インドネシア保健衛生情報2013〜16年


「野放しの代替治療」(2013年3月5日)
2012年10月23日付けコンパス紙への投書"Insinyur Praktik Obati Pasien dengan Resep Dokter"から
拝啓、編集部殿。ついしばらく前に精神科医のわたしを訪れた患者の中で、躁うつ病患者と精神分裂病患者それぞれひとりがIDという名前の催眠療法士にかかっていました。患者の話によると、その女性催眠療法士は自分のウエッブサイトを持っており、また南ジャカルタ市トゥブッ(Tebet)で診療所を開いているそうです。
患者が持ってきたパンフレットを見ると、その婦人の肩書きは医師でなく催眠術療法の工学士となっています。患者が自分の病気を治すための補助として催眠療法士を訪れるのは、わたしにとって何の問題もありません。しかし医師でない催眠療法士が患者に薬を買わせるのは妥当な範囲を逸脱しているとわたしは考えます。処方箋の形式になっていないただの紙に薬の名前を書いて、それを診療所の近くにあるE薬局で患者に買わせているのです。患者はその処方箋もどきの紙をわたしに見せてくれましたが、そこに書かれている医薬品の中にはベンゾジアゼピン、抗そう薬、抗うつ薬、抗精神病薬などが書かれており、そのすべてが向精神薬なのです。
残念なことに患者はそれらの薬を買いたがり、服用したあと症状はかえってひどくなりました。監督機関がこの問題に関心を払うようわたしは希望します。医師のバックグランドを持たない者が患者に治療薬のアドバイスをするなんて、たいへん危険なことだとわたしは考えます。おまけに法規を逸脱してビジネスを行なう悪徳薬局があるなんて。[ タングラン市在住、アンドリ ]


「喫煙する中高生」(2013年3月27・28日)
青少年が喫煙する姿はますます身近なものになってきている。学校生徒たちにその有害な習慣を止めさせることのできる場所はもうほとんどないと言ってよいくらいだ。学校のまわりですら、完璧な禁煙エリアなどもう珍しいものになっており、昔の不良生徒たちが学校の裏手でひそかにタバコを吸っていたころとは様変わりしている。
喫煙している14歳から18歳までの年代の青少年を見出すのはきわめて容易になっていることから、若者の間に喫煙習慣が大幅に拡大したことは想像に余りある。2010年基礎保健調査データでは、15〜19歳の年齢ブラケットでの喫煙者人口は全国で28.2%となっており、ジャカルタだけは毎日喫煙する生徒が44.6%に達している。
ジャカルタのトリサクティ大学経済学部とスラバヤのアイルランガ大学経済建設開発研究室が共同で開始したインドネシアのネガティブエネルギーにもっと関心を深めることを勧めるモデルニサトル運動がジャカルタとスラバヤで行なった調査も、類似の結果を示している。2012年10〜11月にその両大都市で中学生高校生に対して行なわれたサーベイ結果から次のような実態が明らかにされている。
スラバヤでは毎日喫煙している男女喫煙生徒1,009人中で喫煙初心者は13%だった。かれらの71%は始めて喫煙してからまだ一年未満で、一日の喫煙本数は1〜6本。少ないとはいえ、それだけのタバコをかれらはどのように入手しているのだろうか?87%が毎日の小遣いで買っていると答えた。かれらの一日当たり小遣い金額はひとり1万ルピアだが、中には5万や10万ルピアという金額の子もいる。1,009人の男女比は男44%女56%。ジャカルタは総数が1,435人で、男女比は男が58%女は42%だった。
インドネシアではタバコの一本売りが普通に行なわれているから、小遣いで一パックを買うことができない生徒でも一本1〜2千ルピアのバラ売りで喫煙することができる。ジャカルタでの調査では、自分の小遣いでバラ売りタバコを買っている喫煙生徒が36%いた。しかしタバコは嗜好品であることから本人の好みに合うかどうかという問題が生じる。大衆タバコはバラ売りするほうが販売者は利益を大きくすることができるが、非大衆銘柄はバラ売り方式が使われないものもある。バラ売りされていないタバコを自分の友に選んだ生徒は無理をしてでもパック売りを買わざるをえない。しかしどうしても資金が足りないとなれば、気に入らない銘柄であってもバラ売りタバコを買って吸っている。
かれらがタバコを買う場所は学校の周辺にいくらでもある。屋台ワルンや店舗ワルンが近所にひとつもないような学校は市街地の中ではありえない。そしてテレビやさまざまな媒体で流されるタバコの宣伝広告がかれら喫煙青少年の気持ちをいっそう掻き立てる。
この調査結果の中に、実にイロニーに満ちた現象が報告されている。かれら喫煙青少年たちはタバコの害に関する知識を十分に持っているという報告がそれだ。口臭がひどくなる、歯にヤニのしみが付く、といった軽い害から、心臓病や肺ガンを招く、あるいは女生徒たちも胎児への悪影響についての知識を持っているのだ。スラバヤでは喫煙青少年の9割がタバコの害に関する正しい知識を持っていた。ジャカルタでもタバコの害に関する知識を持っている喫煙青少年の数は似たようなものだった。
かれらの身体は既にニコチン中毒に冒され始めており、ひとりでいるときにタバコの害を思い出せば、やめなきゃいけないという気持ちが湧いてくるのだが、しかし日常生活の中でストレスを受けたり、あるいは仲間たちと集まって遊ぶような場面がくると、ふたたびタバコの中に溺れこんでいく。
かれらの意識には、喫煙は男っぽい、マチョ、トレンディなどといったイメージが埋め込まれている。それは男女とも変わらない。そんなイメージを身にまとって振舞うとき、健康という大切なものが犠牲にされることになる。健康を、そして自分の生命をカッコよさのために犠牲にして省みない命知らずの若者たちであれば、話は簡単だ。そうでないマジョリティの喫煙青少年たちの心は、喫煙の快楽と失われていく健康のはざまで揺れ動いている。
モデルニサトル運動サーベイの結果は次のように報告されている。
喫煙動機  ジャカルタ スラバヤ
交友関係や生活環境 75% 95%
家族からの影響 75.5% 63%
フィルタータバコを選ぶ 81% 84%
一日当たり喫煙本数 ジャカルタ4本未満47.5% 4〜8本22.7%
          スラバヤ1〜6本82%
ワルンでタバコを買っている 85.7% 76%


「保健省が国民の健康生活を振興」(2013年5月20日)
2010年世界疾病負担研究は卒中・結核・交通事故がインドネシア人の最大死亡原因であると報告している。非伝染性疾患が急増している一方、伝染病による死亡率も依然として高い。他の高死亡率疾病は下痢・心臓・糖尿病だ。
疾病パターンを見るかぎり、インドネシアは国民所得の増加と歩をあわせて先進国型に移行しつつある、と語るのは米シアトルのワシントン大学研究者クリストファー・マレイ氏。疾病負担の中に非伝染性疾患がマジョリティを占めるのは先進国の特徴であり、心臓病・卒中・糖尿病・ガンなどが含まれている。反対に伝染性疾患がマジョリティを占めるのは貧困国の特徴だ。下部呼吸器系感染症・下痢・HIV/AIDS・マラリア・結核などがそれに該当する。過去二十年間に卒中による死亡あるいは後遺障害による負担は76%上昇し、公道での交通事故の負担は36%アップしている。その間にインドネシアは結核による死亡を37%低下させるのに成功したが、結核は依然として死亡原因の第二位を占めており、それはつまりまだ多くの結核罹患者が数えられておらず適切な治療を受けていないことを意味しているにちがいないとマレイ氏は述べている。
それらの疾病を発生させている要因の中には、食事パターンがよくないこと、高血圧、喫煙、屋内の空気汚染、高血糖度、運動不足などが挙げられ、国民の食事パターンの欠点は野菜果実の摂取不足・繊維質の不足・塩分と糖分の過剰摂取などがあげられている。
世界的に11歳以上の男性の死亡は女性より多いことが判明している。1〜4歳の男児の死亡は71%低下したが、35〜39歳の男性の死亡は5%増加した。この傾向は関心を払うに値する。インドネシアでは、労働力のメインは男性が占めており、そして男性が家庭の経済を支えているからだ。保健省専門スタッフは、「国民の疾病状況の変化は国民のビヘイビアがもたらしたものだ。保健省は国民の生活パターンをより健康で疾病予防的なものに導くことに専心しなければならない。疾病に冒されれば生産性に障害を受ける。国家経済を成長させるためには、国民のビヘイビアを改善することが急務である。」と述べている。


「塩・砂糖・脂肪を減らせ」(2013年5月21〜23日)
国民の間で起こっている顕著な非伝染性疾患の増加傾向に、政府保健省は世直しをはかるべく塩・砂糖・脂肪の摂取制限政策を準備している。この政策は2012年初に国民に対するキャンペーンを開始することになっていたが遅れており、政策の法的基盤となる大臣規則がいま練り上げられつつある。その一環で保健省は全国自治体政府保健局への啓蒙をはかるために小冊子を作成して配布した。ところがその小冊子も部数が不十分で必要なところに行き渡っておらず、増刷の声が省内関係者から上がっているものの、動きはまだない。
小冊子の内容によれば、塩・砂糖・脂肪の過剰摂取は高血圧・糖尿病・冠動脈不全・ガン・卒中などの諸疾患の発生を促すものであり、健康維持のために理想的摂取量を守る必要がある。ひとり一日当たりの理想的摂取量は、塩が5グラム(小さじ1杯)、砂糖50グラム(大さじ4杯)、脂肪78グラム(大さじ1.5〜3杯)である、となっている。
飲食品は食品ラベルと食料品広告に関する1999年法律第69号にしたがって多くの製品が成分を表示するようになってきているが、すべての製品に対する義務付けになったわけではない。あらゆる生産者あるいは輸入者が義務付けられている表示は、製品名・原材料名・内容量・生産者/輸入者の名前と住所・使用期限の5項目だけであり、ラベル表示が義務付けられているのはベビー用粉乳のような国民生活に重大なリスクをもたらすと見られているものだけ。
食品薬品監督庁長官は保健省のこの政策への支持を表明した。「ただし容器入り飲用水にそれらをわざわざゼロと書かせるような義務付けをする必要はない。いま考えられているのは加工食品とファーストフードで、加工食品については当方の準備がもうできている。加工食品のラベル義務付けは製品の使用リスクにもとづいた義務付けになるよう、当方は保健省に提案している。大臣規則が制定されたなら、それが効果を持つように法執行が必ず行なわれなければならない。ファーストフードは当方の監督外だ。」
しかし、食事の内容を国民に勧告するだけならまだしも、それを統制(つまり法執行)しようというのだから、いったいどのようにして、という疑問をだれしも抱くにちがいない。国民の栄養ということがらに関わっている有識者の意見はさまざまだ。
保健省が目的としていることは疑いもなく善事である。しかしことはひとりひとりの食事のための調理に関わっている。産業界への政策はまだ何かを行なう余地が残されていると思われるものの、それですらどうするのかというイメージが簡単には出てこない。ましてや各家庭で行なわれている調理においておやだろう。国民が各家庭で行っていることに政府が決まりを適用するのであれば、それはだれでもができる内容にならなければならないだろう。それですら、違反行為があったときにどうするのかという疑問が生まれる。
ボゴール農大食糧栄養保全学教授は、困難であっても食品薬品監督庁ならびに工業省が完璧に法執行を行なえるようなメカニズムを作らなければならない、と語る。「加工食品産業とファーストフードレストランが正確な塩・砂糖・脂肪含有量をすべての製品およびメニューに確実に表示させるようにしなければならない。そして、タバコのケースに倣って、それら成分の過剰摂取が人体にどんな悪影響を及ぼすかについての警告も表示されなければならない。」
マカッサルのハサヌディン大学国民保健学部栄養学教授の意見は次のようなものだった。「全国の各種族が持っている特有料理には塩・砂糖・脂肪が味覚を向上させるものとして使われている。それは料理の素材の多くが無味だからだ。また塩・砂糖・脂肪は食品保存のためにも使われている。時代が進んでくるにつれて、各種族が昔から持っていた伝統的料理は次第に食卓から追いやられるようになった。昔からの健康な食事はモダンでなく、古臭いという観念がそれを促した。経済開発の成果による生活福祉の向上は国民の全経済階層に脂肪の摂取量を増やすことをもたらした。
もし国民のこのような観念を変えようというのであれば、バランスの取れた栄養に関する教育をだれもが容易に理解できる内容で幼い時期から与えなければならない。」
更には、ファーストフードだけでなく、すべてのレストランでも同じことをさせなければ国民運動にはならないという指摘まで飛び出している。しかしカキリマ屋台や巡回食品調理販売者がそのようなことを行なうだろうかという懸念はもちろんある。そして行政が本当に法執行を行なえるのだろうかという通例の疑問にぶち当たるのだ。
ハサヌディン大学教授は、行政が法執行しやすい産業界だけを対象にしてもあまり意味はない、と警告した。インドネシア社会では、依然として飲食品は自宅で調えられるのが一般的であり、加工食品や外食だけを行政が押さえても国民全般への効果は薄い、と教授は述べている。


「予防接種は子供のもの?」(2013年5月24日)
インドネシアでは大人に対する予防接種がほとんど行なわれていない。予防接種を行なっている一般医は1割程度だと内科専門医師会予防接種タスクフォースリーダーが表明した。一般医は全国に8万人いる。
大人が受けている予防接種の中で高率で行なわれているのは、インフルエンザが百万人、あとはヒトパピローマウイルスが3万人、ほかにはB型肝炎などがある。大人に予防接種の習慣がないのは、知識不足が大きい原因だ。世の中では一般に、予防接種とは子供が受けなければならないものという理解になっている。
大人の中に予防接種を必要としているひとたちがいる。若い女性は破傷風、麻疹ムンプス風疹、甲状線腫、風疹、子宮頸癌予防のためのヒトパピローマウイルスなどだ。老齢者はインフルエンザ、髄膜炎、肺炎球菌、医療従事者はB型肝炎、インフルエンザ、水疱瘡、旅行者はA型肝炎やティフス、メッカ巡礼者は髄膜炎、肺炎球菌、インフルエンザの予防接種が必要とされている。
インドネシア大学医学部医師は、現在大人のための予防接種ガイドブックは19歳以上のひとを対象にしており、推奨されている予防接種のためのワクチンは、帯状疱疹用を除いてすべて国内に用意されている、と語っている。


「ネズミも見に来る傑作映画」(2013年6月14日)
2013年2月26日付けコンパス紙への投書"Tikus di Bioskop 21 Blok M Plaza"から
拝啓、編集部殿。2013年1月22日(火)17時5分、わたしはガールフレンドと一緒に南ジャカルタ市ブロッケムプラザの21映画館でハビビ−アイヌンの映画を見ました。わたしたちはスタジオ1のD列1と2の座席に座りました。
ストーリーの展開に熱中していたとき、座席1に座っていたガールフレンドが突然叫び声をあげたのです。背中近くを何か生き物が通ったのが原因でした。わたしたちがその正体を突き止めようと注目した結果、それは大きなネズミだったことがわかりました。そのネズミはスタジオの上のほうからスピーカーを伝ってわたしたちの近くまで降りてきたようです。ガールフレンドがそのネズミに『あいさつ』すると、ネズミはわたしたちが座っているD列の下を通って出口のほうへ走って行きました。
そのときスタジオ内は空いており、他の観客のほとんどは何が起こったのか気付かなかったようでした。しかし、おかげでわたしたちの映画鑑賞は邪魔されてさんざんでした。[ 東ジャカルタ市在住、ハリル・イブラヒム ]


「健康保障制度開始まであと半年」(2013年7月5日)
2014年1月1日からいよいよ国民健康保障制度が開始される。国が2億6千万国民の健康を保障することになるため、現場で直接国民に接する医療従事者を国家公務員として持つことを政府は急務と定めた。
そのための活動センターは保健省で、保健省は官僚効用改善行政改革省と密接な連携をとりながら、医療従事者の量的質的確保を早急に行なうことにしており、具体的には、専門医・一般医・歯科医・看護婦・薬剤師・助産婦・保健分析員という広大な範囲におよんでいる。一般医はひとりが国民2千5百人を受け持つこと、つまり人口10万人に医師40人が理想の数値とされているが、2012年末時点での実態は36人しかいない。国内9千6百ヶ所の保健所のうちで14.7%は医師のいない保健所になってしまっている。そのような状況の改善をはかるために、医師資格を得た者が臨時公務員として地方に配属される義務期間をこれまでの6ヶ月から2年に引き延ばすことが決まっている。
保健省は2008年以来、医学生への奨学金制度を強化しており、2014年までに6千人の専門医と歯科医が育成されることが期待されている。加えて全国33州に保健省が設けた38の医学専門学校から毎年D3とD4の資格を持つ2万人の医療従事者を育てることも進行中だ。


「公徳心欠如の素朴な理由」(2013年7月9日)
2013年2月24日付けコンパス紙への投書"Larangan Buang Sampah di Sungai"から
拝啓、編集部殿。川にゴミを捨てることの禁止条項はもう何年も前から行なわれていますが、その効果はゼロであり、つまりはジャカルタ都民がその規則に従っていないことを意味しています。川はゴミで埋め尽くされて水流が阻害され、氾濫して都民の家に流れ込みます。都民は洪水の被害を実感しているというのに、性懲りもなくゴミを川に捨て続けています。それがもっとも簡単で手っ取り早いゴミの始末方法だと思って。
かれらの大半は教育レベルが低いので、先の先まで考えることができないのです。しかしかれらはたいてい、RT(隣組長)の決め事や呼びかけを尊重して従うのが普通であり、RTが呼びかけたことがらに関しては住民間で互いに注意し合います。
だから、川岸の家に住んでいる住民を管区内に持つRTに、ゴミを川に捨ててはならないという規則を作らせるべきだと思います。しかしRTにその規則を作らせる前に、その管区内にゴミ捨て場をたくさん用意させ、川に捨てなくとも家の近くにゴミを捨てる場所があるようにしておかなければなりません。川にゴミを捨てないように、というRTの呼びかけに背いたら恥ずかしいと思うでしょうから、住民はそれに従うでしょう。[ 北ジャカルタ市クラバガディン在住、プディヤント・スラディブロト ]


「まるで地獄めぐり」(2013年7月27日)
2013年3月27日付けコンパス紙への投書"Serangan Jantung di UGD dan Uang Muka Perawatan"から
拝啓、編集部殿。2013年2月9日(土)19時半ごろ、わたしは心臓発作に襲われました。妻と子供がすぐにわたしを最寄の病院、南タングラン市のプレミアビンタロ病院へ送ってくれました。救急治療室は満員で、わたしは順番待ちの四番目です。わたしを先にしてほしいと頼みましたが、係員はちょっとほほえんだだけで、何の対応もしてくれません。
わたしへの処置が始まる雰囲気はまったくなく、胸の痛みはずっと続いているので、わたしは他の病院を当たってみることにしました。およそ一時間後、わたしは南タングラン市スルポンのオムニ国際病院に到着しました。そこの救急治療室に患者はひとりもなく、おかげで当直の医師とスタッフはすぐに処置に取り掛かってくれました。輸血パイプや酸素吸入を取り付けられ、血圧が測定されていたとき、妻が近付いてきてわたしに告げました。「前金に2千万ルピア払わなきゃいけないそうですよ」。わたしは驚きましたが、気持ちを落ち着けて言いました。「そう。しょうがない。払っておけ。」
結局わたしはその病院で16時間治療を受けました、検査結果にもとづいて医師はわたしが強い心臓発作に襲われたと説明し、そのためにリング装着手術が行なわれると言いました。しかしわたしは出費のことを思って、その手術を拒否しました。なぜなら、わたしを救急治療室へ連れて行くときに妻がわたしに告げたのです。治療やその他もろもろの費用に一日1千万から1千5百万ルピアかかるのだ、と。
手術費用ははっきりわかりませんが、看護婦の話では7〜9千万ルピアだそうでした。それらの金額を耳にしたわたしは、突然元気になったのです。救急治療室でカテーテル拒否表明書にサインしてから、後で退院責任表明書にもサインしました。そして12時になる前に早々に病院から出るよう努めたのです。12時を過ぎたら、また1千万ルピア払うようになるんですよ、と看護婦のひとりが言ったので。
2月11日(月)、わたしはジャカルタのハラパンキタ病院を訪れました。診察結果は、血圧144/62、心拍数102/分でした。EKG結果と2004年の最初の発作が起こって以来の履歴にもとづいて、医師は入院も手術も必要ないと表明しました。わたしはひと月分の薬の処方箋をもらって帰宅しました。今はまったく生き返った心地です。[ 南タングラン市在住、スモハディ・マルシス ]


「子供の栄養は経済問題それとも文化問題?」(2013年7月30日)
インドネシア文化の中にある、子供と母親の栄養に関するよくない慣習がいまだに続けられているため、国民の栄養知識の啓蒙にもっと注力しなければならないことを女性活力化児童保護大臣専門スタッフが指摘した。
栄養不良は食べ物が足りないことだけが原因なのでなく、食事パターンを形成している文化的要因も見落とすことができない。2010年基礎保健調査からは、5歳未満幼児の17.9%が栄養不良であり、35.6%が標準身長より低いとの結果が報告されている。各地方の中には先祖代々継承されてきた栄養学上問題のある食事パターンが改善されることも警告されることもなく続けられている。東ヌサトゥンガラ地方では、赤ちゃんに食べされるときに母親あるいは祖母がまず口の中で咀嚼してから食べ物を与えている。中部カリマンタンでは、新生児にココナツミルクを飲ませているし、中部ジャワのパティでは住民が無ヨードの食塩を使うのが普通になっている。
専門スタッフのその指摘に加えてボゴール農大食品栄養技術学教授は、国民の間で栄養に関する誤った常識が信じられている、と語る。たとえば、妊婦は妊娠中食事量を二倍摂取しなければならないとか、妊娠中に海老を食べるとお産が難しくなるといったものがそれだ。本当は、海老は妊婦が必要とするたんぱく質やミネラルの補給に優れているというのに。
栄養問題がインドネシアの子供たちに引き起こしている短躯現象について栄養学専門家は、アッパーミドル層の子供たちの3割が標準より短躯であり、親の収入が足りないために子供の栄養が不足して短躯になるという見方は正しくないことを指摘する。アッパーミドル層の親の中に、子供に関する知識・ビヘイビア・食事パターンを誤っているひとが少なくないことをそれは示している。たとえば母乳だけの育児を6ヶ月間行なったから、子供は栄養的に問題ないというような考え方や、あるいは高価な食べ物を与えているから子供の栄養は満たされているという考えなど、さまざまだ。


「デング熱蔓延は住民の防疫意識に反比例」(2013年8月9日)
都庁保健局のデータによれば、ジャカルタの2013年デング熱発症件数は8月第一週までで東ジャカルタ市2,164件、南ジャカルタ市1,385件、西ジャカルタ市1,464件、北ジャカルタ市94件、中央ジャカルタ市608件、プラウスリブ県1件となっている。普通デング熱は、中くらいの量の雨が降った後に暑い日射が続くと罹患者が出る、と都庁保健局長は語る。蚊の産卵に適した水溜りがたくさんできるためだそうだ。数ヶ月前にクラパガディン地区で出水があった直後にデング熱が猛威をふるったことを北ジャカルタ市クラパガディン地区保健所長は指摘した。特に密集居住地区の多いプガンサアンドゥアが顕著だった。しかし毎週金曜日に行なわれている郡と町のボーフラ退治指導員と住民が一体となって行なう撲滅作戦が励行されてからは、発症件数は減少の一途をたどっている。この撲滅作戦に住民を勧誘するのは、住民の意識が定着してきているためたいへん効果的になされている。その予防措置に加えて、発症患者が出た地区では殺虫剤噴霧がなされて発症の繰り返しを断つことも実践されている。これは病院と行政機構の連携プレーがうまく行っていることの表れだ、と保健所長はコメントした。
デング熱対策は一軒の家だけでできるものでなく、地区住民が一体となって蚊の成虫と卵あるいはボーフラの撲滅を行なわなければ成功しない。それには、住民の防疫意識が最大の柱となる。殺虫剤噴霧を行なうのは行政機構だが、それだけではデング熱の発症を断つ事はできない。官民が一体となった卵やボーフラの撲滅が行なわれることで、はじめてデング熱発症の阻止が可能になるのだ、と都庁保健局長は強調した。都下でデング熱発症の一番少ないのはカンプンムラユ地区であり、出水頻度の高さからの予想に反してそんな結果が出されているのは、住民のボーフラ撲滅活動がきわめて熱心になされているおかげであることが判明している。反対にドゥレンサウィッやクラパガディンでは住民の防疫活動があまり熱心でないために最悪の結果が示された、と局長は住民に対する呼びかけを行なった。


「エイズはフリーセックスと共に」(2013年09月20日)
北スラウェシ州にHIVエイズ罹患者が増加しており、近年の増加数は半分が15歳から39歳までの年齢層であると推測されている。北スラウェシ州エイズ対策コミッションのプログラム運営者は、州内エイズ罹患者は2年前5百人だったのに、今では1,301人に増加した、と語る。1,301人中で951人は15歳から39歳の年齢ブラケットに入り、また1,301人の他にも5歳未満幼児100人が罹患者になっている。州エイズ対策コミッションは外国から資金援助を受けて活動を行なっているが、もっと広範な活動を統合的に行なうためには州政府が予算を組んでその対策を行なわねばならないことを運営者が強く訴えた。
民間団体「北スラウェシ州女性の声」所属の女性活動家はHIVエイズ罹患者の増加について、州民若年層のライフスタイルの変化がエイズの蔓延を加速している、と言う。「外国の書物・インターネット・映画などから最近の若者たちは性的にフリーな雰囲気を当然のことと考え、外国の若者の行動を真似ています。その結果、性的な許容度が高まって同性愛やフリーセックスといったビヘイビアが広まる一方、それとバランスされるべき生殖メカニズムや性行為に関する正しい知識がまったく欠けているのが実態です。学校や家庭で正しい性教育が与えられなければならないのに、学校や親たちは性教育を依然としてタブー視しており、子供たちが受ける権利を持っている性教育がないがしろにされていることが、状況を悪化させています。行政も教職者も聖職者もそのことを理解していません。」
科学的で歪のない知識を与え、真の姿や事実を教え、自分で考える力を育ててやることが子供たちの性的ビヘイビアの中に秩序をもたらすことになるという進言が全国各地で有識者の口から出されているにもかかわらず、行政も学校も親たちも、いつまでたっても馬耳東風という印象が強いようだ。


