「バリでは死者の遺体を何週間も他所に預ける」(2017年05月19日)

バリ島住民は、必要に応じて遺体を病院に預けることを習慣にしている。それはヒンドゥ
教の祭りと葬儀のタイミングがぶつかることが禁じられているためで、そのような状況に
陥った住民は祭事が終わるまで、遺体を病院に預けざるを得なくなる。

たとえば北クタ郡トロボカンに住むワヤンさん55歳のケース。かれの80歳の父親は2
017年4月10日にデンパサル市内サンラ病院で死亡した。ところが15日はクニガン
(Kuningan)の祭りが行われるため、葬儀どころではない。そして一族が所属するプラの祭
りもある。それらの宗教の祭りを葬儀で穢すのは差し障りがある、ということだ。

それらの日を外してガベン(ngaben)の儀式を執り行うのに良い日を一族が協議して決めた。
結論は5月の中旬が選択された。その結果、ワヤンさんの父親の遺体はひと月以上、サン
ラ病院に預けることになったのである。この習慣は、バリでは珍しいものでない。サンラ
病院は2016年に150の遺体をそれぞれ数週間預けられている。2017年は1月か
ら4月までの間に80の遺体が預けられた。

サンラ病院には遺体保存用冷蔵庫が8体分あり、冷蔵前に遺体にはフォルマリン処置がな
され、2〜3日置きに遺体の状態がチェックされる。遺体預け料金は一日あたり5万ルピ
ア。病院側にとってこの遺体預けの習慣は少々やっかいな手数をかけるものになっている
が、これは伝統的な社会生活における必要性を満たすものであることから、社会活動のひ
とつと意義付けて行っている、とサンラ病院広報責任者は述べている。


有識者の中には、この遺体預けの習慣を批判するひともいる。一般庶民にとって、その費
用は決して小さいものでない。だからそこに火葬業のビジネスチャンスが開かれている。
しかし先に火葬してしまえば、ガベンの儀式は根拠を失ってしまう。伝統的な宗教儀式の
存立を危うくするビジネスチャンスなのである。

インドネシアパリサダヒンドゥダルマのバリ支部長は、バリヒンドゥの宗教儀式は同時に
行うことができないため、葬儀は他の宗教儀式がないときに行われざるを得ない、と語る。
「たとえばプラや聖地などを清めるデワヤッニャ(Dewa Yadnya)とガベンを含む祖霊への
儀式であるピトラヤッニャ(Pitra Yadnya)を同時に行うことができないので、祝祭日や一
族のプラの祭り近くで亡くなったひとは、病院などの他の場所に遺体を預けなければなら
なくなる。病院での遺体預けが普及する前は、祭り近くで亡くなった親族を宗教儀式や慣
習儀礼なしに、すぐに埋葬することを行っていた。他にも、プラを避けて夕方や夜中に埋
葬することすら行われた。」

デワヤッニャの祭りが終われば、親族はすぐにでもガベンの儀式を行うことができる。つ
まり原則的には、プラでの儀式の前にそういう処置を行うのは構わないのである。もちろ
ん村の決まりや一族の協議がそれに影響することは言うまでもあるまい。