業
3.マスメディア
4.化学工業
5.加工産業
6.自動車
7.建設
8.大規模商業
9.銀行・保険
10.不動産
11.コンサルタント
それら主要事業セクターは経済活動が活発な業界および税務コンプライアンスの低いセクターであり、納税金額がプロポーショナルでない場合は納税漏れがある可能性が高いため、税務調査を行えというのが国税総局長の出した方針。国民の納税意識が低いことは国税側が百も承知であり、そこからどのようにして税金を徴収するかというのが国税職員の腕のふるいどころではあるのだが、往々にして一方的な頭ごなしの納税不足断定がなされるケースが少なくないため、納税の場は正直者が馬鹿を見る世界というのが事業者の間でなかば常識と化している。
税務調査員は個別にノルマが与えられ、税務調査報告書でその成果を報告しなければならない。全国で調査員が個々に自分の与えられたノルマを果たせば13.3兆ルピアの追加税収が得られるということになっている。


「従業員解雇の可否を下すのは法廷判事」(2012年4月6日)
ムハイミン・イスカンダル労働トランスミグラシ大臣が2012年3月22日付けで出した回状第03/2012号は、労使問題の実情に対する大臣の無理解を露呈したものであり、まったく意味のない政策である、とインドネシア全労働者機構事務局長が発言した。
大臣回状は全国地方行政府首長に向けられたもので、4月1日からの石油燃料値上げが産業セクターに従業員解雇の動きをもたらすことを予想し、各地方政府首長は労働者に対する解雇の発生を予防し、また回避するのに必要なステップをとるよう命じている。必要なステップというのは、地域内企業がオーバーヘッドを含めて生産コスト効率向上を行って極力従業員解雇に向かわないよう指導することを意味している。この大臣回状の写しは正副大統領と団結インドネシア内閣閣僚、アピンドや全国組織労働団体にも配布されている。
ティンブル・シレガル全労働者機構事務局長はその内容について、労使係争調停に関する2004年法律第2号の中で従業員解雇の決定を下すのは労使係争法定判事であると明確に規定されており、州知事・県令・市長が企業に対して解雇を行わないように呼びかけることを求める労働大臣回状はその事実にそぐわないものであり、解雇がなされることを認めるか認めないかの権限を持っている判事をさしおいてあたかも地方行政府首長がその権限を持っているかのような内容になっているのは奇妙なことだ、と述べている。「そもそも政府の企業に対する労働監督はきわめて薄弱なものであり、その第一段階で企業が抱く従業員解雇の意志に対処する力を持っていない。加えて地方行政府首長に対し、企業が従業員解雇を行わないような手段を取れと命じることも、労使問題に関する的確な理解と把握に欠けている趣が強く感じられる。労働省はまず自らのパフォーマンスをもう一度見直してはどうか。」事務局長はそう政府を批判している。
それとは別に政府は補助金削減のための石油燃料値上げの補償として貧困層に現金を支給する現金直接援助を今回も実施する意向だが、過去の反省を踏まえて今回の現金支給は対象をより多角的に選抜しており、その中には収入月額2百万ルピア未満の勤労者も含まれている。


「価格移転問題が激化しそう」(2012年7月5日)
企業の価格移転問題は2008年法律第36号所得税法の第18条(3)項に違反行為と定義付けられているものの、シロクロを明確にしにくいものであると同時に在インドネシア外資系企業の本国政府が自国企業の肩を持つ傾向が強いために、国税総局はこの問題の取扱いに四苦八苦している。
その対策として移転価格アグリーメントを外資系企業と国税総局が結ぶという方式が一応は定められているものの、これは企業側の任意とされていることから、企業が自主的にアグリーメント締結を申し出てくるケースはまだほんのわずかだ。加えてその企業の本国政府との間に情報共有協力体制が作られていても、相手国の国税当局はターゲットになった企業の取引内容に関するデータをなかなか提出してこない。たとえば日本の国税局が出してくれるのは、せいぜい納税データや株式配当データが関の山で、インドネシア国税側が欲しいデータがもらえることはきわめて稀であるとのこと。
そのため、国税総局は移転価格アグリーメントを今の任意から義務付けに変更したい意向で、そのための主張を政府部内で行っている由。


「来年の最低賃金は跳ね上がるか?」(2012年7月23日)
毎年最低賃金改定の際に参照数値のひとつとして使われているものに適正生活需要というものがある。これは独身者が妥当なレベルの日常生活を送るのに必要とされる日用生活必需品とサービスが何でどんな品質と数量なのかを決め、その市場価格をサーベイして算出されるもので、地方別最低賃金と同じように県市の単位で出される。インドネシア人の生活費に興味を持つ外国人が少なくないが、この適正生活需要の値がひとつの参考になるはずだ。
労働省によれば、地方別最低賃金は適正生活需要をクリヤーするのがあるべき姿とされている。ところが現実に最低賃金は、労使+行政の三者が協議する県市ごとの賃金評議会の中での交渉で決まっており、適正生活需要を下回る結果となることも少なくない。なぜなら、使用者側の支払い能力がそこに強く投影されているからだ。しかしここ数年の傾向を見ると、賃金評議会で議決された最低賃金が適正生活需要を下回っている場合、地方行政首長が賃金評議会に無断でそれをあるべき姿に訂正して州知事規則にしようとすることが多発しており、経済界の強い反発を招いている。
現在の適正生活需要の内容は2005年に出された労働大臣規則第17/PER/VIII/2005号に従っているが、今回その規則が改定されることになった。新規に四つの品目が付け加えられ、従来からあった中の八品目は品質や数量が変更され、また品目の変更も一件行われた。新規に加えられた品目は次の通り。(数量は年間必要数量)
ベルト 1本
靴下 4枚
デオドラント100ml/mg 6個
アイロン250w 0.25個
折りしも政府はこれまで続けられてきた国策である低賃金方針から脱却しようとの姿勢を見せており、適正生活需要の品目増加は最低賃金アップを下支えする根拠という用途に合致したものだ。2013年最低賃金決定プロセスはまた荒れるかもしれない。


「勤労者の解雇請求権」(2012年8月7日)
給料遅配が三ヶ月以上続けば従業員には退職する権利が生じ、事業主がその後支給期日を守るようになってもその権利は変わらないという判決を憲法裁判所が下した。
これはある海外出稼ぎ派遣サービス業者従業員が労働法第169条(1)項cの条文に関して提出した司法審査請求に応じて憲法裁判所が出した判決。その従業員アンドリヤニは、2009年6月以降、会社からの給与支給は期日が守られずに18ヶ月間遅配が続いたため、労使係争法廷に解雇申請を出した。ところが労使係争法廷は、今は期日通りに給与が支払われているという理由でアンドリヤニの訴えをしりぞけた。それを不服としたアンドリヤニは労働法の司法審査を憲法裁判所に求めたというのがことの推移。
給与・賃金の支払いは従業員に対する事業主の法的義務であり、従業員の勤労に対する対価であるため、その支給に違背が起これば従業員側に義務の履行を要求する権利が事業主に対して起こって当然であること、さらに三ヶ月以上にわたって違背が起こるのは従業員に対する深刻な権利侵害であり、従業員が解雇を要求する権利の執行に十分な根拠を持っていること、その権利はその後事業主が違背しなくなっても消滅するものではないこと、を憲法裁判所はその判断の根拠としてあげている。憲法裁判所は現行労働法第169条(1)項cについて、個別の労使係争に対して一貫的な解決をもたらさないだけでなく、労働者の権利である労働者の報酬に関連する権利と義務の問題さえもが不確定の中に置かれるようになり、憲法第28D条(2)項で示されている公正で妥当な報酬を得る権利の保証がないがしろにされている、とも主張している。


「9月に労働界が一斉スト」(2012年8月31日)
バタム市労働界は、アウトソーシングと低賃金政策への反対を唱えて2012年9月に一斉ストを打つことを表明した。これはインドネシア金属労組が発した指令に応じるためのもので、金属労組は国内14県市で職場放棄と街頭デモの実施を計画している。
金属労組の母体であるインドネシア全国労組同盟はその行動計画について、アウトソーシング制度廃止と労働者への妥当な賃金確保のための統一行動であり、実施は9月中旬になると説明している。インドネシア全国勤労者労組やインドネシア全国労働者組合をはじめ9つの労組同盟が全国労組同盟と組んで今回の統一行動を、首都圏・プルワカルタ・バタム・チマヒ・スマラン・クンダル・モジョクルト・メダンなど14地区で展開するとのこと。
政府労働省は2012年ハリラヤボーナスを派遣契約社員にも支給するよう産業界に義務付けたが、実際にボーナスをもらえなかった者もかなりの数にのぼっている。その義務付けは労働大臣規則で定められたものであるため法的強制力が弱く、違反者への罰則適用が難しいために完全遂行は期待しにくい、と法律援護協会役員はコメントしている。政府は既にアウトソーシング会社の新規設立を9月から停止すると公表しているが、制度自体を非公認にせよという労働界の要求は先鋭化する一方だ。
おまけにスハルト時代以来の低賃金政策による外国直接投資誘致も変質の芽が萌え始める時代にさしかかっており、そのモメンタムをとらえての労働界の攻勢は今後も激化するおそれが高い。インドネシアの労働運動が新たな局面を切り拓いていく流れが起こりつつあるように思われる。


「最近の求人状況」(2012年9月3〜5日)
2012年3〜4月にいくつかの全国紙に掲載された求人広告の統計分析結果をコンパス紙が発表した。まず求人広告を出している会社の業種別分類は次のようになっている。
商業・サービス 130
工業・製造 101
医薬品 42
コントラクター 33
コンサルタント 30
石油・鉱業 30
不動産 29
メディア 29
小売 26
情報通信 25
自動車 23
教育・塾 20
建設 12
農園 10
国際航空航海 2
それらの会社はどんな役職をオファーしているだろうか?
管理・事務のスタッフ 300
末端ワーカー・スーパーバイザー 252
中間管理職・マネージャー/GM 178
上級管理職 ダイレクター 23
では、それらの会社が募集しているのはどんな業務のための人材なのだろうか?
セールス 152
技術職 78
会計 70
カスタマーサービス 50
デザイン 31
プログラマー 28
教師 24
運転手 20
建築士 10
地質 9
コンサルタント 9
医療従事者 9
調査分析 8
レポーター 5
通訳・翻訳 4
写真 2
編集 2
クーリエ 2
ロジスティック 1
キャッシャー 1
パイロット 1
セキュリティ 1
給与額が広告に記載されるケースは少ないが、提示されている給与額はどうだろうか?
100(万ルピア以上) 2
150(同上) 3
180(同上) 2
200〜300(万ルピア)4
350(万ルピア以上) 1
1,200〜1,500(万ルピア) 2
最後に、求められている学歴と勤労年数について見てみよう。
高卒 108
ディプロマ 262
学士 320
修士 17
博士 5
最低勤労年数
1年 90
2〜4年 301
5年 87
その他の職歴条件
同一業務経験 229
資格保有 180
外国語 162
運転免許/自動車所有 74


「2013年ジャカルタの最低賃金は165万ルピア?」(2012年9月15日)
都庁労働トランスミグラシ局が2013年最低賃金検討を開始した。最低賃金の参照指標である適正生活需要が165万ルピアであることから、2013年ジャカルタの最低賃金も165万ルピアという線が予想されている。
労働トランスミグラシ局長によれば、適正生活需要のほかに最低賃金算定に参照されるものは、ジャカルタの経済成長率やインフレ率などである由。昨年の首都賃金評議会が行った最低賃金算定の際に労働界の拒否が見られなかったことから、今年も同様に誘導的な協議が行われるよう強く希望している、と局長は述べている。
2012年最低賃金の決定に際しては、労働界の希望を取り入れたものになった。2012年最低賃金は2011年から18.5%アップしたもので、適正生活需要を2.9%上回った。つまり2011年の129万ルピアから2012年は1,529,150ルピアになったわけである。
局長は2013年最低賃金決定に際して、賃金評議会内での協議内容を労働界に橋渡しする役割を担うとの意向を表明した。賃金評議会の中に労働界代表はもちろん加わっているものの、労働団体は数多くあってさまざまな意見に分裂しており、全労働界がひとつにまとまるのは至難のわざであるため、2013年最低賃金をすんなりと法制化するためには行政が労働界の調整役に当たらなければ他にそれを行う立場の者はいない、というのが局長の判断。
今年から適正生活需要構成アイテムが14増やされて、総数が46から60に跳ね上がった。これまで適正生活需要総額の中に含められなかった14アイテムが今年から適正生活需要総額を押し上げるのは確実であり、2013年の適正生活需要アップは最低賃金の大幅アップをうながすことになりそう。


「全国ストは10月3日」(2012年9月26日)
アウトソーシング制度と低賃金政策に反対する労働界の一斉ストと街頭デモは2012年10月3日に実施される、と労働者合同事務局総裁が表明した。ストだと言ってただじっとしているわけではなく、ジャカルタやブカシの主だった工業団地ではデモが展開される。この全国一斉ストは首都圏だけでなくチレボン・バンドン・バタム・スマラン・スラバヤなど多くの都市でも呼応して行われる予定。
要求のトップは2003年法律第13号労働法の中でアウトソーシング制度を認めている条項をすべて取消すこと。次いで低賃金政策に関しては、最低賃金の規準に使われている適正生活需要の品目を86あるいは122まで増加させること。これまで適正生活という範囲の中で除外されていたさまざまな物品サービスが追加されるのだから、合計金額は膨らむのが当然だ。
10月3日の全国行動がどのくらいの規模になるのかは、これから労働界諸団体と協議する中で明確になる、と総裁は述べている。


「労働界が圧勝した3日の一斉スト」(2012年10月5日)
2012年10月3日に全国およそ80の工業団地で行われた労働界の一斉ストは、産業界から操業の機会を奪う形で終始した。各地の工業団地内に進出したデモ隊はアナーキーな破壊行動こそほとんど示さなかったものの、操業中の工場から従業員を強制的にデモに参加させようと働きかけたり、工業団地内の出入り口を占拠して貨物の出入りを停止させるなど、スト計画者の目論見をほぼ実現させて産業界に大きな損失を負わせた。労働界は最初から工業団地が標的だと今回の戦略を公表している。
工場の中には損失や抗争の発生を懸念して3日を休みにしたところも少なくない。ソフィヤン・ワナンディ、アピンド会長は労働界の取った工業団地の事業活動麻痺作戦を、「労働界の要求する問題とは直接的な関係にないというのに、企業の操業を妨害することは労使双方に損失をもたらすものだ」と抗議し批判したものの、敵をいためつけることを闘争戦略の中枢に据えている労働活動家層の思惑は最初からそこにあり、話がかみあう余地のないものだった。
産業界は先に政府に対し、労働界のスト行動によって事業活動が阻害されないよう保障せよと求めていたが、従来同様ないものねだりでしかなかったようだ。反対に政府は労働界の意向を呑んで、アウトソーシング制度の運用を労働者寄りのものにする動きを開始した。アウトソーシング労働者の契約雇用は非コア業務に限定されるという規定を厳しく実施する方向性が指令され、警備員・清掃員・石油ガス採鉱・輸送交通・ケータリング以外の業務に就くことは10月4日から認められず、既に就業している者は段階的に解消させていく方針を労相は決定事項として表明している。また各地元行政もアウトソーシング会社の再登録再許可と業務内容の監督を一層厳しく行うよう労働省からの勧告が出され、西ジャワ州はさっそくその履行を言明している。


「10月3日の全国ストが見せたもの」(2012年10月8〜10日)
2012年1月17日、労働界が提出していた2003年法律第13号労働法の労働力アウトソーシング関連条項に関する司法審査請求に対して憲法裁判所は、法的拘束力を持たない内容であるとの判決を下した。マッフッ憲法裁判所判事長は、アウトソーシング労働者との契約の中にその労働者の業務対象が常にあるという形で労働の権利が保障されない限り、労働法内のアウトソーシング条項は法的拘束力を持たない、との判断を表明している。
ところが政府は憲法裁判所のその判決を正当な判断として受け入れたものの、それにもとづいての政策変更もしくは修正について今すぐ何かを着手するということはしない、との方針を表明した。労働界が今すぐにでもこの世から葬り去ってしまいたいアウトソーシング制度あるいは期間限定契約労働システムというものに対して政府が示したその姿勢は労働界の一部活動家たちをフラストレーションの谷間に突き落とすものであったことは十分に想像できる。もちろん政府は契約社員を正社員に登用するよう会社側に働きかけたり、また今年のルバランではすべてのアウトソーシング労働者がハリラヤボーナスを与えられるよう厳しく監督したりして労働界寄りの対応を示してはいる。
8月9月ごろには労働運動活動家の事業主に対する対抗行動の盛り上がりが感じられるようになり、労働者たちはアウトソーシングを手広く行っている会社工場に数を頼んで来訪し、操業を邪魔する形で従業員に対する啓蒙宣伝活動を行ったり、あるいは事業主を威嚇するなど、圧力の高まりが目立つようになってきた。ソフィヤン・ワナンディAPINDO会長は9月はじめに、最近活発化が進んでいる労働問題はインドネシアの国際競争力を低下させるものだとその状況に批判を加えた。そのころから一部企業はインドネシアでの事業を閉めてインドネシアほど闘争的でない国への移転を検討することをはじめている。「輸入品と国内市場で競争しなければならないというのに、労働者が騒乱を起こすのではやっていけない。かれらは今行っている製造事業を外部者が煩わしにくい形態に変えることを検討している。このような状況が拡大すればたいへんなことになる。波及効果はきわめて大きいのだから。」
会長はインドネシアの製造業界が強い競争力を持てない原因をふたつあげた。ひとつは産業界にハイコスト経済をもたらす腐敗行政であり、もうひとつはインフラの欠如だ。そこにもってきて労働者の騒乱による生産性の低下が加われば、インドネシアで行う生産活動が強い国際競争力を持てるはずがない。
それが2012年10月3日に全国規模で発生した労働界全国一斉ストとデモのイントロだった。政府はその大規模デモの結果、従来からの規定だが野放しのまま捨て置かれていた警備員・清掃員・石油ガス採鉱・輸送交通・ケータリングのみをアウトソーシング労働の対象とし、諸セクター企業では非コア業務にしか契約社員雇用を認めない基本方針を10月4日から厳格に執行すると表明した。今年1月の憲法裁判所の判決以来、全国的に膨大な数の企業が生産活動の機会を奪われることになった10月3日の到来を待ってやっと動き出した政府のその姿勢は、一体何を意味しているのだろうか?更に追い討ちをかけて、経済統括相は2012年末までにアウトソーシング制度は完全撤廃するとの公約を表明している。
アピンドは10月3日の労働運動が外国からの直接投資気運に冷水を浴びせて10兆ルピア分の投資誘致を霧消させた、と表明した。中国との領土紛争問題で中国に進出していた多数の日系企業がインドネシアへの移転を計画していたというのに、インドネシアの労働騒乱を目の当たりにしたかれらはもっと落ち着いて事業活動が行える国に移転先を変更することを考えはじめており、ベトナムやタイに白羽の矢じりが移りつつあると会長は言うのだ。その状況は日系のみならず台湾系企業にも当てはまるものだ。
そんな工場移転というレベルに立てない企業でも、製造活動が労働問題という大きなリスクを背負っていることに気付いたところは、モノヅクリはそこそこにしてトレーダーに身をやつすことでのコンビネーションによるリスク分散をはかろうとの考えを強めはじめている。こうしてオルバ期崩壊後、筆者が没工業化と呼んでいる製造業界の苦難に満ちた環境がふたたび2012年10月3日にくっきりと浮き彫りにされたかのようだ。