「医師養成に政府はもっと本腰を」(2013年9月30日)
クオリティが低く医療過誤を引き起こすような医師が増加している昨今の状況は医学生の教育と医師の監督を政府がもっと厳格化することで改善されなければならない、とインドネシア医師会が政府に要請している。2004年から最近までの間にジャカルタ医師会が届出を受けた医療過誤事件は212件にのぼり、そのうちの6割は一般医が起こしたものだ。
現在、医学教育を修了した医師の卵たちの中で2,568人もの人数が医師会の行なっている医師能力試験をパスできないでおり、中には既に何回も試験に落ちている者さえいる。この現象は大学医学教育に問題があることを示すものであり、これを放置していれば国民保健保証制度を充実させようとしている政府の国民に対する医療サービス向上は絵に描いた餅になる、と医師会会長が発言した。会長によれば、地方の大学医学部の中に学生のクオリティや適正人数・設備・教官などの要素を無視してできるかぎり大勢を入学させようとする傾向が見られ、100人の教官しかいないのに年間600人を入学させ、社会学科系学生の移籍すら認めているところがあるとのこと。政府はそのような実態を改めさせて、適正な教育環境とよりふさわしいクオリティの学生が選別されるよう、厳格な統制を行なわなければならない。
加えて、1970〜80年代に行われていたが現在廃止されてしまっている国家試験制度を復活させ、試験に合格できない学生に学部を移るように勧めるシステムも実施される必要がある。それに関しては政府国民教育省と保健省の協力体制が不可欠であり、さらに大学病院での実地研修は有料で高額ではあるが医師を世の中に送り出すためには欠かすことのできないものであるため、その面ももっと充実させなければならない、とシャリフ・ヒダヤトゥラ国立イスラム大学医学部長は指摘している。


「根拠のない恐怖に立ち竦む民族?」(2013年11月22日)
インドネシアがいつまでたってもタバコ規制枠組み条約を批准しないのは、関連諸産業界がその批准を国内タバコ産業の死滅ととらえているからであり、ところが現実にそれを批准した世界各国のどこもタバコ産業が死滅したところなど存在せず、中にはタバコの売上が伸びている国もある。そういう事実に目を向けようとせず、だれかが意図してささやいた脅し文句を真に受けて条約批准に徹底反対の姿勢を採り、政府までもがその勢いに押されてその批准は税収問題・失業問題などの国内問題を深めるだけのものだという考えに立って条約批准を先送りしようとしているのは国際的に嘆かわしい姿である、と学術界が政府と産業界を批判した。
「中国は2003年にタバコ規制枠組み条約を批准したが、2010年には世界タバコ生産の41%を占め、また世界タバコ消費の39%を占めている。インドネシアはいまだにその条約を批准していないが、世界タバコ生産におけるシェアは3%、消費は4%だ。
タイでは、条約を批准してから喫煙者の比率が低下したが、それでも人口増のために喫煙者人口は増加している。たとえインドネシアが条約を批准したからと言って、インドネシアのニコチン中毒喫煙者がタバコを吸うのを即座にやめるはずがない。WHOのタバコ規制枠組み条約はタバコが国民にもたらしている保健面のリスクを政府がコントロールする意志をコミットするものでしかなく、タバコ産業を禁止するようなものでは決してない。」
今やアジアパシフィック地域でタバコ規制枠組み条約を批准しない唯一の国、域内の孤児になってしまったインドネシアの姿勢に関連して、だれかに脅かされたらすぐにビビッてしまうインドネシア民族の姿に大いなる失望を抱いたインドネシア大学経済学部デモグラフィ研究院所属の研究者はそう表明した。
政府はタバコ・アルコール飲料・エチルアルコールに対してチュカイと呼ばれる税金をかけており、このチュカイは国民に悪影響を及ぼす物品を対象に、その悪影響をコントロールするべくチュカイを課税するのであるというお題目を唱えているものの、タバコに関してはいまだに超具体的な法規制が制定されておらず、それを行なうように唱導する規制枠組み条約をかえって目の仇にしている。言行の一致しないアンビバレンツなその姿勢は、定期的に税額を高めているタバコチュカイ課税の本意がどこにあるのかという疑念を抱かせるにふさわしいものではないだろうか。別の学術関係者は政府の姿勢にそう疑惑をなげかけている。


「首都のゴミ対策」(2013年11月28日)
都庁は勝手にゴミを捨てる都民に罰金を科すことにした。自分の生活環境内は小奇麗に整えているのに、その外に自分のゴミを撒き散らす習慣がインドネシア人にはある。たとえば自分の家の庭はきれいに掃き清めるものの、塵取りに山盛りになったそのゴミを近くの小川に捨てるというような行為がその典型だ。高級車に乗った金持ち姿のひとびとが車窓からゴミを路上に投げ捨てることも似たようなものだ。路上は自分の生活環境の外なのだから。
ゴミ処理に関する2013年都条例第3号には、定められた場所以外のところでゴミを捨てた者に対する罰則が示されている。第130条(1b)項には、故意にゴミを捨てあるいは溜め、且つ/あるいは、生き物の屍骸を川・水路・運河・堰・池・廃水用水路・道路・庭園や公共スペースに捨てた個人や家庭は最高50万ルピアの罰金を科すとあり、さらに第127条(2)項には、法人や地区管理者で故意にゴミ処理設備を設けず、また/あるいは処理活動を行なわなかった者は最低1千万ルピア最高5千万ルピアの罰金を科すと定められている。
都庁はこの法執行を励行していくことを宣言した。首都ジャカルタは、そのすべての川・水路・運河・堰・池など水のある場所に毎日平均416トンのゴミが捨てられており、そのうちの180〜220トンが回収されてトラックで最終投棄場に運ばれている。つまり回収しきれないゴミは水上水中を流れ、あるいは水底に沈んでいるということだ。いまだに都民の多くは、水流のあるところはゴミを捨てる場所だという誤った常識を持ち続けており、都内を貫通して流れるチリウン川は世界最長のゴミ箱にされている。首都のゴミ処理問題は、都民に川等へのゴミ投棄をやめさせるのをどのようにして行なうかというのがひとつの山場になる。
ジャカルタの郷土歴史家JJリザル氏は首都のゴミ対策について、1960年代に都知事を務めたスマルノ・ソスロアッモジョ氏の時代はゴミ処理がうまく行なわれていた、と語る。元々医者だったスマルノ氏は衛生観念に人並以上の気を遣ったのだろう。かれは時間を決めてひとびとにゴミを拾わせたそうだ。その時間が来るとサイレンを鳴らしたというから、念が入っている。傑出した名都知事として名高いアリ・サディキン氏の時代(1966〜1977)も、住民参加運動としてキャンペーンが繰り広げられ、路上にゴミを捨てた都民を都知事が叱り付けたこともあった。そんな時代は都内が清潔さを保ち社会の公共秩序も整然と運営されていた。
水流のあるところに捨てられたゴミが水の流れを緩慢にし、甚だしい場合は水をせき止める。雨季になるとそこへ流れ込んだ雨水が氾濫してバンジルを起こす。ゴミ対策はバンジル対策にもつながっているのである。


「相変わらず、危険な化粧品がいっぱい」(2013年12月10日)
2013年は2012年に比べて非合法化粧品が激増している。2013年10月に行なわれた全国合同オペレーションジャカルタ地区検査活動で没収された非合法化粧品は234種22万5千個あり、これは2012年の実績から三割増しになっている、と2013年もあとわずか残すのみとなった11月第3週に、ジャカルタの食品薬品監督館捜査課長が公表した。
非合法化粧品というのは安全検査を受けて食品薬品監督庁から国内市場流通承認を得ないまま市場に流されているものを意味しており、そのこと自体が健康を害するものを直接的に意味しているわけではないが、有害危険物を含んでいる商品は安全検査をパスしないから、承知で有害危険物を混入させている場合、関係者が安全検査の申請を行なうわけがなく、無承認のまま市場に流すに決まっている。
それら非合法品がすべて水銀を含んでおり、輸入品もあれば西ジャカルタ市アセムカ(Asemka)あるいは北ジャカルタ市スンテル(Sunter)で作られたものもある、と同課長は語っている。


「飲食施設の二軒に一軒はアブナイ」(2013年12月20日)
全国にある膨大な数の調理飲食品を提供する飲食事業所の51%が衛生基準を満たしていない、と食品薬品監督庁が発表した。その中にはホテル内のものや独立したレストランやカフェテリアなども含まれており、特に中小事業者の経営するものが多数を占めている。
食品薬品監督庁データによれば、2004年に食中毒事件は全国で152件発生し、45人が死亡した。2009年世界の下痢患者多発国番付の中で、インドネシアはトップ10に入っている。インドネシアで2011年に集団食中毒事件は128回起こり、そのうちの30%は微生物の汚染、15%は化学物質汚染と判定されたが、残りは原因がわからないままになっている。WHOの報告では、2007年に食品が原因で人が健康を損ねた事件は全世界で15億件発生したとのこと。
食品薬品監督庁は政府に対し、各飲食事業所における衛生基準の徹底を強化するとともに、食材サプライチェーンにおける取扱い品の品質規準の監督強化をはかって、特に中小規模事業者の多い飲食事業所が衛生的に良好な飲食品を客に提供できるようなサポートのシステム化を行なう必要がある、と提言している。


「安全でない食品が増加傾向」(2014年2月19日)
食品薬品監督庁が発見した食品安全基準をパスしない食品が2013年第4四半期に大幅に増加したことが報告されている。第3四半期の不合格品は850件あったが、第4四半期は2,179件に激増した。不合格の内容は、食品の安全衛生基準が守られていない・腐敗している・賞味期限超過・明細ラベル表示が不明瞭・そして同庁が与える品質基準合格承認番号で国内流通承認をも意味するコード番号が表示されておらず未承認のまま販売されていると疑われるもの、などがメインを占めた。検査の行なわれた対象品は、各地にある食品薬品監督館が地元市場で購入したサンプル品。
また同庁は2013年中に、市場から押収した食品医薬品化粧品安全基準を満たしていない非合法品1,760アイテムの廃棄処分を行なっている。
食品薬品監督庁は、監督対象物品の市場監視の有効化を目的にして、消費者からの情報を迅速に収集できるよう、新体制を構築した。消費者が問題のある商品を発見したとき、その届出を容易にするために同庁はヘローBPOM50053という電話報告システムを開始している。これは国内のどこからでもローカル電話料金通話で同庁コールセンターに接続されるシステムで、午前8時〜18時の間は直接ジャカルタのコールセンターにつながり、時間外には自動的に当直担当者の携帯電話にトランスファーされる。安全でないと思われる商品について24時間いつでもコールセンター50053に連絡してくださいとのこと。
さらに、伝統医薬品とサプリメントの再登録システムはこれまでプロセス日数が60日かかっていたが、それをオンライン化することによって10日まで短縮できるようになった。
また輸入品についても、外国政府が発見した情報を迅速に国内に取得できるようにするため、Indonesia Rapid Alert System for Food and Feedシステムを構築して諸外国政府との相互乗入を開始している。さらに、これまで取扱が遅れ気味になっていた村落部における監督業務にも今後力を入れていく方針であるとのこと。


「偽造医薬品が増加」(2014年3月11日)
国が承認を与えていない医薬品やニセモノブランド医薬品がインドネシアで横行している。精力や活力の増強をうたったものばかりか、マラリアや糖尿病の薬、そして抗生物質に至るまで、それら非合法医薬品が市場に満ち満ちている。
駐インドネシア米国大使はニセモノ医薬品や化粧品のリスクを国民に啓蒙する催しでのスピーチで、「国内地域別データを見るかぎり、非合法品がもっともたくさん集まってくるのは鎮痛薬・抗生物質・マラリア治療薬・糖尿病の薬だ」と述べた。この催しは反偽造インドネシアソサエティと食品薬品監督庁が開いたもので、食品薬品監督庁長官は米国大使の言葉を補足し、偽造品がメインを占めるカテゴリーは勃起不全薬・痩身薬・コレステロール軽減薬・美白用薬剤であり、更に医師の処方箋が必要とされている医薬品のニセモノが街中のワルンで自由に販売され、消費者が大勢それを買っていることを指摘した。
食品薬品監督庁は2013年に非合法品撲滅のためのストーム作戦をジャヤプラ・クパン・アンボン・ジャカルタで実施し、マラリア汚染地区であるそれらの地方のワルンで販売されている非合法マラリア治療薬を没収したところ、総額57億ルピア分が集まった。それらを含めて、2013年に同庁は19,041アイテムのニセモノ非合法医薬品を廃棄処分にしている。
公式医薬品製造メーカーの生産する正規品を偽造したニセモノは通常、正規品に含まれている活性素材のクオリティが標準に満たないものを使っており、期待されている効果が得られない。また非合法品というのは政府の検定と承認を得ないで市場に流されているもので、検定を受ければとても承認など得られない品物であるためにそのような販売手法が採られているものが多い。加えて、ニセモノも非合法品も、消費者の健康や生命への配慮などまったくなされていない品物が少なからず混じっており、病人がそのような品物を摂取して、かえって容態を悪化させ、あるいは死期を早める結果をもたらす例も枚挙にいとまがない。
ニセモノ医薬品は医者にかかって処方箋をもらわないでも自由に買うことができ、おまけに正規品より廉価であるため、経済的に何倍も得をすると思う消費者が頻?に求める商品になっている。国内で作られているものもあるが、多くは国外から密輸入されており、国境線を破りあるいはネズミ港と呼ばれる小規模の非開港に陸揚げされて国内に入ってくる。最近増加しているものに、ビジネス拠点がどこにあるのかわからないインターネット販売のサイトが増加しており、違法品取扱やビジネスの違法性がはっきりすればそのようなサイトをブロックする措置を施しているものの、ブロックすれば即座に別のサイトが作られて同じ内容の非合法品オファーがなされるため、当局側は手を焼いている。
食品薬品監督庁長官は、「非合法品を撲滅するのは限界があり、結局は消費者が賢くなってもらう以外に方法はない。消費者は医薬品を薬局や病院など正規の販売場所で購入するようにし、購入に際しては有効期限・BPOM承認番号の有無・製造者の住所や会社名のチェックを励行し、BPOM承認番号がホンモノかどうかはネットサイトwww.pom.go.idで突合せすることができる。」とアドバイスしている。


「薬剤師の罪」(2014年3月12日)
国内医薬品市場は50兆ルピアの規模を持っているが、消費者が購入して使用している医薬品の半分は患者に何の効果も与えずただ無駄に消費されているにすぎない、とインドネシア薬剤師会会長が発言した。ヨグヤカルタのある薬理学者の調査結果によると、インドネシアの医薬品の50%は患者が的確な使用方法を知らされていないためにただ浪費されているにすぎないとのこと。医薬品市場が年間50兆ルピアの規模であるのなら、そのうちの25兆ルピアを消費者は意味もなく浪費しているということになる。
「薬剤師教育が単に薬を作ることに終始し、患者を治療するために自分がどう役割を果たすのかということがおざなりにされてきた。その結果、薬剤師は患者との関わりを持とうとせず、患者に薬の説明もせず、おまけにその薬が患者にどんな効果をもたらしたかについての検証もなされない。その良い例が、ビタミンの効果的な摂取について知らない薬剤師が多いという現象だ。ビタミンCを食後に飲むひとがいまだに数多いが、食後にビタミンCを飲んでも体内に吸収されない。食後に飲めと言われてさまざまな薬を飲んでいる患者は、その中のビタミンCについて何の意味もないことをしていることになる。監視や規律への服従が弱い結果、薬剤師は患者に薬の使用についての説明や注意を与えることを励行せず、それどころか、薬局にいて消費者に対する務めを果たすことさえしない者がいる。薬剤師が消費者に適切なサービスを行わない薬局をボイコットするよう、われわれは消費者に勧めたい。」
薬剤師会会長はそう語って薬剤師の職業倫理を厳しく批判している。


「幹細胞治療体制の整備」(2014年3月20日)
政府保健省は11の病院に対し、一般患者への幹細胞治療を許可した。これまで一部の病院が先行的に行なっていた幹細胞治療活動を政府は公的に認めないでいたが、政府の監督なしに行なわれる医療活動の是非については論じるまでもないことであり、国内宗教界がこぞって反対してきたという状況との板ばさみから政府が沈黙を続けてきた観があるものの、既にその限界点に達してしまったということが今回の動きの背景にあるようだ。
政府はジャカルタのチプトマグンクスモ(Cipto Mangunkusumo)病院とスラバヤのドクトルストモ(Dr. Soetomo)病院を他の9病院に対する指導育成院に指定し、ジャカルタはハラパンキタ(Harapan Kita)、ファッマワティ(Fatmawati)、ダルマイス(Darmais)、プルサハバタン(Persahabatan)の4病院、地方都市はパダンのジャミル(Djamil)、バンドンのハサン・サディキン(Hasan Sadikin)、ヨグヤカルタのサルジト(Sardjito)、スマランのカルヤディ(Karyadi)、バリのサンラ(Sanglah)の5病院を公式に認定した。それら以外でこれまで幹細胞治療活動を行なっていた病院は、早急にそれら公認病院との間に治療内容に関するコーディネーションを実施することが求められている。
政府は同時に、幹細胞の研究を行なっている機関のひとつRegenic Laboratoriumを幹細胞医療体制における勧告と監視の機能を持つ委託機関に任命した。幹細胞治療を望む患者は今後リジェニックラボにコンタクトし、ラボが選んだ医師と病院によって治療を受け、ラボはまたその治療プロセスに助言を与えるという役割を担うことになる。インドネシアでこれまで行なわれているものはすべてオーソロガス方式であり、これからはアロジェニック方式をもっと増やしていかなければならない、とリジェニックラボ院長は語っている。


「医者の手洗いは患者のため?」(2014年4月8日)
医師が診察のたびに手を洗うのは当たり前と思っているひとに、驚くべき情報がある。インドネシア大学医学部微生物学科が2013年にジャカルタの複数の病院で行なったサーベイは、WHOのスタンダードに則して手を洗っている医師は41%しかいなかったことを報告している。
WHOの定めたスタンダードでは、医師は(1)患者に触れる前、(2)治療処置を行なう前、(3)患者の体液に曝されたあと、(4)患者に触れたあと、(5)患者が治療を受けた場所に触れたあと、に手洗いを行なうよう義務付けており、医療機関における院内感染を防止するのを目的にしている。それが励行されなければ、別の患者、医療従事者、見舞いのひとなどに感染していく可能性がある。
ハラパンキタ病院理事もそれに関して、WHOのスタンダードを全部小まめに実行している医師は少ないと語る。「患者の体液がついたときはみんな手を洗っているが、患者に触れる前の手洗いをする医師は少ない。それはつまり、医師が自衛のための行為を優先していることを示しており、病院マネージメントの意識とコミットメントがもっと高められなければならないことを意味している。」
WHOは年間に140万人が医療施設での感染で死亡していると報告している。イギリスでは5千人だそうだが、メキシコではそれが国民死亡原因の第三位になっている。インドネシアではこの種のデータがまだ集められていないが、汚染した点滴・カテーテル・吸入などの設備によって感染するケースが少なくないことを医療関係者は指摘している。保健省保健サービス育成課長は、各病院が院内感染防止のための委員会と監視チームを編成して発生を効果的に防がなければならない、と語る。「このポイントは病院が資格認定を得るための必須条件のひとつであり、病院マネージメントは単に指導を与えるだけでなく、感染防止のためのインフラとスプラを用意するべくコミットしなければならない。たとえば、病院内のもっと多くの場所に消毒手洗い設備を設けるようなことだ。」と課長は病院経営者の意識向上に焦点を当てている。


「エイズ罹患者への差別」(2014年5月5日)
HIV/AIDS罹患者への差別はインドネシアで根深いものがある。インドネシアのような強い相互依存精神を基調にしている社会で世間からつまはじきんにされた人間は、生きることそのものが困難になるにちがいない。だからひとびとはその種の差別を忌避しようとする。罹患者を探し出して治療しようとするひとびとの努力を、その差別意識が邪魔している。発見されたひとびとの数が公式データとして報告されているが、それは氷山の一角でしかなく、実態はその数倍にのぼるだろうというのが活動家や観察者たちの見解だ。
中部ジャワ州では、発見された罹患者は8千人いるが、実際には1万7千人をくだらないだろうと言われている。その9千人はいったいどこにいるのか?8千人の中に買春者があまり含まれておらず、一方で買春者のマジョリティは罹患している確率が高いと推測されることから、9千人のメインはかれらで占められているように思われるのだが、その買春者たちはいったいだれで、どこにいるのか?かれらが自分の家族にエイズを伝染させる可能性はきわめて高いというのに、売春隔離地区に買春にやってくるひとびとにエイズ検査を勧誘してみても、それに応じる者はひとりもいなかった。
インドネシア家族計画グループ中部ジャワ支部専務理事は、従来からエイズ検査に自発的に応じるのは売春婦・男娼・注射針を使う麻薬常習者たちに限られ、自分がリスクグループに属していることを知りながらも姿を現さないひとがあまりにも多い、とコメントした。売春婦・男娼・麻薬常習者はみんな自分のコミュニティを持っており、そういうコミュニティ経由での啓蒙や情報収集、治療活動や諸対策は比較的行ないやすい状況にある。買春者がそういうコミュニティをまったく持っていないことが、この問題をきわめて難しいものにしている。
家族計画グループは買春者をコミュニティに括るという発想転換を行なおうとしている。支部長によれば、買春者の多くは建設労働者や長距離トラック運転手たちであり、そういう人たちの職場に対して働きかけを行なっていこうというアイデアがそれだ。そのあたりの情報をより詳しく掘り起こそうとして、売春婦に買春者の出身や職業をそれとなく聞き出すよう依頼することも行なわれている。
エイズ対策の一環として、社会末端でカウンセリング活動を行なうボランティアを組織化する動きが地方自治体の中に起こっており、中部ジャワ州バタン県ではバタン友愛連絡フォーラムが既存の活動家たちを新しい組織に組みなおすとともに、この活動に意欲を持つ高校生や若者をそこへ巻き込んできめ細かい対策を行なう計画を進めている。しかしそこでも、活動家たちの障害になっているのは、差別を怖れるひとびとの閉鎖的な姿勢であるとのこと。


「買い食いは小学生を蝕む」(2014年5月15日)
2013年11月11日付けコンパス紙への投書"Jajanan di Sekolah"から
拝啓、編集部殿。道端で販売されている飲食物、特に小学校周辺のそれは、子供たちが帰宅する際のおやつになっています。子供たちがそれを買う理由はいくつかあります。よく目立つ色が使われていることで、そのようにすれば消費者の目を引くことができます。形もそうです。漫画の主人公に似た形や乗物の形をしていれば、子供たちはそれに惹かれて買います。そして価格が廉いこと。たいてい2千ルピアしません。最後に、おいしく感じられる味をしていること。そこに疑問が生じます。どうしてまだ小さい子供の味覚に魅力を与えることが可能なのでしょうか?
しかし子供たちがそれらを買うときによく観察すれば、不適切な状態が目に付きます。真っ黒になっている揚げ物油、路上にそのまま投げ出されているブロック氷、使われている水。人体に摂取されるのに不適切なものばかりです。飲料水に使われたビニールコップがミーゴレンを入れる容器によく使われています。
子供たちの栄養補給に関して、学校や父兄はそれらの状態にもっと注意を払う必要があります。たとえば、おやつには何が良いのか、そしてそれがどんな状態で売られているものを買うべきか、そういったことがらを子供たちにもっと教えなければなりません。毎日、家からおやつを持ってくるようにこどもたちを指導すれば、子供たちはそういう危ないものを食べなくてもよくなるでしょう。[ 東ジャカルタ市在住、リョー・クリントン ]


「学校周辺から物売り屋台を排除」(2014年5月16日)
学校生徒、特に小学生、が学校周辺の道端で販売されている飲食品を買い食いするのはさまざまな面で悪影響があるとして、学校周辺に屋台を置いて飲食品を商うことを禁止する規則を2014年3月に西ジャワ州プルワカルタ県が制定した。
その制定に当たって県庁は、販売している商人や販売商品の安全性などの調査を総合的に行ない、子供たちの健康に悪影響があることを確認した上で規則を制定した。その調査で判明したことは、飲食品にボラックスやフォルマリンなどの防腐剤が含まれているばかりか、繊維用染料までもが使われていた。「それらの飲食品は子供の成育に必要な栄養面の配慮がまったくなされておらず、おまけに健康に有害なものであり、教育現場でそのようなことが行なわれるのをわれわれは放置することができない。ましてや、このような買い食いを子供に勧めている実態はコンシューマリズムを育成しているのと変わらないのだから。」プルワカルタ県令は新聞社の電話インタビューに答えて、そう述べている。
その規則の法執行として県庁は、既にマークされた学校周辺で飲食品を商っている屋台商人1千7百人を学校から離れた場所に移すこと、その移転の支援金として一人当たり150万ルピアを支給することの二点を行う計画。支援金のための資金26億ルピアは既に県の今年度予算に計上されており、この5月末に支給という日程が組まれている。
屋台商人のひとり(30歳)は、「県庁が支援金を支給してくれるという話を聞いて、ホッとした。」と語る。別の場所で商売せよと強制排除されたらどうしようかとかれは心配していたそうだ。かれが商っていた砂糖漬け果物は下校する子供たちがかれの屋台に大勢寄り集まってくる人気商品だったが、繊維用染料が使われていたことを県庁から知らされ、これまで自分が商っていた品物は子供たちにとって毒だったのだと悟って商品替えを決意したとかれは語っている。


「大衆を洗脳するタバコ宣伝」(2014年5月28日)
2013年12月13日付けコンパス紙への投書"Iklan Rokok yang Menyesatkan"から
拝啓、編集部殿。家に居ても、外に出ても、わたしたちは毎日消費者を惑わすタバコの宣伝に囲まれています。公共に対する異常な欺瞞が行なわれているのです。すべてのひとに光明を与える偉大な芸術作品がタバコと関連しているという主張が頻出します。それは大嘘です。偉大な芸術作品は人間に幸福をもたらすためのものであり、人間をニコチン中毒にするようなものではありません。
若い愛煙家が、クリエーティブで、ビジョンを持ち、想像力に満ち、冒険家精神にあふれ、健全な思想を持っているように描かれますが、本当でしょうか?何兆ルピアもの資産を持つタバコ産業界が自己の利益を求めて描いている虚像がそれです。かれらは多分、広告会社のクリエーティブチームに高い金を払って無理やりタバコに関する欺瞞を作らせているのでしょう。
テレビや街頭の要所に設けられた広告塔を通して広告代理店は、タバコ産業界と力をあわせて、喫煙は優れた将来を持つイマジネーションあふれた凄いひとたちが行なうことなのだと大勢の消費者を洗脳することに努めているようです。「喫煙は健康に有害です」というメッセージを載せたとしても、単に義務を果たすためにしていることであり、ほんの一瞬テロップが流れるだけです。
実に危険極まりないことです。画面で、ましてやオーディオビジュアルで流されるメッセージの効果は一般大衆にたいへんな影響を及ぼします。明白な嘘であっても、何度も何度も繰り返し放送されたら、それは真実と見られるようになるのですから。[ 西ジャワ州在住、バンバン・スディオノ ]


