インドネシアハラル・ハラム情報


「ビンタンビールの新商品、その名はゼロ」(2004年7月7日)
ビンタンビールを製造しているPT Multi Bintang Indonesia社がノンアルコールビールを発売した。商品名はビンタンゼロで、アルコールゼロパーセントがその謳い文句。これまで販売していたGreen Sands、Fit n’ Funに続くノンアルコール飲料第三弾が先週発売されたこのゼロだ。
全国のアルコール飲料生産は今年120万ヘクトリッターが見込まれており、昨年の横ばい。政府がアルコール飲料にかけている奢侈品税を40%にしたために小売価格が大きく影響され、販売増が期待できなくなったことがその主因。マルチビンタン社のボビー・ノファ庶務広報担当取締役は、隣国マレーシアのビール消費が年間ひとり当たり10リッターもあるというのに、インドネシアはわずか0.6リッターしかない、と言う。通貨危機以前は生産量が年間150万ヘクトリッターに達していたが、毎年平均5%減少しており、これが反転することはまず考えにくい、とのこと。高タリフの奢侈品税課税に見られるように、政府は国民のアルコール飲料消費拡大を望んでいない。「弊社も国民全員がアルコール飲料を飲むことを望んでいるわけではない。弊社は国内の60%シェアを維持しながら、輸出拡大と商品多様化に注力しており、輸出ではオーストラリア、ティモールロロサエ、日本、マレーシア、オランダ、ナイジェリア、イギリス、ベトナムに製品を輸出しており、またノンアルコール飲料を増やすことで多様化をはかっている。」との同取締役の談。
同社の販売戦略は、子供向け、若者向け、青年層、大人など製品別にターゲットセグメンテーションを立てている。モルトをオーストラリアから輸入するなど、いくつかの原材料を輸入に頼っているが、同社製品の国内コンテンツがどの程度なのかについては、明らかにされなかった。


「ボゴール市がラマダン期間中の娯楽スポット営業を禁止」(2004年10月6日)
ボゴール市は10月4日付け市長令第300.45-223/2004号で、ボゴール市内の娯楽スポットはラマダン月開始の三日前(2004年10月11日)からイドゥルフィトリ祭礼の三日後(2004年11月18日)まで営業してはならない、との規制を定めた。この娯楽スポットに含まれるものとして、カラオケ、ダンドゥッ・ディスコ、ライブミュージック(ホテル、カフェなどでのものを含む)、ビリヤード、スピードボール、TVゲーム、マッサージパーラーなど。


「首都の娯楽スポット営業に関する規制が出される」(2004年10月7日)
都庁は2003年度都知事令第87号の内容を施行するという2004年度都条例第10号を根拠に、今年のラマダン期間中の娯楽スポット営業規制をおおやけにした。それによれば、この規制はラマダン月に入る一日前からラマダン月が終わるまで行われ、またイドゥルフィトリ祝祭日の一日前とイドゥルアドハ祝祭日の一日前も同様の規制を受ける。
ラマダン月を通して営業が禁止される娯楽スポットは、ナイトクラブ、ディスコ、スチームバス、マッサージパーラー、スピードボールゲーム、何かと併設されていないバー。夜8時半から深夜0時半までに限って営業が許可されるのは、カラオケ、ビリヤード、スター級ホテル内の娯楽施設だが、それらもラマダン月に入る一日前、ラマダン月初日、ヌズルルクルアンの夜は営業してはいけない。
参考までに、昨年都知事令第87号が出されたときの記事は次の通り。
スティヨソ都知事は10月21日付都知事令第87号でラマダン月の1日前からイドゥルフィトリの1日後までの期間におけるディスコ、ナイトクラブ、スチームバス、マッサージパーラー、スピードボールゲーム、健康回復クリニック、伝統的医療場、バー、ライブ音楽の営業を禁止した。カラオケバー、ビリヤード、スター級ホテル内の娯楽施設は夜8時半から0時半まで(この時期以外は午前2時まで許されている)営業が許される。ボーリング場、ゴルフ練習場、ゴルフ場、スポーツセンター、アイススケート場、映画館、レクレーションセンター、水泳プール、断食の邪魔にならない暫定的展示/ショー、床屋はラマダンの営業規制を受けないが、ラマダン月1日の前日と当日、ヌズルルクルアンの夜、イドゥルフィトリの前夜と当日二日間およびその翌日は営業が禁止される。観光業界は広告、ポスター、パブリケーションが禁止され、映画館ではポルノチックな映画エロチックな映画の上映が禁止され、レストラン食堂はアルコール飲料の販売が禁止され、また断食の決まりを邪魔しない配慮が期待されている。


「ボゴールやブカシでの娯楽スポット営業は全面禁止」(2004年10月18日)
スティヨソ都知事は秩序安寧社会保護を担う都内行政機構に対し、ラマダン期間中のアルコール飲料と爆竹取締を厳重に行うよう指示した。都下5市の担当部門はそれに加えて、カキリマ商人、ゲペンやコマーシャルセックスワーカーなど社会更生問題罹患者に対する取締りも行うことにしている。またラマダン期間中の娯楽スポット営業規制の監視もその職務に含められている。
西ジャカルタ市では、秩序安寧社会保護課が14日からさっそく取締り活動を開始し、夜10時から午前3時まで市内要所の監視と検問を実施して55人を補導し、かれらをクドヤの更生施設に送り込んだ。
ところで過去から連綿と続けられているそんな取締り活動は、問題をなにひとつ解決しないという批判を各界から浴びている。更生施設に収容されたセックスワーカーたちはそこそこの職業訓練を施されて出所するが、そんなことで食べていけるようになるほどの世間でないことは誰しも知っているところ。更にはどうやら、更生施設に送り込まれた者から出所させるために金を取るということまで行われているようだ。検問で捕まり、更生施設に送り込まれた男性カキリマ商人のひとりは、20万ルピアを渡して出してもらった、と語っている。
一方ボゴール県では県議会が中心となり、10月14日からイドゥルフィトリまですべての娯楽スポットは営業しないことを決めた。その中にはカラオケ、ビリヤード、ライブ音楽、ディスコ、ダンドゥッ・ハウスなども含まれている。また同議会はボゴール県警察に協力を仰ぎ、セックスワーカーと売春宿に対する厳しい摘発を行うことを決めた。特に地元民が中心となってそのような聖なる月を汚すものを摘発し、売春宿は見つけ次第建物を打ち壊すべしという指示が出されている。県下で有名なパルン街道、プンチャック、チレンシなどのエリアは、特に監視を厳重にするとのこと。
またブカシ市でも、市長からすべての娯楽スポットはラマダン月の間営業しないように、との指示が出されている。


「首都娯楽スポットビジネスは踏んだり蹴ったり」(2004年10月27日)
ラマダン月の都内娯楽スポット営業規制で業界の収入は平常期の6割程度にしかならないが、去る22日に都内クマン地区で発生したイスラム守護戦線によるカフェ襲撃事件と、それに続く外国公館からの娯楽スポット訪問自粛勧告のおかげで、今年のラマダン月の収入は平常期の3割程度になりそうだ、とアドリアン・マエリテ娯楽スポット事業者協会事務局長が語った。
「スイーピングは娯楽スポット業界にたいへんネガティブなインパクトを与えている。アメリカ政府が自国民に対して出した勧告は、アメリカ人以外は関係ないというものではない。アナーキーなことばかり行っているかれらの目的はこれなのか?今回の事件が諸外国で報道されれば、インドネシアは危険だという印象を与えて観光客が来なくなるおそれが大きく、ホテル業界、ツアー業界、運輸業界にも悪影響が出る。」と事務局長は強い調子で非難する。かれによれば、業界のラマダン期間中の売上計画は5百億ルピアで、都庁への納税は百億が予定されている、とのこと。平常月は1千7百億の売上があり、都庁は340億ルピアの税収をそこから得ている。また業界は雇用総数の60%にあたる23万人をラマダン期間中自宅待機させており、業界の営業が障害を受ければ複雑な問題へと発展することになり、襲撃者たちが考えているような単純なことがらでは決してない、と同事務局長は強調している。


「アルコール飲料取締りで5千本以上を当局が押収」(2004年10月29日)
西ジャカルタ市のアルコール飲料倉庫やアルコール飲料を売るワルンに対する、警察,国軍、市秩安局、検察局合同チーム120人による一斉取締りが27日昼に行われ、MansionやTopi Miringをはじめさまざまなブランドの瓶入りアルコール飲料5,166本がトラック三台ごと押収された。この一斉取締り行動が実施されたのは西ジャカルタ市チュンカレン、タンボラ、クブンジュルッ、グロゴルプタンブランの四郡で、断食の勤めを行う民衆への敬意と支援を表する意味も兼ねている。依然の取締りで押収されたアルコール飲料と一緒に、今回の押収分もまとめてルバラン後に廃棄処分が行われる予定。
アウロラ・タンブナン都庁観光局長は、去る22日夜半に都内クマン地区で起こったFPIによるカフェ襲撃事件にかんがみ、都内の娯楽スポットでラマダン期間中開店してよい店と開店してはいけない店について、都条例に従ってそれを明らかにする高札を店の表に掲げることにする、と語った。また都内各市長に対して都知事から、娯楽スポットに対する巡回監視の指示が出されており、各市は監視班が発見した違反スポットを即時閉鎖させなければならない。


「ビンタンがハイネケンを製造」(2004年12月20日)
オランダのハイネケンビールを輸入販売しているPTムルティビンタンインドネシア社が、ハイネケンブランドをインドネシアでの生産に切り替えることを計画している。その実施は、来年1月14日に予定されているビンタン社の定期株主総会での承認を待たねばならないが、二社間協議では、ビンタンはハイネケンに対して売上の7.2%のロイヤルティを納めることで既に合意が成立している。
自社ブランドビールの商品ラインとロイヤルティシステムによるギネスブランドの製造販売を行っているビンタン社にとって、このディールは利益増の大きいチャンスを開くものだ。「国内の隅々までハイネケンビールを従来より廉価に供給できる。顧客はチョイスの増加、供給の安定というメリットも同時にエンジョイしていただける。」とビンタン社のロドワイク・ロックフェール財務担当取締役はコメントしている。PTムルティビンタン社はハイネケンが85%のシェアを持ち、残りは市場に公開されて個人株主が保有している。ハイネケンの生産に当たって同社は新規投資を予定しているが、その内容はまだ明らかにされていない。今年9月までのビンタン社の業績は、売上が25%伸びているが純利益は20%の減少となっている。


「21日の犠牲祭前夜から二日間、都内ナイトスポットは営業禁止」(2005年1月20日)
スティヨソ都知事は、イドゥルアドハの前夜にあたる20日とその当日の21日はすべてのナイトスポットの営業が禁止されていることを都民にリマインドした。この規定は2004年度都知事令第98号に記載されている。
同都知事令によれば、営業の禁止されている店はナイトクラブ、ディスコ、スチームバス、マッサージパーラー、スピードボール、独立した建物のバーあるいは上記の店に併設されているバー。ホテル内の夜の慰安娯楽施設は禁止対象外となっている。加えてその二日間は、ポルノチックあるいはエロチックなポスター、ビルボード、出版物、映画やショーの上演も禁止され、観光産業の営業活動で宗教的環境への迷惑になることがら、また賭博の機会を開くようなことがらも禁止されている。
ある都議会議員は、「従来都庁のナイトスポット営業規制はイドゥルフィトリに関連して出されているものしかなかったが、この都知事令ではイドゥルアドハ祝祭についても同じような規制が出されており、大きな進歩として評価されている。」と述べている。


「ブレッドトークはハラル審査中」(2005年3月10日)
2003年3月に開店して以来、最初は顧客が店の前で何重もの長蛇の列を作って話題をまいたシンガポール系のパン・ケーキショップチェーン「ブレッドトーク」は、イスラムの宗教禁忌に触れない『ハラル』な食品ではない、との噂が折に触れて流れ、人間の身体に摂取される飲食品・化粧品・薬品などがハラルかどうかを判定するウラマ評議会も先般「ブレッドトークはまだハラルでない」とのコメントを出した。ムスリムにとっては摂取しようとするものがハラルと判定されているかどうかが重要な問題であり、宗教上で禁止されているものを摂取すれば大きな罪を犯したことになる。
ウラマ評議会の組織内部門である医薬化粧品食品調査分析院は生産者からのハラル判定申請を受けて原材料から製造工程までを調査分析し、その製品がイスラムの宗教禁忌に触れるものでない場合はハラル証明書を発行している。その証明書に基づいて生産者は製品にハラルマークを記載し、ムスリム消費者はそれを目安にして商品を購入するため、イスラム社会でハラルマークが記載されていない薬品・化粧品・飲食品の販売を期待するのはむつかしい。8日にウラマ評議会が、「ブレッドトーク、ビンタンゼロ、ホカホカベントーはハラルでない」と表明したのは、まだハラル証明書が発行されていないから、という意味合い。原料検査や工程監査はまだ継続中で、ハラル条件を満たすために原材料の一部を変更するようなアドバイスも検査側から出されている。
インドネシアでブレッドトークの営業権を入手したのは美容サロン業界の雄ルディ・ハディスワルノで、かれをオーナーとするグループ内の会社PT Talkindo Selaksa Anugrahは今やジャカルタ、スラバヤ、バンドンに10店のフランチャイズチェーンをオープンしており、今年はバリをはじめ8店の新規開店を計画している。およそ165種類のパンやケーキを製造するブレッドトークは、一部原材料をウラマ評議会のアドバイスするものに変更しつつあり、このプロセスが完了すれば晴れてハラルマークを冠した商品を販売できるものと期待している。本家のブレッドトークはマレーシア、クエート、サウジアラビアなどのイスラム国にも既に進出しており、ブレッドトークの製品がハラルクオリティを満たせるものであることは疑いない、と同社側では述べている。


「水増し偽造酒製造所摘発」(2005年8月4日)
ブカシ地区の社会障害対策オペレーションとして賭博・麻薬・アルコール飲料摘発を行っているブカシ警察麻薬違法薬品ユニットは8月2日夜半、タングランのブミスルポンダマイ住宅地区内の民家を襲ったが、関係者を捕らえるのには失敗した。その家ではウオッカとマンションハウスの偽造品が製造されており、5箱に入った出荷直前の数十本の飲料とアルコール飲料の入ったドラム缶2本、20ガロン入りアルコール液、蓋のシール器2個を押収するにとどまった。
その夜の捜査行動は、やはり同じ種類の偽造アルコール飲料を作っていたジャティアシの秘密製造所を2日、摘発したことにはじまる。そこでダンボール275箱分の偽造品を押収し、三人を逮捕したブカシ警察は、続いてその一味の別の製造所をチプタッとスルポンに急襲した、というストーリー。その三ヶ所での偽造アルコール飲料製造は、ボスであるニョニャ・デウィなる婦人に雇われた者たちが行っていた。製造場所もすべて借家であり、主犯の自宅ではない。
ブカシで起こっている虐待や喧嘩・集団喧嘩などの暴力事件の9割は混合アルコール飲料で酔っ払った者が起こしており、低コストで作られる廉価アルコール飲料をかれらが容易に手に入れることができるようになっているところに問題のひとつの根がある、とエドワル・シャ・プルノンブカシ警察署長は述べている。


