「ムラユの大河(5)」(2024年09月02日)

ランタウバユル郡トゥビンアバン村の住民ザイナル・アリピンさん37歳は広さ3X1.
5メートル深さ2メートルの大きい生簀でikan betutuを養殖している。かれはこの生簀
にブトゥトゥの稚魚1千尾を放した。8カ月を過ぎてから発育の良い魚を売り始め、一年
間で9百匹を売り切った。養殖中に死んだ魚は1割で、それが普通の死亡率のようだ。

ブトゥトゥの稚魚は乾季の4〜6月に容易に捕まえることができる。乾季になるとムシ河
の水量が減るために魚は狭い分流や池に移動するので、そこで捕まえるのである。たいて
い他の住民が捕まえて、キロ3万ルピア程度で養殖者に売りに来る。

それが8カ月以上経てば、魚は平均して一尾1.25キログラムの重さになる。9百匹で
は1.125トンになり、パレンバンの仲買人が1キロ11万ルピアで飼ってくれるから
年間の総売上は1.23億ルピアになる。結構な金額ではあるものの、ザイナルは生簀を
増やす気がない。

かれはかつて生簀を10個に増やして生産規模を広げてみた。ところがその年に限って魚
が病気にかかり、全滅したのだ。それに懲りたかれは生簀を1個に限定して養殖業を行う
ようになった。

ランタウバユル郡第2ランタウハラパン村のアグッ・サリムさん42歳も川魚を養殖して
いる。かれは3X2メートル深さ1.5メートルの生簀を10個設け、ikan jelawatの稚
魚を生簀1個当たり1千から2千尾入れる。死亡率はやはり10%くらいだそうだ。

一年間経つと1キロの重さになるので、買いに来たレストランや仲買人に売る。キロ当た
り4.5万ルピアで売れるそうだ。かれは年間の総売上が4.5億になると語っている。

パレンバンの市内でも32個の生簀でikan nila, ikan patin, ikan baungを養殖してい
るひとがいる。ガンドゥス地区で4X4メートルの大きい生簀に2千尾くらいを入れてい
るそうだ。その事業を行っているヘンドリさん31歳は最初、ムシ河で生簀養殖をしても
魚は死ぬだろうと考えていたが、河の水流が酸素を取り込むので魚がちゃんと育つことを
やってみて確認できたと語っている。ただし市内の河だからゴミや廃棄物が捨てられるた
めに養殖魚の死亡率は30%に上っている。


ムシ河沿岸の農民の中に、植物油を採るためにパーム畑を作るひとが増えている。自分の
耕作地の中でパーム樹をあちこちに何本も植えるのだ。タンジュンラヤ地区でもそれは目
立ったし、さらにはムシラワス県やムシバニュアシン県のムシ河流域、そして河口に近い
バニュアシン県でも似たような風景が見られた。

ムシラワス県ムアラクリギ郡ビギンジュングッ村の農民はたいてい2Haを超える耕作地を
持っていて、農民のほとんどがその土地にパーム樹を植えている。かれらはたいてい、古
くからあった大きい木を伐り倒してパーム樹を植えた。パーム樹の周りは土肌がきれいに
露出していて、根元の地面を覆う植生が見られない。パーム樹の根自身も、その土地に自
然に生えていた大きい木に比べて土を保持する機能が弱い。その結果表土流出が高まると
いうことが農民たちにあまり理解されていない。

スマトラ第8地区河川監督館職員は農民のパーム樹栽培がムシ河の悪化を促進する方向に
作用していることを指摘した。雨季の氾濫と乾季の水不足だ。自然樹の多くはその根が土
に浸透した雨水を保持して流出量を少なくするが、パーム樹の根の場合はその力が弱く、
水が土を道連れにして去っていくようになる。

耕作地に降った雨はパームの枯れ葉や朽ち木などをはじめとして農耕地にできる種々のゴ
ミをも土と一緒にムシ河に運びこむ。ムシ河はそれらをバンカ海峡に注ぐ河口まで運び去
っていく。パームの枯れ葉や朽ちた木塊などの大型浮流物は時に航海船に危険をもたらす
こともある。河口近くで艀を走らせている船頭のひとりは、雨季に大型浮流ごみが流れて
くるため、ごみの流動線に特に注意を払わなければならず、操船作業がたいへんになる、
と語っている。[ 続く ]