「カラバヒの旅(後)」(2017年12月14日)

小学校を中退したかの女だが、織物にかける意欲は目をみはるものがあり、自宅の庭に綿
の木を植えて自ら糸を紡ぎ、糸を染めるために赤色はムンクドゥの木、群青色はインディ
ゴフェラの木を植え、更に海から採れるものを使って染料にする工夫をいろいろと行って
いる。テルナーテ村は海にほど近いのだ。
イカの墨で染めたり、貝殻なども使っている。貝殻の中には、色を出したりあるいは他の
素材の色を強める効果を持つものがあることをかの女は発見している。
織物の文様の中で龍は最高位のものであり、象や海の生き物たちのデザインも織物に描か
れている。

17時半: テルナーテ村からカラバヒの町に戻る途中、海岸に立ち寄って日没を愉しむ。
鏡のように穏やかな海面を染める夕陽の美しさは格別のものだ。沖合には、ケパ、ブアヤ、
テルナーテ、プラ、そしてもっとも大きいパンタルの島々が浮かぶ。ムティアラ湾からケ
パ島までの一帯には多数のダイビングスポットがダイバーたちを待っている。
20時: カラバヒの町の食事ワルンは、中部ジャワや東ジャワから来たひとたちが営業
しているところが多い。ワルンウォンジョウォ(Warung Wong Jowo)はその名の通り、ジャ
ワ人のワルンだ。中部ジャワ州クラテン出身の夫婦がやっているこのワルンはビノンコ部
落にあり、メニューはイカンバカル、サテアヤム、ソトアヤム、ガドガド。味は悪くない
が、特筆するほどでもない。特筆するべきは、客が後から後からやってくることだろう。

10月25日
寄付金を渡す式典のために、記者は東アロール郡コブラ村タンラプイ部落の小学校を訪れ
た。会場まで、海岸道路を3時間のドライブ。バンダ海に面するその道路はアスファルト
舗装の整った道で、丘を曲がりくねって登って行く。ドライブの間中、携帯電話機には電
波が入らず、道路も他の車を見かけることがなかった。
式典は13時に終わった。タンラプイ部落から30分ほど走ると、アロールの最果ての村
「マリタイン(Maritaing)」がある。この村の海岸からティモールレステ領のアタウロ(A-
tauro)島がはっきりと見える。よく晴れていれば、首都のディリさえ遠望できるそうだ。
海岸にはインドネシア海軍警備ポストがあった。フローレス島マウメレ(Maumere)基地か
ら派遣された警備隊がそこにいる。ここで目を引いたのは、20メートル近くあるスディ
ルマン将軍の立像だ。例によって頭に布を巻き、長ジャケットを着ているが、ここでは腰
にクリスを差していた。このあと、記者は薄暮の下をカラバヒまで戻った。

10月26日
クパン行き飛行機の出発時間は午前10時。カラバヒから車で20分程度の距離にあるタ
ッパラ(Takpala)にアブイ(Abui)族を訪問する時間は十分ある。
アブイとは「山の人」を意味している。北中部アロール郡西ルンブル村のタッパラ伝統村
は海岸の丘の上にある。この集落には木造家屋が16軒あるが、そのうちの2軒は村のシ
ンボルとして維持されており、ひとは住んでいない。
6〜7月の畑の植え付け時期前に行われる年に一度の儀式のときだけ、その家が開かれる。
その集落に住んでいるのは40人だけで、ほかのひとびとは海岸に移っているそうだ。
村の産業は畑作がメインで、観光客がやってくるとプラスアルファが生じる。織物・石の
付いているネックレスやブレスレット・木の皮で作ったバッグなどの土産物が観光客にオ
ファーされる。
かれらの伝統衣装を着てみたい人、それを着た姿でカメラに納まりたいひとには、住民が
その世話をしてくれる。男性も女性も住民が貸してくれる布を身にまとい、男性は剣や弓
矢を携え、頭には鳥の羽飾りをかぶる。
女性はブロンズのアンクレットを足首に着ける。歩くたびにアンクレットの飾りが触れ合
って音を出し、女性がどこへ行こうとしているのかがすぐに解る仕掛けになっている。
[ 完 ]