「酒類指定輸入業者はサリナとPPI」(2005年8月13日)
2005年4月6日、政府は国有小売業会社PTサリナをアルコール飲料輸入指定業者に指名した。アルコール飲料の輸入はこのサリナとPT Pusat Perdagangan Indonesia(PPI)だけが行うことができる。しかしこの二社の棲み分けは、サリナが免税店向け、PPIは非免税店向けというように販売店資格で分かれている。全国にある免税店は17で、サリナは15店に販売を開始しているが、コンテナ1台あたりの諸掛が3,417万ルピアに達するとの試算から、商品価格の3%をフィーとして免税店から徴収することにしており、免税店側は小売価格を大きく膨らませる要因だとして反対している。その諸掛はアルコール飲料輸入事業のための投資や保税倉庫の賃貸など、さまざまな経費項目をカバーしたものであり、サリナ側はそのフィーをどこまで抑え込むことができるか再検討すると約束している。
政府は国内アルコール飲料消費を統制するため、輸入に関しては資格認定制度および輸入量割当制度を導入しており、またその割当は商業省が毎年上半期と下半期の二回、輸入量の上限を決めている。


「ブレッドトークにハラル証明書」(2005年10月12日)
ブレッドトークが今年9月に、イスラム宗教禁忌に触れない食品であることを証明するハラル証明書を取得した。飲食品や化粧品など人間が摂取するものがハラルであるかどうかを審査するのはインドネシアウラマ評議会で、使用される原材料から製造工程までが審査され、定められた条件にパスすればハラル証明書が与えられて、ムスリムが利用してよいお墨付きとなる。
かつてディン・シャムスディン、ウラマ評議会事務局長は、インドネシア人に人気のある商品の中でブレッドトークのパンやケーキ、ビンタンビールのビンタンゼロ、ほかほか弁当の三つはハラルでない、と発言したことがあるが、その意味はハラルサーティフィケートが交付されていないという意味であって、ハラムなものを含んでいることが確認されたからではない。
ブレッドトークがジャカルタに上陸し、店の前に長蛇の列ができるのを目の当たりにして、折に触れてハラムだという世論が巻き起こされていたが、同店のハラルサーティフィケート取得が実現したいま、売上が今後は増加するだろうと同店は期待している。同店は160種類のパンやケーキを一番安いものは3,500ルピアから販売しているが、諸物価値上がりの中で当面は旧価格のまま継続し、値上げは抑制する方針を明らかにしている。


「違法営業店を通報すると5万ルピアのご褒美」(2005年10月17日)
スラバヤ市はラマダン期間中のナイトスポットの営業を禁止している。対象となっているのは、ディスコ、パブ、カラオケ、ビリヤード、マッサージパーラーなど。観光に関する2003年度市条例第6号が今年も施行されているわけだが、その禁止令を無視して営業を行う不良事業主があとを絶たないことから、違法営業を行うナイトスポットを当局に通報した市民に対して5万ルピアの報奨金を与える、と市当局が公表した。通報先はスラバヤ市庁の社会保護民族統一庁。
「だれであれ違法営業ナイトスポットを通報し、その通報が本当であった場合には、5万ルピアがもらえる。これはまじめな話だ。」とスイッノ・ミスカル同庁長官は語っている。報奨を受ける通報者は条件を満たさなければならない。その条件とは、通報後問題のナイトスポット周辺にいて、当局職員が違法営業店の捜査に来たとき、通報者であることを名乗り出なければならない。当局側は通報者の名前を決して明らかにしないと約束している。部屋数が10を超えているマッサージパーラーは同庁が直接管掌するが、それ未満であれば郡役所に取り扱いを委ねている。マッサージパーラーの中には、カクレンボ方式で営業しているところが少なくないとの情報を同庁は得ている。禁令を破っているマッサージパーラーは表門も閉めていて、外から見ても営業している雰囲気はまったくないが、表にオートバイが来て停まると、中から女性が出てきて「どうぞお入りを・・・」というスタイルになっているそうだ。


「トゥガル市で禁酒条例検討」(2005年10月21日)
中部ジャワ州トゥガル市議会は、禁酒条例の制定を検討している。住民の大半がムスリムで、アルコール飲料はハラムであるにもかかわらず、住民の中には飲酒泥酔を行う者が少なくない。市にとって何の益もない酒類の製造、流通、保管、消費を完全に禁止せよとの声が議会のPAN、PIB、PKS、PPPなどの会派からあがっている。ホテル内に限って許可しようと考えている中庸派に対して強硬派は、それはアンフェアになるので、全面的に廃止した方がよい、と言い張っている。
そんな状況下に、市内で発行されている新聞に酔っ払いの名前を掲載して恥ずかしい思いを味わわせ、「もう懲り懲り」効果を狙おうとのアイデアが地元市民と新聞社から出されている。程度のひどい泥酔者は、顔写真も一緒に掲載して、飲酒の悪習から足を洗わせることが計画されており、市議会はその案を強く支持している。市議会が検討している禁酒条例案の中には、アルコール飲料製造・流通・保管・消費違反者に対する罰則として、入獄三ヶ月、罰金最大2千5百万ルピア、と規定されている。


「酒で養魚池が全滅」(2006年1月18日)
スカブミ市ワルドヨン郡住民が経営しているいくつかの養魚池で1月13日以来、数千匹もの魚が死んでおり、被害総額は1億ルピアと見積もられている。魚の死について経営者たちは、1月12日にスカブミ市警察が行った不法アルコール飲料廃棄処分で流れた酒類のせいだ、と語っている。経営者のひとりは、魚がたくさん死んだので池の水の臭いを嗅いだところ、強いアルコール臭が鼻を突いた、と述べている。また廃棄処分が行われた場所の近くを流れる側溝は、ワルドヨン郡の養魚池が水を取る小川につながっており、12日に廃棄された18万1千本の不法アルコール飲料の中身がそこへ流れ込んだ可能性は高い。スカブミ警察ではこの件について、また届出がひとつもないので動きようがないが、届出が来れば早急に魚の死因を判定し、もし廃棄したアルコール飲料がその原因であるなら、当方は決してそのままにはしておかない、と述べている。


「スーパーやハイパーでの酒類販売禁止に解除要請」(2006年1月19日)
都庁が一ヶ月前にスーパーマーケットとハイパーマーケットに対して出した酒類販売禁止令に関して、小売業界がその禁止令を解除するよう要請している。インドネシア小売事業者協会(Aprindo)のハンダカ・サントサ会長は、スーパーやハイパーマーケットでの酒類ワイン類の販売は取りやめにしてもう一ヶ月たつが、消費者からの苦情が強いので、どんな条件が付いても構わないから禁止は解除してほしい、と都庁に訴えている。「大使館関連や外国人駐在員などから、酒類の入手が困難になったという苦情を協会会員が受けている。かれらはただ酔っ払って騒ぐために飲むのでなく、それがライフスタイルになっているからで、店側は酒類を売らないならそのスペースで別の商品を売るから損失はなにもないが、客の苦情には対応したい。そのためにたとえば、囲われた場所で販売するとか、17歳以上に限るとのボードを掲げるとか、身分証明書をチェックするとかの条件が必要であれば、問題なくそれを行う用意がある。」そう会長は述べている。その禁止令解除を要請するために、協会側は都庁を近々訪問する予定にしている。
商業省国内通商総局長はその問題について、モダンマーケットに限定して酒類の販売が再開できるよう、業界の要望について都庁と協議する予定だと語った。酒類は商工業大臣令で、ホテル・レストラン・免税店などの指定された場所以外の公共エリアで販売が禁止されている監視品目に区分されているが、監視が十分に行える安全な場所であると判断されれば、地元首長はその販売を許可できることになっており、地方自治体次第の部分もある。
都庁商工業局長は、その問題について関係者と協議する、と言う。「酒類販売量が減ることはないだろう。かれらはホテルやレストランで飲むことができ、また外国人専用の免税店でも買うことができるのだから。」局長は、マーケットでの酒類販売を止めても消費量には影響が出ない、との意見を表明している。


「コンパス紙への投書から」(2006年2月23日)
拝啓、編集部殿。2005年12月末、タングラン市がアルコール飲料条例を出しました。わたしは零細商人としてその条例を支持しますが、アルコール含有5%以下のA群がどうして同じように禁止されるのですか?その商品は、多くの小規模商人の生計を支えているものなのです。ビールのようなアルコール含有5%以下の飲料は解禁してもらえるよう、バンテン州タングラン市当局にお願いしたいと思います。1997年大統領令第3号では、アルコール含有度が高いB群とC群だけが販売監視対象になっているのですから。タングラン市の決まりは大統領令を尊重し、その内容以上の規制を行わないようにするべきだと思います。また外国投資誘致という政府の使命も障害を受けることになるでしょう。ビール工場のシェアの55%は外資なのです。もし外資が撤退したら、従業員たちがかわいそうです。
もし市当局が小規模商人に対して5千万ルピアの罰金あるいは3ヶ月の入獄を科すことを行うというのであれば、わたしは3ヶ月でなく6ヶ月投獄されることも辞しませんが、その代わり5千万ルピアをわたしにください。何年もこの商売をやっていますが、5千万ルピアもの利益を得たことなど一度もありませんので。わたしと同じようにA群アルコール飲料を扱っている零細商人の仲間たちは、ためらったり、怖がったりする必要はありません。大統領令が守ってくれるから。[ タングラン在住、アリ ]


「デポッ市のナイトスポット営業規制」(2006年9月21日)
ラマダン月中のナイトスポット営業規制は自治体によって異なっており、デポッ(Depok)市は首都の条例とは別の規則を制定している。娯楽施設と食堂に関する市長回状第200/1171-Satpol PP号に、全娯楽施設オーナーはラマダン月中営業活動を一切停止するよう求めている。期間はラマダン月に入る三日前からラマダン月が終わって三日後まで。デポッ市行政警察ユニットは、その規則に関する取締りを厳格に実行すると表明している。市内の夜の繁華街はボゴール街道(Jl Raya Bogor)沿い、チブブル街道(Jl Raya Cibubur)沿い、ハルジャムクティ(Harjamukti)町、シンパガンデポッ(Simpangan Depok)、カンプンナンカ(Kampung Nangka)、ボジョンサリ街道(Jl Raya Bojong Sari)沿い、タナバル(Tanah Baru)町、サワガン街道(Jl Raya Sawangan)沿いなどで、それらの地区には無許可営業の店もたくさんあり、その数は63以上ある、と行政警察ユニット側は述べている。デポッ市芸術観光局は、許可を得て営業しているのは食堂219軒、レストラン69軒だけであり、カフェ、曖昧ワルン、ミュージックパブなど慰安娯楽目的の施設はほとんどすべて無許可だと語っている。


「断食期間中のナイトライフ規制の詳細」(2006年9月27日)
ラマダン月とイドゥルフィトリ期間におけるナイトスポット営業規制に関する都庁観光局長の回状が出された。この内容は都条例ならびに都知事令で定められ、過去数年間実施されているものと同じ内容になっている。その詳細は下の通り。
1.次の業種はラマダン月の前日からラマダン月期間中、イドゥルフィトリ期間中、イドゥルフィトリの翌日までの間、営業してはならない。
  ナイトクラブ、ディスコ、スチームバス、マッサージパーラー、スピードボールなどコインゲーム、バー(独立した建物もしくは前述の施設内にあるもの)
2.カラオケと音楽生演奏は1.の期間の営業が20時30分から01時30分までに限られる。
3.ビリヤードの営業は下の通り。
  A. 1.に該当する場所にあるものは営業してはならない。
  B. カラオケと音楽生演奏の営業場所に併設されているものは20時30分から01時30分まで営業してよい。
  C. 1.と2.に該当する場所以外にあるものは10時00分から24時00分まで営業してよい。
4.星級ホテル内で営業している1.2.3.の業種は、2004年都知事令第98号で定められた営業時間に従う。つまり平常通りの営業。
5.2.3.4.に該当する業種は次の日に営業してはならない。
  ラマダン月の前日、ラマダン月の初日、Nuzulul Quranの夜、イドゥルフィトリの前日、イドゥルフィトリの二日間、イドゥルフィトリの翌日
6.上記以外にナイトスポット事業主は次のことを守らなければならない。
  A. 広告・ポスター・宣伝の掲示およびポルノ的好色的な映画や演戯の上演の禁止
  B. 環境を乱さない
  C. 景品賞品を提供しない
  D. 麻薬の使用や売買、賭博行為にチャンスを与えない
  E. ラマダン月とイドゥルフィトリ大祭を尊重し誘導的な雰囲気を醸成する
  F. 従業員に奥ゆかしい服装を指示し、来店客にもそのように要請する
7.1.2.3.4.5.6.に違反した者は処罰される。


「政府のアルコール飲料規制」(2006年11月8日)
政府は大蔵大臣令第89/PMK/04/2006号および第90/PMK/04/2006号でアルコール製品のチュカイ引き上げを行った。チュカイとは酒やタバコなど国民の社会生活に関わる消費をコントロールするために課される一種の物品税であり、特にアルコール飲料についてはイスラム教の禁忌という要因も影響して、国家がその輸入・生産・流通・販売に厳しい統制をかけている。
アルコール飲料は5群に分類されており、エチルアルコール含有1%未満の飲料であるA1群のチュカイはリッターあたり2,500ルピア、1%〜5%のA2群は国内産が3,500ルピア輸入品は5,000ルピア、5%〜15%のB1群は国内5,000ルピア輸入20,000ルピア、15%〜20%のB2群で国内10,000ルピア輸入30,000ルピア、20%を超えるC群は国内26,000ルピア輸入50,000ルピアという金額になった。チュカイ金額はいずれもリッターあたりのもの。またエタノールは国産輸入に関わらずリッターあたり従来の2,500ルピアから10,000ルピアにアップした。
インドネシアではアルコール飲料が百パーセント政府の統制下にあり、認可された有資格生産者あるいは輸入者だけがクオータを与えられて製品を市場に流通させることができる。市場でアルコール飲料は基本的に外国人の需要を満たすためのものという考え方が根底にあり、国内在住の外国人だけが買える免税店でのみ容器入りの販売が公認され、それ以外はホテルやレストランでの消費のための販売が公認されているが、たとえば免税店でオフィシャルに買い物ができる外国人はいま外交官や国際機関員だけになっており、その建前も実際には矛盾だらけというのが現状。また外国から国内へのアルコール飲料持ち込みがひとり1リッターまでと規制されていることについては、これは免税枠という考え方でなく個人消費の便宜をはかっているという考え方に立脚しており、規制枠を超える分に対しては税金を払えばよいということにならず没収されるのが原則。
B群C群の小売販売は厳しく規制されているもののA群については各地方自治体で規制に違いがあり、たとえばタングランでは一切合財禁止とされているがジャカルタではスーパーやハイパーマーケットでのA群アルコール飲料は販売が認められている。