「国民を狙う腎臓病」(2014年5月30日)
インドネシア腎臓学会のデータによれば、腎機能低下を起こしているインドネシア国民は2千万から3千万人にのぼっている。年齢が50歳を超えれば当然のことだが、もっと若い生産的な年代のひとたちの間でも、高血圧や糖尿病あるいは肥満・喫煙・水をあまり飲まないといったことのためにそうなっているひとが少なくない、とインドネシア腎臓学会会長が表明した。血液から尿を取り出す糸球体濾過量は20代男性の標準値が117ml、女性は91mlで、50代になると男性が88ml、女性は74mlに低下する。
糸球体濾過量が三ヶ月連続して60mlになっていれば、慢性腎臓病と判定される。たいていの場合、尿にたんぱく質が含まれる。慢性腎臓病は5段階の症状に分けられ、治療ができず、更なる悪化を遅らせる対応しか打つ手がない。最悪の第5段階に至れば、働かなくなった腎臓の機能を代替させるための処置が必要になり、日常生活がセラピーに費やされることになる。インドネシア国民100万人の中に、そういう生活を送っているひとが433人いる。
腎機能が大きく低下してくると、心臓の機能不全、骨の劣化、栄養不良、感染症への抵抗力喪失などが起こり、生命維持に困難がもたらされる。慢性腎臓病が第5段階に至る前に、心臓の機能低下で死亡する例も数多い。
2013年国民基礎保健調査で、肥満率男性19.7%女性32.9%、糖尿病有病率1.1%から2.1%に上昇、高血圧有病率7.6%から9.5%に上昇といった最新の国民保健データから、慢性腎臓病がインドネシア国民を虎視眈々と狙っている状況が見えてくる。
インドネシア大学医学部内科病理学科専門医は、栄養補給・運動・禁煙の励行、血圧・コレステロール・血糖値のコントロール、そして一日に水を2〜3リッター飲むことを継続すれば慢性腎臓病は防げると語る。
「飲み水は透明で臭いがなく、雑菌の少ないものでなければならない。淡水化海水はミネラル分がなくなっているので、むしろ避けるほうがよい。水を飲むのは喉が渇いたときだけでよく、過剰に水を摂取しても意味がない。運動したときも、喉が渇けば水を飲むように。発汗で体内のナトリウム分が減少しているため、水を飲みすぎると身体によくない。アイソトニック飲料は糖分が多すぎるから、やめたほうがよい。また、非ステロイド性抗炎症薬や鎮痛剤は腎臓に悪影響を及ぼすので、注意を忘れないように。」腎臓医療専門家たちは国民にたいしてそう警告している。


「早朝ジョギングはますますトレンディ」(2014年6月6日)
趣味だとか、健康のために汗を流すだとかいった能書きは、もう時代遅れ。ますます増加する早朝ジョギングファンは、そんなことを言わなくなった。西ジャワ州デポッ市にあるインドネシア大学デポッキャンパスは、広大な森林公園の態をなしており、一日中たくさんの市民が憩いを求めてそこに集まってくる。言うまでもなくひとびとは早朝からやってきて、朝の爽やかな空気の中でジョギングを楽しむ。
男も女も、老いも若きも、子供たちまでが、走っては休み、あたりにいる物売りから飲み物を買って飲み、疲れが癒えたらまた走り出す。走り終えて汗しずくの滴る顔をセルフィする者もいる。きっとその日のうちに、ソーシャルメディアに顔を出すにちがいない。走り終えてから、柔軟体操でクーリングダウンしたあと、汗にぬれた衣服のままそのあたりの屋台で朝食だ。
都心の民間銀行に勤める女性は、カーフリーデイになるとホテルインドネシア前ロータリーにやってきてタムリン通りを走る。毎日オフィスで仕事し、渋滞の中を夜に帰宅している生活は、こうやってバランスを取って癒すんです、とかの女は語る。普段は乗物に乗って通るタムリン〜スディルマン通りをカーフリーデイに走るひとの数も少なくない。
そこからさして遠くないスナヤンのブンカルノスポーツセンターも、朝夕都民が集まってくる。1962年8月24日にオープンしたこのスポーツセンターには、昔からスポーツ好きな都民が集まってきたが、昔は走るひとの数はそこそこで、散歩したり、バドミントンに興じたり、さまざまなバリエーションが見られたものだ。最近では走るひとの数が圧倒的になった。本気を出して走っているひと、楽しみながら走るひと、異性を眺めあるいは異性にアピールしながら走る人、あるいはスポーツウエアに身を固めていながら、眺めたりアピールするだけで走らないチュチマタ派までさまざま。
ジョギングは、都市居住者にとってもう社会的なトレンドになっているようだ。ジョギングがライフスタイルの中に組み込まれたいま、かれらにとってはもはや理由など必要のないものになっている。週末になると、あちこちでマラソンレースが開催され、それがまたトレンド追従者の励みになる。レースに出て、メダルやトロフィを獲得し、あるいはレース名の入ったTシャツをもらうだけでも、かれらには誇りに満ちた思い出になる。そういうレースを目標にして何日も前から体調を整え、食事に配慮して必要なエネルギーと栄養を摂取しようとする姿勢は、都市居住者が健康を真剣に求めている姿に重なってくる。
今や、ジャカルタをはじめ、インドネシアの都市部では、ジョギングが健康を求める市民たちの日常生活の一部になっている。


「ブンガワンソロを流れ行く」(2014年6月11・12日)
中部ジャワ州スコハルジョ県グロゴル郡ポンドッ村の橋に、一台のバキュームタンク車がやってきた。時間は午前11時ごろ。車は橋の中ほどで道路際に止まり、助手が車から降りると後部に回ってホースを引き出し、橋げたの隙間からホースの口を下に垂らした。ほどなく、ホースの口からタンクの中身が排出されはじめた。中から泥状の物質が、激しい悪臭とともに川面に流れ落ちて行く。真っ黒になった人糞だ。下を流れているのは、「清き流れ」「流れて遂には海に注ぐ」と歌に歌われている有名なソロ川。
地元のひとびとの話では、その光景は決して最近はじまったものでなく、ずっと昔から当たり前のように行なわれていたそうだ。少なくとも、一日に一台はそこへやってくるとのこと。汚わい投棄はおよそ5分くらいで完了し、バキュームタンク車はそそくさとその場をあとにした。
この橋は交通量もあり、往来のひとびともたくさんいて、しかも白昼堂々と行なわれているそんな行為をいぶかしむひともいないようだ。地元民のひとりは、汚わい投棄の行なわれているポンドッ橋は公共スペースになっており、近隣住民が住む居住エリアの外であるため、苦情も禁止もしていない、と説明した。それは公と私が有機的にからみあって全社会構成員のより良き生活をサポートする、という概念からかけ離れたインドネシアの公私感覚を彷彿とさせるものだ。
公は国家統治者のものであり、私が自分のものであるというディコトミーは独立したあとですら溶解せず、国家社会の中で国民が私を富ませることを第一優先にし、そのために公をないがしろにしているありさまは、インドネシアの随所に見出されるにちがいない。国家統治者からしてそれであり、汚職が当たり前の社会習慣になっていることが、社会というもの、ひいては国家というものが国民にとっての何であるのかということを物語っているように思える。社会生活の中で不正を行なう者を取締るのは法執行者の仕事であり、他の社会構成員の義務ではなく、ましてや私のエリアを侵害されたらリンチものだが、公のエリアは公権力による法執行が当然なのだという姿勢が、インドネシアの社会秩序を荒廃させている元凶ではないかとわたしは思う。
インドネシアで汚物投棄は、どこでも好き勝手に行なってよいものではない。自治体が汚物処理場を用意し、汚物収集業者はそこに汚物を運び込まなければならない規則になっている。ものがものだけに、汚物やゴミの投棄場は住民居住地区から遠い場所に作られるのが普通で、それが業者に不法投棄への誘惑を起こさせることになる。
社会生活の中で公観念が薄く、自分が得をすることを第一優先にしている文化の落とし子たちが、時間も費用もかかる遠隔の投棄場へトラックを走らせるのは、そうしなければ制裁を受けるからでしかない。規則違反行為の摘発を行う法執行者の目が隙間だらけであれば、その目を潜って利益を得ようとするに決まっている。そしてソロ川ではそれが行なわれているということだ。いや、コンクリートジャングルのジャカルタですら、そんなことがかつて行なわれていた。クニガン地区のラスナサイッ通りの道路脇地下排水溝にバキューム車がホースを突っ込んでいる光景が昔新聞ダネになったことがある。今もまだそれが続けられているのかどうか、わたしは知らない。
スコハルジョ県生活環境庁長官は記者の質問に答えて、あちこちからソロ川への汚わい投棄が行なわれているという苦情が届いており、取締りを行うことを考えていたと語った。「グログル郡ポンドッ橋のほかにも、いくつかで投棄が行なわれているようだ。それをしているのは県外の業者らしい。汚わいを処理されないまま投棄するのは禁止されている。取締りについては他の周辺自治体と共同で現場の監視を強めることになるが、報告のあった投棄場所にはまず禁止の札を立てることを予定している。」
長官が県外の業者だと言っているのは、スコハルジョ県の規則を踏まえたもののようだ。スコハルジョは県営の汚物処理場を持っておらず、業者に処理施設を作ることを義務付けている。どうやらそれを根拠にしているにちがいない。処理済の汚水はソロ川に捨てられるが、必ず水質検査に合格しなければならず、事業許可はそれが合格できるものであることを条件にしているとの由。
ポンドッ橋の地元民は、汚わい投棄車への取締りが行われたことはある、と語る。「すると、昼間の投棄はなくなるが、夜間にやってきてこっそりと投棄する。そのうち、様子を見ながら昼間やってみて、摘発されなければまた白昼に堂々とやるようになる。法的な処罰が行なわれなければ、同じことだ。」
一方、ソロ市の汚物処理場を運営しているソロ地方上水道会社の取締役は、プトリチェンポの処理場はゴミ投棄場があふれて汚物処理場へのアクセス路を埋めてしまい、数年間使えなくなっていたが、今はもう再開されており、一日およそ11台が汚物を運び込んでいる、と最新状況を説明している。


「チンピラ看護婦があちこちに」(2014年9月4日)
2014年6月19日付けコンパス紙への投書"Hati Perawat yang Lumpuh di Tangsel"から
拝啓、編集部殿。2014年5月13日にわたしははじめて、バンテン州南タングラン地方総合病院に行きました。5月11日に重態で入院した兄弟を見舞うためです。患者は見るもいたましい、危篤状態に陥っていました。
病院内には、座って携帯電話をもてあそんでいる看護婦がたくさん見られました。わたしたち見舞い人が入って行っても、見向きもしません。かの女たちは他のことなどそっちのけで携帯電話に没頭しています。病室を尋ねたら、中の一人がこう言いました。「どうぞ、自分で探してください!」。
院内の監視の任に就いている男性職員がいたので尋ねたところ、「そんな名前の患者はいませんよ」。結局、わたしは病室を探し出し、痛ましく横たわっている兄弟に面会しました。
この病院のサービスはいったいどうなっているのでしょうか?貧困者カードを使う患者だから、差別待遇されるのでしょうか?看護者たちの心にもう血は通っていないのでしょうか?かれらの職務は人間の生命と安全に関わっているというのに。[ タングラン市在住、スリウィデイアストゥティ ]


「エボラがインドネシアを狙う」(2014年9月8日)
またハジの季節が到来した。このシーズンにサウジアラビア政府がインドネシア政府に割当て、インドネシア政府が国民から募ったメッカ巡礼希望者数は全国で168,800人に達し、そのうちの155,200人はレギュラー待遇巡礼者、13,600人はデラックス待遇巡礼者という内訳になっている。その二つはサウジアラビアでの待遇に違いがあり、もちろん料金にも差がつけられている。
その巡礼希望者は全国のいくつかのハブ空港から特別仕立ての巡礼専用機に乗ってサウジアラビアに向かうが、巡礼者たちは仕立てられる航空機単位でフライトグループに分けられ、各地のアスラマハジに集められてから当日のフライトに搭乗するため空港に向かう。2014年9月1日に中部ジャワ州ソロのアディスチプト空港と東ジャワ州スラバヤのジュアンダ空港から、全国各地に先駆けて最初のフライトグループが出発した。メッカ巡礼のためのフライトオペレーションは政府がガルーダ航空に委託し、ガルーダは各国の航空会社から航空機をチャーターしてインドネシアとサウジアラビアを往復させる。
ところが今回のメッカ巡礼には、大きなリスクがまとわりついている。最近世界的な脅威になりつつあるエボラウイルス病と2014年5月から既に渡航に関する警告が出されている中東呼吸器症候群というふたつの医学的な災厄が巡礼者を待ち受けているのだ。サウジアラビア政府は、エボラ汚染国からのメッカ巡礼希望者7千4百人に対して入国ビザを交付しなかったが、エボラのサウジアラビア侵入がそれで完璧に防げる保証はなく、それはつまり、サウジに集まってくる世界中のムスリムにとってエボラ感染の可能性は存在していると言って過言でない。
そのためインドネシア政府保健省は、巡礼者の中に感染者が出れば迅速にそれを発見し、国内にその帰国受入れ態勢を整える手配を進めるため、巡礼者に付き添う医師と看護婦の人数を増やし、また監視体制を強めることにした。巡礼者2〜3百人当たりにひとりの医師とふたりの看護婦を付けるため、医師は総勢670人、看護婦は1千3百人がフライトグループに添乗してサウジアラビアに向かい、巡礼者たちが巡礼を行っている間、かれらの体調を毎日監視する任務に当たる。かつて巡礼者の付き添い医師は、医師自身も巡礼を行い、その傍ら巡礼者が身体の調子を崩したときに対応するという片手間仕事が任務だったが、今回の巡礼では付き添い医師の半分に巡礼者の健康管理と医療対応に専念するようオーダーが出されている。
巡礼者が出発前にアスラマハジに集められた際、保健省は現地での健康保持の注意を与えるのが例年のならわしで、今年の注意の中にはそれらの怖ろしい病菌感染から身を守るための注意が追加されている。40℃に達する酷暑下での健康維持に留意し、体力を保つことが最重要であり、また清潔さに留意して病菌を遠ざけることは不可欠であること。更に人ごみの中ではマスクをすること、そしてラクダに絶対近寄らないこと、といった注意事項が追加されている。
ひょっとしてエボラ罹患者が出れば、インドネシア国内に保菌者が入ってくることになり、それに対する対応を保健省がどのようにとっていくのかという問題が生じてくる。WHOデータによれば、2014年にエボラウイルス病は過去最大の猛威をふるっており、世界中で罹患者が3,069人報告され、1,552人が死亡しているとのこと。その勢いは今後6〜9ヶ月続いて罹患者は2万人に達するだろうとの見込みをWHOは公表している。


「粉ミルクは亡国のもと?」(2014年10月3日)
生後6ヶ月間は赤ちゃんを母乳だけで育てるという育児法を行っているインドネシアの母親は42%しかいない。政府保健省は国民への啓蒙教育を実施し、労働省をはじめ他の政府機関も、保健医療機関が育児用調整粉ミルクを奨めたり与えたりすることを禁止し、また事業所や国民が利用するさまざまな施設に授乳室の設置を義務付けたり指導したりして協力しているものの、なかなか国民の中まで浸透していかないのが現実だ。
母乳だけの育児を行うことで、母子の平均寿命は増加する。母親にとっては乳ガンや卵巣ガンの発生を27%減少させることができ、子供は抵抗力が向上し、身体と脳の発育が高まる。
国連WHOはその推奨されるべき育児法実施者が全世界で50%に達することを目標にしているが、2013年度基礎保健調査の結果によればインドネシアはまだまだ低い42%という状況。妊娠適齢期のインドネシア女性は2千5百万人いて、この階層に対する啓蒙教育をさらに徹底して行わなければ現状はなかなか改善されないと保健省労働スポーツ保健育成局長は述べている。現在は職場を主体にして若い妊娠適齢期の女性勤労者に対する啓蒙教育に政府はかかりきりだ。
母乳育児法は国民生活の健全さを高めるだけにとどまらない。育児用調整粉ミルク生産者の大半が外国資本であり、またその生産のために大量の原料が輸入されていることから、母乳育児法を国民の間に広げることは国家経済にも好影響を与えるものである、と保健省労働スポーツ保健育成局長はコメントしている。


「健康保険加入者が増加」(2014年10月7日)
インドネシアの国民健康保険である国営の国民保健保証制度は、昔からあったアスケス、ジャムソステック、国軍・国警向け保険及び貧困家庭向け政府援助医療保険ジャムケスマスを統合合体させたもので、これを一般市民に開放して全国民を健康保険に加入させるのを最終目標に、2014年初頭から運営が開始された。この制度は発足時の加入者が1億2,160万人で、そのうちの8,640万人は、保険掛金を政府が肩代わりしているジャムケスマス対象者だ。
この保険制度の運営管理者である社会保証催行庁の最新データによると、国民保健保証制度加入者数は1億2千8百万人に増加しており、所属企業や団体を通して加入していない、個人で掛金を支払って保険に加入しているひとがそのうち590万人を占めているとのこと。この個人加入者は南スラウェシ州マカッサルやいくつかの都市で顕著な増加を示している。マカッサルの社会保証催行庁事務所は、連日加入希望者が手続きに訪れ、一日平均350人が列をなすため、受付時間の7時〜15時を18時まで延長して対応に大わらわ。この傾向に同庁本部は、全国県市に受付窓口を増やすことを検討している。
現在この国民保健保証制度に応じている保健医療界は病院・保健所・開業医・民間医療クリニック・軍警クリニックなど17,718施設となっているが、増加していく国民の需要に対応するため、この制度にまだ応じていない医療施設に対する勧誘をさらに強化していくことにしている。この制度に応じている病院は1,700あり、そのうちの700は私立病院だ。ただ、それらの医療施設は地域によって密なところと粗なところがあるため、それを平準化させる問題が待ち構えている。


「鉄も腐らす立小便」(2014年10月28日)
2014年7月11日付けコンパス紙への投書"Bau Pesing di Terminal Bus Rawamangun, Jakarta Timur"から
拝啓、編集部殿。公共スペースにゴミを捨てた者は50万ルピアの罰金。2013年首都ジャカルタ地方条例第3号に則した広報バナーがあちこちに張られています。東ジャカルタ市ラワマグンバスターミナルで遭遇する、悪臭を発散する立小便違反者への罰則はどうなっているのですか?
ラワマグンバスターミナルにいる一部のひとたちは、臆面もなく好き勝手な場所に立小便しています。ターミナル西側プルスリカタン通り沿いの電柱・鉄製フェンス・パーム椰子の街路樹などに。スカルノハッタ空港行きダムリバスの乗降場所に近い、かなり大型の鉄製あるいはコンクリート製電柱の地面は、小便で濡れており、悪臭が鼻を衝きます。
小便がかけられる鉄製ターミナルフェンスの柱だけは腐食が進み、それを免れている柱は頑丈に立っています。小便の洗礼を浴びるパーム椰子の葉は黄色く変色して朽ちるのも間近でしょう。小便を浴びせられているのは、その三ヶ所だけではありません。鼻を衝く悪臭と地面の様子から、バスが発着しているターミナル内でもそれは行なわれているようです。中でも客待ち停車中のダムリバス後輪が明らかにそのターゲットにされています。[ 東ジャカルタ市ラワマグン在住、シャムスル・ハディ ]


「ジャムゥは外国人にも大人気」(2014年12月17日)
外国からのジャムゥの注文は活発であり、外国人もインドネシア産ジャムゥを好んでいるのが明らかだ、と業界者が語った。ジャムゥの大手メーカーで中部ジャワ州スマランに本拠を置くPTジャムゥジャゴ(PT Jamu Jago)は1918年の創業。その代表取締役の談によれば、同社の諸製品は日本・中国・マレーシア・ベトナム・オーストラリア・カナダに輸出されているとのこと。注文は毎月入ってくるが、量は一定していない。また輸出先の国の嗜好にあわせる必要があり、たとえば日本向けはスパイスを減らし気味にした軽い感触のものになっているが、オーストラリア向けはオリジナルレシピーそのままのものが好まれ、感触を変えないようにしているそうだ。
伝統的に中部ジャワがジャムゥの本場という折り紙がつけられており、中部ジャワ州ジャムゥ事業者連盟に所属している生産者は2百社あって、製品はジャワ島・スマトラ島・カリマンタン島の各地に行き渡っている。東ヌサトゥンガラ州やパプア州への進出がなかなかうまく行かないのは、それらの地方では地元の伝統的なジャムゥがいまだ活発に利用されているためで、販売網拡大は困難な状況下にある。ともあれ、業界の景気は好調で国内市場はおよそ2割の上昇を示しており、2014年の状況は12月初時点で12兆ルピアの規模となっている。
そういう工場生産品でなく、自宅で調合したジャムゥを瓶に入れて、一杯いくらで売り歩くビジネスもある。さまざまなジャムゥの瓶をかごに入れて背負って売り歩くので、ジャムゥゲンドン(jamu gendong ゲンドンは背負うあるいは抱えるの意味)と呼ばれている。売り歩くのはたいてい女性で、昔は若い女性が大勢ジャムゥをゲンドンして売り歩いていたが、今どきそういう重労働をする若い女性はもう滅多にお目にかかることができず、中級住宅地区を回っているジャムゥゲンドンはほとんど昔取った杵柄のひとたちが大半のようだ。首都ジャカルタでこの商売をしているひとたちも、業界者の集まりを作っている。ジャカルタジャムゥゲンドン交流会会長は、家庭で作られ、ジャムゥ売りがかついで売り歩くジャムゥゲンドンも外国人ファンが増えている、と物語る。
会長自身が売り歩いているジャムゥを購入する外国人の中には、韓国人・オランダ人・中国人・インド人がいるとのこと。そればかりか、そういう外国人から大使館などで主催される勉強会に講師として出てほしいと要請されることがあり、既にオーストラリア大使館とアメリカ大使館でジャムゥの知識を披露したそうだ。
それどころか、ジャムゥゲンドンが海を越えてシンガポールに出て行くチャンスも待ち受けている。在シンガポールインドネシア大使館が開催するジャムゥのセミナーに会長が解説者として招かれているとのこと。普段、家で行なっているジャムゥ作りのプロセスを大使館が招くシンガポール人に説明するのだそうだ。
インドネシアのジャムゥ市場にも問題はある。国産品が順調に販売を伸ばしているのはけっこうなのだが、中国やマレーシアからの輸入品も市場で顕著に増加している。そういう貿易問題とは別に、非合法生産者による有害ジャムゥが国内でも作られ、また国外からも入ってくる。それらのきわめて重大な健康有害問題を抱えているのが、ジャムゥ市場なのである。


「有害ジャムゥが増加」(2014年12月23日)
化学物質を使わないのが原則になっている伝統医薬品の中に、効き目が早く表れることを期待して違反を犯す生産者がいる。疲労回復や風邪予防のジャムゥと称して作られたものの成分検査を行なった食品薬品監督庁の報告では、そういう商品の中に抗生物質やその他の身体機能向上に刺激を与える医薬品成分が混入されている事実が示されている。また強精薬と謳われているジャムゥの中にも、工場で作られている勃起促進剤の成分が見つかっているものがある。自分が儲けることにだけ関心があり、赤の他人が毒を食おうが知ったことじゃないという精神を持つかれらがそこに混入する物質が、品質の保証されたオリジナルブランドになるわけがない。あらゆるコストをミニマイズしようとするかれらが経済原理に従って行なうことがどんな内容になっているかは、想像に余りあるにちがいない。
ジャムゥを正直に作られたものと見込んで、医療システムを利用せずに自分で疲労や身体の凝りを治そうとする国民は、骨をもろくし糖尿病や高血圧といった副作用をもたらす化学薬品が混ぜられたジャムゥに対面するリスクが存在しているということだ。
政府は食品薬品監督庁を通して、市場流通させる人体への吸収成分を持つ商品の安全性を監督し保証する仕組みを構築しているが、「売らんかな」精神の横溢した人間は欲望の追及に没頭するあまり、人間性も社会性もかなぐり捨てておのれの富を追い求めようとする。
食品薬品監督庁の商品安全性検査が通らない品物を作っている者が、検査申請をするわけがない。検査を受けない理由がそれだけではないにせよ、政府が安全性を保証してくれない商品は危険なものであるという理解が常識化されてよいのだが、何をめどにして危険な商品を大勢の消費者はいつまでも購入しているのだろうか?効き目に即効性があるという口コミは、そういった大勢の消費者の目をヤバイ商品に振り向けさせる付け目であることは間違いない。
その種の危険な医薬品が、食品や化粧品などと同様に、いつまでたってもインドネシアの市場に溢れかえっている。2013年から2014年12月までのほぼ二年間に東ジャワ州食品薬品監督総館が摘発した違法流通商品は1,721種、包装単位で189,925個で、金額換算では19億ルピアにのぼる。食品薬品監督庁の市場オペレーションでは、安全性検査をパスしていることを示す管理番号が表示されていないものから優先的に商品が没収され、ラボ検査が行なわれて有害性の内容が記録される。たとえ毒性が検出されなくても、国内に流通させる商品はすべて管理番号が表示されなければならないという規則に違反していることは変わらないため、違法商品に該当する。なお、上の販売データは、法定販売者以外の者が販売している劇薬も含んでいるが、数字として大きいものでは決してない。ただし、それがもたらしている保健衛生上の安全に対する影響はたいへん大きなものであり、だからこそ食品薬品監督庁も劇薬の流通機構秩序付けに躍起になっているのだが、現状を見る限りインドネシア人の法規不服従姿勢のほうが圧倒的に強いという印象を拭うことができない。
東ジャワ州内で摘発されている違法商品はむしろ増加の傾向を示しており、オンラインによるインターネット販売という新規の手法が強まっている昨今の傾向に従って、官憲がなかなか踏み込んで来れないネットショップシステムを利用する違反者がかえって増加している。東ジャワ州内で流通している違法商品のほとんどは中部ジャワ州と東ジャワ州で作られており、包装はあたかも輸入品のような印象を消費者に与える手法が使われているとのこと。


「ゴミ社会」(2014年12月23日)
2014年10月18日付けコンパス紙への投書"Sampah di Lenteng Agung, Jakarta, Sangat Mengganggu"から
拝啓、編集部殿。ゴミはいつでもどこでも、問題の根源です。わたしは毎朝キャンパスに向かうとき、常に同じ光景に遭遇します。ゴミトラックが数台道路脇に駐車して、南ジャカルタ市レンテンアグン町一帯から四輪二輪の自動車が持ってくるゴミを待っている姿です。その光景は、社会学政治学学院の男女学生だけでなく、周辺住民からそこを通りがかるひとたちまで、あらゆるひとの気持ちを不愉快なものにしています。住民が持ってくるゴミを待つトラックは、丁度キャンパスの向かいに駐車しているのですが、そこは自動車を使わない学生たちの通り道なのです。
だから学生たちはそこを通るとき、不快な悪臭を嗅がなければなりません。駅で電車を待つ学生たちも同様です。関係当局にお願いします。ゴミトラックの稼働時間を学院の授業時間と一致させないようにしてください。この問題解決に配慮くださる当局側に、前もってお礼申し上げます。[ 東ジャカルタ市在住、ヴァニサ・ハリディアンティ ]


「有害化粧品が68種」(2014年12月24日)
2014年12月18日までに食品薬品監督庁が全国でこの一年間に発見した有害化粧品は68種類あったことが報告された。その内の32種は輸入品で、国内生産品は36種にのぼる。含まれていた人体の健康を損なう有害成分は毒性あるいは発がん性の強いものが多く、その種のものが市場にたくさん出回るのは消費者が好んでいることが強い誘因になっているのではないかと食品薬品監督庁長官がコメントした。
「消費者は自分を美しくしたい。そのために廉くて手っ取り早いものがターゲットになる。しかし消費者に配合成分を検証することはできない。おのずと、効果があるという口コミだけに頼り勝ちになる。それら68種の有害化粧品は、商品の市場回収・流通許可取消し・オンライン通知の暫定的中止といった措置でフォローされる。外国産の有害輸入化粧品が国内に出回らないようにするために。」
68種の化粧品の中には、次のようなブランドが含まれていた。
口紅: Baolishi, Miss Beauty, Monaliza, Ladymate, Implora.
フェイスクリーム: Platinum, Cosmedic, Sari, Citra Jelita, Sulamit, Han's Skin Care Trial.
含まれていた有害物質は、18種に鉛、11種に水銀、2種に砒素、14種にK3インク、6種にロダミン、5種にハイドロキノンといった明細で、鉛は口紅やヘアカラー、水銀は肌用美白化粧品に、砒素は化粧品の発色補助に、K3インクやロダミンは化粧品の発色を強くするために用いられるケースが多い。それらの有害物質を用いた生産者は2009年法律第36号保健法第196条と197条に従って、最長15年の入獄と最大15億ルピアの罰金刑が科されることになる。2014年に行なわれた有害化粧品生産者裁判は41件あるが、裁判所の判決は軽いものになっており、懲罰効果はあまり見られない。
消費者は、市場で販売されている化粧品に不審を抱いたなら、電話番号1500533ハローBPOMやSMSで081219999533宛てに、あるいはwww.pom.go.idホームページに問い合わせすることができる。有害化粧品に関する詳細情報は食品薬品監督庁ホームページの警告広報に一覧が網羅されている。
2010年には市場流通化粧品の0.86%を占めていた有害化粧品は、2013年に0.46%まで低下した。しかしそれが市場からなくなる気配はない。おまけに、商品に市場流通承認番号が付けられているものの中から、有害成分を含んだものが今回のように発見されている。食品薬品監督庁はそれらの違法物品摘発に努めているのだが、発見されて市場回収が行なわれる前にそれを使った消費者は災難としか言えないのだろうか?


