「インドネシア産コンニャク」(2018年04月02日)

インドネシアの原生植物イレスイレス(iles-iles)は学名をAmorphophallus muelleriとい
う。この植物の根が食用に供せられており、多繊維低タンパクであるためにダイエット用
として人気がある。この植物はインドネシア原産だというのに、インドネシア国内ではほ
とんど消費されておらず、もっぱら日本・中国・韓国に輸出されてきた。


「グルコマンナンが多量に含有され、水分保持能力が高いために食品用途としてプリンや
ジェリーに利用され、また医薬品や化粧品産業でもたくさん使われている。グリセミック
指数もたいへん低いことから、糖尿病患者にも効果的だ。」ボゴール農大研究者はそう語
る。

かれの話によれば、日本でもイレスイレスと同属のAmorphophallus konjacが群馬県で採
れ、コンニャクと呼ばれて食品に加工されている。シラタキと呼ばれる、麺のように加工
されたものは、日本のレストランでけっこうな値段がするのだが、インドネシアでイレス
イレスはキロわずか3千ルピアの生産者価格しかついていない。


日本で高価なのは、多雨の季節にしか栽培されず、乾燥する季節になると枯れてしまうた
めに生産量が限られているのが原因であり、一方インドネシアでは一年中栽培できる。ボ
ゴール農大が行ったテスト栽培では、ヘクタール当たり30〜40トンの生産量が得られ
た。

東ジャワ州マディウンでは、森林公社プルフタニの林野2千Haで樹木の下地にイレスイ
レスを植え、乾燥させたものを大量に輸出している業者がある。一方、インドネシアの食
品業界は加工されたグルコマンナンの形で輸入をしている。これはもったいない話だ。

もちろんイレスイレスをそのまま食べることはできず、グルコマンナンを取り出さなけれ
ばならないのだが、ヨグヤカルタ特別州クロンプロゴ地方のように、民衆の伝統的知恵の
結晶として、イレスイレスを食糧源にしているところも存在している。

かれらはイレスイレスを細かくすりつぶし、それを丁寧に洗ってグルコマンナンだけが残
るようにし、それを蒸して食べている。地元ではロトゥロッ(lotrok)と呼ばれている。ボ
ゴール農大研究者はそう話してくれた。


インドネシア飲食品事業者協会会長は、イレスイレスの輸出オーダーはたいへん盛況だ、
と語る。
「国内生産者保護のために日本の輸入関税が引き上げられたため、日本向け輸出はダウン
した。今は中国と韓国向けがメインになっている。イレスイレスだけでなく、インドネシ
アのシンコンやサツマイモなどの芋類への輸出オーダーはたいへん根強い。
国の食糧問題との関連で言えば、それら芋類の供給問題がネックになっている。というの
も需要がまったく安定しないからで、おのずと生産も先の見えない状態で行われているよ
うなものだ。海外ではそれらの芋類が健康食品として大々的に宣伝されているというのに、
国内では軽んじられている。国の食糧政策を担う食物のひとつという地位に就ける日はま
だまだ先のようだ。
自国の原生食用植物を活用できなければ、他の国に利用されるだけになる。中国ではいま、
インドネシアのイレスイレスの大がかりな開発に着手している。かれらは数千ヘクタール
の土地でその栽培を開始しているのだ。そんな大量なイレスイレスの苗をかれらはいった
いどうやって手に入れたのだろうか?」

国民の食糧多様化が喧伝されて既に数十年が経過しているが、コメと小麦粉食品一辺倒と
いう国民の主食観に思想の変化が起こるのはいつの日だろうか。