「カニ・カニ・カニ!」(2006年11月22日)
首都ジャカルタで消費されるカニの量は実際、驚くべきものがある。一日の消費量がなんと6トン近いという。そんな量のカニがジャカルタ近海だけで間に合うはずがない。東カリマンタン州タラカン、パプア州ティミカ、さらにジャワ島のジュワナ、インドラマユ、セランなどからカニが供給されてくる。ここ数年間、首都のシーフードレストランやテントワルンが続々とオープンしたのにつれてカニ消費もうなぎのぼりとなった。これにはインドネシアウラマ評議会が2002年6月15日に宣詔を出したことも力を添えている。イスラムでは、信徒が摂取して良いものといけないものが神の教えとして定められている。神が信徒に許したもうたものごとはハラル(halal)と呼ばれ、禁じられたものごとはハラム(haram)と呼ばれる。この定義は人間が摂取するものだけでなく、人間の行為をはじめさまざまなものにも使われる一般概念だ。人間が摂取するものに関して言えば、口に入れるものだけでなく皮膚や鼻からの摂取もあるので、飲食物だけでなく化粧品や塗り薬までもがハラルかどうかという検討を要する対象となる。だから宗教禁忌は豚だけではない。
ムスリム社会では、工業製品にハラルマークと呼ばれる印が記載されている。インドネシアではウラマ評議会のハラル審査部門が工場の原材料や製造工程を審査してハラルマークを付けてよいかどうかを決める。篤信の信徒はそのマークの有無を目印にして購入・使用を決める。日本からでもアメリカからでも、ムスリムのいる国に人間が消費する製品を輸出しようとすれば、ハラル審査を受けてパスし、製品にハラルマークを付けなければビジネスが進まない。工業製品はそうなっているが、天然資源にはハラルマークが付けられていない。特にカニは従来からハラルとハラムの論争が続けられてきた。一部ムスリムは、ふたつの世界に住む生き物の摂取はハラムである、との確信を抱いている。カニは水中の世界で生きているが、陸上の世界に上がっても生きているのだ。しかしハラルだと考えているひとたちもいるために、解決なき論争が延々と繰り返されてきた。この論争に終止符をうつためにウラマ評議会からの裁決が求められ、そうして「カニはハラルである」との宣詔が2002年6月に出されたのである。それ以来、イ_アのムスリムは心置きなくカニを賞味することができるようになった。ただ、その宣詔はおかしい、といまだにそれを問題視しているムスリムもいるにはいるのだが・・・・・。
全国各地から首都に送られてくるカニはアンチョルのカニ市場に集散する。都内にはおよそ30のカニ流通業者がおり、かれらがシーフードレストランやテントワルンにカニを卸す。各地のカニはそれぞれに特徴を持っている。ティミカ産はほぐすと肉が大きめで、しこしこして歯ごたえがある。ジャワ産は小型だが肉に甘味がある。タラカン産は肉がしっかり詰まっている。それぞれにファンが定着している。ジャカルタでの消費シェアはタラカン産がトップで、次いでバリッパパン産、続いてティミカ産そしてジャワ産という順位。ジャワ産の人気が低いということでなく、ジャワ島海岸からマングローブ林が消失したことで漁獲量が減ってしまっているのだ。ティミカ産は大型で一匹3キロに達するものもある。
西ジャカルタ市にあるシーフードレストランRasane ではスモークカニがユニークな自慢料理。これはまず香草と一緒にカニを一度炒めておき、そのあとバナナの葉で包んで焼き上げ、カニの肉に煙の香りを浸透させる。店主はバンデンや肉の燻製からアイデアを得たそうだ。大勢のグループでやってきた客が3キロのティミカ産スモークカニをあっという間に食べ尽くす、と店主は語る。
料理方法はさまざまにあるが、レストランでティミカ産のカニの相場はキロ当たり10万ルピア。テントワルンではカニ一皿7万ルピア。遠くからアンチョルのカニ市場に集まってくるカニは結構値が張っている。タングランのダダップ海岸でもカニは採れるが、このカニはキロ当たり1万ルピアにしかならない。ティミカ産カニはシンガポールへも空輸されている。イーストコーストシーフードセンターでカニを注文すればきっとティミカ産がお目見えするにちがいない。


「若者であふれるワインラウンジ」(2006年11月24日)
いま若者たちの間でワインが流行している。ワイングラスに注がれたワインを、グラスを回転させてその香りを嗅ぎ、口に一口含んで舌の上で転がし、眉根にしわを寄せてその味わいを評価するという作法がとてもエレガントだというワインファンもいるらしいが、ほかのアルコール飲料に比べて柔らかいイメージが現代の若者のライフスタイルにフィットしたということなのだろう。この流行には仕掛け人がいる。インドネシアの若者たちにはワインを飲ませてくれる店が必要なのだ。それも、かれらが集まりやすく、またイメージを盛り上げてくれるスタイルと雰囲気を持つ店が。それがライフスタイルとなりうるゆえんなのである。それらの店はワインラウンジと呼ばれる。
南ジャカルタ市クマン地区にあるVin+は、インドネシアで言うワインブティックのはしりだ。1年程前に開店したこの小さいラウンジは、夜になるとTシャツ、Gパンにスニーカーといったカジュアルな服装の若者たちであふれ、店内のテーブルが開くのを待っている客で店の表玄関も賑わっている。
銀行に勤める28歳のウキは友人と女同士ふたりで今はやりのVin+の探訪にやってきた。「グラスを回転させて香りを嗅いで、なんてすっごいエレガントじゃない。同じアルコール飲料でも、ビールなんか飲んでるのとじゃ見た印象がまるっきり違うもの。まるで別世界の人になったみたい。一度ワインラウンジを体験したかったのよね。」チョイスのよくわからないかの女たちは店員の勧めにしたがってメルローを注文した。やってきたワインを持ち上げて憧れのポーズを決め、そして口に含む。こころなしか、ひたいにしわが寄った。「黒米タペの汁みたいだわ。えへへへ。」タペというのはふかしたもち米や芋を醗酵させて作るローカル食品で、米は白米や黒米が使われる。友人は店員に、「ノンアルコールはないの?」と尋ねる。かの女はインターネットで予備知識を仕入れてきたらしい。「外国ではそれが流行り始めているそうなんだけど。」残念ながらVin+にノンアルコールワインは置かれていなかった。
Vin+のマーケティングマネージャーは、ワインの伝統が皆無であるインドネシアの初心者にワインを普及啓蒙させることを目標に掲げたと語る。もともとこの店は15年くらい前に外国人相手のワインラウンジとして発足したが、ここにきてもっと大勢にワインを知ってもらうという意欲に取り憑かれた。もっと大勢とは言うまでもなくインドネシア人のこと。ファッション性を高めて若者の感覚にフィットするように店内を改装し、1年かけてワインのあるライフスタイルをイ_アの若者に提供することに成功した。いまや14ヶ国から集めた1千2百種のラベルが下は一本6万ルピアから上は5千万ルピアまで取り揃えられ、ひと月に1万2千本が消費されている。客の大半はワイン初心者で、人気のあるのは甘味の勝ったもの。最初はみなさん、甘口からスタートされますよ、と同マネージャーは言う。
やはりクマンに最近オープンしたTipsy Wine Lounge も同じ顧客セグメントを狙っている。「ワインはもうとても手の届きやすい値段になっているんだということを若者たちに知ってもらうことが希望です。」と店長は語る。若いビジネスマンは経済基盤がまだ確立されていないものの、高尚なイメージと手の届く価格を伴った新しいライフスタイルを求めている。ワインを味わうことが持っているエレガントなイメージがこれまでそれを知らなかった階層にいまフィットしている。かれらを啓蒙して行くにはプロセスが必要だが、ワイングラスの持ち方がどうで、といった作法は二の次で結構。要はワインのあるライフスタイルに身を浸し、ワインの味わいを楽しむこと。「でも酔っ払ったらエレガントさはだいなし。Tipsy で十分なんですよ。」店長はすかさず店名の宣伝に努める。


「3万本の酒類密輸入」(2007年6月18日)
バンテン州ムラッ港に陸揚げされようとしていたコンテナ3本を同港税関が押収したのは2006年8月のこと。この3本のコンテナには外国産のアルコール飲料32,028本(32ブランド)が入っており国内市場での販売価格は1本58万1千ルピアのものから上は560万ルピアという広いレンジに渡っている。輸入者が酒類輸入ライセンスを提示できなかったために税関は不法輸入品として差し押さえ、10ヵ月後の今年6月中旬に差押え品すべてを廃棄処分することになった。密輸に失敗したそれらアルコール飲料を輸入ライセンスもなしにムラッ港を通って国内に持ち込もうとしたのはPT Sarana Niaga Perdana で、物品総額は65億ルピアにのぼると税関は見ており、輸入税等を加えれば98億ルピアに達すると見積もられている。税関側は輸入者に対し、30日以内にライセンスを取得すれば通関させるとの猶予を与えたものの、期限を過ぎても輸入者側に進展がなかったため上のような処分を決定した。


「インドネシアで酒不足」(2007年9月5日)
インドネシアで酒類の欠乏が起こっている。酔わせるものを罪悪視するイスラム文化でアルコール性飲料はご法度のはずなのに、という疑問はごもっとも。実はこれ、篤信ムスリムを標榜する大多数国民の需要のためでなく外国人観光客に飲ませるためのもので、外国人観光客誘致に努めているインドネシアが外国人に酒類を飲ませられなくなってしまえば域内における観光合戦の勝敗はおのずと明らかになろうというもの。
大多数国民が、そして政府高官のほとんどもムスリムであるために、政府は宗教禁忌となっているアルコール性飲料に対する厳しい統制を法規で定めている。しかしながら国民の百パーセントがムスリムというわけでなく、またイスラム渡来以前にはたいていの種族が持っていた飲酒の慣習が完璧に消滅したわけでもなく、おまけに観光産業に不可欠の商品という性質もあいまって酒類の市中流通全面禁止という措置を取りたいのはやまやまなれど、という状況が国内では続いてきた。だからと言っては語弊があるかもしれないが、酒類にはありとあらゆる税金がしかも高率で掛けられており、いきおい消費者価格は高額のものとなっている。国産品はビール以外にもワインやウイスキーからブランディまであるにはあるのだが、品質や知名度の問題がからんで外国人観光客の口に入ることはほとんどなく、ビールより高いアルコール濃度のものは輸入品がもっぱらになっている。その輸入品はまず150%もの輸入関税がかけられ、その上に政府が流通をコントロールしたい商品にかけているチュカイと呼ばれる特定品目物品税、奢侈品税、付加価値税とありとあらゆる税金が掛けられている。加えて政府は流通量の制限まで行っており、クオータ制が導入されて半年ごとに輸入量・国内生産量が定められている。このように厳しい制限が加えられると巨大な流通と監視のメカニズムの中でどこかに大もうけができる袋の口が開くのがインドネシアであり、行政機構で人口に膾炙する有名なせりふ「困難を与えてやれるというのに、いったい何のために便宜をはかってやるのか」がつぶやかれる背景がここにも存在している。
2007年8月22日、経済統括省で限定閣僚調整会議が開かれたが、生活基幹物資市場価格をテーマにしたその会議がアルコール性飲料の話題に迷走して議論が沸騰した。バリでは酒類在庫が底をつき、島内住民は仕方なく観光客の需要を満たすためにワインやビールやその他のアルコール性飲料を切磋琢磨して作っているという話を皮切りに在庫欠乏はジャカルタでもバタムでも同じ状況だという情報が出されて、「どうしてそんなことが・・・?」という質問が統括相の口をついた。
酒類流通制度は細かい規制がなされており、外国人観光客向けに課税で販売される輸入酒類はかつての国有商社三社が合併して作ったPT Perusahaan Perdagangan Indonesia (PPI)に輸入と卸の独占権が与えられている。ところがPPIが脱税容疑で会計監査庁の取調べを受けており、商業省はPPIに対して2007年上半期の輸入と卸販売の許可を与えず代行公認輸入業者の指定をも行っていないとの情報が業界筋では流れていた。PPIの脱税はインボイス金額を実際の取引金額より小さくして納税額を縮小する手口を用い、その金額は2003年下半期から2005年上半期までの時期で3,191億ルピアにのぼるとされている。例年PPIは半期あたりA類(ビール等)1千リッター、B類(ワイン等)6百リッター、C類(スピリット等)6万2千リッターの輸入卸許可を商業省から得ていた。PPI以外にもPT (Persero) Sarinahがアルコール性飲料の公認輸入業者に指定されているが、この国有商事会社が輸入するものはデューティフリーショップ向けの免税販売品に限られている。
経済統括省でのその日の会議で閣僚の一人は、早急に輸入関税を引き下げて公認輸入業者以外にも輸入を許可し国内ストックを増やすことが先決問題だと主張したが、公認輸入業者が今年はじめから一切の輸入をストップしたことが原因であり、加えて輸入関税率を動かすことはPPIの脱税調査を混乱させることにつながるのであって問題のポイントはそこにない、と他の閣僚がすべて首を横に振ったそうだ。その背景にあるのは、同じ国の同じサプライヤーから同じ商品を輸入するのにPPIとサリナで輸入価格が異なっているという事実であり、また国民はムスリムがほとんどで外国人ツーリストやエクスパトリエートに飲ませるためのものでしかないのだからそこまでする必要はないという感情が底流をなしていた。この日の会議が出した結論は、商業相は早急に新たなクオータを制定し、PPIとサリナ以外の公認輸入業者を指定して特にバリの需要を満たすために早急に輸入を行わせること、輸入関税率やチュカイ税率は変更しないこと。
一方国内のある民間団体は、政府にクオータを増やさせ更に公認酒類輸入業者の指定を手に入れようとしている一派がこの状況を作り出しているにおいがすると表明している。この裏には国内有力事業者と政府高官が癒着して公認酒類輸入業者指定を入手しようとする策謀があると推測され、その心証の裏付けとして自分の省内に輸出入機関を抱える大臣がその問題に関与した職員は厳罰に処すとの声明を省内に流しているという情報をつかんでいる、とその民間団体は説明している。国内でのアルコール性飲料流通産業に関わりたい事業者は数多く、それはもはやひとつのネットワークを形成しており、この勢力が現場に在庫がないとのSOSを政府に訴えて思惑を達成しようと一心不乱に現場をかきまぜているありさまがどうやら現状の裏話のようだ。厳しい制限を受けている酒類輸入販売事業はそれが厳しければ厳しいほど巨大な利益を約束するドル箱であるにちがいない。


「非ハラル牛肉が市場に漏洩」(2007年9月14日)
不法輸入されたオーストラリア産牛肉が市場に漏れ出ている。KS社とInd社がオーストラリアから輸入したコンテナ10本分の牛肉が検疫書類なしに港から搬出され、タンジュンプリウッ港検疫館の訴えで警察がそれらのコンテナを北ジャカルタ市チュンカレン地区の倉庫で摘発し封印したが、情報によれば封印されたはずのコンテナの中味がほとんど消え失せているとのこと。コンテナ10本のうち5本は25トンあるいは30トンの牛肉が入っているはずなのに、今や中味は5トン程度に減少している。
KS社は定常的にオーストラリアから牛肉を輸入している大手の企業で、同社責任者自身がコンテナの封印に関する事態を十分に把握していない。調べによればその牛肉はオーストラリアのローカル屠殺解体所で処理されたものであり、当然ながら輸出向け処理を行う大手企業より買付価格は安くあがるがインドネシア市場で必要とされているハラル条件を満たしているかどうかは大いに不安のあるところ。保健衛生上の問題はないものと見られるが宗教上の戒律にそぐわない牛肉が市場に流れたというのが今回の事件であり、この事件に関連してどのような波紋が生じるのかはまだ予測しきれない。


「警察が大量の酒を廃棄処分」(2007年9月17日)
9月6日朝、北ジャカルタ市ムアラアンケ(Muara Angke)の鮮魚競り市場でアルコール飲料の入った10,275本のビンが廃棄処分に付された。この処分を実施したのはタンジュンプリウッ(Tanjung Priok)港湾警察署で、それらの酒類は同署が今年8月までに市中から押収した証拠品。ただでさえ気の荒い港湾周辺住民にアルコールを飲ませれば、酔った勢いで喧嘩・刃傷沙汰から果ては生命にかかわる事態を招くことは火を見るよりも明らかであるため、港湾警察はタンジュンプリウッ、スンダクラパ(Sunda Kelapa)、ムアラアンケ地区を重点的にパトロールしてアルコール飲料摘発作戦を行っていた。これまでも同地区で発生した警察沙汰の事件は40%が飲酒に煽られて起こったものであり、警察は飲酒の機会を与えないことで事件発生をミニマイズしようと考えたわけである。インドネシアでアルコール飲料は政府の統制物品になっている。生産・輸入から流通までの一切が政府の監督下に置かれており、それに携わるためには政府から認可を受けなければならない。しかし行政許認可に合法非合法の金がからむのが当たり前のインドネシアでは一般の商人がそのような手続きを行うのは考えにくく、市井で流通している酒類の二次三次卸や小売商人たちはまず間違いなく無許可ビジネスを行っている。10,275本のうち5千5百本は流通商から没収されたもの、また4,775本はタンジュンプリウック港、カリバル港、スンダクラパ港の埠頭に置かれていたもの。埠頭に置かれていたものは、船からそれを受け取った者が警察に摘発されるのを恐れてそこに置き去りにしたのではないかと警察では見ている。こうしてMansion House、Vodka、Topi Miring、Asoka、Anggur Rajawali、薬用arakなどさまざまな国産酒類10,275本が鮮魚競り市場のコンクリートの床に転がされ、その上を巨大なロードローラーが走り回って踏み潰していった。ビンは粉砕され、こぼれ出た酒類は床一面に広がったあと排水溝に流れ込んで競り市場一帯にその香りを充満させた。一本残さず粉砕されたガラスビンの破片はゴミ箱に捨てられ、床一面を満たした酒は水で洗い流されてこの日の廃棄処分は完了した。警察はこの処分のために押収品廃棄許可を北ジャカルタ地方裁判所から前もって取得している。


