「海を忘れた海洋民族(9)」(2024年02月23日)

KBBIに採録されていない、固有名詞としての船種にはつぎのようなものがあり、それ
を生み出した種族名と一緒に語られるため、船種名を聞くと種族名が自然と連想される。

jukung
南カリマンタンのバンジャル族が使う船で、海や川を航行するのに使われている。

sandeq
スラウェシ島のマンダル族が使うアウトリガー帆船。漁船として、あるいは島嶼間交通機
関として使われている。サンデッは世界で一番速い船と言われており、船形を前から見る
とバナナの花の形に似ている。サンデッとはマンダル語で「尖っている」という意味だそ
うだ。

pakur
マンダル族のサンデッの原形だったのがこのパクル。サンデッより船体幅が広く、作りも
荒っぽいものだった。このパクルをより高速で走らせるために改良がなされてサンデッが
誕生した。

kora-kora
マルク諸島で遠い昔から使われていた船。通商や輸送にも使われたが、戦争に使われるこ
とも多く、他の島を襲って物資を略奪し、あるいは人間を捕らえて奴隷にする海賊行為に
欠かせない乗り物としてのイメージが濃い。

pledang
ラマレラで捕鯨漁に使われる船がこのプレダンあるいはパレダンと呼ばれるものだ。もち
ろん他の用途にも使われる。ルンバタ島やソロル島で伝統的に使われていた船で、帆と櫂
漕ぎで走る。

padewakang
ブギス=マカッサル族およびマンダル族が伝統的に使っていた船。南スラウェシの諸王国
が遠洋航海する際に使っていた。

bagan
スマトラやカリマンタンの漁民が使う船で、大型の網が船体に取り付けられている。

他にもまだいろいろありそうだ。それらインドネシアの船を使ったアドベンチャー航海は
過去にいろいろと行われた。ピニシ船が太平洋の波涛を乗り越えて1986年にカナダの
バンクーバーに到着している。マンダル人は毎年サンデッレースを地元で開催しており、
あるときサンデッによる世界周航が計画された。しかし2005年にソロモン諸島まで達
したものの、その海域を突破することができず、引き返す結果に終わってしまった。ボロ
ブドゥル壁画の船も、過去に何度もレプリカが作られて海に浮かべられた。

歴史的なエポックを画したのは時のメガワティ大統領がサムドララクサと命名したレプリ
カ船で、イギリス人海軍退役者が企画して2003年にマドゥラのカゲアン島で建造され
た。釘や金物は一切使われず、木の楔や木の樹脂など8世紀ごろに使われていた素材だけ
で作られた。125立米の木材が使われ、カゲアン島の船大工をメインにする26人が働
いて4ヵ月で完成した。総工費は2億5千万ルピアだった。企画者は完成した船を見て
「ファンタスティック!」とコメントしたそうだ。

企画者のイギリス人はボロブドゥル船がその時代に西アフリカまで航海してシナモンルー
トというスパイス交易ルートを築いていたと推測し、それを立証する機会を念願していた。
そしてこのプロジェクトに立ち至ったと説明されている。[ 続く ]