「母語(終)」(2017年03月03日)

その密度を測ることで、どの種族が母語を熱心に使っているのかということが明らかにな
る。その結果が次のように発表されている。これは5歳以上の種族人口の中で何パーセン
トが母語を日常生活に使っているのかを示すデータである。
ササッ 93.9%
バリ 92.7%
マドゥラ 91.1%
バンジャル 86.1%
アチェ 84.2%
スンダ 83.7%
ジャワ 77.4%
ムラユ 76.2%
ミナンカバウ 71.2%
ダヤッ 61.6%
ブギス 59.1%
バタッ 43.1%
バンテン 33.1%
ブタウィ 25.4%
中国 24.1%

50%を切っている各種族語つまり地方語は、絶滅に向かっていることを示している。
絶滅に瀕している言語とは、ユネスコの定義によれば次のようなものだ。
1)絶滅した言語: 話者がひとりもいない
2)ほぼ絶滅した言語: 話者が10人以下で、老齢者ばかり
3)絶滅まぢかな言語: 話者はまだたくさんいるが、子供たちは使っていない
4)絶滅に近付いている言語: 子供たちも使っているが、減っている
5)絶滅の潜在性が高い言語: 子供たちも大勢使っているが、その言語は公認されてお
らず、あるいは低評価
6)危殆に瀕していない言語: 次世代への伝達がたいへんよくなされている

北スマトラのバタッ語、ジャワ島西部のバンテン語、ジャカルタのブタウィ語、印尼華人
の中国語などは、住民の移動・他種族との混交結婚・教育上あるいは経済上の困難といっ
た事情で、話者人口が低下する一方になっている。そんな状況の中で、ブタウィ語は母語
話者がいなくなりつつあるというのに、首都ジャカルタの威厳のゆえに全国的に話し言葉
が広がっているという現象がある。母語話者がいなくなって言語は絶滅しても、一部の表
現が他の母語話者の間に残され維持されるというのは面白い現象だろう。

中国語はオルバ期の反中国政策によって圧殺された結果がそこに反映されていると思われ
る。もちろん、ここで言う中国語とは北京語でなく福建・広東・潮州・客家・海南・福州
などの中国南部の地方語であり、印尼華人の母語というのは各コミュニティによってそれ
ぞれの地方語が伝えられてきた。一般に北京語はかれらにとってサブ言語だったが、シン
ガポールに倣ってウエイトの変化も起こりはじめているようだ。そうなると今度は、中国
の国外で起こっている地方語の絶滅問題ということになるのかもしれない。[ 完 ]