「首都のナイトスポット営業規制」(2007年9月19日)
2007年のラマダン〜イドゥルフィトリ大祭期におけるナイトスポット営業規制はこれまでと同じように、観光に関する2004年都条例第10号と首都の観光産業営業時間に関する2004年都知事令第98号の内容が繰り返されている。規制内容は業種のカテゴリーによって扱いが違っており、ナイトクラブ・ディスコ・スチームバス・マッサージパーラー・スピードボール・独立した建物で営業されるバーなどはラマダン月の一日前からイドゥルフィトリ大祭の一日後まで完全に営業停止とされ、カラオケやライブミュージックはラマダン月中営業できるが営業時間は20時半から1時半までとされる。ビリヤードはナイトクラブやディスコと併設されている場合、イドゥルフィトリ大祭の一日後まで営業停止となる。しかしカラオケやライブミュージック営業場所の中にある場合は20時半から1時半まで営業が許される。カラオケやライブミュージックと切り離されて完全に独立した場所であれば営業時間は午前10時から24時までとされている。


「ルバラン明けディスコは復讐者で超満員」(2007年10月25日)
ルバラン明け長期休暇の週末、都内各所のディスコはたいへんな賑わいとなった。北ジャカルタ市ロダンラヤ(Lodan Raya)通りのAホテルにあるディスコ、西ジャカルタ市ハヤムウルッ(Hayam Wuruk)通りのディスコS、南ジャカルタ市スナヤン(Senayan)のディスコXなどは夜が更けるに連れて客が引きもきらず訪れて満員の状態。ディスコX従業員は、プアサからルバランまでずっと閉店を続けた後この週のはじめから開店したが10月19日にいきなり超満員になった、と語る。「みんな復讐に来たのだ。」とかれはコメントした。遊びたい気持ちを抑えつけてきた一ヶ月間の恨みをひとびとはこのときとばかり晴らすのだ。入り口にはチケットを買う来店客の列ができた。店内にはタバコの煙が満ち溢れ、コーナーはびっしりと人で埋まっている。店の中央のダンスフロアーには踊る人や立ち話をするひとでいっぱい。そんなひとびとをかきわけなければ奥に進むことはできない。
ほかのディスコも似たり寄ったりの様相を呈している。フロアーの上で何人もがビートの利いたハウスミュージックにあわせて酔ったように頭を振り、身体をくねらせている。それがエクスタシーでハイになっている姿であることを常連客は知っている。エクスタシーをはじめ向精神薬がジャカルタでかなり自由に売買されていることは公然の秘密だ。ハヤムウルッ通りのあるディスコでは、店内に入った客に売人がすぐにエクスタシーを勧めにくる。他人の目から隠そうという気配も見せずにそれが行われているのだ。都庁麻薬庁長官はそんな状況をもちろん耳にしており、ディスコやカラオケを対象に抜き打ち捜査を仕掛けているが売人たちはなかなか捜査員の網にかからない。


「ルバラン明けの復讐戦はここでも・・・」(2007年10月26日)
10月19日夜、時間は23時前。北ジャカルタ市アンチョル地区ロダンラヤ通りにあるAホテルの7階には大勢の若い女性が集まっている。「ここの女性たちはレディースコンパニオンと呼ばれています。ウズベキスタンから来た娘やタイやベトナム、それから中国から来た娘、もちろんローカル娘もそろってますよ。」サービス係の制服を着た男はそう説明する。かの女たちは言うまでもなくコマーシャルセックスワーカーだ。ブロンドで彫りの深い顔立ちをしたウズベキスタン娘はショートデートで150万ルピア、東洋娘は100万ルピア、地元娘は80万ルピアいうのが相場だそうだ。女性たちに混じって何人もの男の姿があるが、制服姿でないのは客に決まっている。娘たちは思いっきり肌を露出し身体の線を強調し、中には下着の上は完全なシースルーという娘もちらほら。このフロアにはバスタブをふたつ置いた部屋があり、それぞれ湯と水が張られている。バスに浸かる客はコンパニオンが付き添い、そのあと6階の部屋に入るかその部屋のロビーでコンパニオンを相手に酒を飲む。そこではヌードダンサーの踊りが楽しめる。ショートデートは1時間半だが、午前1時の閉店後は交渉次第でコンパニオンを外に連れ出すこともできる。このAホテルは1階にディスコもある。ここは夜になると活況を呈する都内有数のナイトスポットだ。
ハヤムウルッ通りのディスコSにも娼婦がいる。ディスコに入ってきた客にマミーがお抱え娼婦をオファーしている。その一階下にはライブミュージックスポットがあり、ここにも娼婦がいて用意されている小部屋に入ってショートタイムを稼ぐ。そんな中にまだ場馴れしない雰囲気の若い娘がいた。プアサが始まる直前から働き始めたというこの娘はクラウディアと名乗り、年齢は15歳だ、とうつむいて質問に答えた。バンドン出身のクラウディアがそこへ来たのはウエイトレスの仕事を紹介されたためだが、この夜の別世界の仕事で得られる収入が天と地ほど違っていることに気付いて不安と怯みを一杯にたたえながらおずおずとその世界に足を踏み入れたのだ。他の娼婦たちは分厚い財布を懐にした男たちへのサービス意欲も満々と客の招きを虎視眈々と狙っているが、クラウディアは恥ずかしさと怖さで不器用に沈黙するばかり。誘ってくれた客に自分からは何も言えず、相手が言うことに短く答えるだけ。「部屋を使うときは1時間28万5千から30万ルピアよ。外へ連れて出てもいいの。」うつむいたまま小さい声でクラウディアはそう語る。
娼婦は外のハヤムウルッ通りにもいる。彼女たちは道端に立ち、通りかかる車がスピードを落とすと吸い込まれるように近寄っていく。オリモからトランスジャカルタバスのハルモニー停留所までの間には数十人の若い娘たちが身体の線を浮き立たせて立っていた。「ショートタイムで35万ルピアよ。ホテル代込み。お好みのホテルに連れてってくれてもいいけど、料金はいっしょ。」ホットパンツの娘はそう言う。
ジャカルタの夜を彩る飽くことのない欲望の世界がプアサとルバランという宗教色に満ちた三十数日を乗り越えて復活した。清廉で崇高な三十数日は瞬く間に過ぎ去った。その間ひたすら欲望に耐えてきたひとびとは、欲望を閉じ込めていたいましめを解き放って残る三百数十日の間その復讐に邁進するにちがいない。


「ハラル」(2008年9月27日)
ムスリム(回教徒)は豚を食べてはならず、酒を飲むのもいけない、ということはたいていのひとが知っている世界の常識だ。それは宗教教義で禁止されているからいけないのであって、そのような禁忌をイスラムではハラム(haram)と称している。しかしハラムに関する教えはそれ以外にもたくさんあり、たとえば豚がだめなら牛はなんでもよいのかと言えばそうなってもおらず、イスラムの作法にもとづいて屠られ捌かれた牛肉でなければハラムになってしまう。
ムスリムにとって宗教法を正確に遵守しようとするとき一番困るのが、口・鼻・皮膚などから人間の体内に摂取されるものがハラムかどうかの判別をしなければならない場合だろう。イスラムでは、本人がハラムと知らずに摂取したものはあとでハラムと判っても罪にならない、と定めて本人に罪悪感を持たせないような工夫をしているから主観的な感情の持ち方次第ではあるにしても、自己嫌悪に陥る生真面目人間も中にはいるのである。ともあれ衆生の日常生活における迷いを取り除くのは宗教社会指導階層の務めでもあることから、イスラム社会では人体に摂取されるものを主体にしてハラルマークというものが使われている。ハラル(halal)というのはハラムの反対で、宗教禁忌に触れないものという意味だ。ムスリムたる者としては、スーパーマーケットで買物する際に飲食品や化粧品、歯磨き歯ブラシにいたるまで、ハラルマークの付いた商品を優先的に選ぶのが宗教上の務めでもあるという帰結がそこから生まれるのではないだろうか。
商品にそのハラルマークをつけるためには、その商品がハラルであるというお墨付きを宗教機関から得なければならない。インドネシアでハラル証書はウラマ評議会の下部機関である食品薬品監督検証機関が商品を審査した上で発行する。この審査では、原材料から加工そして製造工程まですべてにわたってハラム要素が完璧に排除されているかどうかがチェックされ、問題が発見されればそのハラム要素をどう排除するかということまで相談に乗ってくれて、最終的にハラル証書が発行される。根拠が宗教経典であるということさえ気にしなければ、これは立派な品質管理と審査のプロセスなのである。ところが国民の9割がムスリムだというインドネシアの国内市場で販売されている消費物資250万点がハラルマークなしで流通しており、消費者はどんどんそれを購入している、という実態を飲食品事業者連盟が明らかにした。
インドネシアウラマ評議会がハラル証書を発行した商品は3,742点であり、ハラル審査を受けていない流通商品との間に大きな溝が開いている。250万点というのはレストランが売っている小分けした持ち帰り用商品から中小事業者の産品まで含まれているとはいえ、この市場流通商品は年々7〜10%の割合で増加している。そんな状況はインドネシアにハラル製品に関する法律が作られていないからであり、まず法律を整備して国民のマジョリティを占めるムスリムに対する便宜をはかるべきだとして政府はハラル製品保証法案の編成を進めているところだ。この法制度化を行なったあかつきには、スーパー・ハイパーマーケットの商品陳列に関してハラル製品コーナーを設けさせてムスリムが買物する際に戸惑わないようにさせようとの構想も用意されている。インドネシアウラマ評議会のデータによれば、ハラル生産者証書はすでに2千8百社に交付されており、その51%はPMA企業だそうで中国系資本も80社あるそうだ。
しかしハラル証書の取得が無料でできるわけがないことから国内生産者、中でも中小資本の多くは政府が進めているこの政策に顔を背けている趣が強い。実際にハラム要素を排除している生産者は、ハラルマークがなくても消費者は購入しており、コストを引き上げる結果しかもたらさないだけの形式整備をなんのために政府は一生懸命推し進めているのか、と納得できない思いを表明している。そしてウラマ評議会自身も、宗教機関の専権行為であるハラル判定を政府が掌握しようとしているのではないか、として不安を抱いている。


「豚含有表示のない飲食品の販売は違法」(2009年2月25日)
食品薬品監督庁は経済危機による不況が非合法商品の流通を盛んにするだろうとの予測に従って2008年末から市中で販売されている医薬品・飲食品・化粧品の取り締まりを強化しており、食品1,130種、化粧品300種、医薬品74種の合計1,504非合法アイテムを没収したことを発表した。その大半は食品薬品監督庁に届け出て登録番号を入手するというプロセスを経ないまま市中で販売されていたもので、没収されたトラック100台分の非合法商品は近いうちに廃棄処分が行なわれる、と食品薬品監督庁長官は述べている。「昨晩も都内パサルバルで化粧品を没収した。取締はほとんど毎日行なわれており、小さい商店だけでなく大規模小売店から倉庫まで捜査の対象になっている。最近発見されたものの中に豚を含んだ食品がラベルにそれと表示されないまま販売されているものがある。キャンディ・即席麺・ジェリー・コーンビーフ等々いろいろなものがあり、その包装はたいてい日本語・韓国語・中国語で表示されている。それらの商品を流通禁止にするということではないが、豚を成分中に含んでいるという表示がインドネシア語でなされていなければならず、またそれらの商品は店内の豚を含む商品を集めた棚に陳列されていなければならない。ましてや食品薬品監督庁が交付したML番号が付けられていなければならないのは言うまでもない。それらの商品はPacific Place, Food Hall, Ranch Market, あるいは韓国・日本・中国系のエスニックマーケットで見つかっている。当方が措置を取れるのは商品だけであり、店の営業許可をどうするかは商業省の管轄になる。」食品薬品監督庁長官はそう説明している。


「酒類の品不足に好転の気配なし」(2009年3月4日)
政府が割当制で規制している公認輸入者によるアルコール飲料輸入は2008年の最初の10ヶ月間で割当量の62%しか消化されなかった。商業省が与えた割当量トータル22万カートンは1〜10月間で127,664カートンしか輸入実績がなく、全国のホテル・レストラン業界に品薄状態をもたらしている。ちなみに含有アルコール成分別クラス分けの状況を見てみると、ビールが主体のA類はクオータ13万カートンに対して輸入実績は50,508カートン、ワイン等のB類はクオータ8万カートンに対して71,321カートンでこれだけは消化率が突出している。スピリットがメインのC類はクオータ1万カートンに対して実績は5,835カートンしかない。
公認輸入者→公認ディストリビュータ→ホテル・レストランという流通機構の中でどこかにストックが溜まっているという様子はなく、強いて言えば輸入通関に時間がかかっているという話もあるものの、既に半年以上も続いているアルコール飲料品薄状態の原因がどこにあるのか、関係者の間でも実態が明確に把握されていない。
リーガルな商品が品薄になると非合法商品がすぐに増加してその穴を埋めるのがインドネシアで普通に見られる現象であるとはいえ、アルコール飲料を取り扱っているホテル・レストランへのイリーガル商品のオファーはひっきりなしに入ってくるので、闇市場にはかなりの量のストックが存在していると見られている。しかしホテル・レストラン業界者は頻繁に回ってくる当局のパトロールに非合法品が見つかると厳しい制裁を蒙ることから、イリーガルな酒類を扱う店はあまり多くないそうだ。


