「世界を揺さぶったスパイス(43)」(2024年06月25日) ところで、カプルの木からカンプルkamperが採れることから、カプルの木はカンプルの木 とも呼ばれていて、それらは同義語のように見える。材木としての呼称はカンプルの方が 良く使われているのではないかという気がわたしにはする。 ところが、同義語として使われているのだから、常識的に見て学名は同一のものかと思っ たところ、インターネットで調べたかぎりでは異なる学名になっていた。カンプルの木の 学名はCinnamomum camphora、一方でカプルの木の学名はDryobalanops aromaticaとなっ ているのである。だが世間一般のひとびとはカンプルの木とカプルの木を同義語として使 っているとしか思えない。 コンパス紙の別の時期の別の記事はカプルの木でなくカンプルの木に関する話を内容にし ていた。こんな話がそこに記されているのだ。 樹脂の結晶が黄金に比較されるほどの価値を持つカンプルの木は今や容易に見つけること のできない樹種になっている。バルス地方でカンプルの木はもう数本しか残っていない。 バルスの郷土史家は、カンプルの木が無くなったのは乱獲のせいだと語る。 中部タパヌリ県シランドルン郡シオルダン村に残っているカンプルの木を取材に訪れたコ ンパス紙記者を現場に案内したその郷土史家は、地元民の木材用地の中に入って十数メー トルの高さに達している巨木を示した。薄茶色の外皮に覆われた幹はまっすぐ天空に向か って伸びている。葉を一枚むしったら、フレッシュなかぐわしい香りが立ち昇った。 「この木の樹脂の結晶が見つかったのは最初、船や家屋を建てるために伐採した木を割っ たときでした。幹を伐ったら中からヤニが滲出し、それを放置しておくと結晶になります。 このヤニは遺体を保存するのに使われ、他にも薫香の原料に使われます。」 カンプルの木は自然のままに生育すると、幹は直径70〜150センチ、高さは60メー トルにもなる。幹を切るとカンファーの香りが湧き上がる。この木はスマトラとカリマン タン、そしてマラヤ半島・サバ・サラワクにしか見られない。ドゥ?ヨパラノプスアロマ ティカの他にもシナモムムカンフォラ(カンプルの木)がカンファーを作る。しかしシナ モムムカンフォラは中国・日本・韓国・台湾・ベトナムにしか生育しない。 昔のひとびとはカンプルの樹脂を探すのにお供えを用いるのが当たり前の作法だった。ま た、さまざまな日常生活行為のいくつかがカンプル樹脂探しのタブーや禁令として定めら れ、それに従わないで樹脂を探したところで、木を何本伐ろうが樹脂は得られないという 話が信じられていた。カンプル木が自製する樹脂の量は木によってまったく異なっている。 生産性の高い木があり、そしてほんのわずかしか生産しない木もある。生産性の低い木ば かりを何本も伐り倒して幹を割ってみたところで、一日がかりで砂粒を一粒一粒拾い集め るようなことになるのが関の山だろう。 樹脂集め人は仕事を始める前に、密林の守護神ベグ・ソンバホンに生贄を捧げる。生贄に される動物はニワトリ・水牛・ヤギであり、その選択は守護神が行い、樹脂集め人は守護 神ベグ・ソンバホンの命じる通りにそれを行なっている。[ 続く ]