「イギリス人ウォレス(10)」(2021年04月22日)

ウォレスはその場所に二週間滞在して、同居している土着民の生活を間近に観察した。未
開人の生活は単調さそのものだったとウォレスは書いている。まず食物に関しては、アル
のひとびとはコメやトウモロコシやサゴやパンなどの主食を持っていない。かれらが食べ
るのは野菜・バナナ・ヤム・サツマイモ・未加工サゴなどで、サトウキビやビンロウジ、
ガンビルやタバコを頻繁に噛んでいる。海岸部であれば、魚介類をよく獲るが、内陸に住
む者が魚介類を獲りに行くのは稀であり、また時にはイノシシやカンガルーを狩ることが
あっても、それはもっと稀だ。野菜と果実だけで生きているかれらはたいてい皮膚病や脚
関節の潰瘍を持っている。ムラユ人のようにコメを主食にしている者たちにそのような疾
病傾向は見られない。

ビンロウジとタバコ以外のアル人の贅沢はアラッで、外部から商人が持ち込んで来て、と
ても廉く売る。一日の漁労や籐のカット仕事で、半ガロンのアラッが手に入る。収穫期に
集めたナマコやツバメの巣は半ガロン瓶のアラッ15本分になる。それが手に入ると、家
中の人間がそれを飲みつくすまで昼も夜も飲み続けるのだそうだ。

男たちはたいてい何時間も、時には日がな一日何もせず家の中で座り込む。野菜やサゴな
どの食べ物を外から持ち込んでくるのは女たちだ。男はときどき狩りや魚取りを行い、あ
るいは家やカヌーを手入れしても、かれらは働くことを最小限にして、何もせずにただブ
ラブラしているのを愉しんでいるように見える。日々の暮らしの単調さにバラエティを持
たせたり、愉しみと呼べるようなものを持つことなく、ただブラブラしておしゃべりする
ことのみを人生の愉しみにしているようだ。

実際、かれらのおしゃべりはたいへんなものである。叫びや喚きや狂ったような笑いを中
に挟んで、騒々しいおしゃべりが続く。ウォレスには何が話されているのか少しもわから
ないが、ウォレスが蚊帳の中に入って寝込んでしまっても、男と女と子供たちの狂騒曲は
終わらない。助手のアリは、こんなにおしゃべり好きな種族を始めて見た、とウォレスに
語っている。


アル人はパプア人より艶のある巻き毛を持ち、外見的にパプア人と異なるヨーロッパ的な
繊細さを備えた容貌を持っていることにウォレスは気付いていたが、かれはその原因と思
われる要素をそこで発見した。かれらが会話の中で使う「アカボ」という言葉の意味を尋
ねて、「終わった」の意味であるとの説明を聞いたとき、ここでもポルトガル人の姿がウ
ォレスの頭をよぎった。「ジャフイ」という言葉もしばしば耳にしたし、「ポルコ」とい
う人名もウォレスの頭の中でつながった。

ポルトガル人はこの地までやってきて地元民と交わり、子孫を残すと共に文化の一部も残
した。アル人の中には、ムラユ人・オランダ人・華人との混血子孫の特徴を示す者もたく
さんいる。ドボには、ジャワ人やアンボン人がアル人の妻を持ち、家庭を築いて混血の子
供たちと暮らしているケースも見られた。そのような人種的混交がアル人の種族の外見的
な特徴を作り出してきたことは大いに想像されるものだ。それはポルトガル人が来た三百
年前よりもっと古い時代から起こっていたかもしれない。


アルはアンボンのオランダ行政府の所轄になっていて、オランダの砲艦がパトロールにや
ってくる。このような辺境の土地には折にふれて海賊が横行し、島の住民を襲って金にな
る物を奪って行く。だから島民たちもバジャッbajakを恐れ、対抗するために武器を取る。

ウォレスがドボを発つ前にパトロール艦が到着しており、海賊はそれを恐れて鳴りを潜め
ていることを知っているウォレスは、その場所から島の裏側へ行くことを考えた。舟の漕
ぎ手を募ると、みんな海賊を怖がって志願する者がいないから、海賊の話を一笑に伏して
ともかく漕ぎ手を雇い、出発した。[ 続く ]