「ジャムゥゲンドン(終)」(2020年07月01日) 今や数百種類に上るたいへん実用的なジャムゥ製品が、体調が悪くなったときにすぐ呑め るピルやカプセル、あるいはシロップなどの形で市場を埋め尽くしている。ところがその 簡便性でさえも、ジャムゥゲンドンのお姉さんたちを駆逐することができないのだ。ジャ ムゥ愛好者、中でも中年のひとたちは、ジャムゥゲンドンの愛らしいお姉さんが持ってく る作りたてのジャムゥがお好みなのである。脳裏に何が刷り込まれたのか、それともひと が目の前で注いでくれることに特別の付加価値があるのか、かれらはジャムゥゲンドンの 方が美味しく、そして病に対する薬効が優れていると信じている。素材の調合が最高のバ ランスで、しかも煮汁の濃度がぴったりだ、というのが市販粉末ジャムゥと比較してのジ ャムゥゲンドンの長所だそうだ。 「ジャムゥゲンドンは二種類の材料を使うだろう?たとえばチャベジャワcabe puyang、 クニルアサムkunir asem、ブラスクンチュルberas kencurだ。だから工場製の粉末ジャム ゥとは味が違う。要するに、実用的な粉末パックがあったらあったで、ジャムゥゲンドン がなくなることはない。」パサルボ住民のひとりはそう語っている。 ところがこんな時代だ。ジャムゥゲンドン売りのお姉さんのすべてが昔ながらのクバヤを 着ているわけではない。商圏が広がる一方で、お姉さんたちもエネルギーが低下し、昔の ようには行かなくなってきた。その結果ジャムゥを入れた籠をゲンドンするひとも減り、 小さい手押し車を使ったり、自転車に載せて回るひとも出る始末だ。 「あたしも本当は自転車か手押し車で回りたいのよ。部落部落を四時間かけて歩いたあと は、背中は痛いは、擦りむけてるは。でもねえ、こりゃ、あたしの選んだ道だから。お金 さえありゃあねえ。」マルヤッニさんはそう述べている。 かの女のジャムゥゲンドン売り人生はもう13年が経過した。かの女にとってこの商売は 身体がいつまでもつのか、がひとつの鍵になっている。もうひとつの鍵は、世間がいつま でジャムゥゲンドンの消費者になってくれるのか。今のジャムゥゲンドン愛好者が存在す るかぎりジャムゥゲンドンを見捨てることがないのは明白だが、昨今の若い娘たちは健康 と美容のためにジャムゥを毎日飲むということをしなくなっている。親が子供にジャムゥ を飲ませるのに四苦八苦する時代になりつつあるのだ。ジャムゥの普及力はこの先どうな っていくのだろうか、とマルヤッニさんは迷うのである。 ジャムゥという商品の将来性に不安を抱いているのは、ジャムゥゲンドン売りだけではな い。ジャムゥ産業界もその不安をひしひしと感じている。行政が、社会が、ジャムゥをマ ージナルなものとして扱っている。「ファーマシー医薬品は一級で、ジャムゥは二級品の ような扱いだ。医師の処方箋に書かれるのはファーマシー医薬品が圧倒的で、フィトファ ーマシーですら後塵を拝しているのだから、伝統医薬品においてはなおさらのことだ。」 と業界者は言う。 伝統医薬品の調査研究をもっと進めなければならないと同時に、大学の医師養成カリキュ ラムの中に天然医薬品に関する講座を設けることで、ファーマシー医薬品と伝統医薬品は 対等性に向かって一歩前進するにちがいない。このようにしてはじめて、ヌサンタラで培 われて来た天然素材によるジャムゥ文化は未来への希望を持ち続けることができるにちが いない。[ 完 ]