「村のカラオケラジオ繁盛記(終)」(2016年08月24日) 貯金とローンを扱う金融コペラシで働くファフロジさん49歳は、県内三郡の6つのカラ オケラジオの定連になっている。そこでかれは頻繁に新規利用客を得ているそうだ。 ジャワ島でイスラム化が進んだとき、バニュワギ県にあった当時のブランバガン王国がそ れに抵抗して最後まで残ったという史実がある。それ以前には同じヒンドゥ系王国である バリ島の支配下に落ちたこともある。そういう歴史の流れの中にオシン族がいる。オシン 族は人類学的に東ジャワに住むジャワ人と同系であるが、文化がまるで異なっていると言 われている。西ジャワのバドゥイ族や東ジャワのブロモ山に住むテンゲル族などと類似の 道をオシン族も歩んできたのかもしれない。バリ島では普通に見られるバロンの姿がオシ ン族の祭礼に登場するといったことも、オシン族の特異性を示しているようだ。 モッ・シャイフル著の「オシンの世界:オシン社会の芸術・伝統・知恵」という書物には、 民衆の社会生活における芸術への志向がオシン族は平均以上の高さを持っていたと説かれ ている。音楽と歌唱はオシン族の精神の一部をなし、スブランの伝統儀式では神秘性の強 い儀式に打楽器類と歌声が常に付随しているし、労働にも歌がつきもので、田植えのとき には竹組やぐらの上から打楽器類の奏でる音楽があたり一面に鳴り響いていた。そのよう な生活は時代を超えて受け継がれてきており、バニュワギ県住民の歌唱好きを下支えする 重要な下地になっているように、県内の文化人たちは見ているようだ。 ガンドリンというオシン族の舞踊は今でもバニュワギ県の代表芸能とされており、県で開 かれるフェステイバルには千人規模の集団舞踊が一大ページェントとして催されることが 多い。オランダ植民地時代にオシン族はそのガンドリンの伴奏用としてバイオリンを取り 入れることさえしている。 バニュワギアンと呼ばれる地元ポップスの新作には、レゲエ、ロック、ダンドゥッコプロ などのリズムを地元現代ポップス作曲者が旺盛に用い、それらの曲が入ったカラオケVC Dは一枚1万ルピアで販売されている。 バニュワギ県民のカラオケ好きは、どうやらそういう歴史の上に花開いたものであるよう だ。[ 完 ]