「インドネシアの国民健康保険」(2014年12月26日)
日本の国民健康保険に該当するインドネシア国民健康保障制度の加入者は2014年12月初時点で1億3,150万人に上っている。社会保障催行庁が当初立てていた目標は2014年末に1億2,160万人というもので、内訳は掛金政府支給者8,640万人、文民公務員1,600万人、国軍国警公務員250万人、ジャムソステックからの転換700万人となっていた。
当初目標を大きく上回ったのは、個人加入希望者が予想外に多かったためで、社会保障催行庁は国民の加入希望者が手続きを容易に行なえるように、急遽全国に支店を多数オープンした。2015年にはさらに30ヶ所の新規開設が予定されている。社会保障催行庁は全国82の国有事業体に全雇用者を加入させるよう働きかけており、首都圏に事務所を持つ11社はやっとそれに応じたが他の71社はまだよい反応を示さないため、働きかけを強めていく意向であることを催行庁首脳陣が明らかにしている。2015年の加入者目標は1億7千万人という意欲的なものだ。
民間企業はと言えば、すべての民間企業に対して全従業員を加入させることを2013年大統領規則第111号第6条3a項は義務付けている。義務付けは2015年1月1日から開始されることになっているが、全国商工会議所内で労使関係を主管しているアピンドと、またそのパートナーである主力労組が、その適用開始を延期してほしい、と政府に申し入れた。アピンドが代弁する事業主の意向に関しては、多くの企業が従業員の健康保険を民間保険会社と契約しており、国民健康保障制度に移行するのであればタイミングをあわせなければ保険のダブル加入となって経費ロスが発生するというのが主な理由であり、おまけに国民健康保障制度は内容が未確定で流動的であり、保険給付の内容がはっきりしていないために比較検討すらできない、というのがその根拠になっている。そもそも会社と従業員間の労使関係は労働協約で相互の権利と義務が定められているところにもってきて、健康保障については国家が別の義務付けを行なってきたことで整合性に歪が生じており、労使は国の義務付けよりも相互尊重の意味合いから労働協約のほうを優先したいと考えている。つまり民間企業が任意に国の健康保障制度に加入することは自由だが、国が加入を義務付けるのは2019年1月1日まで延ばしてほしい、というのが事業主の希望だ。
インドネシア全労働者機構、インドネシア全国労組同盟、インドネシア労組同盟など労働界の主流をなす諸団体はアピンドの主張に賛同を表明しており、政府は特にフォーマルセクター労働者が享受してきたレベルの保険給付を絶対に低下させないようにしなければならない、と念を押している。
インドネシア大学社会保健学部研究者は、これまで民間保険会社で従業員の健康保険をつけていた会社に対して社会保障催行庁は国民健康保障制度への加入を強制しないほうがよい、とコメントしている。民間保険会社の給付で高いレベルの医療サービスを享受してきた勤労者が国民健康保障制度に移るよう強制され、かれらの多数がサービスレベルの劣化を実感して強い不満を抱いたとき、それが国民全体に政府の制度が低クオリテイであるという印象を植え付ける結果になることが懸念され、国民がその制度から続々と脱退して行けばたいへんなことになる、というのが同研究者の意見だ。
今現在、この制度加入医療所も増加してはいるが、そういう医療所でこの制度の加入者が大勢、長蛇の列をなしている光景も稀ではない。医療所と催行庁の管理サーバーがオンラインで結ばれていないことがその原因であり、そういった管理クオリティを引き上げていかなければフォーマルセクター勤労者が納得して国の制度に移ってくるとは考えにくい。義務や強制といったことよりも、クオリティを高めることのほうが先決問題であるのは疑いのないところだろう。


「安全性未承認輸入飲食品が市場で激増」(2015年1月6日)
人体に摂取される飲食品・医薬品やサプリメント・化粧品などの安全性を監督している食品薬品監督庁が2014年に市場で発見した違法商品は、2013年を大幅に上回るものになった。生産者や輸入者はそれらの商品を届け出て安全性検査を受けなければならず、検査をパスした商品だけが国内流通認可を示す番号を商品パッケージに記載することを許される。その番号がつけられていない商品は国の安全性検査を受けていないものであり、国民は国が安全性を保証しない品物を買ってはならないという告知が国民になされているのだが、実効性はどうもあまりないようだ。番号記載については、検査など受けないでも生産者や輸入者が好き勝手に適当な番号をパッケージに刷り込むことは可能だし、現にそのような手口が再三見つかっている。その結果、食品薬品監督庁はホームページに流通認可番号の検索ツールを用意したので、消費者はその番号が本当にその商品に与えられたものであるのかどうかをチェックすることができる。しかしどうやら、そこまで行なう消費者はほんのわずかでしかなく、大多数国民は番号の有無すら見ないで、価格だけを問題にしているようだ。
2013年に国内市場で発見され没収された非合法輸入商品は16,967パッケージ金額6.8億ルピア相当だったが、2014年には80,364パッケージ金額32.1億ルピア相当に激増した。スナック菓子・UHTミルク・シロップ・チョコレートなどがメインを占めている。原産国はマレーシア・タイ・中国・シンガポールなどで、多くが輸入通関なしにバタム島のネズミ港や他の地域の商業エリア経由で国内に入っている。最近は西スマトラ州パダンから国内に入っている品物が増えており、同庁はだれがどのようにして入れているのかを税関と警察の協力を得て調査することにしている。
そういった非合法活動と裏腹の合法なビジネス活動も増えてはいる。2014年に安全性検査の申請がなされたのは、国産品輸入品あわせて60,249アイテムにのぼる。国産品31,723、輸入品28,536というのがその内訳で、輸入品の多さに驚かされる。
2014年に安全性検査に合格して国内流通認可番号を得たアイテム数は次のようになっている。化粧品35,629件、飲食品12,192件、医薬品3,207件、伝統医薬品1,624件、食品サプリメント410件。
飲食品事業者連盟会長は非合法輸入品の増加について、食品薬品監督庁が活発な活動を行なっている成果であることは間違いないものの、違反者に対する制裁が軽すぎるために懲罰効果がほとんど効いていないように思えるとコメントした。「そのために違反予防システムを流れの最初から最後まで一貫してより細かに練り上げることが必要であり、また輸入品が国内に流入してくるポイントを関係諸機関を統合して厳しく監視することも必要だ。さらに輸入者はすべて登録輸入者にしてITライセンスを与える際に商業省がもっと厳選すること、特に国内に生産施設や恒久的な施設を持たない輸入者を厳しくチェックしなければならない。輸入者に輸入商品の安全性に関する責任をも義務付けなければならない。自分が輸入した商品の安全性に全責任を負うことを表明する宣誓書を出させるような措置を是非行なってほしい。」と会長は述べている。


「蚊の発生サイクルが短期化」(2015年1月8日)
西ジャワ州チアミス県一帯での観察で、デング熱やチクングニヤのウイルスを媒介するネッタイシマカの成育サイクルに変化が生じていることを保健省チアミス県研究所が報告した。チアミス県動物由来疾病抑制研究開発所長によれば、地球的環境変化に伴ってネッタイシマカの成育サイクルは一層短くなっており、蚊の個体数増加が激化するおそれが高いとのこと。
卵〜幼虫〜さなぎ〜成虫というサイクルはこれまで10日かかっていたが、ここ数年それが7〜8日に短縮する傾向を見せている。更に、蚊の体内に宿るウイルスの成育も速まっており、以前の一週間は今や3〜4日に縮まっている由。また蚊の発生は気温と密接に関わっているので、かつてバンドンに近い高原のレンバン地区にネッタイシマカは見られなかったというのに、今ではレンバン地区でもデング熱罹患者が大勢現われている。
デング熱やチクングニヤ熱の予防と治療の対策に現在起こりつつあるその変化を取り込まなければ、適切な対応方針は生まれない懸念がある、と同所長は強調している。たとえばこれまで政府は毎週金曜日に居住エリア周辺で水溜りをなくしたり水の容器にふたをするといったネッタイシマカの駆除国民運動を行なっていたが、一週間に一度ではなく5日に一度という形に変えて行かなければ蚊の成虫を減らすことができなくなる、と所長は言うのである。
しかし研究者の中には、蚊の成育は地域性が高く、ある地域で起こった変化が全国一律に起こるというものではない、と異論を述べる者もある。地域開発の進度にも影響されるものであり、人口が稠密になっていけば、蚊の個体数の増減にも影響が生じる。たとえばチアミス県の隣にあるパガンダラン県はかつてマラリアを風土病とする地区だったが、住民人口が激増するとともにマラリアの発症は激減したことをその研究者は例にあげている。


「ゴミとインドネシア人」(2015年1月15・16日)
インドネシアで生活すると、インドネシア人のゴミに対する関わり方の実態がよく見える。自動車専用道を走行中の車両の窓からゴミがポイ捨てされ、河川の水門では水面が見えないくらい漂流ゴミに埋め尽くされ、住民居住区の周囲に空地があればそこはゴミ捨て場にされ、また海に近ければ海原がゴミ捨て場にされる。
ところが、自国でそんなことをしているインドネシア人がシンガポールや日本やオランダなどへ行くと、かれらはゴミをちゃんとゴミ箱に捨てるのである。そしてインドネシアに戻ってくれば、スカルノハッタ空港から自宅に向かう車内から自動車専用道にゴミをポイ捨てする行為がまた復活する。つまり、かれらの血肉となっている文化行動の発現と、異文化異価値観に支配されている場所での適応姿勢というものが、そこに如実に示されていると言えるにちがいない。
ゴミ処理の社会的なメカニズムが確立され、しかもそれが正しく運営されることができなければ、ゴミ処理は個人の問題になってしまう。個人がゴミ処理をしようとするなら、インドネシア人が行っているようなものになる確率がきわめて高い。インドネシアのゴミ問題というのは、インドネシア文化の中にある公私観念に由来しているものであり、それを完全に社会の中で処理しようとする意志が国の中で確立されていないことがその根本原因だろうとわたしは考える。インドネシアの公観念が発育不全であることが、そこにも影を落としているにちがいない。
ジャカルタは社会システムとしてのゴミ処理がかなりのウエイトで住民生活の中に入り込んで来ており、個人のゴミ処理に関する負担はまだ小さいと言える。地方部で暮らしてみれば、ゴミ処理の社会システムがジャカルタとは大違いであることに気付くだろう。バリ島の田舎の村にはゴミ収集システムなど爪の先ほどもなく、各家庭が家庭ゴミをオートバイに乗って空地に捨てに行く。それが嫌なら自宅で焼くしかない。近在のパサルの大きなゴミ箱にゴミを捨てていたら、ある日「地域住民以外はゴミを捨てるな」という貼紙に驚かされた。社会としてのゴミ処理システムがないために、せいぜい集落や地区単位でしかシステムが作られない。そのシステム運用には出費がつきまとう。集落の外の人間に勝手にただ乗りされてたまるか、というのがその本音であるにちがいない。インドネシアでゴミというのはそういう存在なのである。
ゴミ処理が公的社会的なメカニズムに向かわない原因のひとつに、末端部分でのゴミ収集が完璧に公で固められておらず、私に大きく依存している面がある。ジャカルタでも、ほとんどの住宅地区を毎日ゴミ収集にやってくる大きな荷車を引いたゴミ収集人はその私の部分だ。ゴミ収集人に地元政府からお涙金が出ているとかいないとか、その辺りの真実はわからない。かれらの収入源は各家庭が毎月払うゴミ費用であり、あとは収集したゴミの中に売れる物があるかないかだが、売れるゴミはその前に大きなズダ袋を引っさげたクズ拾いが何人も何人も住宅地を回って拾い集めているから、ほとんど期待はできないにちがいない。大きな荷車に積み込まれた住宅地区の家庭ゴミは定められた場所まで運ばれて行き、そこに地元政府が運行させているゴミ収集トラックがやってくる。そこからやっと公的システムが始まるということだ。ジャカルタはそうなっているが、地方の集落単位でやっているゴミ収集に地元自治体のゴミトラックがやって来るようなメカニズムになっていないならどうなるのか?まとめて空地に捨てられるだけなのである。
バリの田舎の村にはそんな収集システムさえ作られず、すべてが個人に任されている。バリの田舎に住みたい日本人も少なくないようだが、雇った女中にお任せということになるのが関の山かもしれない。
コンパス紙R&Dが2014年12月6〜7日に17歳以上の首都ジャカルタ在住者535人に電話インタビューして集めたゴミに関する姿勢の統計がある。住民にとっては、自分の生活環境ホライズンからゴミが美しく姿を消してくれることが希望のトップなのであり、このサーベイはそういうフェーズにおけるものであることを頭の片隅に置いておく必要があるだろう。
質問1.毎日出る家庭ゴミをどうしていますか?
回答1.
 ゴミ収集者に持って行ってもらう 90.8%
 焼く 6.5%
 リサイクル 1.7%
 川やドブに捨てる 0.7%
 土中に埋める 0.3%
質問2.「減らす・再使用する・リサイクルする」という3Rゴミ処理原則について知っていますか?
回答2.イエス 53.5%、 ノー 46.5%
質問3.あなたの居住環境内で行なわれているゴミ処理システムは良いですか、悪いですか?
回答3.良い 62.8%、 悪い 37.2%
質問4.過去二年間について、都庁が行なっているゴミ処理政策は効果をあげていると思いますか?
回答3.効果が上がっている 48.6%、 まだない 46.5%、 不明・無回答 4.9%

都庁清掃局によれば、都民が毎日出すゴミは一日あたり7千トンあり、都庁のゴミ処理プロセスに乗ってくるのはそのうちの5千5百トンで、1千5百トンは都民が自分で処理したり、あるいはゴミ回収業者の手に渡っている由。
過去二年間に都庁が行なってきたゴミ処理システム改善は、ゴミ収集トラックの増加、ゴミ中継所の増設、インシネレータ5基の購入などで、回答者の居住環境からはあまり見えない場所で行なわれているのがメインだ。街中からのゴミ搬出にトラブルが起こってゴミがあふれてみたり、あるいは洪水でゴミの海になったりということが起こらなければ、都庁のゴミ対策でどのような効果が生じているのかはわかりにくいにちがいない。
都庁も住民側にゴミを減らすことを求めており、3Rの実践や近年評判を呼んだゴミ銀行などのアイデアを実現させて欲しいところだ。都内の各RT(隣組)にゴミ銀行を設置するという目標を掲げたものの、たとえば西ジャカルタ市の56町の中でゴミ銀行が設けられたのは7町しかない。
都民のほとんどはゴミを速やかに自分の視界から消えていくべき物という昔ながらの視点から見ており、そのゴミを自分で再利用せよのリサイクルせよのとは聞けません、というのが本音だろう。ましてやゴミ銀行などという、自分の生活環境内にゴミの貯蔵場所を設けるのと大差ないことが行なわれるのなら、それは悪臭不衛生公害であると反対するに決まっている。インドネシア人のゴミに対する意識変革に向けて、都庁は文化キャンペーンを打たなければならないにちがいない。


「挑戦的なタバコの宣伝」(2015年1月21日)
2014年10月13日付けコンパス紙への投書"Iklan Rokok di Televisi Melecehkan Pemerintah"から
拝啓、編集部殿。あるタバコメーカーがテレビの宣伝で、喫煙リスクの警告に関連して政府を侮蔑しています。その宣伝では、警告アイコンのひとつである骸骨を背景にして喫煙しているひとの姿を映し出しており、その骸骨が生きて動いているのです。それはあたかも、喫煙リスク警告などには何の意味もなく、喫煙するのは正しいことなのだと物語っているように見えます。
もちろん、タバコ産業だけが政府の決まりを守らないということではありません。しかし喫煙と健康へのリスクというコンテキストにおいては、国はタバコ産業に屈してはならないのです。まだ幼い時期からタバコ中毒に誘い込まれた子供たちの未来を犠牲にしては国の意味がありません。かれらはタバコの宣伝を見て喫煙を始めています。テレビで嘘と死を売り込む宣伝は統制しようのないほど大量に流されているのです。
タバコの宣伝を禁止し、パッケージに喫煙者が実際に蒙る肺ガンなどの画像を掲載させる等の方法で国が喫煙のリスクから子供たちを守るのは今をおいてありません。政府はタバコ税を可能な限り高くして、子供たちや貧困者がとても買えないようにしてください。[ 南ジャカルタ市在住、ドラリス・リアウアティ ]


「ハンセン病撲滅への長い道」(2015年1月28日)
インドネシアは2000年にハンセン病消失国に認定されているが、国内での伝染は継続して発生しており、中でも14州で罹患者数が顕著に増加している。保健省直接伝染病抑制局長は、消失国というのは非汚染国という意味でなく、住民人口1万人当たりの罹患者数がひとりに満たないという定義であるため有病者が存在しており、そこから伝染が拡大しているのが現状である、と説明している。罹患者の多い14州とは、バンテン・アチェ・中部スラウェシ・東南スラウェシ・東ジャワ・南スラウェシ・西スラウェシ・北スラウェシ・ゴロンタロ・マルク・北マルク・パプア・西パプア・北カリマンタン。残る20州が消失州だ。
東ジャワ州では2014年に4,132の新規罹患件数が観測された。保健省は国内全州が2019年までに消失州となり、県市レベルは2024年までに全国のすべてを消失地区にするというロードマップを描いている。
ハンセン病新規罹患者数でインドネシアは世界第三位になっている。2012年データでは、インド134,752件、ブラジル33,303件、そしてインドネシア18,994件という順位。インドネシアの2013年は16,856件で、人口10万人中6.79件となっている。
ハンセン病は、抗酸菌の一種であるらい菌が皮膚や末梢神経その他の系統を侵すことで発症する感染症で、脳を侵すことはない。しかし世の中では、遺伝・呪い・魔術にかけられた・食べ物のせい、などという迷信が一般に信じられており、罹患者は烙印を捺されて差別を受けるために世間から引きこもるひとが多く、治療の道をみずから閉ざす傾向が強い。この状況が保健省のハンセン病対策の障害となっており、罹患者の早期発見と治療への説得、そして治癒に至るまでの監視と激励といったことにエネルギーを注がなければならない。
保健省はハンセン病の伝染防止にたいへん効果のある化学予防法を発見しており、2012年にいくつかの地方で試験的に行なわれた化学予防法で伝染件数を22%まで低下させるという大きな実績を挙げた。この予防法では罹患者と同居している者・職場の同僚・その他罹患者と関わりを持つひとびとに週20時間以上軽い量の薬を与える方法が採られ、罹患者もそれまでの日常生活を継続して営むことができる。しかしこの方法はまだ全国での標準対応法に指定されておらず、更にいくつかの調査研究がまだ残された課題になっている。


「エイズ赤信号が点灯」(2015年1月30日)
東ヌサトゥンガラ州でHIVが猛威をふるっている。公表されている統計では3,014人という罹患者数だが、地元民の考え方やビヘイビアを知るひとはそれが氷山の一角でしかないという見方を採るのが普通だ。現実に、3,014人という数字は州内の多数の県市に分布し、年齢ブラケットや職業別にも広範に分散しているため、きわめて広範囲に伝染が進行していると見られている。中でも、医師や家庭の主婦に罹患者がいることが伝染拡大の推進力になる、として懸念されている。
HIV/AIDS対策機関は地元各県市行政がこの問題をあまり深刻に受け止めていないことに不満を感じている。行政地区別ではクパン市が650件、ベル県471件、シッカ県356件、フローレスティムール県220件、ティモールトゥガスラタン県165件といった内容で、その中には赤児が105人混じっている。
住民に対してHIV/AIDSの検査とカウンセリングを行なう施設はまだ各都市部中心地区にしか設けられておらず、たとえばマンガライジャヤ地区を構成しているマンガライ県・マンガライバラッ県・マンガライティムール県ではマンガライ県ルテンの町にしか施設がなく、そこには診療室と2千1百万ルピア相当の設備しか備えられていないありさまだ。防疫体制が充実して行かないのは、住民のそういう施設を利用する意欲がきわめて低いことと表裏一体の現象であり、住民の意欲が低いのは社会からある種の烙印を捺されることを怖れるからだ。
インドネシアは長い年月をかけて全国に保健所を設け、既に9千5百ヶ所に置かれて国民の医療と保健衛生の底上げをはかっているのだが、HIV/AIDSもその対象領域に含められるようにしなければ国民への蔓延を防止するのは難しい。「そのための人材育成として、当方はHIV罹患者の発見とその対処法について、多くの医師や看護士への教育を進めている」とクパン地方総合病院長はコメントしている。
クパン市在住のHIV/AIDS問題専門家は、東ヌサトゥンガラ州における疾病蔓延は既に赤信号の段階に入っている、と語る。「家庭の主婦・子供・農民・未婚の青年層にまで罹患者が広がっている。この絨毯型拡大は、マッサージプラスやホステスが待ち構えている曖昧ワルンのようなセックスと娯楽の合体した産業が州内隅々にまで拡大したことに付随して起こっている。住民行政は学校での啓蒙教育やコンドームの使用をもっと奨励する活動を行なう一方、罹患者に対する対応態勢を充実させなければならない。」同専門家はそう提案している。


「看護士界に不安の影」(2015年3月24日)
インドネシアは日本に看護士介護士を送り出す絶好のチャンスを得ているというのに、その機会を真剣に獲得しようとしていない、と日本を訪問したユスフ・カラ副大統領がコメントした。日本でその職に就くための候補生が大勢、日本に行っているが、職業能力レベルが低いために日本の資格が取れず、与えられた期間が過ぎれば帰国せざるを得ない。その問題について、インドネシア政府も状況改善のために尽力する意向であると副大統領は続けた。国際スタンダードの職業能力を身に着けること、そして日本で働くのに日本語が使われるのは当然であり、インドネシア人看護士介護士の日本語能力もより高いものにしなければならない。
ちなみに、2008年5月から開始された日本とインドネシアの政府間協定をベースにする看護士介護士派遣と日本の資格取得による就業継続の制度では、2014年末までに派遣された看護士は481人、介護士は754人で、年々の推移は次のようになっている。これは出稼ぎ者配備保護国家庁のデータによる。
2008年 看護士104人 介護士104人 合計208人
2009年    173人    189人   362人
2010年     39人     77人   116人
2011年     47人     58人   105人
2012年     29人     72人   101人
2013年     48人    108人   156人
2014年     41人    146人   187人
副大統領に付き添った駐日インドネシア大使もそれに関して、現在のやり方は効果が薄いため、日本側がインドネシアに学校を作り、そこで1〜2年教育してから優秀な人間を日本に送り込む形を採るほうがよいのではないか、と提案したことを明らかにした。その具体策について、人間と文化開発統括省が検討を進めることになっている。
一方、看護士の団体であるインドネシア全国看護士ユニオンは副大統領の表明に応えて、政府は看護カウンシルを早急に設立させることがインドネシアの看護士界に国際スタンダードを根付かせる最有力手段であることを訴えた。現在インドネシアの看護士資格は保健省が掌握しており、クオリティ面での国際的アプローチはあまり熱心でない。たとえ政府がグローバルスタンダードを基準として定めても、世界の看護士コミュニティとのつながりがほとんどないのだから、日進月歩する世界の動きに遅れながらついていくのがやっとだ。その状態から早く脱して、既に設立が決定事項となっていながら2016年10月までの時間的猶予の中で様子眺めになっている看護カウンシルを早急に設立し、カウンシルがグローバル看護界と連絡を取りながらインドネシアの看護士クオリティ向上と資格認定を行い、職業能力レベルが世界中で認められるようにしなければならない。そうすることによって、日本で就労しながら資格取得することに失敗して帰国する看護士の数を減らすことができる、とユニオン事務局長は語った。
看護カウンシルというのは看護活動のクオリティを確立させ監視する独立機関で、世界に認められるもの、という定義になっている。インドネシアでは看護に関する2014年法律第38号で、看護カウンシルは2016年10月までに設立すると定められているが、具体的な動きはまだない。2015年12月31日にスタートするアセアン経済ソサエティで域内就労自由化が行なわれることになっており、インドネシア人看護士は他国での就労が困難な一方、国内では諸外国の看護士との競争に直面しなければならなくなる。
看護士カウンシルとは別に、医療活動従事者に関する2014年法律第36号でも、医療従事者カウンシルの設立が定められている。この医療従事者カウンシルは各医療部門および看護カウンシルをその下部組織として包含するものであり、下部組織となる機関が設立される前に医療従事者カウンシルが設立されては順序がおかしくなる。
インドネシア看護士ユニオンは国際世界で認められたインドネシア唯一の団体になってはいるが、国内法では看護カウンシルがその立場に立たなければならない形にされている。ところが政府保健省は看護カウンシルの設立に関する具体的な話し合いすら看護士ユニオンに対して呼びかけてこない。ユニオン事務局長は看護士界の置かれている状況に強い不安を感じている。


