「アグン山の警戒ステータス引き下げ」(2017年10月31日)

バリ州のグヌンアグンが17年9月22日に火山警戒ステータス最高位の「awas(危険)」
に引き上げられてから、ひと月以上が経過した。ところが火山性地震発生回数は減少し、
火口からの噴煙も激化の様相を示さず、地中のマグマが火口に向かって上昇している兆候
が観測されてはいるものの、それ以上の進展が見られないため、火山地質災害対策センタ
ーは10月29日16時に火山警戒ステータスを1ランク下の第三位「siaga(警戒)」
に引き下げた。


そのひと月超の間に災害危険区域に指定された28カ村の住民13万3千人が385カ所
の避難所で難民生活を余儀なくされ、避難所での生活は政府からの援助で支えられたにし
ても、その間の経済活動が困難なために自宅に戻れば生活レベルが困窮に陥ることは目に
見えている。そんな避難民の上にのしかかっている損失は2,045億ルピアと見積もら
れている。

また観光セクターの収入が4割低下しているとの報告から、損失額は2千6百億ルピアで
あり、更に銀行界の損失額は1.05兆、農業・畜産・手工芸セクターのロスは1千億、
カランガスム県の土砂採取業界の機会損失2〜5千億などを合算するなら、既に1.5〜
2兆ルピアの損失が発生していることを災害対策国家庁が概算している。その概算の中に
社会損失や避難民の医療費といった項目はまだ算入されていない。

今回のものは、現状を長引かせれば長引かせるほどそのロス金額が増加して行くというジ
レンマを踏まえての火山地質災害対策センターの火山警戒ステータス引き下げであること
を忘れてはなるまい。

マグマの火口への上昇が遅くなってきてはいても、動きが止まったわけでもなければマグ
マが結晶化したわけでもなく、将来また最高ランクのステータスに戻される可能性は依然
として存在しており、関係諸方面はその点を誤解ないようお願いしたい、と同センター東
部方面火山対策課長はリマインドしている。


火山地質災害対策センターによれば、これまで国内の他の火山で警戒ステータスが最高位
に引き上げられればあまり間を置かないで噴火が発生しており、今回のグヌンアグンのケ
ースはそれらと異なるきわめて特異な性質を持っている、とのこと。

2014年にクルッ(Kelud)火山は最高位警戒ステータスが発せられてから95分後に噴
火したし、2010年のムラピ火山は20時間後、2011年のシナブン山は15時間後
などといった過去の実例が示すように、今回のアグン山のようなケースは稀なものだそう
だ。

警戒ステータスが引き下げられたことによって災害危険区域は縮小され、火口から北・北
東・南東・南・南西方向が7.5キロ、それ以外は半径6キロ以内が立入禁止となった。

この措置で危険区域の外側になった村々の住民8万5千人が段階的に自宅に送り戻される
ことになる。しかし噴火を恐れて帰宅を嫌がる一部住民の声も聞こえている。

バリ州観光局はブサキ寺院とトゥランベンでの観光事業について、いくつか事前にコーデ
ィネートしておくべき事項があるため、今回のステータス引き下げ措置ですぐに事業を再
開してはならない、との通告を地元業界に出している。