「スマトラトラ(9)」(2021年02月15日) 2009年2月半ばには、西スマトラ州リマプルコト県ナガリハラバンで、村からすぐそ ばに見えるブキッサゴの疎林にトラが朝夕姿を現わすようになったため、地元民は恐怖の 毎日を過ごすようになった。2月初めごろからほとんど毎日姿を見せるようになったその トラは体長170センチ体重150キロくらいの大物で、その間に牛が一頭、ヤギが四匹 既に食われている。地元民にとってこのようなできごとは初めてであり、屋外での仕事が ほとんど手につかないありさまだ。 ミナンカバウ地方ではトラにdatuakという尊称を与えてこの密林の王に敬意を表している ものの、この招かざる王に生命を奪われた民衆もいる。2007年には流血の惨事が3件 起こり、2008年にはそれが5件に増えた。パダン市の郊外でトラが捕獲された事件す ら起こっている。 西スマトラ州パダンでは2月前半にトラの密猟師ひとりが警察に逮捕された。逮捕時にそ の住居でトラの皮と多数の骨が発見されている。それらの証拠品はリアウの闇市で販売す る予定だったと警察は推定している。密猟師は6百万ルピアでトラ狩りを請け負っていた と警察に自供している。 2月21日にはジャンビ州ムアロジャンビ県スガイグラムで森林不法伐採者ふたりがトラ に殺される事件が起きた。50歳と17歳のそのふたりはランプン州から木材伐採のため にやってきていた者で、盗伐した木をランプンに持ち帰って売る仕事を行っていた。 スガイグラムでは前月にもトラが三人を襲った事件があり、そのトラは森林警察の罠にか かって既に保護され、サルマと名付けられてジャンビ市タマンリンボ動物園に収容されて いる。 同じ森にトラが二頭いたとは思いがけないことだった、とジャンビ州天然資源保存館長は その事件を評した。普通、トラはひとつのテリトリーを独占するものであり、サルマが捕 獲されたあとにまたトラと人間のコンフリクトがそこで起こるとはまったく予想もしなか った、との話だ。 リアウ州では2月22日夜にインドラギリヒリル県のパームヤシ農園で見張り番がトラに 襲われ、背中と腿に深い傷を負った。仲間の見張り番が駆け付けて、両腕にひっかき傷を 負いながらもトラを追い払い、被害者を救出したが、被害者は重体で入院している。 その事件にいきり立った住民が犯人を捕まえて復讐するために罠を張り、翌日トラが一頭 その罠にはまった。そしてよってたかってトラの虐殺が行われたのである。 一方2月24日にインドラギリヒリル県タンジュンパサルシンパン村でトラが三頭殺され た事件が明るみに出た。三週間ほど前から家畜がトラに食われる事件が頻発し、ある住民 の話によれば、自分はヤギを三匹食われ、隣人はニワトリ十数羽と犬を食われたそうだ。 住民はその対策を相談して、トラの捕縛罠を張ることで合意し、罠師にその作業を依頼し た。2月10日に体長1.5メートルほどのトラ二頭が罠にかかり、発見したときにトラ はもう死んでいた。さらに2月16日にまた一頭がかかり、それも人間が見つけたときに は死んでいたそうだ。 この事件が明るみに出たのは、罠にかかった状態のトラを写真に撮った者がいて、その写 真がWWFインドネシアの知るところとなり、現地調査が行われて詳細が判明したのであ る。自然保護民間団体は一斉に非難の声をあげた。 ある目撃者は、罠にかかったトラは発見された時まだ生きており、家畜を殺された住民が 仕返しに槍で殺したのだと調査員に話したことから、問題は火勢を強めた。 トラに対する人間の復讐行動はアチェ州でも同じように行われている。アチェ州南部から 西海岸にかけてはトラと人間のコンフリクト、東海岸は象と人間のコンフリクトが一般的 状況だ。アチェでは過去二年間にトラに殺された人間は少なくとも8人いる。かれらはた いてい森林に隣接している農園にいて、被害を受けている。そのため人間がトラに報復す るのは普通のことで、トラを罠にかけて殺し、もし子供のトラであれば個人や団体が飼う こともある。[ 続く ]