「大気汚染最悪都市はスマラン」(2015年3月24日)
生活環境森林省が公表した2014年都市大気汚染状況によれば、スマラン・タングラン・メダン・マカッサル・バンダルランプン・バタム・サマリンダ・バンジャルマシン・プカンバル・マタラム・ジャヤプラ・パンカルピナン・バンダアチェ・タンジュンピナンが炭化水素の立米あたり限界値である160umをオーバーしていた。その中のトップはスマラン。
ジャカルタはどうかと言えば、炭化水素とPM10および硫黄の測定が5市でなされたが、いずこも限界値の中だった。しかし全国45都市の測定結果は概して汚染がひどく、その原因を自動車燃料に求めることができるようだ。たとえば補助金付き石油燃料のひとつソラル軽油は硫黄分を3,500ppm含んでおり、補助金の付かないプルタミナデックスは200ppmでしかない。そのため、政府は大気汚染対策としても、ユーロ4標準に合致する補助金なし石油燃料へのスイッチを必須事項として進めて行かなければならない、と生活環境森林省デピュティは述べている。


「民族衰亡に導くエイズ第五の波」(2015年4月24日)
インドネシアにおけるHIV/AIDSの伝染は、ハイリスクグループからローリスクグループへとパターンの変化が起こり、対策を難しいものにすると同時に罹患者の数も安定的な増加に向かっている。1987年にインドネシア人最初の罹患者が報告されたとき、そのパターン推移は既に予測されていたと保健省疾病抑制環境衛生総局長は語る。
2014年9月までの累計で、罹患者グループのトップは家庭の主婦6,539人、次いで自営業者6,203人。それらはローリスクグループに属すと考えられている。ハイリスクグループの筆頭は売春婦だが、売春婦は2,052人でグループ別では第6位でしかない。
エイズ流行の第一波は1987〜97年に起こった。ホモセックス男性がその第一の波を形成した。1997〜2007年の第二波は、ナルコバ使用者の注射針が媒体になった。2007〜11年の第三波では、ヘテロセックス特に売春婦を経由するパターンが優勢になった。2011年を過ぎたころからパターンが変わり、第四の波が押寄せてきた。低リスクであるはずの家庭の主婦を筆頭に、罹患する可能性が低いと見られていたひとびとが罹患者になる現象が激増したのである。特に家庭の主婦は、利患者数が毎年倍増を繰り返している。
家庭の主婦が罹患者になるケースは、パプア州が先行した。パプアではナルコバ使用者の罹患があまり多くなく、第二波は不発の様相を呈し、2000年ごろから第三のパターンがスタートを切った。2014年9月データによれば、パプア州のエイズ罹患者数累計の多さはジャカルタ、東ジャワに続く第三位だった。実数としては16、051人いる。ところが人口比を見ると、10万人中566.5で有病率は全国一になっている。男女比はほぼ同じであり、家庭の主婦が大変多いことをそれは表している。
インドネシア全体が概して父権制度文化を培ってきたのと同様で、パプアも例外ではなく、パプア島に住む276の種族は多かれ少なかれ父権制度文化の中にあり、妻は家の中で家政を整え、夫は家の外で糧を得てくるという分業が常識とされている。夫が家の外で売春婦に性欲を発散させるのは夫の権利とされるために、妻がそれを批判し禁止するのは己をわきまえない姿勢と位置付けられ、その結果、売春婦が持っていた病気を夫が妻に媒介することは当然のように起こっている。売春婦が持っている病気を複数の男に移せば、その数だけ妻たちが罹患するという数式がそこにできあがるのである。インドネシアの家庭の主婦は8千万人いるが、売春婦は20万〜30万人程度と見られており、またエイズ罹患者数も家庭の主婦のほうがはるかに多い。この流れを防止するために政府ができることは、コンドームの使用を推奨する程度でしかない。家庭の主婦はインドネシアの将来を担う大きな役割を背負っている。第四の波を放置すれば、次に来る第五の波は大量のエイズ罹患赤児たちなのだから。


「フォルマリン含有絹ごし豆腐」(2015年4月27日)
食品薬品監督庁(BPOM)と国家警察犯罪捜査局の合同捜査班がボゴール県ボジョングデにある大型豆腐製造工場をフォルマリン使用の疑いで捜査し、ガソリン缶7本分の液体フォルマリンと粉末フォルマリン1袋を証拠品として押収した。2015年4月22日13時ごろ抜打ちで行なわれた工場内立ち入り捜査では、そのとき作業員たちはちょうど白色絹豆腐の製造中で、巨大な器に入った材料を撹拌し、成型し、カットして包装する作業が行なわれていた。捜査班が工場内に入ると、BPOM職員が即座に製品と製品を置いてある桶の液体を採取し、それにフォルマリン検出液を混ぜ合わせた。そしてほぼ5分後に色が白色から紫色に変わったことから、その工場が生産している豆腐製品はフォルマリンが用いられていることが実証された。
BPOM食品薬品捜査センター長は、「工場オーナーが食糧に関する2012年法律第18号の違反を冒してきたことは明らかであり、この工場は閉鎖され、工場オーナーは法的プロセスに服すことになる。この罪状は最高5年の入獄と最大100億ルピアの罰金刑に該当する。」と述べている。
BPOMはしばらく前から都内のいくつかのパサルでフォルマリン含有豆腐を発見し、その出所の調査を続けていくうちにボゴール県ボジョングデ郡ラガジャヤ村の工場から出荷されているものであることを突き止めた。そして、疑惑を立証するために合同捜査班が工場内立ち入り捜査を22日に実施したというのが今回の摘発劇だ。
この工場は4年ほど前から毎日18クインタルの豆腐を生産してジャボデタベッ地区に広範に配送を行い、豆腐一切れ2千ルピアで販売して一日1千9百万ルピアの売上を得ていた。工場はラガジャヤ村の住民居住地区から少し離れた場所にあり、工場側は製品にフォルマリンが使われていることを秘匿していた。作業員もそれにまったく気付いておらず、作業員のひとりは製造過程で泡立つと化学薬品を混入させて泡をなくすようにしていたと語り、フォルマリンとは思わなかった、と述べている。
その工場から毎日豆腐百個を仕入れてデポッ市チタヤムにある自分の売店で販売していた商人は、フォルマリンが人体に危険なことを知っているが、自分の扱い商品がフォルマリン含有なのかどうかを見分ける方法がわからない、と語っている。


「食品素材のリサイクルは悪辣な犯罪」(2015年4月28日)
ブカシ市警本部は北ブカシマルガムリアのラワブゲル地区にある民家を2015年4月14日に急襲し、健康上不適切な材料を使って行なわれていたスナック用調味料の製造活動を摘発した。そこで製造されていた揚げ物に降りかける味付け粉末調味料、チーズ味やトウガラシ味の調味料などは、使用期限をはるかに超えた材料を集めて作られており、警察はその製造場所からチーズ粉末やふりかけ粉末など1.7トン、麺形スナック2百キログラム、粉末砂糖25キログラムなどを押収した。材料の中には既に変質して臭くなったものや、虫が湧いているものなどが含まれていた。それらの使用に不適切な食材は、廃棄されるべきものを廉く買い取って集めてきたものと見られ、その民家に置かれていたものがどのくらい古くなっているのかはまったく想像がつかない、と警察はコメントしている。そこで作られていた製品は廉いがゆえに学校周辺の路上おやつ売りや繁華街の道端屋台などで多く消費されていたのではないかと見られているが、モール等の食堂街で使われていないことを保証するものも存在しない。
1994年からその事業を行なっていた製造者のCは即時逮捕され、その家で働いていたCの使用人ふたりは証人として警察が事情聴取している。Cは1999年法律第8号消費者保護法第62条および2012年法律第18号食糧法第140条142条の違反者として送検されることになりそう。
Cの隣人である49歳の婦人は記者の取材に応じ、自宅で作る軽食にそこで作られているふりかけ調味料を1キロ1万ルピアでときどき買っていたことを明らかにしている。「わたしもそれを食べていましたけど、わたしは別になんともなかったですよ。」というのがかの女のせりふだった。
それに先立つ4月13日、都庁BPOM総館はインドネシア児童保護コミッションとの協力下に、東ジャカルタ市ラワマグン地区の3小学校と1中学校のキャンティンで販売されている食品の安全検査を実施し、繊維用黄色染色料メタニルイエローが使われているものがあることを発見した。
ジャカルタ第74国立中学で採取された10種のサンプルの検査では、赤色プリンからその有害染色料が見つかった。そのプリンについては、第9国立小学校の8歳の女生徒からの「苦い味がする」という訴えで検査の焦点が当てられている。この日の検査では、飲食品に通常含有されている四大危険物、繊維用赤色と黄色の染色料と防腐剤のフォルマリンおよびボラックスの検出がテーマとされた。BPOM総館長によれば、2012年に全国の学校2万3千校で生徒が生活環境内で購入するものを検査した結果、危険物含有品が11%発見されたが、2014年にはそれが9%に低下したとのこと。
一方、タングラン市では、市警本部ナルコバユニットが有害ソースを製造している民家を摘発した。市内チポンド郡タマンジャヤ住宅地内の民家のひとつで防腐剤や繊維染色料などを使ったソースが生産されており、近隣住民から廃棄物の悪臭に苦情する抗議が警察に出されていた。警察は4月22日にその民家に立ち入り検査を行ない、そこで使われていた有害材料多数を押収して事業主50歳を逮捕した。近隣住民の中には、そこで作られたソースを摂取して多くの子供たちが具合を悪くしている、と物語る者もあった。


「真の健康は台所に在り」(2015年4月29・30日)
ライター: 医師、健康モチベータ、ハンドラワン・ナデスル
ソース: 2015年4月7日付けコンパス紙 "Kesehatan Sejati Ada di Dapur, Bukan di Restoran"
世界保健機構は2015年4月7日の世界保健デーのテーマに「食品安全」を採り上げた。世界のどこに住んでいようとも、現代人がかかる病気のほとんどすべては、不適正な食品を食べていることに起因している。メタボリックシンドロームばかりか、ガンでさえ食品が発生要因になっているのだ。
食べ物が不潔であるために下痢や食中毒が多発しているという負担を世界は背負っている上に、食品添加物の使用が食品産業界に溢れかえって統制不能状態に陥っており、更に災難なことに、現代人の味覚嗜好は栄養不在のメニューに傾倒している。
< 清潔・安全・栄養 >
食品安全に世界中のどの国もが関心を払っているというわけではまだない。家庭内で皿にのって出てくる食品のすべてが身体に安全だというわけでは決してないのだ。食材がどのように栽培あるいは養殖され、育てられ、殺虫剤が散布され、肥料や飼料が与えられ、屠殺され、輸送されているのか?そのすべてが人間の健康に良いようになされているかどうかはさておき、少なくとも安全であるかどうかを確言することができるだろうか?
ガドガドに例えて言うなら、各食材はそれぞれが栄養を備えているとしても、それぞれが同じように清潔で安全かどうか?野菜類はオーガニックで、化学肥料は使われなかっただろうか?ピーナツは糸状菌による腐敗のために肝臓ガンの発症原因となるアフラトキシンを含んでいないだろうか?豆腐やトラシ(蝦醤)にはフォルマリンが混入されていなかっただろうか?クルプッの紅色には、やはり発がん性の高い繊維用染色料ロダミンBが使われていなかっただろうか?インドネシア社会はいまだに、国民自身が知らないところで、ましてや意識さえしないまま、そういった危険に取り囲まれているのだ。
食品を通して人体に摂取された有害有毒な毒素が引き起こす食中毒は、劣悪な衛生や国民個人個人が持つ清潔さの規準が低い点に対して国家政府が引き受けなければならない責任だ。汚染された飲食品に起因する10項目を超える下痢発症要因がインドネシア社会を取巻いており、大都市すら例外でない。
昼食を飯屋ワルンやレストランで摂っているわが国のミドルクラスにとって、食事の栄養価や清潔さばかりか、食品安全のレベルも疑惑のタネだ。仮に、かれらが衛生的な店を選ぶことができたとしよう。しかし揚げ物に使われた油はどうだったのか?化学調味料はどのくらい使われたのか?塩加減はどうだったのか?健康を増進させるような内容になっていなかったとすれば、病気を発症させる内容になっていたかもしれない。たとえば高血圧は、身体が必要とする塩分を超えて食塩の摂取がなされるために起こっているのだ。
清潔さが欠如し、台所ゴミの病菌に汚染され、あるいは屋台販売の食品取扱者が素手で食品を取扱うような場所のメニューは概して安全さが劣っている。売られている冷えた果実はたいてい、川の水が持っている大腸菌に汚染されている。インドネシア人の腹はまだ幸運だ。汚染食品を頻繁に食べているためにみんな抵抗力が強い。シンガポール人や、それ以上にヨーロッパ人の腹は無菌状態だから、インドネシアの飲用水ですら、かれらには腹を下すリスクに満ちている。ましてや、何の配慮もせずに作られたクトプラッ(ketoprak)やルジャッチグル(rujak cingur)を食べたりしたら、どうなることか。
発ガンリスクの高いメチレンイエローやロダミンBで染色された派手な黄色や赤色のシロップを毎日飲んでいる学校生徒たちの十年後の運命を想像すると、身の毛がよだつ。かれらはまた、既に使用が禁止されている人造甘味料の混ぜられている菓子を食べているかもしれないし、あるいはあるTV局が報道している特別取材番組に見られるような、小中学校周辺で子供たちに販売されている食品はレストランやホテルの厨房のゴミクズで作られているという話は、実にわれわれを辟易させてくれる。生徒たちの飲食物は自宅から学校へ持って行くようにさせろというアドバイスは根拠のあるものなのだ。
揚げ物スナックは油だけが安全性を疑わせるものなのではない。熱した油にプラ袋を溶かし込んで揚げ物がカリカリに揚がっているように見せかける手口がある。プラスチック素材はガン発症要因であるカルシノゲンだ。レストランでさえ、持ち帰り用に熱い汁をプラ袋に入れ、熱い食品をスチロフォーム容器に入れる。人体の健康は無視されている。家の外にあるメニューに安全なものほとんどない。
ファーストフードメニュー嗜好によって形成された現代のXYZ世代(プラチナジェネレーション)を見るがよい。今や健康食品として脚光を浴びている先祖伝来メニューのロデ(lodeh)、ペペス(pepes)、ララパン(lalapan)を好まず、隠れた栄養不良世代を生み出すものと見られている。
かれらは実際に体格はよいのだが、よく調べてみれば、一部栄養素の欠如したジャンクフードが日々のメニューになっているため、いくつかの栄養素が不足していることがわかる。西洋風メニューに傾倒する社会で一般的な現象がそれだ。幼い時期から、古来伝統のメニューにかれらの舌をなじませなければならないのである。
食品薬品監督庁の最近の調査で、パサルで販売されている食品や食材の中に安全でないものが依然として見つかっている。麺・足肉・豆腐・肉団子・海産魚・死んだ鶏の解体肉・・・。それどころか米粥ですら、とろみを増すために安全でない化学薬品が混入されている。塩魚には殺虫剤が散布され、製氷所では煮沸されないままの自然水で氷が作られている。
< 民衆の利口な選択 >
安全でない食べ物のリスクから保護されるべき国民に幅広く届かせるだけの長い手を政府は持っていない。悪辣な飲食品家内工業がたくさん広域に林立して危険な飲食品を作っているものを、どうやって逐一見張れと言うのか?大型レストランですら、衛生面で完璧さを期待することはできない。トイレの前の床にブロック氷を直置きし、皿を浴室のそばで洗っている。
清潔な生活パターンがいまだ全国民に行き渡っていない。栄養観念が足りず、汚染を防ぐ能力に不足しているのが国民の大部分なのだ。ハートでなく、頭を使って食べる習慣を国民の間に形成させるのが現在の課題なのである。すべての先進国で行なわれているように、義務教育の中に保健教育カリキュラムを挿入しなければならない。食事は空腹を満たすことだけが目的なのでなく、清潔・安全・栄養といった要素がはるかに重要なことがらになっている。それは勤労者が家からオフィスに昼食用の弁当を持参するための別の理由でもある。
国民には教育を与え続けなければならない。鍵は指導面にある。健康のための飲食品選択をどのように行なうべきかについての国民教育にマスメディア・ラジオ・テレビは最適な媒体だ。国民が利口な選択を行なうかぎり、危険で不潔で栄養の欠如した食品は購買者がいなくなり、おのずと廃業していくにちがいない。しかし需要がなくならないかぎり、国民の益を損なう製品は生産され続けるだろう。無知であるがゆえに国民はそれらの不健康なものを買っている。健康をもたらす食糧を利口に選択する国民の育成を並行して行なわないかぎり、政府がいくら悪徳食品産業を取締っても、いたちごっこが続けられるだけだ。
誤ったライフスタイルが選択されたがゆえに、今後十年の間に4億人が発育不全で死んで行く(2008年シドニーレゾルーション)。不適切なライフスタイルのひとつが、この誤った食事の摂取なのだ。野菜(植物性食物)よりも肉(動物性食物)のほうが豊かなメニューはガンと共にメタボリックシンドロームを増加させる。人間の身体の本性にそぐわない食物を摂取するからだ。
人間の身体的本性は野菜と果実をより多く必要としており、肉は少なくてよい(メディテラニアンダイエット)。ところが現代人は野菜や果実よりも肉のほうを多量に摂取している(タイガーダイエット)。そのため病に冒されて百歳の長寿を保つ日本の漁師、沖縄人よりも早死にしていくのである。
世界の医学界(ハーバード医科大学)は沖縄の漁民から長寿の秘訣を学んだ。ビフテキでなく、米・テンペ・豆腐・魚・サユールロデ(sayur lodeh)・ララパンが人間を健康にしていたのだ。ドーナツでなく茹で芋なのであり、輸入果実でなく国産果実であり、粒状砂糖でなくてグラジャワ(gula jawa)であり、小麦粉でなくて小麦だったのである。
食品産業界が何百種もの化学物質を使用するようになったことで、世界に歪がもたらされている。われわれが摂取する飲食品の中に種々の汚染物質や安全でない素材を含んでいるものが混在するのを防ぐのは、もはや至難の業となっている。日常メニューを自分の手で用意するように選択するのがわれわれの採るべき姿勢ではあるまいか。素材のクオリティが明らかで、健康に危険をもたらす添加物も明確に排除され、安全な調理加工方法が用いられ、そして味覚も嗜好に沿ったものになる。真の健康は、レストランでなく、自宅の台所にあるのである。


「一番怖い病気はガン」(2015年5月1日)
インドネシアの首都ジャカルタは国内の他の都市や地方にないものがたいてい揃っている。商品にしろサービスにしろ、この格差はきわめて大きいため、他の国ではなかなか想像しにくいもののひとつであるにちがいない。なにしろ全国の資金の7割以上がジャカルタに集中しており、それだけとっても首都圏住民の購買力は他地方より圧倒的に高いため、ビジネスはジャカルタで行なうのがインドネシアでの常識になっているし、それがアーバナイゼーションの駆動力にもなっているのである。
医療インフラについてもそうだ。2013年のデータだが、ジャカルタには130の病院があり、総ベッド数は2万2千にのぼる。医療活動従事者の層も厚く、人口10万人に対して医師の人数は156人おり、それを凌駕する地域は全国のどこにもない。そんなジャカルタであればこそ、病人の数も圧倒的に多いのだが、この種の統計は病気というものに対する個々人の考え方と、それをサポートする医療環境の影響を受けるため、単純な比較は無理があるに決まっている。わたしが言いたいのは、病人数の統計が小さいからと言って、そこの住民がみんな健康な生活をしている、などという結論に飛びつくことはできないということだ。
さて、コンパス紙R&Dが2015年4月1〜3日に17歳以上の都内住民622人に電話インタビューして集めた統計を発表した。それによれば、本人や自分の家族が罹ることをもっとも心配している病気の筆頭がガンであることが明らかになった。
質問1)あなたやあなたの家族が罹ることを心配している病気は何ですか?
回答1)ガン36.4%、心臓病31.5%、デング熱8.0%、糖尿病5.5%、卒中3.4%、その他15.2%
この質問は回答者の性別で顕著な差が見られた。ガンを一番怖れているのは女性であり、一方男性は心臓病がガンを抑えてトップに上っている。
男性:心臓病37.2%、ガン31.6%、デング熱7.8%、糖尿病4.1%、卒中4.1%、その他15.2%
女性:ガン40.0%、心臓病27.2%、デング熱8.2%、糖尿病6.5%、卒中2.8%、その他15.3%
保健省によれば、ジャカルタのガン有病率はたいへん高く、2013年は人口1千人中で1.9人となっており、全国第4位だった。全国平均は1.4人だ。第二位の心臓病については、心臓病および動脈疾患の罹患者は年々高い伸び率を示している。15歳以上を対象にした冠動脈不全有病率はジャカルタで1.6%あり、全国平均の1.5%を上回っている。
質問2)あなたやあなたの家族が入院したことのあるひとで、入院の原因になった病気は何でしたか?
回答2)デング熱27.7%、チフス15.3%、盲腸7.2%、下痢4.3%、胃3.8%、肺3.0%、腎臓結石3.0%、腫瘍2.6%、卒中2.1%、糖尿病2.1%、その他28.9%
質問3)病気を避けて健康を維持するために、何をしていますか?
回答3)健康な食事62.9%、定期的に運動26.2%、定期的な睡眠3.1%、禁煙2.1%、その他5.7%
不健全なライフスタイル、テクノロジー開発による労働作業の軽減で減少している身体運動、大気汚染や環境汚染、ハードな都市生活が増大させているストレス。ジャカルタ住民はそれらの最前線に置かれている。
そこに道端で売られているような発がん性物質を含んだ飲食品や、工場が廃却したとされている飲食に不適切な製品や原材料を売却する者がいて、それを使って類似品を生産し、儲けをたくらむ悪徳ビジネスマンたちの不正行為が、密かに、しかし連綿と続けられている。健康であるということが神の手から社会の手に委ねられることも、いつかは実現させなければならないものだ。


「食品安全の緊急度」(2015年5月11・12日)
発がん性の高いフォルマリンを含有する食品食材が多数、市場に流通し、大勢の国民がそういった危険なものを摂取している。国は国民生活に食品安全の確立を保証しなければならないはずなのに、それができていないのは国が国民への義務を果たしていないということなのであり、国の怠慢である、と消費者保護財団が主張している。それに対して保健省疾病抑制環境健全化総局長は、国は従来から国民に対する健康保護を行なっている、と主張した。「法規面の整備は以前から行なわれている。たとえば「食糧安全・品質・栄養」に関する2004年法律第28号は国民への保護機能を果たしている。それにもとづいて政府は農業省・工業省・商業省・保健省・食品薬品監督庁・各地元政府などに役割を分担させているが、現場での法執行という点については、まだ不十分な点がある。たとえば保健省が持っている食糧を含む国民の健康監督機能が十分であるとは言い難い。保健所の保健指導員が行なうべき地元環境の保健衛生監督も十分できているわけではない。将来的には、食品の衛生監督も保健指導員の業務に加える計画になっている。」
ボゴール農大教授でもある食糧安全憂慮ソサエティ副会長はそれに対して、現場での統一的な法執行を行なうための具体的な分担機能の範囲内容と諸機関のコーディネーションがうまく作られていないため、現場段階での動きがなかなか奏功しないのも無理はない、と批評している。
しかし食品薬品監督庁は、国民の生活現場における危険な食品食材の摘発活動をさらに活発化させるために、内務省に働きかけて県市レベルの地方政府を巻き込んだ統合チームの編成を進めている。健康に危険な食品食材の生産流通販売の網の目がますます密度を濃くしている現在、統合チーム編成は焦眉の急だ、と食品薬品監督庁長官は言う。しかし、統合チームが編成されたなら八面六臂の活躍が本当にできるのだろうか?地方行政府の人材配備は昔からひとつの傾向を示してきた。市場を足で回って違法商品を見つけ出す係官の人数は、インドネシアのような社会構造の場合、多ければ多いほど効果があるに決まっているのだが、その一方で外回りの仕事に対する独特の労働観が存在し、係官自身の意欲の問題、地方行政府に対する中央政府の評価ポイントの位置、あるいは地元民からの苦情をミニマイズするための要所、などの要因を踏まえて、行政府トップは係官の人数を必要最小限に抑えるのが通例であり、しかも行政機構内で人員不足が起こればこの部門が人事異動の第一ターゲットにされてきた。そのために市場調査係官は入れ替わりが激しく、知識経験の乏しい係官がメインをなしていると言われている。だから食品薬品監督庁は統合チームを編成した上で、更に地元警察から専任担当官をチーム内に送り込んでもらうことを考えている。
フォルマリンの話に戻るなら、自分が具体的に所属している同一コミュニティの外にいる人間に対する博愛的でない生命観を柱とする精神基盤の上に、そういうヨソモノから自分が利益を得るために何をすればよいかというエゴイズムにもとづいた行為を罪悪感なしに行なっているのが、不安全食品製造販売の構造図であるにちがいない。それが、品質識別能力、つまりは食品安全に関する危険識別能力、の低劣さと、購買判断の最大ポイントが廉価であるという点に支えられているのは言を待たない。ハンドラワン・ナデスル医師が語っている通り、消費者が利口になってそういう識別能力を持てば、そのような危険食品はだれも買わなくなるために世の中から自然と姿を消すにちがいない。
消費者を利口にするためには、フォルマリン含有食品食材は自分の生命を縮める毒であるという理解を国民の常識の座に置くこと、そしてフォルマリン含有食品を見分ける方法を消費者に教えることに尽きる。都庁食品薬品監督総館が広報に努めているフォルマリン含有食品食材の見分け方は次のようなものだ。
<塩魚>
*室温(25℃)でひと月以上長持ちする
*色がくすんでおらず、見た目がきれい
*塩魚特有の臭みがなく、容易に崩れない
*周囲にハエがいても、あまりたかろうとしない
<豆腐>
*崩れにくく、弾力性がある
*長持ちし、腐りにくい
*鼻を衝くにおいがある
<生めん>
*油分が多いように見える
*長持ちし、古くなっても変質臭がない
<鮮魚>
*見た目がきれいで、肉に弾力性がある
*えらは濃赤色であり、鮮赤色でない
*長持ちし、腐りにくい
<鶏肉>
*白っぽい色で見た目がきれい
*長持ちし、腐りにくい
人体に危険なフォルマリンが食品や食材に使われているのは、市場でだれでも容易に入手できるからだ。それを防ぐために、政府は何をしているのだろうか?製造者・輸入者・大規模から小規模に至る流通者・小売店・最終使用者までの許認可システムを用いた監督制度は設けられているが、そういう政府への許認可などまったく申請しない一般市民に小売店が危険物に指定されている化学薬品を販売しても、何のお咎めも受けない。規則はあっても、その運用はまったく放埓になされているのが現実なのである。法規はあっても、商品を買いにきた人間にその資格を問い質すような商店は存在しないのがインドネシアの常識だ。ビジネスの場では、社会にとっての善と金儲けが共存できないのがインドネシアの社会なのだ。
もうひとつ、危険な食品食材の撲滅を難しくしている要因がある。監督機関がせっかく摘発し、警察が刑法犯として逮捕した上で罪状をまとめて送検し、検察が公訴して裁判にかけた事件は、裁判所判事団がほとんど軒並み驚くような軽い判決を与えて被告を社会復帰させている。2012年から2014年までの間に公判にかけられた事件の9割が一年未満の仮釈放刑で、最高でも一年間だ、と食品薬品監督庁捜査センター長は述べている。2012年が75件、2013年は29件、2014年は41件の危険な食品食材に関連する裁判が行なわれた。
検察側の求刑も三年以上のものはないそうだから、大勢のヨソモノの生命を縮めたところで国からたいした罰は受けない、という流れが既に形成されてしまっているようだ。