「労働騒乱」(2012年10月11日)
2012年に入ってから全国各地の工業地区で労働者のサボタージュ行動や騒乱が頻繁に報じられるようになった。それら労働騒乱や事業者への敵対行動は事業者に事業を国外に移転させるよう煽るものだと実業界が批判する一方で労働界は、雇用確保と妥当な生活の権利を損なっているアウトソーシング制度と低賃金政策の廃止を求める労働者の要求が高まっている結果がそれなのだとコメントしている。
今起こっている労働界の現象は、グローバル経済クライシスのさなかにおける過去数年間の6%前後という高い全国的な経済成長と連動している。オルバ期、特に1990年代に、労働騒乱は工業地区から一市という規模でのさまざまなストを伴い、徐々にしかし確実に当時の政体を揺るがすことに力を貸した。
インドネシアの経済成長は均等な福祉向上を伴っていない。2007年ノーベル経済学賞を受賞したエリック・マスキンが言うように、社会階層間の較差はたいへん顕著だ。マスキンはインドネシア訪問時に、きわめて競争の激しい労働市場で競争の圧力にさらされている最下層労働者層の状況に焦点を当てた。アウトソーシング契約労働制度と低賃金政策はグローバリゼーションの中での優位性と成長性の前提条件と目されている普遍的特徴だ。しかしマスキンの、そしてコーネル学派経済学教授カウシック・バスの観察に立ち返るなら、グローバリゼーションは不均等な福祉の原因のひとつであることがわかる。グローバリゼーションはインドネシアをはじめとする発展途上国で平均所得を押し上げるが、所得分配の問題が不均等な福祉という結果を生じさせている。
<地方レベルでの解決>
最近盛り上がっている労働騒乱の基盤を成し、しかも成長の不均等を煽っている背景はローカルレベルにある。労働市場の競争は、ポスト独裁時代の中央政府と地方政府間で行われる権力モデルとしての地方分散というコンテキスト下に行われており、その結果、継続的に発生する労使間抗争の調停責任を地方政府に移管する形で労働政策における国の関与は薄まる方向に進んでいる。今現在形成されている政治的機会構造は労働者が政治的直接行動という方法を用いて従来よりもっと自由に動員を行う余地をかれらに与えているのである。
ローカルレベルの寡占体制に支配されがちな政党や政治家に依存するだけというありかたに比べて、群衆行動や工業団地および周辺地区での生産活動妨害はかれらの政治的地位をはるかに強化する傾向を持つ。グローバル経済チェーンに連なる産業の性格は寡占者たちの帰属意識をも限られたものにしている。拡大する一途の労働騒乱はまた、オルバ体制期に伝家の宝刀として労使紛争解決に多用された抑圧や軍隊を使うことの合法性が失われた結果でもある。
激しい競争圧にさらされている生活の波しぶきを浴びるアンバランスな福祉は各工場地区レベルでの一つの要因を形成する。地方分散の流れに沿ったこの動きは、労働者の実質賃金に影響を及ぼす都市間の生活費負担が勘案されれば賃金は比較的同等の傾向を帯びるため、各地方の間でそれらは関連付けられ且つ調整されるようになる。競争という枠内で個々の地方は労働者賃金を抑え込むべく競うものの、平均賃金の高い地方は生活費も高いために比較的同等な結果がもたらされるのだ。生活費が高いのは家庭消費に支えられた大きい経済成長の結果であり、適正レベルの暮らしへの期待は労働者が福祉向上を要求するモチベーションを高める。
労使政策のメインスタジアムは事実上、既に地方レベルに移った。企業レベルからはじまってこれまで地域的諸活動を勃興させてきたさまざまな労組ネットワークと連合の構築に至る諸段階に根ざす労働騒乱はそこで起こっているのだ。一方、事業者の側にすれば、低労賃と労働柔軟性という比較優位性に頼る競争からメリットを得ることが優先ポイントなのである。地方分散の結果多くの仕事を地方政府に委ねた一方で、労働行政の規則やメカニズムは依然として全国一律方式が継続されており、国のポジションは分裂している。憲法裁判所がアウトソーシングと契約労働制度を否定したと解釈できる判決を出したとき、状況はユニークなものになった。
地方レベルでの紛争解決に民主的なスペースがほとんどないということは問題であるものの、効果的な解決の発端とすることもできる。労働行政の背景の変化は、労使問題を取扱う中で強く民主化を推し進めることを目的に、地方政府と行政担当者にもっと大きいインセンティブを与えるべきものである。毎年の最低賃金決定のような労使行政三者協議のようなルーチンメカニズムにばかり頼っていてはならないのだ。
事業者協会中央指導部も、下は一企業から上は地場産業界の単位まで含めて、合意のための話し合いを前面に押し出す形で関与する方向性を積極的に示さなければならない。地元レベルでの労使問題政策の中で関連諸方面が包括的な合意のための話し合いを持とうとしないなら、労働界の選択は要求のための直接行動に向けられる。つまり、デモだ!
ライター: インドネシア大学政治学部労働政策教官、イルワンシャ
ソース: 2012年9月15日付けコンパス紙 "Gejolak Buruh"


「労働者闘争が工場を閉鎖させる」(2012年10月16日)
西ジャワ州ブカシ県チカランの電線製造工場が労働者による操業妨害行動に耐えかねて工場閉鎖を決意していることをアピンド会長が公表した。この工場は近々工場を閉鎖して2百人の従業員を解雇する方針であることをアピンドに報告したが、百人を超えるデモ隊が工場内を占拠して以来この工場は操業ができなくなっており、内国資本で設立されたこの工場は事業を清算して製造産業から脱け出したい模様。アントン・スピッAPINDO会長は、「労働界がストを打ちデモを行うことを産業界が反対しているわけでは決してない。労働者の権利行使が法規に従って行われるのであれば、どうぞご随意に、ということだ。しかし工場内に押し入って操業を妨害したり、経営者を威嚇したりするようなことがあってはならない。政府は労働者のそのような行為をもっと本腰を入れて取締り、事業投資者が安心して経済活動を行えるような環境を作って欲しい。さもなければ、不安を抱く事業投資家がもっと安心して事業活動を行える国に去って行くことは目に見えている。」
労働界が全国の主要工業団地を標的にして2012年10月3日に行った一斉行動は、アウトソーシング制度撤廃、低賃金政策廃止、2014年1月1日からの健康保障制度開始を要求するものだった。労働界の資本家と行政に対する闘争姿勢が盛り上がってくれば、末端労働者が戦闘的姿勢を採るようになるのは昔から繰り返されてきたことであり、中小規模の事業所は特にその高いリスクにさらされていると言えるだろう。


「最低賃金二倍増要求」(2012年10月17日)
全国の県庁市庁で2013年最低賃金を決める賃金評議会の活動が活発化している。西ジャワ州プルワカルタ県賃金評議会では労働者代表のひとりが月額190万ルピアを来年の最低賃金として要求した。ちなみに今年の県最低賃金は1,047,500ルピア、特定業種最低賃金は1,244,560ルピアだ。
プルワカルタ県では2012年8〜9月にルボ市場で適正生活需要算出のための物価調査が行われ、月額160万ルピアが同県の適正生活需要公式数値として承認されている。最低賃金は適正生活需要を上回るべきものという理解が労働者はもちろん行政側にも強まっているものの、賃金評議会の中で行われる三者協議の中ではインフレ率・産業界の支払い能力・周辺自治体の賃金レベルなどの要素が検討に加えられた上で合意されるため、必ずしも適正生活需要=<最低賃金というパターンが実現しているわけでもない。
190万ルピアを要求した労働界代表者は、適正生活需要の中に住居のクオリティ要素が反映されていない点を指摘し、労働者が住んでいる住居のクオリティは劣悪であるため、それを改善するための資金が適正生活需要に追加されなければならない、と主張している。


「深刻化する労働騒乱」(2012年10月19・20日)
労働界の事業者に対する闘争行動は激しさを強めており、ブカシ〜カラワンとその周辺地域の工業団地では、過去4ヶ月に120工場が労働者グループの侵入や威嚇を受けている、とブカシインベスターフォーラムが工業大臣に陳情した。
労働界は地元地域一帯で働く労働者を1万人前後動員してターゲット工場にデモをしかけ、最終的に工場施設に対するアナーキーな破壊行動に至るようなことをしたり、工場内査察を行うと言って構内に侵入し、勤務中の従業員に命じて生産活動を止めさせ、従業員に対して恫喝や拘束を行ってかれらの活動に参加するよう命じたり、また工場内を占拠して従業員をその中に拘束し、まるで人質にしているといった不法行為を行っている。それら労働騒乱行為の主な標的になっているのは自動車・建機・家電などで、日系のある建機製造会社は3千万ドルの投資計画を取りやめたし、日系のもう一社もブカシ地区での操業安全が保証されないかぎり投資計画は中止すると表明しており、それ以外にも多数の会社が予定していた投資を見合わせる姿勢を採っている。この労働騒乱行為の波に洗われた工場の中には、生産活動が妨害されて操業損を抱えただけで済んでいればマシなほうで、さまざまな妨害行為によって実質的に開店休業のありさまになっているところや、生産ラインを占拠されて稼動不能になり、中に閉じ込められた従業員とその家族の生活の面倒を見ることを余儀なくされている工場もあれば、そんな状況に耐えかねて会社清算を決めたところが出ていることも既に報道されている。
労働界の要求は10月3日の全国ストでも表明されている(1)アウトソーシング制度の完全撤廃、(2)低賃金労働政策の廃止、(3)健康保険制度の実施、の3項目であり、もちろん産業界向けはアウトソーシング制度撤廃しか建前にできないわけで、工場内査察というのはアウトソーシングを行っていないかどうかを査察するという意味だ。労働界は工業団地周辺に住んでいる工場労働者に対してスウィーピングをかけ、実態の把握とサボタージュ煽動を既に行っている。
労働者の無法行為についてかれら自身は会社経営陣に対し、もう何年も前からアウトソーシングをやめろと言い続けてきたのにお前たちが聞かないからこうなるのだ、という理由付けをしているそうだ。ティンブル・シレガル、インドネシア全労働者機構事務局長は今回激化している労働者闘争について、これまで行政と事業者が共謀して労働者を痛めつけてきたことへのリアクションがこれであり、労使協議が労働者に妥当な福祉をもたらすことができなかったため労働界は自力でそれを勝ち取るしかない、と表明している。「実業界が政府に労働運動を軽減させるよう求めている事実は実業界が労働者に妥当な福祉を与える意志を持っていないことを証明するものだ。労働者の要求を受ける能力がありながらそれに応じないのであれば、労働者の最後の手段はスト行動になる。労使協議は労使の二者間で行われるべきであり、警察や国軍がそれにからむ必要性はない。行政はその二者間の調停役として加わるだけでよい。」
事務局長がそう言っているのは、ブカシインベスターフォーラムがブカシ県陸軍行政管理機構コレム051司令官に対して労働者の不法行動を抑えなければこれまで盛り上がってきた海外からインドネシアへの投資の動きが急転落しかねないため協力してほしい、と要請した事実を指している。司令官はその要請に対し、労使交渉は関知するところでないものの、不法行動はあってならないものだと理解を示す態度を見せている。
工業団地会会長は地方自治制度開始以来の労働行政のあり方が昨今の騒乱の根底にあると現状を批判し、労働界は中央政府労働省が直接その監督下に置かなければならないと提案している。諸方面が政府の対策に期待のまなざしを向けているのだが、巨大な票田である労働界の向背が次の総選挙・大統領選に気がかりな政府がどのような動きを見せるかはこの先注目すべき焦点だろう。


「労働倫理改善で先進国になろう」(2012年10月22日)
インドネシア人勤労者の労働倫理が、インドネシアで事業者が事業を行う際の重大な問題になっており、現状を改善するためには早い時期からの人格教育が鍵になる、と経済統括大臣デピュティが表明した。その発言は世界経済フォーラムの2012−2013グローバル競争力レポートの内容を踏まえてのものだ。そのレポートでは、インドネシアにおけるビジネスの障害となっている16要素の中でインドネシア人勤労者の労働倫理の低さが第4位に置かれている。2010年はそれが第14位であり、2009年は第11位だった。トップ三傑は、非能率な政府行政、汚職、不適切なインフラで、この三つは毎年順位の違いこそあれ、常に上位を独占している。
世評の中には、労働倫理の低さは生産性に関連しているプロフェッショナリズムの問題だとするものも少なくないが、デピュティはインドネシアの教育システムが原因だとして教育界に対し、カリキュラムの消化にばかり意識を向けないで、早期人格教育に注力しなければならない、との意見を述べた。
インドネシア大学経済学部教授はクオリティと競争力を持つ国民を育てることの重要性について言及する。それはインドネシアがデモグラフィボーナスを利して先進国の仲間入りを果たす機会を提供しているからだ。そのための鍵は技能の向上、勤労エトス改善、反汚職文化確立にある。デモグラフィボーナスは15歳未満人口の減少と労働人口の増加に現われる。生産的労働人口の増大は国民一人当たり生産を大きくし、家庭貯蓄を増加させ、同時に女性に勤労機会を開く。2020〜2030年の好機到来はその労働力が満たすことになるのである。そのときに生産的労働人口が負担する非生産的人口つまり15歳未満と60歳超の人口は最小のものとなる。世界のどの国も、デモグラフィの好機到来は一回かぎりのものだ。その機会を通り過ぎれば、あとは老齢化社会に向かうことになる。インドネシアはその好機到来に合わせて先進国の仲間入りをしなければならない。
インドネシアは1965年のG30S、1998年の通貨危機、そして今現在世界を覆っているグローバル経済危機のおかげでテイクオフのための三度のチャンスを失っている。もしもインドネシアがデモグラフィボーナスの好機到来すら活かすことができなければ、インドネシアはクライシスと退化の道を歩むことになる。そのためにその足を引っ張る構造的なあらゆる問題は早急に対策が採られなければならない、と学識者は一様に警告している。


「ブカシ県労働界が最低賃金二倍増を要求」(2012年10月30日)
ブカシ県の2013年最低賃金を協議する賃金評議会で検討のまな板にのせるべき要求金額を県労働界が決めた。2012年10月24日に行われた県内労働関連諸団体の会合で合意されたその金額は月額285.9万ルピア。2012年の最低賃金額149.1万ルピアと比較すると、ほぼ二倍増になる。更にセクター別最低賃金は金属関連のセクター1が356.1万ルピア(2012年は184.9万ルピア)、繊維衣料関連のセクター2が331万ルピア(2012年は171.5万ルピア、そして木材関連のセクター3は307.6万ルピアとなっている。 「行動するブカシ労働者同盟」が糾合したその会合には、インドネシア全国労組同盟・インドネシア金属労組連盟・国民労組・独立インドネシア工業労組連盟が集まり、マクロ経済状況の検討をはじめとして地元ブカシ県内産業界の動向や物価状況などの諸項目が検討された。政府の公表数値である経済成長率や外貨準備高の上昇、国内外からの産業界投資状況、西ジャワ州におけるデルタマスやジャバベカ3など新規工業団地設立とジャバベカ・MM2100・デルタシリコン・EJIP・ヒュンダイなど既存工業団地の工場入居の増加など好調な経済を示すデータが揃っていること、加えて賃金評議会で重要な参考数値として扱われる適正生活需要についても、リサーチ機関が現行規定の64品目を独自に増やした84品目で行った調査結果で406.6万ルピアという金額が出されていることなどを踏まえて、上の要求金額が合意された。
労働界は上の合意金額を賃金評議会のテーブルに載せるかまえであり、産業界・行政・学術界が議論の中でそれをどうやって引き下げて行くかという応酬になりそうだ。


