「ジャワ島の料理(25)」(2021年12月08日) 一風変わった飲み物に、bir jawaがある。名前はビールだが、アルコール飲料ではない。 これはハムンクブウォノ8世が編み出した特別な飲み物だ。そのころ、宴会でオランダ人 賓客たちがアルコール飲料を愉しんでいるとき、同席したジャワ人王族貴族たちも一緒に なって強いヨーロッパの酒を飲んでいた。 酒類を飲んで自分が酔い始めると、周囲の人間の中に自分と同じようにしない人間に対し て異常に鼻白む酔漢がいるのは洋の東西を問わないようだ。アグレッシブな輩になると、 自分と同じようにしない人間ににじり寄って、自分の盃を受けろと強制する者がいる。柔 らかく断ると「オレの盃が受けられねえと言うのか」とからみ始める。 いくら酔いどれジャワ人の伝統を持っているとはいえ、ムスリムになった以上はハラムの 罪を犯すことを控えるべきだと考えるスルタンは、一見ビールのように見えるノンアルコ ール飲料を作り出して、自分も皆さんと同じようなものを飲み、愉しかるべきこの雰囲気 に共に浸っているのだという姿勢を客人たちに示そうとした。スルタンはそのようにして、 同じムスリムである王族貴族たちに無言の手本を示したのである。 ビールジャワはビールとは名ばかりのウェダンが本質であり、カルダモン・クローブ・マ ソイ・スレー・蘇芳・シナモンを加えたショウガ湯であるのはロイヤルスチャンとまった く同一だ。ただしビールジャワには更にライムが加えられて、一見ビールのようになる秘 術が駆使されている。 デザートの甘味のお薦めはハムンクブウォノ9世の好物podeng kabinet。ポデンは英語の プディンのこと。どうして内閣などという言葉が添えられたかと言うと、このプディンが 初めて作られたとき、9世は共和国政府副大統領の職に就いていたからだそうだ。 これはパン・パイナップル・干しブドウ・ミルクに砂糖を混ぜて蒸し、ラム酒を加えた赤 色ソースをかけて食べるプディンだ。 ソロのOmah Sintenはマンクヌゴロ宮殿の向かいにあり、ススフナンのスラカルタ王宮と マンクヌゴロ宮殿の料理を供してくれる。このレストランはOmah Sinten Heritage Hotel & Restoとして宿泊施設と一緒になっているので、泊まり込みで王宮料理を満喫しようと 思えば、できないこともなかろう。 ちなみにジャワ語のomahはインドネシア語のrumahであり、バリ語はもっとインドネシア 語に近寄ってumahになる。omah sintenとは「誰の家?」という意味だそうだ。 オマシンタンのメニューはだいたいがバレラオスやガドリレストのものとよく似ている。 ソロとヨグヤに分裂する前のマタラム時代に作られた料理であれば、同じものがそっくり そのまま四つの王宮と宮殿に相伝されているのだから、似ていて当然ということになるに 決まっている。 ガランアスムはヨグヤ王宮でよく作られる料理だが、マンクヌゴロ6世もそれが好物だっ た。オマシンタンではガランアスムが竹筒に入って供される。アレッに浸かった鶏肉は、 ブリンビンウルの酸味がフレッシュだ。このブリンビンウルについての物語がある。 オマシンタンの厨房でガランアスムを作ったとき、どうしてもマンクヌゴロ宮殿の味にな らなかった。ブリンビンウルに問題があったのだ。宮殿の中に植わっているブリンビンウ ルの実は白色であり、宮殿の厨房はそれを使っている。オマシンタンは宮殿の外で普通に 生えている緑色の実を使ったから、味が崩れた。宮殿内の実を使わなければマンクヌゴロ 宮殿のものと同一にならない。 「白い実を使うと、さわやかさが大違いになる。宮殿内の樹を宮殿の外に植えてみたけれ ど、その樹に成った実は緑色のものばかりだった。結局、宮殿にお願いして、白い実を摘 むことを許可してもらいましたよ。」オマシンタンのオーナー、スラムッ・ラハルジョ氏 はそう打ち明けた。[ 続く ]