「腐った酒」(2009年5月4・5日)
インドネシアはアルコール飲料に強い規制をかけている国だ。製造・輸入・流通・貯蔵・小売のあらゆるステップが特別ライセンスでしばられ、そして税課金も他の商品より重い。国はアルコール飲料が人間を酔わせて非生産的にする良くない性質を持っているという理由でアルコール飲料を国民から遠ざけようと努めており、国民の大多数が信仰している宗教でも禁忌とされていることと相まって社会的にネガティブな色彩に濃く染められている。輸入品は高率の関税・チュカイ・PPNが課されており、輸入品の買付価格は国内に入ってきたとき500%の税課金が上乗せされるために一挙に6倍の価格となる。それに流通機構で利益が乗り、小売店(基本はコップでのバラ売り)での利益も加わって、消費者の口に入るときにはいったい何倍になっているのやら。
それほど巨額な税金が徴収されているはずなのに、国庫に入っているのはほんの一部分でしかなく、大部分はコルプシに蝕まれてどこへ流れているのかよくわからない。アルコール飲料を国民から遠ざけようとするお上の深情けに反して、国民は椰子酒の昔からアルコール飲料が大好きだった。だから大多数の善男善女国民に対するアルコール飲料需要は宗教禁忌のおかげでゼロであるという政府の主張は実態と大きく乖離している。アルコール飲料は一部非ムスリム国民と在留外国人向けに用意される必要悪であるという政府の建前とは裏腹に、国内には大きな需要が闇に隠れて存在している。
国にとって必要悪とされている品物が自由経済システムの中に投げ込まれるわけがない。政府はアルコール飲料に割当制度を適用し、ジャカルタにはいくら、バリにはいくらといった年間上限数量を割り当てて流通させているのが実態で、おかげで年度末は割当量が底を突くと来年度が始まるまで品薄が起こる。これが、政府が管理している枠組みの中で見えている部分だが、目に見えない闇の世界がその外側に存在している。国内のアルコール飲料消費の40〜60%は闇市場の品物だと一般に言われている。つまり政府が規制して割り当てている数量の2倍の市場が国内にあり、不足分は不法輸入品いわゆる密輸品でまかなわれているのである。不法輸入品はコンテナに満載されて虚偽申告で国内に入り、あるいは正当な申告を行なう物品の陰に隠されて国内に入り、さらには許容量を超える酒類持込みを行なった個人乗客手荷物が空港で没収され、それが悪徳税関職員によって闇市場に流される。
空港税関からの払い下げ洋酒を買わないか、という話は昔からよく持ち込まれてきた。闇市場とはいっても、目に見える生身の人間が行なっているのは合法品と変わらない。
闇商品は別にして、正規に輸入されているものから得られる500%の税課金と輸入数量実績から計算すれば、国庫には1.6兆ルピアの収入がなければおかしい。ところが現在アルコール飲料独占輸入者となっているPTサリナの納めたアルコール飲料輸入に対する関税チュカイ等の輸入税は、2007年がゼロ、そして2008年は620億ルピアと報告されている。アルコール飲料輸入ライセンスは従来国有事業体である商業会社数社に与えられていたが、腐敗に満ちたそれら会社の輸入行為を修正しようとした現女性商業相がそれらの会社すべてに対して輸入許可交付を停止してしまった。輸入の扉はPTサリナ一社にしぼられてしまったことから、現状はサリナが独占輸入者という形になっている。そのアルコール飲料輸入にからんで振るわれた大ナタが、現在国内市場で起こっているアルコール飲料不足の誘因なのである。
戦略国際問題研究所調査員のひとりはインドネシアで起こっているアルコール飲料政策と腐敗に満ちた実態との乖離について、税制はアルコール飲料消費のボリュームやフローに影響を与えてそれを測定し統御する力を持っておらず、コルプシと不透明さに効果を殺がれている、とコメントした。「コルプシは競争力とは無縁で不公平なビジネス競争の場を生み出している。そのような競争の場では、合法にビジネスを行なうよりも不法輸入者になって闇市場とつながるほうが大きい利益を得ることができる。国内アルコール飲料の需要をコントロールする能力を持たない不能な税制とシステマチックなコルプシのために、国庫収入となるべき金額の24分の1しか収税ができていないのが実態だ。」調査員はそのように解説している。


「国産ビール産業地図」(2009年6月4日)
インドネシアの有力ビール生産者としては、ビンタンビール生産者のPT Multi Bintang Indonesia、アンカービール生産者のPT Jankar Delta Indonesia、バリハイビール生産者のPT Bali Hai Brewery Indonesiaといった名前が挙がる。ビンタンビールの2008年生産量は前年から15%上昇して年間1億リッターを超える新記録を作った。この記録は全国津々浦々まで構築された配送ネットワークの賜物だとビンタン社営業担当取締役は述べている。同社は新商品開発にも力を入れている。ノンアルコールのビンタンゼロやグリーンサンズのバリエーションとしてグリーンサンズリチャージなども市場に送り出されており、またビンタンホワイトやビンタンブラックといった主力商品ラインナップの拡充も行なわれている。更にハイネッケンやギネスのライセンス生産も行なっているとはいえ、同社の主力商品は国内シェアの三分の二を掌握しているビンタンビールであり、今後も国内販売を伸ばすことに専心する意向。そのため輸出は片手間という雰囲気であり、輸出売上は総売上の1.5%でしかない。2008年同社の業績は純売上高1.32兆ルピア、純利益2,223億ルピアで2007年から大きい上昇を示している。
ビンタンのコンペティターであるアンカービール生産者のPT Jankar Delta Indonesiaは2008年売上高が1.2兆ルピアあるとはいえ、ビンタンよりも輸出比率が高いため国内ではビンタンに押されている印象が強い。同社の2008年生産量は7千万リッターだが、輸出がそのうちの2千万リッターを締めているので国内に宛てているのは5千万リッターだけだ。アンカーの販売課長によれば、2008年は国内市場が17.5%も成長したとのこと。
ところで政府が輸入アルコール飲料にかけている税課金は次のようになっている。
税種 / アルコール濃度(1%以下 / 1〜5% / 5〜15% / 15〜20% / 20%超
輸入関税 (%) ( 40 / 40 / 150 / 150/ 150 )
チュカイ (Rp/リッター) ( 2,500 / 5,000 /20,000 / 30,000 / 50,000 )
PPN (%) ( 10 / 10 / 10 / 10 / 10 )
PPnBM (%) ( 40 / 40 / 40 / 40 / 75 )
*輸入品はPPhとして2.5%納税しなければならないが、これは年次納税申告書の中で未納税PPhと相殺できる。
*国内生産品は輸入関税だけが除外される。


「2009年酒類輸入割当量が24%増加」(2009年6月5日)
商業省は2009年アルコール飲料クオータを29万カートン261万リッターと決定した。22万カートン198万リッターという2008年の割当量が100%消化されていないにもかかわらず2009年はそれが増やされたことについて商業省外国通商総局鉱業化学品次局長は、登録輸入者PTサリナの国内需要増加に関する提言に従ったものだと述べている。アルコール飲料登録輸入者となっているのはPTサリナ、PTプルダガガンインドネシアその他いくつかの会社だが、2006年以来サリナ以外は輸入認可申請を出していない。過去三年間のアルコール飲料輸入クオータは次のように年々増加している。
2007年 19万カートン、171万リッター
ビール等(アルコール濃度5%まで) 11万カートン
ワイン等(アルコール濃度25%まで) 7万カートン
スピリット等(アルコール濃度50%未満) 1万カートン
2008年 22万カートン、198万リッター
ビール等 13万カートン
ワイン等 8万カートン
スピリット等 1万カートン
2009年 29万カートン、261万リッター
ビール等 17万カートン
ワイン等 10万カートン
スピリット等 2万カートン
(1カートン=9リッター換算)


「韓国酒が大量に密輸入される」(2009年6月24日)
税関市中調査チームが行なった市中倉庫調査で不法輸入された多数の韓国酒が見つかった。発見されたのはビン入りのジンロフレッシュとチュムチュムラムが1,249本で、発見場所はチカランのタマンシンプルッとデルタニアガの二倉庫ならびにカラワチのピナンシア倉庫だった。そして税関文民捜査官による不法輸入ルート摘発のための捜査が始まった。
その捜査で韓国酒不法輸入者が5社あることが判明し、税関はタンジュンプリウッ港にある未通関コンテナの中でそれら5社が荷受人になっているものを探し出してコンテナ内貨物の検査を行なった。その5社が荷受人になっているコンテナ8本のうち4本にはナチュラルソジュ94,460本、2本にはジンロフレッシュ30,120本、そしてウォルマエ発泡酒2,568本とボップンジャジョー600本がコンテナ各1本に満載されており、総合計は127,784本という膨大な数にのぼった。
アルコール飲料不法輸入者は輸入ライセンスを持っていないために当然正直な輸入申告ができるはずもなく、輸入通関は物品名称を偽り、通関書類は偽造したものを使っていた。


「アルコール飲料国内生産は政治問題」(2009年7月16日)
アルコール飲料製造事業の外資閉鎖を解除するべきだと全国商工会議所役員が発言した。「インドネシアはアジア第6位のアルコール飲料輸入国で、年間1億本のアルコール飲料を輸入している。アイルランドのDiagio社がインドネシアへの事業投資を希望しており、国内生産量を増やして輸入量を減少させることは外貨支出の節減に大きい効果をもたらすものである。しかるに政府は宗教的政治的な理由からアルコール飲料国内生産に及び腰であり、結果的に年々膨大な輸入量を抱えて外貨を浪費している。」
投資調整庁長官はこの問題に関して、アルコール飲料製造事業は昔から投資ネガティブリストに入っており、その事業分野がネガティブリストから消されるような徴候はまったくない、とコメントした。「輸入については商業大臣の管轄であり、どのような政策が取られるかは次期商業大臣の方針ひとつにかかっている。」投資ネガティブリスト実施規則改訂版の制定は今月中になされるだろう、と前置きして投資調整庁長官はそう語っている。
商業省はアルコール飲料輸入について、毎年クオータ制度を用いて輸入量を規制している。国内需要の大幅な伸びにともなって輸入クオータ量は2007年19万カートン、2008年22万カートン、2009年29万カートンと急カーブを描いて上昇しているが、輸入活動を行っているライセンス保有者は一社しかなく、クオータが消化しきれていないとの声も出されている。全国商工会議所が言う年間輸入量1億本という数字とはうってかわって商業省は、インドネシアの年間輸入量は261万リッターにすぎないと反論しているが、それは2009年クオータ29万カートンに1カートン9リッターという値をかけたものだ。
現在国内にはアルコール飲料生産者としてPT Jangkar Delta Indonesia、 PT Multi Bintang Indonesia、 PT Bali Hai Brewery Indonesiaの三社が国内市場への供給を行なっている。Ankerブランド商品を製造しているPT Jangkar Delta Indonesiaは2008年の生産量が7千万リッターで、そのうち5千万リッターは国内市場向け、残りは輸出という内訳になっている。またBintangブランドビールを生産しているPT Multi Bintang Indonesiaは昨年1億リッターを生産し、今年の生産量は横ばいだと公表している。


「ラマダン月のナイトライフ規制」(2009年8月26日)
ふたたびラマダン月がやってきた。厳粛で聖なるこの月にムスリムは断食をはじめとして宗教が定めているdo's '& don'tsを30日間毎日実践しなければならない。神と向き合うことに沈潜しなければならない一年に一度のこの大切な時期に、紅灯街のきらめきがかれらの心を乱すようなことがあってはならない。宗教者の心を乱すような行為は慎まれなければならないのである。その結果都庁と都議会は2004年に都条例第10号と都知事決定書第98号を定めてラマダン月のナイトスポット営業規制を行なうようになった。
その規定によれば、ナイトクラブ・パブ・スパ・マッサージパーラー・カラオケ・音楽生演奏・スピードボール・バーはラマダン月初日の前日と当日、ナズルルクルアンの夜、タクビランの夜、イドゥルフィトリ大祭の初日と二日目の営業が禁止される。更に業種によっての時間規制もあり、カラオケの営業時間は14時から2時まで、音楽生演奏は19時から1時まで、ディスコは19時から2時までなどとなっているが、ホテル内で営業しているところは例外扱い対象となる。
首都5市の文化観光次局はラマダン月の期間中、それら規制対象となっている店の監視に精を出す。西ジャカルタ市文化観光次局は193ヶ所の規制対象店に対する監視を行なうチームを編成した。その巡回検問に関連してアルコール飲料・麻薬覚せい剤など違法物品の摘発にも努める計画であり、アルコール飲料流通者の中に多数の無許可事業者が含まれている由。


「アルコール飲料市場は異界・・・?」(2009年9月8日)
2009年8月現在PTサリナのアルコール飲料輸入実績はやっと175,500カートンで、商業省が与えた年間クオータ39万カートンの45%しか消化していない。それについてサリナ代表取締役は、「本筋では50%以上消化していなければならないのだが、まだ45%程度の消化率だ。輸入関税と諸税がきわめて高いことがクオータ消化を遅らせている主要因だ。」と説明している。
インドネシア唯一の合法輸入窓口であるサリナの輸入量が計画進度を下回っているために市場の需給関係は供給不足に陥っており、非合法輸入品受入れの下地をますます肥沃なものにしている。外国人の多い国内観光先地でサリナが行なったサーベイによれば、アルコール飲料非合法輸入品がすべての地方で例外なく出回っている。政府の建前である、外国人旅行者在留者向けの特別サービスという位置付けに反して国民のアルコール飲料需要ははるかに大きいものであり、べき論にもとづいて設定されているクオータでおさまりきらないのは明らかだ。その需給アンバランスを非合法輸入された廉価なアルコール飲料が埋めている。というより、輸入関税や諸税を納めない非合法輸入品が圧倒的な価格差によって合法品の市場を狭めているきらいも免れていない。サリナ社代表取締役によれば、合法輸入品と非合法輸入品の市場における価格差は5倍に達しており、またインドネシアに輸入されたアルコール飲料はその原産国の小売価格よりも300〜400%も高いものになっている。
ムスリムがマジョリティを占める、宗教色に濃く彩られた国であるがゆえに政府はアルコール飲料を野放しにすることができず、その制御に深くコミットしている結果がクオータ制度や流通機構の許認可制度であり、また輸入関税・チュカイ・奢侈品税・付加価値税・所得税輸入時前納などの高課税方針となって現れている。そのようにして国民が身近に触れることのないようにし、高額なものにして購入意欲を殺ごうと政府は努めているのだが、国民はアルコール飲料需要を低下させるどころかそれへの志向は上昇の一途をたどっているようで、政府の希望するクオータの枠内に収まる気配はない。
サリナ社は輸入したアルコール飲料の市場流通を、これも政府が認可を与えたエージェントやディストリビュータを通して行なっており、合法輸入アルコール飲料国内販売ルートは一握りの販売店とホテルレストラン業界に独占されている形になっている。自由な市場競争を標榜するインドネシア政府にとって、アルコール飲料はそれに完全に背を向けた異界を形成しているかのようだ。
ここのところ長期にわたって起こっているアルコール飲料品薄とそれに伴う非合法輸入品の隆盛に対してサリナ社代表取締役は、「政府は非合法輸入品の国内流入阻止をもっと厳格に行なうこと、そして高課税方針を緩めて合法品と非合法品の市場における価格差を縮めることがその解決策だ。」と政府に提案している。


「韓国焼酎5千本が密輸入される」(2009年10月24日)
保税地区を意味するbonded areaを直訳してインドネシアではkawasan berikatという公式名称をつけており、通常KBと略称されている。KBはひとつのエリア内に複数の会社がある形態と、単一の会社がその敷地をKBにする形態の二種類があるが、第三者の目という意味からすれば後者のほうで監督税関吏と会社との間に癒着が起こりやすいと言えるかもしれない。
KB工場は保税輸入した原材料を製品や半製品に加工して輸出するというのが元来のコンセプトであり、保税輸入という税収の期待できない輸入通関であるため税関吏の多くはあまりこまめな監視を行なわない。そこにつけこんで小細工を弄する輸入者が出現する。
ボゴール県にある繊維製品製造工場PT HIは自社で生産するのに使う縫製用糸をコンテナで輸入し、ジャカルタのタンジュンプリウッ港から工場まで保税運送を行なった。ところが税関はそのコンテナの中に通関申告のなされていない物品が潜んでいることを探知し、コンテナ内を調べた結果韓国焼酎『ジンロ』ビン詰め4,980本を発見して差し押さえた。
また同じボゴール県内にある保税衣料品製造工場PT DPPIは保税輸入された原材料を使って生産した子供服2,872着を、ボックス車を使って税関への申告を行なわずに国内に出荷した。保税工場が製品を国内出荷する場合には、その出荷時に輸入関税その他輸入税を納めなければならないことになっている。そのため保税工場が行なうこの種の違反行為は不法輸入品となんら変わらないものと見なされている。
それら二件の通関違反を摘発したボゴール税関監視サービス事務所は事件の後付け捜査を行なっている。