「労使交渉手段それとも犯罪?」(2012年10月31・11月1日)
破壊行為・テロ・威嚇そして工場内に闖入して就業中の従業員を自分たちに加われと強要する操業妨害を伴うインドネシアの労働者デモを目の当たりにした韓国や台湾資本の工場管理駐在者たちは恐怖におびえ、こんなブルータルなデモはこれまで見たことも聞いたこともない、とアピンド会長に吐露したそうだ。「そんなアナーキーな労働者デモ行動を警察は放置している。事業投資誘致のための優れた環境を整えている国はすべて強力で厳格な警察を擁しており、インドネシアのような国はひとつもない。どこに所属しているのかわからない労働者を名乗る者たちが企業内に入って経営者を威嚇し、従業員を強制的に外へ連れ出すような国はない。そのような操業妨害を蒙って生産活動を行えなくなるのであれば、最低賃金を超える給与を何のために支払う必要があるのか?」アントン・スピッ、アピンド会長はそう語っている。
労働者デモによる操業妨害で憂色を深めているのは履物製造業界だ。工場の多くはアディダス、ミズノなどといった国際ブランドのスポーツシューズを生産している。インドネシアでの生産が何らかの理由でダウンすれば、プリンシパルはインドネシアへのオーダーを他の国にシフトさせる。その結果インドネシアの輸出は減少する。貿易収支が赤字になったと大騒ぎしている政府にそんなことがわからないはずはないだろうに、と履物業界者のひとりは言う。インドネシア履物業協会は2012年の輸出売上目標を50億ドルから35億ドルに既に引き下げている。 そんな履物生産大型工場のひとつであるタングランのPT Dwi Karyaで2012年10月3日の労働界全国一斉ストのときどんなことが起こったか、その日の状況を撮影したビデオがある。いったいどこから集まってきたのか、千人を超える群衆が工場表門から周辺一帯を埋め、フェンスを押し破って工場敷地内になだれこんだ。乱入者の一部はオートバイで敷地内に侵入し、エンジンをふかして耳をつんざく騒音をあげる。工場警備員は、圧倒的多数の乱入者を前にしてただ事態の推移を見守るだけであり、何らなす術を知らない。乱入者たちは工場従業員に向かって居丈高に、「自分らに加わってデモに参加しろ」と命じる。業務を続けたい従業員がそれに反発し、同じ労働者ながら内部従業員と外部者の間で一触即発の緊張が高まる。従業員たちは荒々しい姿勢で迫ってくる乱入者に応戦しようとして態勢を整えはじめた。即座に管理職が従業員の説得にかかる。経営者からの「従業員は即座に帰宅せよ」という指示に従い、グループを組んで工場から出て行った従業員目がけて、デモ隊から石つぶてや中味の入ったペットボトルが投げつけられる。それが身体に当たって路上に転ぶ従業員もいた。
工場の外には、この日のデモに備えて警備の警官隊がいた。ところがおよそ30名ほどの警官たちは津波のように押し寄せてきたデモ隊を前にして既に意気阻喪していたのだ。かれらはデモ隊が工場に対して行った破壊行動の阻止にもあたらず、帰宅するために工場を出た従業員たちの警護もせず、ただおろおろとデモ隊の暴力行動を見ていたにすぎない。
インドネシア履物業協会役員は、履物製造業界は今年のデモで労働界が要求している三項目の実践を他のセクターに先んじて行っており、中でもおよそ60の協会会員会社はそのレベルが高く、産業界の労働者デモ闘争の矛先が自分たちに向けられるのは筋違いだ、と語る。賃金ひとつとって見ても、インドネシアは時給1.03ドルで中国の0.91ドル、ベトナムの0.46ドル、カンボジャの0.29ドルなどよりも上を行っている。履物生産の中で工員をアウトソーシングする必要性はあまりなく、全従業員はジャムソステックに加入させている。そのような従業員待遇はプリンシパルからの強い指導が入っている結果であり、何よりもPTドゥイカルヤ従業員自身がデモ隊の怠業命令に反抗し、職場を守ろうとして立ち上がった事実がそれを証明している。従業員たちにとっては、デモ隊は現実を知らずただ暴力で他人を屈服させて喜んでいる暴れ者不良分子にすぎないということのようだ。
労働界首脳部が取っている産業界に対する闘争戦術はかなり昔から同じようなパターンが繰り返されてきた。そして今回のPTドゥイカルヤのように、「かれらの言いなりになるなどもってのほかであり、自分たちの仕事を妨害し破壊しようとする外部者に対抗するために工場は自分たちが守る」という意志を従業員自身が示すという現象が増加してきている。その現象が労働界とそれを政争に利用しようとして操っている勢力の読み違いであるのかどうか、それは今後の労働界の動きが答えを出してくれるにちがいない。


「2013年最低賃金は顕著なアップを、と労相」(2012年11月5日)
2012年10月29日にインドネシア労組同盟、インドネシア福祉労組同盟、インドネシア全国労組同盟の各首脳と会談を行ったムハイミン・イスカンダル労相は、賃金を向上させて労働者福祉を改善させるためのシステム変更を政府は推進する所存であり、全国地方自治体の州知事・県令・市長は2013年最低賃金決定に際して少なくともインフレ率をカバーするだけの賃上げを行うように、と呼びかけた。
「全国各州県市の首長は2013年最低賃金の決定に当たって、顕著な賃上げを行って欲しい。事業者も地元賃金評議会の議事内容をモニターし、決定される最低賃金額が守れるような操業予算を組むように。」
最低賃金の指標となる適正生活需要については、2013年最低賃金は2012年に政府が増やした60アイテムの適正生活需要が用いられるが、2014年はさらにアイテムが増やされて84項目になると労働界トップは語り、既に政府もそれに合意しているニュアンスを匂わせている。ジャボデタベッ、バタム、メダン、モジョクルト、シドアルジョなどの工場稠密地区は2013年最低賃金が200万ルピアを超えるだろう、と労働界首脳陣は予想している。
ところで、労働界の対実業界闘争戦術による操業妨害で事業活動に影響を蒙っている自動車・家電・履物など諸セクターの工場のひとつは会社解散、9社は工場国外移転を決めてその動きを進めており、従業員1万人以上が失業者になる瀬戸際に立たされている。ソフィヤン・ワナンディ、アピンド会長はそれらの工場に対して少なくとも今年一杯は操業を継続するよう説得に努めている、と状況を説明した。「かれらがみんなインドネシアから国外へ移転して行けば、インドネシアの投資環境は最悪の状況に落ち込み、インドネシアへ進出を考えていた外国資本は他の国に散ってしまうだろう。西ジャワ州プルワカルタで外国ブランドの履物を生産していた工場はもう三週間も労働者が正門を封鎖しており、外国のプリンシパルもかれらにバングラデシュへの移転を勧めている。チカランのケーブル工場は既に操業を停止してしまった。最近の数ヶ月、労働界は工業団地内でデモを活発化させ、非合法の人材紹介業者を通じたアウトソーシングをやめるよう要求し、工場内査察と称して社内に押し入り、経営者にアウトソーシング従業員と直接雇用契約を結ぶよう強要している。それに応じない工場では、正門にテントを張って出入りを妨害している。」
インドネシア全労働者機構事務局長は、労働者が福祉向上を要求すれば事業者はすぐに国外移転だと言って威嚇するが、現実にそれは起こらない、と実業界を批判している。


「失業率が微減」(2012年11月10日)
2012年11月5日に中央統計庁が発表した労働デモグラフィ統計は2012年8月時の統計データを次のように示している。( )内は2012年2月時の統計データ。
総働力人口 1億1,804万人 (1億2,041万人)
 就業人口 1億1,080万人 (1億1,280万人)
 失業人口 724万人 (761万人)
労働力率 67.88% (69.66%)
顕在失業率 6.14% (6.32%)
不完全就業者 3,429万人 (3,555万人)
 半失業者 1,277万人 (1,487万人)
 パートタイム就業者 2,152万人 (2,068万人)
上の数値から明らかなように2012年8月の顕在失業率は6.14%で、2011年8月の6.56%、そして2012年2月の6.32%と連続して低下している。
中央統計庁が2012年3月に発表した貧困統計では、貧困者人口が11.95%で失業率よりはるかに高く、就業者の中にインフォーマルセクターで働いてはいるが収入がきわめて低い者が数多く含まれていることをそれが示しており、それがインドネシアの労働状況の特徴のひとつとなっている。
失業人口の減少はフォーマルセクターの労働力吸収によるところが大であり、加工産業の興隆がその傾向を促していると言える。産業界の投資拡大がインフォーマルセクターからフォーマルセクターへの労働力移動を推進させている、と国家開発企画庁長官もコメントしている。


「労働騒乱近況」(2012年11月13〜15日)
労働界の操業妨害が深刻化している状況に関連してソフィヤン・ワナンディ、アピンド会長は、政府が産業界の操業の安全を保証しないのであれば、100社前後の企業が操業放棄を行い工場をロックアウトすることを計画していると発言した。アピンド加盟の事業者292人が労働者の威嚇や工場内への強制立入りあるいは工場出入り口の封鎖などによる操業妨害の被害を訴えており、そのうちの46人が日系、国際商工会議所関係者9人、その他外資系数十人が含まれている。そのうちのおよそ10社は既に暫定的に操業停止を決めているとのこと。その中にはチェコ資本の製靴会社BATA、内資ケーブル製造会社S、韓国系プラスチック成型会社BHI、中国資本の農化薬品製造DGW、日系の印刷包装会社TPや鉱山用建機のPなどが含まれている。その工場ロックアウト案は23業界団体が提案していることでもあり、労働界が工場を訪れてアウトソーシング雇用を全廃するような内容の合意書を結ばせているが、威嚇や破壊行為を背景にして結んだ合意書は法的に無効である、と業界団体連絡会は先に表明している。
それに対してインドネシア全労働者機構事務局長は、労働者のストに事業者がストで報復することは労働法が禁じている、とコメントした。「たとえ事業者がストを行ったとしても、事業者は雇用者に対して法規の定めるとおり賃金を支払い続けなければならない。」
一方、インドネシア労組同盟総裁は、労働者闘争で一方的に労働者が悪者にされるのは実態への認識が薄いからだ、と次のように語った。「スウィーピングを行った100工場のうち7割は対話に応じる姿勢を示し、法規に反するアウトソーシングを行わないことの合意書にサインした。違法をあえて行っている不良経営者は残りの3割であり、そのような経営者にはアピンドが指導を与え、政府は厳しく罰則を適用しなければならない。」と反論した。
インドネシア全労働者機構事務局長は更に、履物製造業界の賃金レベルについても中国やベトナムより高賃金であるというのは大きな嘘である、と否定した。「業界はアウトソーシング労働者を使っていないと言っているが、ステータスのはっきりしない日雇い工を一日5万8千ルピアの日当で働かせている。その金額は渡し切りのもので、食費や交通費込みになっている。時給は3千7百ルピアでしかなく、ベトナムの7千ルピアや中国の8千ルピアよりはるかに低い。だからベトナムや中国に工場を移転させると口では言っているものの、工賃がそんな高い国に工場を移すはずがない。会社と何の契約も結んでいない日雇い工が5年も6年も働き続けている。政府はそんな実態を正しく認識し、デモを行っている労働界だけを悪者にするのはやめてほしい。」
そのようなぎくしゃくした労使関係が結果的に物理的な衝突をひきおこしている現状を少しでも緩和させようとして、工業大臣が2013年の最低賃金を200万ルピアを超えるレベルにしてはどうか、と提案した。文民公務員給与の最低レベルがその辺りに位置しており、労働者賃金を公務員なみにしようというのがそのアイデアのようだ。「このような衝突をいつまでも続けるのはやめて、労使双方はギブアンドティクをはかるべきだ。事業者が何かを得たいのであれば、労働者に何かを与えなければならない。」工業大臣はそう述べている。
工業大臣のその提案に対してアピンド会長が、大企業ならそれが可能かもしれないが、中小企業や労働集約型産業にそれを適用するのであれば政府は何らかの代償を与える必要がある、との意見を表明した。最低賃金が200万ルピアを超えれば現状から3割増しになり、一万人を超える工員を雇っている衣料品や履物産業など労働集約工場は資金繰りがたいへんなことになる、と履物産業協会顧問会議長は語っている。
インドネシアに進出してきている工場の多くが履物や衣料品生産に携わっている韓国系企業も人件費3割増しの話に深い危惧を抱いており、在インドネシア韓国商工会議所長も懸念を表明した。「在インドネシア韓国系企業1千5百社の7割は衣料品や履物など労働集約型事業を行っている。そして韓国系企業はインドネシア人労働者を100万人以上直接雇用している。賃金アップにはわれわれも賛成するが、事業の存続をはかるために賃金上昇は段階的に行われなければならない。」
ところで全国で最多数の工業団地を抱える西ジャワ州ブカシ県は労使間対立の解消をはかり、誘導的な投資環境と調和のある労使関係の構築を目的にして、労使行政間の合意によるブカシ宣言が出された。合意書に署名したのは西ジャワ州知事・ブカシ県議会・県下の全工業団地を取り巻く各村長・アピンド西ジャワ支部長・ウィジャヤカルタ第053連隊司令官・ブカシ県令・アピンドブカシ支部長・ブカシ投資者フォーラムそして数々の関連労働団体など。
宣言内容は次の5項目になっている。
1.善意を持って工業団地と企業を見守り、保護し、守護する。
2.相互尊重と善良な協力関係を創造することに合意する。
3.法優位を確立させ、服従し、高く捧持することに合意する。
4.一致のための話し合いとエチケットを守った対話を優先し、重視する。
5.実業界産業界の生産性向上と人材開発
各工業団地では労使間のあらゆる問題の調停と連絡に当たるチームが編成され、活動が開始されることになっている。


「インドネシア版、大学は出たけれど」(2012年11月15〜17日)
インドネシア人大学卒業者の勤労者としてのクオリティは実に嘆かわしいものだ、とムハイミン・イスカンダル労相がバリで開催されたアジア生産性機構のワークショップミーティングで発言した。実態はその通りだ、と大学関係者も同意している。
学卒者は高等教育に触れたことのない低学歴労働力の中にあって、高い創造性を駆使して世の中の進歩発展と生産性向上のセントラルパワーとなることが期待されているにもかかわらず、インドネシアで学卒失業者は増加の一途をたどっている。学卒者は学士の称号を与えられる。その称号は専攻課程において十分な学識と技能を身に着けたことが前提条件になっているはずだ。ところが実態は、そんな原則にはおかまいなく、妥当な専門知識も能力も涵養されていない者に学士タイトルが容易に与えられている。そこにはいくつかの要素が影響をおよぼしている、とその大学関係者は物語る。
一つは、大学教育がますますビジネス傾向を強めてきていることだ。その視点からは、大学生は収益の源泉と見なされる。最大限のビジネス利益をあげるために学生の数を最大限に増やすのはビジネス上の鉄則になる。かれらお客さんを多数勧誘するために、学士タイトルを得やすい教科をそろえるのが戦略となる。客が買いたいと思うものを品揃えし、それに金を注ぎ込ませるというビジネス戦略の真髄が大学にも蔓延する。教育自由化と大学の事業法人化がその蔓延をあおった。その政策には修正が加えられてきてはいるものの、そのパラダイムは大学経営者の脳細胞の中に強固な根を張ってしまい、大学経営に塗られた色調は容易なことでは色が落ちそうにない。
二つに、大学で行われている教育プロセスは学生の学術能力涵養と人格形成を強く推進するものになっていないことだ。国立にしろ私立にしろ、教育プロセスが最適化されていない。国立大学卒業者のほうが私立大学卒業者よりも一般的にクオリティはベターだが、それは教育プロセスの差が招いているのでなく、学生の素材がそうであるからということでしかないのだ。
三つめに、大学は学生の誤ったパラダイム思考を強めていることがあげられる。大学への進学希望者のほとんどはよりよい職業、言い換えればより高額な給与を保証するもの、へのパスポートとして卒業証書を、そして学士の称号を得ることを目的にしている。そのような思考パターンのゆえに学生たちの間では、より広範に矮小な考え方、つまり勤労者になるということへの嫌悪感が横行することになる。大学というのはそれぞれの分野におけるリーダーの苗を育てるという使命を負っているはずなのだが、今大学は各産業界の求人要請を満たすために教育した学生を送り込もうという方向性をますます強めている。
四つめは、学生に学士のタイトルを与えるに際しての妥当で明確な選択基準が用意されていないことがあげられる。大学、中でも私立大学に、バランスの取れた評価を学生に与える見識を備えていないところが少なくない。学士認定に厳しい選択を適用すれば、学生の募集に悪影響が及ぶのを怖れているのだ。それだけでなく、求人戦線で自校の卒業生が低い評価を与えられる事態を懸念する意識もある。現実に求人戦線においても、同じ評点を持った異なる大学の卒業生が競合したとき、その求人応募者の母校がどこであるのかということが採用の結果を左右する一要素になっていることも事実だ。結果的に、私立大学の多くは評点の大安売りをするようになっていく。
結局のところ大学というのは学士を生産する工場と変わるところがなく、学士という名前がもたらしているクオリティへの期待と、現実にその人間が具現させているクオリティとの間の乖離が大きいケースは枚挙に暇がない。中でも、大学卒業者として持つべき社会責任への認識に欠け、更には社会責任遂行能力すら持っていない学卒者というのも巷にごろごろしている。そんな状況を生んでいるのは、かれらの間に「成績優秀にして且つ大学へ行けるだけの経済力があったから自分は学卒者になっているのだ」との意識が一般的であるからだと言われている。しかし大学進学前の成績について言うなら、かれらよりもっと優れた成績を得ていながら、大学の最低費用すら満たす経済力を持っていないがために進学を断念している生徒たちが山ほどいるという事実があるのだ。政府は大学教育に補助金を与えている。国立大学はもちろんのこと、金額的にはまったく小さくとも私立大学にも金が出ている。その補助金は国民の税金が原資なのである。税金は国民のあらゆる階層が負担している。社会的に下賎と見なされている仕事に従事している不運なひとびとからも。
そのようなメカニズムを理解した上で社会福祉の向上に貢献するのが学卒者の社会責任というものだが、いったいどれだけの学卒者がその実践に加わっているだろうか。低クオリティであるがゆえに産業界が求めているスペックに合わず、労働者仕事は学歴のプライドが許さず、ただの高学歴失業者のひとりとなってその日暮らしの人生を送っている学卒者の多くに、社会福祉に貢献する余裕など雀の涙ほどもないにちがいない。ここにも、政府補助金の使途という面から見た不整合、せっかく出している補助金が生かされていない社会構造の改善に力の入らない行政の矛盾をわれわれは見ることになる。