「医療廃棄物でもリサイクル」(2015年5月13日)
東ジャワ州警察は2015年4月24日、病院で医療に使われた後の廃棄物を選別・洗浄して再販していた事業者を「生活環境運営と保護」に関する2009年法律第32号違反容疑で逮捕した。逮捕された事業者Aはそのビジネスを一年ほど前から行なっていたと警察に自供している。
Aはシドアルジョ県タングラギン(Tanggulangin)にPT Mという自分の会社を持ち、東ジャワ州とバリ州の病院が出す医療廃棄物を集めて捨てるビジネスを行なっていたが、それは行政の監督を受けない無認可事業であり、病院側には廃棄すると言いながら現実にそれを再販していた事実から、病院側も真相に関する責任を放棄してコストメリットだけを享受するためにその先がどうなっていようが関心を払わない姿勢でPT Mと関係を持っていたことが十二分に推測される。PT Mの廃棄物回収と処理のためのオファー料金はキログラム当たり2万ルピアであり、実際に2州の6病院がその顧客になっていた。
AはPT Mが集めてきた廃棄医療器具類を作業員を使って選別・洗浄させ、また液体等も容器に貯えて、全国各地から注文してくる相手に商品素材として売り渡すビジネスを個人事業として行なっていたようだ。つまり、Aに発注してくる者はその使用済み医療器具等を新品のように再生加工して薬局や病院に卸すビジネスを行なっていることが想像され、そのような行為が全国的にローカルレベルで営まれているという事実を今回の事件は示しているように見える。
この摘発事件は、容疑を固めた警察が確実な証拠を入手するために、Aが各地に発送する医療廃棄物をスラバヤ市内タンジュンペラッ港に運んでいたPT Mの軽トラックを尾行して捕らえることで開始された。港のコンテナデポのひとつに入った軽トラックを取り押えた警察は、積荷の多数のダンボール箱やドラム缶を押収した。団ポール箱には、使用済みの注射針や空の輸血用血液袋などが、そしてドラム缶には2百リッターの液体が入っていた。液体の成分は押収時点で不明。軽トラック内にはまた、複数の病院からの廃棄物をピックアップするようオーダーする注文書も発見されている。
続いて首謀者のAを逮捕した警察は、病院側にAと組んでその犯行を幇助していた者がいる可能性があるため、更に捜査の網を拡大している。東ジャワ州警察特殊犯罪捜査局特定犯罪第四次局長はこの事件について、生活環境運営と保護法第102条第104条は医療廃棄物を再使用することなく廃却するよう命じており、その違反行為に対しては最長3年間の入獄および最高30億ルピアの罰金刑が与えられることになる、と述べている。
公認されているインドネシアのすべての病院は医療廃棄物処理に関するSOPを持っており、自分で焼却処理を行なうか、もしくは生活環境森林省からの行政認可を得ている廃棄物処理業者に渡すことになっている。廃棄物を認可業者に譲渡すれば病院側の責任はそこで終わり、認可業者は病院への処理報告をすることなく行政の指導下にその後の措置をとって行くことになる。インシネレータを自分で備えて、排出される廃棄物を1千℃の高温焼却で廃却してしまう病院も少なくないが、すべての病院がそうしているわけではない。
全国病院会東ジャワ州支部長は今回の事件に関連して、「全国病院会所属の病院は医療用器具や医薬品を公認ディストリビュータから購入しており、廉くても出所不明のものを購入することはない。使用済み素材を再生した中古品は衛生的にきわめて危険なものであり、そのような物を使うのは医療倫理への違反であるばかりか、病院の社会的信用を失墜させることになる。今回の事件は早期決着が望まれており、そのために必要とあれば当方は万難を排して協力したい。」とコメントした。
しかしインドネシアではいまだにゴミや廃棄物に金をかけたくない者が大勢いて、密かにそれを捨てている。州警察の記録によれば、2014年にもバンカラン県クルラ村にある倉庫内で捨てられた医療廃棄物が床に散乱しているのが見つかっている。反対に医療用器具を無許可で製造する者もいる。行政の監督が一切なされていない器具が安全衛生面で何の保証もないのは明らかだ。スラバヤ市警察は去る二月に、国内流通許可がついていない骨折治療用ペンが市内に出回っているのを発見している。


「食中毒死亡者は年間5百人超」(2015年5月14日)
2009年から2013年までの5年間に発生した流行性食中毒事件は全国で10,700件あり、411,500人が罹患して2,500人が死亡した。この流行性食中毒というのは、特定の村や部落あるいはもっと広域な町といった単位で一定期間にわたって多くの家庭から続々と患者が出現するというパターンのもので、一定期間一定地域で食中毒症状を起こさせる病菌や病原体が猛威をふるうものを指している。更に、保健行政で異常流行宣言が出されたものだけを集めているから、隣近所あるいは特定家庭内でひとりから数人が激しい下痢や嘔吐などの症状を呈したものはそこに含まれていないケースが多く、インドネシアで起こっている食中毒の明確な統計はだれにもわからない。
その5年間に起こった食中毒事件で国民が蒙った推定損失額は2.3兆ルピアにのぼると食品薬品監督庁が公表した。同庁食糧安全調査指導局長はその推定金額について、医療治療費用・病気中の生産性低下・死亡関連費用など国民の側が負担したと推定される費用がそれであり、産業界をはじめとする国家社会が受けた損失はまた別に存在している、と説明している。
上の統計数値には含められていないが、2014年に全国で出された異常流行宣言は406件あった。それらのケースでは、飲食品を通して被害者の体内に大腸菌O157が侵入したことが明らかになっており、下痢で終わらずに腎不全などの慢性症状に至り、最悪の場合は死亡することもある。
大腸菌汚染食品は家内工業で生産された、バソ・氷・色付き甘味飲料などのような飲食品の中に見つかることが多く、地域内で大勢の人間が被害を蒙るのは祝祭で用意される飲食品を摂取することに起因する場合が多い。祝祭を行なう家庭が隣近所に助力を得て料理を用意する場合もあれば、ケータリング業者を使う場合もあり、あるいは家内工業で作られた飲食品がそこに混じる場合もある。食品薬品監督庁によれば、家庭環境内で摂取した飲食品が食中毒の原因になったものは6割にのぼり、次いで小学校から大学まで含めた学校での摂取が3割に達している由。
食中毒の防止は、細菌汚染されていない飲食品を用意することに尽きる。飲食品を用意するというのは、製造だけでなく、配送から消費者に供する場面まで、一貫した流れの全般を意味している。そのために必要なのは、飲食品を用意する者に衛生観念を持たせることであり、国民教育が欠かせない。食品薬品監督庁は国民教育のためのパンフレット30種類の作成と配布を行なうかたわら、地域社会に働きかけて食品安全運動を推進している。2014年までに全国の290村で24,750団体が食品安全運動の展開に加わっているとのこと。


「ボディマス指数」(2015年5月15日)
太っているか、痩せているか、という規準値にボディマス指数というものがよく使われる。ボディマス指数というのは体重(kg)を身長(m)の二乗で割ったもので、その結果得られる数値がアンダーウエイト(低体重)か、ノーマルウエイト(普通体重)か、オーバーウエイト(過体重)か、オビース(肥満)か、という大きいカテゴリーに区分されるが、それらの区分から極端に外れたものも指標として設けられている。
たとえば世界保健機関(WHO)は次のような区分にしており、欧米の多くの国もそれに従っているが、各国国民の体格上の特性がそこに加味されるため、国によって多少の違いが出るのは避けられない。
<世界保健機関>
超々低体重 15未満
超低体重 15.0〜16.0
低体重 16.0〜18.5
普通体重 18.5〜25
過体重 25〜30
肥満 30〜35
超肥満 35〜40
超々肥満 40超
<日本肥満学会の2000年基準は次の通りであり、WHOの線に沿っている。>
低体重(痩せ型) 18.5未満
普通体重 18.5〜25
肥満(1度) 25〜30
肥満(2度) 30〜35
肥満(3度) 35〜40
肥満(4度) 40超
<ちなみに香港の場合は、次の通り。>
低体重 18.5未満
普通体重 18.5〜22.9
過体重‐肥満直前 23.0〜24.9
過体重‐適度な肥満 25.0〜29.9
過体重‐激しい肥満 30.0超
<インドネシアでは、次のような数値になっている。>
痩せすぎ 17.0未満
痩せがた 17.0〜18.5
普通 18.5〜25.0
太っている 25.0〜27.0
肥満 27.0超
インドネシアでは、太り気味と見られる範囲が狭く、すぐに肥満の区分に突入してしまうのはどういうことなのだろうか?インドネシア人が身近にいらっしゃる方はこの計算をお試しになり、本人の自覚と上の区分が合致しているかどうかをお調べになれば興味深いでしょう。


「どんどん増える子供喫煙者」(2015年6月9日)
インドネシアのタバコ消費量は増加の一途であり、おまけに喫煙開始年齢もどんどん低くなっている。つまり、より若い年齢層への浸透が激しくなっていることがタバコの消費量を増大させているということだ。この傾向を生み出しているのがタバコ産業界の若年層を狙ったタバコ宣伝普及活動であるのは言うまでもない。若者ひいては子供、に喫煙の習慣をつけさせること。それはタバコ産業界にとって重要な先行投資になっているのだ。より幼い年齢で喫煙を開始させれば、それだけ業界の利益が確保されることになる。
2007年に15〜19歳の年齢ブラケットで喫煙を開始した者は33.1%あったが2010年にはそれが43.3%に上昇した。もっと下の10〜14歳という層では、2007年の10.3%が2010年には17.5%に増えている。更に下の4〜9歳では、2007年は1.2%にすぎなかったものが、2010年は1.7%に増加した。
保健省がおこなっている基礎保健調査でも、15歳以上国民の喫煙率は2007年の34.2%から2013年には36.3%にアップし、おまけに10〜14歳国民の1.4%が喫煙者であるというデータが報告された。
グローバルユースタバコサーベイ2009年版でインドネシアは、13〜15歳の子供たちの8割はテレビ・屋外広告・新聞・雑誌を通してタバコの宣伝に曝されていると報告されている。タバコの宣伝はインドネシアでも法規で規制されているが、イメージ画像とブランド名の見せつけを禁止できるものではなく、タバコのかっこよさは子供たちの潜在意識の中に日々植え付けられていく。さらに、スポーツイベントやコンサートあるいは文化祭事や社会活動のスポンサーをタバコメーカーは鋭意努めている。
インドネシア政府が国民の健康福祉とタバコ産業界の利益を天秤にかけ、厖大な数の労働者が失業率を軽減させていることやタバコの税金が年間142兆ルピアも手に入ることを犠牲にするよりは、長期的な国民の健康が犠牲にされて短期的な国家行政へのメリットを優先している姿が浮かび上がってくる。
そんな政府が行える容易な対策は、まずタバコ税(チュカイ)の増額とタバコ販売価格のアップだ、とインドネシア大学保険政策と経済研究センターの役員は言う。インドネシアの喫煙者のマジョリティはミドルクラスから下の経済層であり、タバコを1パック3万ルピア程度に引き上げれば、消費量は抑制される、とかれは提案している。


「看護士に腕を振るわせよ」(2015年8月18・19日)
看護士というのは患者と患者の家族に直接相対してその必要事を満たす医療従事者であるというのに、その最重要な柱からほど遠い業務を命じられることが多く、看護士の機能が十分に活かしきれていない状況を多くの病院で目にする。そのために、職務の標準化がなされる必要がある。
「病院の看護士生産性向上のための職務モデル」と題するインドネシア大学看護学博士号論文が15年7月27日にインドネシア大学デポッキャンパスで発表された。優秀な成績で博士号を取得したのは、保健省病院看護サービス育成次局長のプライェットニさん。
患者に対する看護というのはきわめて重要な役割を持っているにもかかわらず、看護士の働きの効果・業績を測定するための看護サービス標準化がいまだに整備されておらず、看護士の機能をそのクオリティから評価することが十分になされているとは言えない。そんな状態の中で、いくつかの病院では医師の治療活動の補助的な仕事を命じられたり、医療器具取扱助手のような仕事をさせられるケースが見られ、看護士の本質である患者の状態に即応してその必要性を満たしてあげる活動が十分に行なえない状況が発生している。
2014年に保健省が行なったサーベイで、全国の病院で看護士の職務が十分果たされていない現状が再確認された。54〜74%の看護士は医師の治療活動の一部を担っており、病院管理事務の一部を担わされている看護士は26%おり、また20%は病院側のお粗末な看護体制という環境の中で看護業務の遂行を命じられている。もっと驚くべきことは、本来的に看護士が行なわなければならない患者に対する処置の68%が患者の家族あるいは付添い人に委ねられているということがらだ。
色濃い家族主義制度の中にあるインドネシア社会では、ファミリー構成員が身内の世話をするのが当たり前という観念がいまだに常識になっており、本来的な職務外の雑事を命じられる看護士がその世の中の常識に寄りかかっているという図式がそこに見えてくるのは、わたしだけではあるまい。インドネシアの病院では、雑居病室の患者のベッドの下や廊下にマットレスを敷いて日がな起居している付添い人がいる姿はありふれたものだ。こうして看護士は患者の付添い人に自分の職務の一部分を手伝わせる社会慣習ができあがってしまった。
看護士が看護の職務に没頭できないのは、医療分野の中で伝統的にできあがってしまった看護婦時代のヒエラルキー概念がいまだに生き続けている面があるからだろう。教育を受けて学術医術を積んだ医師の手伝いをする看護婦は、プンバントゥでしかない。プンバントゥというのは命じられた働きを遂行するだけのセカンドクラスの人間であり、自己完結的に目的と計画を組んでみずからその遂行に向かうようなことはしない。だから医師は、あるいは病院経営者は、看護職務から外れた仕事を必要に応じてかの女たちに命じることを自然のことと感じているというわけだ。プライェットニ看護学博士は続ける。
看護士は独立した職業であり、そのプロフェッショナリズムに立脚した職務遂行がなされなければならず、それに矛盾している世の中の観点は正されていかなければならない。反対に、看護士側にもそれを成り立たせている側面がある。世の中の常識を当たり前のものと見ている看護士が存在しているのも事実なのだ。看護士という学術技術を学んでも、プロフェッショナリズムという観点からそれを世の中で実現させるという使命を自分の行動に反映させることのできる者ばかりではない。こうして命じられることは何であれ、できるかぎり従おうとする看護士もたくさん出現する。
そんな状況を改善していくためには、看護環境の中で患者の看護養護を行なう看護士の職務モデルの標準化がまず着手されなければならない。そこでは、患者側にある要望要請とそれへの対応パターン、任務、能力、権限、そして看護士としての職務を正しく遂行しているという確信を持たせることが要項の眼目となる。それがあってこそ、はじめて看護士の職務遂行クオリティが測定可能になる。
プライェットニ看護学博士の提唱する看護士職務パターン確立の試みは、ジャカルタのパサルボ地方総合病院とブディアシ地方総合病院、ブカシのブカシ地方総合病院、バンドンのチババッ地方総合病院の四ヶ所で既に開始されており、顕著な成果が見られるとのこと。
それを全国規模に拡大させるためには、国中を法規の網にかけなければならない。「法律はあるけれど・・・」というインドネシア社会の実態に即して、「看護」に関する2014年法律第38号は存在しているものの、看護士プロフェッショナリズム確立の動きはその実施細則が制定されて全国の病院を縛らないかぎり、インドネシア社会で容易に普遍化することは期待しにくいにちがいない。
インドネシアの医療現場のクオリティをより高く引き上げていくために、そして看護士の能力と意識を国際レベルに高めて行くためにも、この提唱の実現は大いに期待されている。


「標的は子供」(2015年8月21日)
2015年1〜3月にジャカルタ・バンドン・マカッサル・マタラム・パダンの5都市で小学校から高校までの360校を対象に行なわれた調査で、学校の周辺にタバコの宣伝広告が目を引き、また学校近くのワルン・商店・ミニマーケットなどでもタバコ商品の販促が目立つ実態が明らかになった、と「子供の灯り」「児童メディア開発財団」「スモークフリーエージェント」の三民間団体が発表した。
「タバコの宣伝とプロモーションが学校を包囲している。学校をはじめとする教育機関は禁煙エリアとされているが、タバコの宣伝が教育機関周辺の何キロ以内にあってはならないというような規制はまだ制定されていない。少なくとも、学校の正門からすぐ目に入る場所にあるタバコの宣伝は禁止されるべきだ。青少年に対するタバコ宣伝は厳格に規制して、時間をかけてでも青少年喫煙者を減らす努力を行なっていかなければならない。」児童メディア開発財団役員のひとりはそう語る。
調査チームの観察結果によれば、タバコの大型宣伝看板が近くに設置されている学校は32%あり、看板のマジョリティは学校正門の向かいに立てられていて、正門から外に向って立てば必ず視界の中に飛び込んでくるようになっている。また学校近くのワルン・商店・ミニマーケットの85%はタバコの販促宣伝が売場を派手に飾っており、それらの店舗には、決まって学校生徒が頻繁に訪れている。また路上に張り出されている看板や垂れ幕に記載された商店名の傍らにタバコの宣伝が付されているものを近辺で目にした学校は40%あった。
更に、学校生徒にとって需要のもっとも大きい商品である飲食品陳列台のすぐそばにタバコ商品を並べている学校周辺の商店は69%を占めており、加えてタバコの各ブランドが擁しているイメージカラーがそれらの商店の内装外装に巧みに使われていて、タバコ産業界がいかにそれらの中小規模商店を青少年向けタバコ販売促進の尖兵として活用しているか、ということがらを実感させている。
調査チームは学校長や教職員へのインタビューの中で、青少年をタバコの害から保護するという大人の責任に関する意識がたいへん低い実態をも発見した。自分の学校がタバコ産業界の販売戦略ターゲットにされていることを認識していない学校長や教職員がほとんどであり、おまけに現実と化しているその販促戦略によって生徒たちが喫煙習慣に溺れこんでいく実態すら認識されていない。
ただジャカルタに関してだけはタバコの屋外広告宣伝に対する規制が進んでおり、2015年都知事規則第1号で屋外メディアでのタバコ製品広告催行の禁止が定められた。それによって学校周辺地区におけるタバコ産業界の販促宣伝活動は後退を余儀なくされるものと期待されている。


「肥満児が増加」(2015年8月24日)
インドネシアの若年世代にも肥満がはびこっている。肥満とは脂肪が肉体に過剰に蓄積された状態を指し、生産的年代者の理想値は14〜19%だが、インドネシア都市部住民の平均値は33%前後で、それをはるかにオーバーしている者も少なくない。
肥満は万病の元だから、できるかぎり肥満を防止しなければならないのだが、それがなかなか容易でないのは、現代都市生活のライフスタイルが肥満を煽っている面があるからだ。インドネシア国民は年々5〜10%のスピードで肥満者が増加しており、ジャカルタのような大都会では二人にひとりが肥満者になっている。それは大人だけに限らず、青少年世代にも共通している。
そもそもインドネシア人は油脂分が潤沢で高カロリ−の食事を好み、おまけに伝統的な郷土料理としてココナツミルクを使っているメニューも少なくない。更に伝統的な人間観の中に、痩せている人間は困窮者で精神的にも不幸な人生を送っており、優雅で幸福な人生を送っている人間は太っている、というものがある。その価値観に従って、親は子供が痩せているのを好まず、子供が太っていると安心するという心理傾向が社会に厳然として存在している。
ちなみに、モーリタニア・サモア・ナウル・タヒティ・フィージー・トンガ・ジャマイカ・南アフリカ・アフガニスタン・クエートなどはいまだに太って大柄な体躯が美人として男性の人気を集めているそうで、メラネシア文化の色濃いインドネシア東部地域も依然として同じような価値観が顕著であり、一方のムラユ文化地域がそれと正反対であるとも言い難い。
ともあれ、脂肪の蓄積は食物摂取と食物燃焼のバランスの問題であり、摂取量を少しぐらい減らしても燃焼の量がたくさん低下すれば、蓄積量の減少に至らないのが明らかだ。そこにライフスタイル問題が出現する。
種々のリサーチによれば、インドネシア若年世代の運動量はここ十年あまり一日平均20〜30分で、理想値の60分から半分以下に落ち込んでいる。その原因のメインはテレビ視聴やガジェットの普及、エスカレータやエレベータの利用、その他さまざまなテクノロジーの産物が人間に楽をさせようとして世の中を埋め尽くしている点にある。だから若年世代にとって実質的な運動は、一週間に一度の体育の時間だけというありさまになっている者が増えている。最近ジャカルタ・バンドン・スラバヤで学校を対象に行なわれた肥満児童統計調査では、肥満者が24%にのぼり、10年前の13%からほとんど倍増している。
この若年世代の肥満問題は民族の将来の興亡に関わる重要な問題であり、国民栄養問題の中でひとつの柱と位置付けられているのだが、国民に対するキャンペーンを政府はもっと活発に盛り上げる必要があるにちがいない。


「都庁が食品安全情報を市場展開」(2015年9月2日)
首都ジャカルタで発見される安全でない食品は、他の諸州よりはるかに多い。食品薬品監督庁が市場で行なっているランダム検査で発見される安全でない食品は全国平均で10%程度だが、ジャカルタでは12%にのぼっている。2015年ラマダン月に行なわれた一斉検査での結果がそれだった。2014年の同時期はジャカルタで21%という結果だったから、一応の低下は見られるとも言えるのだが、本来ならひとつもあってはならないものだ。特に学校周辺で屋台商人が販売している飲食品は相変わらず「廉かろう、危なかろう」コンセプトに横溢していて、2015年調査でもなんと17%にのぼっているのだから、インドネシアの将来を担う若年世代が何を食べさせられているかという民族興亡の問題にもなってくる。
安全でない食品から頻繁に発見されるのは、フォルマリンやボラックスなどの防腐剤とロダミン赤色など繊維用染色剤だ。市場では、トウフや生麺あるいは赤色をした食物で危険ファクターがよく見つかっている。
都庁は食品薬品監督庁との間で、安全でない食品の撲滅に関する協力覚書を結んだ。飲食品生産者データ・製造ファシリティ・加工食品の流通・食品に悪用されている危険物質の監視・学校周辺の飲食品販売商人の監督・違反者処罰・サンプルのラボテスト・飲食品分野の中小零細事業者に対する育成と教育・家内生産における規定などがその両者間で進められるようになる。
これまで、食品薬品監督庁が現場でのラボ検査等で発見しているさまざまなデータが、都庁の持っている飲食品生産者データとオーバーラップされることによって、誰の目にも実態の把握が容易になる。それを都庁のスマートシティ・テクニカル実施ユニットでシステム化し、都民に公開して都民の購入選択のための情報にしていく。それが持続的に行なわれるため、都民は安全な食品の最新データに常にアクセスできるようになる。都知事はこの構想について、「たとえば、もしわたしがクブンシリでナシゴレンカンビンを食べたいと思ったとき、携帯電話でそれに関する食品安全情報を調べることができる。」と説明している。
また、都庁は既に許認可の統一窓口を町役場と郡役場に置かせており、飲食製品の食品薬品監督庁検査もその統一窓口で受け付けられるので、申請も製品サンプルもそこへ提出すればよい、と都知事は述べている。


「健康診断を避ける国民」(2015年10月9日)
特に身体のどこも痛いところはないし、故障もないのだから自分は健康だ、と思っているひとがインドネシアでは普通だ。ましてや、健康診断などに行くと目の玉の飛び出るような金額を請求される。だから、健康診断を受けようというひとは、数えるほどしかいない。
ジャカルタのブンダ総合病院メディカルチェックアップ主幹は語る。「当病院の患者の中で定期健診を受けているひとは、10%が個人の費用負担、残りは会社のアレンジに従っているひとたちだ。自分の出費で定期健診を受けようというひとはほんの一握りしかいない。その理由は、まず高額であるということ。身体診察および血液と尿の検査という基本健診だけで50万ルピアする。さまざまなラボ検査や心電図を加えた総合健診だと、およそ3百万ルピアになる。どこも痛いところや故障がなければ自分は健康なのだから、何のために健診をする必要があるのか、と一般の人は考えている。だが、もう少し突っ込んだ反応もある。健診の結果、深刻な問題が見つかったらどうしよう。それが怖い、という反応だ。人間は自分の健康状態を知らなければならない。痛くない・故障がない、だけでは本当に健康かどうかわからない。年齢が増せば増すほど、人間の身体は弱っていく。25〜40歳なら、少なくとも5年に一度は健診を受けるべきだし、40歳を超えたなら、一年に一度は健診を受けなければならない。」
医学界は国民に健康診断の重要性を呼びかけているものの、それを切実な問題としてとらえているひとはわずかしかいない。大部分は上であげたような理由で、健康診断を避けている。であるなら、勤労者保健問題の面からアプローチするのが現実的だということになる。だから雇用主に対して、従業員の定期健診を勧めている。「従業員が高い生産性を発揮できるよう、健康を維持させるために定期健診を受けさせなさい」というのが医学界から実業界への呼びかけだが、従業員人件費に金を使いたくない事業主もまだまだたくさんいる。医療コストが国民購買力からあまりにもかけ離れたインドネシアで、一般国民の医療機関利用はまだまだこれからというところだ。


「人糞もゴミのうち」(2015年10月19日)
2015年5月15日付けコンパス紙への投書"Pembuangan Sampah Liar"から
拝啓、編集部殿。わたしどもはブカシ市ジャティアシ郡ジャティクラマッ町ラッナアスリレジデンス住宅地の住民です。当方のクラスターの裏手でゴミの不法投棄が行われていることを報告します。加えて、毎晩汚わいタンク車2台が人間の糞尿をそこにばら撒いています。[ 西ジャワ州ブカシ市ラッナアスリレジデンス住宅地D4号、メガ・ジュニアストゥティ ]