「インドネシアの酒」(2010年1月4〜8日)
イスラムは飲酒を禁じ、麻薬を禁じ、そして快楽のためのセックスを禁じた。どうやらそこには、人間を酔うという状態にいたらしめることを忌避する思想が横たわっているように思えてならない。つまり酔わないで、常に平常心でいること、常に理性的であること、あるいは感情や情動に動かされず理性にもとづいて行動する文明的存在である人間への希求とでも言えばよいだろうか、人間の理想の姿をムハンマッはそこに集約したのではあるまいか。とはいえそんな理想的人間像を身にまとったひとを滅多に目にすることができないのをムハンマッの責に帰することもできまい。
酒も麻薬も入っていないけれど、自分の感情に酔って行動する人間は数え切れない。ムスリムでさえそうだから、非ムスリムにおいておや、とムスリムたちは思っているのだろうが、理性を感情の上に置く文化はイスラムに限ったわけではない。感性を研ぎ澄ましてプラサアンの人間たらんとしてきたジャワ人はその二律背反をはたして解決できたのだろうか?どうやらイスラムにかれらの人間性を変革する力はなかったようだ。というよりも、ジャワ人はイスラムを自己変革のために摂り入れたのではなかったにちがいない。
ともあれ、インドネシアでは古来からの伝統が根強く生き残っており、米・いも・ヤシなどを発酵させて作るアルコール飲料や食品はイスラム教徒である民衆の間でさえも依然として人気を保っている。米やキャッサバから作られるタペ(tape)は今でも女子供のおやつとして日常家庭生活の中に登場してくる。アルコール飲食品の摂取がハラムであるという問題は、上の解釈に従えば、それに酔わなければまったく問題がないという見解が成り立つわけであり、現実にそう説いているイスラム導師の発言がアラブで社会問題になったりしている。そう考えれば、タペが女子供のおやつになっている現状はまったく非難されるにあたらないことではあるまいか。
飲酒の禁じられているイスラム教徒が76%を超えるインドネシアにもアルコール飲料生産者がいる。モダンな工場でアルコール飲料が毎日生産されているのだが、政府が市場に流す量を統制しているから最大経費効率による生産量というものが実現せず、生産コストは割高になっているようだ。アルコール飲料の野放図な生産で国民が安易にそれを手にする状況を政府は警戒しており、アルコール飲料ハイコストはきっとそんな政府の意向にフィットする副作用になっているのではあるまいか。つまりは生産が政治にコントロールされているという状況がそこにある。ちなみに国産ビールは年間2億リッター生産されており、そのうちの四分の三以上が国内市場に流されている。とはいえ消費量から言えば火酒類がビールの3倍近くある。
インドネシアではアルコール飲料をA・B・Cの三類に分けて分類しており、A類はアルコール濃度が5%までのビール類、B類はアルコール濃度が20%までのワイン類、C類は20%を超える火酒類という規準が使われていて、各類に対して流通量や徴税のポリシーが立てられる。
アルコール飲料輸入はPTサリナが一社だけで商業省のクオータを消化する形で行っており、公的資料にはサリナの輸入量が掲載されるわけだが、それより数倍の量が不法輸入されていてその実態はだれにもわからない。
公式データとして公表されている2007年のアルコール飲料国内消費比率は次のようになっている。
輸入ビール 1%
輸入ワイン 4%
輸入火酒 4%
国産ビール 24%
国産火酒 67%
しかしわたしの見るかぎり、国産のウイスキー・ラム・ブランディ・ウオッカなどを好んで飲んでいる外国人をあまり目にしたことがないので、その大量の国産火酒はいったいだれの喉をうるおしているのだろうか?
インドネシアに来るとみんなが飲むようになるビンタンビール(Bir Bintang)。ビンタンビールの生産量は年間1億リッターだと生産者のPT Multibintang Indonesiaが公表している。インドネシアにはビール生産者がほかにPT Delta Djakarta, PT Bali Hai, PT Gitaswara Indonesiaと三社あり、それら四社がインドネシアモルト飲料産業連盟を結成している。連盟事務局長は、政府が現在行っている従価税方式は虚偽申告による不正価格を可能にするものであるため、アルコール濃度と容量にもとづく従量税方式に変更されなければならない、と主張している。従量税方式を使えば、申告価額がいくらであろうともアルコール濃度別に定められた税率に容量をかけて納税額が決まるため、不正操作の余地がなくなるというのがその根拠だ。
中でもアルコール濃度の高い飲料が低いものより廉価であるという現象が市場で頻繁に発生しているため、市場での不公平感は免れない。それが不法輸入品いわゆる密輸品である場合は言うまでもないが、廉い価額で輸入通関にかければ関税・チュカイ・奢侈品税などの税額はすべて小さいものになり、最終的に市場価格も廉いものになる。一方、国産アルコール飲料の場合は市場価格が生産コストの6倍になっており、それが不法輸入品が国内に流れ込む誘因になっている。特にビール業界は市場シェアが24%しかないのに納税金額は4兆ルピアという総納税額の84%を占めており、火酒生産者が価格操作を行なって納税額を小さいものにしていることから国産火酒をはじめ他のアルコール飲料は76%の市場シェアを占めながら納税金額はわずかに16%でしかない、と不公平な実態を事務局長は糾弾している。
商業省はアルコール飲料統制・監視・販売・流通・調達に関する2009年商業大臣規則第43/M-DAG/PER/9/2009号でこれまで指定ディストリビューターを通すよう義務付けていた流通システムの変更を決めた。その大臣規則では、輸入品と国産品の取扱いがまとめられ、また調達・流通・販売や許可・保管・監視などの要領が改定されている。中でも2010年1月1日から生産者と輸入者はディストリビューターを通さないで直接小売業者あるいは酒席業者に商品をおろすことができるようになった。これで流通コストが多少とも削減されることになるだろう。
政府の規定によればA類の小売は基本的に自由になっており、B類C類は制限がつけられている。特にC類の小売は免税店に限定されているが、容器入り飲料の形でなく中味をその場で飲ませる酒席業はそのような制限がない。しかし中央政府がA類の小売販売を自由としているからといっても、各地方自治体がさらに小売販売の内容を制限することは起こっている。たとえばジャカルタではビールやワインがスーパーやハイパーマーケットで販売されているのに、お隣のタングランへ行くとどこにも売られていないといった現象をわれわれは体験することになる。
アルコール飲料を消費者に直接販売しているのはほかにも、ホテル客室内のミニバーがある。これはホテル宿泊客が容器入りで持ち帰ることも室内で中味を飲むことも可能なもので、それを容器入りで持ち帰らせずホテル内で中味だけ飲ませることはまずできない相談だろう。法規では、客室内ミニバーで販売されるC類飲料は容器サイズ187cc未満のものに限り、また客室内で消費することと定めているが、現実にそれを統制するのは不可能だ。ここにも国民(あるいは入国者)総犯罪者化の思想が漂っている。
政府がアルコール飲料流通の元締めとしてディストリビューター方式を実施していたのは流通監視を容易にするのが目的のひとつだった。その方式をやめたら監視もやめるのかと言えばそうでなく、別途地方自治体に流通監視機関を設ける計画になっている。これまでディストリビューターはビジネスの中で監視の一翼を担っていたわけで、今後は公的機関の監視が始まるからこれまでよりも厳しい監視が行なわれて流通行為に制限が加えられる可能性もある。
PT Multibintang Indonesia 販売担当取締役は、ビンタンビールの流通はこれまでディストリビューターとサブディストリビューターを使って全国販売網をカバーしてきた、と言う。直接の卸が小売店に対してできるようになるとしても、はたして販売戦略上そのほうが有利で効果的なのかどうかはまだ分析する必要があるだろう、と取締役は述べている。
ところで、アルコール飲料の国内販売を外国人向けサービスとしている政府の定義に則って、インドネシアモルト飲料産業連盟が持っている2009年外国人観光客インドネシア滞在中の出費割合は次のような内容になっている。
宿泊費 36.5%
飲食費 19.6%
ショッピング 11.2%
おみやげ 10.7%
交通 5.2%
娯楽 4.2%
国内線航空運賃 2.9%
その他 19.7%
言うまでもなくアルコール飲料消費は飲食費のなかに含まれている。


「国産ビールが4割値上げ」(2010年4月5・6日)
アルコール飲料に対する奢侈品税(PPnBM)課税撤廃とその穴埋めとしてのチュカイ引上げという政府方針の結果、国内ビール生産業界はこの先3〜4ヶ月の間に製品販売価格の20〜40%値上げを行なわざるをえないことを明らかにした。インドネシアモルト飲料産業連盟副会長は、政府の定めた300パーセントというチュカイ引き上げ幅のためにアルコール濃度5%までのA類(主にビール)には8千億ルピアという新たな納税負担が発生することから価格値上げは避けられない、と表明している。「アルコール飲料国内市場で国産ビールは量的に24%のシェアしか持っていない。ところが国内ビール産業の納税高は4兆ルピアにのぼり、アルコール飲料からの税収の84%を占めている。今回の新たなコスト負担を克服するためには、新チュカイ税率の適用が始まってから3〜4ヶ月以内に20〜40%の値上げが行われることになるだろう。その結果国産ビール業界はブラックマーケットにますますシェアを奪われるにちがいない。当初政府が発表したアルコール飲料に対する奢侈品税廃止をわれわれは歓迎した。税金の低下は価格競争力をもたらすからだ。ところが奢侈品税課税を廃止するかわりにチュカイが300パーセントも引き上げられた。われわれが期待したブラックマーケットの縮小は一転して正反対の方向に向かう。これでは脱税不法商品が国内にあふれるだけだ。」 政府は2010年3月17日付けでエチルアルコール・エチルアルコール含有飲料・エチルアルコール含有濃縮液のチュカイタリフに関する大蔵大臣規則第62/PMK.011/2010号を制定し、リッター当たりのチュカイ税額を次のように定めた。
類別 : 国内産品 / 輸入品 (それぞれルピア)
A(アルコール濃度5%まで) : 11,000 / 11,000
B(5%超〜20%まで) : 30,000 / 40,000
C(20%超) : 75,000 / 130,000
これまで有効だったチュカイ税額は2006年に定められたもので、次のような内容になっていた。
類別 : 国内産品 / 輸入品
A1(アルコール濃度1%まで) : 2,500 / 2,500
A2(1%超〜5%まで) : 3,500 / 5,000
B1(5%超〜15%まで) : 5,000 / 20,000
B2(15%超〜20%まで) : 10,000 / 30,000
C(20%超) : 26,000 / 50,000
商工業分野担当経済統括大臣デピュティはビール業界の苦情について、奢侈品税課税廃止とチュカイ300パーセント引上げは密輸入品撲滅対策である、と語る。「密輸入品を阻止するために輸入者を増やし、統制監督を厳しく行なう。輸入者は商業大臣が認定し、世界中のどこからでも買付できるようにする。これまで国税総局と税関総局が関わっていた徴税実施は一本化され、税関がすべてを掌握する。国税総局はこれまで、物品の流れに比して奢侈品税の収税高があまりにも小さいことを嘆いていた。これまでベースにされていた方針は20年前のもので、国民人口が1.2億の時代の産物だ。いまや国民は2.3億人いる。」
情報筋によれば、これまでアルコール飲料輸入はシンガポールの一定業者だけを頼って買い付けしていたために、正規輸入品の価格競争力はないに等しかったとのこと。今回のアルコール飲料に対する方針転換で複数の輸入業者(今現在はPTサリナ一社)が自由に買付を行なえるようになれば、競争原理がアルコール飲料市場に持ち込まれることになる。ただしB・C類の瓶詰め小売販売は免税店でしか認められておらず、免税購入権を持たない在留外国人を含む一般国民はバーやレストランなど酒席業者を訪れてコップ売りを購入するしかない。ホテル客室バーに置かれるものは180cc未満の容器に限られ、客室内での消費が義務付けられている。
外交官は免税購入権が与えられているため瓶詰めアルコール飲料を免税店で買うことができる。しかし今回の方針転換で大使館に商業省認定輸入業者を通じての輸入の道が開かれるらしく、在インドネシア外国公館や国際機関は国内にある免税店よりも廉い価格でアルコール飲料を入手できるようになるそうだ。しかしかつて自動車で行なわれたことがあるように、外交官特権を利用して闇ビジネスが行なわれれば、かえって厄介なことになるかもしれない。
そもそも国民の大多数がムスリムであり、依存性の高い国民文化とファミリー国家という国民統治観念がいまだに強いことから、アルコール飲料を国民から遠ざけて国民に正しい宗教教義を実践させようとする政府の教導姿勢の中にしっかりと抱え込まれているこの物品は、いかに自由競争原理を押し立てたところで強いバイアスのかかった場からニュートラルな自由に移行するのは困難であるにちがいない。


「アセアンハラルスタンダード」(2010年4月6日)
アセアン域内でのフェアトレードを目指して、域内での共通ハラル規準を設けようとの企画が進められている。この企画にはインドネシア・フィリピン・マレーシア・タイ・ブルネイ・シンガポールが既に賛同を表明しており、域内で用いられるハラルスタンダードと従来各国が個別に実施してきた規準との整合性がはかられることになる。
この域内標準化の提案を出したのはインドネシアウラマ評議会で、2009年11月にジャカルタで第一回協議会が開かれ、企画の枠組みに関する合意がなされた。域内スタンダードはハラル認定機関・ハラル屠殺規準、ハラル加工規準・ハラル判定公表規準・化粧品ハラル規準などをカバーするものになる。域内スタンダード施行は2010年7月が開始目標で、原産国で輸出商品のハラル認定がなされれば輸入国でのハラル検査は不要になる。


「アルコール飲料品薄は回復した」(2010年4月16日)
国内のホテルレストランで客に供されているアルコール飲料の価格が高すぎると多くの観光客が不満を述べている。インドネシアの3・4・5星級ホテルでは30種以上の銘柄が販売されているが、同じ銘柄のものをマレーシアでの価格と比較するとインドネシアでは50%以上高くなっており、観光客が苦情を口にするのは当たり前だ、とインドネシアホテルレストラン会専務理事が語った。
「マレーシアのランカウィではベイリーズアイリッシュクリーム70clが14.6ドルで購入できるが、インドネシアでは39.68ドルもする。シンガポール・タイ・中国ではマレーシアよりもっと低価格で販売されている。アルコール飲料価格という一事だけを取り上げても、インドネシア観光事業の競争力は劣っている。おまけに国内に不法輸入されたアルコール飲料があふれかえっており、害意なく廉価仕入れを行なおうとした12ホテルの調達マネージャーが密輸品売買容疑で逮捕されるしまつだ。アルコール飲料品薄は改善されており、PTサリナからの購入で需要の95%は満たされるようになっている。」
表向き、外国人向け特殊セグメントと位置付けられているアルコール飲料の世界がホテルレストラン業界に波風を立てない時期はほとんどないと言ってもいいようだ。2008年にはジャカルタ・バリ・バタムで品薄が広がり、イリーガル商品が猛威をふるった。非合法品に手を出せばたいへんな結末が待ち受けていることを知っている高級ホテルレストランはアルコール飲料を仕入れることができず、ドリンクメニューの数ページにわたって書かれている銘柄のほとんどすべてが品切れという状態が長い間継続した。大勢の外国人観光客が、何を頼もうとしても「ない」「ない」と返事するウエイターを前に置き、自分はなんでこんなところに来てしまったのかという目で店内を眺め渡して同病相哀れんだという話は昔語りとなるのだろうか?