「所得税非課税限度額引き上げ」(2012年11月15日)
2013年1月1日から、所得税非課税限度額が引き上げられる。所得税非課税限度額調整に関する2012年大蔵大臣規則第162/PMK.011/2012号で定められたその限度額は、ひとり年間2,430万ルピア。さらに扶養家族等の控除が別に加えられるので、既婚者や扶養家族を持つ者の限度額はもっと大きい。
新規限度額と現行のものの比較は次のようになる。
クリテリア: 現行 ⇒ 新規 (単位は万ルピア)
個人納税者: 1,584 ⇒ 2,430
追加控除 既婚者: 132 ⇒ 202.5
  妻も働いている場合: 1,584 ⇒ 2,430
  注)妻が夫を手伝って働いているケースで、所得は夫婦の合算で申告される。
  扶養者ひとりにつき: 132 ⇒ 202.5
  注)血縁と婚姻関係でつながる直系親等および養子がこの対象者で、百%扶養にかぎる。最大三人まで。
政府と国会は国民の可処分所得を増やすことで国内経済の発展を維持しようと考えている。一方、経済専門家は高額所得者に対する累進課税をもっと大きいものにすることで公平な税制が実現すると提案している。現在の最高税率は課税所得金額が5億ルピアを超えた場合に35%が適用されているが、一口座あたり残高が50億ルピアを超えるものは全体の0.04%しかないものの、その総額は銀行界預金総額の5割を占めている。人数は少ないがミドルクラスとは桁違いの所得を得ている階層があり、この階層への課税ブラケットをもっと高いレベルで設定することで国民の間に公平感が生み出される、と同専門家は述べている。


「アウトソーシングに関する労相規則」(2012年11月19日)
ムハイミン・イスカンダル労相は2012年11月16日、アウトソーシングに関する大臣規則に既にサインしており、今は法務人権省の事務管理手続き中であることを明らかにした。大臣はまずアウトソーシングという言葉を使わないように、と要請した。会社が外部に業務委託を行う場合、法的に認められるパターンはふたつあり、ひとつは別の会社あるいは期限付き労働契約を結んだ新規雇用者との間で仕事をひとまとめにして請け負わせるパターンの労務関係で、インドネシア語でpemborongan pekerjaanと称する。もうひとつは労働者派遣サービス会社との間で5種類の業務に限定して労働者を受け入れるパターンで、これはインドネシア語でalih dayaと称する。その5種類の業務とはセキュリティ・ケータリング・清掃サービス・従業員送迎運送・鉱山油田における補助業務。
全国三者協議会総会で事業者側はこれまでのアウトソーシングがプンボロガンプクルジャアンというパターンに置き換えうるという理解に達しており、問題解決に近付いた、と労相は述べている。ソフィヤン・ワナンディAPINDO会長は全国三者協議会総会で労働者派遣サービス会社を使った5種類の業務への労働者派遣とは別にプンボロガンプクルジャアンに関するいくつかのポイントについて賛成を表明している。とはいうものの、さまざまな問題点に関する合意はまだ達成されていない。事業者側は労働者派遣サービス会社が派遣できる業務の種類をもっと増やすよう求めているが、労働界は強く反対する姿勢を示している。またプンボロガンプクルジャアンについても発注者の工場内で作業が行われることを労働界は断固拒否しており、必ず別の経営者が持つ別の工場で行われることを求めている。会社がある業務のために専門技能者を使う場合は、必ずプンボロガンプクルジャアンのパターンが使用されることになる。


「2013年最低賃金近況」(2012年11月23・24日)
2012年11月21日時点で18州が労働省に対し、2013年州別最低賃金最終決定の報告を出している。ムハイミン・イスカンダル労相は全国の州知事県令市長に対し、州最低賃金は施行開始の60日前、県・市最低賃金は施行開始の40日前に決定するという規則を尊重して2013年最低賃金を早急に確定させるように、と檄を飛ばした。遅れれば遅れるほど新たな騒乱の火種になる、と労相は警告している。
労働省が受け取った報告の中で、前年からの上昇率がもっとも高いのは東カリマンタンの48%、続いて首都ジャカルタの43%、一番低いのは東南スラウェシの0.09%。一方、中部ジャワ・西ジャワ・ジョクジャ特別州の州知事は州別最低賃金を定めないことを決めて政府に報告した。その三州は各県令・市長の定める県別州別最低賃金を認定するだけという姿勢を取っている。
さてそれでは、首都ジャカルタの最低賃金はもう決定したのだろうか?そこには台所事情が存在しているようだ。先に報道されているように、11月9日に都庁で開かれた賃金評議会会議で労働界と行政側が2,799,076ルピアを2013年最低賃金として合意し決定したが、それは事業者側の声が入っていないもので、形だけの評議会の名を借りた決議事項というものだった。それに対して事業者側は強い反発と抗議を展開し、絶対に呑めないとしてそんな評議会議決書への署名を拒否している。
賃金評議会はその前の11月2日に2012年の適正生活需要を最新の市場サーベイ結果を踏まえて1,978,789ルピアと合意し決定した。これは2011年サーベイ結果の適正生活需要から32%アップしている。その上昇率をそのまま最低賃金にスライドさせただけでも大幅な最低賃金アップは避けられないという情勢がすでにできあがっているわけだ。
最低賃金に関する規則では、最低賃金は適正生活需要以上でなければならないとされているが、現実問題として事業者の賃金支払い能力が関係してくるためその規則は絶対的なものとして扱われたことがない。事業者側は適正生活需要を100%満たしても198万ルピアなのに、それがどうして280万ルピアという大きな数字になるのか、と反発した。いかにも取りたい放題の好き勝手な数字を言っているようにしか見えず、合理性がない、ということだ。
もし行政が労働界の一方的な言い分を支持してそれを州知事決定書の形に持っていくなら、産業界はふたたび司法審査を求め、法的措置で対決する、という事業者の声が増加した。しかしそれは昨年の轍でしかなく、もし判決で州知事決定書が無効にされればふたたび労働騒乱が発生する、というサイクルがインドネシアで回転しているのは周知の事実である。そこでジョコウィ新都知事がその状況を調停するべく乗り出した。
精力的に関係諸方面と接触し会談した結果、その調停案として2,176,667ルピアという案を掲げたが、労働界も事業者側もそれを蹴った。しかし都知事は頑として譲らず、あとは説得力と根競べの世界へと突入だ。賃金評議会も知事の意向を受け止めて2,216,243ルピアという数字をまとめてきた。都知事は最終的にその端数を丸めて220万ルピアとし、「もうこれしかなく、これに賛成してもらわなければ他に選択の余地はない。」と主張し、それを労働省にも報告してあたかもそれが決定事項のように振舞っている。
首都圏一円の状況は次のような形になっている。
地区: 2012年最低賃金⇒労働界要求額/賃金評議会議決金額(数字はルピア、データはコンパス紙から)
首都ジャカルタ: 1,529,150⇒2,799,067/2,216,243
デポッ市: 1,424,000⇒2,180,000/2,042,000
ボゴール県: 1,269,320⇒2,002,000/2,002,000
ボゴール市: 1,174,200⇒2,002,000/2,002,000
ブカシ県: 1,491,866⇒2,859,171/2,002,000
ブカシ市: 1,422,252⇒2,002,000/2,100,000
タングラン市: 1,381,000⇒2,800,000/2,203,000


「操られている最低賃金?!」(2012年11月29日)
スカルウォ東ジャワ州知事が州内の38県市最低賃金を決定した。州最低賃金は決めないとのこと。その中でもっとも高額なのはスラバヤ市およびそれと隣接するグルシッ(Gresik)県の174万ルピアで、スラバヤ市の適正生活需要142万5千ルピアの22%増し。これはスラバヤ市とグルシッ県が知事にリコメンドしてきた156万7千ルピアより高いが、労働界が要求した220万ルピアよりは低い。労働界は要求貫徹を叫んで州庁にデモをかけたものの、州知事はその金額で決定書にサインした。一方アピンド東ジャワ州支部も、156万7千ルピアで同意したというのに土壇場でひっくり返され、とても承認できるものではないと苦情を述べている。なお、東ジャワ州でもっとも低い最低賃金はマグタン(Magetan)県の866,250ルピア。
ところで、全国的に大幅アップとなった2013年最低賃金は、労働界が要求している低賃金ポリシー廃止を政府が積極的に支持したことがベースになっているが、その指標として最低賃金を200万ルピア台に載せることをSBY大統領が示唆したと言われている。話によれば、「文民公務員の給与が月額200万ルピアであるなら、なんで労働者がそのレベルにならないのか?」と発言したために閣議で暗黙の了解が出来上がったとのことだが、アントン・スピッ、アピンド会長は2012年度文民公務員給与を定めた政令第15号を引用し、文民公務員のスタート給与は126万ルピアでしかない、とデータの捏造がなされた可能性を指摘した。2012年度公務員給与?A群は126万ルピア、?A群は162.47万ルピア、?A群がやっと206.41万ルピアであり、?A群は大卒者が該当している。


「小零細企業の最低賃金は別建て?」(2012年11月30日)
ジャカルタの2013年最低賃金について都知事は220万ルピアを労使双方に承知させたかったようだが、事業者側は最終的にそれを無視する態度に出た。つまり、同意はもちろんしないが反対や抗議もせず、都知事決定書でそうしたければ勝手にすればいいだろう、という姿勢だ。その代わり2013年1月にそれが施行されれば、行政裁判所にその都知事決定書を告訴する計画だ。
ところで、最低賃金大幅アップに関してアピンドが懸念していることがらのひとつに企業側の支払い能力の問題がある。大企業から中小零細企業までを単一の最低賃金で縛る形が従来から行われてきたため、必然的に一番下のレベルに合わせることが起こっていた。セクター別最低賃金は産業の性格に合わせたものであり、その問題への解決アプローチではない。だから2013年最低賃金がいきなりもっと上のレベルにフォーカスを移したとき、小規模零細規模事業者が軒並み倒産していったのではインドネシアの民衆経済が育たなくなってしまう。それに関連してヒダヤッ工業相とソフィヤン・ワナンディ、アピンド会長との間である合意が作られたことを工相が明らかにした。
工業相が2013年最低賃金を200万ルピアを超えるレベルにと提案したとき、アピンド会長は小規模零細規模企業と労働集約セクターを別扱いできるなら現実性はあると答えており、工相は労相に対してその方向で働きかけを行う意向である由。


「個人事業主が直面する問題点」(2012年12月4日)
大卒勤労者人口の異常に高い失業率対策として政府はアントレプルヌールを増加させることを基本方針に選択している。もちろんアントレプルヌールが大卒でなければならないわけでは決してなく、この分野に学歴を持ち込むのが無意味であることは政府も承知しており、ともかく「やる気」と「目端のきくこと」が基本条件にされているようだ。
国民経済の底上げをはかるために国内銀行界は融資だけでなくやる気のあるアントレプルヌールへの指導や事業顧問を行うよう求められており、ブディオノ副大統領はグローバルアントレプルヌール週間の幕開け演説の中でその点を強調し、またインドネシアのアントレプルヌールが抱えている6つの問題点を指摘した。
6つの問題点の最初は公正な法の確立。これはすべての国民にとって共通の問題ではあるが、特にビジネス初心者や中小資本に影響が大きい。ビジネス環境が安定しておらず、安全度の低い地方で事業を営まなければならない者にとって、これは根本的な問題だ。
二つ目、安定したマクロ経済状況。ヨーヨーやローラーコースターのような状態になった場合、そんな状況下でやっていけるのは人並図抜けて賢い者か、そうでなければ投機家しかない。普通に生産的な者はつぶれていく。
三つ目は輸送インフラ。たいていの実業には必ず輸送コストがついてまわる。地方部での投資は妥当な輸送インフラの有無が大きな影響を与えている。
四つ目は地元行政がアントレプルヌールを発展させようとしているか、それとも毟ろうとしているかということ。地方自治の時代になって、地元行政がアントレプルヌールの興亡に直接影響する規則を出すことが増加している。
五つ目、金融サービスがミクロとマクロのビジネスをバランスよくサポートするように動いているか。
六つ目は勤労精神と技能を持っている労働力が近くにあるかないか。
それらのポイントはインドネシアで事業を行うに際してのベーシックな問題点であり、インドネシアに金で便宜がはかられる面がもしあるとするなら、アントレプルヌールにとってはそれがもうひとつの重要ポイントになるということかもしれない。


「最低賃金に関する制度変更は一切なし」(2012年12月7日)
「今回の最低賃金交渉では、政府の期待にこたえて目覚しい賃金上昇が起こった。特にジャカルタ・バンテン・西ジャワをはじめとするいくつかの地方では40%に達しようという史上最大のアップだ。低労賃でなく福祉的労賃に基づいたコンペティティブなインドネシアの時代を作り出すため、われわれは労働者福祉の向上を推し進める。」労働問題に関する政府閣議を終えたムハイミン・イスカンダル労相はそう報道陣に表明した。
工業大臣とアピンド会長の合意した小零細企業と労働集約産業の最低賃金を別建てにするという案件は閣議であっさりと否決され、最低賃金を適用すると経営危機に襲われる会社に対して従来から認められている最低賃金適用保留制度の中で特定産業に便宜をはかるというレベルにトーンダウンしてしまっている。それに関して工業相は、2013年最低賃金の適用についてジャカルタ・ボゴール・デポッ・タングラン・南タングラン・ブカシにある衣料品・履物・繊維の三労働集約セクター企業に対してのみ寛大な措置を与えるが、まず最低賃金適用保留申請を提出しなければならない、と語った。
これはつまり、最低賃金上昇が大幅であろうがなかろうが、その上昇によって経営が危うくなる会社は留保申請を出せばよい、という従来からの制度をそのまま維持継続するもので、特に2013年に限っては上の地区にある三セクターだけ特別に目をかけてやろうという譲歩をしたということに終わっている。
閣議ではまた、政府はこれまで採って来た方向性である『労働問題をできるかぎり労使交渉にまかせて、政府はその調停者の立場を守る』という方針を再確認し、今後もその方向性を深めていくことを決めた。最低賃金決定に関してここ数年起こっていることとそれはまったく裏腹の決議であり、さっそく諸方面から政府のチュチタガン(西祥郎ライブラリーの「チュチタガン」を参照ください)姿勢に対して批判の声が上がっている。 昔から法規で定められている最低賃金適用保留申請は地元の州労働局に次のものを添えて提出する。
○労使間で最低賃金適用保留に合意したことを示す合意書オリジナル
○過去二年間の会社財務諸表
○会社設立公証人証書(定款)の写し
○従業員の職位別賃金データ
○最低賃金保留を求める事務員と工員の人数
○過去二年間の生産と販売の実績および生産計画
労働局はその内容を審査し、必要に応じて公認会計士の意見を求め、最終的にその申請を却下するか州知事決定書の形で承認を与えるかのいずれかとなる。


「産業界が政府に四提案」(2012年12月10日)
2013年最低賃金が首都圏など限られた地方で突出して大きなアップ率となり、保守的で、ある意味で現実的なアップ率を賃金評議会で出したその他地方の労働界が大きなアップ率を成功させた地方を妬むという、きわめて起こりうべき現象が各地で発生している。そのような地方でも、州知事が賃金評議会のリコメンデーションを上回る決定を行政権限で下しているものの、その数字を取消してもっと大きなアップ率にせよと要求する労働者デモが各地の州庁舎や県庁市庁を襲った。結局のところ、行政が労働者寄りの行動を示したというのに、労働界は依然と不満を持ち、反対に事業者側は賃金評議会での労使間合意を行政が勝手に事業者側に不利なものにしているとして反発を向けている。
ともあれ、政府が閣議で決定したチュチタガン姿勢に対し、実業界は四つの決議事項を政府に提出した。(1)いくつかの地方自治体が決めた問題のある最低賃金の施行を中央政府が保留すること。(2)それをしないのであれば、実業界はその施行を定めた法規を行政裁判所に告訴する。(3)産業界は生産コスト削減のために人員整理を実施する。更に、それでも事業経営が困難な場合には、(4)生産活動を停止し、事業活動場所をリロケするか、あるいは会社清算を行う。
全国商工会議所会頭はこの決議について、産業界は政府の拙劣な労働政策にもはや何の期待も抱いておらず、既に起こってしまったことはもう諦めている、とコメントした。だからその現状を踏まえた上で、産業界はこれからどうやっていくのか、ということが上の決議事項となっている。繊維衣料履物などの労働集約産業は、事業継続はもう無理だとの表明を商工会議所に出している。政府はそれでも解雇は極力避けるようにと産業界に求めており、そうであるなら税制・金融その他の手段で政府は産業界へのインセンティブをもっと厚いものにしなければならない。治安についても政府は労働者のアナーキーな不法行為が繰り返されないようにして、投資先としてのポジションが維持されるよう配慮しなければならない。今日ただいまから、政府は労働者の不法行為破壊行為を絶対に起こさせるな、と会頭はこの問題について経済統括相との間でホットラインを設けたことを明らかにした。
労働問題を労使間交渉に任せるという閣議決定を現場でその通り行われるようにし、中央政府は地方政府にその方針を徹底させるようにしてほしい、とアピンドも主張している。アピンドは労使の二者間交渉で問題がよりよく解決されると確信しており、行政の介入はかえって問題を紛糾させている、と批判している。


「インフォーマルセクターに最低賃金順守義務はない」(2012年12月11日)
首都商工会議所副会頭は激しい最低賃金上昇に直面したおよそ60社が既に最低賃金保留申請を提出していることを明らかにした。その60社はヌサンタラ保税地区、チランダッやプロガドンの工業団地入居会社で、労働者8万人がそれらの会社に雇用されている。首都商工会議所は今回特別に最低賃金保留申請窓口を設け、保留を希望する会社は12月20日までに申請を提出しなければならないので急ぐように、とその便宜をはかっている。
一方、政府は目標に掲げた年間100万人の新規雇用を実現させるべく、今回の急激な賃金上昇がもたらしかねない障害を克服しようとして、多数の従業員雇用を果たした会社には税務上のインセンティブを与えることを決めた。経済統括相によれば、2012年は50万人の新規雇用が発生しており、政府はそれをプッシュして年間100万人に引き上げることを目指し、2014年には失業率を現在の6.1%から5%にダウンさせるという目標を描いている。インセンティブの詳細は現在検討中であり、2013年のできるだけ早い時期に大統領決定書にして出したい、と大臣は述べている。
ところで、最低賃金に関する法規に従って現実に行なわれている取扱い規準は次のようになっている、とコンパス紙R&Dが明らかにしている。
◆PT(株式会社)あるいはCV(合資会社)の法人形態を持ち、19人以上の従業員を雇用している中小企業は最低賃金が適用される。インフォーマルセクターは例外とされる。
◆最低賃金が適用されるのは、雇用期間が1年に満たない従業員に限られる。
◆正社員・非正社員・試用期間の者に対して雇用主は、最低賃金以上の賃金を与える。
昔、労働大臣がインフォーマルセクターにも最低賃金を適用させてしかるべし、という個人意見を公的発言にして出したことがある。これは単に「そうであれかし」という希望あるいは理想論に世間を方向付けようとして出したものに過ぎず、法的な裏付けはない。だが為政者のそのような発言に世間が実際に反応してしまうのがインドネシアである。公務員一斉休暇というシステムが開始されたときに公務員という言葉を隠して単に一斉休暇と表現し、それによって世の中が大いにかき回されたのとそれは同じ根を持っている。
だから、運転手や女中に対する報酬と最低賃金を結びつけて考えることはナンセンスだということになるのだが、報酬決定原理の中にそれを組み込んでしまっているひとびとにとっては、その原理を変えるのは至難の業にちがいない。保守的な先例主義者たちは一度獲得した既得権を絶対に手放そうとしないからだ。


