「ワルン(3)」(2022年05月04日) スマランのディポヌゴロ大学文化学部トリアス・ユスフ教官によれば、warungという言葉 はジャワ語のwawangやwuwungなど家屋の部分を指す言葉に関係しているそうだ。それは家 屋の軒下に店を開くということを指しているのだろうか? 広い床面積を持つスーパーマーケットがローカリズムにおもねって店名にワルンの語を使 えば、ひとびとはその店をワルンと呼ぶ。会社の従業員生協が従業員厚生方針のひとつと して従業員向けの店を開けば、ワルンという名称をつけなくてもみんながワルンと呼ぶ。 規模感・自宅かどうか・家族経営などといった要素は定義にできないのである。条件がい っさい省かれた物品や飲食物の販売場所をワルンの定義にしなければ仕方がないようだ。 インドネシア語シソーラスにはワルンの同義語が32個記されている。その中の代表的な ものはこのようなものだろう。Toko, Gerai, Kios, Lapak, Los, Stan, Depo, Depot, Kedai, Lepau, Lapo, Kantin..... この中にも、飲食品の販売場所に使われる傾向の高いものや、飲食品から雑貨品まで含め て何でも屋という用法になっているものなど、さまざまだ。ただし、どの言語でも同じだ が、伝統習慣の中に築かれた用法に差異があって、まったく同義で同一ニュアンスの単語 であっても安易に置き換えすることを許さないファクターを避けて通ることができない。 たとえば、ワルンコピもあればクダイコピもあり、日常にひとびとがそこでノンクロンし ているが、トココピと呼ばれる場所ではコーヒー豆を買うだけでコーヒーを飲みながらの ノンクロンはできそうにない雰囲気が漂う。トコクロントンもあればワルンクロントンも あるが、クダイクロントンと言われるとkedai lontongの聞き間違いだろうかと一瞬、わ が耳を疑ってしまいそうだ。 toko obatはたくさん店開きしているものの、warung obatという言葉は世の中に流布して いない。ワルンクロントンが家庭用常備医薬品の一部を販売しているから、そんなワルン で買った医薬品はobat warungと言えるが、医薬品を専門にしているワルンというのはこ れまでなじみがなかったから、ワルンオバッという言葉は口にしづらい。 店を意味するトコの語源は福建語の土庫で、元々は在庫品の倉庫を意味した。箱型の建物 を作り、三方は壁、道路に面した一辺だけ開口部にし、在庫品を壁沿いに並べて客に販売 した。夜になると開口部は板を並べて壁にし、店主は中に入って板の壁を外から開けられ ないようにして、土庫の中で眠った。最初は穀物を取扱い、古い時代は販売と言うよりも 物々交換がなされていたようだ。 デポッやデポなどという言葉もトコの原意によく似ている。東ジャワ東端のタパルクダ地 域を車で走っていて、デポッという言葉が飯屋ワルンの代わりに使われていることを初め て知った。この語法はひょっとしたらスラバヤ辺りが震源地かもしれない。 トコが福建語由来だったように、キオスもオランダ語から摂取された。オランダ人はフラ ンス語のkioskを外来語としてオランダ語に摂り入れて使った。そのキオスクというフラ ンス語はアラブ語源kiosqueだったそうだ。スタンはいかにも英語のstandを連想させるし、 デポッやデポもヨーロッパ由来の印象を受ける。カンティンもオランダ語のkantineから 取り込まれた。クダイはタミル語から摂取された。インド人のヌサンタラ移住に伴って起 こったことだ。ラポはルパウが音変化したものであるため、同一語のバリエーションと考 えて良いだろう。ラポはlapo tuakという用法が有名になっているものの、元来は飲食ワ ルンのバタッ版だったそうだ。マレーシア人はルパウをインドネシア語としているため、 ムラユ語源でない印象を受ける。そうであるなら、ラポ/ルパウはバタッ語であるように 思われる。[ 続く ]