「クレテッ煙草(終)」(2026年05月25日) 自分が持っている在庫をはきたいだけの人間がそんなことをする気になるだろうか?サク ルはもちろんイリーガルタバコ生産者の烙印を捺された。チュカイ担当官に取り調べられ たこともある。しかしいずれにせよ、かれは不動在庫がなくなるまでそのイリーガル事業 を続ける意志を固めている。だからその間、タバコ喫煙者なら誰でも「この品質で十分だ よ」とコメントする、12本でわずか1千ルピアの紙巻きタバコが世の中に出回ることに なる。 まったくひとりだけで紙巻きタバコを製造販売している若者もいる。言うまでもなく、事 業登録やチュカイ納税からまるで無縁の、そして法執行側のレーダーに影すら映らないビ ジネスだ。デポッバル電車駅の表で簡易な手巻きタバコ器具を使って紙巻きクレテッを作 りながら販売しているのは22歳のアセップ・ヘンドリス・ソピアン。 縫製品の産地であるタシッマラヤ出身のかれも、故郷のだれもがそうであるように、縫子 の技能を身に着けている。しかしタバコ作りの方がはるかに面白いというのがかれの実感 らしい。 アセップは駅表の一角で壁を背にして路上に商品を並べ、タバコを作りながら客を待つ。 簡易な手巻き器具に刻みタバコ葉を置いて整え、巻紙の一端に糊を付けて器具に差し込む。 紙が一回転すると紙巻きタバコが一本できあがる。 製品の購入者は建築労働者・ベチャ引き・公務員老齢退職者そして電車通勤している勤め 人までさまざまだ。味について苦情した人はまだいないですよ、とかれは語る。買ったひ とはみんなまた買いにやって来る。中には大量にまとめ買いをして行く客もある。 タバコを買いに来た主婦は夫の好みだからと記者に語った。「夫はこのタバコを、なかな か良い味でジーサムスーみたいだと褒めてました。たばこ代が節約できるから、これを買 ってきてくれと頼まれて・・・・」 アセップは、調合済みの刻みクレテッタバコや巻紙からフィルターまですべての素材をチ ラチャップ出身の人間から仕入れている。。ただしフィルターなしを好む客のほうが多い ために、フィルター付きはあまり作っていない。かれは製品の味を軽いもの、ヘビーなも の、そしてその中間という三種類に分けている。タバコの巻紙にもmanis、sedang、tanpa rasaという種類の違いがあるのだ。 製品は5本単位で透明なプラ袋に詰められ、一袋1千ルピアで販売されている。1本2百 ルピアは著名銘柄のバラ売り品よりはるかに廉い。ジーサムスーのバラ売りは1本で8百 ルピア、ジャルムスーバーは一本6百ルピアが市場の相場だ。 客の中には刻みタバコだけを買っていくひともいる。だからかれは手巻き器具も1個1万 ルピアで販売している。常連客の中に月末になると3百本をまとめ買いする人がいる。す べて自分で吸っているそうだ。一日当たり10本前後が消費されているのだろう。 この商売でどのくらい儲かるのかと尋ねられたアセップは、週120万ルピア程度の売り 上げだと答えた。そのうちの70万ルピアを翌週の素材購入に充てるから、50万ルピア が利益になる。その利益で一週間の暮らしを立て、残った金額を銀行に預ける。自分のタ バコ消費量はどのくらいかという質問にかれは、自分ではタバコを吸わないと答えた。も ちろん商品の味見はときどきしなければならないのだが。[ 完 ]