「最低賃金適用保留申請提出会社は全国で6百」(2012年12月17日)
ジャカルタとその周辺地区で2013年最低賃金が43.9%アップするのはインドネシアでの事業存続が崩壊の淵に立たされていることを意味しており、その適用保留を希望するが現在定められている申請プロセスはややこしくて不透明であるため、もっとシンプルなものにしてほしい、と韓国系の衣料品製造400社と履物製造180社がインドネシア政府に要望を出した。それらの韓国系企業はインドネシア人労働者を68万人雇用している。
韓国系のそれら労働集約型工場は、最近の事業分析と2013年最低賃金に従った場合の影響の試算データを工業省に提出し、事業継続の可能性がきわめて薄いため人員整理が不可欠であり、全国各地で操業しているそれら580社は来年3〜5千人を解雇せざるをえない、と苦衷を訴えた。その訴えを聞いた工業省製造産業基盤総局長は、「インドネシアはまだまだ労働集約産業を育成して雇用増をはからなければならない状況にあり、最低賃金大幅上昇に正しい姿勢で対応することが求められている。最低賃金交渉は名実共に労使協議にゆだねられるべきであり、低賃金廃止方針はまったく時宜を得ないものだ。」とコメントした。
ところで都庁労働局は、最低賃金適用保留申請を現行規定に従って届け出た会社が45あることを明らかにした。首都商工会議所はそれに関連して、都庁は過去から事業者の申請をできるかぎり却下して労働者寄りの結論を出す方向に努めてきているが、今回はそのような姿勢をあらため、事業者の申請を審査するのに際してあまり困難を事業者側に与えないようにしてほしい、と発言している。一方労働界は政府に対し、事業者の申請をできるだけ承認しないようにしてほしい、との要望を早々に出している。
全国商工会議所は全国レベルで最低賃金適用保留申請を出した会社が6百社あると報告している。その6百社は労働集約産業に限っておらず、衣料品・縫製・履物・鉱業コントラクター・ケータリング・農業・ジャムゥ製造・飲食品・印刷・家具・レンタル業・プラスチック・金属・食肉加工・小売・通商などの諸セクターに所属している。「毎年の最低賃金アップに反対しているわけではないが、今回の上昇率がむやみに高いことをかれらは苦情しているのだ」と全国商工会議所会頭は述べている。


「44%アップどころでないセクター別最低賃金」(2012年12月19日)
首都賃金評議会は2012年12月14日、産業セクター別の最低賃金を決めた。この州内セクター別最低賃金というのはセクター別の賃金支払い能力を斟酌するために設けられたもので、もっとも能力の低い部分に最低賃金が合わせられ、それが一律に適用されるのは不公平であるという議論に由来している。そのロジックに沿って州最低賃金は一番支払い能力の乏しい部分に焦点を当て、優良セクターはそれより高いラインに最低賃金の規準を置く形を取ってきたから、セクター別最低賃金というのは州最低賃金より高いのが当たり前とされてきた。
2013年最低賃金決定はこれまでとは異なるコンセプトが基盤に置かれたために、支払い能力のもっとも乏しい部分に焦点を当てるということが放擲されており、これまで用いられてきた最低賃金制度の構造が抜本的に見直されなければならないはずだが、行政側と労働界はこれまで行なわれてきた構造を踏襲しようとしており、実業界が掲げた2013年はセクター別最低賃金を実施しないという主張は無視された形になった。それが既得権というものの正体だろう。
首都賃金評議会では、セクター別最低賃金は決めないという実業界の姿勢を傍らにその対象となるセクターが指定され、さらに金属・機械・家電・自動車の諸セクターは17%、金融・保険セクター15%、通信10%、化学・エネルギー・工業・観光・飲食品セクターは7%、保健・医薬品6%、建設公共事業・繊維・衣料・皮革・小売は5%を州別最低賃金に上乗せしたものが各特定セクター別の最低賃金となることが決められた。
この日の賃金評議会決議書に産業界代表者はひとりも署名していない。首都商工会議所会頭はこの事態について、「44%もアップして220万ルピアになった州最低賃金自体が高すぎるものになっているため、実業界はセクター別最低賃金を設けることに反対しているというのに、このありさまだ。このように急激に賃金引上げがなされたなら、事業者の負担は能力を超えるものになってしまう。都庁はその結果何が起こるかをもっと明察しなければならない。」と述べている。
一方都庁労働トランスミグラシ局長は、「労使双方へは最大限の便宜をはかっている。しかし実業界が要求するセクター別最低賃金を廃止することなどできるわけがない。規定では、セクター別最低賃金は州最低賃金から5%以上高い金額で定められる、となっている。」と語り、制度の基本コンセプトの変化には触れなかった。


「源泉徴収所得税減税が企業への恩典」(2012年12月21日)
2013年の100万人雇用目標実現への援護射撃として、政府は労働集約産業界に対し税制上のインセンティブを与える方針を立て、その内容の煮詰めを開始した。政府が計画しているのは、衣料品・繊維・履物などの工場で大量の新規雇用を行なったところに対し、従業員の所得税源泉徴収分に当たるPPh21を減額させるという内容。
インドネシアで従業員の賃金給与というのは手取り金額を示すのが普通の理解になっており、従業員の所得税はそれとは別建てで会社が納税しているのが一般的な姿。だから従業員の所得税を減額することは会社の出費が減ることを意味しているのだが、税制の本質的なロジックから言えばそれはおかしい。従業員所得税源泉徴収分は従業員が納税者として納めるものであり、その減免は従業員の権利ということになるため、その減額分は従業員に渡せという労働界の要求が起こらない保証はない。
それはともあれ、今回大幅にアップした2013年の人件費・一人当たり生産性の決して高くない作業者・人員整理をしなければ事業収益がおぼつかない、という三題話と、そこに持ち出されてきた雇用増のご褒美としての従業員所得税減税というインセンティブは労働集約工場にとっていったいどういうバランスになるのだろうか?
インドネシア履物業協会会長は政府の100万人雇用目標の実現は困難だろう、と語る。「産業界が望んでいるのは、事業存続のための治安の安定と最低賃金の合理的なレベルだ。もし政府がインセンティブを与えると言うのなら、輸出のための原材料輸入ファシリティであるKITEを昔の形に戻して欲しい。PPNは輸入時に納税保留されていたが、今は納税したものが還付されるようになっている。」
インドネシア大学タックスセンターの税制オブザーバーは、インドネシアで税制上のインセンティブが雇用促進効果を持ったことはない、と語る。事業者にとって重要なのは法確定なのであり、法確定こそが政府が努力するべきポイントである、との弁。


「最低賃金適用除外特別裁量」(2012年12月24日)
大幅に引き上げられた2013年最低賃金をまともに適用されれば多くの労働集約産業や中小零細規模事業者は事業の継続ができないため、それらのセクターには異なる最低賃金を適用させなければならないとの合意がソフィヤン・ワナンディAPINDO会長とMSヒダヤッ工業相の間で交わされていたものの、政府がその直後に出した表明では、現在の最低賃金制度は変更しない、というものだった。
ところが台風一過で興奮が鎮まりかかってきたいま、その内容の労働大臣規則の準備をしている、と投資分野担当工業大臣専門スタッフが公表した。現在の最低賃金制度の中にある適用保留申請プロセスはその審査の中で公認会計士による監査が行なわれるのが通例になっており、プロセスが単純でなく時間もかかるのが難点であるため、審査を短期間に終わらせてステータス確定を早急に行なうためには別の規則が用意される必要がある、との背景を踏まえて専門スタッフは、労働集約産業セクターと中小規模事業に対象を限定し、各地方自治体が定めた地域別最低賃金の適用から除外して特別裁量を与えるための規則を出す態勢に入っていることを明らかにした。
この新規則でも、最低賃金の支払い能力がない会社はまず労使間で地域別最低賃金の適用を受けないという合意を結んだ上で労働監督機関に届出を出さなければならない。政府にとってはこの別建て最低賃金の最低ラインをどこに引くのかというのが難しい問題であり、それに関する結論はまだない。ともあれ、2013年最低賃金は2013年1月1日から実施が開始されるため、残された時間はあまりないと言えるだろう。


「チュカイ課税を拡大?」(2013年1月4日)
インドネシアにはチュカイという税種がある。これは国民の間で流通を減らしたいと政府が考える商品に対して課税されるもので、今現在はタバコ・アルコール飲料・エチルアルコールがその対象になっている。どこの国でも、政府の言うタテマエと考えているホンネの間の乖離をあげつらっても仕方のないことだから、ここでもその話には触れない。
これまでも折に触れて政府はチュカイ課税対象品目の拡大を話題にあげてきたが、昨今ふたたびその話題がマスコミをにぎわしている。大蔵省が炭酸含有甘味飲料に対するチュカイ課税案を公表したのである。
リッター当たりの課税金額として1千ルピアから5千ルピアという5案を示し、それによる市場販売価格への影響と国庫税収の対比をこころみた。それによると、次のような対比表ができあがる。
1.1千ルピア 市場価格アップ12% 税収0.8兆ルピア
2.2千ルピア アップ23% 税収1.6兆ルピア
3.3千ルピア アップ35% 税収2.4兆ルピア
4.4千ルピア アップ47% 税収3.2兆ルピア
5.5千ルピア アップ58% 税収3.95兆ルピア
この政府提案に対し国会第11委員会議長は、「ソーダ飲料は土堀人足からコングロマリットまでが愛飲しており、消費者に直接負担をかける形での直接税は避けたい。われわれが強化したいのは間接税だ。」とコメントした。
経済オブザーバーは政府のこの提案に対し、「その方針は国内産業を弱体化させるものでしかなく、もっと輸入減らしを行なうべきものが他にある。輸入削減のために輸入の比率が高い商品にチュカイを適用するようにしてはどうか」と意見を述べている。
問題の炭酸入り甘味飲料製造業界は、言うまでもなく政府案に反対した。「法律の精神を勘案すれば、炭酸飲料にチュカイを課税することは適切でない。炭酸飲料を飲むことは国民に何らネガティブな影響をもたらさないものだからだ。モラル的にも保健上も悪いことなどまったくない。国内の炭酸飲料製造業界は国際スタンダードに即したクオリティ規準を用いており、原料素材も食品薬品監督庁の規則をクリヤーしている。おまけにハラル規準にも適合しており、ハラル証明を得ている。加えて生活環境面や自然保護のための原水利用条件をもパスしている。ましてやインドネシアの一人当たり消費量はアセアンで最低レベルなのだ。」それをどうして政府は国民の間で流通を減らしたいと考えるのか、というのが業界の意見。
2011年インドネシア国民の一人当たり炭酸含有甘味飲料年間消費は2.4リッターだった。フィリピンは34.1リッター、タイ32.2リッター、マレーシア19リッター、ベトナム6.2リッター、カンボジャ4.5リッターなどと比べると、インドネシア人は炭酸含有甘味飲料をあまり飲んでいない、ということになる。
かつては奢侈品税の課税対象にされかかったこともある炭酸飲料を狙う徴税企画者の発想は、やはり政府のホンネをあからさまに示しているようだ。大蔵省国税政策庁は、他にも自動車の排気ガス・携帯電話プルサ・工場廃棄物へのチュカイ課税を検討している。


「最低賃金義務除外セクターの明文化を」(2013年1月9日)
2003年に定められている最低賃金適用保留手続きを踏まえて労働大臣から各州知事に宛てられた2013年最低賃金実施見通しに関する通達に関連付けて、ヒダヤッ工業大臣がムハイミン・イスカンダル労働大臣に対し、労働集約産業をメインに最低賃金適用除外方針を定める規則を早急に出してほしい、と文書で要請した。
公開された工業大臣の要請状には、「労働集約産業で620万国民が職を得ており、それは工業界が雇用している勤労者の43%に当たる。労働集約産業で人員削減や操業中止が起これば国家経済に大きい影響が及ぼされ、特に工業セクターの成長が損なわれる。そのため、労働集約産業を2013年最低賃金適用義務から除外する明確な規則が必要とされており、飲食品・タバコ・繊維・衣料品・履物・皮革・玩具・家具などの業種、中でも輸出指向の業種を確実に最低賃金適用義務から外さなければならない。」と説明されている。
加えて工業大臣は、現行の最低賃金適用保留申請手続きの中で知事は過去二年間の財務報告書を公認会計士に分析させて会社側に本当に支払い能力がないのかどうかの意見を求めるのが一般的だが、知事はそのようなことをする必要はない、と述べた。アピンド首都支部長もそれについては同意見であり、労使二者間合意ができていれば、行政はそれに従えばいいことだ、と語っている。


「また労働者デモの嵐が吹き荒れるか?」(2013年1月10日)
定められた地方別最低賃金に従わない企業へのデモ行動をインドネシア労組同盟が計画している。同盟議長によれば、従業員への給与を最低賃金に満たない金額で支給する会社の情報がまだつかめていないため、今月25〜31日の間に支払われる給与の金額をチェックして最低賃金より低いことが明らかになった場合、その会社に対するデモを行なうとのこと。これは最低賃金適用保留申請を出した会社をも対象に含んでいる。合法非合法は関係なく、最低賃金を労働者に支払わなければ抗議の矢面に立つことをそれは意味している。保留申請を出した会社も当方に通知してこないから、詳細がよくつかめない、と議長は述べている。
またそれとは別に、企業が提出した最低賃金適用保留申請に政府が便宜をはかった事実があれば、政府に抗議する労働者の大規模デモも行なわれることになっているが、政府が2003年労相規則第231号の内容を忠実に実行する限り、デモの必要はないだろう、とのこと。
労組同盟は2013年1月第一週に全国すべての県市に報告窓口を設け、最低賃金適用保留手続きで政府が便宜を与えた会社についての報告を集め、2003年法律第13号労働法の内容に違反したとして告訴する計画。そしてこの運動の頂点がジャカルタで一万人を超える人員を動員しての大デモ抗議行動の実施。


「最低賃金適用保留か、それとも雇用削減か」(2013年1月11日)
労働集約産業、中でも飲食品・タバコ・繊維・衣料品・履物・皮革・玩具・家具などの業種や輸出指向の業種が2013年最低賃金適用免除を政府労働省に提出している。労働集約産業と中小企業は40%も上昇した2013年最低賃金に従う能力がないため、それが承認されないなら、大規模な人員整理は避けられないとのこと。
輸出が低下して貿易赤字が膨張しつつある現在、輸出指向の労働集約産業が生産を縮小すればますます輸出はダウンする。ジャカルタでは387社が都労働局に最低賃金適用保留の申請を出した。そんな状況は工業大臣から労働大臣への要請状という形での支援に結びついた。労働集約産業と中小企業に対する最低賃金適用義務免除という労働大臣規則の形を取ることで、従来から行なわれていた各州労働局の保留申請審査を経るという不確定性を乗り越えることができる。これまで地方自治体はその申請審査を労働者寄りのものにするのが一般的だった。つまり会社と従業員が最低賃金を適用しないことに合意したにもかかわらず、自治体側は会社の言う支払い能力がないという訴えを否定し、支払い能力があるのだから最低賃金に従えという結論に向かう姿勢が強かったわけだ。そのような実態をも含めて、労使二者協議に行政が関与するのは極力控えるべきだという声が最近とみに高まっていた。
ところが、機械化産業の典型であるプラスチック上流産業界も、上昇した最低賃金と産業用電力料金値上げに対応して生産と雇用の三割削減を行なうことを表明した。インドネシアオレフィンプラスチック産業協会事務局長は、この先6ヶ月間で5万人ほどの雇用削減が行なわれるだろう、と述べている。業界の中で最低賃金適用保留申請を出したところはその結果が出るまで人員削減の内容が計画できないため、はっきりした人員整理計画はもう少し先になると事務局長は説明している。


「最低賃金適用保留申請を全部承認するように」(2013年1月14日)
先にアピンドが公表した数字によれば、2012年12月20日までに最低賃金適用保留申請を地元労働局に出した企業は全国で1,312社に達し、そのうちの9割はジャボデタベッ在の企業だということだったが、労働省にあがってきた各州労働局からの報告では、適用保留申請を出した企業は908社だったことが明らかにされた。
ソフィヤン・ワナンディAPINDO会長は、従業員百人以下の工場で、申請に必要とされている資料を整えているところがまだたくさんあり、今やかれらにとっては人員削減を行なうか、あるいは適用保留申請を出し、従来の申請審査基準を変更してもらう以外に選択の余地はない、とその数字の差を説明している。
労相は、最低賃金適用保留申請を出した企業に対して州政府は労使合意を尊重し、可及的速やかに処置を行い、企業とりわけ労働集約事業者への便宜をはかるように、と全自治体に対する声明を出した。地元自治体が企業の提出した保留申請への審査を行い、申請を却下した場合は企業の雇用削減が行なわれるのは必至と政府は見ており、過去二年間連続で赤字というような条件を満たさないために州知事が申請を却下するようなことは避けたいと考えている。申請が承認されたケースはまだひとつもないが、908件の申請がすべて承認されることを望んでいる、と労相は強調している。