「アルコール飲料輸入関税に変更」(2010年5月13日)
政府はアルコール飲料輸入関税の課税方式を2010年4月7日付けで変更した。大蔵大臣規則第82/PMK.03/2010号によれば、これまでのアルコール濃度別に異なる税率を価格にかける従価税方式から種類別に異なる税額を量にかける従量税方式に関税計算が変更された。たとえばモルトビール系はリッター当たり14,000ルピア、発酵発泡酒系はリッター当たり55,000ルピアが課税される。輸入業界は政府のこの変更を歓迎しており、従価税方式でこれまで頻繁に発生していた徴税者との確定性のない議論はこれで姿を消すだろうとの期待を語っている。
ホテルインドネシア会とPTサリナが出しているデータによれば、2007年インドネシア国内アルコール飲料消費比率は次のようになっている。
輸入ビール  1%
輸入ワイン  4%
輸入スピリット 4%
国産ビール 24%
国産スピリット 67%


「またアルコール飲料が市場からなくなりそう?!」(2010年7月1日)
税関総局ジャカルタ地方事務所が計画している非合法アルコール飲料一斉手入れを延期するようナイトスポット業界が求めている。
「売行きが低下しているために倉庫にあるストックがなかなか回転しない。だから古いチュカイシールが貼られているビンがいま店頭に出されている。それらは正当な商品で、正当に仕入れられたものだ。ところが貼られているチュカイシールは古いものであり、またチュカイ納税書も古いものだから取調官がそれを偽造だと疑って没収するようなことが起こると業界はたいへんに困る。アルコール飲料が没収されて客に提供できない状況になればナイトスポット業界は立ち行かなくなる。顧客の購買力は弱っているから店の売上は小さくなっており、操業コストは20%の税金を含めてたいへん大きな負担になっている。」ジャカルタ公共慰安レクレーション会会長はそう語って、税関取調官の強権捜査による商品没収の不安を明らかにした。
税関総局ジャカルタ地方事務所は最近非合法品として没収された6万5千本のアルコール飲料を廃却処分にした。その中には2008年4月24日に中央ジャカルタ市ガンビル地区で没収された5千本、6月2日にパンタイインダカプッ地区で没収された2,760本、7月1日の1万9千本などが含まれている。税関総局はそれら廃却処分に伏された非合法品6万5千本によって国庫に納められるべき300億ルピアが脱税されたと表明している。


「国産品はハラル証明書を取るように」(2010年7月14日)
ハラル認定事業を行っているインドネシアウラマ評議会が国内飲食品生産者に対し、商品の競争力をアップさせるためにハラル認定を受けるよう奨めている。自由市場で国産品の販売力を高めるためにハラル証明書は大きい効果を持っている、とウラマ評議会事務局長が表明した。ハラル認定義務付けは政府と業界とウラマ評議会が一緒になって検討を深める必要があり、早急な実現はまだ難しいが、生産者が自由意志で認定を得ている現在でも証明書取得意欲は高まっている、とのこと。
「自由市場で品質だけを武器に勝負に出ても、国産品はなかなか勝てないのが実態だ。それどころか、インドネシア産品の品質が見下されるケースも起こっている。だからハラル証明書を持つことで商品に別の価値を付加する必要がある。インドネシアにはハラル認定された商品が輸入されるべきであり、また非ハラルのものも非ハラルであることの証明書が輸入時に添付されるべきである。ウラマ評議会は国産飲食品医薬品2千8百点にハラル認定を与えている。認定費用はその商品が大量に生産される場合、たいしたコスト追加にならない。0.01%より小さいだろう。」事務局長はハラル認定手続をそう宣伝している。


「ビール販売が激減」(2010年7月31日)
2010年3月にアルコール飲料チュカイが300%アップしたことから、ビール製造業界は徐々にビールの値上げを行なった。当初言われていた40%値上げは実際に20〜25%にとどまったものの、過去3ヶ月の販売は20〜30%減少していることをモルト飲料産業連盟が明らかにした。連盟所属のビール製造会社はおしなべて20〜30%の販売減になっていると同連盟副会長は述べている。連盟データによれば、国内ビール生産者の販売量は年間200万ヘクトリッターで、過去三ヶ月の販売減はひと月3万から5万ヘクトリッターある、とのこと。


「ハラル証明のない飲食品をホテル・レストランは使うな!」(2010年8月16日)
インドネシアウラマ評議会が第8回全国協議会で政府に対する決議表明を行なった。それによれば、政府だけでなく民間のホテル・レストラン・病院・運送機関など公共サービス機関はすべて、客に提供する物品をハラル証明のついたものに限定させるよう政府は規制するように、という内容。
ハラル証明は消費者の商品に対する信頼を高めるものであり、ホテル・レストラン業界はその先駆者たるべきだ、というのがウラマ評議会の要求。ムスリムはハラムな物品やサービスを利用することが禁じられており、ハラル証明付きのものを消費することでムスリムとしての安全が高められる。
そのウラマ評議会の要請に対してインドネシアホテル・レストラン会会長は、ホテル業界は従来から客に提供する物品に対して安全衛生や宗教禁忌に関する配慮を払っており、飲食品では保存料・着色料・MSGを避けることはもとより、ハラル証明付きのものを客に提供するよう励行してきた、と表明した。ホテルは飲食品の素材や含有物等について客から質問を受けた場合に明快な回答を与えるよう常日頃から意識し実行しているが、これは顧客サービス向上と顧客の維持の必要性から当然のことで、だからウラマ評議会の要請にはいつでも即応することができる、とホテル業界の立場を説明している。加えて会長は、パンチャシラ国家であるインドネシアはムスリムがマジョリティであるとはいえ非ムスリム国民もおり、ホテルレストラン業界はそれら非ムスリム顧客の要望にも応じなければならず、アルコール飲料を含めてハラルでないとされている品物も取り扱わざるを得ない、とホテル業界の方針を主張している。
ウラマ評議会は飲食品以外にも、シャリア原理にもとづく公証人証書作成プロセスの公定化とそれに関わる公証人に対する資格認定制度を定めること、またセラブリティ個人の恥を探し出して公表するインフォテイメント番組制作姿勢がシャリア原理に反するものであるため放送コミッションはそのような番組制作を禁止する規定を作って執行するようにと求めている。
第8回全国協議会で閉会を宣するために招かれたブディオノ副大統領はウラマ評議会の要請に対して、内容を検討して善処したい、と評議会に対して回答した。


「酒類生産者が生産をストップ」(2010年10月14日)
アルコール飲料チュカイ税率が最高で5百パーセントアップしたために小売価格を調整した製造業界は販売の減少で経営が行き詰まり始めており、生産活動を見合わせる工場も出てきた。インドネシアエチルアルコール含有飲料生産者流通者協会東ジャワ支部長は、販売価格の80%がチュカイで占められている、と物語る。 アルコール飲料チュカイ税率の変更を定めた大蔵大臣規則第62/PMK.011/2010号によれば、A類(アルコール濃度1〜5%)のチュカイ税率は214%アップし、B1類(5〜15%)は500%アップ、B2類(15〜20%)200%、C類(20%以上)は188%上昇している。この激しい税率アップのためにB1類の小売価格は153%の値上げで対応する必要が出たことからこれまでひと瓶1万3千ルピアが3万3千ルピアに上がった。消費者の購買力を無視したこの値上げのために販売量はガタ落ちとなり、業界の中には生産を中止したところも出ているとのこと。
大資本の工場は生産能力の20%程度を稼動させて細々と事業を継続させることができるものの、中小メーカーにはそんな余裕がなく、生産量のガタ落ちは倒産への片道切符となる。B1類を生産している協会加盟工場は90社あって5千人を雇用している。業界に倒産が広がれば大量解雇は避けられない。それとは別にもうひとつ社会的な問題が生じている。工場で作られたアルコール飲料が激しく値上がりしたために手製不法飲料の需要が高まっているのがそれだ。この種の不法飲料は非飲用アルコールを使ったものから正体不明の有毒物質を混ぜ込むものまでさまざまな種類が市場に出回っており、それを飲んだ消費者が死亡する事件が増加している。
不法アルコール飲料はリッター当たり5千ルピアで入手でき、それに殺虫剤をはじめ人体に有害な物質を混ぜ込むものが多く、2010年上半期では中部ジャワの43人を筆頭に西ジャワで40人など全国で109人が生命を落としている。最近ロシアのスホイ機組み立てにインドネシアを訪れたロシア人技師たちがマカッサルで死亡したのもその種の混ぜ物不法アルコール飲料が原因であるとのこと。


「市場の95%はイリーガル商品」(2010年12月13日)
アルコール飲料は元々通商分野国有事業体だけが輸入権を与えられていたが、そこにやはり国有事業体だが小売分野のPTサリナが参入し、結局サリナの実質的独占状態に変貌したあと、政府商業省は民間にこの分野を開放した。アルコール飲料調達流通販売監視統制に関する2009年商業大臣規則第43号でアルコール飲料通商事業許可書を持つ会社にアルコール飲料登録輸入者資格を交付することが定められ、これまでPTサリナの輸入したアルコール飲料を小売販売網に流す卸エージェントだった7社が輸入者資格を申請して承認された。PT Jaddi International, PT Indowines, PT Mitra Indomaju, PT Muliatama Mitra Sejahtera, PT Aska Indoco, PT Boga Citra Nusa Pratama, PT Pantja Artha Niaga がその7社で、PT Sarinahを加えた8社が公認アルコール飲料輸入者になる。民間輸入者の資格承認は2010年4月から2011年3月までの一年間。
さて、2010年4月から7社はアルコール飲料の輸入オーダーを出し、船積分が続々とタンジュンプリウッ港に到着したものの、思わぬ伏兵が出現した。輸入飲食品の国内流通認可と登録を司る食品薬品監督庁はそれまで国有事業体が行なっていた輸入に対してフリーパスの姿勢を取っていたというのに、民間会社が輸入しはじめたとたんML番号取得を義務付けるようになったのである。そのプロセスは経費が高額であるばかりか、生産者からの製造工程に関するステートメントや情報が必要とされるため、いくら現物の衛生品質レベルが高くともそれだけで事が終わるわけではない。
こうしてせっかく輸入されたアルコール飲料はMLプロセス待ち状態のままタンジュンプリウッ港や輸入倉庫に山積みされ、ML番号を得た品物が徐々に流通ルートに流れるという緩慢な動きを強いられた。
およそ5千銘柄の輸入アルコール飲料のうち2割程度がやっとMLプロセスを終えて市場に流されたが、売行きはまったくはかばかしくない。それもそのはずで、国内市場で公認アルコール飲料が流れなくなったとたん不法輸入品がどっとその需要にとびついたからだ。いま市場にあるアルコール飲料の95%は不法輸入品だ、と業界者は明らかにしている。イスラムでハラムとされているアルコール飲料をなるべく国民の消費に供しないようにという思惑で高率の課税がなされている公認商品に比べて、納税を一切行っていない不法輸入商品はメチャ安。価格と納期で完全に遅れを取った公認商品にとって、市場をごっそり奪われるのは当たり前というものである。カラオケやナイトクラブは不法商品販売網にがっちりと握られてしまい、公認商品が入り込む余地はない。あとは官憲が出動して不法商品を没収し、集めて廃棄する、という昔から続けられてきた取締りを行って不法商品を市場から減らす対応を待つしかないわけで、クリスマス〜ニューイヤーのアルコール飲料需要が3〜4割上昇するシーズンを前に、市中ナイトスポットでの不法アルコール飲料取締りパトロールがまた活発化するにちがいない。


「ハラルマークは高品質の象徴」(2011年2月18・19日)
世界のハラル商品市場は年間2.1兆米ドルの規模があり、ハラル食品食材だけでも6.7億米ドルと見積もられている。この市場は決してムスリム消費者だけが担っているのでなく、ハラル認定を得た商品のクオリティを信頼する非ムスリム消費者も市場伸張の一翼を担っている、とマレーシア国際貿易開発社監査役が語っている。
ハラル商品にとって世界に大型市場が11ヶ国ある。インドネシア・中国・UAE・イラン・イギリス・フランス・カザフスタン・エジプト・南アフリカ・トルコ・アメリカがそれだ。一方、ハラル商品というのはなにも食品・薬品・化粧品だけに限定されているわけでなく、銀行や保険あるいはロジスティックまで多彩なサービス商品に渡っている。特にハラル食品や薬品などの非サービス商品の輸送に際して、非ハラル商品の輸送は専用で行なわれなければならず、そのためにハラルロジスティックの重要性が最近着目されている。ハラル商品がハラムな品物と接触するとハラル性が失われることから、その必要性に応じたロジスティックの実践が重視されはじめているのである。
インドネシアがハラル商品にとって巨大市場であることはだれしも考えるところだが、実はムスリムが4百万人しかいないフランスよりもムスリムを2億人抱えているインドネシアのほうが購買力が小さいという事実はなかなかピンとこないにちがいない。いま世界の趨勢は、ハラル商品が宗教に関わるものでしかないという見方が商品クオリティへの傾倒によって覆されつつあるのだ。その製造工程によってもたらされている人体への安全性が非ムスリムをもひきつけるようになっているのである。
「マレーシアからイギリスへ輸出されたハラル商品を購入しているイギリス人消費者のマジョリティは非ムスリムだ。ハラルマークは商品の清潔さを保証するものと理解されている。いくつかの国で同じ傾向が見られる。買い物をハイパーマーケットだけで済ませていた消費者の中にハラル商品を販売しているコーナーショップを買い物先に加える層が増加している。」マレーシア国際貿易開発社監査役はそう語る。同社は2006年から2020年までのフランスのハラル商品購買力はインドネシア・マレーシア・タイ・フィリピン四カ国のそれに匹敵すると想定している。そのためマレーシアからフランスに輸出される鶏肉は75%がハラルマークの付されたものだ。ブラジルへの骨なし肉輸出も30%にハラルマークが付けられている。
インドネシア国内市場に入ってくる外国製品のハラル監視を行なっているインドネシアウラマ評議会食品薬品化粧品検査機関理事は、ハラル輸入品の50%は中国産のものだ、と言う。中国側はインドネシアを世界最大のハラル商品市場だと見ている。中国はそれほどハラル性を重視しているというのに、国内製造業界のハラルに対する認識はとても弱い。国内で流通している国産商品のうちハラルマークの付いているものは37%しかない。別のデータでは、食品薬品監督庁に登録されている食品113,315点の中でハラルマークの付いているものは42%しかない。ところがハラルマークを強く意識している消費者は、2009年の70%から2010年は92%に上昇した。ウラマ評議会はそのサーベイ結果を踏まえて、ハラルマークを現在のボランタリーからコンパルゾリーに変えて行くよう、政府と国会への働きかけを強めることにしている。


「ビールはアルコール飲料じゃないの?」(2011年2月22日)
2010年12月13日付けコンパス紙への投書"Minuman Beralkohol dan Remaja di Pasar Swalayan"から
拝啓、編集部殿。去る11月6日、わたしと16歳の息子はボゴール市ボタニスクエアのジャイアンスーパーマーケットで買い物しました。レジに並んでいるとき、わたしの前に少年がひとりで立っていました。身体はわたしの息子よりも小さく、顔つきからもわたしの息子より年上ではないことが察せられました。奇妙なのは、その少年はアルコール飲料であるウオッカをひと瓶買っていたことです。
ひょっとしたらその少年は本当は大人で、単にベビーフェースであるだけかもしれない、とわたしは思いました。もしレジの店員が不審を抱けば、かれにKTP(住民証明書)を見せるよう求めるにちがいない、と。ところが、わたしの考えは事実とまるっきり違っていたのです。レジの店員はひとこともそんなことを尋ねないで、支払い受領の手続を行ないました。少年は支払いを行なった後、そのウオッカをバッグの中にしまいました。きっとほかのひとの視線を浴びないよう、その品物を隠したのでしょう。
わたしの支払いの順番がきたので、わたしはレジの店員に尋ねました。「マス、さっきの男の子はアルコール飲料を買ってもいいの?KTPを見せるようにどうして言わなかったの?」
店員は困惑して反対に質問してきました。「オー、そうするべきなんですか、奥さん?ここの規則にはそういうのがないんですよ。」
アルコール飲料がそんなに容易に入手でき、法の執行なしに買えるなんて、インドネシアの子供たちや若い世代をわたしたちはどうやって保護できると言うのでしょうか?
わたしがアメリカを訪問する機会を得たとき体験した記憶がよみがえってきました。ディナーパーティの場で、タイからの代表団メンバーのひとりがワインを求めました。そのひとは小柄でベビーフェースだったのです。21歳未満のひとにワインを飲ませてはいけない法律になっていたため、給仕はすぐにパスポートを見せるよう求めました。残念ながらタイ人のその友人はパスポートをその場に持ってきていなかったために自分の年齢が証明できず、ワインを愉しむことができませんでした。[ ボゴール在住、リラ・オクタヴィアニ ]
2011年1月4日付けコンパス紙に掲載されたジャイアンからの回答
拝啓、編集部殿。リラ・オクタヴィアニさんからの2010年12月13日付けコンパス紙に掲載された投書について、次の通りお知らせします。ジャイアンのボゴールボタニスクエア店を代表して販売サポートマネージャーのアニサCがリラさんに対し、リラさんがおっしゃっているアルコール飲料はフルーツ風味のビールカテゴリーに入る飲物だったことを説明しました。
とはいえ、ご注意いただいた内容については当方内部でスタッフに対する訓練材料に活用させていただく形でフォローいたします。ご不快を与えたできごとに関してお詫び申し上げます。[ ジャイアン広告販促課長、メイシ・ガウタミ ]


