「友人に殺される」(2017年05月17日)

これまでまったく面識のなかった者同士が待合室でたまたま隣り合って座ったとたん、昔
からの親友のように打ち解けてあけっぴろげに何でも話すのがインドネシア人の社会交際
術。自分のアイデンティティから生まれ故郷、勤め先や上司の名前から人脈まで、あらゆ
ることがらを包み隠さず話すオープンさは異文化人になかなか真似のできないことのひと
つだろう。インドネシア文化にプライバシー観念が欠如している事実を、われわれはそう
いう風景から実感することになる。

かれらが次回、別の場所で邂逅すれば、何年も昔からの旧知のように話がはずむ。その周
囲にいるひとたちはきっと、ふたりが友人関係にあると思うにちがいない。

KBBIのteman(友人)の説明では、話し相手や一緒に何かをする仲間のような関係ま
でもがその語義に含まれている。もちろん日本語の「知り合い<友人<親友」という言葉
に対応してインドネシア語でも「kenalan<teman<sahabat」という一連の単語があるのだ
が、インドネシア人は会社の同僚をだれかれ構わずteman kantorと言うものの、日本人は
同じ会社で働いているひとをだれかれ構わず「会社の友人」とは言わない。どうやらイン
ドネシア語のtemanと日本語の友人は人間関係の密度に違いがあるようだから、辞書を信
じてはいけない、というのがその結論になりそうだ。


ともあれ、そうやって簡単に親しくなるから、喧嘩別れも簡単に起こるということかもし
れない。喧嘩別れどころか、貸した金を踏み倒され、スマホまで盗まれて殺されるのだか
ら、インドネシア人の言う「友人」という言葉の重みを異文化のそれと同一視してはなら
ないにちがいない。

2017年4月12日にリアウ州カンパル郡シアッフル町クバンジャヤ村で若い男の死体
が発見された。警察は死体の身元を4日間かけて調べ上げ、死体発見現場からおよそ15
キロ離れたスガイパガル郡住人のジョハヌディン24歳であることが判明した。ジョハヌ
ディンはランプンから出稼ぎに来てバソ売りを商売にしていた。

被害者の身元が割れたら、決め手になる情報が得られる。ジョハヌディンは昔の友人A2
3歳に会って旧交を温めるためにクバンジャヤ村へ行くと言って居所を出たのだった。昔
Aに貸した金を返してもらうつもりだ、とも語っていた。警察は即座にAを指名手配した
が、Aは逃亡した後だった。

4月25日夜に捜査員は東ジャワ州パチタンでAを見つけた。パチタン警察の協力を得て、
リアウ州警察カンパル署は指名手配殺人犯のAを逮捕し、リアウ州カンパルに連れ帰った。
Aを連れ帰ったカンパル署が行った取調べでAが供述した内容によれば、Aはクバンジャ
ヤ村のワルネッに職を得たが、仕事でアンドロイドスマホを使わなければならない。アン
ドロイドスマホを持っていなければ、解雇される。だが自前でスマホを買う金はない。

そこにジョハヌディンが現れた。ジョハヌディンはアンドロイドスマホを持っている。
「ところがあいつは金のないオレに金を返せと迫った。だからあいつを殺してスマホを奪
った。」

インドネシア語の「teman」という語の重みはよくよく噛みしめる必要があるにちがいな
い。