「インドネシアの運転免許制度」


インドネシアで運転免許証はSIM(Surat Izin Mengemudi =シム)と呼ばれる。
SIMには、公道で運転が許される車種別にいくつかの区分があるが、個人/法人が個人用途で車両を運転する場合のSIMはSIM perseorangan あるいはSIM polos と呼ばれている。一方、個人/法人が運送事業用途に使用する車両のためのSIMは、公共の用途に供するという意味合いからSIM umumと呼ばれている。

外国人に営業用自動車の運転手としての就労許可は絶対におりないから、外国人が持てるのはSIM polos だけだ。SIM polosには車種別に5つの種類が設けられている。

- SIM A polos 総重量3,500kgを超えない個人用途の乗客および貨物用車両
- SIM B1 polos 総重量3,500kgを超える個人用途の乗客および貨物用車両
- SIM B2 polos 建機・牽引車両・1,000Kgを超えるトレーラー・セミトレーラーを接続する個人用途の車両
- SIM C オートバイ
- SIM D 身体障害者用車両

それら5種のSIM取得条件は次の通り。
SIM A/C/D polos 年齢17歳から
SIM B1 polos 年齢20歳から
SIM B2 polos 年齢21歳から
KTPを持っていること
交付申請をしなければならないこと
指紋採取がなされること
医師の健診書で身体的に健康であることを証明すること
心理テスト合格書で精神的に健全であることを証明すること
筆記試験と実技試験に合格すること(実技試験は実際に運転する場合とシミュレータを使う場合がある)
SIM B1 polos 申請者は申請時に一年以上前から有効なSIM A polosを持っていること
SIM B2 polos 申請者は申請時に一年以上前から有効なSIM B1 polos をもっていること

一方、SIM umumは三種類しかない。
- SIM A umum 総重量3,500kgを超えない公共用途の乗客および貨物用車両
- SIM B umum 総重量3,500kgを超える公共用途の乗客および貨物用車両
- SIM B2 umum 牽引車両・1,000Kgを超えるトレーラー・セミトレーラーを接続する公共用途の車両

SIM取得条件は次のようになっている。
SIM A umum 年齢20歳から
SIM B1 umum 年齢22歳から
SIM B2 umum 年齢23誌から
sim A umum 申請者は申請時に一年以上前から有効なSIM Cを持っていること
SIM B1 umum 申請者は申請時に一年以上前から有効なSIM B1 polos もしくはSIM A umum を持っていること
SIM B2 umum 申請者は申請時に一年以上前から有効なSIM B1 umumを持っていること
そして筆記試験と実技試験に合格することである。
免許証の種別は、その免許証が対象にしている車種以外のものをも含んでいる。
SIM A umum はSIM A polos 対象車両を含む。
SIM B1 polos はSIM A polos 対象車両を含む。
SIM B1 umum はSIM A polos, SIM B1 polos, SIM A umum 対象車両を含む。
SIM B2 polos はSIM A polos, SIM B1 polos, SIM B2 polos, SIM A umum, SIM B1 umum 対象車両を含む。

公道での車両運転の際にはその車種を対象にするSIMの携帯が義務付けられており、その違反に対しては一ヶ月以下の拘留および/あるいは25万ルピアの罰金という刑事罰が科される。
一方、SIMを取得していない者が公道で車両を運転した場合の刑事罰は、拘留が4ヶ月以下で罰金は100万ルピアとなっている。

しかし首都ジャカルタで都バスやアンコッを運転しているひとびとの大半はSIM umumを取得していない。運転手の中に15〜16歳くらいの未成年も大勢混じっているから、申請しても下りるわけがないということもある。2万8千人いる公共運送機関の運転手のうちでふたりにひとりは無免許だという話もある。

乗合いバスが引き起こす交通事故の多発に、首都警察交通局は運転手の資格認定を更に厳しいものにすることを計画した。運転免許証の新規取得とその更新を申請する場合、まず民間能力認定機関から合格証を得たうえで申請せよというのがその内容。その構想によれば、公共運送機関の運転手は首都警察が認定した機関でまず講習を受け、テストを受けて合格を証明するサティフィケートをもらい、運転免許証手続き場で申請を行う場合にその合格証を必ず提出しなければならない。合格証の添付されていない申請は却下されることになる。ただし、その合格証が免許証の交付を保証するものとはならず、たとえ認定機関で合格していても免許証手続き場でのテストで不合格になることはありうる。

警察の意図している民間能力認定機関というのは自動車運転教習所のことで、当然のことながらSIM umum 申請者への新たなビジネスが生まれるために警察から認定を受けようとすれば警察との協調協力が不可欠なものとなる。警察が認定を与えるためには、警察の定めたオペレーションスタンダードを認定機関が正しく運営することが必要であり、首都警察交通局は管区内の自動車運転教習所に対する下調べのための接触を既に開始している。

SIM polosに対してこの新方式は適用されないが、5年毎の更新の際に期限内での手続きを怠った場合は更新が受け付けられなくなり、はじめて申請するひとと同じように筆記試験と実技試験を受けて合格しなければ運転免許証は交付されない。
この5年というのはインドネシア国籍者のことであり、外国人居住者は原則的に1年間有効な免許証しかもらえないから、外国人は毎年期限内に更新しなければ更新が認めてもらえず、期限を過ぎればまた筆記試験と実技試験を受けて合格しなければ運転免許証がもらえない。ただし外国人が自国の運転免許証あるいは国際免許証を持っていれば、実技試験は免除されることになっている。

ともあれ、公共運送機関の秩序統制にとって最大の問題である現場での監督と取締りが旧態然であれば実質的な変化は何も起こらないかもしれない。ここにも、正直に決まりに従う者が馬鹿を見るというインドネシア特有の文化が色濃く漂っているのだから。
(2013年10月)