「酔っ払い禁止条例」(2011年2月26日)
飲酒による酔っ払いを公共規則で禁止する動きがついにインドネシアにも出現した。ナルコバ(麻薬禁制薬物)による酔っ払いは、ナルコバを使うことそれ自体が非合法であるため、酔っ払おうが酔っ払わなかろうが関係なく『御用』となるのだが、これまで飲酒はそれ自体が非合法とされていなかったため、酔っ払おうが酔っ払わなかろうが関係なく放任されてきた。どうやら飲酒はイスラムでハラムとされていることから、宗教上の禁忌であるがゆえに国法とは別の次元のものとして扱われてきたようだ。国法とイスラム法が一体となっている中東諸国とはそこが違っているように思える。
ただしインドネシア人の中にも、そして怖ろしいことに官憲の中にも、その区別が明確にできないひとがかなりいるようで、アルコール飲料を所持しているだけで身に危険が及ぶような地方もあるらしいから、国内をあちこち旅する場合はアルコール飲料を持っている姿をあまりひとびとの目に触れさせないほうが賢明ではある。
それはムスリムがマジョリティを占めている種族・地方についての話だが、ムスリムが完全にマイノリティであるマナド地方、つまり北スラウェシ州が酔っ払い禁止条例を制定した。これは文字通り酔っ払い禁止であって飲酒禁止でもなければ酒類非合法化でもないので、酔っ払いさえしなければ飲酒は自由であるらしい。いやもっと言うなら、これは酔っ払って公共秩序を侵害することに対する抑止を目的とした州条例であり、額面どおりに受取ればトラブルを起こさない限りは・・・・ということになるのではないかと思われる。
州議会はこの条例の構想を2000年から練り始めたそうで、ごく最近北スラウェシ州条例第18/2011号として制定されたばかり。酔っ払って公共秩序を乱した者は禁錮3ヶ月罰金100万ルピアの処罰を受ける。特に若い世代は酔っ払って喧嘩・暴行・殺人などの犯罪行為に走るケースが多く、総犯罪件数の90%は飲酒が引き起こしている、と州警察は表明している。飲酒運転による交通事故も盛んで、ひと月平均27人が飲酒運転で生命を失っているとのこと。


「タングランでビールが買いやすくなりそう」(2011年6月7日)
ジャカルタではスーパーマーケットでビールが販売されているのに、すぐお隣のタングラン(Tangerang)市のスーパーではビールがまったく置かれていない。その違いはタングラン市が条例で酒類の販売を禁止していたために起こったもの。
タングラン市の市庁・市議会は急進イスラム派市民勢力のイスラム法執行要求にあおられて、イスラムでハラムとされるアルコール飲料や売春婦に対する強硬な排斥措置を決議する条例を定めてきた。
売春取締りに関する条例は、夜、女性は親族男性に伴われて外出しなければならないといった条文をその内容にしていることから、女性差別・人権侵害として全国の人権・女権擁護活動家層の猛反対を受けており、司法審査の訴えまで起こされているものの、市長の正義感はまだまだ強い。そして、売春とアルコール飲料の追放はあくまでやり通すと表明したとたん、今度は中央政府内務省がアルコール飲料を禁止する市条例はより高位の法規に逆らっているとして条例の内容を修正するよう要求した。
内務大臣によれば、1997年の大統領決定書はアルコール飲料B類C類の製造・流通・販売を政府の監視下に置くことを定めており、A類はその対象になっていないため自由販売が認められている、との論理を展開し、A類まで禁止するのは行き過ぎているとタングラン市条例を批判した。その内容を記した内務大臣の指示書を受取ってから15日以内に対応措置を取るよう大臣は命じている。
ちなみに、政府規定に従ってのアルコール飲料ABC類区分は次のようになっている。
A類: エタノール含有率 1〜5% (Bir)
B類: エタノール含有率 5〜20% (Wine)
C類: エタノール含有率 20〜45% (Whiskey, Vodca, TKW, Manson House, Johny Walker, Kamput)


「ハラル食品認定センター国に自薦」(2011年8月8日)
インドネシアを世界のハラル食品認定センターにしようという運動が盛り上がっている。現在インドネシアは世界ハラル食品認定の事務局になっており、もう一歩進めて認定センターの地位を獲得するには他の国にまさるポジションにある。
それが実現すれば世界中からインドネシアがハラル食品生産国であるとの認識を得るのに好都合であり、インドネシアからの食品輸出も大きく伸びるにちがいない。
ハッタ・ラジャサ経済統括相が先にその目論見を打ち上げたあと、コペラシ中小企業相もその案を支持する発言を行った。ハラル認定独占機関であるインドネシアウラマ評議会は言うまでもなくその動きを歓迎しており、国内の足並みは一致している。
その動きとは別に、現在ボゴール・タングラン・ブカシの三市がハラル都市宣言を発してハラル意識の高揚とハラル商品の普及に力を入れており、全国他の都市もその動きに倣うようにとウラマ評議会は勧めている。


「ハラルなWagyu」(2012年2月24日)
いまや世界の食通に肉のうまみを堪能させているWagyu。インドネシアでも和牛ステーキはたいへん高価なものだが、インドネシアにある層状経済のおかげで、場所の雰囲気さえ問わなければカキリマ食堂で廉く和牛ステーキを食べることもできる。
名声だけはさっさと定着してしまった和牛の肉ではあるが、家庭で料理されるために国内流通チェーンに乗せようとすると、ハラル証明書が必要になってくる。ハラルというのはイスラムの宗教禁忌に触れないものを意味している。だったら豚じゃないのだから問題はないはず、と思ってはならない。食用に屠殺される動物は宗教の教えにしたがった屠殺の作法があり、その資格を持った人間による作法の実践によって得られた肉だけがハラルとされるのである。
西オーストラリアで育った和牛は日本国内はもとより、イギリス・フランス・ドイツ・デンマーク・アメリカ・台湾・香港・中国・シンガポールなどへ輸出されており、もちろんインドネシアにも入ってくる。
アメリカではアンガス種とかけあわせてアメリカの風土により適合する混血和牛が育てられ、インドネシアでも2010年以来、中部ジャワ州トマングンのワリテロンとシドレジョでPT Sijiro Internasional 社がインドネシア大学・ボゴール農大・ガジャマダ大学の協力を仰ぎつつ和牛の育成に励んでいる。
インドネシアで和牛はよく売れている。価格は高いが相応の需要があり、特にホテルレストランからのオーダーはひきもきらない。そんなインドネシア市場を、さらには中東アラブ諸国市場をにらんで、熊本県のゼンカイミートコーポレーションがインドネシアウラマ評議会にハラル審査を求めてきた。日本国内にいる70万ムスリム市場を対象にしたビジネスを筆頭に、アジアそして中東のムスリム市場への参入が同社の目標のようだ。
ウラマ評議会食品医薬品化粧品研究機関はその求めに早急に応じたいとコメントした。ハラル保証システムでは、工場は社内ハラル監査員を指名し、半年ごとに実施報告書を提出し、突然の抜打ち検査に応じなければならない。
日本産ハラル和牛がイスラム諸国のマーケットに並ぶ日も間近いようだ。


「崩壊を招く奇妙なアルコール飲料政策」(2012年6月29・30日)
2010年に64社あったアルコール飲料製造会社が今では15社に減ってしまった。アルコール含有量5%未満のA種アルコール飲料(ビールが主体)生産者は、今やPT Multi Bintang Indonesia, PT Delta Djakarta Beer, PT Bali Haiの三社だけとなり、5〜20%のB種と20%超のC種アルコール飲料生産者は多くが倒産して会社数が激減している。
このような状況に至ったのは、2010年に政府が84%もの激しいチュカイ(酒・タバコに課されている物品税)引き上げを行ったからで、そのため市場価格が高騰して販売量が減り、年間生産量はそれまでの210万ヘクトリッターから180万ヘクトリッターにダウンした。その値上げでインドネシア産アルコール飲料はアジア太平洋地区でもっとも高い価格のお墨付きを獲得し、輸出競争力はなくなり、国内市場でも販売力が大きく低下した。業界各社は事業を維持するだけでも青息吐息になり、維持できない生産者がバタバタと事業から撤退するという結末が引き起こされ、政府のチュカイ収入はチュカイ引き上げ前の2.4兆ルピアから今では2兆ルピアに低下している。
それとタイミングを合わせるように、地方自治体の中にアルコール飲料の消費を禁止する条例を出したところがいくつかある。おかげで業界は市場の縮小を余儀なくされ、事業経営の上昇を期待できる余地は残されておらず、新規投資は考えられない状態に陥っている。
そんな状況が引き起こした社会問題のひとつは不法輸入品・非合法生産品・私製混合品の市場流通量の拡大で、特に私製混合品は飲用できないメチルアルコールやその他の人体に有害な物質を混入したものが各地に出回り、それを飲んだ者が死亡する事件が増加した。ちなみに2009年の有毒アルコール飲料による死亡者数は75人だったが、2010年は250人、2011年は300人と上昇傾向を示している。
インドネシアモルト産業連盟会員会社のひとりは、この先2〜3年間にチュカイ引き上げが繰り返されればアルコール飲料国内産業は死滅してしまうとして、政府に安易な政策を慎むよう警告している。われわれはここにも、経済合理性と大衆福祉が最優先されていないイロニーに満ちた政策を覆っている何者かの影を感じ取ることができるにちがいない。


「西ジャワ州庁が養豚場を全面禁止に?」(2012年8月29日)
ブタはイスラム教徒にとって禁忌とされているため、イスラム人口の多い地方では住民の近くで養豚経営がむつかしい。ひっきょう、人里離れた山や森の奥深くで行わざるをえなくなるわけだが、山の奥に養豚場があると川の下流にやってくる水は一度ハラムたるブタに触れた水ということになり、その水はハラムだから使うことができないという理屈から、ムスリムにとって生活用水問題になってしまう。これは衛生医療問題とはまるで異なる視点が生み出す問題だ。
インドネシアウラマ評議会は「ブタの体は言うまでもなく、排泄物に触れた水でさえハラムになる。大河にそんな水が一滴でも混じれば、河の流れそのものがハラムになる」との見解を示し、山の奥に設けられている養豚場は廃止しなければならないことを行政側に提言している。
西ジャワ州畜産局はそれに関連して、畜産業と動物保健衛生に関する地方条例案を議会に提出して現在その審議結果待ち状態にあるが、その条例が成立すれば山奥に作られている養豚場はすべて閉鎖させる、との声明を出した。条例案の中には、養豚場は水流の一番下層域で行われなければならない、という条項が入っているのだが、水流の一番下層域は海岸地帯であって人間の活動が一番盛んなエリアであり、そのような場所に養豚場用地を入手できる可能性はきわめて低いと言えよう。
西ジャワ州養豚業界は規模が小さく、業者数はまだ1千に達していない。ムスリムがほとんどを占めている西ジャワ州民にとって豚肉の生産がなくなっても困ることはなく、また雇用問題も起こらないはずだし、反対に社会不安の種を残しておくことは百害あって一利ないとの見解を畜産局長はもらしている。西ジャワ州の豚肉生産は年間87トンで、もっぱらジャカルタでの消費に充てられている。供給が不足すれば中部ジャワ州ボヨラリからの供給があるため、このさい西ジャワ州は生産を全廃して生産量のはるかに多い中部ジャワ州に供給をすべて譲ってしまえばいい、という極論まで出されているようだ。


「消費者の関心はハラルマークと賞味期限」(2013年6月27日)
国民の塩・砂糖・脂肪の過剰摂取を緩和させるという新たな政策がいよいよ実行段階に入ってきた。飲食品製造産業とファーストフード産業に対し、各製品の塩・砂糖・脂肪含有量ならびに過剰摂取がひきおこすリスクについての警告を表示するよう義務付けがなされたのだ。その政策の法的根拠は2013年4月11日付けで出された「加工食品とファーストフードの砂糖・塩・脂肪含有量と保健上の警告」に関する保健相規則第30号である。製品に掲載しなければならない警告文の内容は次のようになっている。
ひとり一日あたりの摂取量が砂糖50グラム、ナトリウム2千ミリグラム、全種の脂肪が67グラムを超える場合、高血圧・卒中・糖尿病・心臓発作の危険がある
ただしこれまで保健省自身が言っているように、ミネラルウオーターにそのような規則を強制するのはナンセンスな話であるため、この政策の対象となる製品を厳密に定義付ける仕事がまだ残っている、と保健省非伝染性疾病抑止局長は述べている。
保健省はこれから社会告知に力を注ぎ、三年後の完全実施がスムースに開始されるよう努めることにしている。ファーストフード業界に対しては、250店を超えるチェーンを持っているブランドに対して適用され、含有量と保健に関する警告文はそのブランドが行なうメディア広告で広く消費者に告知するよう義務付けられる。
食品薬品監督庁(BPOM)食製品標準化局長は消費者の購買決定ポイントについて、消費者がまずチェックするのはハラルマーク、賞味期限、製品名、価格であり、成分や栄養価は表示されていてもあまり注意が向けられていない、と語っている。


「ハラル認定証をごまかす店がある」(2015年4月3日)
インドネシアのハラル認定機関はウラマ評議会内に設けられた食品・薬品・化粧品調査機関(LPPOM MUI)。LPPOM MUIが行なっているハラル保証システムはイギリスを含む世界24カ国に採用され、それらの国でハラル認定プロセスに使われている。ハラル保証システムは単に製品にハラムの要素がないことを保証するだけでなく、人体に対する製品の安全性や純粋性なども同時に保証するため、イスラム教徒にのみ有用性があるのでなく、非イスラム教徒にも品質上の保証を得るメリットが存在している。
ハラル認定は製品の製造者が申請し、工程のチェックが行なわれて合格すれば製品に認定証の表示が許される。またレストランや食堂もハラル認定証を望む場合はチェックが行なわれて合格すれば認定証を店内に掲げることができる。インドネシアには9千のレストランがあり、そのうち41ブランド2,863店がハラル認定に合格している。
ところが、ハラル認定は定期的にチェックが行なわれてクオリティが維持されなければならないというのに、一度認定を得たところがクオリティを維持せず、認定証更新で不合格になるところも少なくない。中には、更新手続きを行なわずにニセの合格証を掲示する店もある。そのためLPPOM MUIはムスリム国民に対し、レストランを利用する際は認定証をよくチェックしてハラル保証が得られるかどうかを確認するよう呼びかけている。
また全国チェーンのレストランに対してLPPOM MUIはQRコードステッカー制度を開始する予定で、本部が合格すれば全国の店ではQRコードステッカーを店内に貼るだけでよい、という簡便な方式を2015年半ばまでに実施することにしている。