「エイズを拡大させるLSL」(2015年12月18日)
男性同性愛者のことをインドネシア語ではLSLと言う。Laki Suka Laki の頭字語だ。インドネシア人男性の中にLSLは多い。ただし、そのほとんどが両刀使いであり、普通成人者の場合は妻帯している。江戸時代に日本で言われた「昼は男色、夜は女色」という両刀使いがインドネシアにそのまま残っているかのようだ。
HIVエイズ対策運動民間団体「ポジティブに生きる」財団理事は、LSL層のHIV有病率が激しく上昇しており、かれらの妻に伝染するリスクが高まっていることを指摘した。2015年のサーベイでは、LSL層有病率は25.8%とされており、2011年に行われた類似サーベイの結果である8.5%から大幅に高まっている。最新サーベイ結果は、ゲイが3%、ハイリスク男性0.17%という有病率を示しており、LSLが他の区分に比べても高い有病率であることがわかる。売春婦や注射針を使う麻薬・向精神薬・依存性薬物使用者は率が低下しており、刑務所服役者は変化なし。
保健省直接伝染性疾病抑制局長は、LSL層にエイズ検査を受けさせることがきわめて難しい、と語る。現場の実態を把握している医師によれば、LSL層がエイズ検査を避けようとするのは、LSLであることが知られると社会から拒絶され、世間の笑いものにされることを恐れるためだそうだ。社会全体がいまだにエイズ罹患者に烙印を捺して差別しようとする傾向を持っており、社会からの疎外に対する恐怖がエイズ検査の障害になっている。そのポイントを含めて、LSL層は二重の疎外に直面するおそれを抱いているということになる。そのために、エイズ検査の環境をもっとクオリティの高いものにしていかなければ、エイズ罹患の実態はいつまでたっても明確にならない。
自分がエイズに罹患したことを自覚した者は他人にエイズを移さないようにしようと努めるのが一般的であり、エイズ検査を避けるLSLは自覚が生じないために男の性友と妻のふたりにエイズを伝染させる傾向を持つ。
政府はゲイとLSL層に対する働きかけを強める対策を講じなければならず、この階層に近い位置にあるNGOやカウンセラーを活用する方針を真剣に検討しなければならない。その活動に起用されるひとびとは、その分野に関わる体験を持ち、同時にHIVエイズのリスクを深く自覚しているひとびとになるのが普通だ。かれらに期待されているのは、単にエイズ検査を受けるということにとどまらず、罹患者に対してセラピーの指導や相談に乗ることまでが含まれている。


「タバコは亡国のもと」(2015年12月28・29日)
都内には1,550ヶ所の禁煙場所が定められているが、喫煙公害抑止に取り組んでいるNGO「スモークフリージャカルタ連合」が調査したところによれば、禁煙が守られているのはそのうちの3割しかなく、7割では決まりが無視されていることが明らかにされた。公共エリアでの決まりや監視体制は十分なレベルでなされているものの、違反者が放置されて決まりを強制することに不得手なインドネシア文化の体質がここにも顕著に表れている。
同連合が2014〜15年に実施した調査では、教育施設・民間企業オフィス・役所オフィス・宗教礼拝所・レストラン・ホテル・保健医療施設・児童遊戯施設・慰安施設・ショッピングセンター・スポーツ施設の11カテゴリーが対象にされ、都内5市のそれらの場所で、禁煙喫煙に関する状況が都庁の定めた下のインジケータにしたがって測定された。
−喫煙場所が用意されていること
−禁煙のサインが掲げられていること
−タバコの煙の臭いが感じられる
−灰皿がある
−吸殻がある
−喫煙者がいる
5市を比較すると、禁煙の決まりがもっとも守られているのは東ジャカルタ市の44%、次いで中央ジャカルタ市40%、北ジャカルタ市36%、西ジャカルタ市32%。南ジャカルタ市が最悪の27%だった。
同連合コーディネータによれば、場所の管理者は定められた設備をおおむね整えており、また都庁担当部門の現場視察も行われているのだが、違反を犯す者に対するフォローが弱く、つまりは法執行に問題があるという分析になっている。違反者には制裁を与えて懲罰効果を高めなければならない、とコーディネータはコメントした。
都庁生活環境運営庁長官はその分析について、都民がその法執行に積極的に参加することでその効果が実現すると語った。「決まりを守らず違反を犯す者に対して都民がそれを苦情することで最大の効果が期待できるのであり、大勢の都民がそれを許して気にもかけない現状では、違反者は決して後を絶たない。監視を強め、違反者を捕らえて罰を与えたところで、たいして役に立たない。最近あったケースでは、北ジャカルタ市モールプルイッのベイウオークに店舗を持っている28歳の女性が、来店客のひとりが店内で喫煙したためその客の入店を拒んだ。ところがその来店客は反対に店主の扱いを不当なものとし、両者は口論になった。そのため店主は都知事に対し、その客に罰を与えるようインターネット請願を行なった。この事件が今話題になっている。」
ところが、長官の記憶はどうもあまり正確でなかったようだ。実際に起こったのはこういうストーリーらしい。
28歳の女性が生後3ヶ月の赤ちゃんを連れてモールプルイッビレッジ内にある一軒の食堂にいた。店長がかの女のテーブルにやってくると、ほかの客がタバコを吸いたいと言っているので、離れたテーブルに移動してください、と依頼した。かの女が「レストラン内は禁煙の決まりになっているはずだけど。」と反論すると店長は、「店内は換気が良いので少々のタバコの煙は問題ないんです。」と喫煙者の肩を持つ。かの女は移動するのを拒んで、そのテーブルにいた。すると、近くのテーブルの客がプカプカ喫煙を始めた。タバコの煙害にさらされたかの女は、結局耐えられなくなってその食堂を出た。
帰宅したかの女はchange.orgのサイトにその事件を書き込み、大統領に対するオンライン請願を行った。かの女の請願を支持して集まったサインは4万8千人にのぼった。大きい社会問題になったことに驚いた食堂側とモール運営者は、かの女に謝罪するとともに、既に定められている公共スペースにおける禁煙規定を遵守するべく改善措置をほどこし、今では規則どおりの体制が採られている。
この事件のあと、都庁は禁煙規定に関する取締りを強め、係員の現場巡回視察と違反者への制裁を頻繁に行うようになった。南ジャカルタ市ブロッケムスクエアで取り締まりを行った行政警察担当員は、禁煙場所で喫煙していた12人を捕らえて措置を採った。しかし、かれらに反省の色はない。「ほかにもタバコを吸っている者は大勢いるのに、どうしてわしだけ捕まえるのか?わしは煙がすぐに外に出るように、建物入り口の近くで吸っていたというのに。」
建物内で貴石類を販売している商人たちは例外なく全員喫煙者だ。「建物内で禁煙を強制するのなら、喫煙場所を用意するべきだ。」と自分たちの売場近くに喫煙コーナーを設けないのが悪いという口ぶり。
禁煙違反を犯した貴石販売者の売場を行政警察担当員は封鎖したが、これはいたちごっこにしかならない。終日連日そこにいて見張るわけにいかないのだから、見つかって制裁措置を受けた者は運が悪かったということになるだけだ。インドネシア大学社会学者はその問題について、喫煙は常習性があり、抜き打ち取締りや制裁措置を与えたところでかれらの習慣を変えることは難しい、と語る。「タバコの入手が容易で、世の中が喫煙に寛容であるかぎり、喫煙者はタバコを吸う時と場所を少しも考慮しない。」
都庁が禁煙規則を設けてそれの執行にやっきになっても、国がタバコ産業を保護し、業界が大人男性国民ばかりか、女性や未成年にまでタバコ消費を普及振興させるのをただ黙視しているだけでは、タバコの煙害という環境汚染や国民の健康促進といった福祉政策には力が入らず、結果的に禁煙規則は不服従の足で踏みにじられることになる。
中央行政と地方行政がそのようなすれ違いを起こし、まるで効果のあがらない政策に金とエネルギーをかけて予算の無駄使いをするようなことがどうして起こるのか?いま、喧々諤々の議論が展開されているタバコ法案と文化法案に、タバコ産業保護、ひいてはタバコの存続を画策する色合いが滲み出ている。クレテッ(kretek)タバコというインドネシア独特のタバコを文化産品として保護しようとする意図が文化法案に盛り込まれている。
人間の健康を蝕むタバコは健全な国民生活の敵なのであり、タバコを国民生活から排除し、タバコ産業を国民に有益なものに転換していかなければならないという世界の常識と裏腹に、政府はいまだにFCTC(たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約)を批准しようとせず、タバコ生産者から上がってくるチュカイ税を国庫収入の大きい柱にすえたまま、その構造を早急に切り替えようとする姿勢を示さない。
エリート政治家は政界に流れ込む金の太いパイプをそこに期待し、国民の健康と次世代を担う若年国民の健全な成長を重視しようとしない。政治家のエゴと金に弱い体質が民族の未来を危うくしている。エミル・サリム元生活環境大臣はそう批判した。「30年後にわが民族のリーダーとなる若いひとびとにとって、タバコはナルコバやアルコール飲料と同様の毒物だ。タバコの害毒に対する政治エリートの許容的な姿勢も若年層の思考パターンを歪めてしまう。」
タバコは貧困層にがっちりと食いついている。タバコに栄養はなく、かえって健康を蝕むものだが、健康・健全といった概念よりもスタイルを上位に置く貧困層は、食と煙の問題を生命の健全さという見地から見ようとしない。最新調査によれば、貧困層の支出金額トップは基幹食物で19%を占め、第二位がタバコで13%を占めている。かれらはタバコのために収入の一部を煙にし、その金は既に金持ちになっているタバコ事業者を更に富ませている。
識者たちは、タバコに関連する上のような構造が国家と国民に大きなリスクを与えており、政治家が国家民族の未来に目覚めることで中央政府がタバコ撲滅の方針に本気で取り組まなければ、この国の繁栄はおぼつかない、と警告している。


「タバコから未成年者を守れ」(2015年12月30日)
タバコメーカーのHMサンプルナとミニマーケットチェーン「インドマルッ」のフランチャイザーPTインドマルコプリスマタマが共同で、未成年者のタバコ購入防止運動を進めている。インドマルッは2013年からジャボデタベッ地区で18歳未満と妊婦の客にタバコを売らない方針を開始し、今では全国3万店舗でその方針が実施されている。
サンプルナ社取締役は、同社のタバコ製品は未成年者のために作られているのではない、と語り、政府の定める法規を遵守していることを強調した。インドマルコ社取締役も18歳未満の客にタバコを売らないようレジ係りに教育している、と語っている。
しかしそのようなキャンペーンはタバコ産業界が法規を守っていることをアピールするための形式的なものにすぎず、本当にタバコから未成年者を遠ざけるためにはタバコの広告宣伝からまずやめなければならない、と未成年者をタバコから守る運動に従事しているNGO活動家は厳しい発言をした。
「未成年者のタバコ購入を抑止するためには、広告宣伝をまずやめること。未成年者がタバコを始めるきっかけにタバコの広告宣伝が大きく貢献していることを報告している研究は少なくない。未成年者がタバコに容易にアクセスできているのは、販売者が子供にタバコを勧めていることだけでなく、広告宣伝が子供の心理に影響を与えている面もあるためだ。他のファクターとしては、価格が手の届く範囲にあること。おまけに、一本売りが行われているため、タバコを入手するための経済負担も重荷に感じない。店に入れば、タバコは飲食品陳列場所の近辺にあって、必ず子供の目に入る。」
販売者が未成年者にタバコを売らないようにさせることだけでなく、タバコの広告宣伝禁止、タバコ価格の大幅引き上げ、一本売りをさせない、タバコの販売場所を制限して未成年者がアクセスしにくいようにする、といった総合的な対策を講じていかなければ、タバコと未成年者の関係を断ち切ることは難しい、と活動家は語っている。


「国民は非合法品を望む」(2016年1月15日)
いくら取り締まってもかえって増加する一途の非合法薬物、特にジャムゥを代表とする伝統医薬品に化学医薬成分が混ぜられているもの、は消費者がそれを望んでいるために起こっている現象であることを食品薬品監督庁長官が指摘した。
食品薬品監督庁は2015年の11ヶ月間に発見した非合法伝統薬品54件を公表した。そのうちの47件はBPOM番号のない非承認品であり、7件は許可番号が付されているものの、製品の中に化学医薬成分の混入があった。それら54件中で7割を超えるものが含有していたのはパラセタモルやフェニルブタゾンだった。
伝統医薬品/ジャムゥは自然から採取された薬草その他の薬効成分のみで構成されるものであって、化学医薬成分がそこに混じることは伝統的にありえないことだった。そのためジャムゥ等伝統薬品の定義がそのように定められており、食品薬品監督庁は化学医薬成分混入を承認しない方針を採っている。結果的に、そのような製品は国内市場流通許可が与えられない。
ジャムゥ等伝統薬品は必然的に、化学医薬成分が普通持っている副作用のリスクがないという理解を国民消費者に持たせているのだが、その一方で生産者が密かに化学医薬成分を混ぜて患部に直接働きかける効果をそこに与えると、このジャムゥは良く効くという評価を消費者の間に生じさせ、ジャムゥだから副作用のリスクがないという先入観とあいまって、その非合法ジャムゥが市場で引く手あまたになるという現象を起こさせている。
伝統医薬品に化学医薬成分を混ぜることは、伝統医薬品登録に関する2012年保健大臣規則第7号で禁止されている。問題の本質は、化学医薬成分の適正な量を公的検査機関が調べて決定するというプロセスが存在していないことなのであり、言うまでもなく禁止されていることがらにそのようなプロセスが適用されるわけがない。妥当な量は非合法ジャムゥ生産者のさじ加減ひとつで決まることになり、薬学面から見て本当に適正なのかどうかが公的に管理されていないということになる。
食品薬品監督庁は国民消費者に対し、市場で発見された非合法伝統医薬品/ジャムゥは食品薬品監督庁インターネットホームページでそのリストを見ることができるので、それらを買ったり消費したりしないようにし、いくら効き目がよいという評判であろうとも、そのようなことを信じてはならず、不買を行うことで市場での需要を消滅させ、生産者に作る気を失わせるようにしていこう、と呼びかけた。同時に、医薬品の購入は公式に認可された薬局や薬屋で必ず購入するようにとも呼びかけている。というのは、公式認可を持つ店は違反を犯せば容易に処罰が与えられるため、非合法商品を取り扱わない義務を負っている店が規則を破る可能性は小さいからだと長官は述べている。


「医療現場は混乱のきわみ」(2016年2月5日)
非合法メディカルビジネスはなにもカイロプラクティックだけに限ったものではない。ジャカルタで最近とみに盛んになっているのは、歯科技工士の免許外活動と強精薬販売。強精薬販売は、食品薬品監督庁の承認を得た商品だけを、医師の処方箋に基づいて販売する、というのが合法ビジネスなのであり、それらの要素から外れたものはすべて非合法になる。ましてや、自分の体験と聞きかじりの知識で客にコンサルタントまがいの指導を与えるにおいておや、というところ。
西ジャカルタ市南タンジュンドゥレンの住宅密集地区の中に「歯科専門 アジャイデンタル」という看板を出している家がある。とある路地の入り口からおよそ10メートル奥に入った場所だ。2x1.5メートルの狭い空間で、事業主のアジャイ氏は患者の診療をする。「入れ歯をはめてくれ」「歯列矯正ワイヤーのゴムを交換してくれ」・・・
歯列矯正ワイヤーの装着をかれは150万ルピアで行っていた。アジャイ氏は患者への処置を行う際、かれ自身マスクを着けるが使い捨てのゴム手袋は使っていない。歯列矯正のためのツールは、ワイヤークリーナー、ワイヤー、ゴム、ドリルまで、すべてそろっている。その診療所は稼動してもう10年になるが、処置が悪かったという苦情はほとんどない、とアジャイ氏は自信をのぞかせる。「この仕事については、インドネシア歯科技工士連盟から許可を得ている」とかれは言うのだが、「歯科技工士の育成・監督・職業認可」に関する2014年保健大臣規則第39号の中で、歯科技工士には着脱可能な義歯の制作と患者への装着作業だけが許されている。これではまるで、駐車番が駐車禁止標識の下に駐車するよう指示したから自分は違反していない、と考える自動車運転者と同じだ。
アジャイ氏によれば、クマンギサンの技工士はそれらの処置に加えて、歯の漂白まで行っているそうだ。アジャイ氏は父親から歯科診療処置のいくつかを学んだ。父親も義歯制作者で、それが家伝の職業になったようだ。かれが行う歯科診療処置のための器具や医薬品類は、それらの商品を歯科医院に納めているディストリビュータから購入している由。
強精薬販売は、ひとつ間違えば服用者の生命に関わるものになる。16年1月はじめ、北ジャカルタ市のベチャ引きが過剰摂取で死亡した。女を性的に征服できない男は男の屑だという観念に押されてひたすらわが身を駆る良い年齢をした男たちの姿は、物理的暴力で女を征服しようとする男たちに比べてみるなら、実に痛々しいものがある。
西ジャカルタ市マンガブサール通りには、強精薬販売者がごろごろしている。真昼間からそれだ。アベン氏30歳は道路わきに売店をひとつ持っている。西ジャワ州カラワン出身のかれは、その商売をはじめてもう3年になる。かれの道端の売店は、もちろん路上の不法占拠なのだが、3x2メートルの公共空間使用料として年間7百万ルピアを不良役人に支払っている。売店の中にはマンデイ場も設けられている。店内のショーケースには、バイアグラ、シアリス、ピルビル、ブラックアントなどの商品が整然と並べられ、バイアグラは一錠7万ルピア、シアリスは3万ルピアで売られている。需要が一番大きいのがそのふたつだ。「うちはニセモノは一切扱っていない。ピルビルを折ってみな。ホンモノは絶対に折れない。全部ホンモノばかりだ。効き目は保証されている。」
かれがこの商売を始めたのは薬の卸会社に勤めている友人に誘われたからで、商品はすべてその友人から仕入れている。購買者は一日に3人から10人くらいがその売店にやってくる。10人を超えたことはまだないそうだ。
そのビジネスは事業許可も得ていなければ、薬品販売の認可も得ていないが、取締官がやってきたことは一度もない。強精薬は普通に服用していれば、副作用も危険もまったくない、とかれは言う。危ないのは、量を過剰に服用したり、他の薬品と混ぜて服用したりすることだ。
東ジャカルタ市チラチャスに住む41歳の男性は、バイアグラやピルビルをときどき飲んだことがある、と言う。「飲むと、心臓がポンプみたいにドッキンドッキンになり、時には頭が痛くなる。15分くらい経つと、効果があらわれてくる。効果はだいたい3時間続く。一錠でそれだから、もっと飲もうという気にはならないね。」
インドネシア消費者保護財団指導員は、専門技術系医療従事者に対する監督はまったく不足している、と語る。監督はインドネシア医療カウンシルに委託されているのだが、カウンシル自身は職業ベースの医療従事者に対する監督が本業だ。保健省は技士と専門技術系医療従事者の監督機構を分離させて行うようにするべきである、と指導員はコメントしている。


「生命の価値は低い」(2016年2月9・10日)
ライター: インドネシア大学教授、ハスブラ・タブラニ
ソース: 2016年1月13日付けコンパス紙 "Murahnya Nyawa di Indonesia"

アリヤ・シスカ・ナディヤの死は医療過誤と見られている。インドネシアでカイロプラクティック施術は医師が行うものでないが、世の中はそれを医師の処置だと考えている。生命がひとつ消えた。アリヤ・シスカはもう戻って来ない。ランドール・カファティ医師が追われている。かれは多分、アメリカで法の裁きを受けることになるだろう。社会は医療過誤の被害から安全でいられるのだろうか?
世界で医療過誤はなんら目新しいものでない。ホスピタルセーフティ組織の推測では、アメリカで2013年に起こった病院内での死亡のうち44万件が医療過誤と目され、第三位の地位を得ている。2012年のヘルスケアファイナンスジャーナルでは20万人が医療過誤で死亡したと推測されており、被害総額は1兆米ドルと見積もられている。
インドネシアではどうなのか?残念ながら医療過誤による死亡の総数に関する報告はいまだかつて作られていない。はっきりしているのは、医療スタンダードと患者の安全保障対策がインドネシアではまだ妥当なものになっていないということだ。
< 保証のない医療スタンダード >
医療行為法は医療行為を行う医師ひとりひとりが能力検査に合格することを必須と定めている。アセアン経済ソサエティ時代では、アセアン諸国の医師は域内のどこであれ、医療行為を行うことができる。
しかしアセアン諸国はそれぞれが独自の能力検査メカニズムを有している。インドネシアはまだ外国人医師の医療行為を認めていない。その一方で国民上流層はインドネシアの医療サービスが劣っていると評価しており、かれらはシンガポール・マレーシア・中国・その他諸国にハイクオリティの医療サービスを求めて渡航している。
インドネシアにおける医療サービス問題の大部分は、クオリティコントロールの弱さにある。クオリティコントロールは能力スタンダードの規則執行・建物・器具・手続・医療許認可などで行うことができる。一般的に医療界のクオリティコントロールはフォーマル分野、書類あるいは器具などに対するものに留まっている。
2015年に満点の認定評価を得た病院は90しかなかった。全国で稼動している2千4百を超える病院中のわずか4%だ。病院資格認定委員会のホームページでは、2012年版認定基準に合格した病院は202軒しかない。すべての病院が資格認定にパスしているわけではないのだ。それどころか、クリニックや保健所に対する認定審査はまだ始められてもいない。国民系にせよ国際系にせよ、認定規準に合格した病院は医療過誤と無縁なのだろうか?そんなことはない!資格認定が医療過誤のリスクを低下させることはあっても、それをなくすことはありえない。患者の安全は資格認定基準に含まれない数多くのファクターの影響を受ける。それらのファクターにも、高度な職業規律や政府の規定通りの監督遂行が必要とされているのである。
医師に高度な職業規律を持たせるように強いる定期的な医療監視と監査は患者の安全を保証する規準にまだなっていない。国民の生命に対する国の保護は、保健セクターにおいては妥当というレベルにほど遠い。他面、理解力にも交渉力にも欠ける患者はたいへん弱いポジションに置かれている。中央政府と地方政府の監視と法確立がなければ、患者は悪徳医療従事者にきわめて容易にだまされてしまうだろう。
医師の職業宣誓は医師が患者の健康を最優先することを保証しない。物質主義がますますはびこるこの時代に、医師はますます得をする。なぜなら、患者は一般的に医療サービスクオリティを料金と最新鋭医療器具から評価するからだ。患者は自分が永遠に理解できない最新テクノロジーと高い料金から、それがハイクオリティサービスを示すものだと評価する。通常高い料金を設定した上に、往々にして必要もない最新鋭器具を見せびらかす外国系病院と医師は、そのような状況の中で得をするのである。そういう患者の弱点を利用して金持ち患者や忠実な企業、あるいはやはり医療サービスのクオリティへの評価能力を持たない保険業界を誘い込んでいる病院は数多い。
アセアン経済ソサエティ時代に入れば、インドネシアは外国人医師が国内で医療活動を行うのを拒絶できなくなる。だから医療監査を常に行っていかなければならないのだ。外国人医師もインドネシア人医師も、入院であれ通院であれ、患者の安全を保証しなければならない。高い料金とクオリティが正比例関係にないとしても、サービスクオリティの向上はより大きい費用を必要とする。残念なことに、国民の生命を無駄にしないためのより大きい出費に関する意識はいまだに低い。政府はきわめて廉価な医師と医療ファシリティに依存している。保健所や政府系の普通レベルの病院で治療を受けようとする政府高官はほとんどいない。インドネシアの医療サービスクオリティを明瞭に示すシンプルな姿がそれだ。
< 医師とパイロットは違う >
生命安全という問題について、政府はダブルスタンダードを行っている。医師とパイロットはどちらも人間の生命に深く関わっている職業だ。医師の腕で多数の生命が救われることがある一方、誤って民衆の生命を失わせることもある。民衆というのは貧者も富者もひっくるめたインドネシア国民のことだ。それゆえに、医療を行う医師は高い職業能力、優れたスタミナ、高い規律を身に着けなければならない。
働きすぎて寝不足の医師は業績を低下させる。ある病院で働く低給与の医師は別の病院に二股かけて収入を大きくしようとするので、患者に対するサービスに医師の集中力が低下することになりかねない。患者の生命が完璧に保証されないのだ。
医師も最新テクノロジーのトレーニングを受けなければならない。医師が能力更新をはかろうとしても、チャンスも資金も得られないことは頻繁だ。患者の生命は墓地に向かうかもしれない。民衆の生命は価値が低いように見える。
インドネシア医師会役員のひとりは、民衆の生命が失われるのを防ぐことに対する政府の意識は低いと嘆息する。国税総局長の給与追加は国家公務員給与規定に加えてひと月1億1千7百万ルピアであり、副土地建物税評価員(最低位)のそれは2,160万ルピアであることと比較して、医師の機能職手当てはひと月330万ルピアであり、チーフドクターですらひと月750万ルピアしかないことをかれは指摘した。
国民保健補償制度が始まったいま、ベテラン専門医の多くは給与追加がひと月2千万ルピア程度しかないことを苦情している。一方、学校出たての新任パイロットはひと月1.5〜2千万ルピアの給与であり、機長パイロットは7千万ルピアを得ている。更にパイロットはそれ以外のフリンジベネフィットを与えられているが、医師にそのようなものはない。
パイロットもミスを犯して国民の一部が生命を失うことは起こりうる。ただし、乗客が常に庶民であるわけではない。そのためにパイロットも高い職業能力、優れたスタミナ、高い規律を身に着けなければならない。昨今では大勢のパイロットも乗務の前にナルコバの影響下にないかどうかの検査を受ける。乗客の生命が失われるのを防ぐ努力ははるかに真剣であり、政府も巨額の出費を惜しまない。おまけに政府はLCCより高い運賃の国営航空会社の利用を標準にしている。
乗客の生命には高い価値が置かれている。航空機事故で生命が失われるのを防ぐための政府の投資は巨額だ。航空機事故による死者の数は年間一千人にも及ばないというのに。
一方、医療過誤による民衆の死亡は年間20万人に達しているかもしれない。インドネシアでの医療過誤件数がアメリカよりも少ないという可能性は小さいのだから。民衆の生命を救うためにこの国はどれほどの投資を行っているのだろうか?アリヤ・シスカの死が大きい教訓となりますように。


「インドネシア、スーダン、ソマリア」(2016年2月15・16日)
ソース: 2015年9月26日付けコンパス紙 "Indonesia, Sudan, dan Somalia"
ライター: インドネシア大学保健経済と政策研究センターチェアー、ハスブラ・タブラニ

