「スナヤンのカウボーイ」(2017年04月05日)

koboiというインドネシア語がある。語源は米語のcowboyが外来語として取り込まれたも
ので、教育文化省国語センター編纂のKBBI(インドネシア語大辞典)に採録されてい
るから、間違いなくインドネシア語認定のなされた単語だ。

日本人の持っているカウボーイのイメージとは大違いで、インドネシア人はカウボーイと
いう言葉に荒くれ・酒飲み・暴力的で無法の男たちというイメージを焼き付けた。だから
インドネシア人に「あんたもコボイだねえ。」などと言われたら『オレはそんなに男らし
くてカッコいいのか・・』とうぬぼれてはいけない。他人を押しひしごうとする粗暴さが
非難されているのだから。

かつてバリ島のビーチボーイを題材にした「パラダイスのカウボーイたち」というドキュ
メンタリー映画が評判を呼んだが、その映画の作者はインド人であり、そのタイトルはイ
ンドネシア語の中にあるコボイのニュアンスを映し出してはいない。


2017年3月21日未明、中央ジャカルタ市スナヤンにあるブンカルノスポーツコンプ
レックス西側を南北に走っているアジアアフリカ通りのプラザバラッ地区に出ているサテ
屋で喧嘩が起った。この地区のサテ屋は「サテタイチャン」という俗名で最近とみに名を
高めているから、深夜に大勢のひとびとが集まって来る。どうして「タイチャン」という
まるでラーメン屋のような名前が付けられたのか、それを説明している文章にわたしはま
だお目にかかっていない。

四輪車で来た6人の若者たちの数人がそこにいた見知らぬ男をじろじろと見た。いわゆる
「ガン付け」をしたのだ。日本の任侠道の若い衆とあまり違わない精神構造をしているイ
ンドネシアの男たちは、エラそうな態度や他人を見下し畏怖させるのを狙って強そうな振
舞いをする人間が許せない。「テメエよりオレのほうが上なんだということを思い知らせ
てやろう」として行動に出てくる。で、ガン付けした方もそうだったが、された男も間違
いなくその種の男だった。

男は腹を立ててその大学生6人組のふたりに喧嘩を挑んだ。男の手が先にふたりを襲った
から、ふたりは反撃に出る。多勢に無勢を覚った男は仲間を呼んだ。数人の男たちが加勢
しようとして集まって来る。

ヤバイと思った6人組はすぐに乗って来た車に駆け戻ると、現場から逃走しようとした。
車はスディルマン通りに出てからスマンギ立体交差をくぐってHIロータリー方面に向か
う。ところが喧嘩した相手はオートバイで執拗に追いかけて来たのである。

そしてピストルを取り出すと、スマンギの手前で6人組の車に発砲した。車は未明のがら
んとしたスディルマン通りを全速失踪するが、オートバイに乗ったコボイはスマンギを過
ぎてからも更に発砲を続け、2発を車に撃ちこんだ。そのうちの一発が車内の21歳の若
者の背中に食い込んだから、車はHI前ロータリーでUターンして警察署に向かう。今度
はタムリン通りからスディルマン通りを南下するわけだ。しかしスナヤンのコボイは依然
として追いかけてくる。そしてまた2発の弾丸が発射された。

車が警察に逃げ込もうとしていることを覚ったオートバイの男は、そのまま高速で現場か
ら離脱した。

警察はこのスナヤンのコボイを捜索しているが、まだ身元は判明していない。