「最低賃金適用保留承認に労働界が抗議」(2013年1月16日)
提出された2013年最低賃金適用保留申請のうち46件を都庁労働局が承認したことに対して労働界が抗議している。インドネシア全労働者機構のティンブル・シレガル事務局長はそれについて、適用保留申請を出した会社に対する調査と審査の実施がきわめて不透明である、と批判した。「会社側と労働局の双方が、申請提出から承認に至るプロセスをなにひとつ公表しておらず、おまけに当の会社の労組に対して審査結果の内容から承認に至る詳細をまったく知らせていない。審査の客観性を維持するために、労働局は承認した会社ごとに審査内容を公表するべきだ。申請を承認するためには条件のクリテリアがある。申請会社のどの点が条件を満たしているのか公表されなければならない。おまけに、申請が承認されたからといって、それで終わりということではない。申請が承認されたから会社は好きなように給与賃金を支払えばよいということにならないのだ。2013年首都最低賃金の適用を受けなくてもよくなったとはいえ、会社は従業員に適正生活需要以上の金額を支払わなければならないのだから。ジャカルタの2013年適正生活需要は190万ルピアだ。申請が承認された46社の中で、適正生活需要を下回る給与賃金を従業員に支払った会社は労働法第90条への違反で告訴されることになる。」事務局長はそう述べて、事業者と行政への対決姿勢をちらつかせている。
インドネシア労組同盟総裁は2013年1月16日に5千から1万人の労働者が都内をデモ行進すると予告している。最低賃金保留への抗議と電力料金値上げ反対を示すこの陳情行動は首都警察本部前から鉱エネ省・労働省に向かうものであるとのこと。


「最低賃金急上昇の矛盾」(2013年1月17日)
大幅に上昇した2013年最低賃金に関して実業界は、国内の特に労働集約産業の活力がそれによって著しくそがれるために特定セクターを最低賃金適用対象から除外することを求めており、それと意見を同じくする工業大臣は労働大臣に対し、その内容の規則を定めて労働集約産業保護の法確定を行なうよう勧める公式要請状を届けている。しかし労働大臣は既存の最低賃金保留申請制度で状況を乗り切ろうとしているようで、保留申請の処理を行なう各州政府に対し、企業が出してきた申請はできる限り承認するようアドバイスする声明を出している。
それに対して労働界は、地元自治体がこれまで行なってきた規準に則して申請を審査し、審査結果に応じて承認するなり却下するなりの対応を取るよう求め、従来の規準を適用せず審査に手心を加えて承認の大安売りをするなら、それは規則違反であり、労働者デモに見舞われるだろう、と威嚇している。
最初は貧困者人口の低下を目指して低賃金労働を廃止すると大見得を切った政府も、物価抑制と社会保障充実を行なわないかぎり賃金上昇は労働者福祉向上に結びつかないと労働界自身に背中を一突きされ、また失業者減らしのために年間百万人の雇用増という目標を掲げている政府が労働集約産業界の「最低賃金適用除外かそれとも雇用削減か」という背水の陣に直面して、事態収拾の方向にベクトルが向かい始めてはいるのだが、快刀乱麻を断つような解決策はないようだ。
それはともかく、労働集約産業セクターの最低賃金適用除外に関する労働大臣規則の制定を要請しているM.ヒダヤッ工業大臣の孤軍奮闘に友軍がついた。ギタ・ウィルジャワン商業大臣も労働大臣に対し、インドネシア輸出産業の中の優良セクターである履物製造と繊維衣料品製造の二セクターが2013年最低賃金によって競争力をそがれると輸出に大打撃が加わるという理由で、最低賃金適用除外に関する労働大臣規則を制定するように要請する公式文書を労働大臣に届けたのである。折りしも、これまで毎年黒字だった輸出入バランスが2012年に赤字に落ち込んでおり、更に最低賃金急上昇による人員削減が引き起こす操業縮小と輸出価格上昇が輸出取引に打撃を及ぼせば、貿易黒字への回復どころではなくなる。
ちなみにヒダヤッ工相は2004年から5年間全国商工会議所会頭を勤めた財界人であり、またギタ・ウィルジャワン商相も入閣する前に青年実業者会の会長を勤めていた実業界の旗頭だ。ソフィヤン・ワナンディAPINDO会長は、現閣僚中で現実的な人間はかれらだけだ、とコメントしている。労使と中央および地方の行政という四者の思惑が深く絡み合ったこの問題の行方はまだわからない。


「257社に最低賃金保留承認」(2013年1月21日)
西ジャワ州で最低賃金適用保留申請を提出した企業は289社あった。それに対して申請承認が決まったのは257社であり、32社は承認が与えられなかった。ただし、そのうち6社は申請を自ら撤回しており、州労働トランスミグラシ局の審査でハネられたのは26社ということになる。257社の中ではボゴール県所在企業がもっとも多く、次いでプルワカルタ、カラワン、スカブミとなっていた。
最低賃金適用保留申請の絶対条件は労使間合意があることで、企業内でマジョリティを占める労組との合意が不可欠になっている。申請企業の中には、最低賃金に達するまで段階的にアップしていくスケジュールを組んだところや、スカブミでは最終的に最低賃金の120万ルピアを超えて125万ルピアまで段階的に引き上げていくことをコミットした企業もあり、行政側はそれら個々の企業の事情を検証検討して妥当と思われる企業に承認を与えている。
ハネられた26社は絶対条件である労使間合意が提示できなかったところや、マイノリティの労組と合意書を結んだものなどがあり、条件を満たしていないとして申請が却下されている。申請を取り下げた6社の中には、申請結果を待たずに倒産してしまったところも見られた。
行政手続きとしては最終的に申請承認の州知事決定書が出されることになるが、州政府部内では法務課が社名と住所といった基本的なデータのチェックを行なった上で州知事決定書の署名がなされるという流れで、2月20日までには決定書が申請承認企業に渡されるだろう、と州知事は述べている。添付資料である財務報告書はほとんどの会社が外部監査を行なっており、州政府側が更に監査を行なう必要はほとんどなかったとのこと。
2012年に出された申請承認州知事決定書は29件しかなく、今年は9倍近くに膨れ上がったわけだが、中央政府労働省の意向を反映した対応が取られたものと見ることができそうだ。


「最低賃金高騰に関する続報」(2013年2月11・12日)
全国商工会議所とアピンドは最低賃金適用保留申請を地元自治体に提出した会社が1,312社あると公表しているものの、中央政府労働省に上がってきている各州政府からの報告では、949社から申請を受けているとされている。2013年2月6日現在の労働省データによれば、その明細と状況は次の通り。
ジャカルタ首都特別区: 申請345社、承認55社、却下28社、審査保留262社(書類不十分のため)
西ジャワ州: 申請298社、承認257社、却下35社、申請取り下げ6社
バンテン州: 申請177社、承認144社、却下33社(書類不十分のため)
中部ジャワ州: 申請25社、承認2社、却下21社、申請取り下げ2社
東ジャワ州: 申請96社、承認24社、却下11社、審査保留56社、申請取り下げ5社
ヨグヤカルタ特別州: 申請7社、承認6社、却下1社(書類不十分のため)
西パプア州: 申請1社、承認1社
合計: 申請949社、承認489社、却下120社、審査保留327社、申請取り下げ13社
この問題に対する行政側の姿勢は、経済界と一部関係大臣が求めている「無条件で特定産業に対し最低賃金適用保留の権利を与える」ことに対して依然及び腰であり、従来のままのシステムに従って個別に申請を出させ、定められた条件を満たせない会社には大幅に上昇した給与を従業員に支払うことを強制する形が続けられている。
審査条件を強く云々しないで極力申請に便宜をはかるよう州政府に求める指導を労働大臣は出したものの、その姿勢に労働界はまっこうから反対しており、むしろ申請はすべて却下させろという声まで出されている。そんな情勢になって困るのは審査を直接取扱う州政府であり、いくら労働大臣が手心を加えろと言っても規則どおりにプロセスを行なっておかなければ、あとでどんなことになるかわかったものではない。上で見られる通り、申請に添付されなければならない書類がすべて揃っていないことに対して審査保留と却下という異なる対応がなされているのは、例年であれば条件不備で却下されているにもかかわらず労相の意図を汲んで審査保留という温情がかけられている印象をわたしはそこはかとなく感じるのである。
最低賃金が激しく上昇したボゴールでは、既に50社ほどが合計およそ1千人の解雇承認を求めて地元労働局に申請を出した。また履物産業界では外国の国際ブランドオーナーからベトナムのOEM工場に対して生産能力拡大を要請する動きが広がっているとの情報も流れており、労働情勢の激動をはらんだインドネシアからベトナムにオーダーを移す準備だとそれをインドネシアの履物産業界はとらえている。
ソフィヤン・ワナンディAPINDO会長の談によれば、最低賃金高騰の影響が労使双方の間で深刻化しはじめているとのこと。既に事業を清算した会社もいくつか出ているが、マスメディアにその事実がエクスポーズされていないために世の中にまだあまり逼迫感が漂っていないだけだそうだ。更にアピンドに入っている報告によれば、多くの企業が社員の自宅待機を行なっており、その人数は1万5千人に上っている。そして2013年賃金高騰が首都圏ほど大きくなかった中部ジャワや東ジャワへの移転も多くの工場が検討を進めており、それが実施されれば首都圏で失業者が急増する可能性は高いと会長は語っている。


「おとなじゃないなあ・・・」(2013年3月1日)
2012年11月3日付けコンパス紙への投書"Alih Daya Sudah Sejak Dulu"から
拝啓、編集部殿。アウトソーシング労働がどうして今ごろ問題にされるのか、まったくわけがわかりません。その種の行為は、個人レベルであれ企業レベルであれ、昔から続けられてきていることだというのに。個人レベルでは、家を建てるときの総請負だとか、貨物を車から下ろす仕事などがそれに該当します。
企業レベルであれば、タバコの紙巻請負作業だとか建築請負などがそうです。だから、アウトソーシング労働というのは一般的な活動であって、特に法規を設ける必要のないものです。搾取的なアウトソーシング労働力紹介業者を撲滅するために、警備サービス・ケータリングサービス・清掃サービス・運送・石油ガス採鉱サービス以外のアウトソーシング労働を禁止するという政府の規定は全然腑に落ちません。
その規定は廃止するべきです。もし搾取的な業者があれば、労働者はそこをやめて別の仕事に移る権利があるのではありませんか?もしその仕事の報酬があまりにも低いと労働者が考えるなら、尊厳のある大人らしい対応はそこをやめて別の仕事を探すことです。世間はワサビノキの葉っぱみたいに小さくはありません。[ 中部ジャワ州トゥマングン在住、ウイ・ホンチュン ]


「個人納税申告書提出期限は間近い」(2013年3月6日)
SPT tahunan(年次納税申告書)の季節がやってきた。個人納税者はSPT1770Sフォームあるいはもっと簡素化されたSPT1770SSフォームに必要事項を記入して期限内に税務署に持っていかなければならない。3月末の期限日が近付くと税務署にチェックデスクが並べられ、職員が納税者の提出するSPTをチェックして問題なければ受理される。しかし税務職員の中に不良分子はうじゃうじゃおり、隙あらば納税者を搾り上げようと構えている輩に事欠かない。納税者が女性アントレプルヌールだと舌先三寸で罰金を科す方向に持っていこうとする職員がいるから、中小事業主の婦人たちの中にはおのずと税務署との一期一会を実践するひとが増えようというものだ。
国税総局はSPT提出を電子化する方向に力を注いでいる。eファイリングと呼ばれるこのコンピュータ通信でのSPT提出は、まずインターネットサイトefiling.pajak.go.idを開き、自分のステータスに従ってSPTフォームを選択し、各欄にデータを記入し終えたら提出するという方式で、自宅や事務所で居ながらにしてSPT提出が行なえる。
eファイリングでのSPT提出を希望する納税者はまず税務署からelectronic filing identification number (e-FIN)をもらわなければならない。税務サービス事務所へ出向いてそれをもらうのも可能だし、あるいは国税総局のネットサイトで申請すれば30日以内に交付してもらえる。このシステムは2011年に用意されたもので、最初は有料だった。しかも添付書類は紙で税務サービス事務所に届けなければならなかったため、利用者は少なかったが、そんな状態はもう改善されている。
2012年に2011年度SPTをeファイリングで提出したひとは7,507人いた。ところが、2013年2月21日までに2012年度SPTをその方式で提出したひとは10,971人に上っており、今年は利用者が激増するだろうと期待されている。現在個人納税者番号は2千万件発行されているが、SPT提出者は880万人だ。国税総局は今年のSPT提出者の半数がeファイリングを使ってくれるよう期待している。


「憧れの職業は自営専門家」(2013年3月8日)
コンパス紙R&Dが2012年10月1〜4日にジャカルタ・バンドン・ヨグヤカルタ・スラバヤ・マカッサルの5大都市で307人を対象に「どんな職業に興味があるか」という質問を行なった。別のサーベイで未就労の学校生徒たちから集めた回答は圧倒的に政界入りだったそうだが、政治家が実業界よりも権力と金をほしいままにしているインドネシアの実態をみごとに反映している気がする。
ともあれ、コンパス紙のサーベイでは、技術・医療・教育・法律などの専門家が最高シェアを占めた。詳細はこうなっている。
専門家 34.8%
スポーツ・芸術・芸能 18.6%
ジャーナリズム・放送 14.3%
実業・銀行・金融 12.9%
文民公務員 12.1
農林牧畜水産 7.2%
また各職業分野に対するイエス・ノーは下の通り。数字は%。
農林牧畜 Yes22.1 No50.5
海洋水産 Y17.6 N59.6
技術 Y53.4 N32.2
保健医療 Y62.2 N24.8
教育 Y45.0 N36.8
官僚 Y43.3 N40.1
国軍警察 Y23.8 N62.2
実業銀行金融 Y71.3 N16.6
法曹 Y31.6 N51.1
スポーツ Y42.3 N44.3
芸術芸能 Y60.6 N24.1
ジャーナリズム Y35.5 N43.6
放送 Y43.6 N38.8
実業銀行金融セクターをイエスと言ったひとは71%に達したが、このセクターでの就業を自己の憧れとしているひとはそこまで多くないようだ。


「日本への職業研修は親孝行の一環」(2013年3月25日)
東ジャワ州ジュンブルにあるプグル漁業海洋専門高校の3年生、ユリアワティとプルウニはまだ17歳。ふたりは校庭でついさっき受けたテストの結果を、胸をどきどきさせながら待っていた。テストとは実力テスト、そしてそのテストは日本への研修生を選抜するためのテストだ。テストを受けた生徒数は32人で、それにパスすれば三年間日本の水産関係企業で働きながら仕事の経験を積むことができる。
そのテストのためにわざわざ日本から試験官がジュンブルまでやってきた。日本の研修先企業が派遣したコンサルタントのマチダさんだ。マチダさんのお眼がねに叶わなければ日本での研修はただの夢に終わる。外国人が自分をどう評価するのか、そんな経験をただの一度も持ったことのない生徒たちは期待と不安の交錯する中で陸に上がったマグロ同然の心境になっていたにちがいない。
「目の色盲検査を受けたし、手も調べられました。刺青があったり、刺青を消した痕があったりしたら、合格しないんだって。」トゥンプレジョ郡シドダディ村の親のもとから高校に通っているユリアワティとプルウニはそんな話をする。研修生として日本へ渡ることを希望しているのは、親に経済的援助を与えたいのが第一の理由だ。学校を卒業した村の青年が日本での研修期間を終えて帰国した。その青年はけっこうな金額のお金を持ち帰り、かれの親は突然羽振りがよくなった。村の人たちは青年の親孝行を賞賛している。自分も同じようなことをしたいのだ、とユリアワティは物語る。プルウニは自分のファミリーのひとりがやはりプグル漁業海洋専門高校を卒業して日本へ研修に行き、戻ってくるとすぐに家を建てて親をそこに住まわせた話をする。かの女たちふたりにとって日本への研修生になりたい動機は、親への経済支援を行なって親孝行な自分を実現させたいということのようだ。
プグル漁業海洋専門高校生徒管理担当副校長は、テストをパスした生徒たちはジャカルタへ送られて4ヶ月間、能力向上に加えて日本語と日本文化に関する教育をみっちり与えられると説明する。日本に到着してからも、同じような訓練を受けることになる。そして日本での三年間の職業研修期間に研修生は総額2億9千万ルピア前後の報酬を与えられる。しかし学校側は生徒に対し、日本での職業研修を受けるよう無理強いするようなことはまったくしていない、と副校長は述べている。プグル漁業海洋専門高校は学校創立以来累計で50人を超える生徒を日本に送り出してきた。
日本と何らかの関係を築いているインドネシアの大学は日本での研修経験者に対して入学の便宜をはかっており、帰国した研修生は大学水産科の第3スメスターに受け入れてもらうことができるそうだ。


「最低賃金違反で初の実刑判決」(2013年5月2日)
地域別最低賃金より低い賃金・給与を従業員に与えた事業主に最高裁が労働法違反として刑罰を与えた。これはインドネシア共和国はじまって以来のできごと。
2003年法律第13号労働法第90条(1)項には、事業主は最低賃金より低い賃金を支払ってはならない、と記載されており、また第185条(1)項は、その規定に対する違反は入獄最低1年最高4年且つ/あるいは罰金最低1億最高4億ルピアの刑罰に処す、と謳っているが、その法執行はこれまでなされたことがなかった。
スラバヤの事業主チウ・クリスティナ・チャンドラ氏の最低賃金規定違反に関する告訴でスラバヤ地裁は被告に無罪判決を下していたが、検察局公訴人は一審判決を不満として最高裁に上訴し、2012年12月5日に最高裁は一転して被告に有罪判決を下して1年間の入獄ならびに1億ルピアの罰金刑に処した。その判決文によれば、最低賃金に従わないのは犯罪行為であると表明されている。「多くの失業者がいて国民は生計の資を十分に入手することができず、国のそんな状況を悪用する者が数多い。今回最低レベルの刑罰が与えられたのは、国民への教訓の第一歩だからだ。今後は、違反行為を行なう事業主が訴えられたなら、罰則が与えられるようになる。今回の判決は事業主が状況を悪用せず最低賃金を守るようになるための懲罰を意図している。最高裁は労働者の権利を闘い取るための最後の砦であることが期待されている。」
今回の最低賃金に関する最高裁判決について工業省官房は、最低賃金問題は産業界、特に労働集約型産業の存立に関わるものであり、判決の内容を深く検討したい、と語った。「労働集約産業には便宜が与えられる方向性が既に打ち出されているというのに・・・・。」
アピンドはこの最高裁判決について、従業員に最低賃金より低い賃金を与えている会社があることに関しては、あらゆる面からものごとを見なければならない、と批判する。「法決定としては尊重するが、しかしながら、最終判決審議だけを見るのでなく、その背景にも目をやらなければならない。労使協議での合意、最低賃金適用保留申請、地元労働局の申請承認などのメカニズムを事業主が無視したのだろうか?もし事業主がそれらの手続きをクリヤーしていたのなら、事業主に刑罰を科すのはおかしい。それらのメカニズムを踏み行なう事業主がいるということは、最低賃金を満たす能力が事実上ない会社があるということを意味している。このような判決が出されたことで、中小事業主は新たに刮目することになる。最低賃金を守らなければあんなことになるのだ。ならばそれを満たすためにどうやるのか?会社に支払い能力がない場合には、従業員の数を減らさざるをえない。政府はこの関連性を重要視してほしい。」
一方、労働界はこの最高裁判決にもろ手をあげて賛同している。「その判決は正しい道に沿っている。法律は最低賃金を守ることを義務付けており、違反には刑罰が与えられる。その決まり通りのことがなされたのだ。最低賃金というのは労働者が絶対的貧困に陥らないようにするための保全ネットワークであり、その労働者の権利に対する法執行がこれなのだ。事業者が好き勝手に労働者を抑圧しないよう、法が小市民に味方していることを証明したのがこの判決だ。」インドネシア全国労組同盟議長はそうコメントしている。