その三カ国の間には、いったい何があるのだろうか?世銀データによれば、インドネシアは2014年一人当たり年間国民所得が3,650米ドルを超える「中の下」所得国のひとつだ。貧困者国民比率は「たったの」11.3%で、小学校就学率は100%に達する。スーダンも一人当たり年間国民所得がインドネシアの半分の1,740米ドルある「中の下」所得国のひとつだが、国民の46.5%が貧困者で小学校就学率は70%。ソマリアは一人当たり年間国民所得が150米ドルしかないアフリカの貧困国で、小学校就学率は29%しかなく、国民の半分が貧困者だ。
その三カ国の違いは明白だ。注意を引くのは何なのか?世界保健機構が発表した最新のタバコアトラスで、その三カ国は同じ色に塗られている。アジアで灰色に塗られている国がひとつだけある。それはインドネシアだ。ヨーロッパと南北アメリカ大陸に灰色の国はひとつもない。アフリカ大陸には、インドネシアと同じ灰色の国が四つある。西アフリカ、エリトリア、スーダン、ソマリアだ。
高度の文化を持つすべての先進国は赤色になっている。ただアメリカ合衆国だけが例外だ。しかし、アメリカ合衆国は灰色でなく、オレンジ色になっている。既に署名がなされたからだ。
何のことか、だって?世界の180カ国が、喫煙の害から国民を保護するための国際条約であるFCTC(たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約)を承認する署名をしたのだ。すべての先進国、中心国、高い文化を持つ国が、タバコ消費がもたらす健康上のリスクと浪費から国民を保護することをコミットしたのだ。しかしインドネシアは違う。国民は大きなリスクにさらされているというのに。
< インドネシアのタバコに関する事実 >
インドネシアでのタバコに関する格闘は、まるで果てしないゲリラ戦争だ。タバコという依存性薬物ビジネスが生み出す金の奪い合いは、民族の生産性と未来を脅かす。昨年インドネシア国民はほとんど3百兆ルピアをタバコの消費に支出して、無駄に灰にしてしまった。それだけの金があれば、優れた若者国民を80万人もヨーロッパやアメリカの学校の修士課程に留学させることができる。
大学生を博士課程に留学させるのであれば、インドネシアは年間に25万人もの博士号候補者を持つことになる。それほどたくさんの博士号を持つ者がいれば、わが国の将来はどんなに光り輝くものになるか、想像できるにちがいない。ところがそれほどの資金が年間に3千4百億本のタバコを灰にするために使われているのだ。
< 世界から取り残される >
インドネシアは、タバコ消費に関して、もちろん世界ナンバーワンだ。成人男性の67%が喫煙し、頻度も世界一。第二位はロシアで61%、次いでバングラデシュ58%、中国53%。バングラデシュは別にして、ロシアも中国もオリンピックのようなクオリティの高い世界的競争で青年たちは多くの賞を勝ち取っている。アジアでナンバー3、アセアンでナンバー1の大国インドネシアは、アセアン大会で17位、SEA大会で5位でしかなかった。
2011年のインドネシアタバコサーベイデータによれば、大学生の62%、高校生のほぼ50%が喫煙している。かれらはこれから長年にわたって、タバコ産業の将来の収益に大きい貢献をすることになる。国民がタバコ消費のために支出した金は、タバコ農民やタバコ製造労働者の手に流れて行くのだろうか?2000年にインドネシアでは2,170億本のタバコが生産され、2013年にはそれが3,410億本に膨れ上がったことを、データは物語っている。
中央統計庁データは2000年にタバコ国内消費の16.6%を輸入品が占めたことを示している。2011年にはそれが72.5%まで急増した。過去15年間、タバコ製造労働者の賃金はまったく改善されていない。あらゆる産業での労働者賃金を比較すると、タバコ産業の労働者賃金は他のセクターに比べて25%程度でしかなく、たいへん低い状態のままだ。つまり、タバコ消費量増大とタバコに対する国民支出の増加はタバコ農民とタバコ製造労働者の福祉向上にはつながっていないのである。それを享受しているのはタバコ生産者なのだ。タバコ生産者の大手の中には、今や外資に握られたものが混じっている。
インドネシアのタバコ価格や税金はまだたいへん廉価であり、学校生徒がタバコを買うことを可能にしている。生徒たちが中毒になれば、この先40〜50年間、かれらはタバコを買い続ける。この依存性薬物ビジネスのものすごさは、他にたとえようのないものだ。奇妙なことに、タバコ消費を更にレベルアップさせるべく、わが国会議員先生たちがタバコ法案を準備中だ。行政高官の多くも、タバコ農民とタバコ製造労働者に負担を与えるものだという理由でFCTCを拒否している。政府もタバコの税金を上限金額まで引き上げてタバコ消費者価格を最大限のものにしようとしない。タバコ税の理念と裏腹の姿勢が見受けられる。
< 考え違い >
対照的な国がどうして類似の姿勢を示すのか?スーダンとソマリアは貧困と低教育に起因する内戦で国内が乱れている。グローバル社会のコミットメントや世界の目に映っている自国のイメージをかれら自身が気にかけないのも当然だ。わが国の指導者が色盲なのはなぜなのか?世界の中進国・先進国・文化レベルの高い諸国に塗られている色とインドネシアの色が違っていることがどうして認識できないのか?
この国の指導者や舵取りたちがタバコ消費の実態とFCTCを知らないということはありうる。そして指導者や舵取りたちに建白するブレーンたちがタバコ消費の実態とFCTCを知らないということもありうる。タバコ消費の実態とFCTCに関して、読む暇も、検討する暇も、質問する暇もかれらにないということもありうるだろう。10年前にFCTCに署名したタイで、タバコの消費量は維持され、タバコ税収入は4倍に増え、喫煙を始める若者の数が減少しているという事実に接する暇がかれらにはまだないということもありうる。
ブレーンや政策決定に携わる者たちがタバコ葉と製品産業のビジネスの喪失を(正当な理由なしに)恐れていることもありうる。国会議員を含む高官の一部がタバコ葉と製品のビジネスに関与し、あるいはシェアを持っていることもありうる。かれらの一部がタバコ葉輸入で膨大な利益を得ていることもありうる。かれらの一部がタバコに「酔っている」こともありうる。もっともっとたくさんの「ありうる」がまだまだ続く。少なくとも、インドネシアの地位がスーダンやソマリアと同列であることについて、筆者はきわめて恥ずかしい思いをしている。


「ジャカルタにも狂犬病のリスク」(2016年2月25日)
ジャカルタは2004年以来、狂犬病非汚染地区になっているが、病原体流入のリスクは大変高い、と動物保護民間団体が指摘した。ジャカルタアニマルエイドネットワーク設立者のひとりは、ジャカルタに存在する食用犬肉市場に狂犬病汚染地区から犬肉が供給されている事実を軽視してはならない、と語っている。
同団体が昨年行った調査によれば、ジャカルタにあるラポやある種の食堂は犬肉料理を供しており、食材納入業者は常にストック不足状態で、納入業者は西ジャワ州やバリ州など狂犬病汚染地区からも食材を調達している。ある納入者業は、食堂一軒あたり毎週20〜30キロの犬肉を納入しており、ストックが足りないために首都圏外からの食材買付けを頼りにしている、とインタビューの中で語っているとのこと。
犬肉が狂犬病ウイルスに汚染されていない保証はなく、おまけにトラックで陸路輸送されてくる犬肉は納入業者の手元に届くのに二三日かかり、さらにトラックは普通の貨物輸送トラックが使われていて食肉輸送の絶対条件を満たしていないといった、きわめてリスクの高い状況になっている。
国際動物保健機関によれば、犬肉は食用解体肉のカテゴリーに入っていない。そのため、食用犬肉の取引というのはまともな行為でなく、その解体肉の摂取は異常なことと見なされている。しかしインドネシアでは一部種族に食犬の習慣が残されており、その行為を国が禁止するような方向性はまったく示されていない。
需要があるため市場ができ、そこに供給が起こって国民の経済活動がより盛んになるのは政府の基本方針であり、一部特定種族のその習慣自体を国が圧迫してやめさせるためには、もっと緊要な別の要因がそこに出現する必要性があるにちがいない。
ジャワ島内で食用犬肉市場はジャカルタと、ほかにはスラカルタ・ヨグヤカルタに存在している。政府は少なくとも、それらの市場に狂犬病汚染地区からの犬肉供給を禁止するべきであり、また国民に対する教育啓蒙を進めて犬に関する動物保健知識を持たせるよう努めるべきだ、と同団体は提言している。
都庁畜産動物保健課長は狂犬病問題に関して、2004年以来の狂犬病非汚染地区ステータスを維持するために、定期的な予防接種と飼い犬の無料健診を今後も継続するだけでなく、飼育動物に関するより完璧な規則を準備中であることを明らかにした。その中には、飼い犬飼い猫にマイクロチップを装着させることが盛り込まれる予定だそうだ。


「アブナいコショウとコリアンダー」(2016年3月17日)
コショウとコリアンダーの実に過酸化水素や炭酸水素ナトリウムで処理を施し、見栄えを良くしたものを販売していた事業者を首都警察が逮捕した。逮捕されたのはUD MMJのオーナー、E44歳で、Eはその違法作業をタングラン県コサンビのコサンビプルマイ倉庫地区で行っていた。
首都警察特殊犯罪捜査局商工第1次局長によれば、警察がその作業場の立ち入り捜査を行ったとき、出荷直前だったコリアンダー4トン、コショウ超高級品1.25トン、コショウ二級品1.25トン、未作業コショウ素材8トン、過酸化水素が石油缶30本分、炭酸水素ナトリウム14キロが証拠品として押収されたとのこと。
作業場では、5百キロのコショウに炭酸水素ナトリウム80グラムと過酸化水素20キロが混ぜられた上で、2日間扇風機の風を当てて乾燥させる処理が実施されていた。コリアンダーには20キロの過酸化水素が混ぜられて同じような乾燥プロセスがなされていた。そのような処理をほどこすことで、コショウもコリアンダーも見た目のきれいな商品となり、高額の値付けが可能になる。
Eはこのビジネスを8年前から開始し、毎月1億ルピアに達する利益を手中にしていた。この化学薬品を含んだコショウとコリアンダーはジャボデタベッ地区をメインにして、バンテン州、中部ジャワ州、西ジャワ州チレボン一帯、ランプン州、カリマンタン島にまで出荷されていた。それらの地域に居住するかなり多くのひとびとが、きっと不当な処理のなされたコショウやコリアンダーを口にしていたにちがいない。


「医療機関の請求も九層倍?!」(2016年5月19日)
2015年12月2日付けコンパス紙への投書"Beda di Kwitansi"から
拝啓、編集部殿。去る11月10日17時半ごろ、わたしは母に付き添って西ジャカルタ市トゥガラルルのクリニック「ヤディカ」を訪れました。母は胃壁が薄くなっていて、胃に障害があると診断されました。
医師の診察のあと、息苦しくなったために母は救急治療室に入れられ、およそ30分間酸素吸入や点滴注射、看護婦の投薬などの処置が与えられました。そのときに使われた薬剤のすべてをわたしはチェックしています。
翌朝8時半ごろわたしの兄弟が支払いを済ませたので、母は退院しました。しかし兄は帰宅してから、支払額が意外に大きかったと言うのです。領収書に記載されているのは110万ルピアでした。
それで弟はクリニック側に請求内容の詳細を提示するよう求めましたが、なかなか出してくれません。わたしが強く怒ったので、やっとわたしどもの要求にクリニック側は応じましたが、請求明細リストをチェックしたところ、請求書の金額には達しませんでした。[ 西ジャカルタ市在住、アスリ・スナミ ]


「がん罹患年齢の低下」(2016年5月27日)
インドネシア女性の乳がん罹患者が増加している。しかも、これまでよりも若い世代に。
南タングラン市ビンタロのプレミエル病院腫瘍学専門医によれば、2014年以来、乳がん罹患者は55%も増加しているとのこと。人口10万人中の罹患者数は16.6人で、そのうちの30%が40歳未満。罹患者の死亡率は42%と報告されている。がん件数の中で最大シェアを占めているのは子宮頚がんであり、乳がんは11.9%というシェアで第二位に就いている。
若い世代にがん罹患者が増加しているのは不健康なライフスタイルのせいだ、と専門家は分析している。昨今の若い世代は、仕事のキャリア追求に追われて健康を顧みない。飲酒に親しみ、保存料だらけの食べ物を口に入れ、睡眠時間を惜しみ、食事時間は一定せず、運動不足で、ストレスを抱え込み、毎日公害の中をうごめいている。乳がん発生に関与するホルモンの働きにも考慮しない。
がんは老齢者のものだという一般常識は、今や通用しなくなっている、とがん専門医は語る。「その認識はもう時代遅れだ。今や若年層、さらには男性さえもが乳がんにかかっている。男性乳がん罹患者はほぼ1パーセントいる。」
乳がん罹患者に支援の手を差し伸べている民間団体インドネシアラブピンク財団理事長は、乳がん治療はたいへん高額であり、治癒するまでに3億5千万ルピアもの費用がかかることがある、と言う。「そのために、家族の支えがたいへん重要になります。患者には、あなたは大切な人間であり、家族全員がその存在を望んでいるのだと語りかけることが大事なのです。」
発がん性物質漬けになっているインドネシア人にとって、がん罹患者の増加は当然の帰結なのだろう。昨今では学齢児童の中にがんが発症しているケースがいくつも報告されている。そういう結果を招いている道端商人や飲食品製造家内事業者、あるいは怪しげな飲食品製造工場では、それを知ってか知らずか、これまでの営みを今日も続けているにちがいない。これも民族的災厄のひとつと言えないだろうか?


「医療界のコマーシャル化」(2016年7月20日)
医は仁術なりと言われているが、医療がビジネスであるなら「仁」の一字では済まないのが明らかだ。西欧文明が基盤をなしている現代世界で用いられているコンセプトに従うなら、医が算術になるほうが自然だろう。医療従事者に「仁」を強制するなら、医療界だけは異なる文化領域を設定せざるを得まい。
医は仁術なりが東洋医学の思想であるとするなら、インドネシアにも興味深い現象がある。魔法医という訳語があてられているドゥクン(dukun)の多くは、治療処置を行った患者に対して請求金額を言わず、「あなたが払いたい金額を払ってくれたら、それでよい」と言っているそうだ。そんなことを言えば、中には金を払わない患者も出てくる。それでも、「それでよい」になっているらしい。
インドネシアのモダン医療界は西欧文明のあり方に従っている。そこでは医師あるいは病院が患者に何かをすることでその対価が請求されるシステムが使われているため、患者の容態を治癒させることに並行して、医療者のビジネス成果なるものも追求されずにはおかない。それが経営者の優劣を決める物差しになるのだから。
インドネシアの民族主義勃興が医師の卵たちによって支えられたのは植民地事情だったと言えるだろう。とはいえ、ドクトルたちはもっと後の時代まで、民族文化の中で重鎮の役割を果たしてきた。民族開明の駆動力の一部を西洋医学の徒が担ったのは、日本のケースと似ている。
家族の中に医者がいるということがその家族にとっての誇りでもあった時代が、どうやら少しずつ変化してきたようだ。コンパス紙が2016年5月4〜6日に17歳以上の全国12都市住民603人に対して行った電話サーベイで、誇りに思わないひとがたくさんいることが明らかになった。
質問1.家族の中に医者がいるということが、その家族にとって誇りになると思いますか?
回答1.
低学歴者:はい57.8% いいえ35.6% 不明無回答6.6%
中学歴者:はい54.5% いいえ43.1% 不明無回答2.4%
高学歴者:はい43.2% いいえ53.8% 不明無回答3.0%
男性:はい39.6% いいえ55.8% 不明無回答4.6%
女性:はい57.7% いいえ40.5% 不明無回答1.8%
質問2.医者の家族がそのことを誇りに思う理由は?
回答2.
医者は高貴な職業76.7%
早く金持ちになれる 7.0%
辺境の地で住民に奉仕する 5.3%
個人のプレステージ 4.3%
その他 2.7%
不明無回答 4.0%
質問3.現在、医師という職業は、よりコマーシャル的になった、高い社会効用をもたらしている、のどちらだと思いますか?
回答3.
コマーシャル化している 59.2%
社会効用をもたらしている 28.7%
不明無回答 12.1%


「重大犯罪にならないタバコ」(2016年8月11日)
国民健康保険に該当する保健社会保障制度の掛け金の多くが喫煙に由来する疾病に使われていることが批判を呼んでいる。制度開始以来16年1月までの間に制度加入者への治療を行った病院から政府への請求金額のトップ5がすべて喫煙に関連している疾病であることが明らかにされた。
保健省データによれば、請求金額の1位は心臓6.9兆ルピア、2位ガン1.8兆ルピア、3位卒中1.5兆ルピア、4位腎不全1.5兆ルピア、5位糖尿病1.2兆ルピアで、トップ5の合計金額は13兆ルピアにのぼっている。総請求金額は74.3兆ルピアで、20種を超える疾病から成っている。
制度を支える資金が不足して掛け金の値上げが行われている一方で、国民の喫煙低減は建前に過ぎず実効性のある政策がまったく欠如しているという状況の中でのそのデータは、矛盾を解消するために政府が何をしなければならないのかを明白に物語っている。国民保健関連政策オブザーバーたちは、ふたたび言わずもがなの苦言を述べて政府批判を行っているが、政府は明快な姿勢を示していない。
とはいえ、保健社会保障制度自体が全国津々浦々の国民に行き渡っているわけでなく、底辺階層国民の状況や遠隔地住民が利用できる制度加入病院の層の薄さといった問題のために、現在見えている上のデータが示す姿は、まだまだ一部国民の状況を示しているだけということが言える。
ともあれ、タバコの市場価格をもっと高いものにせよというオブザーバーの言葉が示している通り、インドネシア国内のタバコ価格は1万5千ルピア前後で、今や世界でも最廉価なレベルになっている。これはチュカイ税がかかったものであり、かかっていないタバコの価格はもっと廉く、そのために子供でさえ購入することができる結果、インドネシア国民の喫煙開始年齢は10歳にまで低下している。
調査機関が全国30都市で1千人に尋ねた結果、72%はタバコの価格が5万ルピアになれば喫煙をやめると答えている。政府がタバコ価格をそこまで引き上げれば年間70兆ルピアの増収が生まれ、保健社会保障制度の資金不足はその財源でカバーできるはずであり、国民の掛け金負担を高める必要はなくなる。しかし、政府のタバコ産業支援姿勢はいまだに変化が見られない。


「タバコひと箱5万ルピア」(2016年9月19・20日)
保健省が行っている基礎保健調査で、2007年の国民喫煙者比率34.2%は2013年に36.3%に上昇した。喫煙人口は6年間で7千7百万人から9千万人に増えたことになる。
喫煙開始年齢が15〜19歳の者は、2007年の33.1%から50.3%にアップした。学校生徒の5人中3人は家あるいは学校で煙害にさらされており(2014年データ)、また260万人を超える未成年者が喫煙者になっている(2015年データ)。
ASEAN加盟国の男女別喫煙者比率は次のようになっている。
国名 :  男(%)ー 女(%)
インドネシア: 67.4 − 4.5
フィリピン: 47.7 − 9.0
ベトナム: 47.4 − 1.4
ミャンマー: 44.8 − 7.8
マレーシア: 43.9 − 1.0
ラオス: 43.0 − 8.4
カンボジャ: 39.1 − 3.4
タイ: 39.0 − 2.1
ブルネイ: 34.9 − 3.9
シンガポール: 23.1 − 3.8
インドネシアでは、2012年政令第109号でタバコ販売に関する規制が強化され、シガレットはひと箱20本以上にすること、LightやMildといった言葉を使ってはならないこと、自動販売機で販売してはならないこと、妊婦や18歳未満の子供や療養者などに販売してはならないこと、18歳未満の子供に買わせたり消費させてはならず、また無料供与も許されないこと、タバコの包装での警告やタバコの宣伝など、種々の規制が定められた。しかしその法執行が全面的になされているわけでもなく、親も子供にタバコを与え、喫煙を許し、また子供も自由に購入して学校内であっても喫煙している者がいる。
こうなれば、本人の自覚、周囲からの圧力、購買力といった要素に頼るしかなく、中でも行政が容易に行えるのは、禁煙場所の設置やタバコの税金を高くして平均的な購買力の手の届かないポジションに押しやることくらいしかない。
ASEAN加盟国のタバコ小売価格に占める税金の比率とその結果としてのタバコ価格は米ドル換算で次のようになっている。
国名 : 税金比率(%) − ひと箱あたり小売価格(米ドル)
シンガポール: 71 − 9.60
タイ: 70 − 2.06
ブルネイ: 62 − 6.47
インドネシア: 59 − 1.30
フィリピン: 53 − 1.60
ミャンマー: 50 − 2.26〜2.98
マレーシア: 46 − 3.70
ベトナム: 41.6 − 1.08
カンボジャ: 22〜28 − 0.725〜1.00
ラオス: 16〜19.7 − 1.52
インドネシアではロコプティと呼ばれるシガレットタバコの著名ブランドひと箱当たり価格は1万6〜7千ルピアで2万ルピアを割っている。子供の小遣いでも買える金額になっているということだ。
2016年7月に発表されたインドネシア保健経済ジャーナルの中にひとつのリサーチ結果が掲載された。それによれば、タバコひと箱の価格が2万5千ルピアになっても喫煙をやめる者は14.5%しかいないが、5万ルピアになれば72%が喫煙をやめると考えている。
国民喫煙者を減らす方針は国民保健行政にとって必達のテーマであり、国民健康保障財政の健全化を促すための重要な政策ではあるものの、タバコの税金による国庫収入が増大するに従い、大きなジレンマとなって政府にのしかかっている。2005年には32.6兆ルピアだったタバコの税金収入は2016年に139.6兆という大きな財源に育っている。更にはタバコの製造ビジネスが巨大産業になっていることから、その産業を保護することで政治家に金銭的なメリットが生じることは目に見えている。インドネシアの政界がマネーポリティクスの様相を濃くしている昨今、政治センターがそのような反生産的な行動を実践することは考えにくい。更に、タバコ葉生産加工農民や工場で働いているタバコ製造工員の失業という労働問題も控えている。
おかげでインドネシアのタバコ生産は順風満帆の勢いだ。2005年のシガレット生産数2,227億本は2015年に3,480億本に増加した。それを国民一人当たりの消費本数になおせば、ひとり年間1,365本となり、老人から赤児までひとり一日4本のタバコを吸っていることになる。
インドネシアで大きな問題になっているのは、未成年者喫煙問題だ。タバコ業界の国内販売戦略は、既に女性と未成年者を重要な販売ターゲットの位置に据え、販売促進をプッシュしている。中高生をタバコ常用者に仕立て上げれば、その先数十年のタバコ消費は確保されることになる。
未成年者へのアルコール飲料販売禁止はあっという間に体制が整えられたというのに、タバコ販売禁止は遅々として進んでいない。
ASEAN加盟国の国別平均喫煙開始年齢は次のようになっている。ただしこれは、2009年から2012年までのデータが混在しているので、現在最新のものと言うのはむつかしいかもしれない。
国名: 喫煙開始年齢(歳)
カンボジャ: 21.1
ベトナム: 19,8
シンガポール: 18.0
フィリピン: 17.7
インドネシア: 17.6
タイ: 17.4
マレーシア: 17.2
ラオス: 17.2


「ジャカルタの肥満児」(2016年9月28日)
保健省が行った2013年基礎保健調査でジャカルタの肥満者人口比率は全国平均を上回っていた。それどころか、小学生・中学生・高校生の学齢児童ブラケットでは、ジャカルタは全国平均の二倍前後に達している。
5〜12歳は肥満児比率の全国平均が8.0%に対してジャカルタは14.0%
13〜15歳は全国平均が2.5%に対してジャカルタは5.7%
16〜18歳は全国平均が1.7%に対してジャカルタは4.2%
では、大人も子供も含めての肥満者人口比はジャカルタのどこが高いのだろうか?ジャカルタ首都特別区を構成する5市1県の肥満者人口比率は次の通り。
中央ジャカルタ市 34.2%
西ジャカルタ市 31.0%
南ジャカルタ市 42.1%
東ジャカルタ市 40.0%
北ジャカルタ市 32.1%
クプロアンスリブ行政県 28.1%
言うまでもなく、肥満というのは身長と体重の相関関係にあるため、同じ体重の人間でも背が低ければ太っているという評価になる。肥満ということがらを体重の問題としてしまうのは、少々短慮だと言うことができるだろう。
ではインドネシア人の身長はどうだろうか?ここ十数年、保健関係者は、インドネシア人の肥満問題と一緒に国民の短躯化を問題にしており、行政と学術界は国民への啓蒙に努めている。
栄養学専門家は、アッパーミドル層の子供たちの3割が標準より短躯であることを指摘し、貧困家庭⇒貧しい食事⇒栄養不良という悪循環が短躯の原因であるという常識を覆した。問題は経済面でなく文化面にあるのだというのが、その指摘だ。同じことは、肥満問題にも言えるにちがいない。つまり、大きい体躯⇒肥大した体躯⇒貧相でなく裕福に見える、といった価値観がまだまだ日常生活を支配している面があるということにちがいない。
ちなみに、インドネシア人の平均身長に触れておこう。2001年ガジャマダ大学調査機関発表データでは、男性160〜170cm、女性150〜160cm、エルランガ大学ジャーナルによれば男性162.43cm、女性151.30cm、ところが2014年にASEAN DNAが公表した加盟国ごとの平均身長はインドネシアが男性158cm女性147cmでアセアンの最下位に置かれていた。インドネシアには統計数値がありすぎて、われわれは困惑するばかりだ。


「消費期限を偽った医薬品」(2016年12月29日)
期限切れのため捨てられている医薬品を東ジャカルタ市にあるバンタルグバンゴミ最終投棄場で回収した屑拾いが他の者にそれを売っているとの情報にもとづいて首都警察ブカシ市警本部は捜査を開始し、屑拾いからそれを買い上げていた53歳の男を突き止めて16年12月19日22時にブカシ市バンタルグバン町の男の自宅で逮捕した。
警察はその家で、東ジャカルタ市プラムカ市場に売られる寸前の状態になっていたさまざまな銘柄のきれいに包装された1万2千個の錠剤を発見して押収した。錠剤は7つの段ボール箱に収められていた。
この男は屑拾いから投棄された医薬品を買い上げると、洗浄してから包装を取り換え、スタンプを捺して本物に偽装し、プラムカ市場の医薬品販売業者に正規品より廉価に卸すビジネスを一年程前から行っていた。
都内における医薬品医療機器販売のメッカのひとつ、プラムカ市場で販売されている医薬品に関する警察への訴えはまだないが、消費期限内として偽装された期限切れ医薬品を服用したためのトラブルが起こっているのかいないのか、更にはトラブルが起こったと仮定して、その原因を偽装というポイントに絞りこめる環境が存在しているのかどうかは、まったく不明のままだ。
警察は逮捕した男を、保健に関する2009年法律第36号第98条に関わる第196条と消費者保護に関する1999年法律第8号の違反として送検する意向であり、更にその男の非合法医薬品シンジケートとのつながりの有無を取り調べることにしている。
今回の事件で期限切れ医薬品の投棄に関する決まりが守られていないことが、また水面上に姿を現した。定められた廃棄処理をせずにそのままゴミ箱に投げ込んで捨てている薬局や薬品店が少なくないことが推測されており、行政は再び販売店ルートの取締りを実施することになりそう。
コンパス紙記者はこの事件のあとゴミ最終投棄場を観察し、ゴミにまみれて汚くなってはいるものの、包装状態のしっかりした医薬品がゴミの山に混じっている事実を報告している。