「居留地制度と通行証制度(10)」(2024年05月07日)

本論筆者はこの問題を国家論に関わる形式上のことがらではないかと考えるのだが、プア
はその手続きを馬鹿げたことだと一蹴した。オランダ東インド政庁はジャワ島内で何世紀
にもわたって存続して来たソロとジョクジャの王国を独立王国として処遇している。ただ
し実態は誰が見ても手のひらの上に置いた属国なのだが。一方、ソロとジョクジャの王国
はそれぞれ自分の国をオランダ東インドに服属していない独立国家と考えていて、自国の
領民でない外部の者(つまり東インド政庁の領民)が王国領内に入るときには入国手続き
をさせて入境税を徴収している。

そのロジックに従うなら、オランダ東インドの行政機構がそれらジャワの独立王国の意向
を無視して自領土の住民に対し、それらの王国領土に入ってよいと言えるわけがないだろ
う。ソロとジョクジャを主権国家と見なすがために、相手方の意向を問い合わせる必要が
出て来るのである。

プアはそのような理解を持たず、商用や親族の用事で自領内にやってくる華人の用向きを
ソロ・ジョクジャのレシデンが何を根拠にして来て良いとか悪いとかの判断を下せるのか
と尋ねている。実情はその通りなのだが、植民地統治のトップレベルで論理を通そうとし
ているオランダ人が現場レベルで行っていることはコメディにしか見えない、とかれは揶
揄批判しているようだ。


通行証の取扱いについて、プアはさまざまな矛盾を指摘している。あるとき商用で二カ所
を訪れなければならなくなりそうだと考えた華人がAとBの目的地への通行証を申請した。
すぐに状況が変化してBに行かなくてもよくなったかれは、Aだけ訪問した。十日余り経
過してBへ行く用事ができたので、先に作ってあった通行証を持ってBを訪れ、帰りに行
政長官の印をもらうためにその通行証を提出したところ、これは発行日が古すぎて無効に
なっているから、違反行為だとして罰金を科された。

別の例では、訪問先の行政長官の印をもらうとき、その長官は印紙を貼ってサインする必
要はないと言って貼らなかった。帰郷してその通行証を返納したところ、印紙が貼られて
いないことを理由にして罰金が科された。また帰郷後24時間以内に返納という規定に違
反したために罰金が科されることも行政長官次第で起こった。

目的地として記された町の境界線を越えて隣町へ行くことを禁止する行政長官が大勢いた
一方で、中にはその目的地を管轄する行政長官の所轄に入っている別の町を訪れることは
問題ないとする長官もいた。ただし宿泊は通行証に書かれた町で行わなければならない。
こんなことは訪問する前には分からないのが普通であり、前回得た知識で今回同じ町を訪
れ、ついでに別の町で用事を済まそうとしたところ、長官が交替していて別の町へ行くこ
とができなかったということも起こった。

行政長官の中には、生活しているカンプンチナから何パアル以上離れてはならないという
規定を設けた者があった。離れた墓地へ埋葬しに行くのに通行証を要求する長官もいた。
離れた場所にある滝つぼへ水浴に行く華人に通行証を要求する長官もいた。

それらの条件に違反した華人が街中で捕まれば、ポリシロルに連れて行かれて罰を与えら
れた。


マヨール・カピタン・レッナンなど華人オフィサーの地位に就いている者でさえ、通行証
規定の例外にされなかった。オフィサーはコミュニティの役員であり、かれらは公務で別
の町に出かけることもある。

チアンジュルの行政長官がその不便さを軽減してやろうと考えて、オフィサーに身元紹介
状を与えた。持ち主は誰それでどういう立場の者であり、したがってこの書状を通行証の
代わりとするという内容が記され、行政長官のサインが印されている。それをもらったオ
フィサーがガルッを訪れた。[ 続く ]