「自動車税の累進課税制度」(2013年5月30日)
2013年1月9日付けコンパス紙への投書"Terkena Pajak Progresif Mobil Sesudah Balik Nama"から
拝啓、編集部殿。2012年10月6日、わたしは首都警察本部にある南ジャカルタ市統合サービス事務所で自動車税の支払い手続きを行ないました。自動車税計算書が出てきたとき、わたしは490万ルピアというあまりの巨額にビックリしました。窓口担当者が言うには、その車は三台目なので累進課税が適用されているのだそうです。
南ジャカルタ市統合サービス事務所の一階二階三階を右往左往していくつかの部門で手続きし、やっと二台目というステータスに変えてもらい、納税金額は390万ルピアに下がりました。
本当は、その車は一台目なのであり、定められた納税金額をわたしが承服したわけではありませんが、時間の約束があってそれ以上のプロセスを行なう余裕がなかったので、その下がった金額で納税することにしました。
わたしが既に売却したプレート番号B16xxXXXのニッサンリビナは名義変更を済ませて東ジャワ州マドゥラに登録場所が移され、プレート番号もM15xxXに変わっているというのに、どうしていまだにわたしの所有として当局に登録されているのでしょうか?そのおかげで、わたしの納税金額に累進課税が適用されたのです。[ 西ジャカルタ市在住、アプリアントン・シマトゥパン ]
2013年1月21日付けコンパス紙に掲載された当局からの回答
拝啓、編集部殿。アプリアントン・シマトゥパンさんからの2013年1月9日付けコンパス紙に掲載された投書について、まずご不快に謝罪したいと存じます。
統合サービス事務所コンピュータシステムにあるデータによれば、アプリアントンさんがおっしゃっている自動車の所有者はアプリアントンさんとなっており、その車が売却されたという届出は受けておりません。
当方はアプリアントンさんに、住民証明書と家族登録書のフォトコピーおよび6千ルピアの収入印紙を持参して統合サービス事務所に用意されているフォームにデータを記載し、その販売済みの車に関する届出をサービス事務所窓口担当官に早急に提出されるよう、お勧めします。[ 南ジャカルタ市PKB及びBBN−KBサービスユニット長、ドディ・ウマル・サイッ ]


「餌食にされる海外出稼ぎ者」(2013年7月4日)
2013年2月13日付けコンパス紙への投書"Biaya Siluman pada Kartu Tenaga Kerja Luar Negeri"から
拝啓、編集部殿。2012年12月31日午前10時ごろ、わたしはスカルノハッタ空港海外出稼ぎ者保護配備運営庁(BP3TKI)事務所で海外出稼ぎ者カード(KTKLN)の作成手続きを行なうつもりでした。わたしは海外で働いており、今回は休暇で帰国しました。休暇が終わるのは2013年1月15日であり、再び海外で働くためにKTKLNを作らなければならないのです。
BP3TKI事務所に入ったら、私服の男性とBP3TKIの制服を着た男性のふたりがわたしにアプローチしてきました。ふたりはわたしに申請用紙を渡してそれに書き込むように命じ、わたしが納めなければならない費用は80万ルピアだと言いました。わたしの感覚では、それは実にファンタスティックな金額です。
KTKLN作成費用はそんな巨額ではありません。同じところで働いているわたしの友人はKTKLN作成のために30万ルピアを払っただけなのですから。かの女がその場で80万ルピアはおかしい、と助言してくれました。
そのとき、その事務所でもっと悲惨なことが起こっていました。そんな巨額なお金を持っていなかった海外出稼ぎ者が、KTKLNを入手できないために飛行機に乗れなくなったのです。家にお金を取りに戻る余裕なんかありません。だって数時間後に飛行機が出発するのですから。
結局、わたしはスカルノハッタ空港BP3TKI事務所でKTKLN作成手続きを行なうことをやめました。2013年1月2日、わたしはバンドンのBP3TKI事務所へ行ってKTKLN作成手続きを行ないました。費用は29万ルピアであり、手続きは迅速になされました。カードの有効期間は2年間です。海外出稼ぎ者を食い物にする悪人たちの行いには本当に心が痛みます。[ サウジアラビア在住、ミミ・スリ・マルヤティ ]
2013年2月21日付けコンパス紙に掲載された海外出稼ぎ者保護配備国家庁(BNP2TKI)からの回答
拝啓、編集部殿。ミミ・スリ・マルヤティさんからの2013年2月13日付けコンパス紙に掲載された投書について、次のようにお知らせします。スカルノハッタ空港BP3TKI事務所の職員は必ず制服を着用し、BNP2TKIのロゴに入った名札を付けています。もしBP3TKI職員やBNP2TKI職員あるいは他の不良行為を行なう者がKTKLN作成費用を徴収したなら、その者の名前を記録し、その証拠を保管しておいてください。そしてBNP2TKI苦情セントラルまで、電話番号0800−1000のハローTKI経由で届け出てください。これは24時間無料サービスです。あるいはまた、南ジャカルタ市パンチョランのMTハルヨノ通り区画番号52にあるBNP2TKI事務所までどうぞ。届出は必ずフォローされます。国家公務員が費用を徴収したことが立証されれば、懲戒解雇の対象になります。
ところで、ミミ・スリ・マルヤティさんがKTKLN作成時に支払われた29万ルピアは海外出稼ぎ者保険の二年間延長のための保険料であり、カード作成費用ではありません。カード作成は国家予算の負担になっており、出稼ぎ者は無料でカードを入手できるのです。
海外出稼ぎ者保険の保険料計算は、延長の場合の配備期間中が30万ルピアの8割つまり24万ルピア、さらに配備期間後の保険料が5万ルピアというのが明細です。海外出稼ぎ者保護のための保険料は2010年労働トランスミグラシ大臣規則第7号にあるとおり、前配備期間5万ルピア、配備期間中30万ルピア、後配備期間5万ルピアの合計40万ルピアとなっています。[ 海外出稼ぎ者保護配備国家庁長官広報担当特別スタッフ、マフムッ・ラカシマ ]


「徴税不平等はまだ続く」(2013年7月15・16日)
年商48億ルピア未満の中小規模事業者に対する事業所得税の課税手続きが2013年7月から開始された。納税高は毎月の売上金額の1%。この新政策の法的根拠となるのは2013年6月12日付けで定められた特定グロス年商を有する納税者が得た事業収入にかかる所得税に関する2013年政令第46号。ここで言う納税者とは、法人と個人の双方を指している。
政府の中小規模事業者に対する事業所得税の課税はこれまでも弱腰で不徹底なものだったが、今回ついに徴税の平等に踏み切ったのは効率の良い高額納税者の追及がいよいよ頭打ちになり、年々大幅に上昇する支出予算とのバランスをはかろうとして政府が腹を括ったあらわれという印象を感じさせるものだ。とはいえ、今回着手されることに決まった年商48億ルピア未満のカテゴリーにも徴税免除条件が定められており、実態は徴税の平等と言うには程遠い姿が示されている。免除対象になるのは、法人と個人とを問わず、事業場所が分解組立可能なインフラおよびスプラを使用している場合、あるいは公共施設の一部もしくは全部を使用している場合とされており、これすなわち屋台を引いて巡回物売り業を営んでいる事業者や店舗の表歩道を商売の場所にしているカキリマ商人などが徴税免除の対象になるということを意味しているわけで、草の根庶民に対する弱腰不徹底は依然として維持されている。
もうひとつこの政策の適用に関して定められているのは、まだ事業活動を開始していない段階の法人および一年間の事業活動実施後に年商が48億ルピア以上になった者には適用が除外されるという規定だ。一年後に早くも年商48億ルピアを超えれば通常の所得税課税規則が適用されて、年次納税申告の中で利益高にたいする累進課税が義務付けられる。法人だと利益高の25%、個人だと5〜20%。なお、事業年度が繰り返される中で、一度でも年商48億ルピアを超えることが起きればこのカテゴリーは適用されなくなり、通常の所得税課税規則が適用される。
国税総局によれば、これまでGDPの6割を占めてきた中小規模事業者に対する課税はまだほとんど行われておらず、税収の中に占める中小規模事業者からの貢献度はわずけ0.5%しかないとのこと。中小事業コペラシ省データによれば、2013年6月時点の同省管轄下にある中小零細事業体は5,520万あって国内事業体総数の99.98%を占めている。さらに中小零細事業体が雇用している労働力は1億172万人で、全国の被雇用者数の97.3%にあたっている。
例によってこの政策にも苦情が出た。
まず、事業所得にかけられる税金はその利益に対するものというのが世界中の常識になっているにもかかわらず、売上高に課税するのは犯罪行為であるというのが苦情の筆頭。事業が赤字であっても税金をとりたてるのは苛斂誅求きわまれりという論調だが、現実問題として中小事業者の多くは家内ビジネス的性格が強く、事業会計と生計を分離して帳簿付けを行なっているのは微々たるもので、自分の事業利益がどれだけあるのかわからないひとに税額計算を行なわせるのはたいへんな手間隙がかかるにちがいない。蔵相はその批判に対して、中小規模事業の利益率は7%前後と見られているため売上高の1%は事業利益の14.3%と計算され、この税率は上述の通常の所得税課税規則にある税率よりはるかに小さいと答えており、このカテゴリーにおける赤字操業はありえないというインドネシアの常識をそこはかとなく匂わせている。事業を行なうのは金稼ぎであり儲けるために行なうわけだから、損を蒙ったり赤字になればすぐに商売をたたむはずだというのがその常識だ。
しかし蔵相は同時に、この新政策によってこのカテゴリーの事業者がフォーマルセクターに成長することを大いに期待しているとも述べている。事業者が利益に対する課税を望むのであれば財務諸表を作って自己の事業利益を明らかにし、フォーマル事業者にとっては当たり前の基盤を整えてこのカテゴリーから抜け出せばよいということを示唆しているような言葉だ。家内ビジネスがフォーマル事業の態を示すようになれば、金融界からの融資獲得のハードルが低くなるため、事業規模の拡大へと進展していくための踏切板がこれだというのが蔵相の意向のように思える。
一方、中小規模事業者の団体から出されている苦情は、徴税を開始する以上は公的な事業管理制度にからむ許認可面でのぼったくりや役人の腐敗行為を廃絶せよという内容で、これは苦情と言うよりもリマインダーだろうが、その効果をもっとあげてくれたら1%徴税は問題にしない、というようにも聞こえてくる。


「来年は大幅賃金上昇なしにしたい」(2013年8月1〜5日)
2012年に行なわれた2013年最低賃金決定では、勤労者福祉の確立と低賃金からの訣別といったお題目が唱えられて、異常な幅の賃上げがなされた。ところが現実には、大幅上昇した賃金の負担に産業界、中でも雇用の集中している労働集約産業界が息切れを起こして新規雇用増どころか、機械化による従業員減らしの方向性が顕著になりつつあり、さらに体質の弱い会社はビジネス戦線から脱落するといった状況が現実化し、加えて石油燃料値上げによる交通費の上昇や生活基幹物資のインフレなどに蝕まれて、勤労者は収入増を享受するどころでなくなっているというのが正直なところだろう。ここでもわれわれは、工業が軽視されて利益は最終的に商人の懐に転がり込むという、インドネシアの伝統的体質を再確認することになる。
2013年6月25日の「労働集約産業に崩壊の危機」という記事にもあるように、政府の行った最低賃金急上昇は産業界に重い負担をになわせただけでなく新規雇用の扉を狭めたことにもなり、政府は産業活性化と失業者削減というふたつの大きな命題を自ら困難にし、経済が下降傾向に入ったいま、そのふたつの命題に明るい成果をあげるのは今後ますます困難になっていくだろう、という経済オブザーバーの見解も表明されている。CSIS経済部研究員はそれに関して、1%の経済成長で2010年は40万人の雇用が可能だったが、いまや18万人に激減している、と数字をあげて説明した。
国家経済の維持向上を目的に付加価値のついた二次産品を輸出するという基本政策を推進するためには、産業界の国際競争力を向上させなければならない。2013年度最低賃金の異常なジャンプは国内産業界の力をそぐことに終始しそうだという実態が共通認識になりつつある政府部内で、来年は同じ轍を踏んではならないという声が力を強めており、工業大臣を中心にして2014年度最低賃金決定の際に使う定則を決める動きが始まった。スローダウンの始まった経済が2014年は更に下降して行くことが予想されているだけに、再び同じ愚が繰り返されればインドネシアの輸出は取り返しのつかない痛手を蒙るだろうというのが、定則確定推進派の抱いている危惧であるに違いない。
工業大臣の案は、各地元インフレ率に何らかのパーセンテージを加えたものを用いたいというもので、その詳細は地元賃金委員会で討議され決定されればよいと大臣は考えている。大臣は自分の意見として、賃金上昇率が20%を超えないレベルが妥当だろうと述べたが、それは妥当性についての個人的な感触だ。
ここで、最低賃金制度を支えている規定をもう一度見ておこう。
*最低賃金とは月間賃金のもっとも低いもので、基本給と固定手当てから成っている。
*地元知事の最低賃金決定は、次のことがらにもとづく。
1.適正生活需要
2.経済成長率
3.マクロ生産性
4.労働市場の状況
5.能力の劣る事業セクターの状況
*独身勤労者の適正生活需要算出ファクター
1.飲食品・衣料品・住居・教育・保健・交通・レクレーション・貯蓄
2.各カテゴリーの個別の要素については、市場サーベイを行なって決定する
3.市場サーベイは州・県・市の各賃金評議会が実施する
労働大臣の定めた最低賃金に関する基本方針の中に、最低賃金は適正生活需要をクリアーしなければならないという一項がある。しかし、従業員に適正と考えられる生活レベルを与えたら会社は破産し産業は死滅したということになっては何にもならないので、雇用主の支払能力に関する考慮は不可欠だ。
最低賃金と適正生活需要との関係は昔から最低賃金が適正生活需要を後追いする形で続いてきている。毎年の全国平均値を見るとそれがわかる。
年 : 適正生活需要平均値 / 最低賃金平均値 /充足率
2005 : 530,082 / 507,697 / 95.8
2006 : 749,306 / 602,701 / 80.4
2007 : 766,360 / 672,480 / 87.8
2008 : 849,179 / 745,709 / 87.8
2009 : 1,010,372 / 841,530 / 83.3
2010 : 1,068,399 / 908,825 / 85.1
2011 : 1,123,744 / 989,829 / 88.0
2012 ; 1,299,692 / 1,088,903 / 83.8
2013 : 1,435,015 / 1,296,908 / 90.4
(平均値はルピア、充足率はパーセント)
2005年に定められた適正生活需要算出のための標準品目は46だったが、2012年に60品目に増やされた。労働界は、勤労者の妥当な暮らしに必要な品目はもっと多いとして、更に品目を増やすよう労相に求めている。品目が増えればその合算値である適正生活需要価額は増加し、結果的に最低賃金を引き上げることになる。
インドネシア履物業協会顧問会議長は、協会会員会社の多くが機械化をはかっており、手作業の工程がかなり機械に置き換えられたことを明らかにした。この転換によって余剰労働力が削減されるのは必至であり、労働集約産業における工員離れが今後も促進されるものと予想される。顧問会議長は機械1台につき工員5人との交代になると語っている。議長は更に、中央政府が最低賃金の激増を抑制しようとしても、最低賃金が政治的な目的に今後も使われる可能性が高いため、産業界はその対応策を講じておかなければならない、と悲観的な発言を行なった。
労働問題オブザーバーの間で、その意見を支持する声は大きい。最低賃金決定に関する定則を見直そうという政府の姿勢に対しオブザーバーのひとりは、従来のもので十分に適切だと語る。「政府と事業者が支払い能力と労働者福祉のバランスを取り戻そうとして定則を見直そうとしているが、従来のものに欠陥があったわけではない。これまで行なわれてきたものもあらゆるアスペクトが考慮されており、政治的な意図が持ち込まれないかぎり、きわめて妥当な結果が引き出されている。問題は、地方首長選挙で候補者が労働者の票を取り込むために最低賃金引上げを約束すると、最低賃金の暴騰が起こるという点にある。」
政府は州・県・市に最低賃金決定のための賃金評議会を設け、労使と政府という関係者をメンバーに据えて、毎年適正生活需要のサーベイを行なわせている。そしてそのサーベイ結果を考慮しながら労使間で最低賃金が協議され、出された最終案が評議会の推薦案としてその地方首長に提出される。そこから州知事決定書として公式化されるまでの間に、次の選挙対策を行なっている首長が何をするかは想像に余りある。その結果、異常な最低賃金上昇が起こるのである。
そのような形で賃金と生産性のバランスが崩れると、インドネシア産品の輸出競争力が悪化していく。世界経済フォーラムが発表した2012年国別生産性番付でインドネシアは144カ国中50位にあり、タイやベトナムの後塵を拝している。
地方首長が国家スケールのビジョンで最低賃金問題に取り組まなければ、上のような問題は改善されないだろう。インドネシアの最低賃金問題はどうやらそのあたりに構造的な弱点を抱えているようだ。であるなら、工業大臣が考えているように、地元インフレ率にある範囲のパーセンテージを地元首長が上乗せできるようにしておき、地元首長が自由にできる幅を狭くしてやれば、異常な事態の発生は回避できるという方法論は、本来の精神から外れてしまうかもしれないが、国家経済に大きいショックを与えないようにするための良策であるのかもしれない。


「ルバランボーナスはボーナスに非ず」(2013年8月2日)
市況が悪化して減産体制を敷かざるを得ない工場の経営者は、最高の効率を求めてボーナス支給日直前に従業員解雇を行なうかもしれない。2013年7月29日には、中部ジャワ州クドゥスのタバコ工場で1千人を超える規模の従業員デモが起こった。
経営者側は、ステータスが明確にされないまま使用していた工員に対する解雇ととらえており、退職金としてはひとり6百万ルピアが用意されている。しかし従業員側は正社員としての妥当な退職金額・その他の報奨金や有給休暇の権利を要求して対立したまま。解雇は既に明らかにされているため、ルバランボーナスは支給されない見込みが高い。
ジャカルタでも7月29日にチャクンとマルンダにあるヌサンタラ保税地区で衣料品関連工場二社の従業員1,150人がルバランボーナスを規定通り満額支払えと要求するデモを行なった。そのひとつ韓国系の工場は、本社の指示によって8月3日の支給と雇用一年未満の者は給与の50%の支給が決められたらしいが、それは政府の規定に合致していない。
ルバランボーナスに関連して、既に国内各地で従業員デモや労働監督機関への訴えが起こっている。2013年7月25日には、北スマトラ州トゥビンティンギ(Tebing Tinggi)で、規定の金額に満たないルバランボーナスを支払った一社で従業員デモ。同日、東ジャワ州でもスラバヤ・シドアルジョ・グルシッ(Gresik)・パスルアン・モジョクルト(Mojokerto)にある7社が従業員3,750人へのルバランボーナス支給で規定違反を犯したとの届出がなされている。また南カリマンタン州バンジャルマシンでも、ある民間銀行が過去5年間ルバランボーナス支給を怠っているという届出がなされた。
労働トランスミグラシ省労使関係育成労働社会保障総局長はルバランボーナスの規定について念を押した。
1.支給金額は基本給と固定手当てがベースになる。固定手当てを合算しない会社が多いが、それは違反である。
2.勤続一年以上の者はひと月分、一年未満の者は月数の比率分。たとえば勤続8ヶ月なら、ひと月分x8/12。
3.支給対象は、正社員と契約社員とを問わない。またルバラン日から30日前までに解雇された者にも支給される。
4.支給日はルバラン日から7日以前。
労働省と地方自治体の労働監督官は、ルバラン日の6日前から、企業への戸別訪問を行い、ルバランボーナス支給の実態調査を実施することになっている由。
ボーナスと呼ばれてはいるものの、上のように13ヶ月目の給与と呼ぶほうがより実態に近いように感じられるから、国外の本社にいる方針決定者には使う言葉を吟味したほうがよいかもしれない。


「最低賃金決定の新政府方針」(2013年10月07日)
事業継続と勤労者福祉向上の枠組みにおける最低賃金決定方針に関する2013年大統領指令第9号が2013年9月27日付けで出された。2013年度地方別最低賃金決定に際して低賃金から脱皮することを理由に官界が激しい最低賃金引上げを行い、それが引き起こした異常事態に学んだ反省がこれだと言えるにちがいない。
それが繰り返されたならインドネシア実業界はたいへんなことになりかねないとの危惧を強く抱いた元商工会議所と青年商工会議所の統率履歴を持つ二大臣を中心にして現内閣が、最低賃金政策決定の舵取りを全国地方自治体首長に委ねていたのでは国家産業政策が大打撃を受けかねないため国がより強くそれを統制する必要があるとの判断を取りまとめて出してきたのがこの大統領指令第9号だと言えよう。
その動きの中心であったMSヒダヤッ工業大臣はその大統領指令に関して、その内容が実践されれば、最低賃金方針は正しい軌道に乗るだろうと次のように説明した。KHL(適正生活需要)金額が最低賃金決定プロセスの中で従来以上に参照データとしての役割を果たすことになる。各自治体地元のKHL、経済成長、生産性にもとづく最低賃金という原則に変化はなく、また最低賃金がKHLをクリヤーしなければならないということも従来通りだ。それを踏まえた上で、最低賃金がKHL以上になっている州・県・市では、各企業が労使二者間の協議で最低賃金を決める。州知事は国の賃金方針と賃金システムの展開に則して最低賃金を決定するよう指示されており、同時に州賃金評議会のリコメンデーションをも斟酌しなければならない。県令・市長は州最低賃金が決定されてから地元の最低賃金を州知事に提案して法的確定を行なってもらう。国家警察長官は、最低賃金決定とその方針の遂行を監視する。「警察は定められた軌道が正しく踏み行なわれているかどうかを確認するだけであり、最低賃金の協議に顔を出すことは基本的に起こらないだろうが、騒擾が発生すれば乗り出してくる。」工業大臣はその点について、そう説明している。
それに関連してソフィアン・ワナンディAPINDO会長は、「最低賃金協議の場に警察が影響を及ぼしたり、あるいは協議の場に参加するようなことは絶対にあってはならない。」と念を押している。
KSPI(インドネシア労組会議)はこの大統領指令第9号に対して反対声明を出した。最低賃金決定に関する規定は2013年法律第13号と2012年労働大臣規則第13号および1999年労相規則第1号で既に定められていることをその理由にあげており、さらに最低賃金決定プロセスに警察をからめることで労使間協議が歪められるおそれが高いとも表明している。


「全州一斉に最低賃金決定!?」(2013年10月21日)
法規によれば、州別最低賃金は実施開始の60日前、県・市別最低賃金は実施開始日の40日前に決定されることになっている。年次の最低賃金は1月1日が実施開始日に当たるため、それは州別最低賃金が前年の11月1日、県・市別最低賃金は前年の11月21日に全国一斉に決められなければならないことを意味しているというのに、決まりの守られない国という様相はここにも顔を出している。その結果これまで何が起こっていたかと言えば、大都市のアップ率を周辺地域が追随するという現象だ。2013年大統領指令第9号に示されているように、最低賃金決定は地元の経済成長・生産性・適正生活需要(KHL)をベースにしてなされなければならず、近隣地区がどうであるかという非決定要因がそこに持ち込まれるのは、最低賃金のあり方を不健全なものにしていることにほかならない。
昨年起こった異常な最低賃金上昇の再発を避けようとしているアピンドは、そういう不健全な最低賃金決定のあり方を改善するために、11月1日に全国一斉に州別最低賃金を決定することを法規の順守として行なうよう提言した。さらに、各地元賃金評議会がどこからも威嚇や強制を受けないでニュートラルに最低賃金リコメンデーションが行なえるよう、警察はその監視と保証を行なわなければならない、ともフランキー・シバラニ、アピンド会長は述べている。
インドネシア最大の労働組織であるインドネシア全国労組同盟(KSPSI)のサイッ・イクバル委員長はそれに関連して、法規に従えば11月1日が州別最低賃金決定の期限日に当たるが、2014年度最低賃金決定プロセスの実態は全国的にそれが順守できる状態になっていないことを明らかにした。「2013年11月1日までもう二週間を切っているいま、地元KHLが既に合意されている賃金評議会はまだ一ヶ所もない。」
労働トランスミグラシ省労使関係育成労働者社会保障総局長は従来から行なわれている最低賃金制度について、それは新規勤労者に対する保全ネットワークなのであって、つまりは最低のものを意味しており、経験を持つ勤労者に対するものではない、と語った。「2013年大統領指令は労働大臣に最低賃金がKHLをクリヤーするよう監督することを命じており、地元首長は地元の経済成長・生産性・適正生活需要(KHL)にもとづいてその実現をどのようにはかっていくかについてのロードマップを作成しなければならない。最低賃金はまた、被雇用者と会社の双方に有益なものでなければならない。労働者の福祉向上もさることながら、会社にとっても雇用計画や事業コスト計算に適切に使えるものにならなければならない。11月1日が翌年最低賃金決定の期限日と定められているのだから、それが順守されるのは重要なことであり、更には各地方自治体で行なわれているKHL決定も一律のやり方が採られなければならない。それについては労働大臣から各州・県・市首長及び労働局へのアプローチが既になされている。」
労使関係がトムとジェリー関係から脱皮しなければ、労働報酬をめぐる争奪戦は相変わらず繰り返されるにちがいない。労働界が実業界への威嚇と社会への騒擾をその闘争のための常用兵器として使ってきたインドネシアに、今年もまたそのシーズンが近付きつつあると言えるだろう。


「首都2014年度最低賃金の行方」(2013年11月01日)
2013年10月28日の賃金評議会会議で、2013年度ジャカルタ首都特別区適正生活需要が確定された。地方別最低賃金決定のための基礎指標のひとつであるこの適正生活需要の金額が最低賃金のレベルを決めることから、この適正生活需要金額の確定は労使双方にとって重要な山場になっている。ジャカルタ首都特別区賃金評議会が採択した2013年度適正生活需要は2,299,860ルピアだった。昨年の適正生活需要は1,978,789ルピアであり、2013年度最低賃金はそれを踏まえて2,200,000ルピアと定められたが、2014年度最低賃金はそれが同じ比率でスライドするということでは決してない。
ジョコ・ウィドド都知事は、2013年度適正生活需要の採択報告は聞いたものの、書面による明細はまだ受け取っていないと述べている。それはどうやら評議会の採択した結論に労働界が不服であり、決議書に労働界代表者の署名が得られない状況に陥っているためのようだ。
ともあれ、賃金評議会での最低賃金合意が出来上がればその妥当性を見て法的決定を下すだけだし、合意に至らなければ労使それぞれの要求に経済状況や外的要因を加味して結論を下すだけだという姿勢を都知事は表明している。「労働界がどんな要求を出そうが自由だが、その要求が納得できるものであるかどうか?マクロ状況や地元経済状況がどうなっているかということをわれわれは見なければならない。」
労使行政の三者間で合意をはかる賃金評議会が採択したという上の適正生活需要金額を労働界はまだ受け入れていない。労働界は独自の適正生活需要サーベイを行なって、他の二者が合意できない内容を主張した。サーベイ対象品目は2012年労働大臣規則第13号で60種と定められているが、労働界はいまだ要求段階にとどまっている84品目のサーベイを行ない、その合計金額である2,767,000を2013年度適正生活需要とするよう会議で要求し、実業界と行政が合意した229万ルピアを拒否した。加えて、その労働界側サーベイの中で家賃が月額80〜90万ルピアとされていたのだが、実業界と行政側は現実に月額45万ルピア程度のコスはざらにある、として会議でそれを否認している。
州行政側は、中央政府が呼びかけた11月1日の全国一斉最低賃金決定に従うべく、10月30日に賃金評議会で最低賃金の金額を決定するスケジュールを進めようとしたものの、30人の評議会メンバーのうちで行政側14人、実業界7人、専門家と学術界代表各1人、そして労働界代表は1人だけが出席し、決議採択の要件になっている労使行政三者代表が最低4人出席することが満たされなかったためにその日の会議はお流れとなった。
首都労働界は、全国3百万労働者を擁するKSPI(インドネシア労組会議)が計画した20州での2013年10月31日〜11月1日ゼネストのウオームアップとして10月28日からデモ活動を活発化させており、賃金評議会での進展をボイコットしつつ力の対決で有利な条件を獲得しようとしているかのようだ。
一方タングラン県では、月額370万ルピアを2014年度最低賃金にせよという労働界の要求に対してアピンド県支部はそれがあまりにも高すぎて合理性も現実性もないと評し、実業界は2013年度最低賃金を10%程度アップさせた250万ルピアが限界だ、とのコメントを出している。


「ますます敷居の高くなるジャカルタ」(2013年11月11日)
2013年10月28日から首都の労働者が2014年度最低賃金決定に圧力をかけようとして都内目抜き通りや都庁あるいは工業団地でデモを行なった。首都賃金評議会で労働界代表は月額370万ルピアの最低賃金を要求していたものの、都知事は賃金評議会行政代表が推薦した244万1千ルピアを2014年度首都最低賃金として確定させた。
それに反発した首都の労働界は11月4日の週にもデモ活動を継続させ、労働界が合意を与えていない一方的な最低賃金を拒否する姿勢をアピールした。北ジャカルタ市チャクンのヌサンタラ保税工業団地で11月6日に行われた労働者デモでは、実業界が懸念していた工場の操業妨害が繰り返された。
ヌサンタラ保税工業団地入居工場の人事責任者の集まりである人事マネージメント連絡フォーラムは労働者組織に対して声明を出した。「労働界がデモを行うことに苦情は言わない。それはやっていただいてかまわないことだ。しかし工場従業員のデモは経営者からの了承を取っていただきたい。また他の工場に入ってきてそこの従業員を強制的にデモに参加させるよう連れ出すのはやめていただきたい。」
ヌサンタラ保税工業団地運営会社が入居工場に対し、国軍・国家警察の支援を得て労働者デモからの操業安全を確保するので、安心して生産活動を続けていただいてOKだ、との表明が数日前に出されたところだったというのに。
2014年最低賃金が確定した現在、工場の中にはそれに対してどう対処しようか検討をはじめたところが少なくない。2013年度最低賃金の220万ルピアが支払えないために適正生活需要の197万8千ルピアを四苦八苦してクリヤーしている工場も散見されているのである。2014年度の適正生活需要はほぼ230万ルピアであり、一挙にそのレベルまでスライドさせることができるくらいなら、2013年度最低賃金の支払い能力があったのではないかと勘ぐられるのはほぼ間違いないだろう。工場側の検討は既に、首都ジャカルタから最低賃金のもっと低い地域への移転あるいはジャカルタにある工場の閉鎖に関する具体案の検討に傾いているようだ。


「税政パッケージ第二弾」(2013年12月16日)
政府は貿易赤字解消を目的にして、2013年8月24日に出した政策パッケージに続く第二弾を計画している。政策の主目的は輸出の振興と輸入の抑制にあり、計画されているのは次のような内容だ。
輸入の抑制については、輸入税のひとつである所得税前納制度つまりPPh22の税率を引き上げるというもので、従来の税率2.5%は特定物品に関して7.5%にアップする。その対象として政府は国内産業が必要としている物資や市場での値上がりがインフレを煽る物品を除外し、それらの条件に強い影響を持たないが目的に対しては効果があると見られる物品を選択した。選択されたのは輸入総額が顕著に大きい消費物品で、且つ市場での値上がりがインフレ率に大きく影響しない870ほどの品目。この中には、輸入総額がトップクラスになっている携帯電話機やノート型パソコン、更に家電品、乗用車完成品、鞄・衣服・履物・香水・宝飾品、家具・家庭用品、玩具などが含まれている。
一方、輸出については「輸出を目的にした輸入(KITE)」恩典制度が対象に採り上げられた。この制度は輸入時に納税を留保されて製品を輸出したときにその留保が免除に転換されるというシステムだが、現在は還付システムが使われている。これまでKITE制度の免除対象は輸入関税だけになっており、PPNやPPnBMおよびPPh22などその他輸入税は対象外にされていた。今回の政策パッケージでは、その他輸入税の中のPPNとPPnBMにも適用対象が広げられる。更に、この制度の行政側の管理もグレードアップされることになっており、認可の自動化や認可条件の簡素化も併せて行なわれるとのこと。


「税政パッケージは逆効果にならないか?」(2013年12月17日)
政府の貿易収支改善政策パッケージは、かえって輸入者の虚偽申告を盛んにさせて輸入を増加させる懸念があるため、税関現場担当官が鋭く目を光らせて巧みにそれを捌くことができなければ逆効果になりかねない、との懸念を経済専門家が表明した。シンクタンクの「サステイナブルデベロップメントインドネシア」経済専門家であるドラジャッ・ハリ・ウィボウォ氏は政府が出したKITEに関する新政策について、ふたつのファシリティがカバーされていることを指摘する。
「ひとつは税制上のインセンティブ追加だ。これまでの輸出物品製造のための原材料と補助材に対する輸入関税免除は還付メカニズムが取られてきた。今回の蔵相規則でそれが輸入時に納税しなくてよくなるように変る。おまけにPPN(付加価値税)とPPnBM(奢侈品税)もその対象に含められる。もうひとつのスキームはファシリティの管理と認可に関するサービスが向上される。わたしはこの方針を支持するのにやぶさかでないが、この恩典に関連して輸入者が行なう違法行為を税関は洞察して防ぐことができなければならない。少なく見積もっても、犯行の手口はふたつ考えられる。そのひとつは、適用対象でない物品であるにも関わらず輸入書類を偽造して適用対象として申告し、輸入税を納めないで国内に貨物を入れるもの。もうひとつは輸出書類の偽造で、輸出物品製造のためと称して国内に入れた物品を国内で販売しておき、その輸入時の納税留保を免税として確定させるというものだ。」
アグン・クスワンドノ税関総局長は先に、このKITEに関する管理システム変更に対応して違反行為を食い止めるためにリスクマネージメントを更に強化する意向であることを表明した。KITE制度の認可を受けている346社の基本データは税関内部に貯えられており、それを柱にして管理体制の強化をはかることを税関総局長は明らかにしている。
一方、マランのブラウィジャヤ大学経済学部のアフマッ・エラニ・ユスティカ教授は、政府の税制パッケージ第二弾は貿易赤字を減らすことはできるだろうが、あまり進歩的であるとは言えない、とコメントした。「石油の輸入を抑制するためのもっと目覚しい政策が含まれていないではないか。それができなければ、国内消費を抑える政策を採るしかない。石油燃料市場価格を引き上げるのが政府には困難だと言うのだから、どっちを採るかは政府次第だ。」
非石油ガス産品をターゲットにして細かい管理を行なうよりも、石油の輸入を減らすことのほうが貿易収支改善にはもっと効果があるのではないかと教授は指摘しているようだ。